琵琶湖大橋の戦い~二分せし勢の分岐

    作者:幾夜緋琉

    ●琵琶湖大橋の戦い~二分せし勢の分岐
     滋賀県のど真ん中にある、日本最大の湖、琵琶湖。
     そんな琵琶湖の東西で争う二つの勢力、刺青羅刹・天海大僧正と、ご当地怪人・安土城怪人。
     長い間戦い続けていた両者の戦いは、もはや膠着状態に陥っていた。
     武蔵坂学園の灼滅者が、刺青羅刹・天海大僧正に加担したことで、刺青羅刹側が有利とはなったものの、その後勝利を確定づけようと戦力の増強を図った、天海大僧正の作戦が、武蔵坂学園の灼滅者によって阻止……結果、状況は混迷してしまっていたのである。
     そして……今も両勢力は、多少の小競り合いはありつつも、互いに戦力を増強し、睨み合いが続いていたのである。
     天海大僧正の軍勢に加勢するは、慈眼衆を始めとする天海大僧正の手勢の他、同じ刺青羅刹の鞍馬天狗の手勢、朱雀門高校の生徒やデモノイド、そしてサイキックアブソーバー強奪作戦で撤退した軍勢の一部、九州の刺青羅刹、うずめ様からの援軍にHKT六六六の殺人鬼や淫魔などが加わっていた。
     そして対する安土城怪人の軍勢には、刀剣怪人やペナント怪人の他、アメリカご当地怪人にロシアご当地怪人、そしてアンブレイカブルのレスラーと、業大老の配下と思われるアンブレイカブル、セイメイの配下と思われるアンデッドの軍勢が加わっている。
     ……まさしく、琵琶湖を巡る戦いは、緊迫の度合いをたかめていたのであった。
     
    「皆さん、集まりましたね? それでは早速ですが、説明を始めますね」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者を見渡し、早速説明を始める。
    「今回皆さんには、琵琶湖に向かって頂きたいと思います。今、琵琶湖で二つの勢力が居る事は知っていますよね?」
     確認するように皆を見渡す姫子……それに頷くのを確認してから。
    「そうです。今この二大勢力の戦力は拮抗していて、一度戦いが起これば、琵琶湖周辺は人の住めない地になってしまうでしょう……そして、その戦端が、いま、まさに開かれようとしているのです。琵琶湖大橋を挟んだ東西のダークネスが、橋を確保しようと互いに軍勢を繰り出し、その戦いが契機となり、両勢力の全面戦争になってしまいます」
    「ですから……皆さんにはこの被害を減らすために、動いて頂きたいのです」
     皆を見渡し、意思を確認。
     頷いてくれたことを確認して……一度頭を下げて。
    「ありがとうございます。そして……この被害を減らす方法を考えたのですが……三つあると考えています」
    「一つ目……琵琶湖大橋に集まっている軍勢同士が戦いを始める前に、その双方を武蔵坂学園の灼滅者で制圧するという方法です。これに成功すれば、天海僧正の勢力も、安土城怪人の勢力も、私達武蔵坂学園の動きを無視することができなくなり、一定条件で休戦を結ぶ事になります。最も平和的手段ではあるのですが……戦力を二分する為、困難な戦いとなりますし、阻止に失敗すれば、全面戦争になると思われます。それに……ダークネス同士が休戦を結ぶ事は、武蔵坂学園にとっては不利益になってしまう事でしょう」
    「二つ目……琵琶湖大橋の東、安土城怪人の軍勢を一方的に攻撃する事です。これにより、琵琶湖大橋は天海僧正側が制圧する事になり、そのまま安土城怪人の本拠地に攻め寄り、雌雄を決する事になります。そして戦況が不利となれば、増援に来ていた多くの勢力は撤退し、安土城開示の軍勢は敗走……琵琶湖周辺は天海大僧正勢力が支配する事になります。この場合、東側が戦場となり被害は生じますが、全面戦争に比べれば被害は少ないでしょう。勿論、天海大僧正の勢力が強い力を得るのがデメリットです」
    「三つ目……もう判っているとは思いますが、琵琶湖大橋の西、天海大僧正の軍勢への攻撃です。こちらは安土城怪人の勢力が強い力を得るのがデメリットですが……天海大僧正の勢力は灼滅される事になると思います」
    「三つの作戦がありますが、どの選択が正しい……という答えはありません。ですから、どちらの勢力の軍勢を攻めるか……それは、皆様にお任せしたいと思います。よりよい未来へつながるよう……どうか皆さんのお力をお貸し下さい。お願いします」
     と、姫子は最後に、深く頭を下げるのであった。


    参加者
    無常・拓馬(比翼恋理のツバサ・d10401)
    ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)
    八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)
    浅木・蓮(決意の刃・d18269)
    リアナ・ディミニ(アリアスレイヤー・d18549)
    ナイ・フォリドルミール(混沌と狂気の信仰者・d23916)
    土田・祐平(見えてしまった天井・d25184)
    檜枝・夜詠(檜を奉る・d30076)

    ■リプレイ

    ●琵琶湖の畔
     姫子より依頼を聞き、灼滅者達は滋賀県のど真ん中に広がる日本最大の湖、琵琶湖の畔へとたどり着く。
     美しく、清水を称える湖、琵琶湖……。
     しかし、そんな琵琶湖を横断する巨大な橋、琵琶湖大橋を境に東西に別れて闘う二大勢力……刺青羅刹の天海大僧正と、ご当地怪人の安土城怪人。
     そんな二つの強大な敵を相手にする作戦……その開始の刻は、刻一刻と迫りつつある。
    「……なんだよ。戦争で被害が出るのは、いつだって現地民の弱者だ……少しは配慮してくれたとしても、戦争はな……」
    「ええ……琵琶湖に住む一般人に、被害を出すこの作戦。本当なら、どちらも殲滅して、琵琶湖を平和にしたかった所ですね。でも……それは、甘すぎる、のでしょうか……」
    「……甘すぎるなんて事はないと思います。ただ、敵から私達が逃げれば……他所が苦労するという事……こんな事だけは、避けたいものですね」
     土田・祐平(見えてしまった天井・d25184)、リアナ・ディミニ(アリアスレイヤー・d18549)、八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)が交わす言葉。
     ……琵琶湖を巡る、二つの勢力の戦い。
     灼滅者達の力で、平和を取り戻すための戦いの筈なのだが……結果は、一般市民達にとっては、ただ迷惑な事でしかない。
     それを思うと……悔しくもあるのだが、でも最善の解決策は、それしかない訳で……苦渋の決断をするしかないのだ。
    「……どんな形の終幕を迎えるにせよ、どちらかの勢力から攻撃を加えられる……撤退出来ない状況というのは、不味いですね」
    「……願わくば、誰一人欠けることなく帰りたいものですが……」
    「そうだね。一時も気が抜けないね……みんな、気を引き締めて行こう」
    「ええ……私達の選択が正しいかどうかは解りませんが……全力を尽くすまでです」
     ナイ・フォリドルミール(混沌と狂気の信仰者・d23916)に、檜枝・夜詠(檜を奉る・d30076)と浅木・蓮(決意の刃・d18269)が言葉を紡ぐと、ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)と、無常・拓馬(比翼恋理のツバサ・d10401)が。
    「……何にせよ、一体でも多く倒して、少しでも戦局を有利に出来るようにしたい所だな」
    「ああ。戦局をコントロールする。仲間は倒れさせない。どちらもこなすのが俺の役割さ」
     そう言いながら、拓馬はリアナにニッと笑い。
    「そうそう。お前がオフェンスで俺がディフェンスだ。護って欲しかったらいつでもお兄ちゃんのところへ来てもいいんだぞ?」
     ……拓馬の言葉に、リアナは。
    「……馬鹿な事言ってると、足元掬われますよ、私に」
     と冷たく言葉を言い放ち、そっぽを向く。
     ……ただ。
    (「……拓馬さんの前で弱みは見せられませんね……弄られそうだし」)
     内心、そんな事を思いつつも、気丈に振る舞う彼女。
     ……まぁ、拓馬もそれを理解した上で、たぶんこんな憎まれ口を叩いているのだろう。
     ……そして。
    「それでは皆さん……準備は宜しいですか?」
     と、リアナが確認するように告げると、祐平は……木製のお面を静かに被り、蓮は眼鏡を外し……。
    「うん……問題ないよ」
    「ええ……覚悟は、出来ました。行きましょう……」
     覚悟を決め……そして灼滅者達は、琵琶湖大橋の西、慈眼衆の軍勢へと、攻撃を仕掛けるのであった。

    ●連なる山の如く
     そして、作戦は開始される。
     琵琶湖大橋の西、京都に近い側の方には道の駅やら、電車の駅、湖に張り出したお堂など、様々なモノがある。
     ……しかし、そこに今いるのは、観光客や一般人ではない。
     そこに居るのは、慈眼衆や、僧正によって強化された、強化一般人達。
     ……多数の、それらの者達を見渡すと、その場こそ、戦場の最先端の地である……と、改めて認識せざるを得ない。
    「……しかし、多いな……こんなに多数の敵が居るとは……」
     唇をかみしめるティート。
     ……確かに、これを一気に相手するとなると……かなり厳しい戦いになることは、間違いないだろう。
     とは言え、今回の作戦は、他の仲間達との共同作戦……他にも6つの班が、大僧正側の討伐を受けている。
    「……そろそろ、時間ですね……皆さん、タイミングを合わせて、突撃しますよ」
     と宗次郎が皆に確認するように言い……そして、突撃。
    『ん……っ、敵襲だっ!!』
     慈眼衆の男が、叫ぶ……だが、同時に他の班も奇襲を受けた為に、すぐに増援とはならない。
     そして切っ先を切って突撃したナイ。
    「クスクス……よき闘争と致しましょう!」
     身を翻し、流麗な足から繰り出される、トラウナックル。
     慈眼衆の男の顎を直撃し、彼が苦悶の声を上げる……そしてその周りに居た、慈眼衆の仲間である、強化一般人達が、すぐに両者の間に立ち塞がるように動く。
    「っ……中々素早い奴らだな!」
    「そうですね。ですが……攻撃を集中させれば、その切っ先はきっと打ち抜けるはず……」
     拓馬の言葉にリアナが唇をかみしめ、螺旋槍を一発、立ち塞がる者を貫く。
     ……更に祐平が遠距離からのマジックミサイルを打ち抜く。
     しかし……そんな灼滅者達の奇襲の一撃を一通り受けた後……対する慈眼衆と、強化一般人の僧兵二人は。
    『おい、一気に叩き込むぞ!!』
    『ええ!!』
     慈眼衆達と、配下達の意志はしっかりと統一されていて……その動きも、しっかりしている。
     そして彼らの攻撃。
    「させねーよ!」
     と、拓馬を始め、ティート、宗次郎がディフェンダーポジションにつき、しっかりと立ち塞がり、敵の攻撃を受け止める。
     そして受け止めた後……すぐ、夜詠と蓮、メディックの二人が、防護符とシールドリングを使用し、仲間達を即時回復。
     ……そんな灼滅者達の動きに、チッと舌打ちする慈眼衆。
    『なんだよ……灼滅者かよ。裏切りやがって!』
     そんな慈眼衆に、ナイは。
    「裏切り? ……いえいえ、平和のためですよ。貴方達がこのまま活動していては……一般人に迷惑が掛かるでしょうから……ね?」
     ナイがくすり、と微笑み……そして次のターンには、強化一般人の懐に潜り込んでの閃光百列拳を多重ヒットさせる。
     連動して、リアナも閃光百列拳で、大ダメージを叩き込む。
     ……そして、スナイパーの祐平が今度は妖冷弾で撃ち抜いて……。
    『っ……ああ!!』
     と、一人目は崩れ落ちる。
    『くそ……中々強えか……だが、負けられねえ!! いくぞおい!!』
     慈眼衆は、傍らの強化一般人に告げる……そして、強化一般人も、こくりと頷き……従う。
    「確かに強いみたいですが……私達は、貴方達だけで終わらせてはいけないのです。だから……倒します」
    「ああ……それも、時間を掛けずにな」
     夜詠に宗次郎が告げる……そしてスターゲイザーを宗次郎が叩き込めば、ティートが閃光百列拳、拓馬が神霊剣。
     それら攻撃は、全て強化一般人に向けて集中し、ガリガリと彼らの体力を削り行く。
     対する慈眼衆の攻撃も、熾烈を極めるが……蓮、夜詠が完全に回復に傾注。
     激しい攻撃から、どうにか仲間の戦線を維持するように動き回る。
     ……そして、二人目の強化一般人と戦い、数ターン経過。
     残るは慈眼衆の男だけ。
    「後は、慈眼衆だけだね」
    「そうですね……まだ、どうにかいけそうです」
     蓮に夜詠が頷く。
     ……とは言え一番強力な相手こそが慈眼衆……油断は出来ない。
    「……何にせよ、周りに被害をださせない為に……ここで、必ず倒さないといけませんね」
    「ああ……」
     祐平に宗次郎が頷く……そして祐平がオーラキャノンを慈眼衆に叩き込めば、リアナとナイのクラッシャー陣が影喰らいとトラウナックルを繰り出していく。
     ……勿論、敵は一体となれば、ディフェンダーの負荷も経る……ティート、宗次郎の二人が連続して敵の体力を削り去る一方、慈眼衆の攻撃は、しっかりと拓馬が受け止める。
     一体ながら、ガリガリと削ってくる慈眼衆……どうにか互角以上の戦いを進めていく。
     そして……十数ターン目。
    「これで、トドメを刺す……っ!」
     ティートの渾身のレーヴァテインが決まり……慈眼衆は絶命。
    「……まずは、一隊目終了、ですね。皆さん、大丈夫ですか?」
    「ああ……大丈夫だ。さぁ……休んでいる暇はない。次に行くぞ!」
     宗次郎が声を荒げて、周りを見渡す。
     そして……優位に進めている慈眼衆のを見定めて。
    「次は、あの一隊に仕掛けましょう!」
     流石に灼滅者達の体力……殺傷ダメージは、2割程度は到達している。
     だが、できる限り、一隊でも多く倒すことが、この依頼の目的。
     そして次なる慈眼衆の一隊へと、駆けつけていく。
    『っ……くそ、追加か!』
     舌打ちするのは、慈眼衆で、尼の僧服に身を包んだ男。
     そしてその前には、やはり強化一般人の僧兵二人。
    『させませんよ……ここで、死んでなるものですか!』
    『ええ……倒します!!』
     強化一般人僧兵は、互いにそんな言葉を掛け合いつつ、慈眼衆の前に確りと立ち塞がり、対峙。
     灼滅者達の攻撃を、僧兵二人が断罪輪で逸らしつつ、後ろから尼僧が強烈な攻撃を叩き込む。
     慈眼衆達も、確実に灼滅者一人、一人にターゲットを絞って攻撃してくる。
    「……ッ、治療が間に合わない!」
     と夜詠が唇をかみしめ、焦るのだが……蓮が。
    「慌てないで。しっかり、回復を集中させていくよ!」
     と、蓮が夜詠に声を掛けながら、回復行動を、集中攻撃を受ける仲間に集中させる。
     とはいえ、殺傷ダメージが蓄積されるぎた場合は、一歩引いて……別の仲間に攻撃を負担してもらうことにする。
     そして、攻撃を重ねながら、ターンは経過。
     既に、ディフェンダーだった3人全員の殺傷ダメージは、半分を超していて……かなり疲弊している。
     とはいえ、慈眼衆達も、強化一般人が一人、また一人と倒せていて……残るは慈眼衆のみになっていた。
    「はぁ……はぁ……後、一人……ですね」
    「ええ……流石に、追加は……難しそうですね……」
     リアナとナイが、前線で小さく言葉を交わす。
     ……それに慈眼衆が。
    『っ……オラァ、てめぇらこの程度かよぉ!』
     思いっきり、強がる言葉を放つ彼。
    「……お前も、この程度かよ? ……へっ、慈眼衆というが、所詮はその程度って訳だな?」
     ティートも、売り言葉に買い言葉で挑発してみせる……そして、既に頭に血が上っている慈眼衆は。
    『くそぉ……うっせーんだよぉ!!』
     と、近接して、大ぶりの一撃を叩き込む。
     しかし……その隙を突いて、リアナが。
    「……貫きます!」
     螺旋槍が、彼の胸を打貫き……慈眼衆は、そのまま後方へと、倒れる。
     ……そして。
    「よし……もう頃合いだ。離脱するぜ!」
     拓馬の号令一下、一気に灼滅者達は、その場を後にするのであった。

    「……ふぅ……ここまで逃げれば、大丈夫でしょう」
     と、祐平が周囲を見渡して、一息。
     慈眼衆の影はない……勿論遠くの方からは、まだまだ戦いの音が聞えては来る。
    「……これで、上手く被害は減らせたでしょうか……ね?」
     とリアナが不安気に言うと、拓馬は。
    「ま、減らせたんじゃねえ? ……この先どうなるかは、一旦戻ってからだ。今はこの傷を、次の時までに直しておかねえとな?」
    「……そう、ですね」
     拓馬にこくりと頷くリアナ。
     この戦いの結果は、自ずと解るだろう。
     その結果を待ちながら……灼滅者達は、一旦その場を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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