琵琶湖大橋の戦い~一触即発大戦争

    作者:立川司郎

     琵琶湖を舞台に激化させていった羅刹とご当地怪人の戦争は、膠着状況となっていた。
     この二つの勢力の事件に対して、武蔵坂学園側が当初天海僧正側に荷担するように動いていた。
     ところがいざ天海側が勢力を拡大すると、今度はその勢力を削いだ。
     これにより、双方の陣営は膠着状態に陥ったのである。
     その話しを配下から聞きながら、琵琶湖大橋を眺める男が一人。彼の配下の多くは、殆どが天海だの羅刹だのの勝利自体に興味はなかろう。
    「……まだ睨み合いをやっているのか」
     不機嫌そうな声で、少年が呟く。
     様子を眺めていた配下の男が、彼に気づいて振り返った。
    「恭二さん、天海側は鞍馬天狗、朱雀門の勢力も加わったそうです。その他、九州からも刺青羅刹の勢力が到着したとの報告もありました」
     そして、HKT六六六の殺人鬼や淫魔も。
     対して安土城怪人側は、恭二たち業大老配下のアンブレイカブルにアメリカ、ロシアのご当地怪人、そしてセイメイ配下のアンデッドが集結していた。
    「よくもまあ、これだけダークネスをかき集めたもんだ。糞暇人どもが……」
    「……まあ、一番簡単な理由でここに居るのは俺達くらいでしょうね」
     アンブレイカブルの一人が、そう言って笑った。
     彼らにとって戦いが第1、存分に戦えるというなら参加しない理由など無いだろう。
     とはいえ、安土城怪人の為にここで多くの勢力を失うのも面白くないと恭二は呟く。
    「適当な所で引く事が出来りゃあいいが」
     さて、各勢力の思惑は一体……。
     
     琵琶湖に関する重要な情報が通知され、相良・隼人も厳しい表情で教室に入ってきた。
     現在天海大僧正と安土城怪人の二勢力は、琵琶湖大橋で睨み合いを続けているという。
     だが問題は、彼らに多くのダークネス達が協力しているという事である。
    「奴らは今琵琶湖大橋の確保に乗り出しているが、このまま放置すると戦いが拡大して全面戦争になる。そうすると、琵琶湖周辺は火の海になっちまうだろう。まずそうなる前に、俺達が介入してそれを回避しなきゃならねえ」
     その為の策が、三つある。
     一つは二つの勢力が戦いを始めるより先に双方を武蔵坂学園側で制圧してしまう方法だ。
     成功すれば双方は武蔵坂学園の勢力を無視出来なくなり、一定の条件下で休戦となるだろう。一番望ましい結果に見えるが、こちらは戦力を二分する為戦いは困難を極めるだろうし、失敗した場合やはり全面戦争が始まるだろう。
     また、ダークネス同士の休戦は灼滅者達にとって不利益となるかもしれない。
     二つ目は、琵琶湖大橋の東側、安土城怪人の軍勢を一方的に攻撃する事。この結果天海大僧正が琵琶湖大橋を制圧し、安土城怪人の本拠地に天海大僧正側が攻め込む形となる。
     安土城怪人側が不利となれば、増援に来ていた勢力の多くは撤退する為、安土城怪人の軍勢は敗走し、琵琶湖周辺は天海大僧正勢力が支配することになる。
     天海側が勢力を拡大して戦場となる琵琶湖の東側で被害は出るが、全面戦争に比べれば被害は少なく済む。
     3つ目は、琵琶湖大橋の西側、天海大僧正の軍勢を一方的に攻撃する事。
     結果琵琶湖大橋は安土城怪人側が制圧し、彼らは天海大僧正の本拠地に攻め寄せて雌雄を決するだろう。
     戦況が不利となれば、増援に来ていた勢力の多くは撤退。天海大僧正は本拠地での籠城戦の結果灼滅されるだろう。
     天海の勢力が壊滅する結果になるのはメリットだが、安土城怪人の勢力が拡大し、琵琶湖の西側には大きな被害が出る。
    「……とまぁ、どちらにもメリットデメリットがある。どうやら今回の戦い、六門恭二も参加しているらしいな。今話したように、彼らの勢力は不利になったら撤退するはずだし、恭二自身もヤバくなったら撤退するだろうな。まあ、あいつが出てくる前に慈眼衆をつぶすのもアリだ」
     恭二らアンブレイカブルは好戦的なダークネスだから、戦争となったら最前線に出てくる可能性は高い。
     それに、慈眼衆にしろ恭二にしろ、撃破しても周囲に敵が残っていれば連戦となる事がある。
    「戦うか引くかの判断は、お前達に任せる。死なないように帰ってこい」
     隼人は励ますようにぽんと肩を叩くと、笑って送った。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)
    海堂・月子(ディープブラッド・d06929)
    龍田・薫(風の祝子・d08400)
    中神・通(柔の道を歩む者・d09148)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    蒼間・夜那(金瞳の夜猟者・d14520)
    類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888)

    ■リプレイ

     琵琶湖大橋を挟んで膠着状態に陥った二勢力が動き出したのは、第三勢力の介入……そう、武蔵坂学園の襲撃によってであった。
     二手に別れた武蔵坂学園は、それぞれ両陣へと一斉に攻撃を仕掛ける。
    「すごい数だな。……森沢、恭二は居るか?」
     この数をまともに相手にしては、切りが無いと中神・通(柔の道を歩む者・d09148)が緊張を漲らせつつ心太に聞いた。
     乱戦状態の中、顔を見知っている千布里・采(夜藍空・d00110)と森沢・心太(二代目天魁星・d10363)は、ダークネスの群れに目をこらして恭二の姿を探し続けた。
     安土城怪人の配下に混じり、ロシアや米国のご当地怪人達の姿も見える。
    「……あれです!」
     心太が指した先に、アンブレイカブルの配下に指示をしている恭二の姿がちらりと見えた。にんまりと笑って、転がるように駆け出した蒼間・夜那(金瞳の夜猟者・d14520)に続いて、通が足を踏み出す。
    「よし、オレらの相手はアイツか!」
    「気をつけろ、恭二は一人でも手練れだぞ」
     通の声は聞こえていたが、戦いが待ちきれないような夜那の横顔。ゆるりと采もその後に続くと、恭二の前へと進み出た。
     手合わせをしたのは二ヶ月ほど前のこと、恭二もこちらに気付いたようだ。
    「お久しゅう、恭二さん」
     采は軽く礼をすると、頭を上げながらずるりと断罪輪を引き抜いた。足元の影は、采の言葉に合わせて揺らいでいる。
     恭二は返答を返さないが、こちらの攻撃に備えているように見えた。
    「こないな所で悪いんやけど……」
    「……ケンカおっぱじめようぜ!!」
     夜那が言葉を継ぎ、サーベルを振りかざした。後衛を守る為に踏み込みは浅いが、恭二を捕らえるには十分な距離。
     恭二は剣の剣筋を見極めながら、拳で弾く。采の影が足元に迫るが、後ろから迫ったその影を見えて居たように蹴散らす恭二。
     夜那の後ろに続いた通は恭二に掴みかかるが、半身躱した恭二が拳を下から打ち付けた。腕を掴む通であったが、その体はビクとも動かなかった。
    「堅い……っ」
    「力で俺は押さえられん」
     大きく踏み出した恭二が通を振り払い、身構えた。
     一斉攻撃にも、揺るぎがない彼の表情と力がそこにある。
    「めんどくせぇ、今日はお前達と遊んでいる暇はない」
     恭二が舌打ちすると、夜那は恭二の正面で攻撃を受けながら笑う。
    「心配すんな、今頃あっちもこっちも乱戦状態だぜ」
    「……」
     ちらりと恭二が視線を外すが、この調子であれば橋の向こう側も攻撃を受けているだろうとは、さすがに恭二も察しているだろう。
     霊犬の花を背後にし、海堂・月子(ディープブラッド・d06929)と肩を並べた秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)に恭二が接近し拳を叩き込む。
     下から振り上げた拳は、速度パワーともに誠士郎に勝っており衝撃が脳天を直撃する。わずかに後方に下がりつつ、蹴りを放って恭二と距離を取る。
    「ダークネス同士の戦いなど、貴様らに関わりはないはずだ。さっさと退け」
     恭二がそう言うと、誠士郎は呼吸を整えて縛霊手を翳す。
     巨大な腕を盾にするようにして、恭二の隙を伺う誠士郎。四方を囲まれていてなお恭二は攻撃を受け流しつつ、着実に当ててくる。
     誠士郎はそんな恭二の攻撃に合わせて、攻撃を繰り出す。
    「生憎とどちらにも加勢する気はない。喧嘩両成敗だ」
     さらりと誠士郎はそう言い返した。
     琵琶湖の被害を避けたい類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888)は、関わりが無いだろうなんて聞きたくはない。だが、反論を飲み込んだ代わりに攻撃を繰り出した。
     誠士郎たちの背から一気に距離を詰め、縛霊手を伸ばして恭二の腕を掴む凪流。
     鋭い視線は、真っ直ぐに恭二を捕らえていた。
    「まともにやり合っちゃ勝てない……でも何としても、あなたを止めるっ!」
    「そうだな、搦め手も実力の一つ、ってね」
     凪流の声を聞き、夜那が死角から飛び込んだ。誠士郎は二人の動きを視界に入れ、意識を一瞬反らせた恭二に跳躍。跳び蹴りを浴びせる。
     恭二の動きを阻む為の、三者の攻撃は仲間の為に隙を生む為であった。
    「……月子さん!」
     声を掛けると、月子は心太とタイミングを合わせて攻撃を仕掛けた。
     異形化した腕を振りかざした心太、そして月子は誠士郎の縛霊手の影になるように、するりと恭二の懐へと影から飛び込む。
     身体バランスが取れた恭二は、臨機応変に対応されるのが一番やっかいだ。アンブレらしく、力で攻めてくれば……。
     月子はそう考えながら、ローラーから火花を散らした。
    「流石頼りになるわ」
     身をもって恭二の拳を受け止めた誠士郎に、月子はそう言葉を掛けた。身を躍らせた月子と心太、二人が交差した蹴りは弧を描き、焔が舞い散る。
     恭二の攻撃を誠士郎や夜那達が受け続けてくれているかぎり、月子と心太は攻撃に専念出来る。
     心太は着地すると、恭二に声をかけた。
    「僕達は恭二さんが撤退してくれるなら、邪魔をしません。あくまでも双方の総力戦を避ける為の同時攻撃ですから」
    「逃がしてくれるからといって、そうですかと素直に撤退する訳にはいかないな」
     その言葉は意地を張っているようにも聞こえたが、心太は肩をすくめた。恭二は背を向けず、夜那をたたき伏せ、攻撃してきた誠士郎の腕を掴み上げる。
     夜那はうまく受け身を取ったようだが、次にターゲットになった誠士郎はまともに攻撃を喰らったのか呼吸が荒い。
    「こっちも忘れんといてください」
     攻撃を反らす為、采が手裏剣を放つ。躱そうとした手裏剣が恭二の足元で爆発を起こし、衝撃に恭二の姿勢が崩れる。
     畳みかけるように六文銭射撃を霊犬が放つ、阿吽の呼吸に恭二はふと笑った。
    「群れねば戦えない相手……と思っていたが」
    「こんな所で『群れ』のせいで倒れるのは、面白くないんじゃないですか?」
     それに、撤退してくれるとこちらも助かると心太は付け加えた。
     心太は誠士郎の様子を伺うが、月子はまだ誠士郎が十分戦えると踏んでいるらしく表情一つ変えなかった。
     まともに戦っては勝てない、と二ヶ月前は言われた相手。
     せめて撤退してくれればと心太は心に思いながら、それを押し殺した。

     誠士郎と夜那の攻撃を肩代わりしたのは、龍田・薫(風の祝子・d08400)の霊犬であるしっぺであった。誠士郎は花を、采も霊犬に指示しながら防御と治癒とに手を割く。
    「しっぺ、しばらく耐えてください」
     薫はしっぺと三人で、恭二を削りきる迄耐えられるように祈りつつ、誠士郎にシールドリングを放った。
     さらに、夜那へも。
     恭二の攻撃は強力で、薫が追いつかない分はしっぺが担う。
    「夜那さん、無理せず下がって」
     薫が夜那へと声を掛けると、薫の手にした小太刀がちりんと鈴の音を鳴らした。あまりディフェンダーが押し込むと、恭二が撤退する隙が無くなると判断していた。
     こちらが今ここで恭二との戦いで疲労したら、今度はここから撤退するのに苦戦する。
    「幸い、恭二さんはエンチャの事はあんまり気にしてないみたい。ここは少しでも削る方向で行こうよ~」
     凪流はそう言うと、助六に声を掛けた。
     薫の霊犬は立っているのがやっとであったが、助六がそっと傷口に触れるとぷるぷると身を振って立ち直った。
     長期戦になると、やはりマズイ。
     凪流は仲間に合図を送ると、エアシューズで滑り出した。地面に描く焔の軌跡が、幾つも交差して真っ直ぐ恭二へと向かって行く。
    「あくまで戦いに拘って……民家に被害を及ぼすなら、私は許さないっ!」
     飛び込む事を恐れず、凪流が恭二に蹴りを叩く込む。焔がゆらめき、凪流の蹴りから恭二へと移る。
     恭二もまた焔に焼かれても、うろたえる事はなかった。
     立て直す間もあけず、月子が焔を纏って蹴り込む。誠士郎はじっと耐えていたが、月子と視線が合うと、彼もまたローラーを滑らせた。
     焔に焼かれる恭二に、通が対峙する。
    「この合戦は武蔵坂が水を差した。……お前の望ような大規模な戦いにはならないだろう」
    「……つまらんな」
     恭二はそう言うと、周囲を見まわした。
     通は正面から撃ち合おうとするが、恭二の動きを捕らえる事は出来ずにいた。恭二もまた通と鏡合わせの力……正面から撃ち合うのはあまり分が良い戦いではなかった。
     策無く掴みかかっても、捕らえる事が出来ない。
     掌を見下ろし、通はひとつ呼吸をした。
     恭二は攻撃を止め、ゆっくりと後退する。それ以上傷を癒す事はなく、恭二は周囲に散った配下へと声を掛けた。
    「……撤退だ!」
    「了解しました。……ですが、いいんですか他の勢力や安土城怪人の撤退を支援しなくて」
     配下が伺うように聞く。
    「そこまでする義理はない」
     恭二が踵を返すと、残った配下二人に足を踏み出した采を通が手を翳して制止した。これ以上戦う事はない、と通が采に言う。
     配下が恭二の後を追うなら良し。
    「せやな。……恭二さんに宜しゅう言うといてください」
     采は配下にそう答え、行った行った、というように手を振る。
    「……見ていてやらんと、またどこかで引っかかるかもしれんぞ」
     通がふと笑って言うと、配下が慌てて恭二の後を追いかけた。
     その背が消える前、心太は思いだして声を掛けた。
    「そういえば、恭二さんは獄魔覇獄に参加するんですか?」
     声を聞いた恭二が足を止め、ちらりと振り返る。
     業大老が柴崎に代わる人材を探す為に行った、武神大戦殲術陣。彼はそこに姿を現すことがあるのだろうか。
     柴崎の残留思念は、関わったことがないと言っていたが……。
    「業大老の掌で躍らされたくはない……が、師を倒した貴様らと戦えるというのであれば、望む所だ」
     それは出るという事か、それとも出ないという事か。
     答えを預けたまま、恭二は撤退していった。
     獄魔覇獄、とこに姿を現すのがだれなのか、采も気になる所ではあるが……思案しつつ、爆裂手裏剣を放った。
     手裏剣を刀で叩き下ろし、ずいと踏み出すダークネスに采がふと笑みをもらす。
    「このまま通してくれへんようやね」
     霊犬を見下ろすと、足元に控えた采の相棒は一咆えした。

     恭二の撤退を見送った頃、安土城怪人の側の戦力は大分減っていた。
     周囲を囲む刀剣怪人とペナント怪人に、采が再び手裏剣を構える。もう一度くらいは効くやろか、と呟く采に薫がしっぺを見下ろす。
    「しっぺもそうですが、前衛の二人が保たないかもしれません。撤退も視野に入れておいた方がいいかもしれませんね」
     薫は夜霧で包みながら、周囲を見まわす。
     来る時には余裕が無かったが、今見まわしても特に目立った敵はいないようだった。撤退したのか、それともこの戦場には来なかったのか……。
    『余所見をしている余裕はあるまい!』
     刀を構えた刀剣怪人が、踏み込みつつ鋭い一閃を繰り出す。夜那が弾くも、しっぺが体を切り裂かれて崩れ落ちる。
     腕を押さえた誠士郎が下がりつつ、紅蓮斬を構えた。赤く染まっているのは、血の所為だけではないようだった。
     真紅のオーラを纏った腕で、誠士郎がペナント怪人を薙ぎ払う。
    「……ぐっ……」
     交差するように、体を貫いた刃。
     ぐらりと崩れ落ちると、月子がその体をキャッチした。さらりと月子の髪が、頬にかかる。
    「ありがとう。後は任せてちょうだい」
     続けて迫る一撃を月子が受け止め、誠士郎を薫へ渡してウロボロスブレイドを構えた。肩を並べた夜那は、今にも倒れそうなのに笑って居る。
     無理をするな、と通が前に出る事も出来たかもしれないが、通は彼女たちに清めの風を送った。さらりと涼しい風が通り抜け、月子が目を細める。
    「担いで行けるのにも限界がある。……それまでに、せめてペナント怪人は片付けたいな」
     通が言うと、采が笑い顔で影を爪の形に模った。
     黒い鈎爪は采ののんびりとした声と反して、自在に鋭くペナント怪人を切り裂いていく。恭二との戦いに続いて、刀剣怪人達との戦いは決して楽な物では無い。
     刀剣怪人に妖冷弾をぶち込み続けた夜那をペナント怪人が吹き飛ばすと、凪流は足元に転がったままの夜那を飛び越えるようにして斬りかかった。
    「助六っ!」
     声を掛けたが、助六の声が返らないという事は夜那が戦える状況にはないという事。前衛が崩れた今、あとは総力戦しかない。
     飛び込んだ凪流は、ペナント怪人を横一文字に切り裂いた。
     旋回しつつ、回し蹴りで吹き飛ばす凪流。
    「……あと二人ね~」
     通が投げ飛ばしたペナント怪人が動かなくなるのを見届け、凪流が言った。
     ちらりと通が薫を振り返ると、重傷を負った二人の様子を見ていた薫が立ち上がった。心太にシールドリングを放ち、薫が聞く。
    「倒しますか?」
     月子と心太は既に満身創痍。
     月子は『あなたは怪我人を運ばなきゃならいないんだから』と心太に言っていたから、心太を庇うつもりなのかもしれない。
     それでも薫がそう聞いたのは、最後まで諦めないのかという問い。
    「大丈夫ですやろ、四人残ったら撤退出来るように話し合うて来たんやし」
     采はふと笑って薫に答えた。
     残ったペナント怪人一体に小さく九字を切り、霊犬と同時に攻撃を仕掛けた。九字を受けながらも霊犬に拳を叩きつけたペナント怪人を打ち据えたのは、凪流であった。
     縛霊手から自身の血を滴らせ、ほっと息をついて構える。
    「あとは一体だね」
    『ぬかせ!』
     刀剣怪人が突きを繰り出し、踏み込む。
     距離を取りつつ攻撃の隙を伺う凪流のかわりに月子が刃を弾き返す。衝撃は体をバラバラにしそうな程、痛みを伝える。
     連戦による傷は、すでに限界だった。
    「しっかりしろ!」
     月子が崩れる瞬間、刀剣怪人を通が後ろから羽交い締めにした。空に飛んだ心太が、通の羽交い締めにした刀剣怪人を吹き飛ばす。
     治癒か、それとも攻撃か。
     その迷いは一瞬。
     薫は前へと進み出ると、紅に染まった腕を振り上げた。
    「見様見真似…之貫手、螺旋貫き手!」
     螺旋を描いた薫の腕が、刀剣怪人を貫いた。

     崩れ落ちた月子を抱えると、心太は残ったご当地怪人へと煙幕を放った。煙が視界を遮ると、心太が仲間に今のうちにと声を掛ける。
     通は残った誠士郎と夜那を抱え、駆け出した。
    「しんがりは任せた」
    「ほな、先頭は担当します」
     采が通の前に立って、橋のたもとへと走り出す。
     采、通、心太、薫と続くと凪流は最後に後ろを振り返った。

    作者:立川司郎 重傷:秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236) 海堂・月子(ディープブラッド・d06929) 蒼間・夜那(金瞳の夜猟者・d14520) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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