閉店時間間近のスーパーは人もまばらで、どこか寂しげだった。
「いやー、ホント助かるわ」
「だよな、コンビニで買ったらこの弁当400円はすんのに150円とか」
この日最後まで店に残っていた二人の少年は戦利品をぶら下げながらちょうど店の入り口をでたところで。
「だからかもな、あの都市伝説」
「ああ、うっかり閉店時間を過ぎても店の中に残ってると無人の店内に引き込まれるってアレかぁ」
商売敵の流したデマだろと片方の少年は笑い飛ばす。
「しかも店内を徘徊してるバケモノに襲われるって、ホラー漫画の見過ぎだよな」
最終的に少年達は笑いながら帰路へつくこととなるのだが、二人の足は不自然に速かった。
「噂は噂だろ」
表面上は取り繕いながらも、噂に不気味なものを感じていたのだろう。ただ、その不気味さの正体が事実となってしまった都市伝説の気配だと気づくことは無かったのだが。
「都市伝説が出現しました」
現れた都市伝説は「とあるスーパーで従業員以外が閉店時間を超えても店に残っていると、無人の店内に引き込まれ徘徊するバケモノに殺される」というもの。
「あ、都市伝説についての説明も必要ですか?」
都市伝説とは、人々の噂話や未知を恐れる心がサイキックエナジーと融合して生まれる暴走体。バベルの鎖を有するが故に、対処できるのは灼滅者のみなのだ。
「皆様には今回、このスーパーマーケットに出現した都市伝説を討伐して頂きたいのです」
今のところ犠牲者は出ていないものの、条件故にうっかりで『無人の店内』へ引き込まれてしまう犠牲者がでてもおかしくはない。
「それで、この都市伝説のバケモノですが黒く不定型な姿をしています」
通常はアメーバのような形だが、獲物を認識すると姿を変え、触手の群れや黒い人型など攻撃に応じた姿をとると言う。
「攻撃手段は影業のサイキックと似通った三種のものですね」
触手で動きを封じ、人型は刃を持って防具を切り裂き、アメーバは獲物を飲み込みトラウマを発現させる。
「出現したバケモノを撃破できれば、無人の店内は消滅し、皆様は元の店内へ。この都市伝説が再び出現することはないでしょう」
バケモノの数は一体、一人二人の灼滅者ならば手に余るレベルだが、だからこそ敢えて少人数で戦うと言ったことでもしなければ勝つことは可能だろう。
「場所が場所ですからついでにタイムセールでお買い得になった商品を買ってくるのも良いかもしれませんね」
そう言いつつエクスブレインの少女はスーパのチラシを差し出した。
「この日はきゅうりとたまごのパックが安いみたいですよ?」
参加者 | |
---|---|
マーテルーニェ・ミリアンジェ(蒼天弓・d00577) |
戌井・遙(星降る夜・d00620) |
不破・聖(壊翼の楔・d00986) |
天羽・帯人(中学生魔法使い・d01303) |
灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085) |
葉月・十三(高校生殺人鬼・d03857) |
シャルロッテ・モルゲンシュテルン(黎明の唄・d05090) |
神凪・燐(常闇に吹くそよ風・d06868) |
●まず、すべきは
「頃合いですわ」
時計に目をやっていたマーテルーニェ・ミリアンジェ(蒼天弓・d00577)は口を開き、街灯に照らし出された駐車場を幾人かの影が切り裂く。
(「夜の、店は……確かになんか、怖いから、な」)
駐車場に止まった車が少ないのも閉店時間が近づきつつあるからだろう。
「ん、……がんばろ」
ぐっと拳を握った不破・聖(壊翼の楔・d00986)が仲間と共にくぐったのは、スーパーの入り口。
「安い弁当とか先に買っておくか」
総菜コーナーを見て、戌井・遙(星降る夜・d00620)はポツリと呟き、歩き出した。
「卵にきゅうりはつかいマスシ、お夜食に安くなったお惣菜でも買っていこうカナ」
シャルロッテ・モルゲンシュテルン(黎明の唄・d05090)もやはり歩き始めていて。
「いきなりですの?!」
自分にも他人にも厳しい性格のマーテルーニェは思い思いに買い物を始める仲間達の姿に目を向くが。
「今買わなくてどうするんだ?」
遙は理解出来ないとでも言うように瞬きしつつ言い。
「えっ、それはお仕事が終わってからに――」
「閉店したお店でどうやって買い物するデスカ?」
「あ」
シャルロッテから指摘されて矛盾点にようやく気づく。
「自分に厳しいのは立派だと思いますけどね」
愕然とするを横目で見た灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085) は、カゴを乗せたカートのハンドルに畳んだエコバックをぶら下げたまま、視線を前方へ戻して。
「う~ん、これどっちがいいかな……あ、もやし安い!」
別のお買い得品を発見していた。マーテルーニェの気持ちも解るが、買い物は閉店前にしか出来ないのだ。
(「スーパーで事件……これで営業時間の短縮や閉店になんてなったら死活問題です。どれだけの人が涙を飲むことか」)
だからこそ、周囲を窺う天羽・帯人(中学生魔法使い・d01303)も事件を無事解決する事こそ最優先と決めている。
「とは言ってもこうして半額シール待ちな訳ですけど」
誰に向けての弁解か、緊張感が一気に霧散した気はするが。
「そろそろ動く頃ですよね」
何もこの場の灼滅者が全員買い物を楽しんでいる訳ではない。
「……私は双子の妹と弟と3人暮らしです」
時を待つ灼滅者の中に、誰へ向けてか語る神凪・燐(常闇に吹くそよ風・d06868)は居た。
「財布を預かるものとして、閉店間際のタイムセールがどんなにありがたいことか……」
自身の言葉を裏付けるように買い物カゴにはお買い得品がいくつも入っていて。
「許せません。ええ……閉店間際のタイムセールを愛する物として跡形もなく滅しましょう……」
ダークネスとは多分別種の気魄というかオーラが溢れていたのだと思う。
「うわっ」
「っ、あっちからいこうか」
すれ違おうとした一般客は大半が回れ右をした。
「……次、アイス」
ホットケーキミックスと卵のパック、紙パック牛乳の入ったカゴを下げたままの聖は動じることもなかったけれど。
●狩猟場へ
「このお店にあまり遅くまで残られていますと酷い目に逢うって噂知ってますか? 噂は噂ですが怖いですよねぇ……最近は夜道も物騒ですし早く帰りましょうね!」
「物騒な世の中になったものですね」
いつの間にか、作戦は始まっていた。死んだ魚のような目で語る葉月・十三(高校生殺人鬼・d03857)の言葉はプラチナチケットの効果もあってかすんなりと受け入れられ。
「これで半額品は俺の……無事誘導できましたね!」
いかにも計画通りといった感じの黒い笑みを無理矢理崩した帯人は、先程まで自分が紛れ込んでいた一般客数人が帰って行くのを眺め終えて振り返る。
「戌井さんも今頃誘導に当たっているでしょうし」
ここまではだいたい帯人の予想通りにことが運んでいる。
「鮮魚コーナーにいたお客さんには帰ってもらいマシタ。向こうの一角にはだれも居マセン」
「こっちも誘導完了だぜ」
仲間を捜してやってきたシャルロッテと遙の報告で、一つの目下準備は終わり。
「あと七分強ですね」
まもなく閉店時間が訪れることを知らせる音楽の中、壁に掛けられていた時計を物陰から見てフォルケは呟いた。
「バラバラに引き込まれるのか全員一緒かも気になりマスガ、出来れば同じ場所に固まっていた方が良いでショウネ」
各個撃破される恐れがあるならエクスブレインは忠告した事だろう。
「そうだな、合流出来たのは幸いだが。とりあえず、戦利品を固めて置いておくか」
二つめの下準備は個人的なものではあったが、買い物袋を下げて戦う訳にも行かない。
「そろそろ時間ですわよ?」
一人荷物の無かったマーテルーニェは時計を見つつ警告し。
「……あ」
灼滅者達が違和感を感じたのは、閉店時間丁度を指していた時計の秒針が一目盛り進んだ瞬間。
「っ」
自分達以外の気配が消え、一行は悟る。怪物が徘徊するという無人の店内へ引き込まれたことを。
「全員揃ってますか?」
「ほぼ全員いらっしゃるように見受けられますけれど……灯屋様は?」
「ここです」
店員の目から逃れる為物陰にいたフォルケが物陰から転げ出て。
「Klar zum Gefecht」
淡々とカードの封印を解く言葉を口にする。ここはもはや敵地なのだ。
「では、探索しましょうか」
燐は据わった目のまま仲間達を促す。バラバラになったまま引き込まれた場合は、レジに集まると決めていたが、全員揃ってしまっているならその必要もなく。
「見つけます、何処にいても……」
化け物が引き込まれた人を狩るはずの店内は化け物が狩られる側にいつの間にか変わってしまったらしかった。何というか、化け物逃げてと言いたくなるほどの威圧感を纏、燐が歩き出す。
「凄いですね」
何がとは言わぬ十三は無表情のまま燐の後に続き。
「おや」
変わらぬ表情で一つの棚へ目をやったのは、その数分後。
「キアァァァッ」
悲鳴とも咆吼ともつかぬ声を上げ、『化け物』は棚の向こうから姿を現した。
「『MusicStart!』閉店音楽に悲鳴は不似合いデスヨっ?」
シャルロッテは即座にスレイヤーカードの封印を解き。
「邪魔です」
「エ?」
伸びてきた刃を燐は盾を広げる動作の途中で無造作に叩き払った。
「チャンスですよ、追い打ちを」
「あ、ああ」
燐の目には何か逆らいがたいものがあり、刃を防がれた化け物が怯んでいるのも事実。微妙に腑に落ちないものを感じつつも、遙は日本刀に炎を宿すと床を蹴って飛び出し。
「燃えろぉ」
レーヴァテインの一撃が繰り出された時には、聖も化け物へ肉薄していた。
「……隙あり」
「ウキウアアアァァ」
龍の骨さえ叩き斬る強烈な一撃は、燃えだした人型の片腕を斬り飛ばし。
「さい先良いですねぇ」
バベルの鎖を集中させた瞳で戦況を見る十三の視界に映るのは漆黒の弾丸を形成しつつあるマーテルーニェの姿。
「行きますわよっ」
「ウキャァァァァッ」
撃ち出された弾丸に貫かれ悲鳴を上げた。
「俺も続くか」
立て続けに繰り出される連係攻撃が有効打になる一部始終を見ていた帯人はガンナイフを構えて笑みを作り。
「その歩み、止めさせてもら……あれ足は?」
不定形に戻った化け物を見て一瞬、硬直する。
「この歌を聞いてくだサイナっ。聞けるのかわかりマセンケド!」
シャルロッテが歌い始めたのは、丁度帯人が固まった瞬間だった。
「ちょ、今俺のターンだろ」
「ソーリー、攻撃タイミング見計らってるかと思いマシタ」
「キウアァァァァ」
結果的に連携同様の同時攻撃となり、化け物は身を捩っていたので結果オーライかもしれない。
「アウアイィィィィ」
もっとも、化け物もやられっぱなしでは居なかったのだが。
「反撃前兆、警戒を」
胸にトランプのマークを浮かべつつフォルケが警告した0コンマ七秒後、人の形を取り始めたそれは影のような漆黒の刃を振り上げた。
●圧倒
「ウキウァァァァァ」
「少しは効いただろ」
帯人の撃ち込んだ弾丸が毒をもたらしたのか命中とは別のタイミングで化け物の身体がざわっと波打ち。
「さぁ傷はいやして差し上げマスヨっ。思う存分闘ってくだサイ!」
「ありがとうございます」
天使を思わせる歌声が、マーテルーニェの傷を癒して。
「みんなの体力は私が守りマスっ!」
シャルロッテはガッツポーズで礼に応じる。事実、前線が保たれていたのは、メディックとして後方に立つシャルロッテの貢献も大きく。
「反撃に出ますわよ」
癒されたマーテルーニェはプリズムのような材質の十字架が降臨させつつ、仲間に呼びかけた。
「援護します!」
燐は槍の妖気をつららに変化させると迷うことなくそれを不定形の敵へと撃ち出し。
「イウアイアアアアァァ」
燐の気魄か連携のおかげか撃ち出されたつららと十字架から放たれた光線が防御するようにかざされた触手を貫いて。
「ん……」
悲鳴を上げる化け物の触手が緋色のオーラを宿した聖の龍砕斧に斬り飛ばされて消滅する。
「敵も弱くはない筈なんですけどねぇ」
十三の撃ち出した弾丸も触手を断たれた化け物の本体に突き刺さっており、未だ燃え続けているのは時折遙がレーヴァテインを叩き込んだ結果だろう。
「しぶとくはあるようですが」
灼滅者達は押しつつあった。
「射線不良、移動します」
例えば、戦場を移動したフォルケの動きを化け物が追えない程度には。
「厄介なのはわたくし達と言うことですわね」
同時に多方向から襲いかかってくる灼滅者達を不定形の都市伝説はどうしても無視出来ないらしい。
「触手、来ます」
「キアアアアァァ」
聖を狙って伸びた触手は、フォルケの警告によって空をつかみ。
「……ありがとう」
礼の言葉に無言で頷いたフォルケはバスターライフルから魔法光線を撃ち出す。
「ウアウウゥ」
丁度触手から不定形へ姿を変えようとしていた都市伝説は、中央を貫かれて床の上を転がり回り。
「これでも食らえ」
緋色のオーラを宿した日本刀を手に遙は跳躍する。その着地点は、化け物の上で。
「鮮魚コーナーでタイムセールを開始しまーす! 活きのいいシャドウですよぉぉぉ!」
帯人はマグロのように化け物が解体されるのを疑わない。
「あわせますわ」
漆黒の弾丸は撃ち出される直前であったし。
「タイムセールを脅かすものは許せません。財布を握るものの怒り喰らってみますか?」
燐は逃げることを許さぬと言うかのようにどす黒い殺気を展開させ。
「……お返し」
逃げ場を断たれた敵を見据え、聖も龍砕斧を担ぐようにして飛んでいたのだから。
「イアイウイィィィ」
刻まれ、穿たれ絶叫する化け物を眺め。
「怖いですよねぇ……食べ物の恨みは」
十三は魔法の矢を撃ち出す。
「アイイィィィィイイィ」
灼滅者と化け物のみの店内に断末魔が響いた。
「戦闘、終了しました」
フォルケは化け物に向けていたバスターライフルを下ろし。戦いは、灼滅者達の勝利で幕を閉じた。
●はしご
「よし、終わったな」
気がつくと遙達は元居たスーパーの一角で佇んでいた。
「そうデスネ。多分現世に影響はないと思いマスガ……」
念のために周囲を見回してみたシャルロッテの目に映る限り戦いの痕跡はない。
「じゃあ、後は戦利品を確認して帰るか」
「そうですわね。役目を果たした以上、この場に留まるのは下策ですわ」
マーテルーニェが同意しつつもそわそわと落ち着かなげなのは、都市伝説を撃破したことで自らに課した自制が切れたのだろう。物珍しげに片づけの始まっている店内の様子をチラチラと見つつ歩き出し。
「とりあえず大丈夫そうか?」
「私のは……これかな?」
纏めておかれた戦利品の場所までたどり着いた灼滅者一行は、閉店前に買った品を確かめる。
「夜食なにかつくろうかな~?」
「いろいろとお買い物もできマシタシ、今夜は美味しいものが食べれそうデス。また来ようカナっ」
上機嫌に袋を下げ、帰り支度を始めるフォルケやシャルロッテとは相反し。
「あ、……とけてる」
悲劇が襲ったのは、聖の袋。店内とはいえ流石にアイスに放置は拙かったらしい。
「ハシゴします?」
メモに何かを書いていた帯人が見かねて口を開いたのは、フォロー体質が成せる技か。
「……ハシゴ?」
「スーパーもチェーンによっては閉店時間が異なります」
場所によってはまだやっているスーパーもありますからと助け船を出せば。
「そ、そうですわね。こういう事情なら仕方ありませんわ」
世間知らずからか、一人まったく買い物出来なかったマーテルーニェが乗ってきて。
「そうと決まれば、善は急げと言いますの」
ひょっとしたらも買い物がしたかったのかもしれない。
「行きますわよ? 帰りを待つ友人に何も買っていかないのは不義理ですもの」
仲間の生暖かい視線に気づかずに、マーテルーニェは先陣を切って店外へ踏み出し。
「おや、まだお客さんが残っていたのかねぇ」
店内を掃除していた中年女性は、首を傾げると床に落ちていたメモ用紙をちりとりの中に掃き込んだ。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 12
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