町の傍ら、何時も住まう闇の影に

    作者:幾夜緋琉

    ●町の傍ら、何時も住まう闇の影に
     静岡県某所……駅から少し離れた所にある、アーケード街。
     しかし、既に半分程度の店はシャッターが閉まっていて……町の活気というものは、余り見えない。
     だからそんなアーケード街を歩くのは、おじいさん、おばあさんばかり。
    『ギンさんや。あの角向こうのチヨさん、最近見ないのぅ?』
    『んー……あぁ、知らぬのかい。チヨさん、先月亡くなってしまったのじゃよ』
    『……全くのぅ……本当に寂しいものじゃなぁ……どんどん人が居なくなってしまうのぅ……』
     おじいさん、おばあさんが、アーケードの一角の、残されていた椅子に座り、そんな会話を交わす。
     ……その時。
    『……にゃー、にゃぁー』
    『ワォォーン』
     どこからともなく聞えてきたのは、野良犬、野良猫の鳴声。
     ……その鳴声に、おじいさん、おばあさんは。
    『おうおう……どうしたんじゃ? 哀しそうな鳴声をあげてのぅ……?』
     と手にササミを載せて、ふらふらと揺らす。
    『にゃ、にゃーー!!』
    『わぅうー!!』
     そのササミにダッシュして来る犬と猫……。
     ……だが、次の瞬間。
    『……わ、わぅうん!』
    『……ん……ひ、ひぃぃっ!!』
     その口は大きく開き……おじいさん、おばあさんを押し倒して喰らいかかる。
     おじいさん、おばあさんの体力では、それを引き離すことは出来ず……野良犬、野良猫に喰らわれてしまうのである。
     
    「皆さん、集まりましたね? それでは早速ですけど、説明を始めますね?」
     野々宮・迷宵は、集まった灼滅者達を見渡すと、早速説明を始める。
    「今回、皆さんには静岡県のとあるアーケード街に向かって頂きたいのです。どうやら……このアーケード街に棲み着いてしまった野良猫、野良犬が、突然眷属化してしまっているようなんです」
    「野良犬、野良猫たちがどうして眷属化したのか、その理由は分かりません。ただ……私には、町に住むおじいさん、おばあさんが殺される姿が見えました。このままでは、おじいさん達はこの眷属化した野良犬、野良猫に殺されてしまいます。そうなる前に、この眷属達を倒してきて欲しいのです」
     そして、迷宵は皆を見上げるようにして……頷いて貰えたところで。
    「ありがとうございます。今回の野良犬、野良猫は5体ずつの、合計10体です。猫は素早さで皆さんを翻弄し、犬は重い攻撃を仕掛けてきます。それぞれの強さは、皆様1人ずつとほぼ互角でしょう」
    「……ただ、一つ問題となるのは、戦闘の舞台となるのは静岡県の駅近くにある、アーケード街だという事です。もう半ばシャッター街にはなっていますが、一般人が通りがかる可能性は十分に高く……一般人の対応も、おそらく必須となると思います」
     そして迷宵は。
    「何にせよ、おじいさん、おばあさんが殺される前に、この野良犬、野良猫眷属達を倒してきて欲しいんです。宜しくお願いしますね?」
     と、また深く頭を下げるのであった。


    参加者
    黒路・瞬(残影の殻花草・d01684)
    九曜・亜門(白夜の夢・d02806)
    海川・凛音(小さな鍵・d14050)
    牧野・春(万里を震わす者・d22965)
    アガタ・トゥイノフ(中毒症状・d24054)
    夕崎・ソラ(灰色狼・d27397)
    日輪・瑠璃(汝は人狼なりや・d27489)
    透間・明人(カミを降ろした中学生・d28674)

    ■リプレイ

    ●犬猫の突如
     迷宵から依頼を受けた灼滅者達。
     静岡県某所、駅から少し離れたアーケード街……半ばシャッター街になってしまっている、寂れてしまった商店街。
    「……んー、アレってホントに眷属なんだよな? オレらとかニホンオオカミだし、近いような遠いよーな……」
    「それを言われると、私も同じ様な気がしないでもないのですが……まぁ、突然眷属化するなんて、恐ろしいものですね」
     夕崎・ソラ(灰色狼・d27397)と、日輪・瑠璃(汝は人狼なりや・d27489)の会話の通り、そこに出現しているという、野良犬・野良猫が突如眷属化するという話。
    「新手の眷属……と。誰が仕組んでいるのでしょうか?」
    「犬猫の眷属化、ですか。他にも似た事件はありましたし、どのダークネス勢力の仕業でしょうかね?」
    「ええ。何故眷属化しているのでしょう。誰かが意図的に……? しかし、どんな意図があるのでしょうね?」
     牧野・春(万里を震わす者・d22965)に、透間・明人(カミを降ろした中学生・d28674)、海川・凛音(小さな鍵・d14050)らの会話に、アガタ・トゥイノフ(中毒症状・d24054)は……大きなメモ帳に。
    『……彼ら野良にとっては、人もお爺さん達が分けてくれるささみの延長にしか過ぎなかったのかな? にぎやかだった頃は分けて貰った事もあっただろうに……眷属と化して、恩を忘れてしまったと考えると、少し悲しいものだね』
     それに黒路・瞬(残影の殻花草・d01684)がうんうんと頷き。
    「そうだな。何で突然、犬猫の眷属が大量発生しているのかは知らないけど、犠牲者を出す訳にはいかない。後でいろいろ調べてみるとしようか」
     それに凛音、明人も。
    「そうですね。ともかく、今はその験を解決しなければいけません。一般人を助けましょう」
    「ええ。被害者が出ない様にしないといけませんしね」
     そして……その横で九曜・亜門(白夜の夢・d02806)が。
    「犬猫を殺すのは躊躇われるが……致し方あるまいな」
     と呟くと、それに傍らの霊犬、ハクが。
    『クゥン』
     その視線は、本当にやらなきゃだめなの、と言わんばかりの視線。しかし亜門は。
    「ほれ、早ぅ片付けるぞ?」
     と宣告……それにハクは大きく欠伸。
    「やれやれ……仕方ないのぅ」
     と苦笑……それを横目に見つつ。
    「では、準備を始めるとしましょうか」
     と、凛音にソラが。
    「おー、そうだな。猫と犬だから、マタタビに生魚、そして肉だな。肉……ニクいいなー……」
     持ってきた霜降り肉を見て……ちょっと涎。
     まぁ、確かに結構値の張るお肉を買ってきたから……上手そうに見えるのは当然……。
    「……まぁ、確かに美味しそうですね。ああ、後ササミももってきましたよ」
     と更に瑠璃がササミを取り出してみせる。
     ……はぐれ眷属となったとしても、野良犬、野良猫であるのは間違いない訳で……そんな野良犬野良猫に向けての誘導手段は万全。
    「んー……いいなー……んでもダメだぜ。あれ眷属を呼ぶためのものだし。でもニクいいなー……」
     数分間、葛藤しているソラ。
     ……でも、最終的には。
    「ダメダメ、オレは今ニンゲンなんだから、生肉とか食べねーし!」
     ぶんぶんっ、と首を振り払って、ぐぐっ、と拳を握りしめる。
     そして。
    「よーっし、んじゃ工事現場のイメージで三角コーンを配置してくるな!!」
     と、ホームセンターで仕入れてきたコーンを入口に配置、更にアガタが立ち入り禁止の張り紙を貼る。
     ……そこに通りがかった、お爺さんお婆さんが。
    『あれぇ……何かのぅ……?』
    「ああ、おばーちゃん。ごめんな! アーケードの一部が壊れたんで、直してるんだ。あぶないから今日は離れててな!」
     とお爺さんお婆さん達をその場から引き離すようにする。
     ……そして、全ての準備完了した所で。
    「それじゃ、行きましょうか」
     と明人の言葉に頷き、そして灼滅者達はアーケードの下へと向かうのであった。

    ●恩を仇に
     そして、アーケードの下を歩く灼滅者達。
     右左を見ると、殆どの店はシャッターを閉じており、活気はあまり無い。
     ……そんな街角を暫し歩いていると……。
    『にゃぁぁーん』
    『ワ、ワォォーーン』
     犬と猫の鳴声が、聞えてくる。
     その鳴声は、お腹が空いているようにも聞えて……ちょっとだけ、可哀想だな、とも思えてしまう。
    「現れましたね。それでは早速……」
     と、瑠璃がサウンドシャッターを使用し、戦闘音をその場から遮断。
     そして遮断すると共に、犬猫の所へ……。
    『にゃーぁん』
    『わううん……』
     目の前に並ぶように為て、犬猫が鳴声を上げている。
     そんな犬猫達に手を振って、まずは注意を向ける。
    『にゃ-?』
     じーっと、灼滅者達に視線を向けてくる猫……それに明人が。
    「ほーら、こっちには美味しい食べ物がたくさんありますよー」
     と霜降り肉をちらつかせる……そして瞬や春、瑠璃もマタタビ、ササミ等々を見せるようにして、犬猫の注意を引きつける。
     ……それに犬猫は。
    『にゃ、にゃーー!!』
    『ワン、わんわん!!』
     涎を流しながら、こっちの方へと駆けてくる。
    「所詮は畜生だ、という事ですね。単純です」
     と、犬猫にそんな言葉を言い捨てる明人……その言葉に対し、凛音はすこし辛そうな視線を犬猫に向ける。
    「……ごめんなさい。でも、貴方達に人を攻撃させる訳にはいかないんです」
     と、覚悟を決める。
     そして眷属が間合いに入ると同時に、春がガンナイフで数発威嚇射撃。
    『にゃー!!』『わぅぅ!! ぐ、グルルゥゥ……』
     一旦間合いを取る犬猫達。それに更にソラが。
    「ほーら、ほしかったらこっちに来いよ!」
     と、ニクをまたちらつかせる。
     ……警戒しても、単純な食欲には勝てない様で……犬猫の注目は、やっぱりその肉を持つ、ソラの方へ。
     10匹の犬猫達が、次々とソラに向かっていくが、それをソラが幻狼銀爪撃で対峙。
     さらに凛音と、瞬のライドキャリバーが、それら攻撃をカバーリングしながら……ウロボロスシールドで盾を付与。
     そして……ディフェンダー陣が一通り、犬猫の攻撃を受け止めた後は、灼滅者達側の攻撃のターン。
     まずは瞬が。
    「黒路家当主候補・瞬。いざ参る!」
     と宣言すると共に、鏖殺領域で妨アップを叩き込めば、瑠璃が。
    「突然に眷属化して、突然に灼滅される……理不尽かと思いますが……封じます!」
     と、除霊結界を更に使用。
     ……ジャマーの効果も相乗し、多重のバッドステータスで苦しめる。
     そして、更にキャスターの亜門、春が。
    「この身はただ威を狩る者である」
     亜門のブレイドサイクロンに、春がパッショネイトダンス。
     更に明人が旋風輪、アガタが夜霧隠れ……と連続して攻撃を叩き込んでいく。
     流石に犬、猫のはぐれ眷属……そんなに防御力は高くない。
     犬は攻撃力が高く、猫は素早いが……その程度。
     ……そんな犬猫に、ハクが。
    『……クゥン』
     小さく鳴声を上げて、亜門に視線を向けるのだが。
    『ほれ、ハク』
     と、指示を出す。
    『クゥン……』
     そんな亜門の言葉に、もう一つ悲しげに啼いて……六文銭射撃で攻撃。
     ……そして、一巡の内に、犬を一匹倒す。
    「……後九匹、ですね」
    「ん……」
     春にこくり、と頷くアガタ。
     勿論、まだ戦闘能力という点から言えば、犬猫の軍勢の方がまだ優位。
     ……でも、その優位をひっくり返すのは、灼滅者達のチームワーク。
     凛音がシールドバッシュ、ソラがスターゲイザーで攻撃しつつも、犬猫の攻撃は此方へと引きつけるように動き回る。
    『ウー!!』
    『ニャ、にゃにゃー!!』
     そして、対する犬猫の鳴声。
     ……やっぱりその鳴声を聞くと、少しばかり罪悪感を覚えるのだが……。
    「仕方ないんですよね……これは……倒さないと、罪の無い人達が傷つく。だから……」
     自分に言い聞かせるように、凛音の言葉……それに瞬、瑠璃も。
    「そうだな……まだ被害が無いのは幸いな事……これ以上の被害を出させる訳にはいかない。まぁオレは百鬼が一角、犬猫に負けてやる気はさらさらないね」
    「そうですね……日輪の輝きよ、魔を祓え!」
     と、瞬が蛇咬斬、瑠璃がセブンスハイロウを叩き込み……更に一匹を灼滅。
     更に亜門、ハクが。
    「ほら、ハクよ合わせるぞ」
    『ウウ』
    「そうじゃ。清浄なる風に依りて、諸々の穢れを祓い給え」
     神薙刃に、斬魔刀……そんな連携攻撃で、更に一匹を灼滅。
     ……次々と仲間が殺されていくのに、犬猫達は次第に畏れの言葉を紡ぎ始める。
    「ほら、どうした? もう怖くなったとか言わせないぜ?」
     と春が言い放つと、犬猫は更にくぅん、と小さく啼く。
    「よーし、さっさと全部倒していくぜ!」
     明人の言葉に……他の仲間達が頷く。
     そして、対峙してから十ターン程経過……残るのは、猫1匹のみ。
    「さぁ……これで最後だぜ!」
     ソラが声高らかに叫び、グラインドファイアで強烈な一撃を叩き込むと……猫の身体は、大きく後ろに飛んで行く。
     そして……そこに春のブレイジングバースト、明人のカオスペインが連続して決まると……はぐれ眷属達は、全て崩れ落ちるのであった。

    ●解放の先に
    「……ふぅ……終わったようじゃ。さて……長居は無用じゃな」
     消えゆく犬猫の姿を見届けながら、静かに息をはく亜門。
     ……そんな亜門の傍らのハク。
    『……』
     そこに漂う気配は、どんよりどよん、と淀んでいる。
     ……そんなハクに亜門は。
    「これ……そんなに落ち込むな」
     と言いながら、ハクの頭を撫でる。
     ……そして。
    「しかし……今後も同様の事件が多発するとなると、手が足りなくなりそうですね」
     瑠璃がぼんやり呟いた言葉。それに春、瞬、ソラに明人が。
    「全くですね……ちょっと、調べてみましょう。何かしらの痕跡が、見つかればいいのですが……」
    「そうだな……こんなふざけたことをしてる主が誰なのか、解ればいいんだがな……」
    「だな。あいつらどっから来たんだろ? それに、誰が眷属にしちゃったのか、気になるぜ。ニホンオオカミの鼻で何か解んねーかな」
     と言いながら、周囲を確認……何か手がかりになりそうなものはないか、と確認。
     ……が、手がかりになりそうな物を見つける事は出来ず……ただ、時間だけが過ぎていく。
     そして、そろそろ空が夕焼けに成り始めると……流石に一般人の声も、聞え始めてくる。
    「っと、そろそろ時間か。三角コーン、片付けとかねーとな」
     とソラが一般人避けの為に配置した三角コーンを片付けに行く一方……瞬、凛音、アガタは、既に姿形も無くなってしまった犬猫を弔う。
     マタタビとお魚を備えて、跪いて手を合わせる。
     ……そして……黙祷を捧げる中、アガタは……ぽろりぽろり、と涙を流す。
     彼らが何故、眷属になったのか……眷属になる理由はあったのか……それは、解らない。
     ただ……なるべくしてなったものではないだろう。
    「……ごめんなさい。助けられなくて……助けられれば、助けたかった……」
     ……と、凛音の言葉が、夕刻のアーケード街に響くと……他の仲間達も、静かに頷き……今回の犬猫達の冥福を祈るのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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