登場! 段ボールアイドル!?

    ●闇堕ち
    「なんでアタシじゃダメなのよぉぉぉぉぉっっ!?」
     公園で叫んでいるのは、菩田(ぼだ)・ルオンと言う高校1年生の少女だ。
     ハーフのような名前だが、純日本人である。
    「貧乳だからか!? 貧乳だからダメなのか!? こちとら貧乳で名高い埼玉県民じゃぁぁっ!!!」
     あるデータによると、埼玉は貧乳日本一なのだとか。ルオンの胸元もすとーんとしてる。AAである。AAAだったかもしれない。
    「……貧乳だから……アイドルになれないのかな……」
     彼女の夢はアイドルになることなのだ。しかし、今日もオーディションに落ちた。
    『こんなぶちゃいくな娘がアイドルやってんの? アイドル戦国時代とか言われてるけど、ただアイドルの数が多いだけじゃない。結局、カワイイ娘だけが生き残るのよ。そう──アタシみたいな美少女こそが、このアイドル戦国時代で天下を獲るのよ! あのアリーナをアタシのファンでいっぱいにして、やがては世界中をアタシ色に染め上げるわけよ! 世界はアタシを中心に回り始めるってことね! 待ってなさい、未来のアタシのファンたち! アタシはアイドルに──世界最強のトップアイドルになってみせるんだから!』
     こんな感じでアイドルになろうと思ったのが中3のとき。オーディションは何度か受けたが、まだアイドルになれずにいる。
     自分で言うだけあって、ルオンは美少女である。貧乳だけど。さらに、歌や踊りも平均点以上ではある。男の娘だと間違われたりするくらいに貧乳だけど。
    「……もしかして……面接で失敗しちゃった……?」
     面接の時、彼女はこう訊かれたのだ──「趣味の欄にある『段ボーること!』とは、何ですか?」と。
     彼女はこう答えた──「段ボールを愛でることです!」と。
     ちなみに、段ボールの生産量日本一は埼玉県である。
     その後、段ボールへの愛やら情熱やらを長々と語り始めたのだが……途中で「もういいです。では、次の方に質問です」と言われてしまった。
    「面接は問題ないわね」
     問題ありまくりだと思う。
     オーディションの結果が発表された後、彼女は「どうして、このアタシが合格じゃないのよ!?」と訊いた。
     そして、こう言われたのだ──「君には、アイドルとして足りないものがある」と。
    「やっぱり胸か!? バストか!? オッパイなのかぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!?」
     多分、そういうことではないと思う。
    「あの事務所、見る目がないわね! このアタシが! ウルトラミラクルアルティメットテラエクストリーム美少女のこのアタシが! 親切に『あなたの事務所でアタシをプロデュースする権利をあげる』って言ってんのに、なんでアタシを不合格なんかにしたのよ!? むきぃぃぃぃっっっっっ!」
     と、地団駄を踏む貧乳美少女。
    「普通のJKでもローカルアイドルやってる時代なのに、なんでこのアタシが1次審査で不合格なわけ!? 合格した娘の中に、アタシよりもカワイイ娘なんていなかったじゃない! オッパイおっきい娘はいたけど! バインバインでボインボインだったけど! グラビアアイドルでもやれよ! 水着着て海辺でぼよんぼよんさせてポロリとかしてろよ、ちくしょぉぉぉっ! 埼玉には海なんてねぇんだよ、ちくしょぉぉぉっ! こちとらぼよんぼよんさせるオッパイなんてねぇんだよ、ちくしょぉぉぉぉぉぉっ! あのメガネ、女の子は顔じゃなくてオッパイで選ぶ男だったんだ! 巨乳派だったんだ! 絶対そうだ! だからアタシが選ばれなかったのね! 何が『君の胸には膨らみが足りない。絶望的に足りない。それ膨らんでるの? 抉れてるんじゃね?』よ!? 巨乳死ね! 爆乳はもっと死ね! つーか、垂れろ! でろんでろんのだるんだるんでびろんびろんなオッパイになれ! 女の子はオッパイじゃないんだよ! 顔なんだよ! オッパイじゃ……オッパイじゃ…………うがあああぁぁぁぁっっっっっ!!!」
     と、地団駄を踏みに踏みまくる絶望的に膨らみが足りない美少女。事実を捻じ曲げて記憶しているということは、よほど気にしているのだろう。泣いてるし。
    「…………アタシ……何してんだろ……こんなとこで……」
     ここは公園である。
     ルオンを見て、犬の散歩中だった女性が逃げるように方向転換。そこそこ巨乳だった。
    「うわああああぁぁぁぁぁぁ…………恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…………」
     テンションが上がったり下がったりと忙しい性格のようだ。
    「……穴があったら段ボールに入りたい……」
     穴はどうするんだ。
    「……むしろ、段ボールになりたい…………あ、アイドルの方がいいや」
     その思いが天に通じたのか、あるいは自身の魂へと通じたのか──。
    「ふふ……ふふふ……。あははははっ! そうよ! アタシは世界最強のアイドルになるのよ! この世界はアタシのためにある! 超神聖段ボール帝国を築き、このアタシがアイドルな女王として君臨するわけよ! アタシの国に──アタシの世界にCカップ以上はいらないわ! Bカップは大目に見てあげる! アタシはアイドルになる! そして女王として世界を支配するの! さあ──アイドるわよ!」
     ──ルオンはダークネスと化した。

    「とっても素敵なダンボールが手に入っちゃいました!」
     と、嬉しそうにしているのはスヴェトラーナ・モギーリナヤ(てんねん・d25210)だ。
     どうやら、彼女も段ボールが好きなようだ。曰く「おともだちと入るダンボール、格別ですね!」とのこと。
     そんな彼女が街を歩いていたところ、何かに気付いたように「はっ!」と顔を上げた。
    「今……ダンボールを愛する人が近くにいたような気が……」
     それ、何てESP?
    「うーん……気のせいでしょうか……?」
     ──この後、スヴェトラーナはダークネスの情報を学園にもたらすことになる。

    ●教室にて
    「みんなー! 来てくれてありがとー!」
     笑顔で手を振っているのはアイドル……っぽい格好をした野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)だ。
     ここは教室。集まっているのは観客ではなく灼滅者である。
    「スヴェトラーナちゃんのおかげで、ご当地怪人になっちゃった一般人の居場所が判明したよ! ご当地怪人──段ボール怪人になっちゃったのは菩田ルオンちゃん! 超神聖段ボール帝国の女王として、世界を征服するつもりだよ!」
     なぜ皇帝ではなく女王なのかは不明だ。
     ちなみに、超神聖段ボール帝国憲法第1条は「臣民は1日に5回は段ボーらなくてはならない! 3度の飯より段ボーる!」である。
     また、超神聖段ボール帝国ではCカップ以上の女性に市民権は与えられない。ただし、妊娠中や授乳期の女性は例外となる。
    「ルオンちゃんはアイドルを目指してる高校1年生の女の子なんだけど……オーディションに落ちちゃったの。いろいろあって落ち込んじゃって、それでダークネスになっちゃったみたい」
     いろいろとはいろいろだ。
    「今ならまだ、ルオンちゃんを救えるかもしれないの! みんな、ルオンちゃんを助けてあげて!」
     ルオンは今、ダークネスと人間の狭間のような存在。どちらかと言えばダークネス寄りではあるが。
    「ルオンちゃんは、お胸が小さいのを気にしてたり、アイドルになれなくて悔しかったり悲しかったりしてるの」
     ルオンは、自分が貧乳だからアイドルになれなかったのだと思っている。しかし、彼女がアイドルになれなかったのは貧乳のせいではない。
     彼女には、アイドルに必要な何かが欠けていたのだ。
    「あとあと、ルオンちゃんは段ボールが好きみたい!」
     何せ、段ボール怪人になっちゃうくらいである。
    「段ボールのことを褒めると、ルオンちゃんは喜ぶと思うよ。もしかしたら、闇堕ちを阻止できるかもしれないね!」
     ルオンの心を動かすことができれば──闇堕ちするほどの絶望から救い出すことができたなら、彼女は灼滅者として覚醒することになる。
     ただし、それは彼女に灼滅者になる素質があった場合の話。
     素質がなかったら、どんなに説得をしても救うことはできない。
    「……もし……ルオンちゃんを救うことができないみたいなら…………」
     完全なダークネスとなってしまう前に──彼女がルオンである間に、灼滅しなくてはならない。
     なお、救出する場合も戦闘になる。
     ルオンに灼滅者の素質があれば、ルオンをKOすることでダークネスの部分だけを灼滅できるのだ。そうすることで、彼女を救うことができる。
    「ルオンちゃんは、ご当地キックやご当地ビームの他に、不思議なカードを使って戦うみたいだよ! 気を付けてね!」
     まだ完全なご当地怪人ではないからか、あるいはそういうご当地怪人なのか、現在の彼女の見た目は人間とほとんど変わらない。
     その外見的特徴となると……背中に段ボールがくっついていることだろう。カメの甲羅のような感じだ。
     それ以外は、アイドルのような衣装を着ていることくらいか。
     段ボール怪人と言うか……段ボールアイドル?
     まぁ、段ボールを背中にくっつけたアイドルなんて(と言うか、そんな人間なんて)普通はいないだろうから、見間違えることはなさそうだ。
    「ルオンちゃんは、ここにある地下駐車場に現れるよ!」
     入ろうと思えば、誰でも入れる場所だ。一般人対策をした方がいいだろう。
     もし、彼女が完全なダークネスとなってしまったら、多くの人が襲われかねない。……特に、巨乳な人や爆乳な人が狙われることになる。
    「説得して救出するかダークネスになる前に灼滅するかは、実際に戦うみんなにお任せするね。それじゃ、アンコールはみんなが帰って来てから! できれば、ルオンちゃんにも聴いて欲しいな」


    参加者
    黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    天原・京香(頼ることを知らない孤独な少女・d24476)
    在原・八重香(おばあちゃん・d24767)
    影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)
    陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)
    弛牧・星亜(デンジャラスウォーロック・d29867)

    ■リプレイ

    ●ダンボールアイドル
     闇堕ちしてしまった少女──菩田・ルオンが、この地下駐車場にいるはずだ。
     何人か一般人がいたが、影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)がパニックテレパスで外へと逃がした。彼らには、火事が発生したと言っておいた。
     これで一般人はいなくなったが、新たに人が来ても面倒だ。
     天原・京香(頼ることを知らない孤独な少女・d24476)と在原・八重香(おばあちゃん・d24767)が殺界形成を使用。
     2人が殺気を放ったことで、より広い範囲をカバーすることができる。その殺気は、一般人を守るための優しい殺気だった。
     念には念を入れて、壱越・双調(倭建命・d14063)がサウンドシャッターを展開。かつて、双調はご当地怪人へと闇堕ちしたことがあった。
     戦場内の音を遮断することで、この駐車場でいくら騒ごうが──いくら激しい戦闘を繰り広げようが、外には聞こえなくなった。
    「本当に、この格好で行くの……?」
     とまどう京香に、スヴェトラーナ・モギーリナヤ(てんねん・d25210)は「もちろんです!」と言った。ナノナノのスヴィエも「ナノ」と鳴いた。
     京香とスヴェトラーナは、お揃いの衣装──アイドルのような衣装を着ていたのだ。さらに言えば、その背には段ボール。
    「ダンボールアイドル──ありですね♪」
     彼女たちを見て、黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)が言った。
    「なんで私がこんな……」
     と京香は言うものの、内心では気に入っている様子。
    「段ボールって意外と心地良いねぇ」
     アイドルの衣装こそ着ていないが、弛牧・星亜(デンジャラスウォーロック・d29867)の背中にも段ボールが。
    「ダンボールっていいわよね。断熱効果もあるし、箱の中は何だか落ち着くし、加工すれば何でも作れるし」
     マスコットキャラのようなヒヨコ──もとい陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)が言った。雛美は人造灼滅者だ。着ぐるみではない。チャックとかついていない。
     そんなこんなで、灼滅者たちは駐車場のほぼ中央へと移動。
    「ダンボール……なんか最近、学園でよく見る気もするけど」
     死愚魔が呟いた。
     そこには、巨大な段ボール──人が入れるくらいに大きな段ボールが置いてあった。

    ●段ボールアイドルは地下アイドル!?
    「アタシのデビューライブにようこそ! あなたたちは今、伝説の始まりを目撃することになるのよ! 光栄に思いなさい!」
     段ボールから声が聞こえてきたかと思うと、中から少女が飛び出した。背中に段ボールをくっつけたアイドル──ルオンである。
    「ルオンちゃん、参上よ!」
     ビシッとポーズを決めるルオン。さすがに様になっている。
    「……なんか、アイドルっぽいのが2人いるわね」
     スヴェトラーナと京香のことだ。
    「アタシの真似をしたくなる気持ちはわかるわよ? だって、アタシはこんなにも美しいのだから! でも……このアタシをパクるだなんて、いい度胸してるじゃない!」
     ルオンの言葉に動じることなく、スヴェトラーナが平穏なるものモギーリナヤを構えた。それは彼女の手の中で形を変えていき、光を放つ。
     スポットライトの如き光を浴び、スヴェトラーナ(ノリノリ)と京香(渋々)がポーズを決める。
    「わたしたちとダンボールアイドルを目指しましょう! ユニットです!」
    「ユニット? このアタシとユニットを組むことで、アイドル界のてっぺんまで行こうってわけね。でも、組むつもりはないわ。それに、かわいそうじゃない? アタシといっしょだと、あなたたちが霞んでしまうもの」
     やはり、ルオンは自分の容姿(胸のあたりは除く)に自信があるようだ。
    「てゆーか、そっちのあなた!」
    「わ、私?」
     と、ルオンが京香を──正確には彼女の胸を指差した。衣装のせいで、その巨乳が強調されている。
    「超神聖段ボール帝国にEカップはいらないわ! Eカップってことは……AAA、AA、A、B──」
     AAAから数え始めるのか……。
    「E……7番めじゃない!」
     トップとアンダーの差が20センチ前後である。
    「次にそっちのあなた!」
    「わたくしですか?」
     今度はりんごの巨乳を指差すルオン。その目には負の感情が宿っている。
    「Fカップはもっといらないのよ!」
     りんごは小袖と袴という和装だが、彼女のスタイルのよさははっきりとわかる。たゆんたゆんである。
    「今度はそっちのヒヨコ! って、ヒヨコ!?」
     雛美の姿に驚くルオン。今になって気付いたのか……。
    「やっほ~、雛美ちゃんだよ♪」
    「あ、どうも。ルオンです。って、なんでのんきに挨拶してんのよ、アタシは!?」
    「……貴女、アイドルじゃなくて美少女お笑い芸人とかの方が向いてたりして……」
    「芸人!? アタシはアイドルなの! 超神聖段ボール帝国を築いて、この世界を超神聖段ボール帝国という段ボールの中に収めるのよ! 段ボールとは宇宙なのよ! つまり、段ボールアイドルは宇宙で最高のアイドル!」
    「……随分とアイドルに執着してるのね……ダンボールにもだけど」
    「それはさておき。あなたを見てたら、卵かけご飯が食べたくなってきたわね」
    「TKGの話しとかやめてくれない?」
    「え?」
    「TKGの話しとかやめてくれない?」
    「は、はい……」
     涙目。
    「そ、そんなことより! なぜか、あなたからも巨乳の気配を感じるわ!」
     ヒヨコ姿ではつるぺたな雛美だが、人間形態だとボインボインなのだ。
    「そっちの幼女はいいとして──」
     幼女とは八重香(小6)のことだ。
    「年金もらえるのじゃよ」
    「ロリババア!? まぁ、見た目は幼女だから問題なし。で、そっちにいるのは──あなたもアタシをパクってんじゃない!?」
     小柄ではあるが、星亜は男。しかし、ルオンは少女だと思っているようだ。
    「これ僕が趣味で作った薬なんだけど飲まない?」
    「そんな怪しげな薬、飲まないわよ! まぁ……貧乳だから、よしとしておきますか。で、そっちとそっちは男と」
     死愚魔と双調は、さすがに少女とは思われなかったようだ。
    「で、そこにいるのは……謎の生物?」
     ナノナノです。
    「問題なのは……」
     スヴェトラーナの胸元を見て、ルオンが「うーん……」とうなる。
    「小さいけどぺったんこではない微妙な大きさ……。とりあえず、超神聖段ボール帝国の建国の前に、この世の巨乳どもを根絶やしにするとしますか! ここにも3人……2人と1羽いるし!」
    「……アタシはそんなに気にする事じゃないと思うんだけど……脂肪の固まりじゃない、あんなの」
     雛美が言うと、ルオンがギロリと睨んだ。さっきは涙目になってたのに。
    「やっぱり、あなたは持つ側だったのね。アタシの勘は当たってた」
     そう言って、ルオンは太もものカードホルダー(段ボール製)から、4枚のカード(やっぱり段ボール製)を取り出した。
     ダークネスカードなのだろうか。4枚のカードには、衣装やらアクセサリーやらが描かれている。
    「星よ、天空に光り輝け! 夢よ、大地に咲き誇れ!」
     ルオンの言葉に反応し、カード(の形に切った段ボール)が光を放つ。その光がルオンを包み込んだ。
     光が霧散すると、衣装替えをしたルオンがいた。背中の段ボールも少し豪華な感じに。
    「さあ──アイドるわよ!」
     それが、戦闘の開始を告げる言葉だった。

    ●怒りと涙と笑顔と──愛
    「ダンボーラー同士で戦うなんて……。哀しいです」
     スヴェトラーナが言うと、ルオンも彼女と同じような表情を見せた。
    「アタシは超神聖段ボール帝国を築く。そのためにアタシは戦うわ。巨乳どもを殲滅するためにね」
    「ルオンさん……」
    「残念ね……あなたはそこの巨乳たちの仲間──そちら側の人間。アタシたちは、戦うしかないのよ。この世に段ボールアイドルは、アタシだけでいい!」
    「ルオンさん──!」
    「星よ!」
     遮るように、ルオンが叫んだ。それと同時、大量のカードを空中へとばらまく。それらのカードは、星をかたどるように空中に浮かんだ。
    「光り輝け!」
     虚空に星を描き出した無数のカードが、光を放つ。ルオンの狙いはりんごと雛美。その攻撃は、彼女たちの仲間をも巻き込む──はずだった。
     彼女の攻撃は盾──氷晶を構えた双調が受け止めたのだ。
    「巨乳を庇うとはね……!」
    「女性の魅力は、胸の大きさで決まるものではありませんよ」
     氷の結晶のような光が展開され、双調たちを包み込む。
    「知ってるわよ。女の子の魅力は顔で決まるのよ!」
    「いいえ。外見は綺麗でも、中身が綺麗でなければ」
    「中身……? 服の中身……つまり、裸ってこと!?」
    「そうではなく……。ルオンさん、貴方にはアイドルとしてのスキルとバイタリティがあると、私は見込んでおります」
    「あなた、わかってるじゃない」
    「ですが──アイドルとは、自分中心に物事を考えるのではなく、周りに気を配るようにしなければなりません」
    「へ?」
    「周りの方に気を遣うようになれば、ファンも付いて参ります。これなら、段ボールもアピールできますよね? 素敵なアイドルがアピールしてるんですから」
    「そうよね! アタシは超素敵なアイドルですもの! でも……気を遣う必要ってあるのかしら?」
    「確かに、自分で云うだけあってなかなかに見目好いのう。見た目だけならば、アイドルとして十二分じゃとわしは思う」
     八重香の言葉に、ルオンはぺったんこな胸を張る。
    「アタシは見た目だけの女じゃないわ! 歌もダンスも十二分よ! 見た目は二十二分くらいね!」
    「しかし、じゃ──」
    「?」
    「お主に欠けておるモノがあるとすれば、それは『謙虚さ』ではないかのう」
    「謙虚さ……?」
    「人は、一人ではアイドルになれぬのじゃ。今のお主のようにの。事務所の方々やファンの皆、あるいは家族や友人たち、支えてくれる皆があってこそ、お主はアイドルとして輝けるのじゃよ」
    「何を言ってるの……!? 1人じゃアイドルになれない!? 1人じゃアイドルになれないのは平均点以下の連中よ! アタシは違うわ! アタシは美少女だもの!」
    「……言葉だけでは足りぬか」
     八重香が弦を爪弾く。八重香が奏でる音が、ルオンを襲った。
    「超神聖段ボール帝国の建国を邪魔するとは、いい度胸ね!」
    「超神聖段ボール帝国か。そんな限定された人しか入れない場所のアイドルになって、意味はあるのかな?」
     死愚魔の契約の指輪から、魔法弾が飛び出した。
    「意味? あるに決まってるじゃない。アタシは超神聖段ボール帝国の女王でトップアイドルなの。国民もアタシが選ぶわ。Cカップ以上はいらない!」
    「ダンボールアイドルって、話題性はあるかもね。でも、今の状態だと、アイドルからは遠のいていると思うよ」
    「何ですって……!?」
    「アイドルって、もっと分け隔てなく──色んな人に愛されるものじゃないの?」
    「……!」
    「そうやって自己満足しているよりは、アイドルになれない原因を探したほうがいいんじゃない? 今までの事よりも、これからの方が大事だよ」
    「原因? そんなの、あのメガネに見る目がなかったからよ!」
    「キミは胸なんか無くたって綺麗だし、段ボールも個性として素晴らしいと思う」
     ルオンの死角へと回り込み、星亜が斬りかかる。
    「でもね、決定的に足りないものがあるんだ」
    「今度は、何が足りないって言うのよ?」
    「向上心と日々の努力さ」
    「向上心と努力?」
    「アイドルになれば無条件で人気が出る──だなんて、思ってないだろうね? ファンに応援され、日々努力して、初めてアイドルは輝くんだよ。もしそれができれば、僕がキミの1番のファンになるよ」
    「努力なんてアタシには必要ない! だって、アタシには美貌も才能もあるもの!」
    「アイドルを目指してるのなら、ここで闇堕ちせずに夢を追い続けてほしいわ。これからもがんばりなさいよ。べ、別に、応援してあげるとかそういうんじゃないけどねっ!?」
     ツンデレな京香が歌う。その神秘的な歌声は、まるで歌姫のようだ。
    「アイドルって可愛いだけじゃダメだと思うわ」
    「そうよ。アイドルは、歌って踊れなきゃ──」
    「もっと、大事なものがあるはずよ」
    「……?」
    「それは──ファンを喜ばせてあげること」
    「っ!?」
    「そうよね──」
     雛美が、ルオンの急所に斬撃を放つ。
    「アタシはアイドルって、他人に何かを与えられる存在だと思ってるの。勇気とか元気とかね。自分の事ばかりのあなたには、それが足りないんじゃないかしら?」
    「……!」
    「好きなものを心から好きと語れるのは、素晴らしいことです」
    「……?」
     ルオンに肉迫し、りんごが刀を抜く。
    「ルオンさんがアイドルになれなかったのは、胸が原因ではないと思います」
     りんごは「わたくしがいうのは逆効果かも知れませんけど……」と苦笑する。
    「むしろ、そこを気にしすぎているのがいけないのかもしれません。容姿も行動力も十分だと思うんです」
    「……それでも……アイドルにはなれなかった!」
    「あとは拘り過ぎる部分を押さえ、広い層にアピールできれば大丈夫です。だって、貴方は魅力的ですもの♪」
    「……! でも……アタシは……」
    「アイドルに必要なものは──2つあります!」
     光を携え、スヴェトラーナが言った。
    「……アイドルに……アタシに必要なもの……?」
    「笑顔と────ダンボ愛です!」
    「笑顔と…………ダンボ愛!」
    「いきます、いやし真拳!」
     ルオンに向けて、光が放たれる。それは呪縛を解く光。癒しと平穏を与える光。
    「あなたの愛を感じる……。アタシは今、愛に包まれている……! アタシ、あなたに出逢えて……よかった……!」
     光に包まれて、ルオンが言った。
    「どうしてアタシたち……敵同士だったのかな……?」
    「わたしも、闇堕ちから救われたんです。だから今度は、わたしが救う番──」
    「……アタシを……救ってくれるの……?」
    「もちろんです! わたしは──わたしたちは、ルオンさんを救うために来たんです!」
     差し伸べられた手を、ルオンがつかむ。涙を流していたが、彼女は笑っていた。
     その背中から段ボールが消えた。ルオンは闇堕ちから脱したのだ。彼女はもう段ボール怪人ではないのだ。
     ルオンは見つけることができたのだから──自身の内に眠る輝きを。
     1人では不可能だった。彼女を救おうと、頑張ってくれた人たちがいた。
    「えいっ」
    「な、何!?」
     スヴェトラーナがルオンに段ボールをかぶせた。その中に、彼女も入っていく。
    「これでわたしたち、ダンボールなかまです。よろしくです!」
    「いい段ボールね。これは、段ボーらずにはいられないわ! さあ──段ボーるわよ!」
     ──ルオンは笑っていた。仲間たちとともに。

    作者:Kirariha 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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