幻影ムーンライト

    作者:空白革命

    ●駅員は言う。規定の時刻に規定の列車が規定の駅へ止まるために我々はいるのです。
     彼女の周囲において、コンピューターのような女といえば、それはやはり彼女本人において他に無い。
     昔から小さなことにばかり拘り、口うるさく、しかし求められればどんな事務仕事でも淡々とこなして見せた。
     自らにまつわるあらゆることを覚えているが、しかし覚えているだけ。
     あらゆることに口を出すが、感情までは動かない。
     よく喋るが無感情。
     よく動くが機械的。
     コンピューターのような女。
     それが彼女、水鏡・翠貨である。
     彼女の現在地は、学校。生徒会室。
     その壁際で、電気もつけずに座っていた。
     開いたノートパソコンだけが彼女を照らしている。
     表情はまるで仮面のように動かない。
     ノンフレームの眼鏡が画面の文字列を反射していることにのみ、時の流れが作用しているかのようだった。
     姿勢も一切かわらず、手首の先だけが高速で動き、キーボードを叩いている。
     画面は真っ黒な背景にエメラルドグリーンの文字が走り、日本語でも英語でもない、何かのプログラム言語のようなものがずらずらと並んでいる。その文字列の妙なるは、改行を一切はさまず書き連ねていることだ。見るものが見れば、学校の掲示板管理プログラムを最大効率最小処理数で動かすためのものだと分かるだろう。
     一通り書き終え、テストサイトで動かす。
     学校の掲示板は学生限定パスワード等で安全確保がなされ、しかしながらプライバシーがどうのこうのという理由で実名が伏せられるという曖昧さによって運営されている。だからか、掲示板には他人の悪口陰口誹謗中傷がそこかしこにわき出していた。
     翠貨は掲示板の内容をスクロールしていく。
     その一部で、スクロールが止まった。
     生徒会会計係への不平不満を書き込んだスレッドである。
     内容は『顔がムカつく』だとか『調子に乗っている』といった乱雑で悪辣なものばかりだが、どれひとつとして何か根拠のある不満はない。他の理由で沸いた不満を、何か適当な理由に乗せてぶつけているようだった。本来ならそのままスクロールして読み流すところだ。
     だがそのなかで一行。
     『あいつ機械みたいだよな。頭にチップでも入ってるんじゃねえの』
     その文章で、彼女の指は止まっていた。
    「そうだったら、どんなに良かったでしょうね」
     たん、とエンターキーを打った。
     ばきりと亀裂が走り、ノートパソコンが破壊される。更に亀裂がはしり、机が砕けた。更に亀裂が走り、床のタイルがめくれ上がり、背後のホワイトボードや棚がひしゃげた。
    「…………」
     目を閉じる。
     目を開ける。
     翠貨の眼球は、エメラルドの結晶に変わっていた。
     
    ●新聞印刷所の職員は言う。今日の出来事が今日刷られて、明日の出来事は明日刷られる。昨日の出来事を刷ることは永遠にありません。
     天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)はコピー用紙の束をめくりながら語った。
     ノーライフキングに闇堕ちした少女の話である。
     ある程度人格を残したままの、いわゆる『半堕ち』の状態である。これが完全体になってしまえば手出しができなくなる。今のうちに介入し、手をうつべきだとも。
    「水鏡・翠貨(みかがみ・すいか)。高校二年生。生徒会委員会計係。学校での評判は比較的悪いけど、決定的な恨みはひとつも買っていない。あとはー……うーん、特にないかな。勉強は記憶問題が得意で、友達らしい友達はいないって。他に聞きたいことある?」
     短い沈黙。
     しかしカノンはそれがわかりきっていたように頷いた。
    「ま、知っても意味ないよね。このコが闇堕ちした決定的な理由が仮にあったとして、その理由のことを話題にあげて、『うんうんわかるよ』って頷いてなんなら涙のひとつでも流してあげたら救われちゃうなんてさ……」
     資料の束をゴミ箱に落とす。
     特殊寝台に肘をついて、カノンは目を細めた。
    「そんな軽い気持ちだったら、闇堕ちなんてしないよね」
     
     彼女のサイキック戦闘の能力はダークネスというだけあって高い。
     巨大化した蝉の抜け殻を眷属化してけしかける程度の能力を有している。
     そこまでの情報を別の資料にまとめて、カノンはあなたへと突きだした。
    「やり方は任せるね。どうするかは、自分で考えるの。今までみたいに」


    参加者
    日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)
    布都・迦月(幽界の調律師・d07478)
    山本・仁道(高校生デモノイドヒューマン・d18245)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    ナターリヤ・アリーニン(夢魅入るクークラ・d24954)
    日輪・義和(汝は人狼なりや・d27914)
    ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(バーストブルーライトニング・d28514)
    ゼロ・オールドエイジ(オールドタイプ・d29991)

    ■リプレイ

    ●「彼女は何になりたいの?」
     話し合い。
     話し合い、という言葉を平和的な意味としてとる者は多い。
     水鏡翠貨闇堕ち事件に召致されてきた八人の灼滅者たちもまた、同じ意味でとらえていた。
     生徒会室に立ち入るその瞬間までは。

     現在。ダークネス水鏡翠貨と灼滅者たちはパイプ椅子に腰掛け、机を挟んでいた。
     学生が何かの会議でも行なうような、そんな有様……ではない。
     それが会議に見えないのは、彼らが手元に武器をしっかりと出した状態でいることである。
     サイキック戦闘において、座ることも寝ることも、場合によっては両手を拘束して吊るされていたとしてもそれは戦闘態勢のひとつなのだ。
     つまり彼らは今、殺し合いの最中だということになる。
    「齟齬が起きないように……」
     水鏡翠貨が風のような声で言った。
    「皆さんは当学校の生徒ではありません。入校証が提示されていない以上、法的には不法侵入ということになります。ですが、私への個人的対談が目的ということであれば、これを見逃すことにします。皆さんが『なぜか』私の名前や先刻の所作を含めた一部始終を把握している理由とその侵害行為についても咎めないことにしましょう。その上で――」
     眼鏡越しに、視線が定まった。
    「皆さんが特定の目的をもったチームだとしても、個人ごとにお聞きします。あなたの目的はなんですか」
     最初に定まった先は、布都・迦月(幽界の調律師・d07478)にであった。
     迦月は弓を長机の上に出したまま、しっとりとした仕草で頷いた。
    「俺たちのチームは、お前を倒すために派遣されている。しかし、灼滅か救済かは、俺たち自身にゆだねられていた。俺自身は……どうかな。少なくとも言っておきたいことはある」
    「どうぞ」
     冷たい対応である。
     迦月はそうなるのも仕方ないかという目をして、話を続けた。
    「お前は、人間とも闇ともつかない位置にいて楽しいか? そのうち意志も消えて終わりだな。そうなりたいなら構わないが、そうじゃないだろう? お前の思いも感情も、しっかりここにあるんだからな」
    「そうですか。意志と目的は把握しました」
     質問を無視した、というわけではない。
     彼の問いかけが厳密には質問ではないことを察した上で、対応を保留したのだ。
     迦月の顎が僅かに上がる。その動作には無視をしたようだが。
    「お次の方、どうぞ」
     花衆・七音(デモンズソード・d23621)に順番が回ってくる。
     七音は頭をかいて苦笑した。
    「まいったな。うち、水鏡ちゃんが闇堕ちした理由とかわかってやれないと思うねん。けど感情がないのは嘘やろ? 心がないもんが闇堕ちしたりせへんもん。でもうち、水鏡ちゃんが闇堕ちしてまでしたかったことが見えてこないんや」
     僅かに身を乗り出す。
    「あんた何がしたいん? その気持ちも闇に呑まれて消えてまうけど、ええの? 水鏡ちゃんの心を守ってやれるのは水鏡ちゃんだけやで。何がしたいかいうてみ、うちらが力になるで」
    「はい。わかりました」
     総合。
     総合しての回答である。
    「私は現状。人間の感情を残留させたままノーライフキング、ひいてはダークネスであることについて、否定も肯定もしていません。厳密に述べれば、『選択しないこと』を選択しました。重力のように闇に堕ちるのであれば、それでよしです。これで、お二人の回答になると思います」
    「……ん、んん」
     七音は苦い顔をした。
     行きがけ、カノンから言われたことを思い出したのだ。
     わかってあげたら救われちゃうなんてさ、である。
     例えばこれがクラスの皆と仲良くなりたいだとか、上手に笑えるようになりたいとか、なんなら恋人や友達がほしいということであれば、それを話す相手は普通に考えて自分たちではない。
     クラスの皆や、親兄弟や、もしくは先生あたりなのだ。
     自分は他人。あくまで他人。
     ダークネスと灼滅者という関係性しか、今の彼らを結ぶものはない。
     その上で彼女が選択を放棄している以上、自制心に訴えるのは難しいだろう。
     だが突破口は見えてきた。
     次はわたし、と言って日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)が身を乗り出す。
    「ところで、掲示板見てましたよね。学校の」
     頷いた水鏡翠貨に、翠はかぶせるように言う。
    「名前も明かせない人の悪口にキレて闇堕ちですか。機械は機械と言われてもキレませんですよ」
    「――」
     表情は動かない。
     かわりに目の奥が光った、ように見えた。
    「言葉に負けて闇堕ちする心があるなら、見返してみたらどうでしょう? ここで負けたら本当に機械として消えてしまうのですよ」
    「わたしも同じです」
     ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(バーストブルーライトニング・d28514)が両手を膝に置いたまま言った。
     机の上にはオモチャのハンマーが化けたような武器が乗っていて、軽く彼女の顔が隠れていた。
    「機械のように感情が無いと揶揄されて怒るくらいには言いたいことがあるようですし。あなたは、誰かに何かをしてほしいのです? もしくは誰かになにかをしたいのです? 嫌なことは嫌と声を大にして言えばいいのですよ。そうでなければ周囲の人は何も分からないのです」
    「まったくその通りだ。悪口や他人の目が気になるならそんな掲示板潰してしまえばよかったのに」
     椅子の背もたれに身体を預け、ゼロ・オールドエイジ(オールドタイプ・d29991)は見下ろすようにした。
    「愛想笑いのしかたを教えてあげるよ。『うみ』のみの所で止めると、うまく笑えるように見えるよ。そうやって友達を作ればいい。何かを相談できる友達をさ。ただ……今のままではそれもできないだろう」
     な、と念を押すようにして、ゼロは首を傾げる。
    「人生捨てたもんじゃ無いよ」
    「わかりました」
     水鏡翠貨は数度瞬きをした。
    「皆さんのおっしゃることは、間違っていません。とても正しい。ですがニュアンスを、誤っていませんか」
    「は……」
     何かおかしかったかと考えて、翠は思わず喉を鳴らした。
     ――『そうだったら、どんなに良かったでしょうね』
     そうだ彼女は。
    「はい、お気づきの通りです」
    「誰かに何かをして欲しい……じゃない、のです?」
    「間違ってはいません。欲求という表現に、誤りがあるだけです」
     椅子を下げて立ち上がる。
    「私は不完全です。怒りにさいなまれ、欲求を制御できず、人格に振り回されます」
     水鏡翠貨の周囲に蝉の抜け殻が浮かび上がり、むくむくと膨らんだ。
     それぞれが重量を持って、長机を踏みつぶす。
     中心で。
     水鏡翠貨はシャープペンシルを胸ポケットから抜いた。
    「私は機械になりたい」
     その時、彼女の両目は水晶そのものでできていた。

    「チィッ!」
     山本・仁道(高校生デモノイドヒューマン・d18245)は舌打ちと共に飛び退いた。
     先刻まで彼が座っていた椅子が紙細工のように引き裂かれ、踏みつぶされる。
     蝉抜殻眷属によるものだ。
     追撃にと繰り出された体当たりを、日輪・義和(汝は人狼なりや・d27914)は刀の背で受け止めた。
    「これで終わっていいのか? 君が死んだところで、そんな力で誰かを殺した所で何も変わらない。だが君が生きることで変えられるものはある」
     刀を払い、眷属に深い刀傷を刻み込んだ。
    「だから諦めるなよ。そんな力に頼らなくったって、君も、君の居る世界も変えることが出来るんだ。どうしたらいいか分からないのなら人を頼れ。いなかれば俺が相手をしてやる。一緒に悩み、答えを探してやる」
    「ご親切に。感謝します」
     水鏡翠貨の目は変わらない。
     今の彼女にとって、放棄はひとつの選択であり、目的でもあったのだ。
    「……」
     義和の表情がきしむ。役割のために機械になりたい。そう考える人間は多い。彼とて……そう彼とてそんな……。
     しかしだからこそ、彼女という人格を闇に呑ませたくなかった。
     いいことかも知れない。
     楽なことかもしれない。
     けれど。
     幸せなことでは、きっとないだろうから。
     仁道は飛び退いた先にある壁を蹴ってクイックターン。眷属の斜め上をとると、思い切りその頭部を殴りつけた。
     殻が砕け、その場に倒れる眷属。
     その姿を見て、戦いが本格的に始まってしまったことを実感した。
     ミスリード、だったろうか。いや、おおむね間違っては居なかったはずだ。彼女が自信の性格や境遇に対してコンプレックスを持っていることも確かだったし、その悩み自体は他人に話せばスッキリしてしまいそうなものだった。
     誤ったのは問いかけかただ。どうしたい。何がしたい。何になりたい。それを尋ねたところで、変化は起きないのだ。だって彼女は、自分の現状を分かった上で堕ちているのだから。
     他人からの問いかけによって自らの隠された真意に気づき救済の道を望むようになる状況では、なかったのだ。
     だとすれば、やりかたは決まっている。
     決まっているが、今はまだ……。
    「話し合いは終わりだそうだ、構えろ!」
    「はい、です」
     言われるまでも無く、ナターリヤ・アリーニン(夢魅入るクークラ・d24954)は既に構えていた。それまで控えていたビハインドが飛び出し、眷属の体当たりを受け止める。
    「セミ、ヌケガラ……ウツセミ」
     目を細めつつ。ナターリヤは眷属の腹に蹴りを繰り出した。卵の殻でもたたき割るようなむなしい音と共に砕け、眷属は崩れ落ちる。
     もろい。とてももろい眷属だ。
    「むなしく、はかない、こと……?」
     戦闘はもう始まってしまっている。
     残りの眷属が一気に飛び込んでくる。
     翠は御幣を払い、眷属を迎撃。
     衝突の反動でのけぞったところに、すかさず符を握った腕でのパンチを叩き込んだ。
     砕けて崩れる眷属。
     その後ろについていた眷属二体が同時に体当たりを仕掛けた。
     攻撃直後の隙を狙われた形だ。翠は激しく突き飛ばされ、壁際の掃除ロッカーを拉げさせた。
     迦月は彼女のダメージを見逃さず、すぐさま癒しの矢を発現。投射した。
     眷属へと振り返る。
    「蝉の抜け殻か。中身はどこへいったんだろうな」
    「蝉は一週間で死んじゃうのですよ。だから今頃……」
     ルチノーイが武器を振り上げると、リングスラッシャーが高速で旋回しはじめた。
     それらが武器の動きと連動して飛び、眷属の殻を複雑に切り裂いていく。
    「『人は僕の中に、私の闇を知る』」
     ゼロがダークネスフォームにチェンジし、手のひらから影の刃を抜き出した。
    「戻って来なよ」
     素早く眷属へ接近。殻を刃で突き破ると、そこから引き裂くようにして粉砕した。
     砕けた殻がぱらぱらと床へ落ちていく。
     その様子を、水鏡翠貨は黙って見つめていた。
     ずるり、と七音が立ち上がった。
     いや、立ち上がるという表現はおかしい。自らを一度水たまりのようにどろりと溶かし、大きな剣のような形にして再構成したのだ。闇の剣。彼のシャドウフォームである。
    「人身を捨て、ダークネスを滅っすると誓ったもんとして、この世に闇が増えるのを見過ごすわけにはいかんねん!」
     自らを叩き付けるようにして、七音は水鏡翠貨へと斬りかかった。
    「けどそれ以上に、水鏡ちゃんにそっちへ堕ちて欲しくない!」
     剣が水鏡翠貨の眼前で止まる。
     彼女の翳したシャープペンシルの軸によって、ぴたりと止められていた。
     上着のポケットから数本の鉛筆を抜き出し、七音の身にずぶりと刺し込んだ。
    「ご配慮、感謝します。」
     途端、鉛筆が爆竹のように破裂。七音は闇を吹いてはじき飛ばされた。
    「たとえば――」
     水鏡翠貨は両手を上着のポケットに入れ、ずるりと抜き出す。
     大量のシャープペンシルが指と指の間に挟まり、影業による芯をぎらぎりと覗かせていた。
    「皆さんの善意的接触に対し、私が大いに感動し、『私の苦悩を分かってくれるひとがいるんだ。私はひとりじゃないんだ』と述べたとしましょう」
     シャープペンシルを連続で投擲してくる。
     仁道と義和は前に飛び出し、それらを強制的にたたき落とした。
     全てとはいかない。半数ほど自分の身体にめり込んだ。
    「――だとしても、堕ちます」
     全て黒の色鉛筆を抜き出す。
     仁道たちに高速で接近し、胸へ深々と突き刺した。
    「私にとって感情は邪魔なものです。感動は邪魔です。理解は邪魔で、同情は邪魔で、好意は邪魔です。私は誰に利用されるでも、誰を利用するでもいい。私の人格自体が邪魔なのです。それは」
    「それは――?」
     鉛筆が刺さったままの胸を放置して、仁道は言った。
    「なんのため、誰のためだ?」
     口の端から血が漏れたが、無視した。
    「機械になりたい。それが願いなら、いいだろう。なればいい。だがそれは、執着してきたものを台無しにする力だぞ」
    「それを――」
    「それを望んでいるんだろう。けどな、先輩からの忠告だ。つらくとも苦しくとも、自分を手放してはいけない」
     仁道が翠貨の手首を握った。
     強く。
     同じく義和もまた、彼女の手首を握りしめた。
    「さっきも言ったな。一緒に悩み、答えを探してやる」
     彼らは、なんとなく分かっていたのだ。
     彼女の『機械になりたい』という感情が、願いや望みであると同時に、一種の諦めであるということにだ。
     ナターリヤが、地面に落ちた蝉の抜け殻を拾い上げた。
    「セミの、ヌケガラに、力をあげたのは、なぜ?」
     壊れている。
     割れている。
    「翠貨様、ごじしん? それとも、セカイ? くらく、せまい、バショ? 翠貨様……」
     近づいて、ナターリヤは言った。
     言って、腕に手を添えた。
    「とびだしてみません、か?」
     手のひらから伝わった衝撃で、水鏡翠貨は力尽きた。

     冷たいもの。
     暗いもの。
     それは悪いものでは、決してない。
     影や氷を武器に人々を守る彼らがいるようにだ。
     逆に暖かいもの、輝かしいものが良いものであるとは限らない。
     未来だとか。
     希望だとか。
     夢だとか。
     愛だとか。
     そういったもので不幸になる人間も沢山いる。
     けれど。
    「とてもステキ」
     それだけで。
     人は生きていけたりする。

     武蔵坂学園高校一年。新入生、水鏡翠貨。
     彼女はまだ、苦しむことにした。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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