まだ半年近くはあるけれど、おこしモッチアA登場

    作者:聖山葵

    「だからこそ備えておく必要があると思わない?」
     やたらキリッとした表情で振り返る少女の顔を半面だけ夕暮れが照らした。
    「や、唐突に主語とか省いて言われてもわかんないんだけど?」
     話を振られた側の少女のツッコミももっともなモノだったと思う。
    「あー、ごめん。思考がちょっと先走っちゃってた」
     だからこそペロッと舌を出して見せた少女は説明を始めた。自分の愛するお菓子、おこし餅をもっと知って貰いたいのだと。
    「季節限定も良いとは思うわ。けど、そうするとシーズン以外じゃお店に並んでないのよ」
    「へぇ、大変なんだね」
     うぐぐと呻きつつ己の葛藤を語る少女にもう一人の少女は相づちを打つと、続いて問う。
    「ところで、おこし餅って何?」
    「えっ」
     オレンジ色に染まっていた顔が、ただの一言に固まった。
    「ごめんね、べこ餅なら解るんだけど……」
     少女の態度から失言をしたと気づいたのだろう、慌てて謝ろうとしたがもう遅い。と言うか思いっきり追撃であり。
    「うわぁぁぁん由佳ちゃんなんて大嫌いもちぃぃぃぃ」
    「え」
     何かで所々彩色された白いアーマー姿という何かとんでもない格好に変貌して泣きながら走り去って行く友人に、今度は残された少女の方が呆然として佇むのだった。
     
    「集まってるもちぃね?」
     あんこの食品サンプルを使ったビキニ姿で現れた野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)は一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が起きようとしているもちぃ、と君達を呼び出した理由を語った。
    「はるひ先輩の言うところの闇もちぃもちね」
     どこかのご当地怪人を彷彿とさせる語尾は多分衣装に合わせたのだろう。
    「通常なら、闇堕ちした時点で人間の記憶は消えてしまうもちぃけど、今回のケースでは人間の意識が残るようなのもちぃよ」
     一時的に踏みとどまり、ダークネスの力をもっちぃながらもダークネスになりきっていない状況に陥る訳だが、そのまま放っておけば完全なダークネスになってしまうのは間違いない。
    「そこで、問題の子が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しいもちぃ」
     もし完全なダークネスになってしまうようならば、その前に灼滅を。
    「問題の子の名前は、雛見・桃子(ひなみ・ももこ)って言うもちぃ」
     おこし餅が大好きな中学生で、新しくできた転校生の友人がおこし餅を知らなかったことに衝撃を受け。
    「フォローのつもりで放った一言が追い打ちになって闇もちぃ、するもちぃね」
     全国メジャーだと思っていたモノが地元でしか知られていない何て良くある話だ。
    「転校生側にも悪気は無かったもちぃ」
     それは、ただのすれ違い。
    「ご当地怪人おこしモッチアAに変貌した桃子さんは泣きながら友人の前を走り去って、地図で言うここを通りかかるもちっ」
     黒板に張った地図の一点、迷宵は農地に挟まれた道を示す。
    「幸いにも左右の農地は何も作ってないし、この時間帯は人が来足り通ることもないもち。ここで待ち伏せするとバベルの鎖にも察知されることがないもちぃ」
     ついでに言うなら桃子が闇もちぃした場所から少々距離があるので、走っている間におこしモッチアAも些少はクールダウンしているだろうとのこと。
    「知ってるかも知れないけれど、闇堕ち一般人と接触し、人の心に呼びかけ説得することで弱体化させることが出来るもちぃ」
     呼びかけをすると言ういみでも、感情の高ぶっている闇もちぃ直後より都合が良いとおもうもちぃ、と迷宵は言う。
    「もっとも、救出するには戦いは避けられないもちぃからね」
     そう、闇堕ち一般人を救うには戦ってKOする必要がある。
    「戦いになれば、おこしモッチアAはご当地ヒーローとWOKシールドのものに似たサイキックで応戦してくるもちぃ」
     おこしモッチアAの「A」はアーマードのA、故にか戦いは防御に重点を置いたディフェンダーとして立ち回ると予測される。
    「桃子さんもホントは知ってるもちぃ、世の中には自分の愛するモノを知らない人がいることは」
     だからこそ、もっと世に知らしめようとしていた、答えは既にあったのだ。
    「説得するなら、その辺りを指摘するといいもちぃ。それじゃ、桃子さんのことは宜しくお願いするもちぃね」
     モッチアビキニ姿の迷宵はそう締めくくると君達にぺこりと頭を下げるのだった。
     


    参加者
    タージ・マハル(武蔵坂の魔法使い・d00848)
    篁・アリス(梅園の国のアリス・d14432)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)
    ルエニ・コトハ(スターダストマジシャン・d21182)
    周防・天嶺(狂飆・d24702)
    吉国・高斗(小樽の怪傑赤マフラー・d28262)
    レティシア・ホワイトローズ(白薔薇の君・d29874)

    ■リプレイ

    ●夕暮れに待つ
    「世の中、想像以上に色んな名物があるもんだな」
     ポツリと呟き周防・天嶺(狂飆・d24702)は、仲間達から続いている道の一方へと視線を戻した。
    「お魚さんとかお花さんとか、お人形さんとかいろいろあるのは来る前に調べたから知ってたですけど、崇田先輩のは変わってるですね」
    「あー、説得に使えるかなって思って作ったオリジナルだからね」
     オレンジを帯びた景色の中、崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)の持参したおこし餅を話題に話しかけるルエニ・コトハ(スターダストマジシャン・d21182)を見て、自分が初めてそれを知った時のことでも思い出したのかもしれない。
    「認めたくないものですの。自分の若さ故の過ちというものを……」
     茜色の空を見つめて、白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)はほうと嘆息し。
    「噂で聞いてたモッチアの闇もちぃか」
    「……難しいところなのよねー。行事ものだし」
     いずれ姿を見せるであろう少女が陥っている状況に言及した吉国・高斗(小樽の怪傑赤マフラー・d28262)に反応する形で口を開くと、篁・アリス(梅園の国のアリス・d14432)も足を止めて夕日に目をやる。
    「わたしも勉強するまでは、自分の県の梅の生産量が多い方だと思ってたのよ?」
    「そっか、色々あるんだな」
     高斗もまたご当地ヒーローである。アリスの言いたいことを理解したのか、相づちを打つに止め。
    「ま、何にしても……学園で待つ奴の分もバッチリ助けてやるぜ!」
    「うん、頑張ろう。むざむざと闇落ちさせるのは、ほっておけないし。それに、好きだという気持ちゆえに、闇に堕ちるなんて、忍びない」
     赤いマフラーをなびかせながら宣言する高斗にタージ・マハル(武蔵坂の魔法使い・d00848)は頷き、更に言葉を続ける。
    「そんな思いこそ救いたい。だって僕は、魔法使いだからね」
     と。
    「ふむ、魔法使いだから、か」
     一連のやりとりを聞いていたレティシア・ホワイトローズ(白薔薇の君・d29874)は口の端をつり上げ。
    「ならば余も王としての役目を果たさねばならんな」
     呟くなり動かした視線の先にあるのはとぼとぼこちらへ歩いてくる、白をベースに彩色された鎧を着込む少女の姿。
    「やれやれ、まったく難儀なものよ。だが、悩める者を導くのも王の務めよな」
     視界の中で少女に気づいた仲間達が動き始める中、レティシアもまた歩き出した。

    ●出会いと
    「そこから先は一方通行なのよ」
    「もちぃ? 誰も」
     肉厚なおこし餅アーマーに身を包んだ少女は突然かけられた声に、周囲を見回そうとして、固まる。
    「小樽の怪傑赤マフラーがお前を助けにきたぜ!」
     道の真ん中で赤いマフラーをなびかせた白ジャージ姿の少年と目があったのだ。
    (「とりあえず、足は止めてくれたのよ」)
     生まれる短い沈黙。このまま、説得に移ろうと灼滅者達の幾人かが口を開こうとする直前だった。
    「……ちょっと、横失礼するもちぃ」
     ご当地怪人な少女が、高斗の名乗りを無かったことにして通り過ぎようとしたのは。
    「だから、そっちに行っちゃダメなのよ!」
    「あ、さっきの声あなただったもちぃね」
     慌てて止めようとするアリスに、ようやくおこしモッチアAは先程の声の主がアリスだと知覚し。
    「僕は、マハル。武蔵坂の魔法使いだよ!」
    「え」
     再び足を止めたご当地怪人は、頭上から箒に乗って颯爽と現れたタージの笑顔にフリーズする。
    「良いところに通りかかった。実はな、このおこし餅への魅力をもっと知りたいと思っていたのだ」
     そこに、用意していたおこし餅を見せつつレティシアがこれ幸いと声をかけ。
    「うん。僕も知りたいな。教えてよおこし餅の魅力を」
     これに、タージが便乗する。
    「もちっ?!」
     いきなりの申し出に面を食らいつつも、ここで拒絶するようであれば怪人の前にご当地などと付きはしない。
    「……まったく、びっくりしたもちぃよ。二人とも登場が唐突すぎるもちぃ。あ、話が知れたもちぃね」
     思わずスルーしかけたり、硬直したりしてもしかたがないと思うもちぃ、と弁解しつつも、おこし餅の魅力について知りたいと持ちかけられたご当地怪人は灼滅者達との会話に応じていた。
    「こんな風に木の型によって色々な形のモノが作れる自由度、更に食紅で彩色することで完成形がほぼ無限にあるのも魅力だと思うもちぃ。ちっちゃい頃は粘土細工みたいにこねて成形とかもしたりしたもちけど」
    「ふむ、なるほどな。ところで、アンタさっきは随分気落ちした様子だったが、何かあったのか?」
     自身の格好の方がよっぽど人を驚かせたりスルーさせるんじゃないかという常識的なツッコミは避けた方が良いと判断したのか、相手がすんなり会話にのってきてくれたからか。天嶺はご当地怪人の姿には言及せず、相づち打ちつつ、ただ話題を転じる。
    (「確かにべこ餅と似てますの……でも黒くなくてその分カラフルですの。ちょっとうらやましいかもしれ……いやいや! モノトーンで落ち着いたべこ餅が最高ですの!」)
    「と言う訳、もちぃ。頷いてるから知ってるものだと思ってたもちぃのに……」
     約一名、ご当地怪人が例として持つおこし餅を見て何やら苦悩する中、元少女はこれまでのいきさつを語り。
    「なるほどね、自分の大好きな物を友達が知らなかった事がショックなのは判る! 僕だっていが餅とか余所で知ってる人が少なくてショックだっ」
    「そ、そうもちぃよね」
     事情の説明を受けた來鯉が理解を示しつつ自身の経験を口にすれば、おこしモッチアAは同士を見つけたと言わんがばかりの表情で言い終えるよりも早く來鯉の手を取る。闇堕ちしかけるまでの衝撃に打ちのめされた少女は理解者を求めたのだろう。
    「己の愛するものを友人が知らぬというのはショックだろうな」
    「そうもちぃ、わたし本当に――」
     二人の会話を聞いていたレティシアの言葉にもご当地怪人は即座に反応して顔を輝かせた。ただし、レティシアの言葉はそこで終わらない。
    「だが、その程度のことで折れるような心が貴様の愛か! むしろ、喜べ! 己の愛するものを知る者が一人増えるということをな!」
    「えっ……一人増える?」
     その発想は無かったと言うところか、一瞬ぽかんとしたおこしモッチアAは、レティシアの言葉を反芻し。
    「そうそう、こう考えれば良いんだよ。『自分の大好きな人に自分の大好きなおこし餅を知って貰える』って!」
     來鯉が一つ頷いて微笑む。
    「俺はこの前おこし餅を知ったが、あの味や食感は好きだったぞ」
     更に元少女が我に返る間さえ与えずに、無表情のまま語り出した天嶺を示して、高斗は「ほらな」と笑った。
    「新しく知って気に入ってくれる奴だっているんだぜ?」
    「どんな名物でもそれを知らない人がいると思うが……知ってから好きになってもらえるか、も大事だろう」
     己の言葉を継いだ天嶺を横目で見た高斗は視線を戻して再び、口を開く。
    「やれる事を全部やったのなら、それでもいい。だが、まだ出来ることがある内は諦めるな!」
    「も、もちぃ」
     叱咤されて萎縮するご当地怪人から感じる威圧感が減って行くのを見守りつつ、ルエニはそっと安堵する。武蔵坂学園に来るまで星のことをいっぱい語れる友人が見つからなかったルエニにとって、闇堕ちしかけている今の少女は自分と重なるところがあったのだろう。
    「なるほど、あなたのような経験をわたくしもしましたの。好きな物への相互理解って意外と難しいですの」
     そして、もう一人。まるで鏡に映したように、愛する品は別でも堕ちる理由まで同じだった黒子は、少女を見つめて、告白した。
    「ですが……闇に堕ちても何も解決しませんの! 早く目を覚ますですの!」
    「っ」
     救いたいという思いの籠もった叫びにご当地怪人の身体はすくみ。
    「君は悪くない、ただちょっと驚いてしまっただけなんだよね? 驚いて悲しくなっただけ。でも、大丈夫だよ、まだ間に合うから」
     タージは元少女へ笑いかけると、仲間達の方を振り返る。
    「君も、知らない人がいる事実は頭では分かっている筈だ」
     それならと続け、そこから知らない人に対してどうするかだと天嶺は言った。
    「おこし餅を愛するあなたにはまだ、おこし餅を広める使命があるのよ!」
     アリスはそう指摘し、グローブを握りしめる。
    「し、使命……わ、わたしは……」
     ご当地怪人が弱体化しつつあることは、態度からも明らかで。
    「こんな風にオリジナルのデザインのおこし餅を一緒に作ったりして好きになってもらうよう頑張ってみよう?」
    「っ」
    「変身!!」
     來鯉の差し出したおこし餅におこしモッチアAが目を奪われた瞬間、アリスは灼滅者カードの封印を解いていた。

    ●アイエエ、べこ餅ナンデ?
    「何事もちっ?!」
    「力づくでも連れ戻すのよッ! あなたを待つ誰かの為に! あなたを愛する誰かの為にッ!」
     ご当地怪人が、振り返った時、アリスは既に動いていた。
    「ドーモ、おこしモッチアA=サン、べこ餅ヒーロー白牛黒子ですの」
     黒子はアイサツしていた。
    「なっ、べこも――」
     説得が効いているからか、そのキーワードに敵意を抱くようなことはなかったものの、ただ注意は逸れる。
    「サンダァァァッ! スマァァッシュッ!!」
    「っ、もちぃぃぃいいい!」
     弱体化し、なおかつ繰り出される超弩級の一撃への反応が一瞬遅れたというのに金獅子の刀身がおこし餅を模した肩装甲に阻まれたのは、守りを重視する戦闘スタイルがなせる技か。
    「あぁぁっ」
    「うくっ」
     丸みを帯びた装甲を滑って行く殲術道具が火花を散らし、殺しきれない衝撃へおこしモッチアAは微かによろめき。
    「ここだ!」
     視界に広がったのは、ローラーダッシュの加速にはためいた赤。
    「しま」
    「赤マフラぁぁぁ」
     直前の一撃と連係する形でここまで肉薄し、足へ炎を纏いながらしゃがみ込む高斗が繰り出そうとしている蹴撃にまではご当地怪人も対応出来なかった。
    「キィィィック」
    「もちゃべっ」
     展開するオーラの法陣の中で來鯉が見たのは、炎に包まれ吹っ飛ぶおこしモッチアAの姿と追いすがるように飛んで行くルエニのリングスラッシャー。
    「くふっ、いきもぢっ」
     畑の上を転がった元少女が起きあがって抗議しようとしたところで小光輪は命中し。
    「くっ」
    「悪いな」
     胸部装甲と腹部装甲の隙間を瞬時に見定めて、天嶺は起きあがろうとしたご当地怪人の鳩尾を狙い斬りかかる。
    「痛くても我慢してくれよ」
    「そんなこと言われて素直に頷けるかもちぃ!」
     割り込むように突き出された肩アーマーに執刀術の軌跡がぶつかり。
    「同じ過ちは繰り返させませんの! ……あなたの苛立ち、全てわたくしにぶつけなさい!」
     自身のシールドを増やしながら黒子は叫ぶ。
    「ほう、ならば余も施そう」
     先に繋げる為己を強化する仲間達を見て、レティシアも魔力を宿した霧を展開し。
    「くっ、だったらお望み通りにしてもちぶっ」
     おこし餅の盾で殴りかかろうとした元少女の顔面へビハインドのレギオンが放った霊障波が命中する。
    「わうっ」
     更にそこへ霊犬のミッキーが斬魔刀をくわえて飛びかかった。
    「ちょっ、ま、待つもちぃ」
     サーヴァント達も入れれば十対一、ましてやおこしモッチアAは弱体化している。防戦一方の展開になるのは殆ど必然だった。
    「お餅は冷えるのが弱点かな」
     追い打つ様にタージが氷柱を撃ち出さなかったとしても。
    「イヤーッ!」
     黒子の撃ち出したビームがアーマーに包まれた元少女を狙い。
    「もぢっ」
    「ボルトッ! クラァァッシュ!!」
     悲鳴をあげて僅かに動きが止まったところで、勢いをつけて繰り出した緋ノ司による一撃が襲いかかる。
    「っ」
    「帰ってきてよ、おこし餅を好きになって貰えるように、頑張ってみる為にも」
     フォースブレイクを避けたところで別方向からはタイミングを見計らって肉薄してきた來鯉がWOKシールドを構えたまま突っ込んできており。
    「人に知らないことが有るのは仕方がないのです」
     今から覚えたり知ったりしていけばいいと言葉を続けながらルエニは優しき風を招き味方を癒す。おこしモッチアAの散発的な反撃にはそれで充分だった。
    「舞台は整えてやる! 思う存分に行くが良い!」
     数分の攻防で満身創痍になったご当地怪人を見据え、影の触手を伸ばしながらレティシアは叫ぶ。
    「もちっ」
     全ては少女を救う為に。
    「僕の魔法で、きっと君を闇から救ってみせる」
    「いくぜ、地獄坂キック」
    「これでラストだ」
    「もちぃぃぃぃぃぃ」
     触手に絡め取られたご当地怪人は灼滅者達の集中攻撃でボコボコにされると、元の少女の姿に戻り、ポテッと倒れたのだった。
     
    ●しかたないじゃない、もっちあだもの
    「桃子さん……わたくしと一緒に武蔵坂学園で餅を広めませんか?」
     意識を取り戻した少女に黒子は、そう切り出した。ちなみに灼滅者と学園の関係は説明済みである為、武蔵坂学園って何と言った質問は出ない。
    「学園にはいろんな餅があり、同志がいて……素敵なせんぱいもいますの。あなたも大切な方を見つけてはいかがですの?」
    「そうだね、僕からも言わせて貰いたいな」
     素敵なせんぱいのくだりで何故か頬を染めつつ黒子の続けた言葉に乗っかる形でタージも口を開く。
    「武蔵坂学園においでよ。そこで、おこし餅を作ってくれないかな?」
     と。
    「武蔵坂……学園」
    「きっと、おこし餅と君のことを好きになる人がいっぱいできるよ。僕も、手伝うし」
     誘われる学校の名を反芻する少女へ、タージは名を呼びながらにっこり微笑んで手を差し出し。
    「雛見先輩が来てくれると嬉しいのです。おこし餅さんの作り方や歴史を詳しく聞いてみたいですし」
    「うっ」
     秘密レシピさんを知っているなら聞いてもみたいというルエニの熱意にダメ押しをされたか。
    「そ、そうね。助けて貰った恩も返さなきゃだし……」
    「ようこそ武蔵坂学園へ~。なのよー」
     桃子が答えれば、アリスは衛星のように少女の周りを回りながら歓迎の意を示し。
    「うし、これでお前も俺達の仲間だ!」
     自分のジャージを掛けてやりながら高斗は親指を立てて口の端をつり上げる。
    「ふふっ、よろしくね」
     こうしてご当地ヒーローがまた一人誕生し。
    「由佳って子にも謝らないとね。一人で謝るのが恥ずかしいなら付き合おうか」
    「え゛」
     少女の浮かべた微笑を一瞬にして凍り付かせると、友達を大嫌いと言ってしまったことを思いだしてパニックに陥る少女から夜へとその座を明け渡し始めた西の空を見つめ、夕日に隠して顔を赤く染めながらタージは呟いた。
    「でも、あんこビキニは、女の子としてどうかと思うよ、迷宵」
     学園で待って居るであろう仕事を選ばないエクスブレインの少女に向けて。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 9
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