琵琶湖大橋の戦い~天下分け目の大勝負

    作者:J九郎

    「申し上げます! 現在、琵琶湖大橋の西側に、続々と天海大僧正率いる軍勢が集結中との事。軍勢は慈眼衆を中心に、鞍馬天狗の手勢や朱雀門のヴァンパイア、さらにはHKT六六六なる得体の知れぬ連中まで加わっている模様!」
     ペナント怪人の報告に、刀剣怪人の一人である同田貫怪人は鷹揚に頷いた。
    「おもしれえ事になってきたじゃねえか。慈眼衆相手の戦も飽きてきたところよ。ヴァンパイアだか殺人鬼だかしらねえが、みんなまとめて刀の錆にしてやるぜ」
     刀そのものの頭部を振り回し、高らかに笑う同田貫怪人。
    「しかし、読めないのは武蔵坂の灼滅者の動きです。今の膠着状態も、連中が旗幟を明確にせずに両陣営に介入し続けた為に引き起こされたもの。安土城怪人様からも、くれぐれも注意せよとのことであります!」
     ペナント怪人の注進を、しかし同田貫怪人は笑い飛ばした。
    「気にすることはねえ。武蔵坂の奴らが加勢してくれるってんなら、これほど頼もしい援軍はいねえし、逆に敵対するってんなら、慈眼衆を相手にするより遙かにおもしれえ戦になるってもんだ。どっちに転んでも、俺は大歓迎だぜ!」
     今、琵琶湖を巡る戦いは重大な転機を迎えようとしていた――。
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。琵琶湖を巡る、天海大僧正と安土城怪人の戦いが最終的な局面を迎えたと」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(中学生エクスブレイン・dn0137)は深刻そうな声でそう告げた。
    「……天海大僧正は慈眼衆を始めとする手勢の他、同じ刺青羅刹の鞍馬天狗の手勢、朱雀門高校の生徒やデモノイド、サイキックアブソーバー強奪作戦で撤退した軍勢の一部、九州の刺青羅刹・うずめ様からの援軍、HKT六六六の殺人鬼、HKT六六六の淫魔などを集結させてる。……対する安土城怪人の軍勢には、刀剣怪人やペナント怪人の他、アメリカご当地怪人やロシアご当地怪人、アンブレイカブルのレスラー、業大老配下と思われるアンブレイカブル、セイメイ配下と思われるアンデッドの軍勢が加わってるみたい」
     もはや、ダークネス勢力を二分する大決戦といった様相だ。この2勢力の戦力は拮抗しており、一度戦いが起これば、琵琶湖周辺は人の住めない地になってしまうのは間違いない。
     そして今まさに、両勢力は琵琶湖大橋を確保しようと互いに軍勢を繰り出し、その戦いを契機として、全面戦争が起きる寸前といったところなのだ。
    「……この被害を減らす方法は3つある」
     妖は指を三本立てて、皆の顔を見回す。
    「…… 1つ目は、琵琶湖大橋に集まっている軍勢同士が戦いを始める前に、その双方を、武蔵坂学園の灼滅者が制圧してしまう事。成功すれば、天海大僧正の勢力も安土城怪人の勢力も、武蔵坂学園の動きを無視できずに、一定の条件で休戦を結ぶことになるはず。
     ……2つ目は、琵琶湖大橋の東側、安土城怪人の軍勢を一方的に攻撃する事。成功すれば、安土城怪人の軍勢は敗走し、琵琶湖周辺は天海大僧正勢力が支配することになるはず。
     ……そして3つ目は、琵琶湖大橋の西側、天海大僧正の軍勢を一方的に攻撃する事。成功すれば、天海大僧正は本拠地に籠城して徹底抗戦した上で、灼滅されることになるはず」
     それぞれメリットもあればデメリットもある。よく考えて行動する必要があるだろう。
    「……どの選択が正しいのかはサイキックアブソーバーの力でも見通せない。だから、どの勢力の軍勢を攻めるかはみんなに任せる。みんななら、間違った選択はしないって信じてるから」
     妖はそう締めくくると、灼滅者達を送り出したのだった。


    参加者
    不知火・レイ(星に誓いを・d01554)
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)
    淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)
    柳生・宗無(新陰流霹靂剣・d09468)
    ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)
    大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)
    黒嬢・白雛(煉黒鳳凰クロビナ・d26809)

    ■リプレイ

    ●東側~接触
     安土城怪人軍の一角を担う同田貫怪人は、進軍を阻むように立ちはだかった者達の姿を見て、嬉しそうに声を上げた。
    「やっぱり来たか、武蔵坂の! こいつは、おもしれえ戦になりそうだぜ」
    「ひさしぶりだねっ! あの時は結果的に共闘になっちゃったけど、今日はぜんりょくでお相手するよっ!」
     同田貫怪人と面識のある淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)が、白銀色の手甲『hex drop』を構える。
    「おう! あん時の嬢ちゃんか! どうした、この間より数が少ねえじゃねえか」
     同田貫怪人の指摘通り、今回彼を相手取るのは4人のみだ。
    「……ああ、こっちも敵と接触した。そっちも頑張れよ」
     イヤホンマイクを装備した赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)は、東側に向かった不知火・レイ(星に誓いを・d01554)と連絡を取り、互いの状況を確認していた。どうやらレイ達4人も、朱雀門と交戦状態になったようだ。
    「なんだ? 部隊を二つに割ったのか? そいつは愚策ってもんだぜ」
     同田貫怪人の声に、冷たいものが混じる。
    「少人数でキミに挑むのは無謀ってこと? ……でも、狂気の沙汰ほど楽しいね♪」
     有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)が、大袈裟な身振りを交えてそう応じた。
    「おしゃべりはここまで。さぁ……断罪の時間ですわ!」
     最初に動いたのは、黒嬢・白雛(煉黒鳳凰クロビナ・d26809)だった。白と黒の炎を纏った大鎌を、同田貫怪人目掛けて振り下ろす。
    「甘いぜっ!」
     同田貫怪人は、頭部の刀身を使ってその一撃を受け流した。
     だがその隙に、紗雪が駆け寄り、
    「おーにさんっこっちらっ、てねっ♪」
     hex dropを前面に構えて同田貫怪人に体当たりを喰らわせる。
    「やるじゃねえか! おう、せっかくの喧嘩だ、おまえらも楽しめ!」
     同田貫怪人の呼びかけに、様子を見守っていた2人のペナント怪人達も動き出した。
    「相手にとって不足はなし。やってやるかね!」
     布都乃がペナント怪人の一体に縛霊手で殴りかかると、放たれた霊力の網が、ペナント怪人を絡み取っていった。
     もう一人のペナント怪人は、ナイフのようにとがった爪でへるを切り裂こうとする。が、直前にへるがバックステップしていたために、命中はしたものの致命傷にはほど遠い。
    「さあさあ、どうしたのかな、怪人さん? 早くボクを捕まえてごらん?」
     スキップをするように跳ね回り、挑発するへる。
     東側の戦いは、こうして始まった。

    ●西側~対峙
     西側に向かったレイ達の前に姿を現したのは、3匹のタトゥーバットを引き連れた、朱雀門高校の制服姿の小柄な少女だった。
    「お初にお目にかかるね、剣崎嬢。剣をコレクションするのが好きだと聞き及んでいるよ。立場が違えば温かいお茶を交わしながら談義に興じたいところだが……、そうもいかないようだね」
     機先を制してその女生徒――剣崎・ミーネに語りかけたのは、ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)だ。
    「あれ~、武蔵坂がこんな所に何しにきたの~? ミーネはね、刀剣怪人をコレクションに加えに来たんだから、邪魔しないで欲しいんだけどな~♪」
    「残念ですが、貴方のコレクションは、ここで死蔵にします」
     柳生・宗無(新陰流霹靂剣・d09468)が、無表情のまま拳を構え、戦闘態勢を取る。その心の内にあるのは、剣士の誇りの刀剣を奪うミーネへの、純粋な怒り。
    「お前が朱雀門というだけで、俺にとっては戦う理由に十分だ」
     レイも、ミーネに星葬【Schwarzschild】の切っ先を向ける。
    「うん? その声……まさかキミ、ロード・シラヌイくん? 姿が全然違うんで気付かなかったよ~!」
     かつて闇墜ちし、ロード・シラヌイとして朱雀門に組していた忌むべき過去に触れられ、レイの顔に一瞬怒りの色が浮かぶ。
    「もう俺は、ロード・シラヌイじゃない」
    「ふ~ん? ま、どうでもいいや。前からキミのウロボロスブレイド、欲しかったんだよね~。敵になったんなら、殺してでも奪い取っても問題ないよね♪」
     いつの間にか、ミーネの手には華美な装飾の施された長剣が握られていた。ミーネは小さな体に似合わぬその剣を、軽々と無造作に振り抜く。
    「くっ」
     その一撃で右腕を切り裂かれたレイが、小さく呻いた。
    「刀狩りだか大戦だか知らないけど、そんな勝手な戦闘で土地が荒され住めないようになるなんて絶対許さねえ」
     後方に控えていた大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)は、ミーネの周りを飛び交っているタトゥーバット目掛けて風の刃を放った。一体のタトゥーバットが直撃を受けて姿勢を崩すが、たちまち周りのタトゥーバットが口から泡を飛ばし、その傷を癒していく。
    「やはりあの回復力は厄介だね」
     ユーリーが唸る間にも、宗無が拳に炎を纏わせ、タトゥーバットに正拳突きを放っていった。
    「まずはあのコウモリを各個撃破ですね。厳しい戦いになるでしょうが、押して通しましょう」
    「……よっしゃ、やるぞ」
     エマも自らに気合いを入れると、影の刃をタトゥーバットに向けた。
    「む~。拳とか影とか、ミーナはそういうの、興味ないんだよね~。もっと剣とか刀とか、持ってきてないの~?」
     不満そうに唸りながらも、ミーナは長剣片手に、灼滅者の中へと斬り込んでいった。

    ●東側~死闘
    「行きますわよ……! メルトォ、ジャッジメントッ!!」
     白雛が背に白炎の両翼を広げ、ペナント怪人目掛けて黒炎を纏った大鎌を振り降ろす。
    「ビワコーッ!?」
     その一撃で、断末魔と共にペナント怪人が爆散した。
     が、
    「一人倒したくれえでいい気になるんじゃねえぞ!」
     直後、同田貫怪人の頭部の刀が、白雛を袈裟懸けに切り裂いていた。最前から仲間を庇い続けていた紗雪が反応する間もないほど、神速の一撃。
    「おい、しっかりしろ!」
     布都乃の飛ばした祭霊光により致命傷になることは防いだものの、傷は決して浅くない。
    「これはとっととこいつら片付けて、同田貫怪人に攻撃を集中すべきだね」
     先程からペナント怪人を翻弄していたへるが、猛攻に転じた。バベルブレイカーの杭をペナント怪人に突き刺し、動きの鈍った怪人にトドメとばかりに殺人注射器も突きつける。
    「むぐう! だが、ただで死ぬわけにはいかぬ!」
     ペナント怪人はへるに向かって、鋭い爪の一撃を繰り出した。だが、その攻撃は、すでに紗雪に見切られている。
    「させないっ!」
     ペナント怪人の渾身の一撃は、紗雪のhex dropに弾かれ、
    「さあ、トランプならぬペナントの兵隊さんは、退場のお時間だよ!」
     そしてへるのバベルブレイカーが、頭部のペナントの中央をぶち抜いた。ペナント怪人が、その場で大爆発を起こす。
    「残りはあなた一人ですわよ」
     傷の痛みに耐えながら、白雛が毅然と同田貫怪人に向き直った。
    「なあ、武蔵坂の目的は周辺被害阻止で灼滅が第一じゃねぇ。退いてくれねぇか?」
     そんな中、布都乃は同田貫怪人の説得を試みていた。
    「お前を失えば安土城怪人の身も危うくなる。主君を護るのも懐刀の役割だろ?」
     布都乃の言葉に、しかし同田貫怪人は高笑いで応じた。
    「はっはははっ、おめえら、全く状況が見えてねえようだな? 追い詰められてんのはオレじゃねえ、おめえらの方なんだぜ?」
     次の瞬間、同田貫怪人は頭部を大きく振り下ろした。巨大な刀が、へるを捉えんとする。
    「させないっ、てばっ!」
     紗雪は咄嗟に、その一撃から身を挺してヘルをかばった。だが同田貫怪人は意に介さず、紗雪の小さな体を突き刺して持ち上げ、そして勢いを付けて投げ飛ばした。背中から地面に叩きつけられた紗雪が、苦しそうに身をよじる。
    「淡白、交代だ!」
     布都乃は紗雪に合図を送ると、互いのポジションを交代した。今度は布都乃が前衛に移り、後退した紗雪は祭霊光で自らの負った傷を癒していく。
    「仕切り直しか。いいねえ、思う存分喧嘩を楽しもうぜ!」
     戦いは、新たな局面に突入しつつあった。

    ●西側~剣閃
    「ど~したの? せっかく来たんだからミーネの相手をしてよ~」
     ミーネが縦横無尽に戦場を駆けめぐりながら、長剣を振るう。だが、灼滅者達は挑発に応じることなく、タトゥーバットを仕留めることを優先していた。
    「ミーネのことはスルーするんだ~。いいよ~、どこまで無視してられるかな~?」
     ミーネが剣を十字に振るうと、赤い十字型の衝撃波が、エマを襲う。
    「くっ……! でも、リスクの高さは十分に承知した上での作戦だ。これぐらいでやられねぇぞ」
     ユーリーの霊犬チェムに傷を癒してもらいながら、エマは鬼と化した腕で宙を飛び回るタトゥーバットに殴りかかっていった。
    「まとめて動きを封じます」
     宗無が除霊結界を展開してタトゥーバットの動きを阻害し、レイが無言のまま星葬【Schwarzschild】を振るい、タトゥーバットを切り裂いていく。
    「よそ見してていいのかな~?」
     隙ありと見てレイに斬りかかるミーネだったが、
    「剣崎嬢、あなたの相手は私がしよう」
     割り込んだユーリーが自らのクルセイドソードで、ミーネの長剣を受け止める。
     互いに互いを回復させるタトゥーバット達だったが、短期決着を図るべく火力重視で放たれる攻撃の前に、一匹、また一匹と力尽きていった。
    「これで、終わりです」
     遂に、宗無の連続蹴りが、生き残っていた最後のタトゥーバットにとどめをさす。
    「あ~あ、みんなやられちゃった~。……別にいいけどねっ!」
     ミーネはさして気にした様子もなく、宗無に長剣を向け、突っ込んでいった。
    「あなたの相手は私と言ったはず!」
     だがそこへ、またしてもユーリーが割り込む。剣と剣の激突する音が、戦場に響き渡った。
    「う~ん、いい音♪ そのクルセイドソード、ミーネに頂戴?」
    「はいどうぞ、というわけには行かないな」
    「なら、力尽くでもらっちゃおうかな~」
     ミーネが楽しそうに笑みを浮かべる。戦いは、これからが本番だった。

    ●東側~決着
    「切り刻ませて頂きますの!」
     白雛が大鎌を振り上げると、大鎌の影が刃となって同田貫怪人を切り裂いていった。
    「橋での決闘なんて牛若丸と弁慶みたいで心躍るね。可愛いボクが牛若丸。怪人君、キミが弁慶さ」
     へるは、同田貫怪人の周囲を跳び回りながら、足に攻撃を集中させていく。
    「足止めのつもりか? 甘いぜ!」
     さらに足に切りつけようとするへるへ、同田貫怪人はカウンター気味に強烈な蹴りを放った。予想外の攻撃に、へるの小さな体が吹き飛ぶ。
    「刀剣怪人だから刀しか使えねえって思ったか? 蹴り技はご当地怪人の基本だぜ」
     へるにとどめをさそうとするように頭部の刀を持ち上げる同田貫怪人の動きを見て、布都乃がへるの前に立ち塞がった。が、
    「悪いな、牽制だ」
     同田貫怪人は持ち上げた刀を振り下ろすのではなく、振り回した。そして発生した衝撃波が、見えない刃となって後衛の白雛と紗雪を襲う。
    「きゃああっ!」
     仲間を庇い続けて既に満身創痍だった紗雪はその攻撃に耐えきれず、意識を失ってしまう。白雛も、重傷とまではいかないが装甲のあちこちにヒビが入り、もはや戦闘継続は困難そうだ。
    「さて、さっきの言葉をそのまま返させてもらうぜ。今回のオレ達の目的はおまえらじゃなく天海の軍勢だ。ここは退きな」
     同田貫怪人の言葉に、布都乃は歯がみしつつも冷静に考えを巡らせた。確かに、この状況では最早、勝ち目はないだろう。へるも同じ結論に達したらしく、頷き返してくる。
    「おまえらの敗因を教えてやろうか? 一つは、戦力を分散させたこと。そしてもう一つは、先にペナント怪人を狙ったことだ。回復手段のある奴、弱い奴から潰すってのは常道だが、戦力差のある相手に一発逆転狙いで勝負を挑むんなら、雑魚には目もくれず大将首を狙うしかねえんだよ」
     同田貫怪人の声を背中に聞きながら、灼滅者達は無念の撤退を強いられたのだった。

    ●西側~幕引
    「いいかげん、君達との戦いも飽きてきちゃったよ~!」
     ユーリーと剣を交えていたミーネの瞳が怪しく輝くと、ミーネの剣が唐突に非物質化した。切り結んでいられず、態勢を崩したユーリーに、ミーネの容赦ない斬撃が襲いかかる。
     万全の状態であったなら耐えられたであろうその攻撃も、これまでミーネの攻撃をほぼ一人で受け続けてきたユーリーには、耐えきれなかった。その膝ががくっと折れ、そのまま倒れ伏す。
    「くっ! よくも!」
     ユーリーのクルセイドソードを拾い上げようとするミーネに、レイのDCPキャノンとエマの斬影刃、そして宗無のグラインドファイアが同時に炸裂した。守りの要が倒れた以上、速攻で決着を付けるしかない。3人の猛攻を前に、さすがにミーネも苦しそうに顔を歪める。が、
    「吸血鬼をなめないでよねっ!」
     3人がかりの攻撃の一瞬の隙をつき、ミーネは宗無の腹を長剣で刺し貫いた。
    「あなたの生命力、いただきま~す」
     傷口から長剣を通じて生命力がミーネに流れ込み、傷が見る見る回復していく。
    「宗無っ!」
     レイがミーネに拳の連打を叩き込むが、ミーネは長剣から手を離さない。
    「……私に近づいたこと、後悔させてあげます」
     宗無は表情を変えないまま、腹部に突き刺さった長剣を掴んだ。
     ただならぬものを感じたミーネが動じた隙を逃さず、宗無は右拳を赤熱させ、
    「奥義・紅蓮天掌!!」
     至近距離から、強烈なアッパーを繰り出した。拳に纏った炎が、中空に打ち上げられたミーネの全身を包み込んでいく。
    「いまだっ!」
     そこへ、エマがとどめとばかりに風の刃を飛ばした。炎に焼かれ、風に切り裂かれたミーネの体が、琵琶湖大橋に叩き付けられる。
     だが、
    「……まさか、ここまで追い詰められるとは思ってなかったよ」
     それでもミーネは、長剣を杖代わりに立ち上がって見せた。その瞳が、まっすぐに宗無を捉える。
    「危ない!」
     レイが警告の叫びを発する間もあらばこそ、ミーネは一瞬で宗無と距離を詰め、赤光を纏った斬撃を放っていた。先程大量に生命力を奪われていた宗無は耐えきれず、口から血を吐いて倒れていく。
    「これは……まずいな」
     この状況に際してのレイの決断は素早かった。彼は倒れているユーリーを肩に担ぎ、そのまま可能な限りの速度で戦場から離脱していく。エマも、同じように気を失った宗無を抱えて、レイの後に続いた。元々、二人重傷者が出たら撤退する手筈だったのだ。
    「あーっ、逃げたーっ!? こら~、逃げるなら剣置いてけ~!!」
     背後でわめくミーネの声に耳を貸さず、二人は戦場を離脱していく。幸い、ミーネにも追撃するだけの余力は残っていないらしい。
    「……相手を、甘く見過ぎていたということか」
     レイとエマは、琵琶湖大橋から充分離れたところで倒れた二人を介抱しつつ、敗北の味を噛みしめていた。

    作者:J九郎 重傷:淡白・紗雪(六華の護り手・d04167) 柳生・宗無(新陰流霹靂剣・d09468) ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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