絆、ほどけて

    作者:篁みゆ

    ●奪われる
    「ママ、次のお休みは遊園地の約束だよ!」
    「はいはい。穂乃香が早く寝て、元気で保育園に行ったらね?」
    「うん、ねる!」
     小さなアパートの一室。娘を寝かしつける為に添い寝をした母親も、仕事の疲れからかいつの間にかうとうとし始めて――やがて、二人の寝息のみが響く部屋で。
    「君の絆を僕にちょうだいね」
     突然どこからか現れた宇宙服に似た服装の少年が、母親の枕元で囁いた。

    「ママ、お仕事がんばってね! 遊園地の約束忘れないでね!」
     翌朝の保育園。先生の隣で無邪気に手を振る娘に見送られ、母親は仕事に向かう。いつもと同じ朝。なのにどうしてだろう、あの子が娘であることはわかっているのに、心が動かない。
    (「折角の休みに、なんであの子のためにわざわざ疲れるようなところに行かなくちゃならないの?」)
     自然と浮かんできた思いに彼女が首を傾げることはなかった。
     

    「来てくれてありがとう」
     神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)はいつもの様に和綴じのノートを開いて。
    「強力なシャドウ、絆のベヘリタスが動き出したようなんだ」
     真剣な表情で告げた。
     絆のベヘリタスと関係が深いだろう謎の人物が、一般人から絆を奪い、絆のベヘリタスの卵を産み付けているらしい。このままでは、次々と卵から絆のベヘリタスが孵化してしまうことだろう。強力なシャドウである、絆のベヘリタスが次々孵化していくというのは、悪夢以外のなにものでもないと彼は語る。
    「孵化した直後を狙えば、条件によっては弱体化させる事もできるので、絆のベヘリタスがソウルボードに逃げ込む前に、灼滅して欲しいんだ」
     絆のベヘリタスは宿主となった一般人が絆を結んだ相手に対してのみ攻撃力が減少し、かつ、被るダメージが増加してしまうという弱点を持つという。
    「絆のベヘリタスは、絆を結ぶことなく正面から戦ったとしたら、まず間違いなく負けるだろう強敵だよ。闇堕ちを数名出して何とか互角……かな」
     宿主に産み付けられた卵はダークネスや灼滅者は目視することができるが、触れることはできない。つまり、孵化してからが本番というわけだ。
    「孵化した後戦闘に使える時間は10分といったところだろう。それ以上かかった場合は、絆のベヘリタスはソウルボードを通じて逃走してしまうから注意して欲しい」
     そこまで言って瀞真はページを繰った。
    「宿主となるのは谷内・佳央里(たにうち・かおり)さん、30歳。デパートの紳士向けの小物売場で働いている。今回奪われたのは、女手ひとつで育ててきた娘の穂乃香ちゃんとの絆だよ」
     佳央里は娘に我慢や不自由させていることがわかっているので、できるかぎり娘との時間を作るようにして愛情を注いできた。けれどもその絆が……。
    「佳央里さんはお客さんに評判のいい店員さんでね、例えば贈り物を探しているお客さんにアドバイスを求められれば、贈る相手のこともしっかり聞いて親身になって一緒に探してくれるらしい。一番オーソドックスなのは、客として絆を結ぶことかな。時期的に敬老の日コーナーがあるようだし、そちらを利用したりしてもいいと思うよ。もちろん、他の誰かへのプレゼントや自分へのご褒美とか、色々と口実は考えられると思う」
     瀞真によれば卵が孵化するのは接触可能な二日間のうち、二日目の夜だという。娘が眠った後、佳央里は近所のコンビニへ翌朝飲む牛乳を買いに行く。その帰り道だ。ちょうどマンションの建設予定地の側だという。
    「佳央里さんは2日とも夕方までデパートで仕事をしているから、うまく接触して絆を結び、深めて欲しい。絆が強ければ、それだけ有利に戦うことができるからね」
     しかも絆の種類には制限がない。例えば愛でも憎しみでも感謝でも侮蔑でも、何でもOKなのだ。
    「絆のベヘリタスを倒せば、失われた絆は取り戻されるよ。場合によってはその後のフォローも必要かもね。頼むよ」
     瀞真はゆっくりと頭を下げた。


    参加者
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    香住・連雀(黄昏鳥雀・d09649)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    灰色・ウサギ(グレイバック・d20519)
    アイリスエル・ローゼスフォルト(戦場のマエストロ・d22427)
    愛宕・時雨(小学生神薙使い・d22505)
    紘霧・誡斗(龍水迦葉・d28938)

    ■リプレイ

    ●紡ぐ
     老若男女問わず受け入れてくれるデパート。しかしそこに並んでいる品々は他の店のものよりお高くて質がいい。店員も背筋を伸ばしてパリっとした制服に身を包んでおり、ある一定層を除けば日常利用する場所というよりは特別な買物をする場所という感じもある。
     その日佳央里の勤務する紳士小物売り場を訪れた香住・連雀(黄昏鳥雀・d09649)はそっと売り場を見渡して彼女の位置を把握した。
    (「大切な家族との絆を奪われるのは……寂しいことだね。たった一人の娘さんとの絆であれば尚更のこと」)
     その後敬老の日コーナーで立ち止まる。財布や手染めのハンカチ、万年筆やルーペなどが並べられている。手にとっては戻してを繰り返し迷っている様子を見せていると、そっと彼女が近づいてきた。
    「あの」
    「はい」
     柔らかい表情で近づいてきた佳央里に連雀は告げる。離れて暮らしている祖父への贈り物を探していると。和物か洋物か、そこから迷っているという連雀に佳央里は和洋様々な品をチョイスして並べて。
    「和でも洋でも、お祖父様の為にあなたが一生懸命選んだ物ならば、気持ちは伝わる思いますよ。お祖父様のご趣味やお仕事をご存知ですか?」
    「えーと……」
     実家は緑の多い場所にあること、知りうる限りの祖父のことを伝えると、佳央里はシックなハンチング帽やハット、手袋などを薦めてくれた。連雀はそれらを見比べて。
    「少し、家で考えてきます」
    「はい、大切な贈り物ですからゆっくり考えてください」
     買わずに売り場を離れる連雀に、彼女は少しも不満そうな顔はしなかった。客さんだけでなく娘を大切に想う優しいお母さんに戻ってもらいたいと、切に思った。

    (「お母さんか、俺にはもういないから……絶対取り戻さないと、絆を」)
     連雀が売り場から去って少し経ってから居木・久良(ロケットハート・d18214)は彼女の前へと姿を見せた。並べられている万年筆を見て困ったように首を傾げ、すいません、と佳央里に声をかけた。応じた彼女に探しているんですけど、と前置いて言葉を掛ける。
    「とある小さな工房でしか作っていない万年筆のペン先なんだ。ばあちゃんが生きてるときにじいちゃんに送った万年筆なんだけど、じいちゃんは大事にしてて、壊れかけてるし直せるなら直してあげたいんだよね」
    「まあ、それは直して差し上げたいですね。何年前にプレゼントされたかわかりますか?」
    「滅多に無いものらしいからなかったら取り寄せたりできますか?」
    「はい、勿論です」
     久良の一生懸命な様子を感じ取ったのだろう、佳央里はカウンター裏からファイルのようなものを取り出し、プレゼントされた年代に発売されていた万年筆、それも小さな工房のものを探しているようだ。
    「じいちゃんは北海道にいるんですが、夏の日みたいなカラッとした人柄で、俺もそうなりたいなんて思っていて」
    「北海道……あっ! 少々お待ちくださいっ」
     久良の話からなにか閃いたのか、佳央里は内線電話で営業部の人と話したかと思えば在庫管理用のパソコンとにらめっこして。そして。
    「お客様、こちらの万年筆、お祖父様の物と似ていませんでしょうか?」
     見せられた画像はまさに久良の記憶にある万年筆と同じで。取り寄せに数日かかるが手に入るとのことだった。取り寄せ手続きをして礼を言い、久良は売り場を去った。

    「少し汚すが許せよ、親父……」
     手にした鞄に囁いて、笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)は売り場前の通路を歩く。佳央里が近くにいるのも確認済みだ。
    「ねーねー兄さん」
    「何だよ」
     飲み物を片手に、反対の手で紘霧・誡斗(龍水迦葉・d28938)の袖を引くのは灰色・ウサギ(グレイバック・d20519)。今は兄弟という設定だ。互いに距離を縮め……そして。
     ドンッ、パシャッ。
     よそ見をしていたウサギが鐐にぶつかる。ただぶつかっただけならまだ良かったのだが――。
    「ガキが、何をしやがるかっ!」
     飲み物は見事鐐の持つ鞄を汚して。激昂した鐐はウサギの首元を釣り上げにかかる。演技半分本気半分。なぜならこの鞄は本当に鐐の父親の形見だから。
    「あ、あわわわ」
    「人の弟になにしやがる!」
     あまりの迫力にウサギの目元に涙が浮かぶ。誡斗は弟を縛める鐐の手をむしりとり、庇うように立ちはだかった。緊迫した雰囲気に売り場にいる人の視線が集まってくる。
    「あぁ? 悪いのはそっちだろ」
    「謝る前に脅したのはそっちだろ!」
     互いに手が出始めるまで時間はかからなかった。腰の抜けた様子のウサギは、判断に困っている様子の佳央里へと声をかける。
    「だ、誰か! そこのお姉さん、助けてください!」
    「……! お客様、おやめください。他のお客様の迷惑になります。お二方とも落ち着いて!」
     勇気が要っただろう、それでも若い男の取っ組み合いの仲裁に入った佳央里。他の店員が呼んだと思しき警備員が駆けつけるのを見て、鐐は舌打ちして。
    「面倒なのが来やがった」
     店員の止める声にも応じずそそくさとエスカレーター方面へと去っていった。後に残された誡斗は鐐の背中にあっかんべーをして。ウサギと共に事務所で事情を聞かれ、軽く怪我の手当を受けた。

    ●重ねる
    「さて、何を買おうかのう……」
     翌日、デパートを訪れたアリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)は佳央里のいる売り場に到着して気がついた。そう、佳央里の担当は紳士小物。用意していた口実がそのままでは使えない。
    「何かお探しでしょうか?」
    「わ、妾に似合う服を探しておる」
     声をかけられて用意していた口実をそのまま口に出してしまったが、佳央里は瞬いた後。
    「こちらは紳士小物を扱っている売り場ですので、お客様にお似合いになる服は別の売り場でございますね。案内板が見づらくて申し訳ありません。ご案内いたします」
     頭を下げてアリシアを婦人服売り場へと案内する。アリシアはお辞儀をして去ろうとする彼女を慌てて引き止めた。もう少し、印象づけておきたい。
    「服を選ぶのを手伝ってくれんかのぅ?」
    「それでしたら私よりも……」
    「そなたがいいのじゃ!」
     かなり強引であるがこちらも必死なのだ。我儘な客になってしまったが佳央里は少し困った顔をして、元の売り場を暫く空ける旨連絡をしたようだ。
    「難しい注文にも応えていただき礼を言うのじゃ」
     服を見立ててもらったアリシアは、満足そうに売り場を去ると見せかけて、こっそり彼女を遠くから見守ることにした。

     きょろきょろと紳士小物売場付近を歩くのは愛宕・時雨(小学生神薙使い・d22505)だ。迷子を装っているのだが迷子特有の不安や焦りよりも不本意そうな表情が強く出てしまうのは、彼が大人を嫌っているから。今回の事件も知ったことじゃないと思っているが、「おかあさん」と心が離れたこどものためにべへリタス倒そうと思う。
    「お父様を……いや、父を見なかったか?」
     佳央里を捕まえて父親の容姿を説明する。
    「申し訳ありません、見ておりません」
     その返事は当然で。時雨は狼狽した風に言葉を紡ぐ。
    「お父様に叱られる。ここにならいると……嗚呼、どうしよう。きっと、お父様、ひどく怒っている」
    「きっと大丈夫よ、お父上も心配してあなたのことを探しているわ。そんな、怒るだなんて……」
     屈んだ佳央里の手が時雨の頭に伸びる。だがふわりと髪に触れられた手は、接触に恐怖心を持つ時雨にとってはぞわりとしたもので。
    「気安く触るな!」
    「あ、ごめんね」
    「キミだって、キミのこどもが迷子になれば怒るだろう? 迷惑をかけるなと、ひどく怒るだろう?」
     時雨の言葉は大人である佳央里を容赦なく刺す。彼女は困ったように首を傾げて。時雨の父親への恐怖はは半ば本物なのだ。
    「確かに怒ってしまうかもしれないわ。でもそれはとてもとても心配したからじゃないかしら? 心配の裏返しだと思うの」
     今でも自分の子どもにその感情を抱けるの――時雨の真っ直ぐな瞳にそう問われた気がして、佳央里は立ち上がる。
    「迷子放送してもらいに行きましょう?」
    「いや。他を探すからいい。迷子放送だけはしないでくれ」
    「でも……」
     時雨は素早く売り場を立ち去る。背中に彼女の視線を感じながら。

    「あ、あの……すみません。中年の男性にプレゼントするのに……良さそうな物って……。何かありませんか……。どれにしようか迷ってしまって……」
     気弱な少女を演じて佳央里に声をかけるアイリスエル・ローゼスフォルト(戦場のマエストロ・d22427)。
    「大切な方へですか?」
    「あの、父に……」
     家出をしていること、父との二人家庭であること、父の仕事が忙しくて相談に乗ってくれないのが家での原因であること、ぽつりぽつりと告げていく。娘と二人で暮らしている彼女には自分と重なって聞こえるかもしれない。
    「父の誕生日が過ぎてしまって……だから」
     父親にはすでに連絡は済ませていて、後は心配をかけたお詫びを兼ねたプレゼントを買うだけ。でも何を買ったらいいのかわからないと話すと佳央里は笑顔を浮かべた。
    「お客様がそのお気持ちをもって一生懸命選んだものでしたら、何でも喜んでもらえると思います。ネクタイをお使いになるのでしたらネクタイやタイピン、お車にお乗りになるのでしたらキーケース、電車通勤でしたら定期入れ。休日に外にでるようでしたらウエストポーチなども喜ばれると思います」
    「沢山ありすぎて……迷ってしまいます」
    「お父様の事を思って選んでいるその迷いの時間が、最高のプレゼントだと思います。私の立場としては、買っていただくようにもっとおすすめすべきなのかもしれませんが」
     悪戯っぽい佳央里の笑みに、アイリスエルもつい笑みを浮かべた。

     佳央里の手が空いたのを見計らって鐐は彼女に話しかけた。昨日の今日なので彼女も鐐の事を覚えていて。謝罪をすると身構えていた雰囲気が柔らかくなった。
    「迷惑をかけたが、顛末を知る貴女だと話が早いと思ってな。……父の、形見なんだ」
     鞄のクリーニング業者を教えて欲しいと乞う鐐の後ろから姿を現したのはウサギと誡斗だ。
    「あ、あの……ごめんなさい! ウチ、きちんと謝りたくて」
    「大切な形見を汚されたら怒るのは無理ないよな。昨日は殴ったりして悪かった」
    「いや、こっちもついカッとなってすまなかった」
     昨日の喧嘩が嘘のよう。和解を果たした三人の様子に佳央里も優しい表情を浮かべて。
    「少々お待ちください。ただいま業者をお調べいたしますね」

    「昨日は有難うございました。覚えててもらえたら嬉しいんですけれど……」
    「覚えております」
     売り場を訪れた連雀を佳央里は敬老の日コーナーへ案内して。棚の下から取り出したのは昨日彼が迷っていた品々であった。

    ●ほどかせぬ
    「さて、いつ出てくるかのう……」
     その夜。アリシアは箒に跨がり現場の上空から様子を見渡していた。佳央里が予定地点に近づくのがわかる。
    「きゃぁぁぁぁっ!」
     夜の空気に響く悲鳴。アイリスエルが殺界形成を展開し、鐐が用意してきたライトを投げて視界を確保する。アリシアは素早く地上へ降りた。
     闇と混沌を凝らせたような歪んだ人型をしたべへリタスは仮面をつけており、それを見た佳央里は腰を抜かして座り込んでいる。ウサギの喚んだ風で意識を奪われた彼女から敵の意識を逸らすべく、久良は『モーニング・グロウ』を思い切り振るった。
    (「俺の家族はもう死んじゃったけど、谷内さんはそうじゃないからね。絆を取り戻してあげたい。それってきっと素敵なものだから」)
     久良の一撃で人間だとしたらありえない身体の曲がり方をした敵の胴体に時雨の鋭い刃が食い込んで。
    (「『おかあさん』、か」)
     そっと、連雀によって運ばれる佳央里に視線を投げた。なんとも形容しがたいこの思いは、『母親』という未知のものへの憧れか。
    「効いてるみたいだな!」
     誡斗の操る糸は敵に絡みつき、ぎりぎりと締め上げていく。佳央里と絆を結んだおかげで確かに攻撃はかなり効いているようだ。それでもべへリタスは簡単には灼滅されてくれない。糸から逃れて腕を上げたかと思うと、前衛めがけて凝った闇の礫が降り注ぐ!
    「絆の力はとても強い、奪えば強くなるだろうさ。だがそれは禁じ手だ。ベヘリタス、お前はどんなダークネスより最悪だと言わせてもらおう!」
     それに怯まずに鐐は彼我の距離を一気に詰めて杭を打ち込んだ。続けて魔法少女服に身を包んだアリシアが敵から無慈悲に温度を奪う。
    「妾から逃走できるかぇ?」
    「黒き雷我が手に宿りて天に昇れ!」
     大きく一歩踏み出して、アイリスエルのアッパーが決まる。衝撃で僅かに浮いた敵の身体を、連雀の突き出した杭が抉る。
    「逃がさないよ!」
     二振りの『虹の刃』よりいでた鋭い光がべへリタスの黒を切り裂く。霊犬のランクマは自らを浄化した。

    ●取り戻す
    「7分経過したよ!」
     腕時計を見つつ清らかな風を前衛に送るウサギの声に、何人かは武器を握り直した。逃すわけにはいかないのだ。久良の弾丸が無数の穴を作る。蔦とスズメバチを象った時雨の影が追い打ちをかける。
    「絶対に逃がさん!」
     気迫と共に懐に入り込んだ鐐の無数の打撃。連雀のロッドから流れる魔力は敵の内部で暴れ、アリシアの莫大な魔力も追い打ちを掛ける。
    「他から奪うしかないとはいえ、見逃すわけにはいかないよ!」
     アイリスエルのロッドからは常以上の魔力が流れ込み、誡斗はおもむろにべへリタスに掴みかかり、そして投げた!
    「取り戻さないとね、絆を!」
     体勢を崩した敵の着地点を狙って久良の『454ウィスラー』が火を噴く。
     起き上がることのないまま、べへリタスは闇に溶けた。

    「紘霧、演技とは言え痛い思いをさせたな。灰色も……」
    「こちらこそ、だよ。それ、大切な物でしょ?」
    「いやいや、こっちもだからおあいこだよ。にしてもいいパンチだったな。格闘技やってたりする?」
     鐐とウサギ、誡斗は改めて言葉をかわして心を見せ合う。そうこうしているうちに佳央里が目覚めたようだった。
    「これで礼にはなったかのぅ」
     アリシアは彼女が目覚めたのを確認し、そっとその場を立ち去った。
    「ああ、私……私は穂乃香に」
    「キミがいちばんに想うものはなんだったか、思い出したかい? 約束は守るものだよ、お、か、あ、さん?」
     時雨の言葉にビクッと肩を震わせる佳央里。きっと疲れたんですよ、連雀のフォローに彼女は小さく頷いた。
    「穂乃香ちゃんはお母さんのこと、絶対に大好きだよ。ウチもそうだもん」
     両親の事を思い出しつつウサギも声をかける。佳央里の心はもう娘のことでいっぱいのようだ。

    「何か食べて帰るか? 多少は俺が出す……限度はあるからなっ!?」
    「賛成!」
     佳央里を送った後、鐐の提案にアイリスエルも賛成して。久良はアパートを見上げて思った。後日贈り物のお礼に行こう、と。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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