ハイス芦ノ湖怪人 諦めなければ復活できる

    作者:相原あきと

     神奈川県は箱根町にある大きな湖、芦ノ湖。
     ここは湖畔を中心に観光名所やリゾート施設が数多く点在する観光地である。
     その湖の水打ち際で、どこか遠くを眺めつつ大きく叫び続ける男がいた。
    「諦めたらそこで終わりですって! 絶対できます! ハイス! 諦めるな!」
     男は短パンにポロシャツ姿だった。
    「もっと! もっと腹から声出して! 聞こえないですゲルマンシャーク様! あなたの夢は何だ! イメージして! イメージイメージ!」
     そして男の姿で一番異常なのは、その顔が炎に包まれ――否、顔は松明のように燃えている炎が乗っている事だった。
    「ああ、ゲルマンシャーク様……聞こえないです、ゲルマンシャーク様……」
     炎の怪人はガクリと肩を落とす。
     その時だった、怪人の後ろに美しい少女が現れたのは。
    『灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね』
    「キミは?」
     炎の怪人が振り返り、少女――コルネリウスの幻影は。
    『私は――」
    「どうした? 元気が無いぞ! もっと腹から声を出して!」
    『私は慈愛のコ――』
    「声が小さい! 気持ちだ! 気持ちを乗せるんだ!」
    『………………。私は傷つき――』
    「どうした!? そうか、悩みがあるんだな! 大丈夫、心配するな! 思いっきり吐き出せ! 全部ぶつけて来いっ!」
    『………………。私は傷つき嘆く者を見捨て――』
    「諦めるな! 本音をぶつけて来い! 大丈夫、絶対なんとかなる! 信じろ! 自分を信じて! さぁ、ドンと来いっ! 頑張れよ!」
     暑苦しく燃え上がるたいまつ顔の怪人――かつてここで灼滅されたハイス芦ノ湖怪人の残留思念に、コルネリウスは声をかけるのを諦め、ボソボソとプレスター・ジョンに『この怪人をかくまって下さい』とつぶやくのだった。
    「どうした! 大丈夫、ちゃんと聞いてる! 諦めるなよっ!」


    「暑苦しい残留思念が復活したようですね」
    「ええ、本当に……なんで今更とかすごい思うけど……まぁ、仕方ないわよね」
     霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)が予測した未来が合っていた事に、鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)がタメ息をつく。
    「えっと……というわけで、慈愛のコルネリウスが灼滅された『ハイス芦ノ湖怪人』の残留思念に力を与えて復活させようとしているの。皆にはコルネリウスが残留思念に呼びかけを行った所に乱入して、彼女の作戦を妨害してくれる?」
     ちなみに慈愛のコルネリウス自体は現実世界へ出てこられない為、現場にいるのは幻のような存在であり戦う必要はない(戦えない)。
     が、残留思念の方はそうはいかない。与えられた力で元のように戦闘能力も復活していると言う。
     復活するダークネスは、かつてゲルマンシャークの力でゲルマン化した芦ノ湖怪人だ。頭が松明なテニスプレイヤーな格好で、ユニホームはドイツの国旗柄だと言う。
    「なんか復活した際にコルネリウスがウザかったからか、余計に力を与えちゃったみたいで、当日よりタフさだけが異様にパワーアップしちゃってるみたいなの。そこだけは注意して戦ってちょうだい」
     ハイス芦ノ湖怪人は、ご当地ヒーローとリングスラッシャーに似たサイキックを使い、ポジションはディフェンダーだと言う。灼滅された当時と戦術は基本的に何も変わっていない。
    「まぁ、そんなわけで凄くタフになっただけで、それ以外は当時とそんな変わっていないハイス芦ノ湖怪人なんだけど、さらに簡単……というか、うまい方法があるの……言う必要あるかわからないけど」
     そうつぶやくと、珠希は怪人の性格というか、癖を説明し始める。
    「どうもこの怪人、悩んでいる青少年(女性も含む)の相談には積極的に乗ってくれるみたいなの……だから、相談途中に攻撃をはさんでうまくダメージを与えつつ相談を続けさせれば、かなりのダメージを安全に与える事ができると思うわ」
     言いつつ珠希は眉根を寄せる。
    「一応、その怪人はすごく親身になって……本気で一緒に相談に乗ってくれるみたいだから、本気で相談するのも有りよ。その後、普通に戦えば大丈夫だと思うし」
     珠希はその相談風景がとても暑苦しい未来だった事を、頭から追いやるようにブンブンと振り払うと、がんばってね、と灼滅者たちを見送るのだった。


    参加者
    エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)
    ルーパス・ヒラリエス(狼の口・d02159)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    服部・あきゑ(赤烏・d04191)
    村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)
    水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)
    八乙女・小袖(鈴の音・d13633)

    ■リプレイ


     秋の足音が聞こえ出す夏の終わり、神奈川県は芦ノ湖へ向い8人の灼滅者は歩いていた。
    「1年と4ヶ月ぶりでしょうか……諦めなかったのはさすがですが、結果、芦ノ湖は温暖化の危機!」
     三角頭巾のサバト服でそう叫ぶのは霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)、彼奴の復活を予測したその人である。
    「もきゅ、まさか怪人が二人同時に現れるとはなの、こうなったらまとめて両方とも倒すのね~……みぅ」
    「いえ、だから俺は違います」
     エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)が三角頭巾を指差しのんびり言うと、刑一が振り向き否定する。
    「違うのぉ? むしろ怪人さんよりあやしーのー(棒読み)」
    「棒読みじゃないですか……というか、このやり取り何回目だと」
     (コロコロ)……6回目である。
    「そろそろ湖も見えてくるし、殺界形成を張っておくわよ?」
     ルーパス・ヒラリエス(狼の口・d02159)の意見に皆が頷き、そして戦場が近い事に緊張感が増す。
     ある者は懐のカードに触れ、ある者はドジらぬよう気合を込め、そして服部・あきゑ(赤烏・d04191)は金髪縦ロールのカツラを被る。
    『………………』
     なんでやねんっ!

     そして8人はザッと湖畔の浜辺に降り立つ、視線の先では湖に向かって「ゲルマンシャーク様ー!」と叫ぶ松明顔の怪人がいた。
    「ダークネスの中ではいい人(?)に思えちゃうよね……こいつ……」
     村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)がぼそりと呟き、ピクリと怪人が気が付き振り向く。
    「どうした青少年たち! もしかして一緒にゲルマンシャーク様へ呼び掛けたいのか? 遠慮するな! さぁ!」
     なんか熱心に灼滅者を勧誘し始めるハイス芦ノ湖怪人。
    「なんだかすごく……暑いです」
     怪人をジッと見ていた一樹が言いつつ、『これこそがこの怪人の真価なのか……?』と心の中で遠い目をする。
    「暑苦しいのって、ちょっと考えものなのかな、とも思います」
     少しオドオドと水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)が言うと。
    「暑いのか!? 大丈夫! それはきみの魂が生きたいと言っているんだ! それが生きてるって事だ!」
    「っちゅん!……あ、すいません、突然くしゃみが……えっと、とりあえず人の迷惑になるようなら、灼滅なのですー!」
    「話聞けよ! だいたい、暑いのにくしゃみか!」
     少し困るゆま、ちょっとしたドジなのだが……。
    「一見、良い輩に見えて熱ウザイようだが……」
     八乙女・小袖(鈴の音・d13633)の言葉に怪人が反応する。
    「正直に言おう。その熱さ、嫌いではない」
     見つめ合う小袖と怪人。
     ちなみに、こんな中で完璧に空気を呼んで傍観者っぽく戦いが始まるのを待っているのは 月雲・悠一(紅焔・d02499)だったのだが。
    「そうか、目を見て理解した。きみ達の目的が、な」
     小袖から視線を外し、怪人がきっぱりと言う。そして――。
    「さあ! 一緒にゲルマンシャーク様へ――」
    「イグニッションッ!」
     悠一が思わず解除コードを叫ぶと同時、怪人へ戦鎚を叩き込む。
    「ぎゃーっ! って、何をするんだ!」
    「こういう事よ!」
     ルーパスが鏖殺領域を展開、殺意が怪人を飲み込む。
    「くっ、あの澄んだ瞳……てっきりゲルマンシャーク様の復活を祈るためにやってきたとばかり……」
     殺意の領域から這い出して来る怪人、その前に誰かの足。
     見ればあきゑがおり。
    「ハイス!」
    「良い返事だ!」
    「押忍、師匠!」
     怪人のほのかな期待をブチ壊すよう、あきゑは礼と共に怪人へ頭突きをかましたのだった。


     灼滅者が攻撃を開始する……だが、そんな中。
    「とーう! 喰らうのです怪人!」
     炎の尾を引く飛び蹴りを怪人へと繰り出す三角頭巾!
    「なんの!」
     だが片手一本で塞がれ、ブンッと怪人が腕を振ると共に吹き飛ぶ三角頭巾。
     三角頭巾は空中で回転し勢いを殺すと、スチャッと大地へ着地する
    「……くっ、矢張り駄目ですか、俺には……熱さが足りない。だから……いつも……」
     悔しそうに大地を叩く三角頭巾。
     その悔しがり方に怪人が反応する。
    「どうした! もしかして悩みでもあるんじゃないか? 言って見ろ! 大丈夫! ぶつかって来いっ!」
    「まさか悩みがある事を見抜かれるとは……しかし、本当に相談に乗ってくれるのですか?」
    「ああ、もちろんだ! ドンと来い!」
    「ドンッ!」
     間髪入れずに蹂躙のバベルインパクトで貫く。
    「ぐ……相談、は……どうした?」
    「くぅう! なんて熱い! はい! 実は俺、この世に蔓延るリア充を爆破する火力を求めて鍛えています。しかし、気合が足らないのか中々爆破し切れません! ハイス芦ノ湖怪人、どうか俺の鍛えたRBパワーを受け止めてアドバイスをお願いします!」
    「そうか! いいぞ! 思いっきりそのRBパワーとやらをぶつけて来――」
    「リア充爆発しろ!」
     怪人の台詞に重なるぐらいギリギリに三角頭巾がグランドファイアを怪人へと叩き込む。
     怪人は燃えながら――いや、頭の松明を更に燃やしながら。
    「悪くないパワーだ! だが、火薬に頼らず、独自路線を進んだらどうだ? オリジナリティーだ!」
    「それは……はっ! なんだか次はリア充に勝てそうな気がします、ありがとうございました!」
     三角頭巾の礼に満足気な怪人、だったのだが、ドギュンと背後からざっくりギルティクロスで切り裂かれる。
    「ぐっ!」
    「私も相談するの~」
     怪人がギルティクロスを放った方を見れば、エステルが霊犬のおふとんと待っている。
    「相談か! もちろんいいぞ! だが、相手を振り向かせる為にサイキックを放つのはやっちゃダメだ」
    「それはそれとして……」
    「おいっ」
    「むきゅぅ、実は最近なお(彼氏)がぜんぜんクラブに来ないのね、どうやったらくるかな、引きずればいい? 縛ればいい?」
     強引に相談に続け、しかもかなり物騒な事を言うエステル。
    「そうだな……まずは手紙だ。それで駄目なら相手の家へ行って直接話す、なぜ来てくれなくなったか、これはデリケートな問題だ、つまり――」
    「縛霊撃~」
    「ぎゃーっ! ま、待て、今大事なアドヴァイスを――」
    「むきゅ……ごめんなの~」
    「なら良し、つまり、実力行使は話しあった後にするべきだ、わかったな」
    「むい、わかったの~。でも、怪人さんはちゃんと最後まで離し聞いたほうがいいの、話つながらないの」
    「え、それ、きみが言う? さっきから――」
     エステルは詰め寄る怪人を無視して横を指差し。
    「次の相談者が待ってるの~」
    「む」
     怪人が真面目な顔(松明だが)になって、そちらを見る。
     ビュッ! ビュッ! バヒュンッ!
     そこではテニスの素振りをするあきゑがいた。
     思わず目が合う。
    「ッしゃーおらバッチコーイ!」
     ちなみに背後にエースを狙うテーマソングが流れて。
    「あたしの服部王国ゾーンは百八式まであるぞォー!」
     3つも掛け合わせたらツッコミ辛いやん。
     そして怪人は、何かを悟ったようにエアラケットを構え身体を揺らす。
    「つまり、きみはテニヌの悩みなわけか! いいぞ、思いっきりぶつかって来い!」
    「通学中!」
    「うむ」
     ラケットを構え走り込んでくるあきゑ。
    「一本乗り遅れたら遅刻する満員電車の中で! 割としょっちゅうゲリピーでお腹が痛くなるんだけど!」
     そのまま怪人の頭をラケットでスマッシュ。
     完全にテニスじゃない、いや、相談内容もテニス関係無いし。
    「ちょ、ま」
    「この屈強な歴戦の勇士であろうと耐え難いピンチ! あたしは一体どうしたら良いんだ!」
     ビュッビュッと素振りし、スポっとすっぽ抜けたラケットが今度は怪人の腹にドスッとめり込む。
     くの字に蹲る怪人、それを無視して「こんな腹がいけないのか! やはりこの腹か!」と勝手に叫んでいるあきゑ。
    「ま、待て、きみの腹が悪いんじゃない……」
    「なんだって! じゃあそっちの腹が悪いのか! こいつが悪いのか! タマ取ったらぁ!」
     ブスッとクルセイドソードで怪人の腹を刺すあきゑ。
    「ぬおおおおお!?」
     やばいと感じてあきゑから距離を取る怪人、そして自分の腹からソードを抜こうと。
     ドンッ!
     突如、背後から押されて前のめりに倒れ、さらにソードが深く刺さる。
    「ぎゃーー! な、何をするんだ!?」
    「ご、ごめんなさい! 剣を取ってあげようと思ったら躓いちゃって……」
     ぺこぺこ謝るのはゆま。
    「そ、そうか、故意でないなら、まぁ、仕方無いな」
     我慢強い怪人が何とか笑顔でゆまを許す。
    「あの、私、一生懸命頑張ってるんだけど、どうしてもやらかしちゃうんです……。どうにかしたく……あ、今、回復します」
     そう言うとジャッジメントレイの回復の光を手に集めだすゆま。
    「む、つまりきみは天然のドジを直したい……と、そんな悩みがあるのか」
    「そ、そうなんです」
     そう言って発動するジャッジメントレイ。
    「ぐああああっ!」
     悲鳴を上げる怪人、ゆまのジェッジメントレイは攻撃パターンで発動したのだ。
    「はうっ! またやっちゃったっ! だ、大丈夫ですかっ? もっかい回復を……」
    「いや、待っ――」
     ズキュンッ!
     構えた天星弓から彗星撃ちが発動し怪人を貫く。
    「はっ! 天星弓での回復サイキック持って来なかったんだ!?」
    「うぉぉぉぉお」
     ぜぃぜぃと息をする怪人、そこに礼儀正しく一礼して話しかけるのは一樹だ。
    「き、きみも、何か相談が、あるのかな?」
    「ええ、実は――」
     そして歌い出す一樹、それは伝説の歌姫を想起させるほどの……ってか、ディーヴァズメロディである。
    「そ、そうか、紳士を目指しているが、童顔で背も低く、服に着られている気がして気になる、と」
     催眠をくらいつつ相談内容を理解する怪人。
    「どうしたらもっと紳士らしくなれるかな……?」
     目をグルグルさせつつ怪人が一樹を見つめ。
    「何にも問題無い! そうやって意識しているだけできみは充分紳士だ!」
    「えっと、服の方は……」
    「大丈夫だ! 気持ちを込めれば服は付いて来る! 信じるんだ! きみは服を着れる!」
     グルグル。
    「え……はい、ありがとうございます」
     目をグルグルさせた怪人にちゃんとお礼を言う一樹。
     そして怪人はそのまま、まだ相談を受けていない方の1人、小袖へと見直り。
    「きみも相談があるんじゃないか?」
    「悩み……。悩みが無いのがある意味悩み……だろうか」
     真面目に答える小袖。
    「頑張れ! 捻りだすんだ! 大丈夫、きみならできる!」
     よく解らない事を言いだすグルグルな怪人。
    「……なら、どうしたら悩める青少年になれるだろうか? 私は先日も英語のテストで0点を取ってしまったのが……正直、何も問題ないと思っている」
    「そうか! 問題無いなら良いじゃないか! 良かった!」
    「ふっ、熱苦しいが貴殿は良いヤツだな」
     少し笑みを浮かべてそう言いながら。
    「貴殿のような熱さに憧れさえ抱いてしまう。どうしたら貴殿のようになれるだろうか?」
    「そうだな……まずは信念を持つこと! そして常に前を見る! 何があってもだ!」
     そう言うと怪人は光のリングを出現させ射出動作に入る。どうやらこの攻撃を食らっても前を向け、とか言うつもりらしい。
     咄嗟にエステルのおふとんやあきゑが、カバーに入れるよう位置を確認する。
    「もっと熱くなれよ!」
     そして怪人の叫びと同時……リングスラッシャーが怪人自身へと命中する。
    「がああああ……」
     自分で自分に攻撃し苦痛の悲鳴を上げる怪人。ぶっちゃけ催眠の効果である。
    「ふむ……とりあえず、その熱さから真似てみよう。グラインドファイア」
     真面目な小袖が同じく攻撃を繰り出す。
    「ぐおおおお……」
     小袖に蹴られ転がる怪人。
     だが、頭を振り振りなんとか再び起き上がる怪人。
     そして立ち上がって最初に目が合ったのは……悠一だった。
    「え、俺?」
    「きみも何か相談が、あるんじゃないのか?」
    「自分の相談事? 特にねーしなぁ……仮にあったとしても、そんなのは自分でどうにかすることだし」
     しれっと断る悠一。
    「そ、そうか……」
    「うん」
     ちょっと寂しそうな怪人に、コクコクと頷く悠一。
    「相談が無いなら私に代わってもらえるかしら?」
     前へ出て来たのはルーパスである。
    「悩みがあるのか、いいぞ、全力でぶつかってこい! アメリカのご当地ヒーローよ!」
    「私は殺人鬼よ!」
     ズシャッと怒りのティアーズリッパーが怪人を刻む。
    「むむ、それはすまない、申し訳無い。……だが切りつけるのはいささかやり過ぎ――」
    「実はね、最近どうも腹が減って仕方なくって(怪人:「勝手に話出すんだ……」)、それと殺意が止め処なくて抑えきれなくって、だからまともな日常が送りたくても送れないし、それだから癒やされなくて殺意が抑えきれなくって、それを灼滅で辛うじてつないでる有り様で、だから……」
     ルーパスの瞳が青々と光り、生命を拒絶する荒野の熱風のように。
    「――足元に積ませてもらうわ」
     獣のような殺意を乗せて、ルーパスが解体ナイフで斬りかかる。
     だが、怪人はそのナイフを避けもせず切りつけられた。
    「何!?」
     僅かに動揺したのはルーパス。
    「諦めるな! 諦めなければ絶対できる! 腹が空こうと、殺意が止められなくとも、きみはそれを制御できるようになるはずだ!」
    「それは……ありがと」
     気の無い返事をルーパスが返し……その時だ。
     ドスッ!
     唐突に怪人の腹に矢が突き刺さった。
    「は?」
    「はうぅ……」
     見れば天星弓を持ったゆまが矢を放ったポーズのまま固まっていた。
    「はっ! 天星弓での回復サイキック持って来なかったんだ!?」
    「おい! それはさっきやっただろう!?」
    「その……本当にごめんなさいごめんなさい」


     一通り相談を(攻撃しつつ)終えた灼滅者達は、自然な流れで再び戦いを始めていた。
     だが、あれだけ好き放題攻撃された怪人が、ましてマトモな戦術で来ている灼滅者に勝てるわけもなく……(あーっとあきゑさん吹っ飛ばれたー! とかはあったが)。
    「その熱き相談の感謝の気持ちです! 俺達の熱い思いを受け止めてくださーい!」
     最後は8人の一斉攻撃でハイス芦ノ湖怪人は倒れたのだった。
    「ゲ、ゲルマンシャーク……様……」
     もう爆発を待つばかりの怪人に、あきゑが近づき。
    「なぁ。ダークネスと人間、どうやったら共存できると思う?」
     本当の質問を最後に、と。
    「そんな事……すでに共存しているさ」
    「?」
    「共存できないのは……我らと……灼滅者である、きみたち……だ」
    「……そうか」

     ドカーンッ!

     そして、ハイス芦ノ湖怪人は爆発霧散し。
    「いろいろ相談に乗っていただき、ありがとうございました!」
     空へ昇って行く光の粒子に、一樹が深々と頭を下げ。
    「やっと夏が……終わった感じがしますね」
     刑一が呟く。
     少しだけ、湖を渡って来た風が肌寒い……そんな気がした。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 17
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ