高架下、そこが『彼等』のささやかな国であり領域だった。ありていに言ってしまえば、不良と呼ばれる集団だ。やる事と言えば、毎夜集まってはただただ刹那的に騒ぐだけ。数にすれば十人ほど、未来に希望を持てない無軌道な若者達が、そこにいた。
「――なるほど、世界の方に問題がある、と」
滑りこむようなその声に、少年達は思わず視線を向ける。
一八十を少し超えた長身。人のよさそうな笑みと、整った顔立ち。そのノンフレームの眼鏡とあいまって、知的な印象すら与える青年だ。青年は腰に下げた剣の柄頭に手を置くと、小さく微笑んだ。
「それは、ここにいれば変わりますか? 変えられますか?」
「あぁ!? んだ、テメ――」
不良の一人が凄もうとした、その時だ。青年は眼鏡を外すと、その双眸を赤く染めて言い捨てた。
「変化――いや、進化っつうのはな? 諦めずに前に進む者だけが、掴めるもんだ。ここで腐って朽ちていくか? それとも、力を得て自分を変えるか? 選べ、悪を行く気概があるのならよ」
「……お、まえ、何もん、だよ……?」
ガラリと印象の変わった青年に、一人が問いかける。その問いかけに、口の端を歪めて青年は答えた。
「ロード・ゲシュペンスト――と、少し前なら答えたがな、今は違う」
青年はかつての名と、今の名を、誇りを持って名乗る。
「ロード・クロム。たゆまず悪を突き進む……まぁ、お前等の先達ってやつだ」
「まさか、またこの名前を……こんな形で聞くとは思わなかったっす」
湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は、ため息混じりにそうこぼした。かつて、ハルファス軍から朱雀門高校に鞍替えしたソロモンの悪魔である美醜のベレーザによって、朱雀門高校はデモノイドの量産化する手段を得た。この事を知っている者も少なくないだろう。
「どうやら、またデモノイドの素体となりうる一般人を拉致して、デモノイド工場に運び込もうとしてるようっす。その勧誘される一般人を助けて欲しいんすよ」
加えて、前ロード・ゲシュペンスト――現ロード・クロムは、四人の強化一般人を連れている。その内の一人は、美醜のベレーザの手で不完全ながらデモノイド化されており、命令を受けると10分間だけデモノイド化して戦う事出来る――のだが。
「問題は、どうやらデモノイドを何らかの手段で強化する能力をロード・クロムが持っている事っす。そうなると、かなりの強敵になるっすから、要注意して欲しいっす」
ロード・クロムが狙っている一般人は、高架下でたむろしてる不良だ。時間は夜。人数は十人ほど。彼等は勧誘された当初、むしろロード・クロムの放つ空気に警戒心を抱く。その隙に、十人を逃がす事が出来ればほぼ成功だ。
だが、問題はこの後だ。
「ロード・クロムは、勧誘する事より不完全なデモノイドを強化させた後の戦闘能力に興味がある感じっす。不完全なデモノイドが倒されれば退いて、みんなを不完全なデモノイドが自壊する前に倒せたなら、十人を追おう――そんな腹積もりっすね」
ロード・クロムが、自身が戦闘を行なう事に執心していないのが唯一の救いだ。不完全なデモノイドの戦闘能力はもちろん、前回よりも強くなっているだろうロード・クロムの戦闘能力は未知数だ。
「今回の作戦の主目的は、量産型デモノイドの素体にされてしまう若者達を救出することっすから、無理は禁物っす。ただ、八割以上の若者を救出する事が目標っすけど、何とか全員救出を目指して欲しいっす」
ロード・クロムと不完全なデモノイド、配下の強化一般人の全てと戦かった場合、戦闘で勝利する可能性は皆無と言ってもいい。ロード・クロムに関しては、素直に撤退させるべきだろう。
「ロード・クロム、その名前が確かならレアメタルナンバーになったって事っす。そんな未知数の実力の相手っすから、その点を忘れずに対処して欲しいっす」
そう締めくくる翠織の表情の厳しさが、相手の実力の高さ――否、底知れなさを物語っている。翠織は、真剣な表情で灼滅者達を見送った。
参加者 | |
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十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576) |
戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549) |
レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887) |
不破・桃花(見習い魔法少女・d17233) |
ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263) |
フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889) |
天使・翼(ロワゾブルー・d20929) |
花衆・七音(デモンズソード・d23621) |
●
夜の高架下、そこに大量のケミカルライトがばらまかれた。
「な、なんだ!?」
「ほう? こう来るか」
突然振ってきたケミカルライトに戸惑う少年達、笑う青年に一つの言葉が降り注ぐ――花衆・七音(デモンズソード・d23621)だ。
「変わるっちゅうのも案外しんどいもんやで。中途半端な覚悟ならやめとき。それともあんたらにあるんか?うちみたいな化物になる覚悟が!」
どぷり、と七音の体から闇が溢れ出す。その闇は、一瞬にして七音を闇が滴り落ちる黒い魔剣の姿へと変えていった。
「ひ、あ!?」
「暴れず大人しく逃げろ」
「こっちです! 早く逃げてくださいっ!」
天使・翼(ロワゾブルー・d20929)と不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)の誘導の言葉に、少年達は逃げ出した。七音の殺界形成の効果もある、翼の王者の風に従わない者はいなかった。まさに蜘蛛の子を散らしたような姿に青年――ロード・クロムは肩をすくめる。
「高尚なダークネス様の考えなんて知りたくもないが、それを知った所で理解出来ないんだろうな。申し訳ないんだけど、目的の一つは潰させて貰うよ。彼らに手は出さないで貰えるかな」
告げるレイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)に、ロード・クロムは歯を剥いて笑った。ザワリ、と周囲の空気がざわめく――明らかに、スイッチが入ったそうわかる殺気だ。
「出てくるとは思ってたがな? 武蔵坂。いいぜ、ちょうど――」
「だがな、そう上手くは事は運ばんのだよ、くふ♪ 久しいな、ロード・ゲシュペンストよ」
「え?」
「え?」
遮るように言ったフィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)に、ロード・クロムが殺気を霧散させて呆気に取られた表情になった。失礼、と一言断り、ロード・クロムは眼鏡をかけ直す。その青に戻った瞳には、険しい色がある。
「……何で、あなたが来るんですか?」
「邪魔をしに来たに決まっているだろう?」
「いや、そういうのは先に言っておいてください。くっ、さすがに今、確保したとしても……何て、間の悪い時に来るんですか? 私にも準備ってものがあるんですよ? まったく、あなたは……」
眼鏡を押し上げぶつくさ呟くロード・クロムに、戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)が口を開いた。
「それほどの力を持ち得ながら、朱雀門の下に付いているのは何故なんです?」
「――――」
「朱雀門・瑠架が、デモノイドは魂の冒涜、と喧伝して憚らないのは周知の事実ですよね。現に捨て駒として扱われてブレイズゲートに囚われた、ロード・ジルコニアという先達も居ます。従順なパラジウムは兎も角、横浜に出張ってきていた3人のロード達も、使いっ走り扱いを良しとしているんですか?」
蔵乃祐の問いかけに、ロード・クロムは答えない。ただ、その口元に浮かんだ笑みだけが、その問いが見当違いではない事を告げるのみだ。
「……新たに目覚めたレアメタルナンバー……謎も多くて気になることもあるけど……今は目の前の悪行を止めないと……同じ寄生体を持ってる者として許せない……」
「先ずはレアメタルナンバー襲名おめでとうございます。進化についての考えは同意っすけれど、人を拉致しちゃうのは駄目っすよー。あんたが鎧う悪意は野望ごと打っ手切ってあげる」
ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)と十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)、二人の言葉にようやく調子を取り戻したのか、殺気を戻しロード・クロムは改めて眼鏡を胸ポケットにしまった。
「目の前に落ちてきたものは、今は忘れるとしましょう――ならば、初志を貫徹するのみだ、なぁ!」
ミシリ、とロード・クロムが腰の長剣を引き抜くと体が変化していく。西洋甲冑にも似た青い異形、しかし、かつてその姿を見た事のあるフィナレには、明確な違いがわかった。
「なるほど、クロームか」
「おう」
鎧を縁取るように、文様を描くようにクロムがその身を飾っていた。文様のごとき赤い口をニヤリと歪めるロード・クロムの元へ、四人の配下が降り立ち――。
「ガ、アアア!」
「あれ、何処行くんすか? 残念だけれど此処から先は立入禁止、何人たりとも通しはしません」
青い異形へ変貌して吼えるデモノイドに、狭霧が言い捨てる。だが、デモノイドの変化はそこで終わらなかった。
「クロム、プラス、ジルコニア! 悪意を鎧えッ!」
右腕の刃をロード・クロムがかざした瞬間、変化は起きる。デモノイドの体を、金属が鎧っていく――ガシャン! とそこに生み出されたのは、金属鎧をまとった新たなるデモノイドだ。その姿に、桃花が息を飲んだ。
「クリスタライズ、ですか。本当にレアメタルナンバーに目覚めたみたいですね」
「クロムの特性から考えるなら付加された強化は硬化や耐食――敵の思惑にのるんはちょい癪やけど、どんなもんか試させて貰うで!」
七音の言葉と同時、デモノイドが地面を蹴る。その動きに、狭霧も笑みをこぼした。
「あは……それじゃ、お楽しみの時間と参りましょ?」
その言葉に応えるように、デモノイドは金属に覆われ巨大化した右腕の刃を輝かせ、狭霧へと振り下ろした。
●
「行こう、ギン。目論みを止めてやる――『君に、誓う』」
レインが解除コードとともに、CLARUSをまとい雪の華を散らす。デモノイドのクルセイドスラッシュを受けた狭霧は、一歩も退かずに笑みをこぼした。
「これは、結構キツい――かな!」
踏み出した勢いで、狭霧はシールドに包まれた拳で殴打する。しかし、鎧われたデモノイドは構わず踏み出した。ガゴン、という硬い打撃音に、振り抜けなかった拳が押し戻される。
「……邪魔させて貰う、わ……複数を拘束せし霊網展開……」
他の配下を巻き込んでのポルターの除霊結界が展開され、それに合わせナノナノのエンピレオがたつまきを巻き起こした。その結界と風の中を、無人の野を行くがごとく進むデモノイドへ、フィナレは剣天ニューロマンサーを取り込み放つ。
「ニューロマンサー、ウィップフォーム。舞い踊れ!」
ジャラン! とブレイドサイクロンが荒れ狂い、デモノイドと配下達を襲った。ギギンッ! と鎧が火花を散らすデモノイドへ、七音は自らの体で螺旋を描いて、突撃!
「硬い!?」
だが、その鎧に受け止められ貫くに至らない。振り払うように、螺穿槍をデモノイドが弾き飛ばした。剣天ニューロマンサーを引き戻して、フィナレがくふと小さく笑みをこぼす。
「ふむふむ、なるほどな……それが貴様の特殊能力か、くふ♪」
「はっはぁ、こいつぁまた妙な奴が出てきたな。ロード・クロム、ねぇ、レアメタルナンバーってなあとどんだけいるんだ?」
デモノイドを操る影で絡め取りながら、翼が問いかける。それには、ロード・クロムも笑みを含めて返すだけだ。
「面倒くさがらず、自分で数えな」
「たしかに強力な力ですが、ロード・テルルに比べれば……!」
懐へと踏み込んだ桃花の右回し蹴りが、配下の一人を焼き切る。だが、そして、己の片腕を半獣化させたレインが、狼が獲物の喉笛を狙うようにその銀爪を振り下ろした。
「来るよ、一度退こう」
「はい」
駆け込んで来るデモノイドに気付いたレインの言葉にうなずき、桃花は後方へ跳ぶ。その間に、霊犬のギンの浄霊眼と蔵乃祐がセイクリッドウインドを吹かせた。
「単純な力押しで勝てる相手じゃありませんね、やはり」
「がああああああああああああああああああああああああああああ!!」
デモノイドが吼える。それに合わせて、三人の強化一般人達がデモノイドを集気法によって回復させた。
「……そう、来るよね……」
「当然と言えば、当然の戦術だろうが」
ポルターの呟きに、自身は動かずロード・クロムは言い捨てる。その声色にはからかいがあるが、赤い輝きの目には一切の油断は見られない――冷静に状況を観察する者の目だ。
「厄介な敵ですね」
蔵乃祐は、そう呟く。しかし、ロード・クロムが参戦せずに観察に徹している間が好機であるのは確かだ。だからこそ、灼滅者達は動いた。
●
高架下で、いくつもの剣戟が鳴り響く。
「……蒼き寄生の猛毒……対象侵食……」
ポルターのDCPキャノンが、最後の配下を撃ち抜いた。崩れ落ちる配下に、ロード・クロムは一瞥もしない。
「仲間の命も駒扱いか。他者の命を弄ぶような真似は許してたまるか」
「意見の相違だな、灼滅者」
レインの言葉をロード・クロムはただ一言で受け止める。そのレインへ、デモノイドはその右手をかざした。
「オオ――!」
ばら撒かれる強酸――DESアシッドを、回り込んだ翼が庇った。
「誰も好きにゃさせねぇぜ、一般人は守る。お前らの邪魔はする。そうすりゃハッピーとまではいかないが、少なくともバッドエンドじゃねぇ」
「生温い戯言だ」
言い切った翼に、ロード・クロムも吐き捨てる。デモノイドは、動きを止めない。再行動で、翼へと右腕の巨大な刃を振り下ろした。そのDMWセイバーを今度は狭霧が庇って受け止めた。
「さっき、先達とか言ってたけど。まるでセンパイっぽい言回し、中身全然違うけれど」
「知るか」
ロード・クロムは、狭霧の言葉にそう言い捨てる。だが、デモノイド一体になっても動こうとはしなかった。その事実を読み取って、狭霧は笑みをこぼした。
「貫け! ウィンターミュートよ!」
捻りを加えてブーメランを投げ放つように、フィナレは絶槍ウィンターミュートを放った。だが、デモノイドは構わない。鎧を削られながらも、踏み込んだ。
「させねぇって」
「せやで?」
そのデモノイドへと翼の魔法の弾丸が、七音の闇を凝縮させた弾丸が、同時に射撃される。ガガッ! と鎧に火花を散らせながらなおも踏み出したデモノイドは、フィナレに手を伸ばした。だが、その腕をレインの白き炎をまとったシューズが蹴り上げる!
「なんとしてでも……止める!」
そして、レインの再行動。氷華のオーラが荒々しくデモノイドへ降り注ぎ、硬い打撃音を無数に鳴り響かせた。怯まないデモノイド――しかし、その時には懐へと桃花が潜り込んでいた。雷を宿した拳が、跳ね上がる全身のバネを活かしてデモノイドの顎をかち上げる。
一歩、デモノイドが後退した。しかし、一歩に過ぎない。手応えはあっても、そこまでなのだ。
「本当に、強くなっているんですね」
桃花が呟き右へ、レインがそれを見て左へ跳ぶ。その空いた場所へ、狭霧は非実体化させた聖剣でデモノイドの胴を薙ぎ払った。
「まったく、嫌になるね、この硬さ」
聖剣から伝わる感触に、狭霧は軽口を叩く。乱暴に振り回したデモノイドの刃と、一つ、二つ、三つと切り結んだ。その間に蔵乃祐は白炎蜃気楼の白い炎を展開し、ギンが翼を、エンピレオが狭霧を回復させる。
ちょうどその時だ、五分を告げるアラームが鳴ったのは。その音に、翼は内心で舌打ちする。
(「削り切れねぇか」)
配下がデモノイドを積極に回復させ続けた、それもある。だが、特筆すべきは目の前のデモノイドの強さだ。硬さはもちろん、通常のデモノイドよりも強力なそれが更にロード・クロムの能力によって強化されていた。ロード・クロムが加わる加わらないの問題ではない、このデモノイド一体でも耐え凌ぐのがせいぜいだった。
だからこそ、示し合わせた訳ではなく灼滅者達は耐え凌ぐ判断に切り替えた。
(「デモノイドロードですか……邪悪な意思で寄生体の制御に成功した人類……というのは結局のところ、人としての人格がダークネスと大差無いということなんですかね」)
蔵乃祐としては、相容れることは立場上無理でも、ロード・クロムの心構えは嫌いではない。自らの変化を恐れず突き進む、それは間違いではないだろう。
それでも、桃花は否定した。
「誰かを大切に想う心、前に踏み出す勇気。それだけで人は変われるんです。あの方達の未来を、あなたに奪わせはしませんっ!ロード・クロム!」
力を求め闇に堕ちた過去を持つからこその桃花の言葉に、ロード・クロムは笑った。
「最後の一分だ、死力を尽くせ」
「オオオオオオオオオ――!!」
デモノイドは、咆哮を上げ駆けた。未来なきデモノイドの特攻、それを真正面からポルターは受け止めた。
「……重力加算する一撃……」
そして、ポルターはスターゲイザーの蹴りでデモノイドの動きを止める。直後、エンピレオのしゃぼん玉とギンの六文銭が同時に放たれた。デモノイドは、それを振り払う。その懐へ下段から滑りこんだ七音のフォースブレイクの一閃と翼の加速をつけた燃え盛るバベルブレイカーの一撃が重ねて叩き込まれる!
「やってやるぜ、それがオレのタスクだ!」
「今や!」
翼が強引にデモノイドの巨体を押した。七音の声に、フィナレの蛇咬斬が、蔵乃祐の影縛りが、同時にデモノイドを絡め取った。ミヂリ、と足掻くデモノイドを、フィナレと蔵乃祐は逃がさない。そして、狭霧と桃花が同時に跳び炎を宿した蹴りで青い巨躯を焼き切った。
「オオ、オ……!」
「手向けだよ、食らっていけ」
そして、跳びかかったレインの銀爪がデモノイドを引き裂く。だが、デモノイドは倒れなかった。なおも動こうとするが、しかし体が崩れ落ちていく――自壊したのだ。
「最後に一撃ぐらいは俺が変わろう」
そして、ロード・クロムが右腕の刃を薙ぎ払う。冴え冴えとした月の如き凄まじい衝撃が、灼滅者達を襲った。
●
強化されたデモノイドを凌ぐ威力の一閃にも、誰も倒れていない。その灼滅者達の姿を見届けたロード・クロムは人間形態に戻り、無言で踵を返した。
「朱雀門学園は結局、爵位級吸血鬼の駒でしかなく。デモノイド技術も節操無しのベレーザ任せで、使い捨ての量産兵器として利用されているのでは? ロード・クロムも、この先ずっと使われる側のデモノイドで在り続けるんですか?」
投げかけられた蔵乃祐の言葉に、ロード・クロムは足を止める。振り返る事なく、肩をすくめた。
「――絶対悪というのが、あると思いますか?」
「え?」
唐突な問いかけに、桃花が目を丸くする。構わず、ロード・クロムは言葉を重ねた。
「無ければ、我等ロード……いえ、デモノイドにとってこの世は絶望しかない地獄です。だからこそ、私は求めるんですよ、絶対悪がこの世にあると。必ず、証明してみせましょう」
蔵乃祐は、気付く。これが、ロード・クロムなりの自身の問いかけへの答えなのだ、と。
「覚悟もなく名乗るつもりはない。レインだ。こんな事……何度だって止めてやる」
「どうぞ、出来るものならば」
その名、憶えておきましょう、そうロード・クロムは呟いた。一瞬だけ眼鏡越しにフィナレを盗み見て、その背中は夜の闇に消えていく。
あまりにも苛烈な印象を刻み、そしてあっけないロード・クロムとの邂逅がここに幕を閉じた……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 36/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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