枯レタ詩~君に捧げる言の葉

    作者:那珂川未来

     寝息を立てている女性の傍に、宇宙服のような不思議な服を纏う少年がふわりと。
    「君の絆を僕にちょうだいね」
     そっと耳元で囁くと、頭の上に不気味な卵一つ――。

     奈央は職場の結婚式場で、自身が着る予定のドレスを前に何とも言えない顔をしていた。
     昨日まで、弘樹との結婚を心待ちにして、期待と希望に胸をときめかせていたというのに。なんでだろう。今は喜びが一つもわかない。
    「奈央ちゃん。試着するよー」
    「……あ、うん」
     同僚に呼ばれ、奈央はおずおずと座って。
     うきうきしている同僚、周りが盛り上がるテンションに付いていけず。そして、結婚を心待ちにしている親のことを考えれば、そんな気持を出してもいいのかさえ分からずに。
    「――ゃん、奈央ちゃん?」
    「あ、ごめん。考え事しちゃって」
    「もしかしてマリッジブルー?」
    「うん。なんだか……愛の誓いを挙げる相手は弘樹じゃないような気がして……こんな事考えるなんて……」
     同僚は驚いたが、不安を取り除けるような言葉を掛けて。奈央の心は疑問でいっぱい。何かもう根本的なモノを失って、まるで赤の他人のような――。
     寿退社の予定、それが今は、凄く後悔するほどで。
    (「どうしたのかしら……このままじゃ、神父の前で誓いの言葉なんて言えそうにない……」)
     衣装合わせを終えて、奈央は時計を見やり。
    「明日のブライダルフェアーの準備もしなくちゃ……」
     午前はドレスの展示会。そして、午後からは職業見学の担当。
     結婚のことなど頭から消して、やはり退社するのはやめたいくらいに、仕事の方が何よりも大事になっていた。
     
     
     媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)の予測が現実になったと、仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)が告げた。
    「人の絆を、愛を奪うなんて……」
     初夏、おばあさんと猫との絆を奪った事件に携わったまほろ。ベヘリタスは、きっとまた人の絆に手を出してくるに違いないと予測をしていたが。いつもは柔らかな印象のまほろも、予測が当たったことに憤りを滲ませ。しかしそれを防げることに、真剣な眼差しを向けて。
    「初めて係わる人もいるだろうから、ベヘリタスに関しての事を軽く説明しておこうか」
     絆のベヘリタスと関係が深いだろう謎の人物が、一般人から絆を奪い、絆のベヘリタスの卵を産み付けているらしい。放置すると、絆のベヘリタスが孵化してしまい、四大シャドウの一つが増殖してゆく――それこそまさに悪夢にも等しい。
    「孵化した直後を狙えば、条件によっては弱体化させる事もできるので、絆のベヘリタスがソウルボードに逃げ込む前に、灼滅して欲しいんだ」
     その条件とは、被害者と絆を結ぶこと。
     憎しみでも友愛でも何でもいい。とにかく相手の心に残るような会話や、行動をすればいい。彼女の結婚のこととか、仕事のこととか、話題はあると思われる。
    「羽化は五日後なんだが……接触できるのは、羽化前日。その日奈央は仕事なんだが、結婚式場のイベントで自由に出入りできるから、接触は容易」
     式場の企画は十時から。午前中はウェディングドレスの展示と試着会にいるので、ネームを見て坂上奈央を探せばいい。午後からは学生の就職活動などによる、職場見学会がある。
    「ドレスの展示会には、フラワーガール、ボーイなど、新郎新婦に花を届ける子供達用の衣装(但し十歳以下のもの)と、男性女性用の婚礼衣装。ここで着るなりして奈央に接触できるね。そして午後からの職場見学は、高校生や大学生くらいの身丈でそれっぽい恰好をしていれば問題ないだろう。当日学校名と名前を記載すればいいだけの簡単なものだから、あとは見学しながら絆を結べばいい。接触するにも様々な手段があるんじゃないかな?」
     その日絆が結べれば、次の日出勤前の彼女に接触して、生まれ出でたベヘリタスを倒せばいい。絆が強ければ強いほど、受けるダメージは減り、こちらの攻撃力は倍増する。
     接触ポイントと時間は、地図に示された路地の中央、時間は八時。普通の路地なので人の対策も。もちろん、八時前に早めに路地を歩いて接触し、ギリギリまで絆を結んでもいい。
    「出てきたベヘリタスは、仮面を付けたロマンスグレーの神父。逆十字を振り下ろし、背徳の書物で攻撃してくる」
     絆を結ぶこと無く正面から戦ったら、まず間違いなく負ける。生まれたばかりでも四大シャドウの一つ。
     ソウルボードへ逃げられる前に、絆を力に変え、ベヘタリタスを十分以内に倒すのだ。
    「それと、絆のベヘリタスを倒せば失われた絆は取り戻すことができる。その辺りのことも、上手くフォローしてあげられればいいかなと」
     ただし相手から軽蔑されたり憎まれている状況では、さすがにそれは難しいものになるので、そうした点も踏まえつつ絆を結ぶのが、良いのかもしれない。
     頑張ってほしいと、沙汰は灼滅者を見送った。


    参加者
    媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)
    高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)
    廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)
    サフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)
    天城・光恵(悪を刈りし者・d23603)
    レオン・ヴァーミリオン(暁を望む者・d24267)

    ■リプレイ

    ●夜明け前
    「絆のベヘリタス、か……」
     教会を見上げて、相見えるのは初めてだなと、叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)は独りごちた。
    「またコイツかよ……」
     誰に言うでもなく密やかに呟く高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)は、ベヘリタスとは二度目だ。しかも狙われているのはまた、愛する絆。秋色の瞳には、普段見せるような明るく人懐っこい雰囲気は無く、見え隠れするのは切れそうなほどの鋭さ。
    (「結婚しようとするくらいの男女の絆、そこまで育てるのにどんだけ色々あったと思ってんだよ……」)
     人が人として生きる為に大切な、血縁以外の繋がり、絆。それを掠め取ろうなんて絶対に許せない。琥太郎自身がまだ、そこまで強い絆を結べるヒトに出会えていないためか、憧れもあって。
     しかし、いみじくも琥太郎が言うように、絆というものはただ接触すれば結べるわけでもない。
    「絆を作るのに傷つけるやり方なんざ後が面倒くせえ」
    「やっぱり笑顔でハッピーな結婚させてあげたいもんね」
     喜び、悲しみ、色々あるが。短期間で受けるならば、確かに負の印象の方が強い。事後にまで余計な神経使うくらいなら、スマートに終わらせる方がいいと、若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)はサングラスを胸元にしまいながら嘯いているが、奈央を慮ってのこと。これ以上『傷』を彼女が受ける事、不幸を重ねる必要なんてない。
     廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)も持ち前の明るさで、頑張るよーと気合い十分。
    「明けない夜はないからね」
     柔らかに双眸を細めながら、レオン・ヴァーミリオン(暁を望む者・d24267)は襟を正し、
    「さぁ、行きましょうか」
     暁を取り戻しに。

    ●フェアー
     純白やカラードレスが所狭しと並んでいる中。天城・光恵(悪を刈りし者・d23603)は試着を終えたドレスを、再びマネキンに着せている奈央を見つけて、速攻で張り付きに行く。
    「汝、何をしておるのだ?」
    「素敵なドレスを沢山の人たちに見てもらえるように、こうやって飾っているのよ」
    「決めた! 汝を私のけらいにする!」
     いきなり指差されてそんなことを言われ、奈央は苦笑気味に、
    「君のお名前何かな~?」
    「我が名はミシェル。堕天の力を宿し悪と戦う正義の戦士である」
     コメントに困る奈央。
    「おお、あそこに、神の前で絆を誓う儀式の正装を求める者たちがおるではないか!」
    「ふわ、ちょっ!?」
     光恵は奈央の手を強引に引っ張って、媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)とサフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)へご案内。
     ともあれ、変わったお子さまがいるぞ、といった具合にインパクトに関しては強烈だった模様。
     気を取り直して、姉妹役の二人と和やかに衣装選び。奈央はサフィの雰囲気に合わせて、白地に小花を散らしたものやボレロ付きの若草色ドレスなどを探してくれたりして。
    「わ、可愛いです」
    「サフィに似合いそうですね」
    「あと、淡いピンクのものあったはず……」
    「うむ。私も探そう」
    「あのね、ミシェルちゃん」
     探すのを手伝ってくれる事は有り難いけど、そろそろ親御さんのところに戻らないと探してるかもよと、奈央がそれとなく声をかけるから、光恵は頬膨らませ拒否。親の事に関しては居ないとだけ。
     しかし親じゃなくても保護者は居るだろうし、帰りたくないのは家出だったら……などなど、そんな奈央の様子を感じたので、
    「素敵なお仕事だから、一緒にやってみたかったのかな?」
    「この場所も幸せ色沢山、お姉さんもキラキラして素敵ですし……私も気になるです」
     まほろは微笑ましげに笑って、しばらく一緒にいましょうかと気を利かせ。サフィも年の近さを理由に同意して見せ。
     彼女の目を盗んでこそこそ話。奈央は仕事中。このままの接し方で光恵が一日張り付くのはまずそうだ。特に午後は一般の学生も混じるので、強制的に引き離されるだろう。迷子のご案内だとか保護扱いになってもこれまた大変。
    「こちら、着て良いですか……?」
     サフィはフィッティングルームで試着を手伝ってもらい、クルンと回ってお披露目。
    「凄くお似合いですよねー」
    「わ、素敵……! 良かったですね、サフィ」
     サフィははにかむように笑って。
     向こうも接客業の人間だから、借りてくれる期待も込めて、それなりに印象を持ったに違いない。


    ●見学
     会議室で案内のしおりを数えていた奈央へ、まほろは早速挨拶。まさか担当が奈央様だったなんてと、嬉しそうに。
     サフィも小さく手を振って。勿論お仕事の邪魔しない様に、待ってるつもりだと告げて。
     奈央も、縁あるなぁとちょっとテンション上がった模様。
    「こんにちはー♪ まほろちゃんのお知り合いですかー」
     駆け寄って、弾むような笑顔で燈はご挨拶。普段はちゃんと目上は先輩と呼ぶけど、今回は高校三年生か大学生あたりしか来ない場所なので、同級生っぽく。
    「初めまして」
    「今日はお世話になるッス!」
    「よろしくお願いします」
     レオンはふんわりと、琥太郎は元気スマイル。弾は丁寧に頭を下げて。
     学校で、未だ就職先の希望が出ていない人全員ここに送り込まれた、ということにして軽く雑談しつつ、
    「教師に、どこでもいいから職場見学行って来いとここに来させられたんです。この通り無愛想なもんで、こんな仕事似合わないだろうに」
     ちょっぴり居心地悪そうな様子の宗嗣へ、まあ社会見学の一環だと思って堅苦しく感じずにと笑って、
    「確かに職人気質っぽそうだもんね、黙々と何かに打ち込む感じの。隣の子(弾)もスタントマンとか男らしい仕事とか似合いそうな体格だし……君(琥太郎)なんて、某アイドル事務所とかいけるんじゃないかなーって思うのよ!」
     琥太郎に、きらきらな眼差し向けて仕事関係ない話力説してる事に気付いた奈央は、
    「ごめんね!? ここってプランナーとかスタイリスト目標の女の子多くて、男の子の見学少ないから。なんだろう、凄いビックリというか緊張というか……」
     何バカなこと言ってんのかしらと、頬押さえて不思議がる。
     婚約者サン、すいませんッス! と、琥太郎は心の中で謝りつつ。同時に、こんなことさせんなよと、ベヘリタスへの憤りも。因みにレオンはこの仕事似合いそうと思ったとか何とか。
     ラブフェロモンで、一般人より琥太郎に興味を持っているので、同行者含めこちらへ頻繁に取り合ってくれるだろう。もちろん中身がなければ、効果が消えた瞬間印象薄くなる恐れもあるが。
    「あの、すいません。良かったらこの仕事のやりがいとかって教えてもらえないッスか?」
     琥太郎は熱心に質問し、メモ取って、弾は相槌しっかりと。まほろと燈は式場の舞台裏を訪れるたびに、好奇心いっぱいに。
    「血縁者が一人もいない、所謂天涯孤独な身で、結婚式とか式場とか、今まで全く縁が無かっもたんで……」
     情に訴えるようで心痛いが、宗嗣は当たり前の作法などを聞きながらこういった子がいるんだと印象付けるように話を向けて。
     レオンは、最後に回った教会で、後日式をあげる新郎新婦が段取りを確認し合っている様を見ながら、
    「あー、……オレ、他人の幸せなとこ見てるのが好きなんです。なんか温かい気持ちになりません?」
     レオンはステンドグラスから零れ落ちる輝きに目を細めながら、
    「だから、お姉さんのしてること、すげー仕事だな、って思います」
     人の幸せを祈れる気持こそ、人として大事な事だと再認識しましたと。
    「俺も人を笑顔にする……そんな事を生業にしたいと思ったぜ」
     灼滅者としての生き様か、当たり前の社会でか、それは彼にしかわからないが、弾のこの気持ちは本心であるが故に、語気は柔らかく。
    「燈も将来は、お姉さんみたいに誰かの幸せをお手伝いできるお仕事に就いてみたいなって、お姉さんを見ててそう思うよ」
     懐っこく笑う燈。そう言われれば、奈央だって嬉しい。しかも見学会で、こんなに会話が弾んだのも珍しいらしい。若い子たちに社会の中で生きる姿勢をちゃんと学んでもらえたなら、案内したかいがあると実感できるから。
     レオンが、柔和な笑みを浮かべながら、
    「お姉さんもドレスとか着てみたいって思います?」
     それとなく話を振って。
    「あ、え、そりゃ……勿論女の子の憧れだもんね」
     微妙な間と、微妙な表情の奈央。
     頭の上にある不気味な卵。手を伸ばせば取れそうな位置にあるというのに、今どうにもできない苛立ちに、弾は心の中で舌打ちする。
    「わ、もしかして婚約指輪? 可愛い~♪ センスいい彼氏さんだねー」
     女の子らしく、目ざとく指輪を見つけて褒める燈。
    「なら式は、近々?」
    「実は、十月にするの」
     奈央も大人だから、宗嗣へ嬉しそうに笑って見せるけど。幸せですという雰囲気が感じられないことに、まほろは、奈央も抱いているであろう苦しさを感じずにはいられない。
    「結婚は人生の墓場、などと言いますが、とんでもない。一つのゴールではありますが、同時にスタートでもあると思いませんか?」
     奈央はまほろに、そうだねと頷くだけで、不安は決して出さないけれど。
    「大丈夫……幸せな式に、なると思いますよ」
     宗嗣は無表情ながらも、揺ぎ無い眼差しを向けた。


    ●愛の詩
    「お早う。偶然だな。私もこれから出かけるところなのだ」
     光恵は偶然を装って、早めの接触。
    「どこに行くの?」
    「これより夢の世界から出てくる悪魔を討つのだ」
     凄い自信満々に胸張る彼女を見て、要は普通に学校に行くんだろうなと、昨日の設定を理解してあげながら奈央は、悪戯っぽく笑ったその時、
    「えっ……?」
     奇怪な音と共に起きた現象、一般人の奈央には即座に理解できるはずもなく。
     だからそれが、ただの夢で終わるうち。夢見鳥の唄が風に流れて、見えない結界が張られた様に静けさの空間ができ上がる。
     仮面を付けたロマンスグレーの神父が、不気味な逆十字を地面へと突き刺し、生誕に吠えようとも。切り離された世界には、一般人の鼓動は奈央のものだけ。
    「すぐ戻るです」
     まほろの魂鎮めの風に崩れた奈央を、サフィはすぐに遮蔽物の向こうへ運び出す。
    「……また会いましたね、べヘリタス」
     罪の塊を睨みつけるまほろ。射線塞ぎながら、レオンは断ち切る刃を振りかざし。
    「ベヘリタス……一凶披露仕る……」
     時間は決して多くない。ご挨拶もそこそこ、宗嗣は無銘蒼・禍月を逆手に、鋭く間合いへと斬りこんだ。
     ベヘリタスから、爆炎が灼滅者たちへと牙をむく。
    「その程度」
     火炎突き破りながら、懐へと踏みこむ宗嗣。
     絆のおかげなのだろう。肌が軽く焦げる程度のダメージ。本来なら食い込む熱傷に鋭い痛みが走るところだろうが。
     禍月が晴天の空に蒼を描く。
     次いで爆炎突き抜け迫るのは、鋭い鬼の爪。
    「絶対に灼滅するんだから!」
    「参ります!」
     奈央の為にも。婚約者の為にも。これから細く長く、脈々と続く絆を燈とまほろは必ず守ってあげたいから。
     ベヘリタスの脇腹を抉った鬼の腕、二つ。
     その人物だけの絆のタペストリーを再び紡ぎ直す歯車のように、琥太郎の操る妖の槍が鋭く旋回しながら、ベヘリタスの傷へと喰らいつく。
    「それは、誰かが横からかすめ取っていいモンじゃねーんだよ……っ!」
     一閃。また一閃。肌を奔る斬撃。
     ベヘリタスは吠えながら、逆十字で薙ぎ払うように琥太郎の着地点を狙ってきたが、遮る躯体は鋼。
    「絆を奪おうとする奴が結婚式場で神父のモノマネとはな。舐めてんじゃねえぞ」 ターンしてくるデスセンテンスと呼吸合わせ。弾は黒鉄のような縛霊手を握りしめた。
     天を衝く様に振り上げるアッパー。よろめくベヘリタス。
    「気魄属性に弱ぇぞ!」
     弾は着地ざま仲間に周知。重なるように迸るのは、ベヘリタスからの炎。バランスを崩しながらも放つ炎は、生き物のように前衛陣を飲みこんだ。
    「任せろ!」
    「りょうかいっ! いっくよー♪」
     光恵のセイクリッドウインドが火炎の魔力と衝突する。痛みの後の治癒の響きに後押しされながら、春雷振り上げ、跳ね上がる燈。轟くほどの一撃に乗る、宗嗣の死角からのティアーズリッパーが、背から心臓を狙うように入った。
     エルの解き放つ六文銭が、ばらばらとベヘリタスの体を穿ってゆく。
     光恵は再びクルセイドソードを構え、スナイパーポジションを生かして鋭く狙えば、
    「堕天の力を受けてみよー!」
     絆の力でブーストされて。ベヘリタスの肩が歪むほどの衝撃。琥太郎のWilleの尖端が輝き増して。
    「それは、誰かが横からかすめ取っていいモンじゃねーんだよ……っ!」
     彗星の如き破壊力に、ぶっ飛ぶ肩の一部。けれど無形のシャドウ、暗黒たゆたらせながら吐き出すものは毒の弾丸。
     奈央を安全圏に置いて戻ってきたサフィを狙い撃ちにしてきたのだ。
     けれど主の帰還を待ちわびていたエルが、その小さな体を投げ出すように。
    「エル……!」
     衝撃にアスファルトを転がったが、メディック不在の穴埋めとして、弾の祭霊光がすかさずカバー。ここまで大事になっていないのは、度合いの違いはあるものの、全員がちゃんと絆を結んだから。
     有難うですとサフィは礼を言いながら。
    「癒しの力は全て受け持つです」
    「はい。畳み掛けましょう!」
     サフィは星へ祈り、前衛陣へと厳かな星風を振り下ろして。
     星屑荒ぶ世界を、まほろの黒死の波動纏う螺旋の刃がリボンのように無尽に舞う。
     すかさず切り込むのは、レオン。
    「この人の絆を返してもらおうか。ついでに」
     七分経過をレオンは周知しながら、柔らか、とはかけ離れた鮮烈な笑み零し。
    「――その首置いていけ、寄生虫野郎」
     自身の体重も乗せる勢いで、高度からの戦艦斬り。
     かわせず、大腿部から半分以上削がれる足。
    「安らかに眠りたまえ、ってな」
     デスセンテンスの機銃がまるで執行の合図のように木霊し。
     弾の解き放った刃が、ギロチンのように背徳神父の首を刎ねたのだ――。

    ●捧げる言葉
     彼女はしばらく自分の現状を把握できずに戸惑っていた。
     そして、何か思うところがあったのか、奈央は突然、
    「あのね、私、貴方達に会うまで、結婚が怖くなってたの。本当に彼を愛していたのがウソみたいに何も感じなくなって……でもね?」
     戻ったの。不思議なくらい迷いが消えたのと、奈央。
    「大切だから、恐かったり迷ったりするんですよね?」
     当り前だと思うのですと、サフィはふわりと微笑んで。
    「うふふ。貴方達とっくに……」
     人の幸せを願う仕事をしているじゃない。不思議な偶然から確信のない予感覚えたものの、その言葉を、奈央は心の奥にしまったまま。
    「言ったでしょ、誰かの幸せなとこ見てるのが好きだ、って。――ハッピーエンド以外はダメですよ?」
    「奈央様、どうかお幸せになって下さいね」
     レオンとまほろが柔らかに告げた時、コスモスの花が祝福するように揺れた。
     

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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