琵琶湖大橋の戦い~天王山~

    作者:相原あきと

     時は西暦二千十四年。
     滋賀県琵琶湖の東西に分かれて争うは、刺青羅刹こと天海大僧正の勢力と、ご当地怪人は安土城怪人の軍団でございました。
     しかし今、両陣営は琵琶湖を挟み睨みあい、膠着状態に陥っております。
     と言いますのも、それは武蔵坂学園の行動の影響でありました。
     まずは前哨戦におきまして、武蔵坂学園は天海大僧正に加担し、結果、刺青羅刹側が有利とあいなりますれば、優勢となった天海大僧正、「決戦の勝利を確定づけよう」と戦力の増強を図る作戦へと移行します。
     されどもそこで現れまするは、再び武蔵坂学園の灼滅者! しかも、天海大僧正の戦力増強作戦を阻止するではありませんか!
     事態は混迷、両勢力多少の小競り合いを行ないつつも、コツコツ戦力を増強しての睨み合いがつづけている所でございます。
     天海大僧正の軍勢には、慈眼衆を始めとする天海大僧正の手勢の他、同じ刺青羅刹の鞍馬天狗の手勢、朱雀門高校の生徒やデモノイド、サイキックアブソーバー強奪作戦で撤退した軍勢の一部、九州の刺青羅刹・うずめ様からの援軍、HKT六六六の殺人鬼、HKT六六六の淫魔などが加わる事に。
     一方、安土城怪人の軍勢には、刀剣怪人やペナント怪人の他、アメリカご当地怪人やロシアご当地怪人、アンブレイカブルのレスラー、業大老配下と思われるアンブレイカブル、セイメイ配下と思われるアンデッドの軍勢が加わることにあいなりました。
     そしてそして、遂に琵琶湖大橋を確保しようと、両陣営が動きだすのでございます。
     されば絶大なるご喝采のうちに、2大ダークネスによる決戦なりし天王山、ごゆるりと、ご覧あ~れ~。


    「みんな、天海大僧正と安土城怪人が琵琶湖大橋を確保しようと軍勢を繰り出し、ついに全面戦争になるわ!」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     琵琶湖を巡る『刺青羅刹天海大僧正』と『悌の犬士安土城怪人』の戦いは、最終局面を迎えるようだ。
     だが、これを放っておけば琵琶湖周辺は破壊され、人の住めない地となってしまうのは確実。
     なんとかしてこの被害を減らさなければならない。

    「1つは、琵琶湖大橋に集まっている軍勢同士が戦いを始める前に、その双方を武蔵坂学園が制圧してしまう事よ」
     これに成功すれば、天海僧正の勢力も安土城怪人の勢力も、武蔵坂学園の動きを無視することができず、一定の条件で休戦を結ぶことになるだろう。
     最も平和的な解決手段であるが、戦力を2分するので困難な戦いになるし、もしも阻止に失敗した場合は全面戦争になってしまうだろう。
     また、ダークネス同士が休戦を結ぶ事は、武蔵坂学園にとっては不利益になる可能性も捨てきれない。

    「2つ目は、琵琶湖大橋の東側、安土城怪人の軍勢を一方的に攻撃する事ね」
     これにより琵琶湖大橋は天海大僧正側が制圧する事になり、そのまま、安土城怪人の本拠地に攻め寄せ雌雄が決するだろう。
     戦況が不利となれば、増援に来ていた勢力の多くは撤退し、安土城怪人の軍勢は敗走、琵琶湖周辺は天海大僧正勢力が支配することになる。
     もちろん、戦場となる琵琶湖の東側で被害は出るが、全面戦争に比べれば問題は無いレベルだ。
     ただし、天海大僧正の勢力が強い力を得てしまう事になるが……。

    「3つ目は、琵琶湖大橋の西側、天海大僧正の軍勢を一方的に攻撃する事よ」
     2つ目の選択肢と逆に、この場合は琵琶湖大橋を安土城怪人側が制圧し、そのまま天海大僧正の本拠地に攻め寄せ雌雄が決せられる。
     戦況が不利となれば、増援に来ていた勢力の多くは撤退し、天海大僧正は本拠地に籠城して徹底抗戦した上で灼滅されると言う。
     天海大僧正の勢力が壊滅する結果になるのはメリットだが、天海大僧正の徹底抗戦により琵琶湖の西側には少なくない被害が出てしまうだろう。
     さらに言うなら、安土城怪人の勢力が強い力を得てしまう事となる。

    「でもね。どの選択肢が正解という事は無いの。だから、どの軍勢に攻め入るかは現場に行く皆の判断に任せるわ」
     そう宣言すると珠希は皆を見つめ。
    「琵琶湖決戦、最後の天王山に介入した皆の決断が、より良い未来に繋がるって……私は信じてる」


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    東当・悟(の身長はプラス拾壱センチ・d00662)
    月雲・螢(線香花火の女王・d06312)
    七生・有貞(アキリ・d06554)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)
    時宮・霧栖(紅色の忘れ形見・d08756)
    伽藍・綺葉(紫陽花六花・d15043)
    丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)

    ■リプレイ


    「激戦乱戦になりそうだけど……お守りもあるし大丈夫かしらね」
     大橋を望む高所の建物の上で、妹からのプレゼントでもある小型の手甲を調整しつつ月雲・螢(線香花火の女王・d06312)が呟き、ふと己がビハインドへ顔を向け。
    「申し訳ないけど……今回は酷使しちゃいそうだわ」
     対してビハインドのゆいは、黙ってそばに佇むのみ。
    「本当、大変そうだ」
     身を乗り出して戦場を眺める加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)だが、よっ、と姿勢を正すと腕を組み。
    「正直、どちらの味方をするのもあまり気乗りはしないけどな~」
    「確かに迷う所です。実際、天海大僧正を守る形になるわけですし……」
     蝶胡蘭に並んで同意するのは伽藍・綺葉(紫陽花六花・d15043)だったが。
    「でも、これが1番だと、私達は判断しましたもの。迷わず戦いましょう」
    「……だな」
     蝶胡蘭が頷き、綺葉も頷き返す。
     一方、建物の端っこに立ち、琵琶湖を眺めるは丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)と今回唯一の小学生、七生・有貞(アキリ・d06554)だ。
     じっと琵琶湖を見つめる有貞に小次郎が。
    「どうしました?」
    「や、琵琶湖でけえなぁって……あ」
     皆が緊張する中、思わず正直な感想を言ってしまったことに思わず口を閉じる有貞だったが、小次郎は笑いつつ皆の所へ戻ろうと促す。
    「旗に生気あり、どうやら敵の士気も高いようです」
     皆の所へ戻り、やれやれと首をすくませる小次郎。
    「ですが……大部分の意識が橋に向かっています。今なら横から刺せそうです」
     小次郎の見解に、7人の灼滅者が視線で頷き。
    「では、お仕事開始といきましょうか」


    「忌まわしき血よ、枯れ果てなさいッ」
     螢が愛用の手甲以外の殲術道具を出現させ、完全武装状態で標的へと飛び込んでいく。螢だけではない、蝶胡蘭が左手に雷を纏わせ殴りかかり、綺葉が神秘的な歌声で敵を催眠状態にし、有貞が槍を振るえばダイヤモンドダストの軌跡を残してつららが飛ぶ。
     灼滅者が奇襲をかけたのはボロボロの刃を持つ刀剣怪人と2体のペナント怪人のチームだった。
     集中砲火を受けたペナント怪人を刀剣怪人が守ろうと動き、だがその機先を制するように小次郎が炎の奔流を放つ。
     思わず足を止める怪人、その隙を逃さず。

     ダララララララッ!

     アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)のライドキャリバー『スキップジャック』が機銃を掃射、2人のペナント怪人をさらに追撃。
     それだけはではない、機銃の弾丸の中、併走するよう飛び込んで敵へ接近するは時宮・霧栖(紅色の忘れ形見・d08756)。
     弾丸の雨など日常だったと言わんばかりの度胸にペナント怪人が驚き、瞬後、その胸には深々と螺旋の槍が突き刺さっていた。
     グラリ、傾くペナント怪人。
     咄嗟に反応したのは東当・悟(の身長はプラス拾壱センチ・d00662)だ。
     解き放とうとしていた殺気をキャンセル、強引に押さえ込むと手にしたサイキックソードを鞘に納めたまま接敵、霧栖が刺したペナント怪人を居合い一閃、両断したのだった。


     灼滅者側は4人が攻撃手、4人が盾役(サーヴァント含む)、残り2人が治癒役と、長期戦を見越した隙の無い陣形だった。
     やがて、もう1体のペナント怪人も倒され、残るは刃零れした刀剣怪人ただ1人。
     ここに来て灼滅者の強さに焦りを浮かべる怪人だが、その前のずんっとアレクサンダーが立ち塞がる。
    「御身を見るに歴戦の刀剣を司る者とお見受けする。よろしければその銘をお聞かせ願いたい」
    「笑止、この浮世へ残す銘など無い……」
    「……そうか」
     怪人の覚悟を察し、刃をもって返すアレクサンダー。
     神霊剣が怪人の刀で受け止められ、覚悟を乗せた膂力がアレクサンダーを弾き飛ばす。
     そのまま追撃しようと地を蹴る怪人だが、割って入ってきた蝶胡蘭に顔の側面を蹴り飛ばされ炎の尾を引きながら吹き飛ぶも、空中で回転し路上の壁に着地、そのまま跳躍しようと顔を上げた瞬間、先ほどの蝶胡蘭と同じ炎の蹴り――グランドファイアが目前へと迫り、そのままバギャッと壁へとめり込んだ。
    「前座はさっさと退場して貰おうかな。まだまだ敵は沢山いるしね!」
     壁にめり込んだ怪人を足場に、くるりと距離を取るように着地した霧栖が言うも、ガララ残骸の中から立ち上がる刀剣怪人。
    「いいや、是が非でも、主らは我の相手をしてもらおうか」

     刀剣怪人の戦い方は完全に後の事を考えない捨て身の戦術であり、そうなると長期戦を見越す灼滅者側でポイントとなるのは治癒役の2人だった。
    「い、一所懸命やらないと……足を引っ張らないように……」
    「伽藍さん、落ち着いて。大丈夫、一緒に協力してやれば何も問題ないわ」
     ふと、同じ治癒役の螢が優しく声をかけてくれた。
    「協力し合えば……、はい!」
     スッと気負いも取れ、螢が行う天魔光臨陣に合わせ、清めの風で前衛を一気に治す。
    「く……しぶとい。せめて1人ぐらいは!」
     刀剣怪人が傷を省みず一気呵成に飛び出してくる。
     地面スレスレから振り上げてくる怪人の刃を、紙一重で見切る悟。
     前髪がハラリと数本舞い、それが落ちる間も無く、手に影技の刀を出現。
     咄嗟に振り切った刀の柄を振り下ろす怪人だが、悟は影を出した手でそれを防ぎ、もう片方の手で。
     ドドドドドッ!
     まるで刀状のオーラによる連打突きだった。
     だが、怪人の放ったのはただの斬撃ではない、振るうと同時に飛ぶはあらゆるものを断ち切る衝撃派。
     避けられなかったのは有貞。
     だが衝撃はこない。目を開けば目の前には小次郎の背中があった。
    「すまねっす」
    「きみはずっと攻撃してもらう役なんです。優先的に守るのは当たり前でしょう」
     感謝の返事は行動で、と。
     有貞が小次郎の影から飛び出すと、悟の攻撃で体勢が崩れている刀剣怪人に肉薄、いつもは気をつける踏み込み過ぎすら忘れて、超至近距離から回避不能の百裂拳をお見舞いする。
     拳の連打に怪人の身が宙に浮き、フィニッシュと共に大地へ倒れ……そして刀剣怪人は灼滅されたのだった。


    「こんな雑木林じゃ、隠れるって言ってもたかが知れてるか」
     蝶胡蘭が仲間を先導して一時的に戦場から離脱するも、見つけられたのは小さな林だった。
    「本当に……重要な戦いなのですね……」
     どこかで誰かが戦う剣撃や爆発音は未だ止まず、そんな音に耳を澄ませて綺葉が言う。
    「まだ、緊張しているのか?」
     腕を組み、木に寄りかかったままのアレクサンダーが聞いて来る。
    「……はい、大きな敵との戦いは経験がございませんので……」
     すると、アレクサンダーは何かを綺葉に差し出してくる。それはちょっとしたお菓子と飲み物だ。
    「少しはほぐれる」
     アレクサンダーの気遣いに感謝を述べ菓子を口に含む綺葉。
     だが――。
    「どうやら、ゆっくりしている暇は無いかもしれません」
     偵察に行っていた小次郎と霧栖が戻って来て言う。
     2人の話によれば、少し行った所で灼滅者が8人に満たない人数で刀剣怪人と戦い劣勢になっている班がいたと言う。
    「一応言っておくけど、サーヴァントを完全に回復させる為にもしばらく隠れてやり過ごすってのも一つの選択だと思うよ?」
     飄々と霧栖が言い、対してサーヴァント持ちの螢が。
    「そうね、できれば10分休んでおきたかったけど……目の前の仲間を放っておくわけにはいかないわ」
     螢の言葉に霧栖が「ま、そうだよね」と笑って同意し、小次郎が「こっちだ」と雑木林を飛び出し皆を先導して行く。
     殿を務める悟は指にはめた指輪を触り、そして誰にも聞こえない小さな声で。
    「勝って帰る。絶対や」
     そう呟いてから、最後に林を飛び出して行くのだった。


    「なん……だと……!?」
     風上から煙が押し寄せ、その中から飛び出してきたアレクサンダーに組みつかれた刀剣怪人が驚きの声を上げる。
    「ふんっ!」
     見事アレクサンダーの鰹の一本釣りダイナミックが決まり、大地へ叩きつけけられる刀剣怪人。
     咄嗟の事に刀剣怪人の配下だったのだろう、1人だけいたペナント怪人がオロオロし、そこを容赦無く有貞の螺旋槍が襲う。
     駆けつけた時、すでに仲間は撤退を始めており、追撃をさせない為に怪人へ攻撃を開始した灼滅者達だったが……。
    「丹下さん、あちらを」
     何かに気が付いた綺葉が別の方角を指差す。
     それは別の班が敗走していく姿。
     そちらも8人に満たない戦力で戦っていたようだ。
     目と鼻の先……とまでは言わないが、ちょっかいを掛ければ敵の気を引く事はできそうな距離だった。
     軍師という称号のせいか、皆の視線が小次郎に集まる。
     咄嗟に戦力差を計算しようとする小次郎だが――。
     黒い殺気が小次郎の回答より先に解き放たれ、もう1人の刀剣怪人を悟の鏖殺領域が包み込む。
    「小次郎先輩、ごめんやで……せやけど、俺には見過ごせへん」
    「気にしないでいいよ」
     そう言って悟の肩を叩くのは蝶胡蘭だ。
    「東当君がやらなきゃ私が殴りに突っ込んでたし。仲間の安全を優先して何が悪い?」
     にやりと笑う蝶胡蘭、小次郎は後ろでやれやれと手を上げるが、その顔はどこか満足気だ。
     攻撃された事でこちらへやってくるもう1体の刀剣怪人。
     そしてこちらから奇襲した1体と、ペナント怪人も1体いる。
     計3体の敵はどれも傷を負っているようだが、それはこちらも同じこと。
    「流石に連戦はきっついね~。これでさらに、大物が出てきたりはしないよね?」
    「出て来て欲しいっすか?」
    「さあ、どっちだと思う?」
     霧栖の纏うバトルオーラが炎のように燃えあがり、まるで戦いを楽しむかのように。


     元々強力な刀剣怪人の攻撃が、最初の殺傷ダメージが治っていない盾役達を容赦なく削って行く。ついさっき、サーヴァントの2体も消滅した所だった。
     そして――。
    「皆さん!」
     声を上げたのは綺葉、7人が返事もせずに意図を察して動き出す。
     唯一、他と違う動きをしたのは有貞だ。
     今まで出来るだけ護られ易い立ち位置を取りつつ攻撃していたのだが、わざと目立つよう敵陣へと突っ込んで行く。
    「てめぇ、いきなりどうした!? 捨て鉢にでもなりゃぁがったか?」
    「あー、別に……そういうわけじゃねーよ」
     刀剣怪人の刀が有貞に振り下ろされ、槍を斜に構えてなんとか受け流す有貞だが。
     もう1体の刀剣怪人が横薙ぎに刀を振り抜き、回避しきれず二の腕を大きく切り裂かれる。
    「1人飛び込めばこうなる事がわからんだか」
    「解ってたさ……でも、必要なら、俺はやる」
     怪訝に顔を見合す刀剣怪人達、そこに空気を読まず飛び込んでくるペナント怪人だが。
     ダガガガガガッ!
     打ちこまれた多数のサイキックが命中し、吹き飛び動かなくなる。
     さらに炎の尾を引きながら霧栖が蹴り込んで来て、刀剣怪人達は左右に跳躍して回避。
    「ハイ、タッチ。こっからはアタシの出番だね!」
    「俺はまだやれる」
    「そうか? なら、一緒にやろうか」
     コクリと頷く有貞。
     刀剣怪人達は灼滅者達を見てほぞを噛む。
     先程、有貞が気を引いている内に一瞬にして陣形が変わっていた。
     蝶胡蘭と螢が、小次郎と綺葉が、悟と霧栖が入れ替わり、アレクサンダーが後列へと下がる。
     実際、有貞以外の全員が効率良く完璧なポジションチェンジを行なっていたのだ。
    「っておい。そんなの有りか?」
    「無くは無かろう……やりおる」
     怪人2人の空気が変わる。
    「それじゃあ、第二ラウンド開始ってね!」
     霧栖の掛け声に、新しい戦術と陣形に丸々変わった灼滅者達が動きだす。
     その後の戦いはお互い一歩も譲らぬ激戦となった。
     怪人達も連携して灼滅者を攻めたてる。
     螢へと向かって来た怪人の刀を上から踵落としの要領で踏みつけ相殺する螢。だが、その脇をアレクサンダーに向けてもう1体の怪人が刀を突きだし、今度はその刀を最小限の動きで手甲にて跳ねあげ攻撃から庇う螢。
    「昔庇われた時のお礼をお返しするわね」
    「俺も壁役なんだがな」
    「気にしないで? ずっと後衛だったから元気が有り余ってるの」
     アレクサンダーの声に、笑みを浮かべて答える螢。
    「そうか……なら」
     螢に塞がれ二の太刀を入れようとする怪人へアレクサンダーは拳を向け。
    「飲み込め影鰹!」
     突如、足元の影が波打ったと思うと、巨大な魚影が刀剣怪人を飲み込んだのだった。

     刀剣怪人が残り1体となっても戦闘の苛烈さは変わらなかった。
     長期戦狙いで戦術を組んでいるとはいえ、灼滅者側の限界も近い。
     怪人の刀をかい潜り、霧栖が懐に潜りこむ。
     そのまま槍で腹を狙い、しかし怪人が刀の柄で叩き落そうと――それを霧栖は避けなかった。
     甲高い音が響き、柄によって霧栖の槍が叩き落され大地を滑る。
     ドドンッ!
    「な……に……?」
     瞬間、怪人は自分の腹にロッドが付き立てられ強力な魔力を連続で叩き込まれた事を知る。
     槍は最初から手放し、本命を当てる為にフェイント。
    「まだまだ遊び足りない……よっと!」
     ドドドンッ!
     さらに追撃が入り、吹き飛ぶ怪人。
     その隙に蝶胡蘭と小次郎が全く同じ印を組み、前衛達の足元に2重の法陣が展開、その傷を回復させる。
    「さあ、史実の通り、哀れな信長を攻め立てようか!」
     蝶胡蘭の言葉にピクリと反応した刀剣怪人がむくりと起き上がり。
     満身創痍ながら雄叫びをあげて果敢に襲いかかってくる。
     迎え撃つは綺葉、大上段から振りおろされる刀を、自身の縛霊手で受け止め、さらに痛みをこらえて刀ごと握り込む。
    「ぬっ!?」
     一瞬、動きが止まる怪人。
     次の瞬間、目の前には灰頭の少年がロッドを突き立てていた。
     ドドドッと魔力の衝撃が全身を襲う。
     意識が切れそうになるが、ギリギリで耐えた怪人が頭の刀身を使って薙ぎ払った。
     綺葉と有貞が弾かれ体勢を崩す。
     追撃しようとする怪人だが、そこに入れ替わるように肉薄するは悟。
     光の刃と影の翼で執拗に怪人を追い詰め、怪人も手の刀と頭部の刀身でなんとかそれを捌くが……。
     ――絶対攻手を止めへん、攻抜き決着つける事が皆護る唯一手段や!
     悟の気持ちが上回ったか、それとも長く戦ったおかげで敵の癖に慣れたのか、キンッと怪人の手から刀が弾き飛ぶ。
    「くっ」
    「とっておきの刀、味わいや!」
     想希の護り刀、サイキック剣に力込めそこに居ぬ誰かと並び振るうかのように、居合の構えから一気に振り抜く。
    「ここまで……か」
     どさりと倒れ、そして刀剣怪人は息を引き取ったのだった。

    「さすがにこれ以上は無理だな」
     蝶胡蘭の言葉に誰もが頷く、正直、撤退した班の仲間達がそれなりにダメージを与えてくれていなかったら……最後の天秤はどうなってもおかしくなかった。
    「後始末はしといた……そう、礼と共に伝えるべきか」
     アレクサンダーが呟き、皆が頷く。
     そして、灼滅者達は激戦続く戦場を後にしたのだった……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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