逆襲の佐世保バーガー大佐

    作者:J九郎

    「おのれ……。口惜しいぞ……!」
     深夜。人通りの途絶えた長崎県佐世保市の商店街に、誰にも聞き取ることの出来ないうめき声が響く。
    「この佐世保から、佐世保バーガー以外のバーガーショップを一掃するその日まで、死んでも死にきれぬわっ!!」
     それは、かつてこの地で灼滅された佐世保バーガー大佐の残留思念。
     だが、誰にも聞こえないはずのその怨嗟の声に、反応した者がいた。
    「それが、あなたの望むことなのですね」
    「何者だ!」
     顔を上げた佐世保バーガー大佐の目に映ったのは、一人の少女の姿。
    「私は『慈愛のコルネリウス』。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません」
    「何者かは知らんが、ワシに力をくれるというならありがたく受け入れよう! 全ては、佐世保バーガー普及のために!!」
     その言葉に、コルネリウスは儚げに微笑む。
    「……プレスター・ジョン、プレスター・ジョン、聞こえますか? この哀れなハンバーガーを、貴方の国に出店してください」
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。かつて灼滅された佐世保バーガー大佐が、『慈愛のコルネリウス』の力で復活を遂げると」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(中学生エクスブレイン・dn0137)は陰気な声でそう告げた。
    「……佐世保バーガー大佐、この間……、Lバーガーを潰せなかったから……根に持ってる……のかも……」
     以前、佐世保バーガー大佐と戦った経験のある東雲・睡蓮(自然の申し子・d27400)が、眉をひそめる。
    「……みんなには、コルネリウスが残留思念に呼びかけを行った所に乱入して、彼女の作戦を妨害してほしい」
     ちなみにこの場に現れるコルネリウスは実体ではないので、干渉はできないようだ。それに、彼女自身灼滅者に対して強い不信感を持っているようなので、交渉の余地はないだろうと、妖は言う。
    「コルネリウスの力を得た佐世保バーガー大佐は、残留思念とはいえ、生前に匹敵する戦闘力を持っているみたい」
     妖の言葉を受けて、実際に戦った経験を持つ睡蓮が続ける。
    「……佐世保バーガー大佐は……ご当地ヒーローのサイキックの他に……いろんな食材を……武器にしてた……」
     その食材による攻撃は、あたかも殺人注射器のような効果を発揮したという。
    「……慈愛のコルネリウス。……せっかく灼滅したダークネスを蘇らせるなんてはた迷惑な奴」
     妖は心底迷惑そうな表情を浮かべた後、
    「……大丈夫。一度灼滅出来た相手だから、みんなの力なら絶対にまた灼滅できるって、信じてる」
     そう言って灼滅者達を送り出したのだった。


    参加者
    朝山・千巻(スイソウ・d00396)
    遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)
    倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)
    氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)
    慈山・史鷹(妨害者・d06572)
    ラックス・ノウン(どうみてもスレイヤー・d11624)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    東雲・睡蓮(自然の申し子・d27400)

    ■リプレイ

    ●復活する大佐
    「……プレスター・ジョン、プレスター・ジョン、聞こえますか? この哀れなハンバーガーを、貴方の国に出店してください」
     コルネリウスの祈りと共に、彼女の体が輝き始める。
    「倒した敵が復活とか、面倒な事してくれるな。何が目的であっちの世界に送ってるのか知らねぇが、とりあえず、邪魔するぜ」
     そこに割り込んだのは、慈山・史鷹(妨害者・d06572)だった。史鷹は迷わずコルネリウスに錆びた剣で切りつける。しかし剣は、薄れゆくコルネリウスの体をすり抜けただけだった。
     そして、コルネリウスの体が薄れゆくのと引き替えに、佐世保バーガー大佐の姿が明確に実体化し始める。
    (「コルネリウスとプレスター・ジョンがどういう関係なのか気になるけど、まずは復活した大佐の撃破を考えましょうか」)
     氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)が心中でそう呟く間にも、コルネリウスの姿は完全に消えさり、生前と変わらぬ姿の佐世保バーガー大佐だけが、その場に残された。
    「コルネリウスが何を企ててるかは、まぁどうでも良いか。ダークネスと灼滅者は水と油みたいな物だしな。一時的な利害の一致という乳化剤でもない限り対立するもんだろう」
     史鷹はすばやく気持ちをコルネリウスから切り離すと、蘇った佐世保バーガー大佐に注意を払う。
    「……まさか、本当に……また、会えるとは……思って、いなかった、よ……」
     かつて佐世保バーガー大佐と交戦した経験のある東雲・睡蓮(自然の申し子・d27400)は、複雑な表情を浮かべていた。
    「む? 小娘、貴様のことは覚えておるぞ。わしを灼滅しおった者共のひとりであったな!」
    「……記憶は、あるんだ。……この間は、おいしい……佐世保バーガー、ごちそう……さま、でした」
     睡蓮が礼をすると、佐世保バーガー大佐も、
    「む……、どういたしまして、なのである」
     つられて頭を下げた。
    「そうか、佐世保バーガーってうまいのか。何気に食ったことないな」
     ラックス・ノウン(どうみてもスレイヤー・d11624)の呟きを耳聡く聞きつけた佐世保バーガー大佐が、目をクワッと見開く。
    「貴様! ここ長崎は佐世保の地に来ておきながら、まだ佐世保バーガーを食っていないだと!? おのれ、厨房と食材があれば今すぐ準備して貴様に食らわせてやるものをっ!」
    「佐世保って長崎県だったんだ……。てっきり、世田谷の親戚なのかと思ってた」
     山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)の言葉に、佐世保バーガー大佐はますます激怒した。
    「佐世保と世田谷……漢字でも発音でも1文字しかあっておらぬわーっ!」
    「深夜に叫んだらご近所迷惑だから、少し静かにして」
     透流は冷静にサウンドシャッターを発動し、周囲に音声が漏れないようにする。
    「でもさあ、考えたら佐世保で佐世保バーガーの宣伝しても意味ないんじゃない?」
     倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)が至極当然の指摘をすると、
    「だからこそ! プレスター・ジョンの国とやらに進出するのである!」
     大佐は胸を張ってそう答えた。
    「佐世保バーガーがプレスター・ジョンの国に出店したら、それはもう『佐世保』バーガーじゃないと思うのね? ということで、その進出計画ナシでっ」
     朝山・千巻(スイソウ・d00396)が、笑顔で佐世保バーガー大佐の計画を全否定する。だが、それでも大佐は動じない。
    「甘いわっ! ゆくゆくはかの地を征服し、新佐世保と国名を改めればよいだけのことっ! この佐世保バーガー大佐、佐世保バーガー普及のためなら容赦せんっ!!」
    「……怪人の執念って、よくわからないね」
     食べ物にさして頓着しない遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)は、理解の及ばない範囲の話だと無感動に大佐の反応を眺めつつ、万一に備えて殺界形成を展開する。
    「ちなみに、佐世保バーガーって何?」
     それから瑪瑙は、穏やかな笑みを浮かべて、そう尋ねた。
    「大変によい質問である! よいか、そもそも佐世保バーガーというものは……」
     果たして佐世保バーガー大佐は、嬉々として蘊蓄を語りだしたのだった。

    ●奮闘する大佐
    「……というわけで、佐世保バーガーとは決まったスタイルのハンバーガーを指していうのでなく……」
     滔々と蘊蓄を語る佐世保バーガー大佐だったが、
    「ごめんね、やっぱりどうでもいいや」
     心の籠らない謝罪と共に、瑪瑙がいきなりHOLICに捻りを加えて強烈な突きを繰り出した。すっかり自分の世界に入っていた大佐にその一撃を避ける術などなく、直撃を受けて呻き声を上げる。
    「お、おのれ! 解説中に攻撃とは、ヒーローの風上にも置けん奴!」
    「ハンバーガーは生物に消費される宿命をもって作られた食物……あなたもバーガーならば、消費されたあとは怨嗟なんて残さずに消えるべきだった」
     大佐の抗議を無視して、透流が炎を纏った蹴りを繰り出した。
    「やっぱおいしいものは夢の中より現実世界で食べなきゃね? というわけで、焼きバーガーにしてあげるっ!」
     続けて、千巻も同じく炎の蹴りを放ち、さらに
    「……全ての、長崎県食材に……感謝して、再度……いた、だきます……」
     睡蓮も、大佐の背後から燃えさかる蹴りを見舞う。3人の連続攻撃により大佐の纏う軍服に炎が引火し、燃え始めた。
    「うおっ!? 絶妙な焼き加減の我がバンズをこれ以上焼いてどうするつもりであるか! これ以上の狼藉はゆるさーん!」
     叫びつつ大佐が取り出したのは、巨大なマスタードのチューブ。そして大佐は容赦なくマスタードを、透流の顔目掛けて吹きかけた。
    「話には聞いてたが、何て恐ろしい事をしやがる」
     マスタード対策にゴーグルを用意していた史鷹が割り込み、代わりにマスタードの直撃を受ける。
    「くっ! ゴーグル越しでもかなりくるな、これは」
     顔を押さえて苦しむ史鷹に、あすかが指先から霊力を飛ばすと、マスタードの辛味成分がみるみる中和されていった。
    「復活した怪人はまた倒されるのが定番よ、再生怪人さん?」
     あすかの挑発に、大佐は一瞬動きを止める。
    「確かに、再生と呼ばれると途端に弱く感じるではないか! よし、今日からわしのことは佐世保バーガー大佐・改と呼ぶがよい!」
     それで強く感じるかどうかはともかく、大佐は今度はケチャップを取り出すと、睡蓮に突っ込んでいった。
    「さあ、秘伝のケチャップをとくと味わえ!」
     そして睡蓮の口にケチャップのチューブを咥えさせると、無理矢理ケチャップを流し込んでいく。
    (「……く、苦しいけど……ケチャップが……もったいない、から……あえて……全て食べる!」)
     その睡蓮の覚悟たるや、並大抵のものではない。と、そこへ、
    「派手にぶっ飛べ!!」
     横合いから飛び込んできたラックスが、バベルブレイカーで大佐の頭部を貫いた。詰まっていた食材が、派手に吹き飛ぶ。
     その隙に、茶羅が飛ばした小さなリング達の放つ光が、解放された睡蓮を癒していった。
    「う、うまいぞー!!」
    「うそっ!? ケチャップだけでうまいの!?」
     絶叫する睡蓮に、目を丸くする茶羅だった。

    ●大佐
    「必殺の、佐世保オリジナルダイナミックを喰らうがよいっ!」
     頭部の巨大なハンバーガーに透流を挟み込んだ佐世保バーガー大佐が、勢いよく透流を吐き出した。
    「うわっととと……、大丈夫か?」
     地面に叩き落とされる寸前に、茶羅が滑り込んで透流を受け止める。
    「くっ……、でも、持ち前の頑丈さを活かして、みんなを絶対に守り切ってみせる……!」
     透流がフラフラと立ち上がる間にも、大佐の猛攻は続いていた。
    「お待ちかねのマスタード・アタックである!」
     次に大佐が狙いを定めたのは、千巻だった。しかしこんなこともあろうかとゴーグルを用意してきていた千巻は余裕の表情だ。
    「かかってきなさい! 対策はバッチリなのだ!」
     だが。ゴーグルでは目は防げても口は防げないことを、千巻は完全に失念していた。
    「!!~~!?!?」
     声すら出せず悶絶する千巻に、あすかが慌ててセイクリッドウインドを飛ばす。
    「このっ! 挽き肉になっちまえ!!」
     ラックスが拳を連続で繰り出して大佐を牽制するが、大佐はどこからともなく取り出したハンバーグを盾にして、ラックスの拳を受け止めていった。
    「挽き肉はハンバーグの材料だけで充分なのである!」
    「なら、トラウマ、引きずりださせて貰おうか」
     ラックスに気を取られている隙に、史鷹が背後から双刃【黒陽】で斬りつける。
    「ぬおおっ!? 名誉の戦死で二階級特進など嬉しくないのだ! わしにはまだやるべきことがっ!」
     自分が灼滅されたトラウマを刺激されたらしく、佐世保バーガー大佐の動きが目に見えて鈍った。
    「おっ、畳みかけるチャンスかな? 飛んでけリングスラッシャー!!」
     ここが好機と、茶羅がリングスラッシャーを大佐目掛けて撃ち放つ。
    「丸焼けバーガーもおいしいかもね」
     さらにチェーンソー剣を構えた千巻の一撃が、大佐の軍服に引火していた炎をますます激しく燃え上がらせ、
    「あははっ、ははははっ!!」
     睡蓮も感極まったように笑いながら、狼化した鋭い銀爪で、大佐の軍服を切り裂いていった。
    「ぐぬぬ……、二度も死んでたまるものかっ! 全ては、佐世保バーガー普及の為に!」
     佐世保バーガー大佐の頭から、一斉に具材が放たれる。大佐の最終必殺技、全部乗せビームだ。だが、
    「手始めに、って意味ではあったんだろうけど、目標が佐世保市内とだけ聞くと、小物っぽいね」
     傷だらけ、食材だらけになりながらもそのビーム(?)を耐え抜いた瑪瑙が、さらりと笑顔で辛辣な台詞を口にし、
    「それすら達成できずに終わっちゃうんだから、やっぱりたかが知れてる感じはするけど」
     そして瑪瑙の影が無数の蔦となって、佐世保バーガー大佐を縛り付けていく。
    「う、動けんっ!」
     そこへ、大きく飛翔したラックスの、流星の如き跳び蹴りが炸裂した。
    「派手に潰れな!」
    「ぐわあああっ!!」
     果たして、佐世保バーガー大佐の頭部は派手に食材を撒き散らしながら炸裂し、その体は背後に倒れ込みつつ、次第に陽炎のように薄れ、そして消えていった。
    「……ごちそうさま」
     透流が静かに手を合わせる。
     コルネリウスの力で復活を遂げた佐世保バーガー大佐は、こうして再び、敗北を喫したのだった。

    ●佐世保バーガー食べよう!
    「帰る前にみんなで佐世保バーガーを食べていきたいな」
     みんなの傷を癒しながら、あすかがそう呟くと、
    「賛成~! 佐世保バーガー大佐の供養に佐世保バーガー食べて帰ろ!」
     千巻がさっそく賛同の声を上げる。
    「いいねっ! オレ、佐世保バーガーって話に聞いた程度で食べたことないし」
     茶羅もその提案に乗っかり、他の仲間達もそれぞれに頷いた。
     気付けば空も次第に白み始め、朝日が顔を覗かせている。
     今日も又、佐世保に平和な朝が訪れたのだ。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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