紅い月を見上げて

    作者:若葉椰子

    ●天高く月は満ちて
    「もうすぐ、皆既月食だよね。みんなはどこで見るか、きめた?」
     夏の暑さもだいぶ引き、過ごしやすくなった学園。そこへ名木沢・観夜(小学生エクスブレイン・dn0143)の明るい声が響く。
     来たる10月8日の夕方から夜にかけて見られる皆既月食は、おそらく彗星の接近や流星群に次いで馴染みのある天体ショーだろう。
     地球が太陽の光をさえぎり、まるで月が刻一刻と欠けていくように見える月食。その中でも、完全に月が欠けて代わりに月全体が赤く見える皆既月食は、長時間にわたって見応えのあるイベントだ。
    「せっかくだから、僕はみんなといっしょに見たいなって思うんだ。とってもキレイに見えるところにあんないするよ!」
     年一度あるかないかというこのイベント、どうせなら大人数で感動を共有したいもの。
     観夜もその一心で灼滅者を誘っている事は、いつも以上に瞳を輝かせているその表情からもうかがい知る事ができるだろう。
    「とくべつな道具とか、とくべつなおべんきょうはいらないよ! 星が好きってきもちと、キレイなものを見たいってきもちがあればいいんだ!」
     月食はその名の通り月が主体のため、特別な道具や知識がなくとも充分に楽しめる。
     大事なのは、楽しむ心。勿論双眼鏡や望遠鏡があればより良く見る事が出来るが、手ぶらで参加しても感動が薄れる事はないのだ。
    「いつもとちがうお月さま、みんな見てみたいよね? 僕、今から楽しみになってきちゃった!」
     普段見せる事のない、暗く赤い姿を見せる月。幻想的で惹き込まれるその光景を思い描き、観夜はずっとはしゃいでいた。


    ■リプレイ

    ●紅き月を見上げる人々
     日が落ちるのも随分早くなった秋の日。
     すっかり夜の帳が落ちた空のなか、東から昇った満月が今夜の主役だと言わんばかりに輝いていた。
    「あの月、食われるか? 星も、食われるか?」
    「そうね、食べられちゃうらしいのよ。どんな奴が来るんでしょうね?」
     怯えるぬいに向かい、壱は新しいオモチャを見つけたような感覚で月を食べる怪物をふくらませていく。
    「ね、どこから食べられちゃうと思う?」
    「ぬいなら、上からガブッと行きたい!」
     月を食べる怪物の名は、地球という。
     子供らしい豊かな想像で遊んでいた二人が実際に食を目の当たりにするのは、その直後だった。
    「……ああ、始まりましたね」
     まずは欠け始めから記録に残すべく、貴明は既に幾度もシャッターを切っている。
     時折直人にもレンズ越しの月を見せ、そのたび二人で感嘆の声をあげていた。
    「本当に紅く見えるんだな」
     気がつけば、既に月は全て欠け、影となっていた部分が赤く染まってその姿を見せる。
     その幻想的な月の姿と、吸い込まれそうな満天の星空を見上げ、二人は言葉もなく立ち尽くしていた。
    「月食で月が赤く見えるのは、空気中の塵が……ええと、青い光を吸収しちゃうから……なんだって」
    「すごい、そうなんだー……」
     つっかえながらもきちんと恋人の晶子に解説をする楽多。
     微笑ましく説明を聞いていた晶子も、その説明自体は心惹かれるもの。
    「本当に綺麗だ……月食も、晶子さんも、なんてね」
    「も、もう……月、見ててください……っ」
     そうしてお互い目を合わせ、途端に照れくさくなる一幕も、緩やかな時に流されていく。
    「ねえ。小さい頃……星や月が珍しい空の時、夜更かしして眺めた事とかないですか?」
     そう依子が尋ねれば、傍らの篠介は小さく笑みを浮かべ。
    「お前さんは、良く空を見る子だったんじゃな」
     望遠鏡を通して空を見た事もあれど、小さい頃に肉眼で星々を見た感動はひとしおのもの。
     篠介の語る家族で見た星空も、さぞ綺麗なものだっただろう。
    「あ……」
     気がつけば、完全に月が赤く染まっている。その息を呑む声は、どちらからともなく自然に出ていた。
    「今年の夏は君のおかげで楽しかったから、お礼ってわけじゃないけれど……カイと二人で、この月を見たかったんだ」
    「楽しんでたのは俺も同じ。付き合ってくれてありがとうね、先輩」
     これまでに楽しんだ感謝を込めて誘ったという沙花へ、自分も同じ心境だと返す恢。
     沙花が月の兎に思いを馳せれば、その愛らしさに恢も微笑みを隠せない。
     この関係はきっと、これからも飽きずに続いていくだろう。そう思わせる光景だった。
    「月食、と言ったな。……という事は、ああしている間に、月は何かを食べているのだろうか」
     そんな突拍子もない事を言うアルトに合わせ、リーズディットのからかいにも熱が入る。
     その言葉を疑いなく信じるのはアルトの純真さと、リーズディットへの信頼であろうか。
    「お前と居ると様々なものを知る事ができて、嬉しい」
     ぽつりと呟いたその言葉は、純朴だからこそ何よりも強く響いていた。
    「いつもと違う月の色、それはまるで血のようで……」
    「今宵、惨劇が起こる――」
     幻惑するように暗い赤に染まる月を見て、千穂と秋帆は不気味な雰囲気を強めていく。
     自分達の言葉に恐怖を感じ、千穂は身震いと共に寒さを思い起こした。
    「悪い悪い。もし化け物が襲ってきても、秋津は守るから安心しとけ」
     そう言われた千穂は守られるばかりのお姫様じゃないと憤りながらも、満更でもない模様。
     繋いだ指。せめて月が赤いうちは、このままでと祈りつつ。
    「良かったら、これもどうぞ」
     晴天に恵まれた事に喜びつつ、氷雨は自らの用意した温かいお茶とクッキーを里月へと差し出す。
    「お、ありがとう。……たまにはこっちも、使ってやらないと」
     感謝の言葉を言いながら準備するのは、自前の望遠鏡。氷雨も愛用のものを設置してあり、このままずっと食を見ていられそうだ。
    「いつまでも、仲良く居れるといいなっていうのが、自分の希望ですよ」
     ぽつりと言った氷雨の言葉。月に見入る里月には届いただろうか。
    「わ、わ、御月様、紅色! あくたんかラ貰タ、望遠鏡さン。大活躍だナ!」
     普段見ない姿の月を見上げて興奮を隠せない夜深と、それとは対照的に感動で寡黙になり、思わず横にいる小さい体を抱き寄せる芥汰。
    「今回のは天皇制も見えるって言ってた。青緑の星らしいよ?」
     月以外にも魅力的な天体は数多くある。次は金環日食も見たいねと、二人は笑い合っていた。
    「イシュ、右手の指でCの字を作ってみて?」
     記念スナップのちょっとした小技を思い出した要が、イシュテム相手に同じ事をしようと試みる。
    「ほえ~、月摘んでるみたいに見えるです!」
     ちょっとした遊び心は見事成功。遠近感からちょうど月を持っているように見える一枚が撮影された。
    「じゃあ今度はユイ君の番ですよ!」
     まだまだ月は食の最中。こういった小さな楽しみも、まだまだ続けていられるのだ。
    「もうジャケットなしじゃ寒いわねー」
     秋口の夜ともなれば、だいぶ気温の下がる頃だ。ツーリングともなれば尚更である。
     行き掛けの自販機で七は温かいレモネードを買い、連れの鶴一にもコーヒーを手渡す。
    「おお、めっちゃ赤ー……」
     二人とも、しばし言葉を失いながら普段見られない光景に心奪われる。
     七にはそれ以外の事情もありそうだが、敢えて鶴一はそれを黙殺する。二人でいれば、それ以外は些細な事だから。
    「月といえば丸い形です、丸といえばピザです」
     雪羽から受け取ったマルゲリータピザを食べつつ、アイスバーンは更に赤いトマトソースと皆既月食の赤い月を絡めて語りだす。
    「普段白い月が見慣れてるからか、思わず見惚れるなぁ。……まあ、アイスにはいっつも見惚れちまうけどな」
    「えと、恥ずかしいので……」
     雪羽の視線を感じ、恥ずかしそうにそっぽを向くアイスバーン。赤らんだその顔を、月夜に隠そうとしながら。
    「本当は、独りでもよかったんだけど」
     突き放すような物言い。彩にとっては、あの紅き月も辛い記憶をたぐる呼び水かもしれないのだ。
     だが、今共にいる静夜にとっては、むしろ高揚感すら覚えるほど美しい色。
     もしかしたら、という思いがあったのだろう。彼女の心は、変われたのだろうか。
    「……でも、これは綺麗ね」
    「……あぁ」
     言葉は、それで充分。顔も今は、お互い見なくてもいい。
     秋の風だけが、静かに二人を撫でていた。
    「やだ、この子本気だわぁ」
     双眼鏡を見せつける藍を見て、思わず吹き出す夕眞。
     テンション高めに月食と、そのすぐ傍にある天王星を見るべく双眼鏡を覗き込む藍の姿に、こころなしか夕眞の視線も柔らかいものになっている。
    「夕眞ちゃんアレだ! アレが天王星だ!」
     月と一緒に見えている青緑色をした暗い天体を見つけ、藍は大はしゃぎだ。
     一個の双眼鏡を交互に見て身を寄せ合う二人は、少し寒くなった夜でも暖かく見えた。
    「月食なんて、見る機会なかったけど……暗いはずなのに、なんだか綺麗」
     陽菜も楽しみにしていた皆既月食。食の始まった時からずっと視線は月に釘付けだ。
    「はー、綺麗っていうか神秘的っていうか。世界って凄いっすねー」
     それを近くで見守るのは、姉の冴絢。ふと視線を空から移すと、視界に飛び込んできたのは首筋の絆創膏。
     振り払うように帰宅後の話をすれば、妹も甘えた様子で応じてくる。今は、それで良いのだ。
    「見て見て、これ、買ったんだ」
     そう言ってジェルトルーデが見せたのは、沢山身につけている緋月ちゃんストラップ。
    「にゃっ!?」
     予想外の事態にうろたえるが、ここから先は平常心。
    「げっしょく、きれいだね」
    「でも、少し怖いかも……」
     緋月が震える手を差し出せば、ジェルトルーデはすかさず抱きつきにかかる。
     そうした行動の度に緋月の凛とした態度が崩れるが、そんな空気が心地よく感じられていた。
    「月はよく見てた、から、見たことある。赤い月」
    「弥彦さんはお月さまますたーですね! わたし、まっしろしかみたことないです」
     少し離れたら消えてしまいそうな小さい声で囁く弥彦に、鼓は元気よく受け答え。
     弥彦が以前鼓に貰ったマントを広げれば、鼓も自前の毛布を取り出す。
     その中は、おひさまの名残と霊犬のささらであったかそうだ。
     二人の微笑ましいやりとりは、欠けた月がすっかり元通りになるまで続いた。
    「俺は今までこういうのに無縁だったが……これjは思わず魅入りそうだ」
     毛布と温かい飲み物をそれぞれ持参し、万全の状態で月見を楽しむ榛名とバジーリオ。
     この手のイベントに縁のなかったバジーリオへ向けて、時折榛名も解説しているようだ。
    「紅は、実はあまり好きではなかったのですが……こうしてバジーリオさんとの思い出の色にもなって、何だか好きになれそうだなって、思います。」
     幻想的な光景を飽きるほど見つめ、またこうしたイベントに行こうと誓う二人。
     次はどこへ行くのだろうか。
    「…………」
     満月には人の心を乱す魔力が宿るという。では、月食なら?
     静かに空を見上げていた夜霧は、血の騒ぎを感じて小さく体を震わせていた。
    「夜霧ちゃん、寒そうならこれをどうぞ」
     ルーシーがその震えを寒さによるものと判断し、自らの着ている上着を羽織らせる。
    「えへへ……ありがとうルーシーちゃん!」
    「あっ、今度はルーシーが寒そう!」
     それを好機と見たか、のどかはルーシーへと抱きつきを敢行。体温が高いらしい彼女がくっ付いていれば、ルーシーもご満悦のようだ。
    「皆様、お食事のご用意ができました」
     グローリアの一言により、古ぼけた洋館のメンバーが一斉に食べ物へと注目。
     今回は夜霧の歓迎会も兼ねているらしく、外でつまむにはいささか豪勢な装いとなっている。
    「……こういう時間も、悪くはありません」
     本人も自覚しないうちに、グローリアは薄く笑う。普段見せる事のない表情、しかしこの場にはこれ以上なく似合っていた。
    「えーっと、焦点の合わせ方は……」
     望遠鏡からの直焦点撮影を試み、解説書とにらめっこしているファルケを始めとした星空芸能館の面々も、思い思いに月見を楽しんでいる。
     えりなの敷いたレジャーシートの上で、彼女の提案により月にまつわる思い出話を始めたようだ。
    「I love youを『月が綺麗ですね』って訳した話を知ってから、月が綺麗って聞くとちょっとドキドキしちゃう……♪」
     くるみにとって、月は文学的な恋の香り。確かに、夜空に昇る月は、愛を語るのに絶好の演出かもしれない。
    「うん、満月ってロマンティックな気持ちになれるよね♪」
     そう返すさやかが語るのは、祖父とテラスで眺めた中秋の名月。家族と見る月も、落ち着けるものだっただろう。
    「私は……ですね。何年か前の満月の夜、大雪が降ったんですね」
     丁度その時野外イベントに参加していたというえりなは、雪雲の向こうに浮かぶ満月を思い起こす。
     真っ白な雪原に浮かぶ月は、さぞや綺麗なものだったに違いない。
    「空には、狼さんが住んでいて、たまに太陽や、お月さまを食べて、しまうんですって」
     沙夜の神話的な言葉にも納得出来そうなほど、目の前の光景は綺麗なものだった。
    「……っと。すまない、月に見とれていた」
    「その気持ちはわかる、神秘的なものには言葉が出ないものだ」
     しばし言葉もなくずっと皆既食を見上げていた星奏の三人。
     最初に我に返った風樹が持参していたジュースを取り出し、そこからまた思い出したように会話が始まる。
    「記念撮影だ、こういうのもいいだろう?」
     そして途中から天体写真の撮影を試みていた咲夜の提案で、三人の写真が撮られる事となった。
     恥ずかしそうに下を向く沙夜の姿が印象的なその一枚は、貴重な思い出のスナップとなった事だろう。
     喧騒から離れ一人となったアルスメリアは、欠けきった月を見ながら離別した友に思いを馳せる。
     あなたは、きっとこういうソラが好きだったんだね。
     その気持ちが少しだけ分かったような気がして、彼女は月が元通りになるまで、ずっと空を見上げていた。
    「やっぱこっちの方がいいな、キの字」
     周囲にすっかり人気がなくなった事を確認すると、素に戻った態度で相棒のキャロラインと共に寝転がる、らら。
    「あー、なんか、眠くなってきたかも……」
     ぼんやり空を眺め、時折スマフォでの撮影を試み、結局諦めたりもして。そんなのんびりした時間も、悪くはない。
    「あれはペガスス座の平行四辺形ね。もう秋か」
     占星術では成長を促すと言われる赤い月より、少し上。
     天馬を象徴する四つの星を見たアリスは、そのまま目を閉じて秋の虫による音色に聞き入る。
     今までの振る舞いに疲れた彼女は、今ここで自身を組み替える。
     独りでも、平気であるために。
    「夜も、冷えるようになりましたね……」
     夏の暑さもすっかりなくなり、散歩しやすくなったと感じるにあ。
     歩きながら夜空を見上げれば、いつか習った星座の授業を思い出す。
     北西に見えるWの並びも普段なら気に留めないが、今ならきっとカシオペアの形が見えているはず。
    「あ、そうだ。名木沢ちゃんはお菓子お好きかしら?」
     ふと思い立ち、近くにいた観夜を呼び止める桜子。なお相棒のぴー助はずっと月をガン見している。
    「うん! たくさんうごいたら、いっぱいほしくなっちゃうよね!」
     差し出されたお菓子に、観夜をはじめとした他の参加者も目を輝かせる。
    「わたしも一つ、貰っていいかな?」
     と尋ねた天水にも、三日月形のクッキーと餡子が二種類入った月食饅頭を手渡していた。
     折角なので、その場で望遠鏡を設置し観測を楽しむ一行。そこへ嘉月も加わり、解説を始める。
    「月面のクレーターや海も、月食になるとより際立って見えますねー」
     暗く見えるところは海と呼ばれている、という補足説明に、観夜も目を輝かせて話に乗っている。
    「海のところはあんまりデコボコしてないから、着陸しやすいんだよね! むかしの人は、あそこにホントに海があるって思ってたんだって!」
     そうしたやりとりをしつつ、それぞれの観測機器による見え方の違いなどを楽しむ一同。双眼鏡でも、肉眼より遥かにダイナミックな景色が見られるのだ。
    「皆既月食の時は月明かりが抑えられて、星がよりいっそう見えますよ」
     嘉月の言う通り、満月の時に光で見えなかった星々が鮮明に見えるようになっている。
     普段は見つけづらい天王星も、皆既食を迎えた月のすぐ傍にあるという事で、観夜も天水もその暗い寒色の天体と暗い月の対比にはしゃいでいた。
    「観夜のお嬢から月見の誘いとりゃァ是非もなし! 此度も馳せ参じやしたぜ!」
    「わ、すっかりじょうれんさんだね! 娑婆蔵君、それににえ君とみんなも!」
     お馴染みとなった娑婆蔵の声に、あちこちを回っていた観夜も明るい声で振り向く。
    「はい、にえです。いつものコーヒーもありますよ」
    「コーヒー飲めないのでおにぎりください」
    「あ、そう言えばおにぎりも沢山もってきてたんですよ、隼人の誕生日祝いに」
    「おう、もっと祝え愚民ども。俺が欲してるのは現金、武器、防具だ」
     相変わらずのどんちゃん騒ぎである。
     コーヒーを勧めつつおにぎりを隼人へ押し付ける仁恵と、カウンター気味に方向転換させつつ自分はコーヒーを確保する隼人。
     素知らぬ顔でサンドイッチを置きつつおにぎりを口にする一途に、ロウソクの立ったホールケーキを追加するエルメンガルトの姿も見える。
     そこへ光のハミングまで合わさり、すっかり月を肴にした祝賀ムードに包まれていた。
    「ん、本当に赤い。こういう月食って、結構レアなんじゃなかろうか」
    「月食のなかでも皆既食にちかくないと月は赤く見えないからー……こういう月食が見えるのは、だいたい月食ぜんぶのうち半分だよ!」
     天文に詳しい知人があまり居ないという光も、何となく珍しいであろう天体ショーを見るために双眼鏡を持参している。
     写真に撮る事は難しくとも、その中々見られない光景を目に焼き付ける事は出来る。観夜の話を聞きながら、ポッケニアンの面々はゆっくりと星空を見上げていた。
    「なるほどなー。でもアレ何で赤くなるんだろうな?」
    「えっと、それはね……」
     話をずっと聞いているエルメンガルトは、そのままうとうとと舟を漕ぎ始めている。そんな平和なひと時も、良い思い出となるだろう。
    「……こんなひかりも、存在、するのか……」
     食の全てを見届けた九十九は、感嘆の言葉を隠せない。自らの失った記憶にあったかは分からないが、世界にはこんなに美しいものも存在するのだ。
    「呼んでくれて、その、なんだ……ありがとう」
     食が全て終わった時、通りがかった観夜に視線の高さを合わせて礼を述べる。
    「えへへ、どういたしまして! これで、星も夜ももっと好きになってくれたらうれしいな!」
     屈託のない観夜の笑顔。九十九の受けた感動は、きっとこの場にいた全員が共有できただろう。

    作者:若葉椰子 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月8日
    難度:簡単
    参加:63人
    結果:成功!
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