トラウトサーモンとか何それ鮭にケンカ売ってんの!

    作者:大神鷹緒

     その事件は、北海道は石狩にある、とあるスーパーのタイムセール中に起きた。
    「只今よりタイムセールを行いまーす! 青果コーナーより、道内産玉葱一袋80円。鮮魚コーナーより、甘塩トラウトサーモン一切れ77円。日配品コーナーより……」
     店内放送により、時間限定のお買得商品が紹介されるたび、主婦達は我先にと、その売り場へ殺到した。
     そして今日の一番人気は、肉厚な、甘塩トラウトサーモンらしい。
    「三切れちょうだい!」
    「五切れお願いします!」
     今夜の夕食に、明日のお弁当にと、主婦達は次々に鮭の切り身を購入していった。
     だが、その時……!
    「ここは石狩! 石狩鍋に代表されるように、鮭の名所なの!」
     人だかり後方から、突如、若い女の声が響いた。
    「なのに何なの、このノルウェー産とかカナダ産とかロシア産のサーモンって!」
     女の手に握られているのは、カナダ産キングサーモンのスモーク、ノルウェー産アトランティックサーモンの刺身。
     しかもその女、よく見れば、いやよく見なくとも、下半身が銀色の魚……鮭だった。
    「奥様、ちょっと、あれ……」
    「え、な……何、ちょっと……」
     騒然とする鮮魚売り場。
     客も、店員も、怪しい女から距離を置こうと後退る。
    「それだけならまだしも……何このトラウトサーモンって!!!」
     ばぁーーーーん!!
     女は突然、鮭……いや、トラウトサーモン切り身の並べられたバットを持ち上げ、放り出した。
    「こいつらは、鮭ですらない!! 鱒よ!!!」
    「いいいや確かに厳密にはそうかもしれませんが……」
     責任感の強い鮮魚売り場主任が、なんとか女を宥めようと、勇気を振り絞って声をあげる。
     だが……。
    「輸入物のニジマスなんかに、北の大地を汚されてなるもんですかぁーーーーーッ!!」
     突如バラ撒かれる、オレンジ色の球体。
     それらは、付近にいた買い物客や店員を襲い、次々と蜂の巣にしていった。
    「私の名はサーモンクィーン! 鮭は石狩、北海道! この世界を石狩サーモンピンクで埋め尽くすのよぉぉぉぉーーーーッ!!」
     店内に満ちる阿鼻叫喚を覆い尽くすかのように、サーモンクィーンは、ニジマスの切り身を踏み付けながら、高笑いを響かせた。
     
     
    「トラウトサーモンって、あいつら鮭じゃなくてニジマスなんだってな……」
     行きつけのファミレスで、姫之崎・兵多(高校生エクスブレイン・dn0045)は灼滅者達を前にして、ボソッと呟いた。
    「まぁ、俺にはそんな細けぇ味の違いは分かんねぇからいいけどよ、やっぱご当地怪人からしてみりゃ、そこは大問題なんだろうよ」
    「ご当地怪人?」
    「ん、あぁ……まぁつまり事件だ。北海道石狩のスーパーに、「サーモンクィーン」を名乗る怪人が現れやがった」
     サーモンクィーン。
     その名の通り、石狩名物である鮭のご当地怪人である。
     見た目は、やたらグラマラスな銀色の魚体をした銀髪人魚。サーモンピンクの唇と爪がなかなかに艶っぽい美人なのだが、怪人である。
    「今日はスーパーの特売日。そして、夕方4時からはタイムセールだ。このままじゃ、チラシを見て鮭の切り身77円を買い物に来たオバチャン達が危ねぇ!」
     おそらく今から向かえば、タイムセール開始直後……つまり、サーモンクィーンが出現するちょっと前くらいには、スーパーに到着できるはずである。
     店内は買い物客でごった返しているかもしれないが、なんとかして、鮮魚コーナーでの惨事を阻止してほしいと、兵多は灼滅者達に言った。
    「とりあえず、これが店内見取り図だ。大体、ここらのスーパーと同じで、入ってすぐに野菜があって、その奥に魚、肉……真ん中は菓子とか調味料とか置いてんな」
     ちょうど角に当たる鮮魚コーナーは、魚を捌くサービスも行われている為か、比較的広いスペースが確保されている。すぐ傍には、調味料や乾物の棚があるようだ。
    「サーモンクィーンの必殺技は、大粒のイクラを機関銃のように放ってくるイクラバルカン、一撃必殺尾鰭ビンタ、それと、自己強化と体力回復の新巻フォーム、この3種だ。特にビンタの威力、侮るんじゃねぇぞ」
     また、サーモンクィーンは、その特殊な能力により、売り場にある国産鮭を、配下の怪人とすることができる。
    「その数、大体6尾っていったとこだな。ビッチビッチ跳ねて体当たりかましてくるだけかもしんねぇが、結構強烈だぞ」
     ちなみに鮭怪人、イクラや白子がはみ出していたり、身が欠けているものもいるようで、わりと個体判別はつきそうだ。
    「とにかく、お前らの力が必要だ。頼む!」
     兵多はテーブルに両手をつくと、灼滅者達にガバッと頭を下げた。
     そして暫くして顔を上げると、ふと思い出したように付け加えた。
    「なぁ、そういえばお前ら、いくらの本物と偽モンの見分け方って知ってるか? アレな、本物は熱い湯の中に入れてやると、白っぽくなんだよ」


    参加者
    九条・茨(ローズオブシルバリオ・d00435)
    高宮・紬(魔性の木の葉・d02743)
    紫堂・魅勒(メカニカル猫娘・d05013)
    松田・時松(トトロイマニ・d05205)
    小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)
    モーガン・イードナー(灰炎・d09370)
    猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)

    ■リプレイ

    ●鮭鱒戦争勃発!
     その日のスーパーは大特売日。
     特に午後4時からの夕市は、混雑のピークが予測されていた。
     灼滅者達がスーパーに辿り着いたのは、まさに、夕市を告げる店内放送が流れ、多くの主婦達がお目当てのコーナーへ向けて動き出した、その時のこと。
    「只今よりタイムセールを行いまーす! 青果コーナーより、道内産玉葱一袋80円。鮮魚……」
     その放送を聞きながら、高宮・紬(魔性の木の葉・d02743)は、素早く旅人の外套を身に纏う。その手の中には、何故かちゃっかり、特売トラウトサーモンの約三倍の値の、石狩産紅鮭切り身パックが握られている。
     時同じくして、九条・茨(ローズオブシルバリオ・d00435)が声を張り上げる。
    「ボヤだ、店の外に逃げろ!」
     突如耳に割り込んできた、大きな声。
    「えっ、火事?!」
    「きゃぁぁ!!」
    「落ち着いて、落ち着いてください! まずは店の外に避難してください!」
     俄には信じがたい叫びではあったが、モーガン・イードナー(灰炎・d09370)のパニックテレパスが加わって、買い物客も店員も、何が何だか分からぬままに、その大半が、メリメルカ・メルコナジャ(星帷・d00283)に誘導されるまま、店の外へと追いやられた。
     くわえて小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)が、すぐさま鮮魚売り場へ向かい、殺界形成で人々が近付かないようにする。
     これで準備は完璧だ。
     あとは、サーモンクィーンが現れる状況をつくるのみ。
    「タイムセールやるって聞いて買いに来たんだけど……お、まだ売り切れてないじゃないか」
     まるで周囲にアピールするかのように言いながら、葵は、鮮魚パックに手を伸ばした。
    「いや? 鮭じゃなくて、サーモン。トラウトサーモン」
     ト・ラ・ウ・ト!
     この、わざとらしい強調を、石狩鮭を愛するサーモンクィーンが、聞き逃す筈などなかった。
    「トラウトですって?!」
     ザンッ、パッシャーンと、いかにもな効果音とともに現れる、銀色魚体のグラマー美人。
    「鮭の本場、この石狩の地で、トラウトサーモンですってぇぇえぇ~~~っ?!」
     ぶゆんと、なんだか巨大すぎるイクラに見えなくもない胸が揺れる。
    「だって安いしさ……良いじゃないか別に」
     葵は上下する球体に軽く視線を向けながら、冷めた口調でぼそりと返した。
    「鱒だって何だって構わないだろ、美味ければ」
     ただ心にもないことを言っている為、若干胸がチクチク痛む。
    「美味いですってぇ! 鱒がっ! 美味い! ですってぇぇ!!?」
     サーモンクィーンは、怒り露わに葵に迫った。
     しかしそこに、更にサーモンクィーンを煽るように、猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)がトラウトサーモンブロックを手に現れた。
    「トラウトサーモンは良いですよねー。なにより養殖が盛んですから油の乗ったうめーのが安く手に入ります」
     398円のトラウトサーモンブロックは、これまた今日のオススメ品のひとつだった。
    「大体、鱒だ鮭だといいますが、まとめてサケ科じゃねーですか!」
    「なー、トラウトサーモンのムニエルとか美味いしさー」
    「本場石狩の鮭とニジマス如きを一緒にしないで!!」
    「その通り!」
    「「「なにっ!?」」」
     突然割って入った声に、皆が一斉に振り向けば、そこには、郷土愛を溢れさせた松田・時松(トトロイマニ・d05205)が立っていた。
    「石狩の鮭こそキングオブ鮭! 道民の血肉! 内蔵からアラまで美味しく頂ける正に神の魚だ! 銀鮭の輝きの前ではトラウトなど!」
    「やだなにこの子……かっこいい……」
     その迸る石狩鮭への想いは、サーモンクィーンの瞳を潤ませた。
    「その通り!」
     更に今度は、お腹を空かせたメリメルカが。
    「メリメルカは魚の中では鮭が一等好きだ!北欧では特にお世話になった! ムニエルやマリネなんか大好きだし、日本で刺身やスシの魅力も知ったのだ!」
     つまりここは北海道なのだから、是非北海道の美味しい鮭が食べたいと、メリメルカは熱く主張した。
    「ふ、ふふ……分かってるじゃない。そうなの、鮭好きなのね。だったらここ、石狩の鮭を食べてご覧なさい。アナタの言う北欧産なんて、目じゃないほどの美味しさよ! まして、こんなっ、ニジマス二だなんて!」
     ばぁーんと、トラウトサーモンの乗せられたバットが放り投げられ、サーモンピンクの切り身が宙に舞う。
    「あー勿体ない……」
     舞った切り身は、旅人の外套を纏った紬の足元に落ちる。
     紬はそれを拾い上げると、先程確保していた石狩産紅鮭切り身パックとともに、サーモンクィーンに突きつけた。
    「な、なによあんた……」
    「何でスーパーで海外産の鮭やニジマスが並んでしまっているか、あなたはその事情を分かっていませんね~?」
     そして、石狩鮭のパックを突きつけ、サーモンクィーンに真正面から対峙した。貼られている、値札シールを示しながら。
    「すべては値段が物語ってますよ~。石狩の鮭は、近年めっきり漁獲量が減ってしまっているんです~」
    「フンッ! 美味しいものは希少なの! だからこそ価値があるの!」
     だが対するサーモンクィーンも、一歩も退かぬ姿勢だ。
    「でもトラウトの方が圧倒的に安いじゃない」
    「安かろう悪かろう、よ!!」
     トラウト陣営に、紫堂・魅勒(メカニカル猫娘・d05013)も加わった。
     鮭と鱒との、熱い戦い。
     その時、店員と買い物客達を避難させ終えたモーガンが現れ、サーモンクィーンに声をかけた。
    「ところで鮭のいい調理方法があったら教えて欲しいのだが」
    「あらっ、だったらやっぱり石狩産紅鮭の半身を丸々使っ」
    「隙アリ!!」
     鮭の言葉に反応し、嬉々として美味しい調理法を語ろうとしたサーモンクィーンだが、そこにいきなり魅勒がレーヴァテインをぶちかました。
    「きゃぁぁ!??」
     生憎炎は、サーモンクィーンの背鰭をほんのちょっと焦がすことしかできなかったが、それでも当然、サーモンクィーンは怒り心頭!
    「ぐぬぬぬぬぬ出てらっしゃいラブリーサーモンズ!」
    『『『シャッケーーー!!』』』
     叫びに応じ、ざざんと姿を見せたのは、推定元新巻鮭、切り身、その他石狩の鮭が合わさった、6尾の鮭怪人だった。中には、殆どアラで構成された怪人までいる。
    「……鍋に入れたい」
    「白子もいいけどやっぱりイクラだよね」
    「そんなことより頃合ですね~。あなたのような石狩鮭への愛を履き違えるような怪人は~、灼滅して差し上げます~!」
    「そうだな、さっさと調理……じゃなかった倒してしまおうか」
     ロッドを構える紬に続き、葵が妖の槍を抜く。
     それらを合図とするかのように、灼滅者達はサーモンクィーンと鮭怪人を取り囲み、石狩の平和を守るべく戦いを開始した!

    ●鮮魚売り場の攻防
    「石狩鮭の力、今こそ思い知りなさい!」
     サーモンクィーンは、いきなりイクラバルカンを放ってきた。
    「ミーシャ!」
     イクラはモーガンのライドキャリバー、ミーシャにも当たった。モーガンは、ミーシャに付いたオレンジのベタベタを、片手でざっと拭ってやると、チェーンソー剣ReBeCcAを横に薙ぎ、すぐ目前にいたルイベ状の鮭怪人をザクザクに斬った。
    『シャケケケーーーェ!!』
     鮮やかな鮭肉とともに、僅かな氷片が宙に舞う。
    「ああルイベ!」
     じつに美しく、美味しそうではあるのだが、この切り方では台無しだ。
     仁恵は秘かに嘆きながら、制約の弾丸でサーモンクィーンの動きを抑えようとする。だが流石に、そう易々とは決まってくれない。
    「石狩ビィーーーム!」
     ぶつかり合う郷土愛。
     サーモンクィーンの額に、一瞬青筋が浮かんだ気がした。だがまだまだ甘い。
    「おいきなさいラブリーサーモンズ!」
    『シャッケ!』
    『シャケケケ!』
     サーモンクィーンの命に応じ、ビッターンと跳ねる鮭怪人。一尾は葵に、もう一尾はメリメルカに、思いっきりぶつかった。
    「お、おい! 卵がはみ出しているよ!?」
     体当たりの衝撃か、メリメルカにぶつかった鮭怪人の腹からは、筋子がぶにょんと零れていた。
    「くっ……! グロいはずなのに食欲を刺激される……!」
     無理もない、なにせ甘塩仕立ての本場物だ。
     しかしメリメルカは、沸き上がる食欲をグッと堪え、まずは定石通り、ルイベ鮭怪人をトラウナックルで撃破した。
     これに続けと、茨が白子過多の鮭怪人を麻痺させる。
    「そのプライド、確かに立派だけどさ。もうちょっと業者や消費者の声も聞いて欲しいもんだね」
     口内から響くカリカリ音は、どうやら、しきりに囓っていた金平糖らしい。
    「石狩の鮭ならしっかり縛らないとですね~」
     相変わらずな口調だが、紬の縛糸は、がっちりと鮭怪人を縛り上げた。
    「新巻鮭やー!」
     これには魅勒、レーヴァテインの炎でサーモンクィーンを炙りながらも、ニヤリとせずにはいられなかった。
    「あっついわねぇ! なにしてくれんの!」
     表皮を炙られたクィーンは、怒りの尾鰭ビンタを魅勒にかました。
    「わ、っぶ!」
     ちょっと食欲誘う香りのビンタではあるが、威力は絶大。
    「ああ! でもまだ焼けが甘いです!」
     仁恵は、もっとぱりぱりに、少し焦げるくらいに焼けた方がいいと主張しながら、エンジェリックボイスを用いて、ビンタで赤く腫れた魅勒を癒した。
    『シャシャシャーーー!』
     比較的完全体に近い、けれど値札シールのついた鮭怪人が、葵に迫る。だがそれより一歩早く、妖冷弾が怪人を包む。
    「冷凍保存しといた方がいいだろ?」
     鮭怪人は凍りつき、倒れ、値札もどこかに剥がれてしまった。
     モーガンのズタズタスラッシュに、ミーシャの突撃が加わって、三体目、白子の鮭怪人を、鍋に入れると良さそうな大きさに撃破。
     そして残る三体の鮭怪人達も、良く焼いたり凍らせたり、匂いの誘惑にふらりとしたりしながらも、そこそこ危なげなく撃破。茨と仁恵の的確な援護のおかげで、目立った深手を負ったものはいなかった。
     
     これで残るはいよいよ、どんな鮭より脂ののった、サーモンクィーンただひとりである。
    「くぅぅぅぅ……ッ、よくも私のかわいいラブリーサーモンズを!」
    「かわいいラブリー被ってますよ~」
    「黙らっしゃい!!」
     クイーン怒りのイクラバルカンがまた火……イクラを噴く。
    「きゃぁ!」
    「くっ……今のはなかなか……!」
     避けきれず、もろにくらってしまった茨だが、すぐさま予言者の瞳の力で体勢を整え直す。
    「ッはー! にえセンパイ有難う!」
    「礼には及ばないです!」
     仁恵からシールドの癒しを受けた魅勒は、グッとサムズアップで礼をする。
    「イクラは撃つものじゃありません! 口の中でぷちぷちするものです」
     そして今度はこちらの番というように、クィーンにガトリングをぶちかました。
    「『撃つ』なら、コレだよ!」
    「きゃぁぁあぁ?!」
     ぐらりと揺らぐ銀の魚体。
    「見せてやる……! 真のおいしい物大好き人(だいすきびと)の意地を!」
     メリメルカの放った劫火が、クィーンのハラスを程良く焦がす。
    「こ、これはっ……!」
     なんという、腹の虫へのダイレクトアタック。
    「クソッ……何て卑劣な手を……!」
     ギッと歯を食いしばりつつ、時松は口端から流れた涎を秘かに拭った。
    「ああなんだよもう、お腹空くじゃないか」
     葵も、ちょっと八つ当たり気味に零しつつ、螺穿でクィーンの腹を貫く。
    「……しかし、目の前で巨大な鮭が焦がされるのを見ることになろうとは、人生何があるか分からんな」
     その香ばしい匂いに、やはり鮭は焼き鮭にかぎるとの認識を深めたモーガンは、レーヴァテインで、更なる焼き上げを狙った。
    「くぬぬぬぬ……この程度……!」
    「あっまた新巻いた!」
    「そうはさせるか石狩ダイナミーーック!」
     けれどそれは、すぐさま時松がダイナミックに払拭した。
    「いいにおい! ニエ、お腹、限界! です!」
     ザンッザザン!
     仁恵の飛ばした影の刃が、クィーンを襲う。
    「トラウトをトラウマにして差し上げます~」
     紬のトラウナックルは、良い角度でクィーンの脇腹を抉った。
    「他の国でも魚は獲れるんだ。なら、それも買って食べなきゃ勿体無いってもんだろっ?」
    「そんなのは詭弁よ!」
     クィーンは脇腹を押さえたまま茨を睨み付けた。
    「あーでも本当にお腹空いてきた」
     見事なスイングを決めながら、魅勒が呟く。
     かなり優位に戦いを進めているとはいえ、疲労はもうかなり蓄積している。これ以上長引けば、こちらもただでは済まないだろう。
    「よし、ならばさっさと決めにかかるか」
     モーガンは、ミーシャの掃射の合間を潜るように、クィーンの懐に飛び込むと、炎の宿ったチェーンソー剣で、その背をざっくり切り裂いた。
    「んぎぎ……サーモンピンクな私の夢ェーーー!!」
     それでもなお、クィーンはイクラを放ってきたが、それはもう、最後の悪足掻きに過ぎなかった。
    「クッ……危ない所だった」
    「しっかり当たったじゃねーですか!」
     仁恵は時松に回復を施しながら、軽いツッコミを入れた。
    「違う、そうじゃない!」
     時松が示したのは己の足下、落ちていたトラウトサーモンの切り身。これを踏むような真似は、彼女の勿体ない精神が許しはしなかったのだ。
    「それより~、さっさと決めましょう~」
    「そうだな」
    「あ、あんたなんかね! こんがり焼き上げてなんかこうシャレオツ☆なお皿に美しく盛りつけてやるー!」
     紬の言葉に茨が頷く。そして、魅勒が爆炎を秘めた弾丸を連射するのに合わせ、一気に畳みかけるように、制約の弾丸を放つ。
    「アンタの情熱、嫌いじゃないよ」
     そこにメリメルカと葵のマジックミサイルまで合わされば、流石のクィーンも、もう耐えられなどしなかった。
    「しゃ……鮭とニジマスは違うのよォォーーーーーーーーーーーー!!!」
    「石狩鮭買って帰るから、安心して天に昇りな……アーメン!」
     スプラァァァァァーーーッシュ!!
     サーモンクィーンは、まるで人魚姫の如く、泡となって消え去った。

    ●本当の空腹(たたかい)はここからだ!
     無事、サーモンクィーンを倒した灼滅者達。
     だが戦いの余波……主に美味しい匂いの所為で、空腹は最早ピークに達していた。
    「おいしい鮭が食いたいです! お店で! 食べ! たい! です!!」
     仁恵が力強く主張する。
    「ならばここは松田に任せるしかないだろう」
     そう言って、葵が時松に視線を向ける。
    「えっ?! まっつんが穴場紹介してくれんの?」
    「時松が案内してくれるのか、それは楽しみだ」
     皆の期待が、地元民時松に向けられる。
    「ふっふふ……任せなさい!」
     そんな仲間達に、明け方までガイドマップを虱潰しに探しまくった時松は、自信満々に胸を張った。
    「あっ、ちゃんちゃん焼きたべたいです~」
    「ふむ、是非付き合おう」
     そして8人は、まるで鮭肉のように鮮やかな夕陽の中、スーパーをあとにした。
     美味しい本場石狩の鮭を、空になった胃袋に収める為に!

    作者:大神鷹緒 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 16
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