
北関東にある温泉街の、由緒正しき旅館。
若い二人は婚前旅行に来ていた。
自然豊かな観光地を巡り、心づくしのお料理に舌鼓を打ち、名湯と呼ばれる温泉で心も体も癒した。
そしていざ寝ようと、ひとつの布団に枕を並べたところで、彼女が彼に話を振ったのだ。
「ねぇ、妖怪足置いてけって知ってる?」
「妖怪足置いてけ?」
「そう、布団から足を出して寝てると、出てくる都市伝説なんだって」
何でも、布団から足を出して寝ていると、足元で「足置いてけー、足置いてけー」と不気味な声が聞こえて、あれ、おかしいなぁって思う間もなく鋭利な刃物か何かで布団から出ている部分をちょん斬ってしまうらしい。
「キミ、身長高いから足ちょん切られちゃうかもね♪」
無邪気な彼女の笑顔とは対象に、彼は冷や汗だらだらである。
なぜなら、肩まで布団に入ると、絶対に足が飛び出てしまうのだ。
彼はその夜、絶対に布団から足を出さないようにしたため寝不足になり、翌朝に響いてしまったのは言うまでもない。
「夏とか暑苦しいときとか、寝相が悪い人とか身長が高い人はどうしても布団から出ちゃうよね。足」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、思案していた。
「冬は比較的、足が出ることはないんだけどねぇ……」
どうしたら布団から足が出ないようになるのかを考えているようだった。
「あ、今回みんなに倒してもらいたいのは、妖怪足置いてけって呼ばれている都市伝説だよ」
妖怪足置いてけとは、布団から飛び出している足を鋭利な刃物でばっさりと斬り落としてしまう都市伝説。
現場となる旅館で就寝時間になるとお約束のように語られてしまうため、都市伝説として具現化してしまったという。
「今のところ、誰かが足を斬られたって話は聞かないんだけど、被害が出る前にみんなには灼滅をお願いするね」
妖怪足置いてけを誘き出すには、必ず布団に入って足を出して静かにしている必要がある。そして、狙われるのは一番豪快に足が出てた人、一人。
体が出ていた場合は、その出ているラインに沿って武器を振り下ろす可能性もあるが、どっちかというと足狙いなので、豪快な寝相を演出して体を出す必要性はないと言える。
そして、武器を振り下ろしたところが唯一の介入ポイントとなるため、狙われなかった者は素早く反応しなければならない。
「かといって、室内に布団に入ってない人が一人でもいると妖怪足置いてけは出てこないから、気をつけてね」
押入れに隠れるとかも無しらしい。
「妖怪足置いてけは、咎人の大鎌と同じような鎌を持って、それと同じようなサイキックを使ってくるよ」
そう告げるとまりんはパタンとノートを閉じた。
「そんなに強い敵じゃないけど、油断は禁物だよ。後、ここの温泉は一日中営業してるみたいだから、戦い終わったらゆっくりするのもいいかも。じゃぁ、よろしくね」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 白・理一(空想虚言者・d00213) |
![]() 天樹・飛鳥(Ash To Ash・d05417) |
![]() 多和々・日和(ソレイユ・d05559) |
![]() 熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435) |
![]() マール・アイオネット(五里霧中のルナティック・d27013) |
![]() 夏村・守(逆さま厳禁・d28075) |
正陽・清和(小学生・d28201) |
九条院・ヰリス(中学生エクソシスト・d29561) |
●足は出す? 出さない?
北関東にある老舗の温泉旅館。
近隣の観光地も素晴らしい、お料理もおいしい、空気も澄んでる。の三拍子揃い踏み。
灼滅者が大食堂での夕飯を終えて部屋に戻ると、八組の布団が丁寧に敷かれていた。
枕と枕を合わせて、四対四の川の字。
「……まさかまさかとは思ってたんだけど、女子と普通に相部屋ですか……」
武蔵坂、すげぇ……。と、夏村・守(逆さま厳禁・d28075)は健全な男子高生の反応を見せる。
(「まぁでもアレか、メンツ的には遠縁込みの親戚一同。引率者は大学生、みたいな……」)
そう考えると動揺も少しは治まるというもの。
そんな守の隣では、正陽・清和(小学生・d28201)が心持ち心を弾ませている。
「家族以外でお泊り、初めて……。ちょっとドキドキするなぁ……」
言いつつ、戦いもがんばると小さく気合いを入れる。
「そういえば、誰が囮役をやるかは決めましたけど、どの並びで寝るかは決めてませんでしたね」
ジャージ姿の多和々・日和(ソレイユ・d05559)が顎に手を当てて考える。
「んー、そうだねぇ。囮役を中心に、陣形どおりでいいと思うなー」
ふわりと笑んだのは白・理一(空想虚言者・d00213)。敵にはドSの名案だった。
これが普通に観光ならば、くじやゲーム、もしくは健全に男女別(割合的に女子のほうが多いが)で決めてしまってもよかったのだが、今回の目的は、この旅館に現れると言う都市伝説『妖怪足置いてけ』の灼滅。
効率よく灼滅出来る並びを決めて、それぞれ布団に入った。
「おやすみなさーい」
と宣言しつつも、部屋の照明が煌々とし、八人の目がカッと見開いている。
(「妖怪足置いてけかぁ。カマイタチだとかテケテケ、サッちゃんに近いイメージかな? この手の話はポピュラーだよねぇ」)
と理一はゆるく考えつつ、足はしっかり布団に入れて、尚且つ隣に寝ている日和から目を離さない。
日和の反対側の布団に入った天樹・飛鳥(Ash To Ash・d05417)は少しだけ足を出している。
(「妖怪足置いてけ……ね。都市伝説とは言え、足を切られるのは勘弁願いたいよ」)
その隣には、しっかりと足を布団に入れる熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)。
(「今度はまともに都市伝説と戦えそうだな」)
気合いを入れつつ、来るときに備える。
枕元反対側。
理一の反対側にはマール・アイオネット(五里霧中のルナティック・d27013)。
霊犬のオネットを腕にちょっとだけ頭を上げて、照明のスイッチの位置を確認する。
大本のスイッチは部屋の入り口にあった。
枕元の、照明のリモコンの有無も確認。
その隣には、布団からちょっとだけ足を守。
(「足出して寝たら切られるとか、なんてメジャーな。まぁ、迷惑でもない人様の寝方にけちつけるもんじゃないぜ」)
と思いつつ、八人の誰かの足が置いていかされるのは何とか阻止する気満々。
九条院・ヰリス(中学生エクソシスト・d29561)は着替えた浴衣がはだけないようにそっと布団に入る。
その隣では清和が布団に入ってじっとしていた。
目を瞑ると本当に眠くなってしまいそうなので、ぱっちり目を開けている。
日和も霊犬の知和々を抱っこして、布団の上に座っていたが、全員が布団に入ったことを確認すると掛け布団をめくって布団の中へと入った。
そして、布団を少し蹴り上げて、
「し、失礼します……」
おずおずと、決して細くない足を出した。
普段の寝相はいいので足がスースーしてどうも慣れない。だけど、これも都市伝説を灼滅するため、立派に囮を果たすため……。
だが、しばらくたっても都市伝説が現れる気配がしない。
部屋には時計の音が響き、畳の香りがふんわり香る。
それでも八人は目を瞑ってしばらく待ったが、やはり現れる気配はない。
「……電気、消すよ?」
マールの申し出に異論はない。
布団の中で理一、清和は、あらかじめ身につけておいた光源のスイッチに手を置き、日和はケミカルライトを折ってほのかな明かりを灯した。
その準備を見届けたマールは、枕元に置いておいたリモコンの『消灯』ボタンを押すと、手に握ったまま布団に入りなおす。
暗くなった部屋には障子越しの月明かりだけがやんわりと落ちていた。
●足は置いてく? 置いてかない?
「……けー……」
照明を消して、十数分たったころ。
息混じりの、八人の誰の声とも違う音声が聞こえてきた。
「……いてけー……」
声はだんだんとはっきりしてくる。
八人は寝返りを打ったり首を動かしたりする振りをして気配を探る。
「……足、置いてけー……」
鮮明になった声は、理一、日和、飛鳥、そして翔也の足元の壁から聞こえ、やがてゆらりと影が実態となって現れた。
「……置いてけー……」
フード付きの黒いマントを被り、肩に担ぐのは大きな鎌。
それは死神を思わせる風貌の、妖怪足置いてけ。
妖怪足置いてけは、八人の周りをゆっくりゆっくりと進む。
斬りおとす足を選んでいるのだ。
足がでている守の足元で止まり、一瞬鎌を構えるが再び鎌を担ぎ。
ゆっくりゆっくり歩を進め、今度は飛鳥の足元で同じように鎌を構えるが。
その隣の日和の足を見るや否や歩を進め、今度は躊躇いもせずにその大鎌を高らかと天にかざし、
「足置いてけぇぇぇぇぇぇーー!!」
一気に振り下ろす――。
が、その鎌の刃は空を斬った。
日和がその一瞬で足を引き、柔軟な体のバネを駆使して起き上がったからだ。
掛け布団は蹴り飛ばされ、守の頭上を越えたかと思うと、さらに向こうにどさりと落ちた。
照明のリモコンを握ったままでいたマールが部屋の照明をつけると、一層はっきりと見えるのは、マントの中。
足もなければ実体もない。
空虚だ。
「旅の思い出に水をさすなど、笑止千万!」
それでも日和は雷を纏わせた拳を、妖怪足置いてけの顎の下目掛けて打ち込むと、知和々も斬魔刀でよろける敵の利き腕に斬りつける。
間髪いれずに妖の槍『烏』の穂先から生み出した冷気の氷柱を撃ち込むのは、理一。
「ほんと、迷惑な都市伝説だねぇ。さぁ、被害がでる前に退散願おうか」
その笑顔は穏やかではあるがどこか黒い。
続くのは颯爽とポニーテールを揺らした飛鳥。
「まずは……、これで打ち貫くっ!」
『妖槍・百舌』を捻り込む様に突き出し、妖怪足置いてけの懐を穿つ。
翻るマントの中は、何も見えない。
しかしダメージは与えられているようで、妖怪足置いてけは灼滅者に押され、どんどん壁際へと押されていく。
灼滅者も、足を踏みしめるのには若干不安定な敷布団から、硬い畳へと足場を移した。
「さぁて、お前の命、置いていってもらおうかな!」
翔也は『黄金の指輪-Nibelungen-』がはめられている右手を突き出し、不可視の呪いを打ち込むと、妖怪足置いてけの動きが鈍る。
「ボクたちもいくよ!」
金に輝く長い髪をなびかせたマール。
バベルブレイカーの杭を高速回転させて唸らせると、妖怪足置いてけの懐目掛けて突き立てる。
その攻撃は妖怪足置いてけの胴体を貫通してマントに大穴を開ける。
オネットは、さらに動きの鈍った敵の胴体目掛けて、斬魔刀で斬りつける。
「わたしも、がんばります……!」
この戦いが終わったらゆっくりできる。
手にはめた大きな手袋で妖怪足置いてけを殴りつけると、放射された霊力はその体にまとわり付いた。
「誰かの足が置いていかされる前に、しっかり灼滅してやるぜ!」
正確には灼滅の支援なんだけど。
と、隊列の後衛の黒い大百足……いや、守が、体内に取り込んだギターをかき鳴らすと音波が妖怪足置いてけの聴覚を刺激する。
「あ、ああ、あし、あああおおおおお……」
空虚でもまるで実態があるかのようにもだえ苦しむ妖怪足置いてけ。
「足ですの? うふふふふ……。さぁ、どの足がよろしいのかしら……?」
生命維持用の薬を過剰摂取し、己の肉体を暴走させたヰリスの浴衣から覗くのは、二本の人の足ではない。
ギチギチと音を立てるのは、白い水晶で出来た八本の大蜘蛛の足。
「好きな足を選んでいただいて構いませんのよ?」
妖艶な笑みを浮かべて妖怪足置いてけを威嚇、挑発する。
●妖怪足置いてけを倒す? よね!
「おおお、足、足、……置いてけ、足置いてけぇーー!!」
たいした回復も出来ない上、灼滅者からの攻撃による傷が深い妖怪足置いてけが、なぜか元気に見える理由。
それは、足の数にあった。
普通の人型の足、十二本。
白い水晶蜘蛛の足、八本。
極めつけの、黒い大百足の足、三十本以上。
まさにここは執拗に足を狙う都市伝説にしてみれば、ハーレムのような空間だった。
「おおお。足、足置いてけ、置いてけ!!」
狙いはヰリスの八本の足と、守の三十本以上の足。
当初狙っていた日和の足には目もくれず、鎌に宿る力を黒き波動に変えると極めて低い位置で打ち放つと、ヰリス、守、そしてマールを薙ぎ払う。
「だ、大丈夫ですか……?」
清和が大きな手袋の指先に集めた霊力で、まず守の傷を癒す。
「助かったぜ、ありがとな」
そう言うと、今度は守が体内に取り込んだギターの音色でヰリスとマールの傷を癒す。
「……それほどまでに足を置いていってほしいんですの……?」
八本中の一本、つま先の水晶を欠いたヰリスが大鎌を構え、飛びかかる。
暗黒の力を宿した断罪の刃は、妖怪足置いてけの大鎌に阻まれたが、力で押す。
妖怪足置いてけがよろめいたところを、知和々とオネットが六文銭射撃で敵を撃ち。
「わたしの足は足癖が悪いんですっ」
多いのもいいですけど、足癖の悪い足もどうですか? と言わんばかりの日和は、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させる。
「まだだよ! こいつも喰らえ!」
さっきのお返し。と、マテリアルロッドを振りかざし、マールが飛び込むのは敵の懐。
外からの打撃と中からの魔力の爆発により、妖怪足置いてけはさらにふらふらと揺れる。
『滅光の刃-Misteltein-』を唸らせて回す刃は炎の刃。
翔也が妖怪足置いてけに斬りかかると、マントがズタズタに切り裂かれる。
当然、空虚の体にもダメージがあった様で、マントが前のめりにうずくまるような動きを見せる。
隙だらけ。
「叩き込む、燃えろ!!」
飛鳥は奪取の摩擦で生み出した炎を右足に纏わせてミドルキックを叩き込むと。
「もう終わりみたいだねぇ」
その笑顔は相変わらず黒い。
片腕を巨大に異形化させた理一は、その黒いマントへと躊躇いもなく振り下ろした。
「あああ、足、あしぃぃぃぃ……」
理一の巨大化した手の下、妖怪足置いてけはうごうごと蠢いたが、やがて無数の白い光の玉となり消えていった。
●
「何とか終わったみたいだね……」
八人それぞれが武装を解く中、安堵のため息混じりに飛鳥が呟いた。
「蜘蛛の足は八本。一本も取れなかったようですけれど。……情けないですわね」
人間形態に戻ったヰリスが、妖怪足置いて怪我消えた場所を見下して呟く。
蜘蛛の足や百足の足はおろか、人間の足も取れなかったのだ。
「んじゃぁ、改めて寝る前に温泉と行こうぜ!」
人間形態に戻った守が、待ってましたとばかりに声をあげ。
「そうだね。戦いで汗もかいたことだし、みんなで行かない?」
マールの提案に、反対するものはいなかった。
二十四時間営業の温泉は当然男女別だが、内風呂のほかに露天風呂も完備されている。
露天風呂に入る女子五人。
「ほわぁ……」
温泉に浸かって、清和が気持ち良さそうに声をあげた。
さっきの戦いの疲れもゆっくり解けていくようだ。
「やっぱ温泉が一番だよねー」
力を抜いて湯船の岩に体を預けるマール。
その後ろでは、お湯を張った大きな桶の中で、オネットと知和々も温泉を堪能している。
悩みの種の大きな胸を両腕で隠しながら素早く湯船に浸かってほっこりしている日和。
「はぁー、極楽、極楽ー」
その胸に嫉妬の視線を向けるのは、ヰリスだ。
「姉様も一緒だったらもっとよかったのですけれど……、仕方ないですわね」
見上げた夜空に星が瞬く。
飛鳥も温泉に浸かりながら、色付き始めた紅葉と星空を見上げている。
一方の男子側。
「いやぁみんなすっごく、かっこよかった!」
女子と同じように露天風呂に浸かりながら、守は先の戦いを振り返る。
「ほんと、みんなで力を合わせて倒せて、よかったねぇ」
敵に見せていた黒い笑顔はすっかり消えてリラックスモードの理一は、肩まで湯船に使ってほっと声を漏らす。
「……翔也くんは湯船に浸からないのー?」
理一の問いに、湯船脇の木製のベンチに座っている翔也は小さく頷く。
「もう十分浸かったから……」
過去に一度溺れた経験から、湯船に浸かるのはほどほどにして、色づく紅葉と湯煙にけぶる星空を眺めている。
「何はともあれ、お疲れ様!!」
守の元気な声が、山に響いた。
程よい温度の温泉と、湯煙にかすむ紅葉と星空は灼滅者の労をねぎらう。
明日の朝、学園で待ってる家族や友達に、お土産を買って帰ろう。
おやすみなさい……。
| 作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2014年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
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