「九州にも援軍の呼び声がかかるほどですから、如何なる状況かと思えば、なるほど、予想以上に混迷しているようですね」
糸目の男が琵琶湖を臨んでいる。
少しくたびれた様子の濃色の袴。頭部に光る黒曜石の角。
「何やら灼滅者という輩が、何と愚かにも先の大僧正の作戦を阻害したと聞きました。はてさて何を考えているやら。しかしかつては慈眼衆に加勢していたようですし、いやはや何とも、我々には彼ら灼滅者の真意は図りかねますね」
男の口振りは丁寧だが、どこか胡散臭い。
「まあ、双方決め手に欠けたのでしょう。相手に隙を見せぬべくまた相手の隙をつくべく、互いに次々と戦力を増強している……といったところですね。軍拡に歯止めが効くことは無いに等しい。ええ、何とも、いつ戦になろうと不思議ではないこの張り詰めた空気、快いですね。身に染みます」
襟元を整え、男はくるりと琵琶湖に背を向ける。視界に映ったのは、軍服姿の男女。彼らが人形のごとく整然と並ぶ様を、男は満足気に見留めた。
「戦になればもちろん、我々は全力を尽くしましょう。この地は我らの物、自明の理ですからね」
一方、琵琶湖の対岸。
「わわわ、何だかやばいっぺ!」
「敵の羅刹共はあっちこっちに援軍を頼んでいるっぺ! 鞍馬天狗の手勢にうずめ様か何とかがよこした羅刹、朱雀門っちゅうところのもんや、えいちけーてぃーとか言う奴もいるみたいっぺ! これじゃ、いつ攻め込まれてもおかしくないっぺ」
あぐらをかいて座す刀剣怪人の元に、三人の琵琶湖ペナント怪人があたふたと走ってくる。それを刀剣怪人は動じることなく手で制する。
「そのようなこと、心配には及ばん。彼奴らも不用意に攻めて来ることはあるまい。何となれば、わしらが安土城怪人の元にもアメリカやロシアのご当地怪人を始め、レスラーを生業とするアンブレイカブル達が助太刀に来ておる」
それに、と刀剣怪人は低く呟き、側に置いていた巨大な刀を支えとし立ち上がる。
「わしは刀よ。誰が何人相手であろうが、戦場で身を引く道理などありはせんわい!」
おお、とペナント怪人から感嘆の声が漏れ。
「よーし、おら達もやってやるっぺ!」
意気揚々と槍を掲げるペナント怪人。刀剣怪人は豪快に笑う。
「ふははは! その熱意や良し。時が来れば、彼奴らにとくと思い知らせようぞ。この琵琶湖の地に相応しいのは、我らが安土城怪人であるとな!」
「琵琶湖の東西に陣を構える天海大僧正と安土城怪人、この二勢力の戦力は拮抗している」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は眉を潜め、いつに無く険しい顔をしていた。
「一度戦が始まれば人々に為す術は無い。琵琶湖一帯はたちまち焦土と化す」
そしてその衝突は、今にも火蓋を切ろうとしている――ヤマトはそう語る。
琵琶湖大橋を挟んだ東西のダークネスは、橋を確保しようと互いに軍勢を繰り出す。その戦いが契機となり、ひいては両勢力の全面戦争になるという。
「被害を減らす方法として考えられるのは3つだ」
1つ。
琵琶湖大橋に集まっている軍勢同士が戦いを始める前に、その双方を武蔵坂学園の灼滅者が制圧してしまう事。
これに成功すれば、天海大僧正の勢力も安土城怪人の勢力も武蔵坂学園の動きを無視することができず、一定の条件で休戦を結ぶことになる。最も平和的な解決手段だと言えよう。
ただし、戦力を二分するので困難な戦いになるのは必至。戦の阻止に失敗した場合は全面戦争になってしまうだろう。
また、ダークネス同士が休戦を結ぶ事は、武蔵坂学園にとっては不利益になるかもしれない。
2つ。
琵琶湖大橋の東側、安土城怪人の軍勢を一方的に攻撃する事。
これにより琵琶湖大橋は天海大僧正側が制圧する事になり、彼らはそのまま安土城怪人の本拠地に攻め寄せる。
戦況が不利となれば、安土城怪人へ増援に来ていた勢力の多くは撤退する為、安土城怪人の軍勢は敗走。琵琶湖周辺は天海大僧正勢力が支配することになる。
戦場となる琵琶湖の東側で被害は出るが、全面戦争に比べれば被害は殆ど無いと言っても過言ではない。
ただし、デメリットは天海大僧正の勢力が強い力を得てしまうという点。
3つ。
琵琶湖大橋の西側、天海大僧正の軍勢を一方的に攻撃する事。
琵琶湖大橋は安土城怪人側が制圧する事になり、彼らはそのまま天海大僧正の本拠地に攻め寄せる。
戦況が不利となれば、選択肢2つめの場合と同じく増援に来ていた勢力の多くは撤退する。天海大僧正は本拠地に籠城して徹底抗戦。その上で、灼滅されることになる。
何よりも天海大僧正の勢力が壊滅する結果になるのが大きなメリット。
だが、天海大僧正の徹底抗戦により琵琶湖の西側に甚大な被害が出ることは避けられない。
安土城怪人の勢力が強い力を得てしまうのもデメリットとなるだろう。
「いいか。この戦い、お前達がどの選択をしようと一切自由だ」
ヤマトは教壇から身を乗り出す。少し面食らったような表情の灼滅者達に、彼は続ける。
「どの選択が正しいか、そんな正解は存在しない。だから言ってしまえば、どの選択肢を選んでも正しいってことだ」
それでもなお難しそうに顔をしかめる灼滅者達へ、ヤマトは己の胸を指し示した。
「お前達の心の中に聞くんだ。戦場に広がる『道』……その中の、どの道を進みこの戦場を駆け抜けるべきか」
そして彼は、不器用ながらにこう告げる。
「この混沌たる戦場を、深闇の鎖に制約されることなく疾駆し、悠久の豊湖に光明をもたらすことができるのは、お前達、灼滅者だけだ。……頼んだぜ」
参加者 | |
---|---|
中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248) |
西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753) |
南風・光貴(黒き闘士・d05986) |
釣鐘・まり(春暁のキャロル・d06161) |
西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240) |
樫木・祐(翠炎・d18922) |
丸目・蔵人(兵法天下一・d19625) |
瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742) |
●西の幕開け
湖岸から吹きつける風は生温い。
戦の前の張り詰めた空気は圧縮された綿のようで、息苦しさすら覚えるほど。
ひやり汗ばむ体表とは裏腹に、心臓は熱く激しく脈動する。
開けた岸辺。そこで、袴の男と四人の灼滅者は対峙した。
「浪花ライダー・ブラック、参上!」
「ここは私たちがお相手しますよ!」
キャリバーを連れた少年南風・光貴(黒き闘士・d05986)に続き、光貴の前に割り込むように前衛に立つ瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)とその霊犬のルー。
樫木・祐(翠炎・d18922)は蓮の隣で、無言のままクルセイドソードの切先を彼らに向ける。常日頃の祐の穏やかな表情は引っ込められ、ぴたり空で止まる銀白の切先は、言い表せぬ真剣味に満ちている。
祐が声を発さずともわかる。――この四人が何をしに来たのか。
灼滅者と対峙する黒曜石の角の男は、両腕を組んだままくつくつと笑った。
「あなた方、怪人ではありませんね。 しかし我々と仲良くお話をしに来たわけでもない様子。はてさてどちらの方でしょう? アンブレイカブルにはどうも見えませんし、アンデッド……でもありませんね、生きておられますから」
かの羅刹が適当事をぬかす間に、彼の背後に整列していた軍服達がきびきびと配置に付き始める。
「わたし達のことは……今は……関係ありません……」
西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753) がゆっくり話し出す。のんびりとした口調、まったりとした足取り、戦意のなさそうな表情、まるで玉緒の周りだけ時の流れが緩やかになったようで。
ただ、と玉緒の口が小さく動く。
「全面戦争は……なんとしても……避けたい……ですから」
直後、ヒュアッと空気を切る音。玉緒が駆け出していた。
小さな弾ける音。それと共に玉緒の拳は雷撃に包まれる。
たゆんと揺れる彼女の残像は、前列でバスターライフルを構える軍服の男の前で直角に上方向へ。男の下顎に食い込む、雷を帯びたアッパー。
男の体が真上に舞う。それを見、光貴が地を蹴り出す。
「合わせるよ」
男が自由落下してきたところを、光貴はクルセイドソードで横一閃。果実の潰れるような呻きと共に男はひっくり返り、そして続けざまに光貴のバトルキャリバーがその男に突撃していく。
「まさか灼滅者なる方々ですか! それはそれは。わざわざこの琵琶湖までやってくるとは、何だか恐縮ですね」
その様子を一通り眺めた羅刹は、一体何が気に入ったのか短く笑う。
狐のような細い眼からは思考を読み取ることはできない。羅刹は余裕を持った動きで、組んでいた両腕を下ろす。その行動に、こめかみが焼け付くような嫌な予感がした祐。
「南風さん、下がってください!」
そうやって祐が光貴の肩を押した直後。砂塵を巻き上げる風が祐の肌を切り裂いた。頬を、肩を、腹を、脚を。守り手である祐は立っていられないほどではないが、その傷は深い。
そして、中列に立つ軍服の男女が片手を挙げた。その手にはめられた指輪が怪しげな光を放ち――その光が弾丸を形取ったかと思うと、空を穿ち此方へ迫る。
一つは蓮に。一つは玉緒に。回避の行動を取る前に、その光弾は二人の体にずくりと沈み込む。
「……っ!」
決して耐えきれないほどではない。が、動きが明らかに鈍くなった。蓮は悟る。
しばしの逡巡。それから蓮は手にしていた魔導書をはたりと閉じて、オーラを輝かせ始める。
「ルーちゃん、お願い!」
ルーは了解の合図に一声吠えてから、浄霊眼を蓮へ向ける。そして当の蓮は、ルーの癒しの眼差しを受けてから玉緒の隣に駆け寄り、集気法にてパラライズの解消を試みる。
しかし軍服らの攻撃は止まない。先ほどは盛大に転がった前衛の男も、今は何食わぬような顔で列に並び、バスターライフルのトリガーを引いた。横で同じ武器を手にする女の手元からも、カチリと引き金を引いた音。
太くまばゆい直光線と、円盤上の魔光線が前面で弾ける。加えて後衛で指輪をはめた男のかける石化の呪い。
祐に走った嫌な予感は、何故か一向に消える気配を見せなかった。
●東の黎明
「何奴!」
「誰かいるっぺか!?」
怪人達に気配を察知され、隠れて近づくことができるのもここまでだと西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240) は思った。刀剣怪人達は開けた場所に陣取っていたのだ。東の戦場に向かった四人は木陰に待機していたが、これ以上怪人に近づくには身を現すしかない。
水上ボートでの移動は視覚にも聴覚にも目立つため隠密行動を取るには不適と考え、陸路を進んだのだが。さすがに大戦争間近で張り詰めているダークネスへ奇襲するには無理があったか。
(「こうなりゃ、一気に行くぞ」)
ぱくぱくと口を動かし親指で怪人をちょいと指し示す中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248) 。釣鐘・まり(春暁のキャロル・d06161)はそれに強く頷き、丸目・蔵人(兵法天下一・d19625)も武器を握りしめることで賛同の意を示す。
かくして、怪人達の前に四人の灼滅者が姿を現した。
が、怪人に感想を述べさせる暇も与えず銀都は旋風輪にて怪人四体を跳ね散らす。バトンのように軽々と長槍を回転させる銀都を、ふいに幾つかの光が照らした。
「頑張って、ください……!」
光の正体はまりの放ったシールドリングだった。光は銀都の体の正面に集まり、やがて盾のように銀都を覆っていく。
その横にて、レオンが一人の怪人へと歩み出す。一歩、「弥栄」とコードを呟き、二歩、右腕の力を抜くように軽く振り。三歩目で駆け出し四、五歩と腕が鬼の物へと成り果て、そうして目の前まで迫ったペナント怪人へ鬼腕を振り放つ。
勢いの乗ったレオンの一振りに、守り手であろうペナント怪人もただ後方へと圧されるのみ。
そこに、蔵人が自らの炎で燃える聖剣を高々と上段に構え肉薄。怪人は咄嗟の行動としてさらに後ろに身を引こうとするが、それは悪手であった。怪人がよろりと一歩下がるよりも、蔵人がティルヴィングを振り下ろす方がはるかに速い。白銀を打ち付けられた怪人の体がわずかに延焼するのを蔵人は見た。
ほう、とその時感嘆の息。その主は戦場にすっくと立つ刀剣怪人だった。素手で仁王立ちするその姿に、灼滅者達の手が止まる。
「主ら、あの天海の連中ではないと見たが……?」
「平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都参上! 悪いがこの戦争、俺達が預からせてもらうぜっ」
「この地を焦土と為すことだけは止めねばならんけぇの。わしらはここで全力を尽くすまでじゃ」
銀都とレオンはそう返しつつ、各々槍とロッドを構え怪人を見据える。
一瞬で、かつ長い沈黙。緊張の張り詰めた空気が爆発しそうになるその瞬間、刀剣怪人は笑い出した。
「面白い! 良い心意気ではないか! そこまで言うならばやってみるが良いわ! ……やれるものならば、な!」
怪人は懐から大きな肉厚の刃を備えた刀を片手で抜いた。それは刀というよりはむしろ、巨大な鋼板。威嚇するように刀が振り下ろされれば、ブオンと低く空気が振動する。
そして刀剣怪人が大股で銀都に間合いを詰める。脳内に警報が鳴り響く。危険とわかってはいても、刀剣怪人の操る巨大な剣はその見た目に不釣合いな速さで銀都を襲った。
続けざまにペナント怪人二体が銀都に螺穿槍。残る一体はレオンへその恐槍を差し向けた。
銀都の体力が一気に消耗する。彼は槍で体を支えるようにして立つ他なかった。
怪人らの幾つもの攻撃を一人で受けるのは、あまりに重い。特に刀剣怪人の一撃たるや、地面を砕かん勢い。
しかしこの四体の暴れ馬のごときダークネスを、たった四人の灼滅者で相手しなければならない。
誰の物とも知れぬ冷や汗が一滴、零れ落ちた。
●東の終幕
幾度もの裂帛の叫びにより、銀都の声はかすれかかっていた。
せめて灼滅者が八人いたならば、また何か違ったのかもしれない。
しかし四人で対峙し数分、まだ誰も戦闘不能に陥っていなかったのは、ひとえにまりと銀都のおかげだった。
「銀都さんっ……! 支えます、からっ……!」
まりは行動できる時をほぼ銀都へのシールドリングに裂いている。
しかし、消耗が激しいのは銀都だけではない。
銀都の隣には、マテリアルロッドを両手で握りしめ肩を上下し息をするレオン。彼もまた前衛に立つために、間合いの短めな怪人達の標的となりやすかった。
レオンへ大砲のごとき勢いで迫る刀剣怪人のご当地ダイナミックを、銀都は転がり込むようにしてその身に受ける。
「(相手は攻撃一辺倒。……わかりやすくはあるんだが、やはり威力が)」
後衛の蔵人は前衛に駆け込んでくるペナント怪人の側方へ回り込むと、左腕のロッドを叩き付けた。怪人のスピードが急速に落ち、その体は斜めに傾いていく。
「そこじゃ!」
レオンのフォースブレイクが、渾身の力を込めてペナント怪人に叩き付けられた。流れ込む魔力の激流に耐えきれず、ついに怪人は力尽きる。
これでやっと一体の撃破。まだ残りの三体は無傷に等しいのに対して、こちらはどうか。
怪人の重い猛攻が続く。
「諦めんな、まだ、まだだ……!」
既に気絶必至のダメージを受けたはずの銀都が、ふらつきながらも立ち上がる。
が、刀剣怪人の森羅万象剣がまりと蔵人とをも断ち割らんと一切の容赦無く振り下ろされた。蔵人はティルヴィングの名を持つ聖剣にて切り結ぼうと試みるも、圧のある一閃に追い付かず、体に縦の大きな傷を作る。まりも同じ一閃を受け息絶え絶えにしながらも、なお銀都やレオンに回復の手を差し伸べようとしている。
そんな状況でレオンはただ、無心に鬼腕を振るう。怒りと悲しみとがない交ぜになった一つの感情は、今は小さくして心の隅に押し込めている。
「レオンさん……! 避けて、くださいっ……!」
まりの悲痛な声が飛んだ。彼女が祈るように生み出そうとするシールドリングは、わずかに間に合わない。
刀剣怪人の見るからに重量のある体は宙を裂き、そしてレオンのみぞおちに深々と蹴りを入れた。
かはっ、とレオンから吐き出される息。レオンは静かに崩れ落ち、地面に銀髪を乱して碧眼を閉じた。
それ以降、灼滅者達の劣勢は明確になった。
蔵人の神霊剣が二体目の怪人を斬り抜いたことで、敵は残り半分というところまで行ったものの、これまで戦場に立ち続けた銀都は刀剣怪人の戦艦斬りを身に浴び、ついに力抜けるように地面に伏せた。
「……撤退だ」
蔵人は体に大きく抉ったような傷を抱えたまま、ダメ押しとばかりにヴァナルガンドで怪人を殴りつけ、まりと二人を抱えてその場を去る。
「(西側の皆さんは、無事、でしょうか……)」
橋の向こうを眺め見ても、どうなっているかはわからない。
傷深い体でまりは願う。戦場に立つ仲間に、少しでも祝福があるように。
●西の日没
西側は長期戦の様相を見せようとしていた。
襲い来る呪いと光線。その中で時折羅刹の伸ばすどす黒い影が、灼滅者達の体力を奪っていく。
羅刹の強力な攻撃に、中衛の呪いと光弾により引き起こされる異常。加えて灼滅者が攻撃する際には前衛がその身を盾にした上で癒し手の回復があるのだから、とにかく羽をもいでもなお足をばたつかせる虫のようにしぶとい。羅刹たちが身を引くような気配は、無論ない。
「必殺、オーラキャノン!」
光貴の両手に輝くばかりのオーラがひたひたと充填されていく。そして、発射。狙われた前衛の女をむき出しのオーラの塊が吹き飛ばす。ついに女は自らの限界を超えたのか、その場に倒れた。前衛にいたもう一人の男は既に玉緒が止めを刺していたため、これでようやく二体撃破。
灼滅者らはそれぞれダメージこそかさみつつも、戦闘不能にまでは至っていない。が、じわじわと、遅効性の毒が全身に回るように追いつめられていくのを光貴は肌で感じる。
「次は……どなたを……お相手しましょう……?」
ヒュッと空を切り、敵に示威を見せる玉緒の拳。しかしその拳もやや鈍く、始めよりいくらか疲労がたまっているように見える。
後衛の癒し手を先に倒す――そう光貴は思うものの。
蓮は対面して右側、中衛に立つ男へ炎を纏った蹴りを浴びせる。蓮は蹴りの勢いそのままひらりと一回転。そして光貴と視線をかわす。この人から倒しましょう、そう連の口は動く。
ここに集った灼滅者が使う攻撃の射程を踏まえると、中衛以外に攻撃を集中させることができない。もちろん光貴も後衛でないからといって異論はない。とにかく敵の数を減らすことが最優先なのだから。蓮に対し、光貴は深く頷き了承する。
そのやり取りの間にも伸ばされる羅刹の魔の影。ついに霊犬のルーが、黒い影に縛り上げられ、抜け出すこともままならぬまま、影の中に消えた。
そして自然と回復において重要な役割を果たしていたルーの消滅が、振り返れば西側の灼滅者達を一気に崩すこととなった。
後衛への回復は光貴か祐のセイクリッドウインドに任された。光貴へ向かってくる制約の弾丸は代わりに祐が受けた。が、庇うにしろ限界はいずれ来る。
「大丈夫ですか!」
蓮が祐へ集気法をかけるが、守り手でもあり役割の多かった彼女は実は体力的に最も危険な状態。魔導書を開き魔力の光線で敵の強化を打ち破ろうとする前に、例の羅刹がぬっと蓮の眼前に詰め寄る。そして見る間に大写しになる鬼の拳。蓮は背から地に打ち付け、勢い止まらず跳ね滑ってから、気を失った。
玉緒はただ自身の役目を果たすべく、ひたすら敵陣の最前線で拳を握る。指輪の男が祈ろうと手を合わせる直前、玉緒は全てを打ち砕かんとする拳で男を数メートル後方に吹き飛ばし。
「破邪の閃光、浪花スラッシュ!」
そこに光貴の光刃放出。光は地面と平行かつ一直線に指輪の男へとひた走り、男の胸を貫いてその体を地面に崩した。
一人倒せたという安堵。しかしそれは本当に束の間のことだった。一瞬にして、光貴の体が切り刻まれる。何が起こったかわからぬまま光貴の力が抜けていく。その途中、渦巻く風の刃と羅刹の姿がぼやけながら視界に映る。光貴が力を求めるも、それは意識薄れゆく彼に何も答えない。
「すまないっ……」
東側はどうなったのか。煙のようなものが上がっているようにも見えるが、それが果たして彼らが求めていた合図なのか否かは全くわからない。
やはり彼らはダークネスになり損なった灼滅者であり、十代そこらの学生に過ぎない。
撤退です、と祐は玉緒に呟く。
「ああ、お帰りになられるのですね……それはそれは、残念です」
その後も続く皮肉めいた羅刹の喋りはまるで耳に入らなかった。
撤退する彼らにできるのは、この広い戦場のどこかにいるであろう他の仲間達の勇飛を祈るのみ。
作者:時無泉 |
重傷:中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248) 瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月1日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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