
風に吹かれススキの穂がさやさやと揺れ、虫たちの涼やかな歌声に心が安らぐ。陽が落ちて辺りがすっかり暗闇に包まれた頃、東の空にまんまるい大きな月がひょっこりと顔を見せた。
――そう、今日は中秋の名月。
美しい月を見上げ、思わずほぅと溜息を漏らす大人たちとは対照的にきゃっきゃとはしゃぐ子供たちの声が響き渡る。
「こんばんわー! お月見どうろぼうでーす!」
姿を見せたのは近所に住む子供たち。
十五夜の夜だけは他所の家の月見団子を盗っても良いとされ、お団子やお菓子が貰えることイベントは子供たちにとって楽しみなイベントの一つだった。
そんなわけで大きな袋を手にした子供らは縁側を覗き込むと月見団子を貰おうと手を伸ばす、が。
「あ……!!」
縁側にあったのは空っぽの大きな皿だけ。
「僕らの前に『月の使者』が来て全部持ってっちゃった……!」
最近、お月見泥棒に行ってもお団子やお菓子が貰えない――そんな噂が子供たちに間に広まっていた。なんでも『月の使者』がぜんぶ持って行ってしまうらしい。
『月の使者』の正体を見た者はいない。なぜならその正体を見た者は月へ連れて行かれてしまうから……。
しょぼんと肩を落として次の家へと向かう子供たちの背後で庭の茂みがガサゴソと揺れる。そして、子供たちよりも先に月見団子を貰うべく、『月の使者』はピョンと飛び跳ねて行った。
「お月見泥棒って、あなた、知ってる?」
久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)に問われ星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)は首を横に振る。
「ユメ、知らない。お月さまをぬすむの?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる夢羽に來未はゆっくりと説明を始めた。
お月見泥棒――。それは、十五夜の夜限定のお供えのお月見団子を盗む子供たちのイベント。昔、子供たちは月からの使者と考えられ、泥棒された家には良いことがあるとされていたらしい。盗みやすいようにお団子を縁側のわかりやすいところにおいたり、お月見団子以外にお菓子を貰ったりと日本版ハロウィンのようなイベントだ。
「でも、子供たちが来る前に、お菓子を盗ってしまうものがいる」
それが子供たちの間で噂になっている都市伝説『月の使者』。白くて長い耳を持ち、驚異的なジャンプ力でピョンピョンと跳ねるその姿はまさしく――。
「わかった! ウサギさんだね!」
得意気に答える夢羽に來未はこくりと頷き正解だと告げた。
さて、『月の使者』だが縁側に置かれた月見団子に誘われてどこからともなく現れる。
「ちょうど、ここに、空き家がある」
裏路地の外れにポツンと立った無人の家で『月の使者』を誘き寄せるのが良いだろうと來未は言う。やってくる『月の使者』は全部で3匹。皆、2メートル超の巨大兎だ。
灼滅者たちの姿を見ると、『月見団子を奪う敵』と認識し、好戦的に攻撃をしかけてくる。強烈な後ろ足のキックや容赦のない前足から繰り出されるパンチを中心として攻撃し、中でも必殺技はその巨体を回転させる体当たりだ。
「ねぇ來未ちゃん。『月の使者』をやっつけたら、ユメたちもお月見どろぼうしてもいいかな?」
きらきらと瞳を輝かせて問いかける夢羽に來未は「いい、と思う」とさらりと頷く。
お月見泥棒をするときのルールはマナーを守ること。挨拶はきちんとする、他の人の分までお菓子を取ったりしない。それさえ守れば後は自由。例えば、貰ったお菓子の代わりに何か別のお菓子をお裾分けしたりすれば後からくる子供たちも喜んでくれるかもしれない。
「『月の使者』をやっつけて、みんなでお月見どろぼうしようねっ!」
嬉しそうに手を叩く夢羽の足元で霊犬の小梅がパタパタと尻尾を振る。
きっと、今夜は綺麗に月が見えるだろう――。
來未はそっと窓の外に広がる秋の空を見上げた。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158) |
![]() ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427) |
![]() 三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736) |
![]() 藤城・奏哉(星想い・d04826) |
![]() エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
![]() ヒオ・スノゥフレーク(雪のかけら・d15042) |
![]() エクスティーヌ・エスポワール(銀将・d20053) |
![]() ベルベット・キス(見習い竜騎士・d30210) |
●使者は月からやってくる
心地良い秋の風を感じながらエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)は夜空へと視線を向けて月を見つめる。ほんのり片側の欠けた大きな月はぱっと見ただけでは満月にしか見えない。
「『月の使者』かぁ……」
おとぎ話に出てきそうな名前だな――これが藤城・奏哉(星想い・d04826)の抱いた第一印象だった。奏哉の背後では月見団子を準備する少女たちの楽しそうな声が聞こえる。
「わぁ! エクスちゃんのお団子おいしそうなの!」
ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)の言葉にエクスティーヌ・エスポワール(銀将・d20053)は三色団子を積み上げる手を止めた。
「ピアットさんのお団子も、美味しそうです」
「うん、後でお菓子交換しようね!」
ピアットと約束を交わしつつもエクスティーヌの視線はチラチラと月見団子の間を揺れ動く。それにしてもお菓子を貰えるなんて夢のような風習があったものだ。
これら月見団子に惹かれ、彼ら『月の使者』はやってくるというが……。
「お子様たちの楽しい気分を邪魔する奴ぁー兎だろーと容赦しねーです!」
長いポニーテールをひょこりと揺らし、ヒオ・スノゥフレーク(雪のかけら・d15042)が力強く言い放つ。そんなヒオが用意しているのはまんまるな草団子。だが、この草団子はただの草団子ではない。
「悪い兎ぶっとばしてお月見泥棒たんのーするですよぉ!」
頼もしいヒオの言葉ににこりと頷く星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)だったが、ガサリと草が揺れる不審な物音に気付き仲間たちに合図を送る。
「しっ――『月の使者』が来たみたいです」
エアンが照明で縁側を照らすと長い耳の白い巨大な兎たちがぴょこんぴょこんとこちらへ近づいてきた。
「うわ、ほんとに可愛くないなっ!?」
「ユメ、もっとかわいいウサギさんがよかったなー」
思わず正直な感想を述べるベルベット・キス(見習い竜騎士・d30210)に星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)もこくこくと頷く。
だが、ちらりと2人を一瞥しただけで兎たちはまっすぐ縁側へ。そして、器用に団子を掴むとむしゃむしゃと一心不乱に食べ始めた。
「うーん、食べる姿も可愛くない」
やれやれと首を横に振るベルベットにこくこくとピアットが頷き同意を示す。
しかし兎たちは我関せずといった様子でばくばくと団子を食べ続けていた。きなこもちにチョコ入り団子。薄口醤油で仕上げたあまじょっぱい月見団子はちょっとしょっぱめに仕上げておいたが、気にすることなくしゃむしゃと団子を口へと運ぶ。だが、美味しそうに団子を食べていた兎たちの動きが突然ぴたりと止まった。
『!?』
緑色の草団子が兎の手からぽとりと落ちた。
『!!??』
突如ばたばたと苦しそうに暴れる兎を見てヒオが嬉しそうに声をあげる。
「わーい! ひっかかったです! ヒオ特製の激辛団子ですよぅ♪」
それはヒオがこっそり混ぜておいたわさびたっぷり草団子。見事にわさび草団子を食べてしまった兎たちが一斉に怒りに満ちた眼差しを灼滅者たちに向ける。
ぐわっと鋭い牙をむき今にも灼滅者に襲いかかろうとする兎をまっすぐに見据えエクスティーヌは静かに口を開く。
「使者と泥棒、どちらがお団子を手にするか。いざ尋常に勝負です!」
●月の使者V.S.お月見泥棒
左胸に手を当て奏哉はそっと目を閉じた。彼の横で誰かが大地を蹴る音がする。
最初に動いたのは三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)だった。
「播磨の旋風、ドラゴンタケル、巨大兎三連星を一致団結の力で退ける為見参!」
びしっと兎たちを指差しポーズを決めると傍らのベルベットと視線を交わす。
「纏めて行くぞ! 播磨の暴風、龍嵐輪!」
「OK! 鬼さんこちら、手のなる方へっと」
健は右から、ベルベットは左から。2人同時に回転させた槍で敵を勢いよく薙ぎ払った。
わさび入りの草団子を食べさせられたところに攻撃をしかけられ、怒りも頂点に達している兎たちにピアットも氷の魔法を放つ。
「可愛くない兎さんなんていらないっ! 氷兎にしてあげるの、凍えちゃえー!」
兎たちが可愛くなかったのがよほどショックだったらしい。キッと兎を睨み付けるや否や兎たちはカチンコチンに凍りついた。
だが、兎たちも負けてはいない。草団子の恨みがあるのか、兎たちは執拗にヒオを狙う。
思わぬ集中攻撃を受け、ぐらりとヒオの身体がバランスを崩した。そこへ兎が猛スピードで突っ込んでくる。
思わずぎゅっと目を瞑るヒオだったが、いつまでたっても衝撃は来ない。恐る恐る目を開けるとヒオの前には夢羽の霊犬・小梅が彼女を護るように立っていた。
「ナイスフォロー、小梅」
ポンポンとエアンが小梅の頭を軽く撫で主人に代わって褒めてやる。すると小梅は嬉しそうに尻尾をパタパタと振った。
ぐらりと巨体を傾けバランスを崩す兎に向かってエアンが炎を纏った靴で思い切り兎の顎を蹴りあげる。
「お団子を独り占めした罰だよ」
まず1体撃破。だが、残った2体の兎たちはまだ健在。
兎が全身のばねを使って蹴りを放った相手はエクスティーヌだった。だが、えりなのビハインドである『お父さん』が兎の攻撃から少女を護る。
「お父さん、ありがとう」
背中に天使の羽がついた衣装に身を包んだえりなは仲間たちの傷を癒すために歌い続けていた。胸元の星をかたどったペンダントがえりなの動きに合わせて大きく揺れる。えりなの澄んだ優しい歌声はまさに天使の歌声。ふんわりとしたスカートの裾を翻し手歌うえりなの声が仲間たちをそっと包みこんだ。
「皆さん、傷の回復は私たちに任せてください!」
「おや? 兎たちの動きが……」
最初に異変に気付いたのは奏哉だった。時間が経過するにつれて兎たちは何やらまごついているようでこちらに攻撃をしかけないのだ。
「――そうか、攻撃したくてもできないから」
兎の射程外にいる健とベルベットが兎たちを怒らせ、注意を自分たちへと惹きつけていたのが功を奏したらしい。
ならば、このチャンスを逃すまいと奏哉は勢いよく大地を蹴って兎に向かって飛び蹴りを放つ。エクスティーヌが撃ったマジックミサイルが兎の身体へ命中したタイミングに合わせ、ベルベットは槍の柄で思い切り兎の脳天を殴りつけた。
「行くぞ必殺! 播磨特選薄口醤油キーック!」
健の強烈なジャンプキックを受け止めることはできず、兎はずざざっと蹴り飛ばされ、そのまま動かなくなる。
「あと1匹!」
健の声に灼滅者たちの士気が一気に高まる。
「兎さんなら月見てろですにゃ!」
兎の顎をヒオが思い切り蹴り上げた。すかさずエアンのバベルブレイカーが唸り声をあげながら兎の身体に杭を突き刺しそのまま捻じ切らん勢いで高速回転させる。
「兎さんは炎で燃えて月に帰るといいの!」
炎の雨を降らせながら叫ぶピアットは傍らのエクスティーヌに視線を送った。
エクスティーヌはこくりと頷くと兎に向かって必殺のビームを放つ。
「さぁ、月まで吹っ飛んでください!」
――腰掛け銀戦法(シッティングシルバー・ビーム)!
白銀の輝きを纏ったビームはまるで将棋の駒が連なっているかのようで。そのまままっすぐ兎の身体を撃ち抜いた。
「……無事、お帰りくださいましたね」
ふぅっと大きく息を吐くエクスティーヌの視線の先にはもう『月の使者』の姿はない。
「お月見泥棒へと向かう前に……まず、私もあの月見団子をいただいてもいいでしょうか」
●合言葉は『お月見どろぼう』
ぐきゅるるるる……。
戦闘が終わって気が抜けたのか、不意に健のお腹の虫が鳴り響く。
「あ……ははは」
照れくさそうに笑ってごまかす健の背中を満面の笑みを浮かべたヒオがポンと叩いた。
「お団子食べるですよ!」
ウサギ耳のようなリボンを揺らし、ヒオはばっと両手を広げて得意気に胸を張る。
「さぁ! ヒオの用意したロシアン草団子ごしょーみくだせぇ!」
「え? ロシアン?」
あれは『月の使者』のための団子ではなかったのか。
聞き捨てならない不穏な言葉にエクスティーヌは伸ばしかけた手を思わずひっこめた。
「大丈夫ですにゃ! さっき『月の使者』がハズレを食べてたから、残りはあと1つ!」
心配ないとばかりにヒオ自身が一つとって食べてみせる、が。
「んぎゃー! 辛いっ辛いっ辛いー!」
「ほら、ヒオお姉さん、水飲みなよ」
見事わさび入りの激辛草団子を引き当て堪えきれずに悶えるヒオに慌ててベルベットが水を差し出す。ごくごくと水を飲むヒオを見て仲間たちにふわりと笑顔が広がった。
「夢羽ちゃん、いっしょにお月見泥棒しませんか?」
「うん、お月見どろぼうするー♪」
ウサギ柄の浴衣に身を包んだえりなが傍らの夢羽に声をかける。嬉しい誘いに迷わず夢羽は元気よく頷き2人仲良く歩き出した。
「お月見泥棒なのっ! お月見くれないと悪戯しちゃうの♪」
元気よく跳ねるように家々を回るピアットの手はあっという間にお菓子でいっぱい。
「ピアットお姉さん、素敵な笑顔だね」
「いろんなお菓子いっぱい食べれて幸せなの~♪」
満面の笑みを浮かべるピアットにベルベットはくすりと微笑むと「これもどうぞ」と自分が持ってきたお団子を差し出す。
「あ! えりなお姉さん、何貰ったの?」
「うさぎさんのお菓子です。可愛いでしょう?」
にこにこと笑顔で駆け寄るベルベットにえりなは兎を模った愛らしい和菓子を見せた。
「なんだか食べるのもったいないね。そうだ、夢羽ちゃん、チョコ食べる?」
「わぁい、たべるー♪」
さっそく夢羽が貰った月見団子とベルベットのチョコを交換。
歩きながら食べるのはちょっとお行儀が悪いが今日は特別。
それでも、さりげなく車道側を歩くベルベットの気遣いにえりなは笑顔を浮かべる。
「やっほー、お月見どろぼうだよー♪」
夢羽と一緒に手を繋いで各家を回る夜霧。気づけばその手にはチョコレートの山が出来上がっていた。
「夜霧ちゃん、チョコがすきなの?」
お裾分けにとチョコを置いていく夜霧に夢羽が問う。
にこにこと笑顔で頷く夜霧ににこりと笑みを浮かべ夢羽がチョコを差し出した。
「チョコどうぞ♪」
「ありがとー、ユメちゃん。お礼にチョコあげるね」
チョコをあげてチョコを貰う。夜霧と夢羽の顔にはとびきりの笑顔が浮かんでいた。
「え、これホントに人んちに入っちゃってイイの?」
玄関口で躊躇するポンパドールにニコは呆れた顔で視線を向ける。
「お前が月見どろぼうをやってみたいというのでついてきたんだ。こんなところで躊躇われたら此方が困る」
ポンパドールを置いてニコは「行くぞ」とすたすたと民家へ。
「今晩は、お月見どろぼうです」
庭へ入れば縁側にはどうぞ、とばかりに積まれた月見団子が2人を出迎えた。
「おおっ、すげえー! マジで白い! まんまる!」
団子を見てポンパドールのテンションが一気にあがる。
「ほう、これは……」
ニコも思わず月見団子へと手が伸びた。
「え、ニコさんもそれ? ニコさんは何か別の貰って行けば?」
「俺は貰えれば別に何でもいい」
「えー、やめてよ、同じなんておもしろくないじゃん!」
「もう触ってしまったからな、これじゃないとダメだ」
ちぇーと残念そうにポンパドールは口を尖らせるが。
実は欲しかった月見団子を貰ってニコはご満悦。お礼にとこっそりしょうゆ煎餅を置いていく。
唐草模様の風呂敷を首に巻き、月夜にこっそりと歩く姿は和風の盗人の様。
「お菓子求める月見泥棒、只今参上!」
「わ、わ、ほんもののどろぼうさんみたい!?」
ぱちぱちと目を瞬かせる夢羽の前で、健はニヤリと笑みをうかべるとしゅるっと風呂敷包みをほどいた。
キラキラと輝く虹色の飴や可愛い兎饅頭に夢羽の顔がぱっと輝く。
「夢羽にはこれやるよ。小梅の首元の飾りみたいだろ?」
「ほんとだ! えへへ、小梅もいっしょにたべる?」
嬉しそうにドーナツを齧る夢羽を見ると健も自然と笑顔が零れた。
「お月見泥棒ってなんだか不思議な感じだね」
嬉しそうに家々を回る子供たちを見ているだけで奏哉の顔にも笑みが浮かぶ。本来ならば泥棒はやってはいけないことなのだが、この微笑ましい風習は消えることなく続いてほしいと奏哉は思う。
「藤城の兄ちゃんも一緒にお月見泥棒しようぜ!」
「え?」
健からの思わぬ誘いに奏哉は一瞬戸惑いの表情を浮かべた。
「ほら、早く早く!」
健に押されるがまま、民家の入り口にたった奏哉は照れくさそうに小さな声で告げる。
「こんばんは。お月見泥棒……です」
●幸せを分け合う月夜のお菓子祭
お月見泥棒でお菓子を貰うのも楽しいが、友人同士でお菓子を交換するのもまた楽しい。
「あ、エクスちゃん! お菓子交換しよ~」
ピアットの提案にエクスティーヌはこくりと頷いた。
「おはぎと苺大福、どちらにします?」
「苺大福! だって苺と餡子の組み合わせは最高なの♪」
迷わず苺大福を選んだピアットは手作りスイートポテトをエクスティーヌに差し出す。
「ウサギさんの形なんですね。可愛いです」
甘くて美味しいお菓子に舌鼓をうつ仲良しコンビを大きな月が優しく照らす。
「想希、あーん」
2人で作った兎饅頭を想希の口元へと持って行った悟は口を開いて待機。
悟の意を察した想希がくすりと笑みを零して片割れの兎饅頭を悟の口元へ差し出した。
「悟くんも、どうぞ」
早いもので去年の月見からもう1年。あの月に負けないほどキラキラと輝いた日々を振り返り、想希の顔に幸せそうな笑みが浮かぶ。
「あ、東当兄ちゃん、若宮兄ちゃん!」
元気よく駆け寄る健に愛想よく悟が笑顔で手を振った。
「これ、あげるよ!」
「ドーナツやん。ほな俺らからも兎饅頭あげるわ。美味しゅう頂いてな」
健に貰ったドーナツは想希と2人で半分こ。
「帰ったら、2人でお月見しましょうか」
月を愛でつつ、お茶を点てて。茶菓子は絶品の栗羊羹。
長い夜も2人で過ごせばあっという間に過ぎてしまうだろうけれど。
2人ともに歩いていけることに、感謝を――。
貰ったお月見団子を両手に抱え、射干と寂蓮はのんびり夜道を歩く。
「お月見泥棒か。こんな風習があったなんて初めて知った」
「中々に大らかなイベントだよな」
年甲斐もなく楽しんだがな、と呟く寂蓮に射干もこくりと頷いた。
「心が子供であれば身体のサイズなんて関係ないさ」
多分な! と付け加える射干の声もどこかはしゃいでいるようで。
「ああ……それにしても、良い月だな」
寂蓮は天上の月を見つめ、独りごちる。
「美味い団子に心安らぐ虫な音。……何よりも隣に十朱がいてくれる」
また来年も、一緒に月が見れれば――。
そんな寂蓮の願いに気付いていたのか、射干がゆるりと口を開いた。
「月の光は様々な運気を上げるというし、信じてみるのも悪くない」
月を見上げる2人の背後でコオロギの澄んだ鳴き声が夜空に吸い込まれていく。
「綺麗な月ですね」
きなこ餅を食べながらえりなは夜空に浮かぶ月を見上げた。お菓子を抱えた奏哉もゆっくり天を仰ぐ。
「そうだね。本当の満月は明日だけど――今日の月は特別に見えるよ」
眼鏡の奥で月光と同じ色の瞳を細め、奏哉は美しい月をじっと見つめた。
「まあるい、まあるいお月様、皆を包む優しい光♪」
しっとりと響くえりなの歌声に合わせ、小梅がパタリパタリと尻尾を振ってリズムをとる。
その小梅の主人である夢羽は桜子から貰ったレモンラムネを頬張り幸せに浸っていた。
「ラムネおいしい~。あ! 百花ちゃんの作ったおだんご、おいしそう~」
「うん、どうぞ。もものお菓子は美味しいから。ぜひ夢羽も食べてみて」
俺が作ったわけじゃないけど、と微笑むエアンに百花はほんのり頬を染める。
「やだ、エアンさんってば……っ」
早速、と桜子と夢羽はお団子へ手を伸ばした。
「これキャラメルクリームね。さっすがももちゃん先輩、お料理上手!」
「チョコクリームのおだんご、おいしい~」
幸せそうに団子頬張る2人を見て百花もほっと胸を撫で下ろす。
「俺は桜子の作ったのをいただこうかな」
ほんのりとオレンジ色のそのお団子は、きっと……。
「みかん大福でーす。……お団子じゃないっていっちゃめーよ?」
「……まぁ、大福も団子も似たようなものだと思うし。うん」
パクリと頬張った大福は程よい甘さでみかんの風味がふわりと口にひろがった。
ふと、エアンは空に浮かぶ月を見上げると空っぽの皿にお団子を積み始める。
「エアンさん、何してるの?」
きょとんと首を傾げる百花にエアンが綺麗な輝きを放つ月を指さした。
「月の兎も欲しいと思っているんじゃないかなって」
それに、とエアンはくすりと笑みを浮かべる。
「こんな美味しいお団子を独り占めしちゃいけないしね」
ほのかに冷たい初秋の風がススキの穂を優しく揺らす。
秋の虫たちの澄んだ音色に耳を傾け夜空にぽっかりと浮かんだ月を見上げれば、ぴょこんと月の兎が跳ねたように見えた。
――また、来年も。こんな素敵な月夜に会えることを楽しみにしています。
| 作者:春風わかな |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2014年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 8
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