親友へ

    作者:飛翔優

    ●夏休みも終わりに近づいたとある日に
     安アパートの一室で、穏やかな寝息を立てていた大学生、アキト。その枕元に、宇宙服のような不思議な意匠の服を纏う少年が入り込んできた。
     少年は音もなくしゃがみ込み、静かにささやきかけていく。
    「君の絆を僕にちょうだいね」
     それ以上は何もせず、枕元から立ち去った。
     アキトに変化はない。今は、まだ……。

     午前十一時。十時に目覚め、そろそろ大学に向けて起きる時間を戻さねば……と考えながら着替えたアキトは、街へと赴くために部屋を飛び出した。
    「よぉ、おはよう」
     鍵を閉めアパートの玄関口へと降りた時、背中から声をかけられ振り向いていく。
    「ああ、おは……」
     瞳の中には、隣の部屋に住んでいる親友、ミナキ。
     幼いころに両親を亡くし祖父母に引き取られてから十数年来の付き合い……数年前に祖父母が死んだ時も、側で支えてくれた家族に等しい存在。
     なのにどうしてだろう? そういった知識はあるのに、実感として湧いてこない。
     目の前で手を振る存在が、まるで他人のように遠い存在に思えてきた。
    「おいおいどうしたんだ、呆けたまま固まって」
    「あ、いや……」
     悟られぬよう、アキトは顔を反らし意識して口の端を持ち上げた。
    「ちょっと嫌な夢見てよ、ちょい寝不足で……」
    「そっか。ま、それなら仕方ねぇ。今日は休みだし、ゆっくり息抜きしてきな!」
    「わかってるよ」
     表面上は冷静に、アキトはミナキといつも通りの……知識の中にある光景を演じていく……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     楓・十六夜(蒼燐氷霜・d11790)の予想が元となり、行動を察知する事のできたダークネスが居る……そう、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は灼滅者たちに前置きした。
    「それは強力なシャドウ、絆のべへリタス」
     絆のべへリタスと関係が深いだろう謎の人物が、一般人から絆を奪い、絆のべへリタスの卵を産み付けているらしい。このままでは、次々と絆のべへリタスが孵化してしまうことだろう。
    「強力なシャドウである絆のべへリタスが次々と孵化してしまうというのは、悪夢以外のなにものでもありません。しかし、孵化した直後を狙えば、条件によって弱体化させることも可能です。ですのでどうか、絆のべへリタスがソウルボードに逃げこむ前に灼滅してきて下さい」
     概要説明を終えた後、葉月は地図を広げていく。
    「今回、皆様に向かってもらうのはこの街。絆のべへリタスに卵を産み付けられた方の名前は、アキトさん」
     アキト、二十歳の大学生。幼いころに両親を亡くし、数年前に引き取って育ててくれた祖父母も亡くした天涯孤独な少年。現在は遺産を学費に当てながら、生活費はバイトで稼ぎ大学で勉強する……そんな生活を行っている。性格的にも明るく前向きな好青年で、男女問わずに好印象を抱かれている。一方、バイトが忙しいためか彼女はいない。
     失った絆の相手は、ミナキ。アキトの祖父母の隣の家に住んでいて、引き取られた頃からずっと同じ道を歩き多くの時間を共有してきた、兄弟にも等しい親友。性格的には明るくて豪快な兄貴分で、彼女もいる。そして、度々食が質素になるアキトを食事に連れだしたり、代わりにわからない箇所を教えてもらったり……そんなことが計算なしにできる相手。
     大学内でも、概ね二人一組の名物コンビとして捉えられているようだ。
    「そんな絆を、絆のべへリタスは奪おうとしているわけですね。ですので、それを阻止するためにも……まずは接触方法について説明しましょう」
     アキトは当日、他の友人と遊ぶために街へと赴いた。が、絆を喪失した事が心に残り楽しめず、早めに他の友人たちと別れ……午後四時頃には、川べりで一人うなだれている。
    「そこに接触する形ですね。といっても、必ずしも説得を行う必要はありません。行動の詳細は皆さんにお任せしますが……絆を結んで下さい」
     というのもアキトが……卵を産み付けられた者が絆を結んだ相手に対しては、絆のべへリタスに対して与えるダメージが増加し、受けるダメージは減少する……そんな弱点を持つ。
     また、絆のべへリタスが孵化する時間は、灼滅者たちが接触を図る時間から計算して二十五時間後。その間に絆を結び、最初に接触した日の翌日午後五時に絆のべへリタスと相対する……そんな流れとなる。
     絆のべへリタスの姿は、いびつな仮面を被っているタクシードライバー。力量は、絆を結ばずに正面から戦ったら間違いなく負けるほどに高い。
     意識は攻撃面に割いており、技は全て車型の力を召喚する事で行われ、威圧しながら押しつぶす、激突し加護ごと砕く、爆発し防具をも砕く……と言った攻撃を仕掛けてくる。また、そのどれもが威力が高く、絆を結んでいない状態ではまともに受けることすら不可能だろう。
    「また、戦闘に十分以上の時間をかけた場合、絆のべへリタスはソウルボードを通じて逃走してしまいます。灼滅は不可能になってしまいますので、注意して下さい」
     以上で説明は終了と、葉月は地図などを手渡していく。
    「絆が強ければ、それだけ有利に戦うことはできます。また、絆の種類に制限はないので、色々なアプローチができるかと思います。そして、絆のべへリタスを倒せば失われた絆は取り戻されます。そのため、その後のフォローも必要でしょう。もっとも、絆の結び方によっては難しいかもしれませんが……」
     ともあれと、締めくくりに移行した。
    「どうか、全力での救済を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    愛良・向日葵(元気200%・d01061)
    長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)
    射干玉・夜空(高校生シャドウハンター・d06211)
    楓・十六夜(蒼燐氷霜・d11790)
    夕凪・真琴(優しい光風・d11900)
    安田・花子(クィーンフラワーチャイルド廿・d13194)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    十文字・天牙(普通のイケメンプロデューサー・d15383)

    ■リプレイ

    ●知識や記憶だけはあるのだけれど
     日が傾き、空が茜色に染まり始めていく秋の夕。午後四時を迎えた河川敷の草むらで、空を仰いでいる男が一人。
     大学生ほどと思われる程よく成長した肉体に、同級生よりも苦労を重ねてきたのだろうと思われる彫りの深い顔立ち。頭の上には、人には見えない小さな卵。
     絆のべへリタスの卵を産み付けられた青年、アキトであると断定し、愛良・向日葵(元気200%・d01061)は射干玉・夜空(高校生シャドウハンター・d06211)、十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)と共に歩み寄った。
     空をぼんやりと眺めている顔を覗き込み、小首を傾げ口を開く。
    「どうしたのー?」
    「ん……」
     訝しげな表情を浮かべながら起き上がっていくアキトに対し、続いて夜空が声をかけた。
    「顔色がすぐれないけど大丈夫? 少し心配になってしまって……」
     合点がいったという調子で、アキトは頷き表情を和らげた。
    「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。心配はないよ」
    「そう……あ、もし良かったら話してみない? ほら、全然知らない相手だからこそ話せることってあるじゃない?」
     軽い拒絶を押しのけるため、夜空は更に言い募る。
     しばし考える素振りを見せた後、アキトは深いため息を吐き出し、切り出した。
    「そうだね……それじゃあ、聞いてくれるかい? つまらない話だけど……」
     アキトは語る。最初に両親を亡くしたこと、祖父母に引き取られた事。その頃からの付き合いになる親友がいること。数年前に祖父母を亡くした時も支えてくれた、兄弟のような存在だった事。
     はずだったことを。
    「でも、なんでだろう……わからなくなっちゃったんだよね。どうしてか、全く心当りがないんだけど……」
     言葉の終わりに、小さなため息。
     受け止めた上で、深月紅はぽつり、ぽつりとつぶやいた。
    「二人とも、身寄り、いないんだ、ね」
    「二人とも?」
     疑問には、向日葵が返答した。
    「うん。深月紅ちゃんも、あたしも身寄りがないんだ。けれど、友だちがいてくれたから乗り切れたよー」
    「アキトにも、そういった人、いたん、だよね?」
     重ねて問いかける形となった深月紅の言葉に、アキトは迷いながら……けれども真っ直ぐに瞳を見据え頷いた。
     けれど、とも言葉を続け、実感がわかないんだと俯いていく。
     全ては、絆のべへリタスの所業。なくしたくない絆のはずなのに、奪われ忘れてしまった大切な感情。
     厄介なシャドウだと、深月紅は瞳を細めていく。確実に潰して絆を返してもらうと、気付かれぬようそっと自分の手を握りしめた。
     向日葵もまた明るく元気な笑顔を浮かべたまま、アキトの親友に関することを尋ねていく。
     知識の中にだけにある存在だとしても……と、言葉を重ねあっていく。
     どうすればいいんだろう? との言葉へと至った時、夜空が優しい声音で語りかけた。
    「変に悩まれて彼を気遣ってくれる友人たちと関係が悪くなると後味悪いし……そうね。きっと、変な夢を見て調子が悪いだけだよ。数日もすれば元に戻るんじゃないかな?」
     予想ではなく、確信を。
     あるいは、元に戻すとの決意の言葉を。
     知らぬまま、アキトは力なく頷いた。少し休んでみると言いながら、体を伸ばし立ち上がっていく。
    「ありがとう、少しだけ気が楽になったよ」
     夜空もまた立ち上がりながら、スマホを取り出し指し示した。
    「いえいえ、どういたしましてーっと、そうだ。良かったらメアド教えてくれない?」
    「え?」
    「何か力になれる事があるかも知れないしさっ」
    「ああ……良ければ、こちらこそ」
     首尾よくメアドを交換し、彼女たちは一時的な別れを告げていく。
     次の仕事は、明日の夕方。それまでに行われる他の仲間達の作戦も、上手く成功させる事ができるのだろうか?

     川沿いを歩き住宅地へと帰っていくアキトを、スーツを着込んだ十文字・天牙(普通のイケメンプロデューサー・d15383)が呼び止めた。
     振り向くアキトを同様にスーツを着た長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)、楓・十六夜(蒼燐氷霜・d11790)と共に取り囲み、一礼していく。
     タレント事務所のスカウトマンであると告げた上で、まずは天牙が切り出した。
    「街中で君と友人を見かけた?」
    「友人? 誰のことです?」
     天牙は特徴を語り、それがアキトの親友、ミナキであると伝えていく。微細な変化を感じ取りながら、さらなる言葉を紡いでいく。
    「彼に是非オーディションを受けてもらいたいので、色々教えて欲しい」
    「ん……そういう事なら教えないでもありませんが」
     ――ミナキへの確認を取らなかったのは、絆を喪失しているからだろうか?
     語っていくアキトの口ぶりは酷く事務的で、おおよそ親友の成功を願っているという風ではない。ただ、知っている知識を披露する、知っている相手の成功くらいは祈る……と言った装いである。
     天牙が逐一アキトを下げ、ミナキを持ち上げる発言をしても、アキトは構わず説明を続けた。時には天牙以上にミナキを持ち上げた。
     想定していた言葉がないままに、アキトの説明は終了した。故に天牙は予定を変え、自ら尋ねていく。
    「自分は? などとは思わないのかい?」
    「? 知りたいのはミナキ……の事ですよね? 彼が凄い奴ってことは知ってますから、別に不思議ではないですよ」
     ただ実感できないだけ。そう語っているかのような横顔に、麗羽は静かな思考を巡らせる。
     どうしても近くにいる相手は、真っ先に比べられてしまう対象となる。自分ではそんなことは考えていなくても……。けれど、一緒にいるからには何らかの理由がある。計算なしで色々と助けあっているという関係が、あるいはその理由の深さを表していたのかもしれない。
     そして、アキトも記憶の上ではそれを理解している。ただ、絆を喪失して実感できないだけ。それでなおミナキを褒めるのは、記憶を繋ぎ合わせるだけでも理解できる事があるからか。
     おそらく、想定していたやりとりは……アキトが怒りを露わにすることはないだろう。
     十六夜もまた、同様の判断を下していた。ミナキに関する説明の中から、アキトがミナキに頼ってきたように、ミナキもまたアキトに頼ってきたのだろう事が伺えた。
     だから、告げられる言葉はただ一つ。
    「しかし、どうしてだろうな。君はそんな凄いと思う彼に対して、親友だなんて感情を持っていないのだろうか?」
     アキトは嘆息し空を仰ぐ。
    「ほんと、どうしてなんでしょうね。どうして、俺は……」
     思考の迷路に入り始めたアキトを前に、これ以上投げかける事ができる言葉はない。三人はアキトに形ばかりの礼を述べた後、別れを告げて立ち去った……。

     三人を見送ったアキトは、肩をすくめて再び帰路を辿り始めた。
     アキトのアパートへと繋がる道に到達した時、予定を整えなおした安田・花子(クィーンフラワーチャイルド廿・d13194)が夕凪・真琴(優しい光風・d11900)と共に接触を図った。
    「こんばんは、何かお悩みのようですわね」
    「ん……うぉ」
     振り向いたアキトは、花子に視線を移し固まった。
     微笑む花子の姿はダイナマイト。妖しい笑みを浮かべた上で、誘いの言葉を投げかける。
    「もしよろしければ、話して頂けないかしら? 何か、お力になれるかもしれませんわ」
    「は、はい……」
     気圧されたか、惑わされたか、アキトは先に向日葵たちへと伝えたのと同じ事を説明した。 
     全てを受け止めた上で、真琴がダイナマイトな花子に負けないよう己の存在を主張しながら言葉を投げかけていく。
    「えと、すれ違っちゃう事もあるかもしれませんけど、そんな時こそお話してみるのが良いんじゃないかなって」
    「……話、か」
    「はい、自分では頑張れないことも、お友達と一緒ならって。この前テストだったんですけど、教えてもらって点数よかったのです」
     自分の経験も織り交ぜて、一緒に悩む事の大切さを伝えていく。
     絆はそれぞれが繋いでいく大切なものだから。きちんと思い出して欲しいから。
     花子も、救いたいという思いは同じ。わずかに俯いた顔を覗き込みながら、優しく語りかけていく。
    「私も両親が離婚して大変な時もありましたが、それを支えてくれたのが……年上の親友でしたわね。自分を気に掛けてくれる友……それは大きく、そして大切な財産ですわ」
     返事は待たずに身を起こし背を向けた。
     アキトが顔を上げていくのを、真琴がぺこりと頭を下げ別れを告げていくのを感じながら、彼女はクールに去っていく。
     印象に残すことはできたはず。
     楔を打ち込むこともできたはず。
     ならば、後は……!

    ●結んだ絆、培う力
     翌日、午後五時前。
     アキトとメールを交わし合っていた夜空は、夜はミナキが不在で話し合えなかったこと。今日は夜勤のバイトのため夕方まで睡眠を取っていたこと。夕食のために外出することを知り、午後五時頃には最初に出会った河川敷の辺りを通るだろうと計算。
     計算通り茜色に染まる道を歩いてきたアキトを指し示した。
     仲間たちとともに観察を続けること、一分。
    「あ、べへリタスの卵が……!」
     ひび割れていく絆のべへリタスの卵を発見し、皆一斉に飛び出していく。
     倒れたアキトの正面に……孵化していく絆のべへリタスの正面にいち早く到達した花子が、武装しながら言い放つ!
    「このクィーン☆フラワーチャイルド2世の名に賭けて! さあ、行きなさい! 我が従者セバスちゃん!」
     流れるように馬のマスクを被るビハインド、セバスちゃんを前線へと送った時、絆のべへリタスが完全な形で顕現した。
     いびつな仮面で顔を隠すタクシードライバー風の絆のべへリタスを前にして、深月紅が螺旋状の回転を加えた槍を突き出していく。
    「絆を、返して、もらう、よ」
     身をかがめ槍を右肩にかすめさせ、セバスちゃんの得物を回避しながらタクシードライバーは手を叩いた。
     影が差す。
     車の形をした、大きな影が。
     十六夜に向かっていると判断し、麗羽は飛び上がる。
     上空に発していた車型の力に体をぶつけ、十六夜の代わりに受け止め――。
    「っ!」
     絆がないわけではない。
     ただ弱いのだと、体中を突き抜けていく衝撃が、痛みが教えてくれた。
     それでも耐えなければならないから、呼吸を整え全身へと巡らせていく。
     代わりに十六夜は踏み込んだ。
     片氷翼を煌めかせながら真っ直ぐに、螺旋状の回転を加えた氷槍を突き出した。
    「……」
     服を貫くのに留まったと感じ、十六夜もまた麗羽と同じ結論へと達していく。
     ならば力を重ね貫くと思考を切り替え、氷槍を引き戻し距離を取った。
     一方、真琴は麗羽に符を投げ渡し、祈るように手を組んだ。
    「タクシーのドライバーさんが人をひく様な事は良くないと思います」
     言葉は届かない。
     タクシードライバーは口元だけをニヤつかせ、新たな車型の力を作り出し……。

     治療の術を増やしていた事と、妨害の手段も持ち合わせていた事が功をなしたのだろう。一撃受けたら危険な者がいるものの、攻撃自体はおおむね順調に進んでいた。
     反撃とばかりに生み出された車型の力は向日葵へと向けられた。が、麗羽が間に割り込み正面から受け止めていく。
     後方へとふっとばされ血を吐きながらも立ち続けていく様を見て、向日葵は優しい光を放った。
    「ありがとう。あたしも回復いっくよー♪」
    「……感謝する」
     短く礼を述べた後、麗羽は拳に影を宿した。
     一歩前へと踏み込んで、腰の入ったフックをねじり込んでいく。
     影を送り込み偽りの傷跡を心へと刻んだ時、天牙が高く、高く飛び上がった。
    「せめて、もう少しだけ動きを止めることができれば……」
     空中で一回転。タクシードライバーの下へ近づいた上で、上空からかかと落としを放っていく。
     脳天を割り膝をつかせた瞬間、十六夜は青い華の装飾が施されている黒鞘を掲げ魔力の矢をばらまいた。
     皮膚を貫く事ができたのは、力を重ねることができたから。重ねるまで、麗羽らが護ってくれたから。 
     故に生み出された力はタクシードライバーを地面に縫い付け、僅かな間だけ動くことを封じていく。
     クィーン☆フラワーチャイルド2世の弾丸が、セバスちゃんの霊障が打ち込まれ、タクシードライバーは仰向けに倒れていく。
     なおも抗わんというのか、タクシードライバーは車型の力を召喚。走らせる事もなく爆発させた。
     激突、押しつぶしには劣るとはいえ、それでも油断できない衝撃が前衛陣を駆け抜ける。だが……!
    「どんなに苦戦しようと、最後は逆転勝利する。なんたって、ボクは、正義の味方だからねッ!」
     夜空は強く意気込んで、ライフルの銃口を土煙の中心へと差し向けた。起き上がろうとしていたタクシードライバーの姿が見えた瞬間、指先に全神経を集中させ……。
    「エネルギー、フルチャージ。シュゥゥゥトォッ!!」
     トリガーを引き、タクシードライバーの土手っ腹を貫いた。
     タクシードライバーは空に手を伸ばした後、何も掴むことなく倒れ伏す。
     光の粒子へと代わり、アキトの下へと向かっていく。灼滅者たちは小さな息を吐いた後、治療と介抱の為に動き出した。

    ●絆は雫へと変わり
     治療を終え、一部のものと別れて暫しの後……午後五時三十分を回った頃合いに、アキトは目覚めた。
     何が起きたかわからない。
     ただ、介抱されていた事はわかった、ありがとう……と頭を下げた時、瞳の端から一滴に涙が伝っていく。
    「……あれ、どうしてだろう。なんで泣いてるんだろうな、俺……」
    「だが、随分とスッキリしている様子だな」
     戸惑うアキトに、天牙が力強く笑いかけた。
     ああ、と前向きな回答を得た上で、向日葵が元気な言葉を紡いでいく。
    「ミナキちゃんの事、ちゃんと思い出せたー? その絆、大事にしてねー♪」
    「あ、ああ……そっか、それで……うん、思い出した、思い出したよ。俺、なんで……」
    「……急いで会いに行った方がよろしくてよ。貴方の良きご友人の元へ」
     新たな疑問が生じたアキトに、花子は力強く微笑みかけていく。
     立ち上がるよう促し、アパートの方角を指し示した。
     感謝の言葉を述べながら去っていくアキトの背中に深月紅も伝えていく。
    「忘れないでね、貴方を、支えてくれる、ミナキのこと」
    「ああ、もちろんだ!」
     力強く返答し、手を振ってくれる背中を眺め、真琴は一人瞳を閉ざした。
     二人の絆が続くように。願わくば、永久に事のないように……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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