ゴスロリ美少女な通り魔が(中略)魂を集めてる

    ●噂
    「友だちが言ってたんだけどね……夕方になると、この辺りに通り魔が出るみたい」
    「通り魔? この辺で?」
    「そうそう。その通り魔はね、女の子らしいよ」
    「通り魔かぁ、あたしは男のイメージがあるなぁ」
    「わたしも。でも、男の人じゃなくて、美少女なんだって。狙うのは若い人だけみたい。実はね、その通り魔が人を襲うのは、魔獣を召喚するために魂を──」
    「ちょ、ちょっと待って!」
    「どうしたの?」
    「どうしたもこうしたも……魔獣って言わなかった?」
    「言ったよ?」
    「いやいや……そこで『それがどうかしたの?』みたいな顔をしないでよ……。おかしいでしょ? だって、魔獣でしょ?」
    「うん。魔獣を召喚したいらしいよ。そのために魂を集めてるんだって」
    「いやいやいや……魔獣? 魂はともかく……魔獣? それってマンガ? アニメ? ゲーム? ネット? それともラノベ?」
    「リアルだよ?」
    「いやいやいやいや……そこで『当り前でしょ?』みたいな顔をしないでよ……。まぁ、いいわ。で? 何の話だったっけ?」
    「ゴスロリ美少女な通り魔が神を殺すために神殺しの魔獣を召喚したいんだけどそのためには人間の魂が必要で魔獣は若い人間の魂を好むからゴスロリ美少女な通り魔が若者を襲って魂を集めてる──って話だよ?」
    「いやいやいやいやいや! ちょ、え? 神を殺す!? そんな話は初耳だよ!? てゆーか、そんな長文を息継ぎなしでよく読めたな!」
    「あれ? 言ってなかった?」
    「言ってないよ!?」
    「今度は『いやいや』って言わないんだ?」
    「いやいや、そんなのはどうでもいいのよ! って、結局言っちゃったけども! で、神を殺すの!?」
    「神様に反抗したいお年頃なんだよ、きっと」
    「いやいやいや! そんな反抗期みたいなもんなの!?」
    「わたしも昔、お姉ちゃんにショートケーキのイチゴを取られて神様を殺したくなったことあるし」
    「いやいやいやいや! それで殺されるとか、神様かわいそう過ぎるわ!」
    「何言ってるの!? ショートケーキのイチゴだよ!?」
    「えぇっ!? あたしの方が間違ってるのっ!?」

    ●教室にて
    「くくく……かくして、人類は智恵を手にした。それこそが、神への叛逆の幕開けであったのだ」
     そう言ったのは、ゴスロリっぽい黒い服に身を包んだ少女──野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)だ。
     迷宵のゴスロリファッションは珍しいことではないのだが、今日はいつもと雰囲気が違っていた。片目を眼帯で覆い、ところどころに包帯を巻き、なぜかリンゴ(青森県産)を持っている。
     リンゴはともかく、眼帯だとか包帯だとかがプラスされたことで中二病っぽくなっているのだ。そのせいか、迷宵自身も中二病少女のようになっている。ちなみに、迷宵は中学3年生である。
    「くくく……時は流れて現代。またしても叛逆者が現れた。その少女、神殺しの獣を喚ぼうとする者。黄昏時、逢魔ヶ時、紅き空の下に姿を現す──生け贄とする魂を求めて」
     要するに、人を襲う都市伝説が出現したということだ。ただの中二病な女の子であれば放っておくこともできるが、通り魔であれば放っておくわけにはいかない。
    「くくく……叛逆者は黒き衣を纏い、陽の光を厭う」
     都市伝説は黒いゴスロリ風の服を着ており、日傘を差している。服装もそうだが、夕方に日傘を差していれば目立つだろう。
    「くくく……獣を喚ぶため、魂を対価とする。その存在は善か悪か」
     他人を襲って自らの野望を遂げようとする少女。これ以上の犠牲者が出る前に、倒さなくてはならない。
    「くくく……願わくば、汝等が叛逆を阻止せんことを」
     迷宵は、少女を倒して欲しいと思っているのだ。
    「くくく……黒き少女、顕現するは此処」
     迷宵が黒板に張られた地図を示した。そこには古びたアパートが建っているのだが、通り魔の少女はそのアパートへと向かうようだ。
     このアパートの近くにいれば、向こうから姿を見せてくれるだろう。ただし、一般人を巻き込まないように対策をしておいた方がいい。
     なお、都市伝説の少女が襲うのは20歳くらいまでの若い人間である。これは例の魔獣が若者の魂を好むからのようだ。灼滅者であれば年齢的に問題ない。
    「くくく……少女は魔導の力を操る。その力がもたらすは、或いは石化、或いは毒、或いは炎、或いは氷、或いはトラウマ」
     都市伝説が使う技は、相手を状態異常に陥れるものばかりだ。気を付けて欲しい。
    「くくく……我は待つ。勝利の報せを」


    参加者
    メルキューレ・ライルファーレン(春追いの死神人形・d05367)
    希・璃依(駆け出しグルメリポーター・d05890)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    上土棚・美玖(高校生デモノイドヒューマン・d17317)
    影野・有栖(無貌の影猫・d27088)
    佐々宮・鳥子(小学生デモノイドヒューマン・d28611)
    柊・せつか(純粋培養デモノイド・d29682)

    ■リプレイ

    ●黄昏時
     ここは、とある古びたアパートの前。
    「こたつにみかんがあれば、ハッピーな夢に……ZZZ」
     そんなところで、夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)は携帯用のこたつの中でウトウトしていた。ミカンとお茶も準備している。完璧である。
     アパートの前でこたつに入っている少女がいれば驚かれるだろうが、こたつに入る前に殺界形成を使っているので、アパートの住人が帰ってくることはない。
    「……ZZZ……」
     現在、灼滅者たちは都市伝説の少女が現れるのを待っている最中だった。
    「キャー、その服チョーカワイー」
    「ナノ、ナノナノナノナノ、ナノナノ」
     希・璃依(駆け出しグルメリポーター・d05890)と、王子様のようなナノナノ──王子が言った。
    「似合ってる……かな?」
     武蔵坂学園の女子中学生用の制服を着た柊・せつか(純粋培養デモノイド・d29682)は、照れながらもクルリと円を描くように回って見せる。スカートがふわりと広がった。
     にぱっと笑うせつかは、見た目も声も少女のようだが、れっきとした男である。
    「この後どこに行ク?」
     影野・有栖(無貌の影猫・d27088)が問うと、璃依が「ケーキを食べに行こう」と提案。
    「もう食べれないですぅ……むにゃむにゃ……」
     夢の中で、炬燵は何かを食べていたようだ。ベタではない。王道なだけだ。
    「やっぱり、ショートケーキの苺とられたら、神様を殺したくなるのかな? ボクは一人っ子だから、よく分からないや」
     せつかの質問に、兄弟が10人以上いる璃依が答える。
    「あれはまさに、戦争だな」
     ショートケーキを食べる時は、1人でこっそり食べる方がいいのかもしれない。
    「確認するけど、ゴスロリ美少女が神を殺すために神殺しの魔獣を召喚したいんだけどそのためには人間の魂が必要で魔獣は若い人間の魂を好むからゴスロリ美少女は通り魔になって若者を襲って魂を集めてるって都市伝説だよね?」
    『そんな長文を息継ぎなしでよく読めたな!』
     幻聴。
     幻聴はともかく、せつかの問いにメルキューレ・ライルファーレン(春追いの死神人形・d05367)が首肯する。母親似のために女顔だが、メルキューレもまた男である。
    「迷惑な都市伝説です。人の噂が生み出すというのですから、なかなかに迷惑な話ですね。これ以上被害が広がる前に、灼滅したいところです」
     理由は不明だが、ゴスロリ少女は神を殺そうとしている。そのために、ゴスロリ少女は人を襲うのだ。
    「かみさまもたいへんなのだよ」
     佐々宮・鳥子(小学生デモノイドヒューマン・d28611)が同情するように言った。
    「困っている人を助けなくちゃっ」
     清浄院・謳歌(アストライア・d07892)の胸では、正義のハートが燃えている。
     と、その時──メイド服を着た少女が虚空を見つめて言葉を発する。
    「獣の巫女よ、我は御使いなり。汝に神罰を与える神の矢なり。ここにいるのは分かっているぞ、黒き少女よ。終末は逃れえぬ定め。諦念し神に降伏せよ。他に道は無し」
     上土棚・美玖(高校生デモノイドヒューマン・d17317)が言うも……そこには誰もいなかった。
    「こんな感じかしら? 結構楽しいわね、これ」
     ゴスロリ少女が来たら、また言うのだろうか。美玖の口上を聞いて、有栖が呟く。
    「んー……こういうのって中二病って言うんだったカナ?」
    「ZZZ」
     そんなこんなで、敵が現れるのをしばし待つ。

     ──夕焼けで赤く染められた道路に、1つの闇が生まれた。
    「神よ、せいぜい祈るがいい。もっとも、祈る相手がいればの話だがな」
     それは少女だった。
     黒いゴスロリ服を纏った少女。黒い髪に黒い眼の少女である。全身を黒に──闇のような黒に包まれた少女だった。
     その首には咎人の如き枷。手には手袋。よほど太陽の光が嫌いなのか、夕方でありながら日傘を差している。やはり、枷も手袋も日傘も闇の色。
     黒以外の色となると、白い肌が少し見えるくらいか。それも顔だけだ。その顔ですら、右目を黒い眼帯で覆っている。
     彼女の周囲だけ、気が早い夜が訪れたかのようだった。

    ●逢魔ヶ時
    「獣の巫女よ! 我は御使いなり! 汝に神罰を与える神の矢なり! ここにいるのは分かっているぞ、黒き少女よ! 終末は逃れえぬ定め……諦念し、神に降伏せよ! 他に道は無し!」
    「──ならば、貴様も殺さねばならんな」
    「え……!?」
    「御使いよ、神の矢よ、哀れな神の下僕よ。その姿からすると、貴様は神に仕えるメイドのようだな。いずれにせよ、神の下僕であることには変わりないだろうが」
    「まさか……本当にいたとはね」
     美玖が舞台女優風に言った時、ゴスロリ少女が近くにいたようだ。
    「可愛らしい格好して、随分物騒だなー」
     璃依がサウンドシャッターを展開し、戦場内の音を遮断。
     灼滅者たちが向ける敵意を感じ取ったのか、ゴスロリ少女が日傘の下でニヤリと笑みを浮かべる。
    「どうやら、我の事を知っている様子。しかし、ここは簡単に自己紹介をさせていただくとしよう。我は神への叛逆者。神を殺す者。正確には、神を殺すために魔獣を喚び出す者だがな。貴様達にはここで死んでもらうぞ。その魂を魔獣に喰わせてやらねばならんのでな。若くて美しい乙女が8人に、ついでに謎のクリオネが1匹か──クリオネはともかく、娘からは上質な魂が手に入りそうだ」
     実際には乙女は6人なのだが、勘違いしても仕方がないだろう。
    「うんうん、ゴスロリは様式美よね。これでボクっ子なら言う事無し、なんだけど」
     と、美玖はゴスロリ少女を見た後に有栖とせつかに目を向けた。せつかはボクっ娘と言うか男の娘だが。
    「でも都市伝説さん、自己完結してるだけなら害はないけれど、一般人に被害が及ぶとなれば、話は別。中2プレイも今日までにして貰いましょう」
    「メイドよ。この我を紛い物と一緒にしてもらっては困るな」
    「魔獣って興味あるケド、人の命が犠牲になるなら止めないと。ずばっと解決したいな」
    「魔獣とか魂とかボクにはよく分からないケド、ゴスロリは可愛いカモ……。まあ、ソレはソレとしテ、人を襲うなら倒さないといけないヨネ」
    「ゴスロリ通り魔ですか、私には言っていることが全然わかりませんが、灼滅すれば解決ですね」
     璃依と有栖と炬燵の言葉に、灼滅者たちがうなずく。そして、戦闘態勢へ。
    「あなたの企みは、わたしたちが阻止してみせるっ! きて、レグルス! ベテルギウス! アルデバラン!」
     謳歌の身を星の加護が包み込む。
     彼女が喚ぶ武器は、あるものは獅子座の加護を宿した聖剣。あるものはオリオン座の加護を宿したエアシューズ。あるものは牡牛座の加護を宿した杭打ち機。
    「さあ、任務をはじめよう」
     鳥子の姿が変化する。獣──いや、獣じみたデモノイドのような姿へと。
    「――済まない、あまり見ないで欲しいのだ。わたしはとても、醜いから」
     鳥子は悲しげに目を伏せながら、それでも笑って言った。
    「カーニバルを始めるヨー! それにしてモ……なんで夕方なのに日傘を指してるのだろうカ?」
     胸にスペードのマークを具現化させ、有栖が首を傾げている。
    「我は闇に生きる者。太陽の光は好まぬ。勘違いするなよ? 陽の光を浴びると灰になるというわけではない」
     メルキューレはスレイヤーカードを手に、解放の言葉を紡いでいく。
    「──ほめ歌おう」
     メルキューレの体が白い輝きに包まれた。
    「神殺しは大罪ですよ?」
    「貴様も神の下僕か。哀れなものだ。だが、安心するがいい。この我が、貴様を神の支配から解放してやろう──その命を奪い、魂を抜き取ることで」
     少女は、美しい顔に凶悪な笑みを浮かべて言った。

    ●紅き空の下
    「侵せ、蝕め、彼の者に責め苦を与えよ──深淵より顕現せよ、暗黒魔弾!」
     少女が呪文を詠唱し、右の掌を灼滅者へと向ける。その手の先には紫色に輝く魔法陣。
     その魔法陣から紫の波動が放たれる。それは毒を帯びた波動だ。
    「リイシールドは鉄壁だぞっ」
     璃依が自身の身を盾とし、その攻撃を受け止めた。毒の魔法を受け、璃依の体が毒に侵されていく。
    「ほう──仲間を庇うか」
    「痛く、ないっ」
     涙目になっているが、見事に受け止めて見せた。
     すかさず、王子が璃依へとハートを飛ばす。戦闘中でも、その所作は王子様のように紳士的かつスマートだ。
    「お返しだ! 毒を持って毒を制す!」
     自らの心の奥底から、璃依が暗き想念を呼び寄せる。それを漆黒の弾丸と化し、敵へと撃ち出す。
    「只の人間ではないと思っていたが……やはり、闇の力を宿していたか。闇の力を秘めた魂ならば、魔獣を召喚する我にとっては好都合だ」
    「神殺しなど、愚かなことを。極寒の世界を見せて差し上げましょう──」
    「これは……!」
     ゴスロリ少女の周囲から熱が失われていく。メルキューレのフリージングデスだ。
    「屍の冷たさを、知っていますか?」
    「知っているとも。そして、貴様はそれを体感することになる。文字通り、その身で味わうことになるのだ」
    「正義の味方、ここに参上! いっくよー!」
    「ボクも行くよ!」
     謳歌のベテルギウスとせつかのJetter Blade.が光り輝く。
     せつかの足元では、駆動力に変換されたサイキックエナジーが星となっていた。
     謳歌とせつかが、流星の煌めきと重力を宿した蹴りを放つ。
    「これは……面倒なことになったな」
    「こんな演奏はどうかしら?」
     バイオレンスギターを構え、美玖が激しい演奏を披露する。
    「……多勢に無勢か。1人1人は大したことはないが、これだけの数が相手となると厄介だな……!」
    「ウオオォォッッッ!」
     獣の如き雄叫びを上げ、鳥子が巨大な刀と化した腕を振るう。
    「その姿……魔獣のようだな、幼き少女よ」
    「何故キミは、そんなにもかみさまをころしたいのだ?」
    「何故? 何故かだと? 先程、貴様は言ったはずだな。自分のことを『醜い』と。貴様は何故、そのような姿をしている?」
    「それは……わたしが…………」
    「この世は平等ではない。地位も財産も容姿も才能も境遇も、何もかもが違う。『何故、自分が』と思ったことは誰にでもあるだろう。『何故、自分だけが』と。理想と現実との間に走るのは深淵だ。どれ程深いのかも判らず、向こう岸は地平線よりも遠い。貴様達にも、心当たりがあるのではないか?」
     武蔵坂学園には、さまざまな人間がいる。彼女が言うような経験をしている者は珍しくもない。家族や友人、恋人を失った者がいる。闇堕ちした者だっている。
    「この世では、命さえも平等ではない。この世は弱者で溢れかえっている。ごく一部の強者が、大勢の弱者を虐げる。何故だ? 何故、この世には弱者ばかりがいる!? それは、この世を支配する神が無能だからだ! 神は人を救いはしない! 故に我が殺す! 玉座でふんぞり返っている神を殺し、新たな世界を創り上げるのだ!」
    「……だが……実際に居るなどと思ってはおらぬが、よい事もわるい事もかみさまのせいにされては、かみさまもたまらないだろう」
    「あの神は、神としての責任を果たしていない。故に、新世界を創らねばならない。光栄に思うがいい──新世界の礎となることを!」
    「通り魔をするような人の考えることは、よく分からないですね」
     炬燵が言った。彼女は護符を取り出し、璃依へと飛ばす。
    「とりあえず、よく分からないことを言っていますが灼滅です」
    「我の言葉を理解出来ぬのならば、それでもよし。その魂は、我のものとなるのだから」
     そう言うゴスロリ少女に、猫──いや、猫の形をした影が迫る。
     影猫の手には鋭い爪。その爪で、ゴスロリ少女に襲いかかる。
    「……どうやら、大人しく魂を差し出すつもりはないらしいな」
    「もちろん! カーニバルを続けるヨー!」

    ●夕陽
     ゴスロリ少女が、右目の眼帯に触れる。
    「永遠ならざるもの、儚きもの──我が右眼は邪眼、永遠なる死をもたらす魔眼!」
     眼帯を外すと、そこには禍々しい金色の眼。そこに輝くのは、金色の魔法陣。
     魔法陣から波動が放たれる。波動は空中で膨張。石化の波動が灼滅者へと飛来する。
     その攻撃を受けたのは、せつかだった。
    「……またしても、仲間を庇うか。何故だ? そんなことをして、何になる?」
     彼女の狙いはせつかではなかった。先程の攻撃に続き、少女が放った波動は狙った相手に当たらずにいる。
     炬燵が浄化をもたらす風を呼び、仲間たちを癒していく。
    「ボクは、人を信じたい──!」
    「人を信じる? こんな世の中で? 信じたところで裏切られるだけだ。他人を信じるとは愚かな。哀れな。惨めな」
    「愚かで哀れで惨めなのは、あなたの方です──出でよ、影の蛇」
     メルキューレの影から、鎌首をもたげた大蛇が姿を現す。
    「捕らえなさい」
     影の蛇が敵を絞め付ける。
    「蛇め……!」
    「黒き少女よ、終末は逃れえぬ定め──なんてね」
     美玖のDESアシッドが、ゴスロリ少女を襲う。
    「ぐぅ……!」
    「破れたゴスロリって、背徳的ね」
     王子が、今度はせつかにハートを飛ばす。
    「さあ、今までの報復を受ける時だ。覚悟しろっ」
     璃依が、オーラを集中させた両手を敵へと向けた。
    「正義のオーラで悪しき者を打ち払うっ」
    「く……!」
    「正義の味方はここにもいるよ! これ以上、あなたの好きにはさせないからっ!」
    「正義なんてものはない。この世にあるのは堕落した摂理だけだ! 堕落した摂理が、この世を支配しているのだ! 自由も正義もありはしない!」
    「わたしに力をかして──ベテルギウス!」
     謳歌が疾走する。ベテルギウスが炎を纏う。
    「ボクも!」
     Jetter Blade.もまた、星を輝かせながら焔を生む。
    「見せてあげるよ、正義の力をっ!」
     謳歌が正義の炎を宿した蹴りを放ち、せつかもスカートを翻しながら敵を蹴る。
    「何が……正義だ……!」
    「攻撃こそがわたしのつとめと心得ているのだよ──グルルルルゥゥゥッッッッ!」
     オーラを宿した拳で、鳥子が無数の拳を叩き込む。
    「ぐあぁっ! 我は……神を殺すのだ……! こんなところで……敗れるわけには……」
    「カーニバルも終わりの時間ダネ──」
     有栖の足元から伸びた影猫が、ゴスロリ少女へと襲いかかる。猫は大きく口を開け、ゴスロリ少女を飲み込んだ。
    「ぐゎあああぁぁぁっ!!!」
     ゴスロリ少女が日傘を落とす。
     赤く輝く夕陽を睨みながら、ゴスロリ少女が言う。
    「……神よ……貴様は嘲っているのだろうな…………だが……嗤っていられるのは……今だけだぞ…………我が必ず……貴様……を………………」
     神を呪う言葉を吐き、ゴスロリ少女は消滅した。人の魂を集め、魔獣を召喚しようとした少女は消えたのだ。神殺しの野望を胸に秘めたままで──。
    「わたしはむさしざかで、生まれ変わるのだよ」
     元の姿に戻った鳥子が、真っ赤な太陽を見ていた。

    作者:Kirariha 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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