琵琶湖大橋の戦い～今、運命を定める時

■リプレイ

●運命を定める戦いへ
　安土城怪人と天海大僧正の軍勢を中心に、アンブレイカブルにアンデッド、刺青羅刹にデモノイド、淫魔に殺人鬼……様々なダークネスやその配下たちが東西に別れて集う、琵琶湖大橋。
　様々な事情を考慮し東側に位置する安土城怪人の軍勢を攻める事に決めた八人は、道半ばにて一体の刀剣怪人率いる一団と遭遇した。
　構成は、日本刀を携えている刀剣怪人と、龍砕斧を携えている三体のペナント怪人。
　総員前衛であるとだけ確認し、細氷・六華（凍土高原・d01038）は魔力を前線へと送り込む。
「氷の世界へようこそ――――深々と凍りなさい」
「むっ！」
　氷点下まで落ちる気温。
　氷結していく怪人たちの体。
　されど即座に構えなおしていく練度から、六華は力量を推し量る。
「……連戦、いけるでしょうか。とはいえ目の前に全力で」
　全力でなければ届かぬと身構えながら、手裏剣を構え始めていく。
　前線では宮澄・柊（迷い蛾・d18565）が槍を突き出して、刀剣怪人の持つ日本刀と打ち合った。
「っ！　……個人的に恨みなんかは無いんだが、素直に狩られてくれると助かる。ダメか」
「……無論」
「暴れるなら大人しく暴れてくれれば……な」
　全面戦争などやらずに、おとなしくしておいてくれればよかったと口ずさみながら、力で押し返される前に弾き距離を取る。
　刀剣怪人も距離を取り、静かな声音を響かせた。
「我が名は刀剣怪人小烏丸。どのような勢力かは知らぬが、ジャマをするなら容赦はせん。推して参る！」
「させません！」
　振り上げられた刀を、結島・静菜（清濁のそよぎ・d02781）の左拳が打ち払った。
　右の拳は肥大化させ、頬と思しき場所に右ストレートをぶつけていく。
　幸い、相手は刀剣怪人、安土城怪人勢力。被害が出ないように頑張ってくれた相手ではく、心苦しいことはない。
　無論どちらに味方をするわけでもないのだと飛び退いて、透間・明人（カミを降ろした中学生・d28674）の暴れる隙間を作り出す。
　明人は槍を振り回しペナント怪人の頬と思しき場所を叩く。
　最後に小鴉丸へと石づきを向け、突き出した。
　刀に阻まれ打ち払われても、手首を返し穂先を振り下ろしていく。
　刃の形状をした硬い頭に阻まれて、有効打には至らない。
　ならば押さえつけると力を込めながら、尋ねていく。
「ところで安土城怪人は何故、天海を目の敵にしているのですか？」
　返答はない。
「ああ、ただの興味ですから、答えていただなくても結構ですよ」
　構わぬと、小烏丸が力を込め始めたタイミングで槍を引き、後方へと退いた。
　ひと通りの攻撃を受けた小烏丸は、ペナント怪人たちへと視線を向ける。
　怒りに駆られたのだろう、二体ほどが明人へと向かっていた。
　残る配下と共に攻撃を集中させんという趣か……小烏丸は静菜に切っ先を突きつけ、ゆっくりと歩き出し……。

●小烏丸が示す場所
　ちょっとばかし不味いというか、怖い状況。
　戦争ではない……キリングリヴァイヴァーなしの状況で複数のダークネスとの戦闘は……と、安藤・小夏（片皿天秤・d16456）は目を細める。
　もっとも、だからといって回避はできない。やらなければならないことと割り切って、他の場所で戦う仲間たちも無理をしないことを祈りながら、霊犬のヨシダに静菜の治療を命じながらオーラを雷へと変換する。
　小烏丸に殴りかかり、鋭き刃と打ち合った。
「……」
　押し合いは得策ではないと判断し退けば、横合いから飛び込んできた配下が斧を振り上げ襲いかかってきた。
　ヨシダを載せられるほど大きな手甲で防ぎ、弾きながら、戦況の把握に移っていく。
　小鴉丸は、どうやら静菜を攻撃対象に選んだらしい。他のペナント怪人たちは小烏丸の露払いの他、怒りに駆られない限りは静菜に狙いを定めている。
　狙いが分かっているなら対処も容易いと、朱屋・雄斗（黒犬・d17629）が振り下ろされた刀を手甲で受け止めた。
　刃を握り力比べへと持ち込みながら、静かに睨み合っていく。
　安土城怪人はどうにも合わない。以前も結局は天海に味方するような形になったほどである。
　気持ちとしては、不気味な天海大僧正を叩いておきたい。が、被害を拡大させる訳にはいかないから、今は安土城怪人側を叩くのだ。
「予測される未来故に……な」
　静かな言葉と共に小烏丸を押し返し、わずかに後方へとのけぞらせた。
　すかさず足を炎熱させ、守りの開いた右脇腹にミドルキックを叩き込む。
　炎上していく小鴉丸の中心へと狙いを定め、比良坂・八津葉（時鶚の霊柩・d02642）は螺旋状の回転を加えた槍を突き出した。
　浅くとも確実にえぐった手応えを得た時、小烏丸が問いかけてきた。
「何故、天海大僧正の味方をする？」
「味方になるつもりはない」
　ただ、戦争を回避する。
　それだけが目的だと瞳を伏せ、腕を引き後方へと退いていく。
　一方、ペナント怪人たちは静菜へ斧を振り下ろしていた。
　優しい風を招き入れながら、雨月・ケイ（雨と月の記憶・d01149）はちらりと周囲に視線を向けていく。
　他の勢力まで巻き込んで、随分とエスカレートしてしまった琵琶湖周辺の抗争。ここいらで何とかするために、こうして戦力を整えやって来た。
　今はそのための、一段階目。
　可能な限り戦力を削る目的の下、ケイは敵勢の行動を注視する。静菜の状態に気を配る。
　被害を最小限に抑えること、それこそが己の役目なのだから……。
「……大丈夫、私が支えます。ですから、皆さんは心配せずに攻めて下さい」
「ああ、頼んだぜ」
　言葉だけで頷き返し、柊は静菜へと向かっていく小烏丸の背後へと回りこむ。
　無防備な背中に拳を一発、二発と連打して、着実にダメージを積み重ねていく。
　まずはリーダーを……小鴉丸を撃破すること。それこそが、彼らの目指した道なのだから……。

　静菜が狙われた理由を探るなら、前衛陣の中でも先を見過ぎていた。そんな印象を与えたからだろうか？
　ならばと静菜をメインに護ることで、灼滅者たちは被害を最小限度に抑えていた。それでなお癒せぬ傷が積み重なったのはダークネスが持ち合わせている力量故。
　今もまた、小烏丸が振り下ろす刃が静菜の肩に食い込んだ。
「っ……」
　唇を噛み締めながら、静菜は影を操り腕を断ち切らんとした刃を押し返す。影で傷口を抑えながら、ガトリングガンを持ち上げていく。
「まだです。まだ、このくらいでは……！」
　小鴉丸に向けて爆炎の弾丸をぶっ放し、鋼色の顔を支える体を炎上させていく。
　流れ出る血が止まったわけではなかったから、ケイが符を投げ渡した。
「ヨシダさんも治療をお願いします。他の方は攻撃へ」
「分かりました。私は……」
　ヨシダが静菜の治療へ向かっていく姿を横目に、六華はペナント怪人たちに向かって手裏剣を乱射した。
「あなた達を制します。追撃は許しません」
「……」
　手裏剣飛び交う空間の中心に雄斗が結界を構築し、ペナント怪人ごと小烏丸を閉じ込めた。
「む……」
　ペナント怪人も、小烏丸も動けない。
　ここに来て織り交ぜてきた呪縛が結実したのだと、一気に攻める時が来たのだと、明人が槍を構え小烏丸の正面へと飛び込んだ。
「今です！」
　螺旋状の回転を加え真っ直ぐに突き出す明人の頭上、八津葉司りし魔力の矢が次々と小烏丸に降り注いでいく。
　止む前に八津葉は大地を蹴り、右足を炎熱させながら飛び上がった。
「まずは一つ目……」
　空中にて一回転。遥かな空から炎熱するカカトを落とし、刀の形をした頭の切っ先と打ち合った。
　限度を超えていたのだろう。刀の形をした頭が、硬質な音を立てて砕け散った。
「被害はそれなりにあるけど、問題はないわ。さあ、まずはこの戦いを終わらせるわよ」
　断末魔も漏らせずに爆散していく小烏丸を横目に、八津葉はペナント怪人へと向き直っていく。
　統率を失ったからか、ペナント怪人の動きには一貫性がなくなっていた。故にか、大きく被害を増やすことなく殲滅することに成功し――。

●幼き少女は戦いを求め立ち塞がる
「まだ、動けますよね。微力でも、ささやかでも……精一杯、やりましょう」
　六華の質問に、灼滅者たちは頷いていく。
　不安があるとするならば、周囲の状況から心霊手術は不可能。全体的なダメージはそこそこなれど、静菜のみ心配な域に突入していたという点だろうか。
　件の静菜は拳を握り、気丈な声を上げていく。
「大丈夫です、問題ありません！　早く、加勢へと参りましょう！」
　否を唱える者はいない。
　灼滅者たちは顔を見舞わせ、戦況把握へと――。
「……ヨシダ？」
　――移行しようとした時、ヨシダが毛を逆立たせた。
　ヨシダが唸る場所へと視線を向ければ、そこには幼い少女が一人、オーラを滾らせているペナント怪人が二体。
「……どうも、すんなり加勢とは行かないみたいだね」
　静かに身構えた後、小夏はオーラを雷へと変換し始める。ヨシダは後方へと下がり、治療の準備を整え始めた。
　幼い少女は深い息を吐いた後、年不相応に整えられた構えを取っていく。
「わたしは常盤。アンブレイカブル。ねえ、たのしくたたかおうよ！」
　おそらくは業大老配下と思われるアンブレイカブル。
　少しでも戦況を楽にするために、灼滅者たちはさらなる戦いへと挑んでいく……。

　特に統率を取る……と言った思考はないのだろう。常盤は狙いを定めずに、指示を出すこともなく灼滅者たちと対峙していた。また、指示がないことが前提となれば動くのは容易いのか、ペナント怪人たちは迷うことなく自由奔放に拳を振るいオーラを放出し……と、概ね浅く広くと言った攻勢を仕掛けてきた。
　護るには難があるが、誰かが一気に追い込まれるような自体も早々起きる事がない戦況。首尾よく、ペナント怪人を一体撃破することにも成功した。
　それからしばらくした後、ケイは放たれたオーラを避ける事に成功。そのままヨシダに治療を任せ、ペナント怪人へとにじり寄る。
　ナイフを掲げ、複雑な軌道を描く形で振り下ろし腕を首を断ち切った！
「後は……」
「あなただけね、常盤」
　八津葉は即座に向きを変え、走りながら足を炎熱させていく。
　構える常盤の正面から身をかがめ、スライディングをかましていく。
　垂直跳びで回避した常盤は六華が放った手裏剣を腕に足にかすめさせながら、柊に向かってオーラを放つ。
　柊は腕をクロスさせ、放たれたオーラを受け止めた。
「……あとどれぐらい立っていられるか正念場だな」
　今ので、己の閾値は越えた。
　まだ余裕のある仲間はいると、杖を握り直し常盤に殴りかかっていく。
　左腕に阻まれながらも魔力を爆発させ、退くことを余儀なくさせた。
　それでなお、常盤の勢いは弱まらない。灼滅者たちは次々と、撤退ラインと定めたダメージを負って行く。
　それでなお微笑みながら、明人は氷の塊を撃ち出した。
「そろそろあなたも苦しいんじゃないですか？」
「くるしい？　ううん、きみと同じだよ」
　右肩に氷の塊を受けながらも、常盤は明人と同様に微笑んだ。
　微笑む常盤の背後へと回り込み、小夏は雷を宿した拳で殴りかかる！
「っ！　さすが、だね」
「あなたたちこそ……でも、まあ」
　常盤が小夏を弾いた刹那、雄斗が炎に染まりし足を振り上げる。
　素早く放たれた常盤の蹴りを打ち合い、弾き合う。
　バク宙を刻み着地した雄斗は、立ち上がりながら瞳をhそおめ――。
「……すまない、限界だ」
　――全員が、定めていた撤退ラインを超過した。
　倒しきれるのならば倒したい。探るような視線を常盤へと向けた時、彼女もまた一歩、二歩と下がっていく。
「こっちもそろそろ？　もっとたたかいたかったけど……またにしよっかな。その時はまた、たのしくたたかおうね」
　無邪気な少女のように笑いながら、常盤は背を向け駆けだした。
　追いかける余裕はない。灼滅者たちは頷き合い、撤退を始めていく。
　大丈夫、役目は相応以上に果たした。後はどのような結末が導かれるのか、ただそれだけ。
　願わくば、被害が可能な限り少ないことを……。

作者：飛翔優	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年10月1日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 0
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