「すげーいい匂いがするな」
「クレープの香りだね、行ってみる?」
下校中の学生カップルが指差すのはファンシーなお店。ディスプレイにはさまざまなクレープの甘く美味しそうな見本が並んでいる。店頭では見事な技でクレープを薄く焼き上げる職人が腕を振るう。近づくほどに甘い香りに包まれ、ついつい足を止める人々がクレープを買っていく。
「俺はこのアイスバナナチョコにしようかな」
「じゃあわたしはモンブラン生クリーム!」
店員から渡されたクレープに、二人はかじりつく。
「うん、うめぇ」
「こっちも美味しいよ、はい、あーん」
少女がクレープを差し出すと、少し照れくさそうにしながらも、少年は大きく口を開ける。
「ん、モンブランもなかなかイケる。ほら、こっちも食ってみろよ」
そう言ってお返しにとクレープを食べさせると、少女は嬉しそうに小さな口を開いた。
「もう涼しくなってきたと思ったけど、今日はなんだか暑いからアイスも美味しいね」
「だよな、まるで夏日……」
少女の言葉に頷き、少年が口を開いてクレープを食べようとしたところで固まる。
「どうしたの?」
少女が尋ねるが、少年は口を半開きに固まったまま少女の後ろから視線を動かさない。
少女が振り返る。するとそこには巨大な何かが居た。見上げると建物の二階ほどに顔がある。角があり岩のような頭。長い首から背中には硬そうなごつごつと突き出た鱗が並ぶ。そして尻尾まで長い滑り台のようになだらかな形状。全長は10メートルを超えるだろうか。その巨大さは近くで見るほど大きく感じられる。そして体の節々から火を発し、その周囲は真夏の太陽に照らされているように暑かった。
「ウンバ、ンバンバ!」
「ンンババッンババッ」
突然、少年と少女が着ていた制服を破って騒ぎ出す。
「ンロロロロロ~」
周囲の人々も同じように服を破り、原始人ルックとなると、手当り次第に周囲の自転車やバイク、車などを攻撃し始めた。
『ギュィィィッ』
ゆっくりと歩く恐竜は、一つ鳴くと長い首を下げてクレープ屋に顔を突っ込み、出来立てのクレープをぺろりと食べた。
「やあ、また恐竜のようなイフリートが出たみたいでね」
能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が集まった灼滅者に、資料を手にして事件の説明を始める。
「今回事件が起きるのは繁華街のクレープ屋さんでね、その周囲の人々を原始人化してしまうんだよ」
原始人化した人々は知能を退化させ、周囲の文明的なものを壊し始める。
「時間が経つほどその効果範囲が広がっていくようなんだ。最初はクレープ屋周辺だけど、それが繁華街全域へと広がると、被害の想像もつかないよ」
そうなってしまう前に灼滅するしかない。
「敵についてはわたしから説明しよう」
そう言って誠一郎の横に立つのは貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)だった。
「今回の恐竜のイフリートは動きは遅いようだ。だが体が大きく、堅い皮膚に強靭な肉体を持っている。そして頭部の角が強力な武器のようだ」
敵の長所を潰し、短所を攻めて巧く戦えば勝利に近づくだろう。
「他にも、強化一般人と化した人々が6名いる。この人々は恐竜を守ろうと動く。対処を考える必要があるだろう」
原始人化をした人々は大勢いるが、その中の6人は恐竜を害するものに敵対行動をとる。ただ強化一般人となっても原始人化しているので、何か気を引くことが出来れば対処も簡単かもしれない。
「人々がおかしくされるのを放っては置けない、今回の任務にはわたしも参加させてもらう。共に恐竜のイフリートを討とう。よろしく頼む」
イルマは頭を下げ、灼滅者のチームに加わる。
「せっかく涼しくて過ごしやすくなってきたのに、また夏に逆戻りしたくないからね。みんなでこの迷惑なイフリートを倒してきて欲しい。お願いするね」
誠一郎は皆を見送りながら最後に一言をつけ足す。
「あ、お土産にキャラメルクリームのクレープをお願いするよ!」
参加者 | |
---|---|
リズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401) |
稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450) |
華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389) |
神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337) |
椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137) |
紅羽・流希(挑戦者・d10975) |
エリス・メルセデス(エンドレスデザイア・d22996) |
正陽・清和(小学生・d28201) |
●クレープと恐竜
賑やかな繁華街。甘いクレープの焼けた香りの漂う場所。だがそこは普段とは違う喧騒に包まれていた。
窓ガラスが割れて散乱し、自転車やバイクが倒され何か鈍器で殴ったように破壊されている。
「ンンバッ」
「ンバンバ」
その周辺に居たのは服を破り、原始人のような格好をした人々だった。手にした角材やコンクリート片で、手当たり次第に文明的なものを破壊して回っていた。
「イルマさん、今回はよろしくお願いしますっ! またこうしてご一緒できて嬉しいですよ」
「こちらこそ、今回もよろしく頼む」
原始人に見つからないよう物陰に隠れ、笑顔で挨拶する華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)に、貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)も頭を下げる。
「んと……目的はよく、わからないけど……。放っておくわけには、いかない、よね。」
隣で正陽・清和(小学生・d28201)は原始人と化した人々を遠巻きに眺め、一つ頷く。
「……わたしでも、戦いならちょっとは先輩方のお役に立てるはず……。……が、がんばります……!」
「ああ、わたしも全力を尽くすつもりだ。一緒にがんばろう」
緊張に震える手をぎゅっと握り締めて気合を入れると、イルマも頷いて原始人の様子を窺う。
「恐竜の前にまずは原始人が相手ね。準備はいい? 始めるわよ」
自転車に乗った稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)は、自転車に設置した電飾を光らせるとハンドマイクでサイレンを鳴らす。
「ウンバ、ンバンバッ」
その派手な音に引き寄せられるように、原始人達が集まってくる。
「さあ、まずは前座を片付けるわよ!」
ピンクのスウェットを着た晴香が自転車から跳躍すると光に包まれる。するとダイナマイトモードの派手なリングコスチュームを身に纏って着地した。
「ンバンッ」
その様子を物珍しそうに見た原始人達がどんどんと集まってくる。
「恐竜だとクレープよりはドネルケバブの方が似合いそうだが、さておき」
原始人達の前に出た椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)が仲間の方へ振り返る。
「これ以上街の人達を巻き込む訳にはいかないから、とっとと片付けてみんなでクレープ買って帰ろうぜ」
そう言って自らの腕に切り傷を付ける。するとその傷から炎が噴出す。同時に全身から殺気を周囲に向けて放った。
「ンロロロッンロ!」
「ンンッバッ」
すると恐慌して原始人達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。その中で場に残ったのは6人の原始人。強化一般人と化した者達だけだった。
「ンーババンババ!」
その内の1人が物陰でもこもこの毛布を被った人物を見つける。覗き込むとその人物は携帯ゲーム機に熱中していた。
「ああ……! どうして好感度が下がるのよ、ちょっと借金があるって言っただけなのに……!」
それはバランス栄養食を齧りながらゲームをしているリズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)だった。画面のイケメンキャラにぶつぶつと文句を言いながらボタンを押す。
「ンババーンン!」
原始人はそのゲーム機を叩き落とす。ガッシャーンとアスファルトに叩きつけられた。
「あああああああ!!!! せっかく個別ルートに入ったのに!」
リズリットは叫んで原始人を睨みつける。
「なんてことするのよ! ゲームは買いなおせても、壊れたデータは戻らないのよ!!」
怒りのままにリズリットは目の前の原始人に光を撃ち込んだ。
恐竜の近くに居た原始人達が派手な音と光に向かって走り出したのを見送り、身を潜めていた灼滅者達が現われる。
「……こんな、街中に、恐竜、ですか……。……なんだか、とっても、ミスマッチ、ですね……」
神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は恐竜を見て呟く。恐竜は我関せずと、クレープ屋に長い首を突っ込んで匂いを嗅ぐようにしていた。
「このイフリートさん、甘い物、好き、なんですかね……」
そんな様子に、蒼は少しだけ親近感が湧いていた。
「……恐竜さん、も……クレープ……興味あるんでしょうか……?」
隣から恐る恐る覗いていたエリス・メルセデス(エンドレスデザイア・d22996)も、少しだけ緊張を軽くして恐竜の動きを目で追う。
「大都会に怪獣出現ですか……。映画でしか見られな光景ですがねぇ……」
恐竜の巨大な姿を見た紅羽・流希(挑戦者・d10975)も、まるで映画のよな光景だと、どこか現実感のない恐竜の姿を眺めた。
「さて、ESPを発動しましょう……。それにしてもシュールと言いましょうか、なんと言いましょうか……。何で原始人化するんでしょうかねぇ……?」
走り去った原始人達の方角を見て首を捻りながらも、流希は音を封じる結界を張る。
恐竜がゆっくりと店から顔を抜き出す。その口元にはチョコやクリームがたっぷりと付いていた。
『ギギュッ』
一鳴きすると、漸く先程の音が気になったのか、方向転換をして歩き出す。
「……あ、恐竜さん、動き出しました。と、止めないと……」
エリスの言葉に蒼と流希と武流が頷き、4人は熱風と共に迫る恐竜に挑む。
●原始人
「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
待ち伏せしていた紅緋が飛び出す。腕を鬼の如く巨大化させて振るう。拳の一撃で原始人を吹き飛ばした。
「グェッ」
原始人は地面を転がり壁にぶつかって動きと止めた。
「少し眠っていてもらおう」
イルマの影が黒い獣となって原始人を背後から襲い押し倒す。
「……ご、ごめんなさい……!」
そこへ清和が炎を纏った運動靴で顔を蹴り飛ばし、意識を刈り取った。
「ンンババッンバッ」
原始人の1人が角材で襲い掛かってくる。
「どうしたの、そんなもんじゃプロレスラーには傷一つ付けられないわよ」
それを晴香は平然と腕で受け止め、逆に相手に回し蹴りを放って吹き飛ばす。その体が隣の原始人に当たり纏めて地面に転がる。
「ンバッンンッ」
「この、ゲーム機の恨みよ! 壊れてたら後でちゃんと弁償してもらうからね!」
原始人が投げつけるコンクリート片をリズリットは躱すと、足元の影を伸ばして原始人の足を掴んで引きずり倒した。
「ンロロロロ~!」
「ンンッンババッ」
攻撃を受けた原始人達が興奮して灼滅者に襲い掛かって来る。だがそれを遮るように人影が現われた。それは手伝いに集まった灼滅者達だった。
「小春、行きまひょか」
そう呼びかけると、駆け出した薫と霊犬が原始人を蹴り倒す。
「少しの間下がっててくださいねー」
亜梨は普通の原始人達が巻き込まれないように気を配り、強化一般人や恐竜に近づかせないように誘導する。
「せ、せっかくの甘味を独り占めするとはなんと羨ましい奴、成敗してくれる!」
「クレープ美味しそう!押さえきれない食い気が……」
アルカンシェルと藺生は店から漂うクレープの香りに心奪われながらも、逃げ遅れた原始人に手を貸してやる。
「クレープを買って帰るためにも、クレープ屋を壊さないようにしないとね」
ピアノは傷ついた味方に霊力の光を放った。
「爬虫類型なのですから冬場は冬眠とかすれば、と思うのですが……。まあ、自身で熱帯を作り出せるのですから関係ありませんか」
絶奈は原始人の前に立ち塞がり腕に装着した巨大な杭を構える。
「原始人化って見た目的にはアレなのに、どうも深刻さを感じにくいほうが問題な気がするよ……」
「ンバッ」
殊亜はスマホを見せびらかすように手に持ち、壊そうと迫る原始人の攻撃を躱してイルマ達に声をかける。
「ここは任せて、イフリートの方に行って!」
「後は私達だけでどうとでもなります」
原始人を吹き飛ばした絶奈が振り返り頷く。その言葉に原始人と戦っていた灼滅者達は恐竜の元へと駆ける。
「ご助力感謝を、この場は任せる!」
感謝の言葉を残し、イルマもその後に続く。
『ギュィッ』
恐竜の突進を武流はサイドステップで避けると、手から光の刃を生み出す。
「貫・通・旋・断、ストレートフラッシュ!」
通り過ぎようとする恐竜の前足に刃を突き刺し、刀身に炎を纏わせて恐竜の足を傷口から焼く。
『グギュッ』
恐竜は足を止めずに、方向を変えて武流を巻き込もうとする。
「さてと、恐竜退治と洒落込むとするか。どんな思惑でこんな所に現れたのかは知らんが、これ以上貴様が居るとここが原始人付の動物園になってしまうんでな」
冷徹な声で告げると、流希は跳躍すると大鎌を振り下ろす。刃が胴体に食い込んだ。
『ギュギュギュー!』
恐竜は尻尾を薙ぐ。鞭のようにしなると流希を吹き飛ばした。更に尻尾で追撃しようと振り上げる。
「制約の呪いを、貴方に……」
その尻尾に向けて蒼は銀の指輪から魔弾を放つ。それは尻尾に直撃すると傷口から周囲を汚染し、感覚を乱したように尻尾の一撃は狙いを逸れて地面を叩いた。
「……だ、大丈夫、ですか……?」
エリスは光輪を小さく分裂させて投げ、流希の傷を癒すと共にその身を護る盾と成す。
『ギュィィィッ』
恐竜は地響きを立てながら、首を伸ばして頭から突進してくる。
●恐竜
身構える灼滅者の前に、人影が飛び込む。恐竜の顔を横からドロップキックで打ち抜き、恐竜は方向を誤ってビルの壁を突き破って顔を突っ込んだ。
「お待たせ! ここから乱入させてもらうわよ!」
着地した晴香が振り向く。そこへ恐竜の尻尾が襲い来る。
「……あぶない……!」
その前に割り込んだ清和が360度分度器で尻尾を受け止める。尻尾を弾き返したが、衝撃に清和の体も吹き飛んだ。
「大きいだけあって力は強いみたいね」
リズリットは夜霧を展開して仲間の傷を癒し、広がった霧が敵からの視界を乱す。
『ギュッギュィッ』
「これが噂の恐竜型イフリートですか。先日水族館で恐竜の骨格模型を見てきましたが、これは化石と違って元気ですね」
恐竜がビルから顔を出したところへ、紅緋が魔弾を撃ち込んだ。だが弾丸は突き出た鱗に弾かれて飛んでいく。
「突き出た鱗の部分は硬いみたいですね」
「……でしたら、鱗の薄そうなところを、狙いましょう……」
蒼が影を伸ばすと、鎖となって恐竜の体に絡み付き動きを止める。
「ここはどうだ!」
好機と懐へとイルマが飛び込み、下から青く輝く剣を腹に付き立てた。
『ギュィギュィィッ』
怒ったように恐竜は鳴くと、頭の角をイルマに向けて振り下ろす。その攻撃を隣に立った流希が大鎌の柄で受け止めた。
「っ……甘い物ばかり食べて太りすぎなんじゃないか?」
重い一撃に流希が膝をつく。だがその間にイルマは間合いの外へと逃れていた。
『ギュィィィッ』
恐竜は僅かに頭を上げると、もう一度角を振り下ろす。
「……わわ、た、盾を……!」
エリスがその前に光輪を投げ入れる。角はそれを打ち砕くが、その結果勢いが弱まり、流希は大鎌の柄を斜めにして受け流す。
「疾走光条、ダッシングビーム!」
そこへ駆け寄った武流が跳躍し、横に構えた光の刃を首に突き刺し、勢いのまま横に斬り裂く。そして着地するとそのまま後方へと走り抜けた。
『ギュィギュィッ』
恐竜は長い首を回し、反転して武流を追う。炎を纏い突進する恐竜に、晴香が横から跳んでエルボースマッシュを浴びせる。
「恐竜相手にプロレス……面白いじゃない。文字通りの恐竜プロレスをやってみたかったのよ!」
晴香は肘打ちの勢いのまま空中で回転しローリングソバットを叩き込んだ。
『ギュ』
「体が硬いなら、これでどうでしょう」
顔を打たれて怯む恐竜に、紅緋が指差すと指輪のガーネットが輝く。すると恐竜の足が石化していく。
『ギギュィィッ』
恐竜はその場で旋回を始めた。炎を纏った長い尻尾が周囲を薙ぎ払う。
「ファイアブラッドとして、炎で負けたくないんでな!」
武流はその尻尾に立ち向かい、光の刃を振るう。刃が尻尾に食い込むが、押し負け吹き飛ばされる。だが纏う炎を消し去った。
「その図体で暴れまわられると迷惑だ。少しコンパクトにしたらどうだ」
続けて流希が跳び込むと、上段に構えた刀を振り下ろす。その刃は武流が傷つけた部分に斬りつけ断ち切った。尻尾が中ほどで分断され、先端が宙を舞い壁に突き刺さった。
『ギィィギィィィ』
恐竜が甲高く叫ぶ。すると体の突き出た鱗が更に盛り上がり、まるで棘のように鋭く尖る。
『ギュィィィィィィッ』
傷口から炎を噴出し撒き散らしながら、恐竜は流希目掛けて一直線に駆け出す。その後方にはクレープ屋があった。
「……炎を、消します。舞え、氷刃の嵐……」
蒼が手にする槍の刃は純白のように白い。一振りすれば同様に白い氷柱が舞い飛び恐竜の胴体に突き刺さる。続けて放たれる氷柱が飛び散る炎を消火していく。
「このままでは被害が大きくなる、動きを止めよう」
その氷柱を追うようにイルマが接近し、影の獣が恐竜の右足に喰らいつく。だが恐竜は歩みを止めない。
「……お店にめいわくかけたら、ダメ、だよ……」
清和は手袋を嵌めた拳で左足を殴りつける。すると放たれた霊糸が絡み付き動きを阻害する。勢いが弱まりながらも、恐竜はまだ進む。
「壊したら弁償しなくちゃならないのよ。しかも私がクレープ食べられなくなるでしょ!」
「……クレープ屋さんは、壊させません……」
リズリットは左手で刀を抜き放つ。刃は煌き恐竜の後ろ足を斬り裂く。そしてエリスの放った光輪が反対の足に突き刺さった。
「まだ食う気か? なら俺がご馳走してやるよ。激苦の一撃をな」
正面から迫る恐竜に、流希は口目掛けて刀を突き刺す。そこで漸く恐竜は足を止めた。
『ギュギュィッ』
恐竜は舌に刀を突き刺したまま頭を振り回す。流希は刀を手放して身を引いた。そこへ恐竜は首を振り、流希の脇腹を棘のような鱗で抉る。
「イルマさん、一気に畳み掛けましょう」
「了解した」
紅緋が頭を振って低くなった頭に潜り込み、巨大化させた腕で顎を打ち抜く。そこへイルマが跳躍し、剣を左目に突き立てた。
『ギィィィィッ』
恐竜は痛みに頭を振り回す。
「……これ以上、壊させません。……奈落へ、堕ちろ……」
蒼の腕が鬼の如く巨大化し、貫手が腹を貫き大きな穴を開ける。
「今は狩りゲーなんてする気分じゃないのよ」
リズリットがその傷口に刀を突き刺して深く抉る。すると恐竜は倒れるように圧し掛かろうとする。
「……よ、避けてください……!」
後ろからエリスは光輪を投げると、リズリットは屈む。すると小さな光輪を展開され、それが壁となって僅かな時を稼いだ。その間に晴香が恐竜の後ろ足に組み付く。
「っせえ! 私のバックドロップから、立ち上がってこられるかしらっ!!」
全身の力を使い、まるで大木を引っこ抜くように晴香は恐竜を持ち上げる。そしてそのまま後ろに投げ飛ばした。
『ギュッ』
衝撃に地響きが起こりアスファルトが砕け散る。恐竜の口からは潰れたような声が漏れた。
「……悪いことをしたら、おしおきです……!」
駆け寄る清和は、起き上がろうとした恐竜の顔を炎を奔らせながら蹴りつける。
「これで最後だ、全力でいくぜ!」
『ギュギュィッ』
身を捩らせて恐竜は首に並ぶ棘をぶつけようとしてくる。武流はそれを蹴って躱し、頭に光の刃を突き立てた。
「燃え尽きろ!」
刃が炎を纏う。頭を内部から焼き尽くし、爆散させた。恐竜の全身が火を吹き、その体は燃え尽きて消え去った。
●クレープ
甘い香りが漂う。事件も終わり、無事だったクレープ屋は何事も無かったように再開していた。
「クレープくださーい。……一番安いやつを。変な目で見るな、改心させるぞコラ」
その注文に訝しげな顔をする店員に、リズリットは威嚇するように目を細めた。
「……なんでしたっけ……、生、きゃらめるくりー、む?」
蒼は誠一郎のお土産を思い出そうと首を傾げる。
「ぇと……お土産に、キャラメルクリームのクレープ……」
そこへ清和がフォローを入れる。
「イルマさんは何にするんですか?」
「わたしはこのモンブランにしてみようかと思う」
じーっとクレープを見ていた紅緋が尋ねると、イルマは季節限定と書かれたメニューを指差した。
「いいわね、私もそれにしようかしら」
後ろから見ていた晴香もそれを一つと注文すると、ならわたしもと紅緋も同じ注文をする。
「あ、俺はチョコバナナ生クリーム一択な!」
最初から決めていたと武流は即決で注文する。
「……あ、あの、おすすめは……」
店頭で悩んでいたエリスが、勇気を振り絞って店員に小さな声で質問する。
「お勧めはこのベリーブラウニーよ」
「……そ、それください……」
店員の勧めた品を一つ深呼吸して注文すると、それを聞いていた蒼と清和も同じものをと手を挙げた。甘い香りが強さを増し、皆の期待を膨らませる。
「労働の後の甘い物は美味しいですねぇ……」
流希はキャラメルクリームのクレープを頬張っていた。隣ではうめぇと武流も口を大きく開けて齧りついている。他の仲間達も出来たての温かいクレープに舌鼓を打つ。
「何をしているんだ?」
「イルマさんもやるといいわ。嗜みとして」
クレープを齧りながら尋ねるイルマに、リズリットはクレープを食べながら遊んでいた携帯ゲーム機を見せた。
「わたしもゲームをした事くらいあるぞ。確か恐竜がしりとりをするゲームだったか……」
そう顔を上げて答えるイルマの鼻の頭には、美味しそうなマロンクリームが付いていた。
作者:天木一 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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