魔人生徒会~サバイバル・ゲイム!

    作者:菖蒲

    ●魔人生徒会
     武蔵坂学園に七不思議が在るならば、是非とも数えたい存在――魔人生徒会。
     その構成員は誰も知らない、そして知られてはいけないのだという。
     茹だる様な暑さの中、そんな魔人生徒会の構成員たる学生たちは様々な企画を思案していることだろうが……。
    「で、だ。折角の新学期と言う事だが、諸君たちは何をしている?」
     ノイズ混じり。変声機を使用したのだろうか、何処か不自然にも聞こえる声の主は『誰も知らない魔人生徒会』の一員だ。
     黒く塗ったダンボールを被り、腕には筒を付けた奇妙なルックスからはその正体が誰なのかは分からない。彼であるか彼女であるかすらわからない『謎の存在』は笑みを噛み殺すかのように口角を上げ――た様な気がする、がダンボールで隠された表情からは生憎読み取る事が出来ないだろう。
    「夏休み明けだと弛んではないだろうか? 切磋琢磨する事こそが灼滅者の本分。
     さて、武蔵坂学園グラウンドにて『サバイバル・ゲイム』の開催を予告させて頂こう!」

    ●survival game
     廊下の掲示板にぺたり、と張り出されたのは『サバイバル・ゲイム』と書かれた一枚の紙だった。
     魔人生徒会開催だと言うサバイバル・ゲイムの広告を飾る迷彩色が何とも目に痛い。思わず目頭を押さえることになった生徒も幾人か存在している事だろう。

     ポスターに書かれているのは『服装』『ルール』『使用可能武器』の三つだ。
     ――服装は『学校指定の体操服 又は 水着』
     これはサバイバルゲイムである以上、嗜みだと考えて頂ければ幸いである。

     ――次に『ルール』欄にはびっしりと書き込まれている様だが、ポスターの下に設置された机に『簡易ルールブック』と書かれたしおりがご丁寧にも用意されていた。
     参加者は『頭』『胸』『背中』のいずれかに紙風船を取り付ける事となる。
     紙風船を付ける場所は各自が任意、『一か所』のみへの設置をすること。
     後は容易だ。相手の紙風船を割って行くだけ。風船を割られたらリタイアとなる。
     尚、チーム参加をする事や孤軍奮闘は自由である。
     しかし、必ず『最後の一人になるまで風船を護り、戦う事』!!
     こけて割れる事や壁や人に接触して割れるなどのアクシデントもリタイアとみなされるので注意する事だ!

     ――使用可能武器には『サイキック使用禁止!』と書かれていることも注意したい。
     使用できるのは大きく二つ。
     一つ目は『ハリセン』。これは紙風船の攻撃用である。
     そして二つ目は『鍋の蓋』。これは防御用に使用する盾の役割を果たすようだ。

     ポスターの端にひっそりと『観覧席』『救護席』がグラウンドの端に設置されている事が書かれている。テントの設置された席は成程、のんびりと戦いを眺める事やお弁当を食べる事、そして怪我人の救護に役立つというわけだ。
     簡単にルールを説明するならば一言に尽きる。
     最後の一人になればいい――!
    「さて、諸君の健闘を祈る!」


    ■リプレイ


     残暑、それでも照り付ける太陽が肌を焼く。しかし、だからと言って燻ぶっては居られない。
     据え置かれたパイプ椅子から立ち上がり、インカムに向けてよく通る声を発した法子の号令で今、始まる――
    「『ようこそ! サバイバル・ゲイムへ!』
     実況はRB団の召集を探しているボク、柿崎法子がお送りするよ!
     ルールは簡単、『最後の一人になるまで風船を護り、戦う事』! 」

     鋭い眼光を煌めかせハリセンを手に前進する悠の背後から舟護が忍び寄る。
     そう、このゲイムは生き残りをかけた勝負。胸の風船を護るために『攻撃は最大の防御』だ! と舟護が前へと躍り出た。
    「縦横無尽に駆け回って、体力尽きて動けなくなるまで、楽しませて貰うさ!」
     やる気を十分に満ち溢れさせた舟護や悠へとビシッと付きだされたハリセン。自信に満ち溢れた黒い瞳が煌々と輝いている。
    「さあ、いくわよ皆!」
     夏菜の号令と共に【吉祥寺5年桃組】の面々が前線へと躍り出る。警戒する様に周囲を見回して右手に握りしめたハリセンが大きく撓る。
    「左からくるぜ、気を付けろ!」
     振り翳された恭輔のハリセン。「ビハインド!」と彼が呼べば、防御に回る様にミカが叩きつけたハリセンを受けとめる。
     羽の装飾と風船は同じ。慣れた仕草を見せるミカの視線がチームメイトの万へと注がれていた。
    (「いつも励ましてくれたり笑わせてくれたり感謝していますが、だからこそ――負けても良いから本気でぶつかりたい!」)
     胸に抱いた想いを再確認する様に頷いて、遠慮なくハリセンを振り翳すミカへとライドキャリバーの車輪を鳴らしたリィザが「任せますわよ!」と恭輔を仰ぎ見る。
     何処か赤らめた頬。恭輔の手を引いて、慌てた様に障害物の影へと滑り込む。
    (「き、緊張しますわね――……勇気をだしたものの……」)
     リィザの隣、そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、影から伺う恭輔はへらりと笑って、彼女の肩を叩く。
    「カチコミ好きだろ? 背中は守ってやるから好きなだけ暴れてくれよな」
     そんな彼らの様子を見詰めながら三月がじわじわと歩み寄って行く。RB団けしかけだ!
     鮮やかな髪を靡かせる三月の背を狙う様に夏菜のハリセンが振り翳される。ハッとした様に顔を上げ、「クロ!」と呼べばライドキャリバーが車輪を軋ませ突撃をしかけてくるではないか。
    「な――ッ!?」
    「いたいけなしょうじょになにするっなのっ!」
     ぱしん、とハリセンを受けとめてむっっとした様に頬を膨らませた杏子が鍋の蓋を振りまわす。
     三月が一人で参加する参加者と結んだ協定は一種の共闘だ。明るく元気な小学生である杏子はぶんぶんとハリセンを振りまわし――可愛いだけなのかもしれないが、威嚇していた。
    「お胸に風船つけちゃったら、てーそーのきき、になるのかなあ?」
     こてん、と首を傾げ、やる気を漲らせ、杏子は戦いの渦に飲み込まれて行った。

     同じ部活動の仲間でも、何時かは敵になるかもしれない――……
    「正義の味方部のみんなとサバイバル・ゲイムだ!」
     体格と鍋蓋を生かし相手を見据えた【正義の味方部:Aチーム】の兼弘の隣でマフラーを靡かせた太郎がハリセンをしかと握りしめて居る。
    「わたしのハリセン二刀流を受け切れるかな?」
     にぃ、と唇を歪めた謳歌。彼女の柔らかな金色の髪の上で風船がふよふよと揺れている。謳歌の前に立ち、『光の戦士ピュア・ライト』のコスチュームを模した水着を身に纏った雅がじりじりと【正義の味方部:Bチーム】との間合いを詰める。
    「人数はハンデではないっ。目標数が多い……つまり的が多いと考えるのだ!」
     びしっとハリセンで指し示し芝居がかった口調で告げる織子のやる気を冷静に受けとめて、エリザベスはゆっくりと猫が走り出す前の姿勢を取った。
    「やるからには勝つわよ、折花、織子」
     頷いて、走り出した謳歌のハリセンを受けとめる。前進する攻めの一手を放った謳歌の死角から回り込んだ折花がハリセンを叩きつけた。
    「この程度の攻撃じゃボク達は倒せないよ?」
    「鍋の使い方は一日の長があるんだぞ?」
     ハリセンを受けとめた兼弘に掛かった! とエリザベスが唇を釣り上げる。振り翳された太郎のハリセンを避ける様に靱やかな猫の様に身体を滑り込ませたエリザベスが身を屈める。
    「あなたの鍋捌きには確かに一日の長がある。けれど、だからこそ私には見慣れたものよ」
    「ちょっ、踏っアッーー!?」
     ぐしゃり、と。エリザベスの足場になった兼弘ノックダウン!
     エリザベスの背後に布陣する織子がマントを翻しびりびりと破ったハリセン紙吹雪をお見舞いする。
    「伊達に道化はやってないのだから!」
    「マジピュアの一員として、負けられないっすよ!」
     交錯し合うハリセン。上空から襲い来る織子のハリセンを受けとめて、ハリセンを投げ捨てた雅の手が織子のハリセンに触れる。
     破裂音に太郎が耳を塞ぎ、壁が破られた事に思考する暇もないと攻撃の手を休めない。

    「――これが、『隙』です」

     真っ正面から、しかし気配を殺したその一撃は善戦する折花のバランスを崩す。不敵に笑った彼女が鍋の蓋を投げた。
    「なっ!?」
    「攻撃に使っちゃいけないとは言われなかったからね」
     太郎がバランスを崩し、一気に攻め立てる折花へ「秘剣、ツバメ返し」が襲い来る!
     受けとめたエリザベスが鍋の蓋を投げ捨て、その間合いを詰めた。

     パァンッ――!

    「ふ、不覚……」
     倒れ込んだ謳歌の前でハリセンを手にエリザベスは立っていた。
     まるで侍同士の決闘を思わすかのように……。


     こちらは部活対部活!
     グラウンドに流れる生温かい風を受け、まぐろは自信を満ち溢れさせた瞳を細める。
    「光画部、突撃!!」

     ビシッ――!

     指し示されたハリセンの先。【花園】の面々が立つ陣営へと【光画部】が一気に雪崩れ込んだ。
     混乱を誘う様に陣の中へと走る武琉が「負けるなよ?」と唇を釣り上げればお腹をぐう、と鳴らせたメイニーヒルトは両手に鍋を持ち勿論だと頷いた。
    「ボクの背中は武琉とあるなが守ってくれると信じて、ボクも二人の風船を守るよ」
    「ボクのお尻ばっかみないでねー?」
     にぃ、と唇を歪めたあるなの黄色の競泳水着が眩しい。ぶすったれた武琉をからかう様な三人へと襲い掛かる様に花園乙女は牙(ハリセン)を振り翳す。
    「桜餅ダイナミックっ!」
     という名前のハリセン攻撃。頬を赤らめた桜花が振るったハリセンをメイニーヒルトが受けとめる。学校指定の水着に覆われた豊満な胸が大きく上下する。
     サクラサイクロンのタイヤが砂を巻き上げて前進し、ハッと振り仰いだ辰巳のハリセンが見事にサクラサイクロンの風船を破裂させた。
    「ふふふ、左利きの相手はし辛いぞ~?」
     擦れ違い様の一撃、横薙ぎに振り回しつつ通過――したと見せ掛けたその攻撃は。
    「速い!? やるからには全力で勝つ気持ちで敵に当たりましょう!」
     両手に握りしめたハリセン。手甲の如く、装備した鍋の蓋が葵の装甲の硬さを思わせる。彼女の傍のビハインドは敵を打ち払うべく後ろから近寄って居た。
    (「紙風船を割ろうとするなんて、えっちなんですね――!」)
     ギロッと睨む葵の視線を受けながらも辰巳は油断しない。じりじりと二刀流のハリセンを手にした空も間合いを詰めた。
    「『攻撃は最大の防御』を、魅せてあげるっ! クラブ同士の対決だけに負けられないですねっ!」

     パァンッ――!

    「一人はいちごくんのために、みんなはいちごくんのためにっ!
     今日はみんなでいちごくんの騎士だからねっ!」
    「普段なら張りあう所だけど……今日の私たちはいちごを護る同士!」
     由希奈の声に桐香が同調する。いちごの連れるアリカもハリセンを掲げ三人の気合は十分だ。
     しかし、当のいちごは……。
    (「私はどう反応すべきなんでしょう……?」)
     肩を竦め、困り顔。しかし、此処で立ち止まり、妹のりんごの率いる【花園】には負けられない!
    「裏切り者発見!」
     ビシッと差したりんご。後方の指揮官は黒髪を靡かせて凛とした顔をしている。
     花園所属の由希奈とシェリカを狙うハリセンの数々。ちまきのハリセンは「シェリカや由希奈を狙うんだね!」と言う様に一直線!
     背中に付いた風船を庇う様に走りまわるシェリカが大きな瞳に不安を浮かべる。
    「やーん、狙われてますー!」
    「あれ? なんか盾にされてる?」
     ササッと見事に盾こと斬夜の背後に回り込んだシェリカ。きっと守ってくれますよね、と輝く瞳を見詰める事、三秒――アホの子は考える事をやめた!
    「こういう振りまわせる獲物で遅れを取るのは癪だからなあ」
     勢いよく振り翳されたみかんのハリセンを受けとめて斬夜が反撃する様に彼女の胸の風船を狙う。快活明朗なみかんは「りんごちゃんに従ったら大丈夫だよねぇ♪」とにっこり。彼女の胸でたわわなみかん(語弊)が揺れた。
    「当たったらごめんねぇ♪」
    「せ、生存第一!」
     勢いよく振りまわすみかんのハリセンを鍋の蓋で死守しつつ紅葉は脚を震わせた。柔らかな髪が大きく揺れる。混乱を狙った戦法は敵だけではなく味方をも惑わした。
     りんごを狙う様にまぐろのハリセンが振り翳される。指揮を執るりんごの隣に立っていたセカイは唇を釣り上げてにっこりと笑う。
    「さあ、どちらの『わたくし』と闘いますか?」
    「どちらでも構わないわ、天津風ひびき、出撃! いざ、尋常に勝負!」

     Wりんごに錯乱されるひびきを狙う一撃――!

     咄嗟に構える鍋蓋。動きやすそうなブラジル水着に身を包んだ薫子の尻で尻尾の様に風船が揺れている。
    「傍流ですけど、武士の家系ですもの! 何があっても前に倒れるんですの!」
     りんごの為に、と警戒した甲斐があったと言うもの。しかし、背後から忍び寄るイルルの攻撃には気付けない。
    「往け、往けぃ! 陣を乱すのじゃ!」
    「イルルちゃん、頑張って下さい!」
     いるかの声援にイルルが頷く。だが、そんなイルルの前に立ちはだかったのは静香。実年齢よりも幾分か大人びて見える発育の良さが何とも目を引く少女がフレーズと共に待ち構える。
    「てかげんしませんからね? えーいっ!」

     二人のハリセンが交わる!

    「沙希ちゃん、私たちが勝ったら花園に入るのですよ」
     壮絶なる椅子取りゲーム。ビシッとハリセンで沙希を指す藍に唾を飲み込んだ沙希がじりじりと間合いを詰める。
    「藍ちゃん、勝負なのですよ。私が勝ったら光画部に入るのですよ」
     ハリセンを手に全力で走り出す沙希。周りを巻き込む様にぐるぐると回り出す沙希ハリケーンと共に巻き上がる砂。思わず目を覆う藍の眼前に現れる沙希が唇を釣り上げた。
    「これで死角はないのですよー!」
     藍だけではない、回り全てを巻き込んで――パシンッ!
     大きな音を立てて割れた紙風船に悔しそうな藍が目を上げれば、ふらふらと倒れ込んで風船を割り自滅した沙希の姿がそこにはある。
    「あっはっはっは! なにこれ、楽しー!」
    「なんでやねん! なんでやねーん!」
     テンションハイな真昼の背後でハリセンをぶんぶんと振りまわし大阪芸人顔負けの掛け声の奏。
     裏切りが発生したならば直ぐ様に揉む(意味深)を行われるのだとなると怯えるシェリカも早く脱落した方が――……
    「わたくしも負けていられませんわ!」
    「こっちこそ! あーる。ちゃんとついてきなさいよ!!」
     砂が舞い上がる。地面をけったまぐろの背後を仲次郎が同行する。仮・轟天号のエンジン音を聞きつつ、振り翳されたハリセンの衝撃に仲次郎が目を見開いた。
    「仮・轟天号――! お前の死は無駄にしませんっ!」
    「まぐろさん、こっち、こっちだよー!」
     ぴょんぴょんと跳ねあがる麻美の誘導。全力ダッシュの麻美を追いかける様に走る【光画部】の面々。

    「先手必勝よね?」
     巫女のちょっと過激な水着姿に周囲の生徒もドキドキだ。
     ハリセン片手に前進する巫女に視線を向けつつも【翠風】のメンバーの中で彩歌はほうと息を漏らした。
    「今年は新調しなかった分、全体的に窮屈になっていますね……。
     とはいえ、翡翠さんに澪さんに千尋さん、巫女さん。壮観なものです」
     うんうんと頷く彩歌に頬を赤く染め、鍋の蓋を両手に付けた翡翠が視線をあちらこちら。
    「月雲さんご自身は壮観というか凄い事になってると思いますが~!?」
    「うんうん、やっぱり窮屈になったね。主に胸とかお尻とか……」
     頷く千尋。チーム【翠風】はそのチームワークを高める為に全員揃ってスクール水着だが、新調しないとやっぱりキツい。正に『壮観』である。
     しかし、恥ずかしがっている場合では無い――!
    「らぴらぶ!」
     攻撃を仕掛けんとする【ゲー音】メンバーへとナノナノを思わず投げた。そして――パンッ!
     動きで胸の間に装着した紙風船が、自滅した。なんとも呆気ない澪の最期ではあったがその想いは確かに受け継がれる。
     驚きで鍋蓋を投げかける七緒がぜいぜいと息を切らした。ドサクサに紛れて安全地帯から攻撃するスタイルの七緒もこれには驚く事しかできない。
    「い、いいか、レオ。お前はあのナノナノを狙うんだ!」
     震える様にハリセンを左手に持った嘉哉が告げる――が、狙おうとしたサーヴァント使い(澪)は自滅している。
     霊犬ルミの姿に「可愛いね~、可愛いね~」と笑みを浮かべるミカが振り仰げばそこには微笑みを浮かべた美女(つい脚が出ちゃう)が立っている。
     彼を見詰める巫女の瞳に体を硬直させるが、負けるわけにはいかないのだ。コンビネーションを生かす様に前線へと進む玲仁。
     レオと共に前へと進んだ響華を狙う巫女のハリセ――ではなく、足技。
    「おお!?」
    「大切な仲間を護る! ヒーローの役目です☆」
     にこっと微笑むひなこ。円を取り囲む様に位置した千尋の風船を狙う様に「ウフフ」とひなこは笑みを浮かべた。
    「ご当地ヒーローはこの身全てが武器ですから! キャッ☆」
    「こ、こっちくる――イヤーッ!?」
    「仲良いですね」
    「おお、風船は護られたり! ワザマエ!!」
     うんうんと頷くひなこ。仕方ないなぁと優しい瞳を向ける玲仁。そして、鍋の蓋を投げた七緒。
     思わず避けた円への攻撃を頭上に掠めた晃が白目を剥く。
    「前の地獄合宿もこんなだった気がしますねぇ、なんでうちのクラブは最優先攻撃対象=身内なんでしょうか…」
    「ルミ、逃げるんだ! 寄らば斬る! いや、寄って斬る!」
     ハリセンを握りしめ、鍋の蓋が飛び交う中、ミカが震えた様に立っている。
     見事に仲間内で脱落する【ゲー音】のメンバー! 晃が落としたハリセンに勢いよく滑り転んだ円の運命は如何に!?


     その頃、救護席で休憩をとっている面々の頭上で飛んできたハリセンによって割れた紙風船がひょこひょこと揺れている。
    「全く……怪我人が前線に出るなんていけませんよ? すりむいてるじゃありませんか」
     ぷんすこ。拗ねたように告げた琴に脱落し、擦り傷を負った参加者達は肩を竦めるしかない。
     水着でのんびりと観戦する菜々乃はお菓子を摘まみながら「皆さん、どうですか?」と差し出して居る。
     転んだ参加者を担ぎあげて翔が「頑張ったな!」と大きな口をあけ笑う声に小さく笑みを漏らした。

     まだまだ続くサバイバル。人数の減ってきたグラウンドでも【tRSNaa】の面々は緊張を浮かべて居る。
    「昨日の友は今日の敵……とはよく言ったものよね」
    「サバイバルかぁ。皆、敵。やらなければ、やられる」
     叶の声にたじろぎながらも頭の上に風船を付けた与四郎が腹を鳴らして居る。善戦しながらも腹が空いては動けないし動きたくない。
     霊犬のモップの毛に風船が紛れ、見分けがつき難い事へと「私、策士!」と自画自賛するルーナとて、負ける訳にはいかない。しかし、モップが周辺警戒しているが……。
     突如、大きく吠えたモップ。勝負には妥協できない――仲の良いメンバー同士も敵なのだと巴が大きくハリセンを振り上げる。
    「これも、ルールだから仕方ないんです!」
    「『君子危うきに近寄らず』『三十六計逃げるにしかず』……!」
     追いかけっこ状態のお兄さんお姉さんたちを見て、思わず狼としての本能を刺激されそうな奏がうずうずと身体を揺らす。
     しかし、敵は身内だけではない。【TG研】の流希が乱戦に縺れ込む輪の中心へと特攻――!
    「さて、部員の皆さん……しかと、見届けて下さいねぇ……無謀な突貫がいかなる行為なのかを……」
    「攻撃は最大の防御。ティン君はパーカーを預かっててね」
     流希、そして夕月共にハリセンのみ。共に突貫していくその様子を眺める部員達がごくりと唾を飲む。
    「先陣を切るのは部長の役目ですよ……」
     慌てて翳された紫王のハリセンに風船を割られ、反撃を見せる流希は呆気なく燃え尽きる。

     真っ白に燃え尽き、ハリセンを天に掲げ、一片の悔いもない――

    「クラブの皆さんがなんやかんやで倒れて行きます……」
     部長の様子を眺め、た立ちつくす遥香はそれでも負けるわけにはいかない。お胸の大きな人達の風船を全て叩き割るまでは!
    「ぐるぎゃおーーーん!」
    「ひょもりも負けじと頑張るんすよ!」
     モカがハリセンを構える。懸命に走り込む遥香を避け、春はハリセンを振り翳す。
    「日ごろのストレス発散には丁度いいよね」
     無表情で叩きつけるハリセン。そんな春の視線の先で奇妙な動きが存在していた。無残に流れ作業の様に割られた風船。
     そして――。
    「竹尾君、富山君、何を持っているのですか? きちんとルールは読んで下さい」
    「『紙様のハリセン2世』というアイテムがありまして、サイキックは勿論使いません。宣伝です。宣伝なんです」
    「サイキックを使わなくとも無敵斬艦刀は駄目です。あと、何ですか、その服装」
    「ゴーグルとエアガンは食費を節約して買ったし、迷彩服は借りたんだ。サバゲー会場には行った事あるからルールは」
    「違います。服装は体操服か水着です。大体二人とも、注意力が――」
     パシンッ!
     やっと試合開始だと気付いた清美ががっくりと肩を落とす。正座してお説教を聞いていた良太と登は気付きはしてもお説教中には動けないのだった。

    「……痛い」

     相手の隙を狙って完璧なるタイミング、そして完璧な位置取り、完璧なフォームでラハブが、転んだ。
     ぺったんこ水着が残念なのか、それとも、その転ぶスキルの高さに恐れ慄くべきなのか。見事に転んだラハブは其の侭動かずに、沈黙していた。
     守りに徹する紫王の背中でウララと霊犬がぴょこぴょこと動いている。風船を護りながら二匹を護る紫王に襲い来る叶の魔の手!
     鍋の蓋で受けとめた紫王にモカは「ヒュー、しお先輩もなかなかやるー!」と拍手喝采。逃げるルーナを追いかけ風船を割るモカに狙いを澄ましたかのように与四郎のハリセンが襲い掛かった。
    「ああ、やっぱ、打てないかも……! よいしょ、と」
     パシンッ。
     軽い音とともに優しく割れた風船にモカががっくりと項垂れる。残るメンバーも後僅か!
    「あれ、何かしら? ナノナノが空を飛んで……」
     背の高い与四郎をターゲットから外し攻撃を行う春を鍋で推し留め叶が唇を釣り上げる。

    「これは戦よ、容赦なんて言葉を使ったら、やられてしまうもの。……ね?」

     素早く動く巴が足を引っ掛けたと同時、紫王の風船が割れ、モカの霊犬も巻き込まれて行く。

    「勝敗がついた様です。優勝は――……!!」
     法子がインカムマイク越しにスピーカーを唸らせた。
     ゆっくりとグラウンドへと向けられた視線の先に――。

    「……誰も居ませんわね?」
     首を傾げるりんごに頷くいちご。固唾を飲んで見守る紅葉が「あ、」と指差した先には。
     マフラーを巻き、桜の代わりに風船を持ったナノナノがおずおずと顔を出した。
    「ウララ。しおうに投げられたまま遠くに逃げてたんだ」

     優勝――ナノナノのウララ――!

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月19日
    難度:簡単
    参加:78人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 16
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