半身消えて青、目覚める

    作者:篁みゆ

    ●失ったもの
    「家とは方向が違うじゃない。ねぇパパ、どこへ行くの?」
     ママと退院したばかりの私を乗せて、パパは車を走らせている。助手席のママが小さな声で答えた。
    「……お墓参りに行きましょう」
     確かに事故で2ヶ月間眠っていた後リハビリを経てやっと退院した私は、お盆の墓参りに行けなかった。ご先祖様に事故で助かったお礼を言いに行くということだろうか。
    「お墓参り、か」
     窓の外に目を向けると、窓ガラスに映った自分の顔が見えた。ふと思うのは同じ顔を持った双子の妹のこと。
    (「ネミーラはイタリアで元気にしてるかしら」)
     事故のショックで私は事故付近の記憶が曖昧なのだけれど、パパとママが言うには私が事故に遭ったショックが強くて妹のネミーラはママの実家のイタリアで静養しているという。
     小さい頃から何度も連れて来られた霊園の駐車場に車を止めて、花と水桶を持って霊園内をゆく。折笠家の墓のある区画が近づくにつれてパパもママも口数が減っていった。そして。
    「フローラ……あのね」
     子どもの頃、お墓に水を掛けたくて柄杓を取り合ったっけ……そんなことを思い出しながら墓に水をかけた私は、動けなくなってしまった。だって、父方の祖父母の名前が刻まれているそこには――。
    「ネミーラはあなたと一緒に事故に遭って、亡くなったの……」
     どくん、ママの涙声に心臓が強く脈打った。曖昧だった記憶が段々はっきりしてくる。あの時、確か……。
    「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
     自分のものとも思えない叫びと衝動に塗りつぶされて、蒼い獣となったネミーラは何も考えられなくなった。
     

    「やあ、来てくれてありがとう」
     神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)は軽く片手を上げて灼滅者たちを迎え入れる。
    「『一般人が闇堕ちしてデモノイドになる』事件が発生しようとしているよ。デモノイドとなった一般人は、理性も無く暴れ回り、多くの被害を出してしまう。だが、デモノイドが事件を起こす直前に現場に突入することが可能だから、なんとか事件を防いで欲しいんだ」
     デモノイドになったばかりの状態ならば、多少の人間の心が残っている事がある。その人間の心に訴えかける事ができれば、灼滅した後に、デモノイドヒューマンとして助け出す事が出来るかもしれない。
    「救出できるかどうかは、デモノイドとなったものが、どれだけ強く、人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっているよ。デモノイドとなった後に人を殺してしまった場合は、人間に戻りたいという願いが弱くなるので、助けるのは難しくなってしまうから注意をしてほしい」
     そこまで言うと、瀞真は和綴じのノートを開いた。
    「今回デモノイドとなってしまうのは折笠・フローラ(おりかさ・ふろーら)君。中学一年生の女の子だ。イタリア系のハーフだね。生まれた時から日本にいるので、日本語も堪能だし感覚も日本人に近いようだよ」
     彼女は交通事故に遭って昏睡状態だったが、目覚め、リハビリを経て退院する。だがその退院の日に家に帰る前に寄った霊園で墓を見、母に告げられて記憶の、事故のショックで曖昧になっている部分を思い出し、ショックでデモノイド化してしまう。
    「彼女にはネミーラ君という双子の妹が居たんだけど、同じ事故で亡くなっているんだ。即死だったそうだよ。ネミーラ君は咄嗟にフローラ君を庇ったようだね」
     それでもフローラは昏睡状態に陥ることとなったけれど、命だけは助かったのだ。だが勿論、フローラにとっては自分をかばって妹が亡くなったというのは衝撃的なことで。
    「霊園の、折笠家の墓の前でデモノイド化した彼女の近くには、彼女の両親がいる。真っ先に狙われるのは彼らだろうね」
     ちょうどお彼岸の時期でもあるからして、常よりは霊園を訪れる人は多いかもしれない。だが幸い平日であるからして、休日ほどの人出はない。
    「お墓参りにふさわしい格好をしていれば、現場の近くで待機していても不自然がられることはないと思うよ」
     彼女が人を手にかけてしまってからでは彼女がデモノイドヒューマンになれる可能性は殆ど無い。だから、彼女が人を襲う前に彼女に接触することが必要だ。
    「でも、彼女が衝撃を受けるきっかけを防ぐ訳にはいかない。闇堕ちのタイミングがずれてしまうからね」
     彼女がKOされた時点で、人間の心を強く残し、かつ人間に戻りたいと願うのであれば、デモノイドヒューマンとして生き残ることができるだろう。
     彼女に人間の心を失わせないには、折笠家の墓の近くにいる人々をすみやかに避難せる必要があるだろう。また、彼女の人間の心をとどめおくために、説得も欠かせない。
    「彼女を助けたいと思うならば、くれぐれも彼女に人を手にかけさせないように注意してね。君達ならばできると信じてるよ」
     瀞真はそう言って灼滅者達を送り出した。


    参加者
    紫月・灯夜(煉獄の殺人鬼・d00666)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    神前・蒼慰(乾闥婆の巫女・d16904)
    佐山・紗綺(高校生デモノイドヒューマン・d16946)
    リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)
    巳葦・智寛(蒼の射手・d20556)
    二重・牡丹(セーブルサイズ・d25269)
    キール・レインス(雨降りシュエット・d28386)

    ■リプレイ

    ●真実を知る時
     さわさわとそよぐ風が墓参りに訪れた者達の服を撫でてゆく。供えられたばかりと思しき花々の花びらが揺れる。折笠家の墓からそう遠くない位置で、キール・レインス(雨降りシュエット・d28386)は目の前の墓に持参した花を備えた。
    (「助けたいとは思うけど、同類が増えるかもしれないっていうのは……なんだか複雑な気分だなぁ」)
     彼自身もまたデモノイドヒューマンであるからして。
    (「肉親を手にかける、そのような業を背負う者をこれ以上増やすわけには行かん」)
     キールとは別の墓に手を合わせるのは巳葦・智寛(蒼の射手・d20556)。傍らに置かれている水桶と柄杓はカモフラージュの為。顔を上げて不自然にならぬ程度に辺りを見渡し、一般人の位置と人数を把握する。
    (「フローラを生き残った罪悪感から救うのは、きっとネミーラの願いでもあるだろうから。だから、フローラには誰も傷つけさせない」)
     智寛と同じように別方向の墓の墓参りを装った城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)。折笠家の墓までの位置や周囲の一般人の位置と人数を随時確認して。一人でも多く『その瞬間』までに墓参りを終えて離れてくれるに越したことはないのだが……。
    「絶対にね」
     誰にも聞こえぬ大きさで、けれども強く紡ぎだされたその言葉は千波耶の強い意志を帯びていた。
    (「ハーフの双子かぁ……なんか漫画みたいかも」)
     心の中で呟いた佐山・紗綺(高校生デモノイドヒューマン・d16946)。だが、これが彼女も両親も生きている現実だということを、紗綺は十分承知だ。だから。
    「絶対に助けなきゃ!」
     きゅ、と拳を握りしめた。
     双子はそうではない兄弟より繋がりが強いと聞く。片割れを失うのは半身をもぎ取られるようなものなのかもしれない。
    「ネミーラさんにとってもフローラさんはかけがえのない存在だったのね」
    「ええ、そうだと思うわ」
     神前・蒼慰(乾闥婆の巫女・d16904)とリリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)、共に控える二人はネミーラの心に思いを馳せる。
    「ネミーラの願い……それを貴女が潰すなんて、哀しすぎるわ」
     呟いたリリーの視線の先には暗い顔をした夫婦と少女が一人。ゆっくりと目的の墓に近づいて来ている。あれが彼女達に間違いないだろう。
    「ネミーラさんが助けようとした大切なお姉さん、私達が救うわ」
     蒼慰の言葉に同感だとリリーは頷いて。二人はその親子を視線で追う。目的の墓に到着した親子、少女が柄杓の水で墓石を清め始める。
    (「悲しい事故だな……俺も姉がいるから胸が痛む。フローラの気持ちは分からないでもない」)
     紫月・灯夜(煉獄の殺人鬼・d00666)の瞳の先で、フローラの持つ柄杓から水を受けた墓石が濡れて濃い灰色へと色を変えていく。
    (「でもネミーラの思いを無駄にするわけにはいかない。必ず、助ける」)
     いつ『その時』が来てもいいようにと灯夜は集中し、気を張った。
    (「他人事じゃなかとよね……助けるよ、絶対に」)
     二重・牡丹(セーブルサイズ・d25269)の心に滲むのは、自身が灼滅者になった理由と経緯。それが、自身が彼女と重なって見える理由。
     フローラが動きを止めた。母親が、口を開く。灼滅者達は息を呑んで見守っている。否、見守るしかできないのだ、彼女が蒼い化け物となるのを。
    「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
     慟哭に似た叫びが霊園に響き渡る――始まったのだ。

    ●真実は酷なれど
     フローラの身体が見上げるほどの蒼へと変わっていく。突然の出来事に硬直する両親。その間に割り込んだ影は牡丹とビハインドの二重・菊だ。
    「フローラ!」
     名を呼び、盾を振り下ろす。菊も牡丹に倣うようにしてフローラに攻撃を仕掛けた。同じくフローラの前に立ちはだかった灯夜は彼女の熱量を奪いにかかる。
    「フローラ!」
     両親を庇うように飛び出した紗綺もまた彼女の名を呼んで意識を引きつけるようにしながら自身の防御を高めた。
    「城守、打ち合わせ通りだ。……着装。」
     フローラの前に立ちはだかる彼らの背後で硬直している両親の元には智寛と千波耶が駆けつけて、それぞれ父親と母親を担ぎあげて距離を取るべく走る。
    「我々はご息女の豹変の原因を知る者です。この場は我々に委ねていただきたい」
     十分離れたところで何が起こったのかわからないだろう彼らに簡単な説明とここから動かないで欲しい旨を伝え、二人は急ぎ、現場へと戻った。
    「できるだけここから離れて」
     割り込みヴォイスでフローラの変化を知らせた後、キースはパニックに陥っている一般人達に声をかける。殺界形成とパニックテレパスで混乱に陥っている一般人に指示をするならば、他の人の避難指示に従って、とワンクッションおかずに自身が割り込みヴォイスで避難指示を出したほうが早いだろうと判断したためだ。
    「あちらの管理棟の方へ避難して」
     ラブフェロモンを併用しつつ蒼慰は混乱する人々に声をかけてゆく。転んだり腰が抜けて自力では避難できない状態の者は、千波耶と智寛が担ぎあげて運んだ。
    「大丈夫? この方をお願いできるかしら?」
    「! 任せて」
     逃げ遅れた者がいないか確認していたリリーは墓石の影でうずくまっていた老人を発見した。彼女の声を聞き止めた千波耶が素早く反応し、老人を抱えて現場から離れていく。リリーは不測の事態を警戒しつつ他に逃げ遅れた者はいないか確認して回った。

    「妹だけじゃなく両親までも殺す気か?」
     異形化したフローラに怯むことなく灯夜は言葉を投げかける。振り下ろされた巨大な腕に傷つけられたが、傷を意に介さず槍を突き出した。
    「思い出してフローラ! ネミーラがなぜあなたを庇ったのかを! 彼女はあなたに生きていて欲しかったのよ!」
     情感込めた言の葉をかける紗綺。触れたロッドの先から魔力を流しこんで。
    「あなたがあなたじゃなくなって、ご両親を殺しちゃったらネミーラあの世で悲しむよ!」
     仲間達は今、一般人を避難させてくれているだろう。その間彼女を惹きつけておくのが自分の役目、フローラの心を揺さぶるように紗綺は叫ぶ。牡丹はもう一度、盾でフローラを殴打した。避難完了までは一般人を意識させないように、自分に気を向けてくれるように。
     程なくしてキールが、リリーと蒼慰が、そして千波耶と智寛が戦列に加わる。サウンドシャッターが展開され戦闘音を封じれば、ここは透明な籠の中。
    「フローラさん、聞こえる?」
     蒼慰が奏でる旋律は牡丹の傷を癒やす。同時にこれはネミーラへのレクイエム。
    「フローラ……このままそのケダモノに身を任せてしまえば、『貴女』は死んでしまうわ。そうなれば、命を懸けて貴女を守ったネミーラも本当の意味で死んでしまう……わかるでしょう?」
     リリーは『メドゥーサの眼』から石化の呪いを放ちつつ、ゆっくりと幼子に教えるように言葉を紡ぐ。
    「だから生きて……今度は貴女がネミーラを守ってあげなさい」
    「ネミー、ラ……ネ、ミ……アァァァァァァ!!」
     慟哭するようにフローラが声を上げる。糸を遣わせたキールがその蒼い巨体を締めあげながら、声をかけた。
    「悲しみを吐きだすのは結構さ。でも、それを他人にぶつけちゃいけない。ただの獣に成り果ててしまう」
     いやいやをするように糸から逃れようとする彼女。だが糸は深く深く蒼に食い込む。
    「記憶も、思い出も、君という存在の何もかも、無かったことにしたいなら、どうぞ、その刃を振るうといい」
     冷淡な言葉であるが、これがキースの考え方だ。突き放しているようにも見えるが、時と場合によっては効果的な言葉である。
    「貴女が今しなくちゃいけない事は! 自分や周りを壊す事じゃないでしょう」
     花束を差し出した千波耶。彼女の足元から伸びた『Tangled』がフローラの動きを封じる。懺悔ではない祈りを捧げて欲しい、だから。
    「折笠フローラ。肉親を失う悲しみ、その深さは俺も理解しているつもりだ」
     精度を高めた智寛の『LGG-06 六式大型機関砲』からの砲撃が、フローラを追い詰めるように身体に食い込んでいく。
    「だが、妹が……ネミーラがお前を庇いその命を救った意味を、両親がネミーラの死を伏せていた意味をよく考えろ」
     悲しみに我を忘れすべてを破壊してからでは戻れないのだ。今、考えなくてはならないのだと智寛は紡いだ。
    「アァァァァァァ!!」
     糸と影の戒めから解かれたフローラは、獣の嘆きを挙げて黒き波動を放つ。後衛に放たれたそれを紗綺と牡丹と菊が受け止めた。彼女の嘆きを全身で受け止めた牡丹は『双ツ爪』を手に叫ぶように言葉をかける。
    「わたしも……双子の妹がデモノイドになったわたしを助ける為に死んでしもた。だけん、貴女の気持ちはよく分かるとよ」
     この中の誰よりもフローラの気持ちがわかるだろう牡丹は共感を込めて。
    「ばってん……ネミーラがフローラを庇った理由は、双子なんだけん分かっよね?」
     殴りつけられたフローラがこちらを見た。その瞳と瞳が合わさったように見えて、牡丹は言い募る。
    「ならば、その気持ちを汲んであげて!」
     その叫びに同調するかのように聞くがフローラを撃つ。
    「庇ってくれたネミーラの気持ちを考えろ。こんな事望んでいないはずだ。だから、戻ってこい!」
     灯夜の深い一撃はまるで思いの強さのようだ。炎を纏った蹴撃にふらり、彼女がわずかによろめいた。
    「あの子のためにも正気に戻って! 生きて! 諦めないで!」
     この一撃が彼女の『彼女自身』の部分に響けばいい、願いながら紗綺はロッドを振り下ろす。
    「あなたは彼女の生きた証なの! ネミーラの想いを無駄にしちゃだめよ!」
     紗綺の切なる願いに蒼慰の旋律が重なる。前衛の負傷が浄化されていく。
    「リリーの故郷……ギリシャはね、日本に負けないくらい死者を大切にする国なの。死者の想いを受け継いで、それを胸に……大切に、大切に生きていくの」
     戦闘音の中、リリーは静かに言葉を零す。溜まった涙がはらりと落ちる。彼我の距離を一気に詰めて蒼い身体を蹴りつけた。ヴェールが動きに合わせて揺れる。
    「ネミーラは、生きてほしいと願ったわ。その想いを受け継ぐ事ができるのは……フローラ、貴女だけ。そうしていれば、ネミーラは貴女と一緒に生き続けるわ」
     そんな激しい攻撃の余韻を感じさせぬほど静かに、彼女はフローラを見つめた。
    「ネ、ミ、ラ……ワタ、シ、イキ、ル……?」
    「泣き止めとは言わないさ。生きたければ抗って、元に戻ったら好きなだけ泣けばいい」
     キールは巨大な刀となった利き腕で、同じ蒼を切り裂いて。
    「君を守った彼女の為を思えば、ここで君を失わせるわけにはいかないのさ」
     そう、自分達はフローラを救うために来たのだ。同時にそれは、ネミーラの最期の願いを叶えるためでもある。
    「フローラ、戻ってきて」
     距離を詰めた千波耶は、梔子の花咲かせた『Silencer』を叩きつけると同時に手にしていた花束をフローラの胸に押し付けて。体内をめぐる魔力の奔流にふらついたフローラを、智寛の『HBSR-05 伍式重破壊狙撃銃』から放たれた魔法光線が撃ちぬいた。
    「はよう帰って来んね!」
     追うように放たれた牡丹の蹴撃。
    「誰よりも妹が、ネミーラが、それを望んどるはずよ……!」
     そのままフローラの身体は地面へと倒れ落ちて……蒼の影は薄らいでいった。

    ●残された命
    「あっ」
     声を上げたのは、倒れたフローラを快袍していた紗綺だった。その声に皆の視線が集まる。瞳を開けたフローラはゆっくりと起き上がった。蒼慰がほっと息をつく。人に救われた彼女は人を救うために生きるべきと考えている。フローラが目覚めたということは、彼女を闇堕ちから救えたということだ。
    「私……私だけ生き残ったの?」
    「生き残った貴方の命が重いのは、ネミーラの願いの分の重さよ」
     それ以上思いつめさせまいと、千波耶は先ほどフローラの胸に押し付けた花束を彼女の手に渡した。
    「ショックだったとは痛い程分かるばい……わたしも苦しみを背負ちゃる」
     フローラを起き上がらせた牡丹は千波耶と共に彼女の手を引いて墓前に花束を備える。フローラも千波耶に促されてさっきの花束を備えた。キールもリリーも花を供え、他の者も静かに手を合わせる。
    「貴女は生きて……生きて、死ぬまで生きて。生きられなかったネミーラの分まで、死ぬほど幸せになりなさい」
     そっと人差し指で涙を拭い、リリーはフローラと視線を合わせた。
    「そして、いつか本当に死んじゃったら……その時は天国で、ネミーラに人生の思い出話を沢山してあげるの。その方が……ね、泣いているより楽しいでしょ?」
     こくり、頷いたフローラの瞳からも涙がこぼれ落ちて。
    「だが自責の念からは逃れられないだろう。なら贖罪としてその力で妹の代わりに人々を守らないか」
    「ねぇ……一緒に武蔵坂学園に来ない? あなたが来てくれたら…悲しむ人を少しでも減らせるから……たぶん、ネミーラもそれを望んでると思う……」
     灯夜と紗綺、そして智寛は学園のことをわかりやすく説明していく。突然のことに不安げに揺れる彼女の瞳は、段々と落ち着きを取り戻していった。
    「辛い時があったら……わたしがいつでも力になるばい」
     肩に置かれた手と牡丹の言葉は暖かくて、頷いてフローラを見て一同は胸を撫で下ろす。
    「それじゃあ、学校で会えるかもねぇ」
    「ええ」
     キールに微笑みかけたフローラに花束が差し出されて。首を巡らせれば千波耶がもう一つ持参した花束を差し出していた。
    「仲間になったしるしよ」
     それはネミーラの死でひとりぼっちになってしまったと思ったフローラに「あなたはひとりじゃない」と告げているようだった。
     そう、たくさんの仲間がいるのだから、ひとりきりではないのだ――。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 8/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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