「はぁ……」
「どうしたのよ、今日ずっとため息ついてない?」
「ウチのミケが居なくなっちゃってさ……」
「ミケって、猫の? あの子、結構歳だったよね。あんまり言いたくないけど……猫って、死期を悟ると飼い主の前から消えるって言うし……」
「おばあちゃんもそう言ってた。やっぱ……そうなのかなぁ」
落ち込む友人を見かね、少女はある噂を思い出した。
「そういえば知ってる? 町外れにさ、猫の墓場って呼ばれてる所があるの」
首を横に振る友人に、少女は続ける。
「もしかしたらさ、会えるかもしれないよ。ミケちゃんに」
既に亡くなっているかも知れない、だけどこのままお別れは寂しすぎる。
「私、行ってみたい……」
「うん! じゃあ早速行ってみようか!」
友人が顔を上げてくれたことが嬉しくて、少女は力強く頷いた。
「実際はたまたまそこで猫の骨が見つかっただけ……、なんだけどね」
苦笑を浮かべたのは須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)。
猫が死期を悟ると姿を消すという話と、森の中で見つかった2匹分の猫の骨。
騒いだ地元の学生が都市伝説のきっかけだったのだろう、学生間で囁かれた噂は幾つかの尾びれをつけながら広がり、
「発生した都市伝説はね、墓場に踏み入ると複数の猫の亡霊に襲われる。って、言うものになっちゃったの」
刺激を求めた学生の噂の終着点としては、まあ妥当なものだろう。
取り急ぎ問題なのは、近い内に2人の女子高生がそこに向かうということだ。
放置すれば、まず間違いなく死ぬ。
「待ち伏せて追い返すことは出来るから、……方法は任せるね」
多少手荒なことになっても、死ぬよりはマシだろう。
さて、都市伝説と相対するには現場に立ち入ればいい。
普段は人の立ち入らない鬱蒼と茂る森林の中。
やや拓けた場所が通称『猫の墓場』だ。
猫の亡霊は突如として現れ、強襲を仕掛けてくるだろう。
「数は10体。1体1体の能力は高くないけど、とにかく数が多いの」
集中攻撃をされるような事があれば、いかに灼滅者でも危ういかもしれない。
だがそこは猫の亡霊。猫としての性質も残っている様子のため、うまく立ち回れば猫の動きをコントロール出来るかもしれない。
「出現条件が簡単だから、これから誰が犠牲になってもおかしくないの。だからみんな、しっかり、お願いね」
まりんは灼滅者達の顔を見回し、そう締めくくった。
参加者 | |
---|---|
宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550) |
青和・イチ(藍色夜灯・d08927) |
渡来・桃夜(道化モノ・d17562) |
渦紋・ザジ(高校生殺人鬼・d22310) |
シルヴィア・ランザート(紅龍姫・d26321) |
斎・一刀(人形回し・d27033) |
シャルナティア・アレッサンドラ(箱入り姫・d28060) |
奏森・雨(隅っこ大好き・d29037) |
●
四国地方のとある都市、その郊外。
猫の墓場があるとされる森林はそこにあった。
長年連れ添った飼い猫が失踪し、失意の底にあった友人を連れやってきた女子高生は、森の手前でなにやら言い合っている4人組を見つけた。
「……ん?」
思わず足を止めた女子高生に斎・一刀(人形回し・d27033)が、視線を向ける。
その様子に気づいた奏森・雨(隅っこ大好き・d29037)が女子高生へ声をかけた。
「あなた達、まさかと思うけど森の中に入るつもり?」
「そ、そうですけど……」
「ダメ。ここから先へは、今行かない方がいい」
やや強い口調で拒絶を口にする。続いてシルヴィア・ランザート(紅龍姫・d26321)がカツカツと歩み寄り、
「凶暴な犬が森に逃げ込んだのよ! あなた達も家に帰りなさい!」
「え、でも……ウチの猫が…」
「猫? 見つけたら保護するから! 早く!」
こちらは有無を言わせぬ早口でまくし立てていた。
「ほら、あんたもよ!」
「ふう……そういう理由なら仕方ないわね。野犬を刺激して街に出ても困りますし。あなた達も一緒に帰りましょ?」
矛先を向けられたシャルナティア・アレッサンドラ(箱入り姫・d28060)は困ったような口調ながらほんわかとした笑みを浮かべ、女子高生に動向を求めた。
ESPラブフェロモンにより、同性であっても惹きつけられる存在感に少女達は息を呑むが、それでも納得いかない様子で反論する。
「難しい、かな」
「ん~、素直に帰ってくれれば嬉しかったんだけどね」
森の中、木陰に潜み様子を伺っていた青和・イチ(藍色夜灯・d08927)に、渡来・桃夜(道化モノ・d17562)は微苦笑で応じた。
家族に等しい存在が消え、一縷の望みでここに来たというならば、まあ容易く引き下がる道理もないか。
なんとか追い返そうとする灼滅者4人に対し、必至という表情で食い下がる女子高生。その様子にたまりかね、
「……ッ」
「待て、リン」
自分も説得に加わろうと立ち上がった宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)を、渦紋・ザジ(高校生殺人鬼・d22310)が呼び止めた。
視線の先、シャルナティアに付き添われ少女達はトボトボと去っていく。
「帰って、くれたね」
安心したような、悲しいような、複雑の声音で呟くイチ。
少女達の後ろ姿を見送り、綸太郎は拳を静かに握り締めた。
「この事件は、絶対に解決する」
●
約20分後。戻ってきたシャルナティアと合流し、8人となった灼滅者たちは足早に森林の奥へと向かう。
猫の墓場。その場所は入り口より10分ほど駆けた先の拓けた場所。
灼滅者達は足を止め、油断なく左右を見渡す。
「来た!」
敵の襲来に真っ先に気づいたのは綸太郎。
牙をむき出しに飛び掛ってきた都市伝説・猫の亡霊に即座に出現させた日本刀へ紅蓮を纏わせ迎撃する!
刃は猫の牙にあたり、猫の爪が綸太郎の腕を掠めた。
追撃してきた別の一匹を倫太郎の霊犬が対処へ向かった間に、意識を周囲に。
複数の軽い足音。
エクスブレインにより予言された敵数は10。
それが周囲を駆け回り灼滅者を狙っていた。
「1匹ずつ確実に攻撃していくよ」
桃夜が妖の槍で猫を弾き、
「やるわよ! 来なさい紅胡蝶!」
無骨な大剣の刀身で猫を打ち返すシルヴィア。が、すぐに別の猫が飛び掛る。
「全く。死に瀕した猫がこんな森の中まで来るわけ無いでしょーに!」
「愚痴ってもしゃーないぜ、シルヴィアさんよ。あと、イチさん!」
螺穿槍を繰り出すザジ。手ごたえはあったが、浅い。
一方、名を呼ばれたイチは、
「殺界形成は、終わってる」
それだけでザジの意図を察して返答しつつ、
「くろ丸、行くよ」
傍らに漂う霊犬に迎撃を指示し、除霊結界を発動する。
雨は咎人の大鎌をひと薙ぎし、飛来した小さな何かを落す。その正体は、
「毛針……どこかの妖怪みたい」
それはともかく、敵の攻撃は素早く、見えずらい。
そもそも猫の亡霊はさほど大きくなく、下草が幾らか伸びているため低姿勢で駆けられるとその姿が視認しづらい。
事前情報どおり個々の戦闘力は低いが、
「カカッ、弱敵と聞いていたが存外やるねぇ」
「速いですわね。回復出来るのはどの子かしら?」
一刀は笑いながら、シャルナティアはほんわかとシールドリングで前衛陣の強化。
時折飛んでくる毛針は、一刀のビハインドが必至に迎撃していた。
とにかく現状の問題は、ヒール持ちの4体が確認できないことだ。
見た目に大差がないとなると、外見からの判断は困難。
「こうなると……」
思案げな表情でうつむいた桃夜に敵が飛び掛る。
牙が掛かる寸前、下から突き上げたマテリアルロッドが猫のアゴを捉えた。
「怪我させて、回復させないとだね」
フォースブレイク。注ぎ込まれた魔力は、猫の顔半分を内側から破裂させた。
もっとも亡霊とされる都市伝説、それで死ぬわけでもないが、
「分かった」
「そういうことなら得意よ!」
倫太郎の炎を纏った蹴りが敵の腹を打ち、シルヴィアが巻き起こす暴風が敵を巻き上げる。
傷を深めていく猫達。そんな中、数匹が傷をなめるような仕草を見せたのを、ザジは見逃さなかった。
「てめぇか!」
流星の如き飛び蹴りが敵を吹き飛ばす。
「くろ丸、抑えて」
空中で体勢を整えた猫、その背後をくろ丸が取った。
退路をふさがれ、正面からイチの縛霊撃を喰らった敵は短い悲鳴を上げると消滅した。
「残り、1体」
数度目の清めの風を戦場に吹き流しつつ、雨は手負いの1体へ視線を向けた。
「ザジ」
「合わせるぜ、リン!」
綸太郎の刀が閃き、ザジの蹴りがダメ押しの一撃。
真っ二つになり上半身を蹴り飛ばされた猫は、そのまま消えた。
シルヴィアに叩き斬られた1体、桃夜の螺穿槍が貫いた1体。
幾らかの時間は消費したが、敵のヒール持ちは全滅した。
「あとは殲滅戦。これ以上、可愛い猫を都市伝説で穢すなんて……許せん!」
無敵斬艦刀を背負うに構え、シルヴィアが手近の敵へ駆ける。
その挙動に、他の猫達が反応した。
「と、さて人形遊びの時間だよ」
一斉攻撃の予兆を感じた一刀が懐から取り出した2体の人形を宙に放ち、指より放った鋼糸を人形に接続し制御法を得ると、シルヴィアの周囲に回せた。
『……ッ』
動くものに反応する猫の悲しいさがか、突如飛来した人形に猫の視線が奪われた。
狙いから外されたシルヴィアは標的に一撃を叩き込み、
「トドメ、ね」
茨を模ったシャルナティアの影業が、その内側に敵を喰らった。そして、もう戻さない。
敵は半減、残り5体。
シルヴィアを先端に前衛陣が敵の前衛を食い破る。
敵の減少により回復の負担が減り、雨の攻撃が加わり全体火力が上がる。
猫の亡霊はそれでも怯まない。
墓場を荒らすものを襲う、その都市伝説に忠実に。この地の守護者の様に。
「ほほい、っと。これで、残り2体?」
閃光百裂拳で8体目を潰し、桃夜が残る敵を見る。
ずっとこちらと距離を取り、毛針をばら撒いていた2体だ。
「凄く、メンドウ、だった」
雨が凛とした表情のまま呟く。
回復役にとってはダメージよりパラライズのような状態異常に気を使う戦闘だった。
それをもっともばら撒いていた2体、これを潰せば終戦だ。
追い詰められた猫が低姿勢から一気に迫る。
地面を這うように、低位置からすれ違いざまの引っ掻き。
「狙いにくねぇ。まあ、だったら止めるだけか」
一刀が周囲に鋼糸を張り巡らせた。
結界糸。この中では猫も動き回れまい。
動きが鈍った敵へビハインドが立ちはだかり、顔を晒した。
動きが、止まる。
途端始まる火力の集中攻撃。機動力を殺されては、基本能力で劣る猫の亡霊に抗う術はない。
無言のまま異形巨大化した右腕を叩き込む雨。
地面にめり込んだ最後の都市伝説は、ピクリと動くこともなく消滅した。
●
「お疲れ様~」
桃夜が人懐っこい笑顔で皆を見回し、皆もそれぞれに応じた。
これにて終戦。危ない場面はなかったものの、その数に時間と精神を消耗した戦いだった。
「さすがに疲れたぜー。帰るか……リン?」
ザジが声を駆ける先、綸太郎が何処かを見ていた。
視線を追えば、一刀が鋼糸を振るい幾つかの小枝を落している様子。
「ん? あぁ、ちょっと墓でも立ててやろうと思ってねぇ」
視線に気づいた一刀の答えに、イチが反応した。
「なら、手伝う。墓標が在れば、もう亡霊は出ないって噂にも、繋がるかも、だし」
「なるほど、霊は鎮まったのだ。って感じになるかもねー」
桃夜がウンウンと頷き、他の皆も納得した様子になると作業の手伝いと、戦場の修復に動いた。
「これであの子たちが来ても大丈夫になったけど……」
戦場となった森林に振り返り、雨は思う。
「ミケちゃん、女の子のところに帰ってきてるといいな……」
「まあね……あら、あそこ」
軽く相槌をうったシルヴィアは、向かう先でコソコソとしている女子高生の姿を認めた。
どうやら結局諦めきれず、それでも近づけずこんな所で立ち往生していたようだ。
「……ねぇ」
歩み寄った綸太郎が声をかけた。
ビクッと一瞬震えた女子高生が倫太郎に気づき、更にその後ろの面々に気づき顔色を青くした。
「えと、えっと」
「野犬狩り終わったみたいだから、もう大丈夫」
「ほ、ホントですか!?」
イチの言葉に、身を乗り出してくる女子高生にシルヴィアが苦笑を浮かべ、
「ホントだよ。でもさ、猫が身を隠すなら自分の生活圏、せいぜい100m以内の誰も入れないような処よ?」
忠告を入れる。少女達は「えっ」と声を漏らし、
「で、でも一応確認だけでも……」
「ニャー」
聞こえた泣き声に灼滅者達は反射的に身構え、少女達は周囲を見渡す。
「ニャ?」
「……み、ミケ!」
路地の向こう。曲がり角から1匹の三毛猫が姿を現し、少女は歓声を上げて駆けていく。
「良かったですわね。飼い主さんもあんなに喜んで……」
満面の笑みで少女達を見送るシャルナティアの横で、
「クククっ……まあ、こんなハッピーエンドも悪くない」
一刀は己が内にあるビハインドに向け、呟いた。
作者:皇弾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 0
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