「ぐふふ……」
眼鏡の青年が、一冊の本を小脇に抱えながら街を歩いていた。それは小さい女の子がたくさん出てくる、肌色成分たっぷりの漫画だった。
「すずなタンペロペロ」
「ちょっと待ちなさい!」
突然声がしたかと思って振り返ると、ヒラヒラの黒い衣装を纏った、小学校中学年くらいの女の子が立っていた。その手には星のマークのついた杖を握っている。
「うおお幼女!? 君は?」
「アリカ。魔法少女よ」
「うふぉー、魔法少女ペロペロ」
「そこのロリコン! 犯罪を犯す前に今すぐ死になさい!」
「なんですと! 小生は――」
「問答無用!」
ビガー。
少女が杖から光線を放つと、漆黒の光が青年の視界を埋め尽くした。
「黒い魔法少女が悪人を抹殺する、という都市伝説が実体化しようとしているわ。みんなにはこれを止めてきてほしいの」
灼滅者たちの前で、ヒラヒラの衣装を着た野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)が説明を始める。ハート型の杖を持っているあたり、魔法を使う女の子――いわゆる魔法少女のコスプレだろうか。
「魔法少女の都市伝説はアリカと名乗り、変態とかネコババ犯とか、悪人と言えない人や大したことをしていない人の命も取ろうとするわ。放っておくと多くの人が彼女によって殺されてしまう。その前にを倒して」
迷宵の未来予測のように、邪な心を露わにするとアリカが襲ってくるらしい。人気のないところでそれっぽい言動をして、都市伝説を出現させたいところだ。
「都市伝説の魔法少女は杖から光線を放ったり、杖を剣代わりにして攻撃をしてくるわ。回復能力もあるみたい。他にも、使い魔として黒猫を呼び出すみたいだから気を付けて」
アリカは闇の力を操るという設定らしく、その攻撃はすべからく黒い。また黒猫の使い魔は4体おり、爪で引っ掻いて攻撃してくる。
「アリカは魔法を使えることに誇りを持っているみたいで、魔法使いや魔法少女っぽい格好をしていたり、魔法っぽい技を使うと対抗してその人を攻撃するわ。戦いに利用出来るかもしれないわね」
逆に狙われたくなければ、それらを控えることになる。同じサイキックでも、工夫次第では魔法っぽく見せたり魔法っぽくなく見せたりできるだろう。
「みんなに魔法をかけるね。ヴィクトリーパワー、えい!」
迷宵が灼滅者たちに向かって杖を振った。当然何も起きない。
「普通の魔法少女のためにも、危険な魔法少女を倒してきてね」
こうやってコスプレする人がいるから都市伝説も発生するのかなぁとか思いつつ、灼滅者たちは教室を旅立った。
参加者 | |
---|---|
風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974) |
土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097) |
神薙・泳(中学生ストリートファイター・d04203) |
銀・紫桜里(桜華剣征・d07253) |
黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643) |
不破・桃花(見習い魔法少女・d17233) |
メリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856) |
八城・佐奈(白銀の姫君・d22791) |
●闇より出でる少女
人気のない場所を求めて、灼滅者たちは夜の公園へ。神薙・泳(中学生ストリートファイター・d04203)が殺界形成を、不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)はサウンドシャッターを発動し、一般人が近づかないようESPで戦いの準備を整えた。
「魔法少女ネタの成人指定漫画でも持っていればいいでしょうか?」
黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)は、見た目が幼い女の子が「自主規制」で「自主規制」され「自主規制」してしまう漫画を持参。これで魔法少女アリカを呼び出すつもりだ。少女の姿をしたビハインド・アリカがジーッといちごを見つめる(顔は見えないけど)。
「いえ、作戦のためですから!?」
アリカの視線にうろたえながら、弁解するいちご。世の中何をするにも代償が必要なのである。
「男を騙してお金いっぱい絞り取って……ふふふ」
一方、八城・佐奈(白銀の姫君・d22791)は詐欺を画策中。奪った金でどれだけ高級パフェを食べられるか計算している。
「待ちなさい、そこの変態と女ペテン師!」
その時、夜の公園に幼い女の子の声が響いた。影が一ヵ所に集まると、やがて人の形になり、ヒラヒラの黒い衣装を纏った女の子が姿を現した。
「そんな不埒な連中は、闇の魔法少女アリカが成敗、いえ、抹殺してくれるわ!」
闇の魔法少女と名乗ったアリカは星のマークのついた黒い杖でいちごと佐奈を差し、処刑を宣言した。
しかし身を隠していた灼滅者たちが魔法少女アリカの前に現れ、一斉に武装を身に纏う。
「我に力を」
風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974)はスレイヤーカードに軽く口付けし、自身で定めた解除コードを唱えて殲術道具を解放。さながらテレビの中の魔法少女のようにスカートをはらりと舞わせ、船をイメージした杖をその手に握る。
「行きますよ。封印解除、インストール!」
スレイヤーカードによって一瞬で変身が完了し、銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)もまた、長年続く女児向けバトルアニメのような衣装に身を包む。中学生だから年齢も合っているはず。
「メリっと登場、メリっと解決! 魔法少女・マジカルメリッサ、参上……!」
メリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)は殲術道具を解放すると、ESPゴージャスモードによって武装を豪華版へと変形させ、いつの間にか考えた口上を言い放った。マジカルメリッサって誰だよとかツッコんではいけない。自身をどう定義するかは個人の自由である。
「みんなの笑顔を守るのが本当の魔法少女ですっ!」
桃花もさゆみ達とともにかわいく変身。衣装のフリフリを踊らせながら、魔法の杖をアリカに向けてビシッと構えた。
「悪に味方する者もまた悪よ。いいわ、全員まとめて消滅させてあげる!」
魔法少女の矜持をかけた戦いの火蓋が、今ここに切って落とされた。
●魔法って何さ?
「アリカさん、貴方の正義は間違っています。真の正義たる魔砲少女が正義の鉄槌で、その歪んだ正義をぶち抜きましょう♪」
土星からやって来た魔砲少女を名乗る土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)が、魔法少女アリカを挑発(?)した。
「あなたも魔法少女なの?」
「ノンノン、私は魔砲少女。マジカル・キャノン・ガール。OK?」
「知らないわよそんなの」
もうこの際どっちでもいいよ。
「マジカルファイトー、レディー、ゴー☆」
マジカルメリッサがゴングを鳴らし、真の魔法少女(仮)を決める戦いが始まる。
「死ねぇ! ブラックビーム!」
先手を取ったのは魔法少女アリカだった。年齢が近い桃花目掛けて漆黒の光線を放つ。
「絶対に負けませんっ!」
「生意気な!」
しかし桃花は魔法の杖で雷を呼び、目の前に障壁を作り出した。黒い光と紫電がぶつかり合い、相殺して消える。
「悪党退治、くらいならわかるけど殺すのは駄目だろう」
「ってアンタ女装してたのね! 女装もまた悪よ!」
泳はコイン状の装置から光の盾を複数展開すると、前衛の仲間に分け与える。女装をしていても、口を開くと声と言葉は少年のものなので、すぐに女装とバレてしまう。
(「……悪いことや考えをしたから殺していいという理由にはならないよね」)
佐奈が手に持つナイフから瘴気が湧き溢れ、ナイフを振るうと呪いの風が竜巻となって黒猫達に襲いかかる。
「今のは黒魔法!?」
「念で竜巻を起こしただけよ。私超能力者なの」
「そ、そうなの? なら魔法じゃないわね……」
佐奈の言い分をあっさり呑み込む魔法少女アリカ。割とちょろかった。
「悪人を懲らしめるだけでなく、改心させることこそが魔法少女のお仕事なのですよ~!」
さゆみは装飾された短剣から夜闇色の霧を放ち、黒猫の攻撃で前衛陣が受けた毒を取り除く。傷つけるだけでなく、癒すこともまた魔法少女の力なのだ。
「いつから……メリッサが夢も年相応の憧れも無い、ただのダウナー系女子だと誤解していた……?」
「いや、アンタとは初対面だし」
メリッサの唐突な告白に、魔法少女アリサは付き合う気もないと切り捨てる。
「当てる。マナブリット……」
「にゃー」
マジカルメリッサは掌に魔力を集め、魔法の矢に変えて黒猫に撃ち出した。矢に貫かれた黒猫が気の抜けた鳴き声を上げる。紫桜里も炎を纏った蹴りを放ち、黒猫を屠る。
「魔法じゃないよ、魔砲だよ♪ 超科学的な電磁手裏剣、逝ってみよー♪」
さらに自称土星魔砲少女が手裏剣を投げまくる。どうみても魔法どころか魔砲ですらない。
「いたっ、いたたたっ」
いちごが盾になっている間に、ビハインド・アリカは銀のレイピアで黒猫を斬り伏せた。どうやらアリカは、同名の都市伝説に怒りを覚えている様子である。
「魔法少女は私だけで十分なのよ!」
魔法少女アリカは杖から漆黒の刀身を伸ばし、灼滅者たちに突進した。
●魔法? サイキックですが何か
「にゃー」
なんやかんやしている内に使い魔の黒猫どもを潰し、残るは魔法少女アリカだけとなった。しかもアリサも多少傷ついている。
「最大展開、フォームアップ!」
クライマックスは近い。紫桜里はESPによって、己の纏う殲術道具を最終決戦モードへと変化させる。各部の装飾が華やかになり、煌びやかな羽衣が身を包む。普通の人間なら圧巻の姿だが、当然性能面の変化はない。
「マジカル……じゃなくてえーと、超科学的なギロチン発射ー!」
土星の人は何もない空間から無数の刃を呼び出し、魔法少女アリカ目掛けて一斉に放つ。魔砲少女名乗るなら刃物ばっか飛ばしてないでビームぐらい撃とうよ。
両の手を重ね、佐奈が気功の弾丸を放った。拳から撃ち出された弾丸は、曲線の軌道を描き魔法少女の胸へと吸い込まれる。
「げほっ、げほっ! やっぱりそれ魔法じゃないの?」
「これは気の力。超能力者ならこれくらいできるのよ」
「……もう何でもいいわ」
超能力設定を押し通す佐奈に、魔法少女アリカはすでに追及を諦めたようだ。
「魔法少女を名乗るなら夢とか希望を守ってやれ。相手が変態とはいえ加害者になってどうする」
「そういうセリフは女装をやめてから言ってよね!」
光の盾を拳に纏わせ、泳が魔法少女に接近した。力強く踏み込み、盾を叩きつけると、魔法少女アリカが衝撃で吹き飛んだ。泳は正論を言っているものの、いかんせん女装しているためどこか説得力に欠けるのだった。
ビハインド・アリカはとうとうこの時がやってきたと張り切り、レイピアを振りかぶって魔法少女に迫る。至近距離まで近づくと、レイピアに霊力を乗せて一閃。受け損なった魔法少女の杖にヒビが入った。
「……マジカルッ!」
マジカルメリッサは魔法少女の背後をとると、腕を鬼のそれに変化させ、凄まじい力でハンマーのように叩きつけた。腕を異形化させるなんて普通の魔法少女にはできない(というかやらない)ことだろう。
「これが魔法少女の力ですぅ……!」
回復が必要ないと判断し、さゆみも攻撃に転じる。舵輪を模した杖を空にかざすと、闇の魔法少女を焼き尽くさんとアリカの頭上へ雷が迸った。
「悪を倒すだけが正義ではありません!」
桃花は杖を構え、魔法少女アリカの元へと駆ける。そして毅然と立ち向かい、杖に魔力を込めてアリカを打った。杖から注がれる魔力が、内側からアリカにさらなるダメージを与える。
「どうしてわからないの? 悪は滅されるべきなのよ……」
使い魔は消滅し、形勢は絶対的に不利。闇の魔法少女アリカに手を差し伸べる者はいなかった。
●闇に還る少女
エアシュースを駆動させ、火花散る軌道を残しながら佐奈は魔法少女へと走った。一足の間合いまで接近するとローラーを高速回転させ点火、足を刀のように振り抜き炎の蹴りを浴びせる。
「ただの摩擦熱よ……摩擦熱」
「それはもういいから……!」
佐奈は魔法ではないと主張を繰り返すが、アリカはもう耳を貸す気はないらしい。
「さぁ、魔法少女よ、貴方の歪んだ正義が燃え尽きる時です……。その罪悪を数えながら逝きなさい……マジカル・クルエル・エクスキュージョン!」
「今、闇の鎖を断ち切らん……」
璃理は大鎌を、紫桜里は斬艦刀を携え、アリカへと迫る。そして――。
「逝くよ、灼滅・デスサァァァァイズ!!」
「アルティメット・ストライクッ!!」
「きゃああああっ!」
大鎌の一閃と、重力で叩きつける一撃。2人の豪快な斬撃が同時に決まり、闇の魔法少女は消滅した。
「真剣狩る土星の勝利DEATH☆」
結局ただの一発も砲撃らしきことをしなかった(そもそもそういうサイキックを持っていなかった)璃理であった。ちなみに、真剣狩る土星はマジカルサターンと読めばいいらしい。
「やったあっ!」
「やりましたぁ~」
闇の魔法少女を倒し、桃花とさゆみが手を取って喜び合う。純粋な彼女らは、どうかそのままでいてほしいものである。
「それじゃあご飯でも一緒に食べて帰りませんか?」
魔法少女と対峙していた時とは違い、柔和に接する泳。両方ともそうであるかもしれないが、どちらが本当の彼なのであろうか。
「メリッサ、帰る……」
しかしマジカルメリッサ、いやメリッサは泳に背を向けてさっさと帰り出す。よく見ると少し耳が赤くなっており、さっきまでマジカルメリッサを名乗っていたのが恥ずかしくなったのかもしれない。
「よく頑張りました♪」
いちごはアリカの頭をなでなで。同名の都市伝説を倒すとこができ、アリカも上機嫌の様子。
(「今回は倒しましたが、また同類の都市伝説が出てくる気がします。でも……」)
また力を合わせて倒せばいい。疲れたり悩まされたりすることもあるだろうが、きっと大丈夫。紫桜里は仲間たちに感謝しながら、闇夜に光る星を見上げた。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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