淫魔の勧誘

    作者:天木一

     薄暗い部屋に熱い吐息が籠もる。椅子に座る男に少女が寄りかかって体を密着させていた。
     女はまるでアイドルの衣装のようなものを着ていた。特に胸を強調するような衣装は男の目を惹くだろう。
    「ん……あ……」
     見目麗しい少女は抱きしめていた手を緩め、顔を見ながら話す。 
    「ねぇ、シテあげたんだから、約束どおり仲間になってね♪」
     囁くような声に、男は顔を上げる。
    「ノー!」
    「……え?」
     男は立ち上がり少女を押し退けた。
    「ノーと言ったんだ! このビッチが!」
    「え? え?」
     男の細長い顔は怒りに赤く染まる。何が起こったのか分からない少女は狼狽して男を見る。
    「ユーは確か言ったよネ? バスト90を超える巨乳アイドルだと」
    「う、うん。そうだよ。マッキーは胸のおっきなアイドルだよ♪」
     憤る男に、少女は星が飛びそうなウインクをしてみせる。
    「ふざけるなこのビッチ!」
    「ひぃっ」
     男が頭を振るうと、少女は身を屈めた。細長い頭が周囲の物を叩き壊す。
    「そのバストのどこが90だって? 90のバストってのはな、顔を埋めた時、まるでマシュマロのように柔らかく、そしてガムのように弾力があり、女神のように包み込むんだヨ!」
     怒りのまま男は頭部を地面に叩き付ける。するとコンクリートにひびが入った。
    「それを……それを! ユーは嘘を吐いた! 許されない嘘を!」
     まるで神は死んだとでも聞かされたような嘆きように、少女は怯えたように声を上げる。
    「だって、プロデューサーが、巨乳を売りにするなら90はないとインパクトが無いって……86あれば90も似たようなもんだって……」
    「ノーーーー! ノーノーノー! ギルティギルティギルティ!」
     少女の言い訳に、男は血の涙を流しながらキレたように周囲の物に当り散らす。
    「このビッチが! この嘘の代償は高くつくぜ!」
    「い、いや! こないで!」
     命の危険を感じた少女は男に音波を飛ばして攻撃する。だが男は左手のグラブで受け止めた。
    「ヘイッ攻撃してきたなビッチ。ならこいつは私刑じゃない、制裁ってやつだ!」
     男は頭を振り上げる。その頭は野球のバットの形をしていた。
    「いゃーーーー!」
     悲鳴を上げる少女。両手両足を砕かれ、身動きできなくさせられた。その時、ドアが開いて部屋に人が入ってくる。
    「ボス、どうしたんですかい?」
     騒ぎを聞きつけて入ってきたのは、Tシャツにジーンズそして野球帽を被った4人の男達だった。
    「フン、もうコイツは用済みだ。ユー達の好きにしてオーケー。でも最後にはちゃんとキルしておけ」
    「マジっすか。流石ボス太っ腹!」
     動けない少女を男達はねっとりとした視線を送る。バット頭の男はもはや興味は失せたと、少女を見ることなく部屋を出る。
    「い、いや!」
     這いずって逃げようとする少女の体が押さえつけられ、閉ざされた部屋に悲鳴が木霊した。
     
    「やあ、みんな集まってくれたみたいだね」
     教室で資料を見ていた能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が振り返る。
    「今度の事件は、ラブリンスター配下の淫魔が、他のダークネスに殺されるというものなんだよ」
     ダークネス同士の争いが起きるのだと誠一郎は言う。
    「どうやら淫魔はサイキックアブソーバー強奪作戦で減少した戦力を回復させる為に、各地の残党ダークネスを仲間に加えようとしているみたいなんだよ」
     だが交渉が全てが旨くいくはずもなく、今回は失敗して殺されてしまうのだという。
    「ラブリンスターの勢力には、サイキックアブソーバー強奪戦で協力してもらったからね。出来れば助けてあげたいと思うんだ」
     ダークネスとはいえ、共に肩を並べて戦ったのだ、放っておくのも後味が悪い。
    「それに、潜伏している残党ダークネスを倒す好機でもあるからね」
     残党と成り果てたダークネスはバラバラに散っている、見つけたなら叩いておきたい。
    「今回現われる残党ダークネスは怪人だよ。ベースボール怪人という名前のアメリカンご当地怪人みたいだね」
     頭のバット、右手にボール、左手にグラブという姿で、それぞれが武器となっている。
    「それと配下のヤンキー戦闘員も4人いるみたいだね」
     アメリカの若者風の男達だ。戦闘力は低い。
    「古くて人の少ないビルの一室を占拠しているみたいでね、そこを根城にしているようだね」
     人気の少ない場所だ。一般人を巻き込む可能性は低いだろう。
    「怪人と淫魔が部屋に居る間は、戦闘員は廊下で待っているんだ。追い出されてるとも言えるね」
     上手く戦えば怪人と戦闘員を分断して倒せるかもしれない。
    「ただ、淫魔の交渉が失敗する前に怪人と接触すると、淫魔への説明が難しくなるから気をつけて」
     交渉の邪魔をしに来たのかと、逆に恨まれる可能性もある。
    「淫魔は助けるとすぐに逃げちゃうよ。あまり戦闘が得意でもないみたいだしね」
     戦力としては期待できない。灼滅者だけの力で戦う事になる。
    「犠牲者になるのは淫魔だけど、友好的な相手だからね。みんな次第ではあるけど、助けられるなら助けてあげて欲しい。お願いするね」
     誠一郎の言葉に、灼滅者達はそれぞれの想いを胸に現場へと向かった。


    参加者
    和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)
    不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)
    白伽・雪姫(アリアの福音・d05590)
    慈山・史鷹(妨害者・d06572)
    皆川・綾(闇に抗い始めた者・d07933)
    鏡・エール(カラミティダンス・d10774)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)
    田抜・紗織(田抜道場の剣術小町・d22918)

    ■リプレイ

    ●お色気交渉
     灼滅者達は薄汚れたビルを見上げる。
    「数字ばかり気にする怪人なのかな……。まぁ、野球って数字とってなんぼなんだろうけど」
     鏡・エール(カラミティダンス・d10774)は胸の大きさに拘る怪人の性格を想像していた。
    「胸が大きな……のが好み? ベースボールなのに……むね?」
     隣では桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)が首を傾げ、同じように怪人の嗜好に頭を悩ませていた。
    「関連性……って、ボール? ならソフトボールサイズでいいと思うんですけれど……」
    「淫魔だけど、助けれるなら助けてあげたいね」
     淡々とした調子で白伽・雪姫(アリアの福音・d05590)は2階の一室を見た。
    「ラブリンスターの一味にゃ借りがあるからな……ここらで返しておかねぇと」
     借りっぱなしは性に合わないと慈山・史鷹(妨害者・d06572)は頷く。
     そのビルの壁には1人の少女の姿があった。まるで地面を歩くように壁を歩いて登っている。そして小さな窓からそっと2階の部屋を覗く。
    「う、く……これも作戦のため」
     顔を真っ赤にして思わず目を逸らした田抜・紗織(田抜道場の剣術小町・d22918)は、何か見てはいけないような物を見るように中を覗いた。
     ビルの2階から怒鳴り声が響き、物が壊れる音と振動がビルの外へ漏れ伝わる。
    「今、破壊音が、聞こえ、ました」
     びくっと突然の音に体を竦ませ、皆川・綾(闇に抗い始めた者・d07933)が見上げる。
    「暴れだしたわ……あの時、堕ちていたらマネをしていたかと思うとゾッとするわね」
     急ぎ降りてきた紗織は仲間に知らせ、自分も淫魔と同じ事をする可能性があった事に顔色を悪くした。
    「どうやら交渉は決裂したようじゃな」
     耳を澄ませていた和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)は、頷いてライフルを手にした。
    「それでは突入といくのじゃ!」
     不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)が先陣を切って駆け出す。仲間達も後に続き、ビルの階段を上る。
     2階には廊下を占拠するように座り込み、トランプを広げてポーカーに興じているヤンキー戦闘員達の姿があった。
    「おい、部屋が何か騒がしいぜ?」
    「ボスがハッスルしてんじゃねーのかっと……へへ、レイズだ」
    「チッ調子に乗りやがって、じゃあコール」
    「さっきの女いい胸してたよな。俺もファックしてーなぁ」
     くっちゃくっちゃとガムを噛み、ヤンキー達はカードに熱中している。その内の1人の背後から、読魅が巨大な剣を振り下ろした。
    「ぐぇっ」
    「中にいるのはわかっておるぞよバット頭! 大人しく出てくるのじゃ!」
     前屈みに倒れるヤンキーに目もくれず、読魅は閉ざされた部屋に向かって怒鳴りつけた。
    「あ?! なんだテメーら!」
     立ち上がろうとしたヤンキーの1人が頭が撃ち抜かれ、衝撃で壁にぶつかり跳ね返って倒れる。
    「まずは邪魔な戦闘員を排除するのじゃ!」
     展開したライフルを構える風香は次の目標に銃口を向けた。
    「なんだコラ! 俺達をヤンキーだと知ってやってんのか? このジャップが!」
    「承知の上だぜ!」
     バットを構えるヤンキーに向かって駆ける史鷹が勢いのまま錆びた剣を振るう。防ごうとするバットを断ち、ヤンキーの体を両断した。
    「こんな時に襲撃かよ、ファック!」
     横からヤンキーがバットを振るうが、その一撃は飛んで来た護符によって阻まれた。
    「油断しすぎね」
     雪姫は続けて仲間に護りとなる符を飛ばしていく。
    「チッ! ボスをよ……」
     ドアを開けようと手を伸ばしたところで、その手が凍りついた。
    「怪人が、出てくる前に、倒します」
     綾の視線がヤンキー達を捉え凍てつかせる。
    「今回はシンプルに、ね。『解放』」
     エールがカードをかざして武装する。腕を鬼の如く巨大化させ、凍ったヤンキーを殴りつけた。衝撃で吹っ飛ぶと廊下を転がってヤンキーは動かなくなった。
    「この! やってやるよ!」
     ヤンキーがバットを振り回す。それを萌愛がオーラを纏って受け止める。
    「バットは室内で振り回すものではないです」
     萌愛はバットを押し返し、歌い始める。美しい歌声に、目の前のヤンキーは目蓋を重くし、バットを落とす。
    「一足進め、さきは極楽」
     紗織はカード解放し、手にした投げナイフを投擲する。刃は胸を貫きヤンキーは仰向けに倒れた。
     その時、ドアが荒々しく開いた。

    ●バスト論議
    「オゥ!? 何モンだユー達は!? パールハーバーの再来か? やはりジャップは野蛮で卑怯な奴等だな、宣戦布告も無しに攻めてくるとは」
     部屋から出てきたバット頭の怪人は、片足を怪我した少女の腕を掴みながら周囲を見渡した。
    「た、助けて!」
     少女がたゆんと胸を揺らしながら叫ぶと、怪人は壁に押し付けて黙らせる。
    「まあいい、どうせ我が母国アメリカが誇るベースボールの力に屈するのだからな」
     怪人は手にしたボールを上に投げ、頭のバットで打つ。すると飛んだ打球が灼滅者に襲い掛かった。
     萌愛が前に出ると、ボールを弾いて近づき蹴りを放つ。怪人は蹴りをグラブで受け止める為、淫魔を放した。
    「ここは私達が引き受けるから、逃げて」
    「助けてくれるの? ありがとう♪」
     萌愛の言葉に頷き、淫魔は足を引きずるようにして廊下を進む。
    「このビッチが! 逃げる気か!」
     怪人がボールを投げると、読魅が淫魔を抱くように引き寄せた。ボールはそのまま窓ガラスを突き破って外に飛んでいく。
    「今度から勧誘活動する時は、一人ではなく複数で行動するようにせい! ラブリンスターにも言っておくのじゃ!」
     淫魔に忠告し、胸をひっぱたいて階段の方向へ押し出す。
    「それとこれ見よがしに胸を強調するでない! 露出減らすのじゃ!」
     背中越しに言い捨て、怪人に向かって大剣を振るう。対する怪人は頭のバットで防ぐ。
    「痛っ……ん? 女が逃げやがる!」
     頭を割られたヤンキーの生き残りが血を流しながら立ち上がり、淫魔の手を掴む。だがその胸からナイフが突き出た。
    「あら、妙なところで会ったわね。一応訊いておくけど、こいつら斬ってしまって構わなかったかしら?」
    「う、うん! もちろん!」
     ヤンキーの背後から現われた紗織が尋ねると、淫魔は慌てて首を縦に振った。
    「ですって」
    「ま、待て!」
     逃れようとするヤンキーの心臓に止めのナイフを突き立てた。
    「お胸は、凄くこだわる、男子が、いるから、気を付けて、ねー」
     綾は普段の会話とは違い流暢に歌を紡ぐ。その美しい歌声は負傷している淫魔の足を癒した。
    「ありがとー機会があったらいっぱいお礼しちゃうね♪」
     男ならすぐに魅了されてしまうようなウインクをすると、淫魔は素早く階段へと消えた。
    「フンッ、ゴミめ。それともユーは男か? ん?」
     怪人は読魅の胸元を見ながらそう吐き捨てる。読魅は怒りに震える手で剣に力を込めた。
    「どこから見ても妾は女子じゃ!」
     剣とバットが押し合い互いの距離が離れる。そこへ史鷹が飛び込む。
    「僅か数cmの差に我を忘れるとか、器が小せぇぞ怪人さんよぉ」
     史鷹の振るう剣を怪人はグラブで受け止めた。
    「数cmが生死を分ける差であるという事が分からんかジャップ!」
     怪人はグラブで押し返そうと力を込める。
    「女性の胸は大きければ良いのではない。そう、形だ!」
     気迫の籠もった言葉。それに怪人は一歩下がる。
    「全体とのバランスだ! でかいだけの脂肪の塊単体を喜ぶな」
     熱く語る史鷹に、怪人は押されながらも何とかグラブで凌ぐ。
    「ノォー! 胸とはまず大きさだ! 形というが、そも美しいシルエットを作り出す為に大きさが必要なのだ!」
     怪人も負けじとバットを振るう。剣とバットがぶつかり鍔迫り合いを始める。互いの意思がぶつかり合う男の勝負。

    ●90
    「数字だけが全てじゃないってこと、教えてあげる」
     そこへエールが槍を突き出す。穂先が怪人の腹に突き刺さった。
    「まぁ、分かったところで『次』は与えないんだけど」
     そして手首を捻って槍を捻ると、傷口を拡げて抜く。怪人の意識が逸れたところで、史鷹は押し込んで怪人を壁に叩き付けた。
    「オゥ! シィット! 横槍とは無粋な、これだからバストの小さい女はイヤなのだ!」
     悪態を吐きながらも、怪人は反撃にボールを投げ、史鷹の腹に当てて吹き飛ばす。
    「どうだジャップ! 大リーグボールの味は! ジャップでは味わったことのないストレートだろう! これが偉大なアメリカのパワーだ! 大きなバストのパワーだ!!」
     そう言って続けて投げるボールが撃ち落される。
    「ジャップジャップと煩いのじゃ! ちゃんと日本人と呼ばぬか!」
     ライフルを構えた風香はその銃口を怪人に向けて引き金を引く。
    「そんな鈍い球、目を閉じてもキャッチできるわ!」
     怪人は受け止めようとグラブを構える。
    「そうかのぅ?」
     だが放たれた光線は円盤状となって広がり、怪人の全身を打ち据えて壁に叩き付けた。
    「どうやらベースボール怪人は胸が大きい子が好きなだけみたいね」
     天使の如き歌声が廊下に響く。雪姫の声は史鷹の受けた傷をあっという間に癒す。
    「私も最近計ってないから覚えてないけど、バスト90くらいあるはず……」
     雪姫は無表情のまま胸を反らす。大きな実りがたわんと揺れた。
    「オゥッナイスバスト! だが本当に90オーバーなのか? ちょっと触らせてみろ」
     怪人が手を近付けると、雪姫はひらりとそれを避けた。
    「あるかどうか……それはひ・み・つ……」
     小悪魔のようにウインクすると、怪人は我慢できずに飛び掛かる。
    「いいからちょっと、ちょっとでいいからタッチさせろ!」
    「女の敵め、覚悟!」
     厭らしい目で手を伸ばす怪人の腕に、飛来したナイフを突き刺さる。
    「田抜流飛刀術、受けろ!」
    「ぎぇっ大リーガーの腕になんて事を!」
     紗織の両手から投じたナイフが怪人の両腕に刺さる。そこへ飛び込んだ萌愛が、スライディングのように蹴りを放って怪人を転倒させた。
    「ベースボールでいうところの、盗塁です」
    「ファーック! ベースボールはサッカーじゃないぞ!」
     怪人は怒鳴り立ち上がろうとする。
    「目を、釘付けにする、よー」
     綾が情熱的に踊り始めると、それに合わせて胸がたぷんたぷんと跳ねた。
    「オーマイガッ! 居るじゃないか! ここに女神が!」
     綾を見た怪人は天を仰いで十字を切る。そして胸に向かって祈るように手を組んだ。
    「おおっこれこそが本物のバストッ! 神が与えたもうた禁断の果実!」
     怪人はまるでバネでも付いているように跳躍して綾の胸に抱きついた。バットが胸の隙間にすっぽりと入る。
    「これだ! これこそが求めていたバスト! オォーグレイトォッ」
    「今がチャンス、です、よー!」
     綾は怪人を抱きしめ、更に影が3本の触手となって絡み付き動きを封じる。
    「痴漢行為の現行犯じゃ!」
     横から風香がライフルで足を狙う。細く絞られた光線は両方の太股を一発で貫通した。
    「ハァハァッ……今最高にハッピーな気持ちなんだ、邪魔するなこの90以下のビッチが!」
     怪人は体勢を崩しながらも、煩わしそうにボールを投げつけてくる。
    「86でも90でも、妾から見ればすべて規格外の化け物じゃ!」
     嫉妬の怒りを籠めた読魅の大剣が唸りをあげる。振り下ろされた一撃に吹き飛ばされ、抱きついていた手を放してしまう。
    「アゥッ!? 俺のバストが!」
     手を伸ばす怪人。その掌にナイフが突き刺さる。
    「アゥチ!」
    「ハレンチを通り越して犯罪ね」
     萌愛は更に足の甲にナイフを投げて地面に縫い付けた。
    「怪人だからというよりも、女の敵として許す事はできないわ」
    「このファッキンビッチどもが!」
     怪人は大量のボールを放り見えぬほどの速さで連続スイングする。打ち出される無数のボールが灼滅者達を襲う。
    「女の子の敵は灼滅しておかないと……」
     そんなボールの嵐の中、雪姫は声も高らかに歌い上げる。襲い来るボールはその前を進むエールが受け止める。傷を受けても歌声と、その後ろに控える霊犬の芝丸がすぐさま癒してしまう。手にした杖の間合いに入った時、同じく間合いとなった怪人のバットが唸りを上げて迫る。
    「華麗に、ね」
     その一撃を跳躍で躱す。注意が逸れている間に史鷹が駆け出す。
    「体のライン、胸、腕、足、その他全てが調和してこそ美しい。胸だけに拘る等、片腹痛いわ!」
     駆けながら史鷹が刺突用の短剣を投げる。それを怪人はグラブで弾いた。だが短剣の柄には鎖が伸び、もう一方の手に持つ同じ短剣と繋がっていた。鎖を引き手元に戻すと懐に入り、左の短剣で防ごうとする手を刺し、右の短剣を胸に突き立てた。
    「あ、ちなみに俺は小柄なのが好みだ。掌に収まる程度の慎ましさに、張りのあるお椀形が美しいと思う」
    「ノーノーノー! いいかボーイ、大きいというのはそれだけで感動を呼ぶものなのだ。山しかり川しかり、大きなものを見れば驚き言葉を失うだろう? バストもそうだ。大きいというのは自然が生み出すジャスティスなのだ!」
     熱く怪人が語っていると、エールが壁を蹴って背後に着地し、野球選手のように杖を構える。
    「さ、思い切り爆発しちゃいなよ」
     豪快なフルスイングが怪人の背中を打ち抜き、打球のように飛んだ体は窓を突き破り外に飛び出た。
    「ブフォッ! バストは残念だが……スイングは大リーグレベルだ……ナイスバッティング!」
     怪人はサムズアップすると爆発した。後に残ったのはカランカランと地面に転がるバットだけだった。

    ●バストサイズ
    「女子なら野球よりもソフトよね」
     エールはそう言いながらも、褒められた事に悪い気はせず、杖で鋭いスイングをした。
    「淫魔はちゃんと逃げれたかな……? 無事だといいんだけど……」
     助けたのだから無事でいてほしいと、雪姫は呟く。
    「逃げてしもうたか、ラブリンスターの最近の動きを聞きたかったのじゃがの。しかし、男というのはそれほどに胸が好きなのかのぅ」
     誰も居ない階下を見下ろした風香は、その視線を史鷹に向ける。
    「お胸に、夢中なんて、赤ちゃんみたいです、ね」
     綾は乱れた胸元を直す。するとまたもや胸が大きく揺れた。
    「胸の大きさで女子の価値が決まるものではないのじゃ」
    「ソフトボールより、バレーボールが好きだったのかな……」
     綾や雪姫の大きな胸を仇のように睨みながら、読魅は負け惜しみを吐け捨てた。萌愛もそんな大きな胸を見ながら、思わずどんなボールのサイズだろうと想像を膨らませていた。
    「……もしかして声に出てたか? 何かみんなの視線が冷たい気がするんですけど……」
     戦闘を思い返し、史鷹は何を熱く口走ったのかを思い出して顔を青くする。
    「みんなの前で、あんなに熱く胸について語り合うなんて、ハレンチね」
     紗織の言葉に、違うんだと史鷹は言い訳をしながら、胸についての熱い説明が始まる。賑やかに話をしながら灼滅者達はビルを後にした。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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