求めざる力、手にするは死を与え

    作者:幾夜緋琉

    ●求めざる力、手にするは死を与え
     神奈川県某所、とある中学校の空手道場、時刻は夕方。
     道場の中では、10人位の道着に身を包んだ中学生達と、指導者の教師一人がいた。
    『いち、にー、さーん、しー!』
    『『いーち、にぃー、さぁーん、しぃー!!』』
     教師の号令に合わせてびしっ、びしっ、と腕を突き出す。
     毎日、毎日……しっかりと練習している学生達……教師もそんな学生達の頑張りに、うんうん、と嬉しげに笑う。
     ……と、そうしていると、キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴り響く
     そのチャイムに、おっ、と気づいたように教師は。
    『もう時間か。よーっし、それじゃ最後に組み手するぞー。近くの背丈が同じくらいのとペアになるんだ、いいかー?』
    「はーい!!」
     手を上げて、それぞれペアになる……そして。
    『宜しくお願いしますーっ!!』
     快活なポニーテールの女の子が、目の前の男の子に対し、一礼。
     そして。
    『よーし……はじめ!』
     と教師の号令に、しゅたっ、と一撃を繰り出す彼女。
     ……ただ、その攻撃は、思わぬ事に。
     組み手の相手の脇に決まると、少年はそのまま道場の壁へと吹っ飛んでいく。
     ……そして、吹っ飛んだ彼は、頭から血を流して……動けなくなっている。
    『……え……!?』
     驚いた表情……しかしそれ以上に驚いたのは、周りの人達。
    『……ひ、ひぃぃ、人殺しいい!!』
     教師の叫んだ言葉が、連鎖反応するが如く、周りの学生達にも広がる。
     ……その言葉に、彼女は。
    『ひとごろし……わ、わたしが……わたしが……??』
     と……身体を震わせるのであった。
     
    「皆さん、集まりましたね? 早速ではありますが、説明を始めさせて頂きますね」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達を眺めると、早速ではあるが、説明を始める。
    「最近、一般人が闇堕ちし、ダークネスになる……という事件が発生しているのは知っていますか? 通常ならば、闇堕ち下ダークネスはすぐにダークネスとしての意識を持ち、人間の意識はかき消える筈なのですが……今回のターゲットである彼女は、元の人間としての意識を残し、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていないという状況になっているのです」
     そこまで言うと、姫子は1枚の写真を差し出す。
     学生証写真に移る彼女は、快活そうな少女……そんな彼女が、ダークネスになりかけているという事らしい。
    「皆さんへの依頼は、彼女が灼滅者の素質を持つ様であれば、闇堕ちから救い出して欲しいのです。また、完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅をお願いしたいのです」
     そして、姫子は詳しい状況について説明を加える。
    「彼女は空手の練習中に、この力に目覚めてしまったようです。つまり、結果として彼女の力は……この空手の力をベースとした攻撃を仕掛けてきますし、周りに……その力を目の当たりにした、同級生や教師の方達が居る事と思います」
    「そんな彼女が繰り出すのはどういう攻撃かと言えば……接近して、手刀の攻撃がメインです。そんな手刀の攻撃は、強力な攻撃力を持ちます。また、素早く動き回る位に身軽です」
    「また、彼女は……同級生を血祭りに上げてしまった結果、精神的にかなり不安定な状態になっています。そんな彼女を救うには、戦闘し、KOする他ありません。素質があれば、その結果として、灼滅者として救出出来る筈です」
     そして、姫子は。
    「理由のない闇堕ちというのは、あまりに不自然だと思いませんか? ……これには何か、裏があるのかも知れません。皆さんの力で、その辺りも調べられそうなら、調べて貰えると幸いです。宜しくお願いします」
     と、頭を下げるのであった。


    参加者
    海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    祀火・大輔(迦具土神・d02337)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    来海・柚季(手の中の刻・d14826)
    リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)
    月代・蒼真(旅人・d22972)
    蜷川・霊子(いつも全力投球よ・d27055)

    ■リプレイ

    ●悲しみの拳
     姫子から話を聞いた灼滅者達。
     神奈川県は某所にある、とある中学校の空手道場に突如現れた、闇堕ちの格闘少女の話。
    「……予兆のまったくない闇堕ち……か。人ごとにはならない話だよな」
    「そうですね。いきなり闇堕ちとは少し怖いのです。でも、きっと少女の方がもっと怖いのでしょうね……」
    「ええ。いきなり力が暴走して、他人を傷つけちゃうなんて、こんなショックな事は無いわ!!」
     月代・蒼真(旅人・d22972)と来海・柚季(手の中の刻・d14826)に、蜷川・霊子(いつも全力投球よ・d27055)の会話。
     ……何ともやりきれない話。
     闇堕ちするだけでも悲しいのに、更に……それが意識しないままに、強制的にさせられてしまう、という事。
     ……それに、ふと思うのは。
    「確か、武神大戦天覧儀の時も、強制的な闇堕ちがありましたよね? ……その時とはまた毛色が違うっぽいっすねぇ。関係性が無いとは言い切れませんが……」
    「……そういえば、そうでしたね。確かにパターンは似通っている気がします」
    「……そうっす。でも、冗談じゃねぇっすよ。直尚に努力する女の子を突然絶望に落とすとか……許せないっす」
     神凪・朔夜(月読・d02935)に、祀火・大輔(迦具土神・d02337)が拳を振るわせ、言葉を紡ぐ……そして。
    「何にせよ、一般人に被害を及ぼすと言うのなら、止めなければ行けません。彼女が話を聞いてくれるかは解りませんが……半ば力尽くでも、倒すしかありません」
    「そうですね……それに組み手の相手も瀕死の重傷だという話でしたから、その対処もしっかりとしなければなりませんね」
    「ええ……必ず、その子も助けるわ。こんな強制的な闇堕ちで、人殺しになんてされるのなんて、可哀想だもの」
     龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)、海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)にリリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)が言葉を続けていくと……その時。
    『……ガタンッ!!』
     と、大きな音が、目の前の道場から響いてくる。そして……大きくざわめきの声も。
    「始まってしまいましたか……みなさん、一気に突撃しますよ!」
     詠一郎の言葉に、皆一斉に道場の中へと突撃していくのである。

    ●不覚なる死の拳
    『え、あ……え……?』
     ……呆然と、手を震わせている……少女。
     その手には、組み手相手の男の子が……血がついている。
    『う……うう、ううう……』
    『……ひ、ひぃぃ、なんだなんだ、ひ、人殺しぃぃいい!!』
    『ひ、ひいいいーー!!』
     と、男の子が呻きに、先生や、周りの訓練生達も、悲鳴を上げる。
    『え、あ……ひ、ひとごろし……わたし、が……?』
     と……茫然自失、そして……悪に、次第に引きずられつつある中……。
    「困ったときのお助け道場破り参上! あなたがこの道場で一番強い人間ね! 勝負よ勝負! ほら、他の人は帰った帰った!」
     と、速攻で霊子が大きな声で威圧するように言うと共に、ESPラブフェロモンを使用し、注意を引きつける。
     更に大輔が殺界形成、朔夜と詠一郎が王者の風を使用し、道場の一般人達を、その場から引き離すように動きつつ、少女の前に対峙する。
     ……とは言え、恐怖におびえた彼ら……ひょいひょいっ、と逃げられる訳もない。どうにか、必死に這いずりながら逃げようとしているので、中々時間が掛かりそう。
     勿論逃げさせた後は、一旦魂鎮めの風で眠らせておくが……。
     ……その間に、リリーと蒼真の二人は、吹っ飛ばされた少年の元へ。
     少年はうう、ううう……と呻き声を上げていて、瀕死の重傷。
    「……これで死んじゃ、寝覚めはよくないからね……おれたちも、彼女もさ」
    「ええ……ダメで元々。やれるのにやらないよりはマシでしょうしね」
     と、二人で、少年を救う為に尽力。
     ……そして、その間に少年へ、柊夜が。
    「あれは……自己のようなものです。焦ってもおびえてもどうにもなりません。気を静めて下さい」
     そんな一言を投げかけ、落ち着かせるように言うのだが。
    『こ、ころし……ひと、ごろし……』
     手をプルプルと震えている彼女……そんな彼女に、更に詠一郎、霊子が。
    「僕らも似た力を持っている。あなたはひとりじゃない。僕らは貴方のこと、受け止めてあげられるから……だから、自暴自棄になったりしないで」
    「そうよ……確かに貴方は、彼を傷つけてしまったかもしれない。でも、それは貴方が突然目覚めてしまった力こそなの! でも大丈夫、必ず、戻れるはず……だから、正気を取り戻して!!」
     と、更に声を掛け、少女へ元に戻って貰えるよう……声をかけ続ける。
     しかし、彼女はまだ……身体を震わせている。
     ……ただ、灼滅者達の言葉に、少し葛藤を覚え始めているのは間違いないようで……ただ、身体を震わせるがのみ。
     その間にも一般人の避難を完了させ……そして大けがを負った彼も、どうにか治療し、魂鎮めの風で眠らせる。
     ……そしてリリー、蒼真も彼女の元へ。
     ただ……その瞬間。
    『う、うああ……アアアアアッ!!!』
     狂気に捕らわれ、絶叫を上げる彼女……それにリリーが。
    「わかるわ……力に戸惑っているのよね? リリー達が受けきってあげる。だから……思う存分、掛かってきなさい」
     そんなリリーの言葉に、彼女は灼滅者と間合いを詰めて……手刀の一撃を繰り出す。
     強烈な一撃にを受け止めるは蒼真と霊犬……かなり重い一撃に、唇を噛みしめるが。
    「人を傷つけた感触が嫌だったんだろう? それならまだ戻れるはずだから……だから、ひとまずは、正気に戻って貰うよ!」
     と声を荒げながら、蒼真が叫ぶ……そして、霊子がソーサルガーダーを使い、盾アップを自己付与する中、柊夜、柚季が続く。
    「落ち着いて。貴女はまだ、人殺しじゃない。そうやって、ちゃんと気づいていれば、貴女はまだ戻れるはず。だから、本当の人殺しになる前に、戻ろう?」
    「そうです。確かに傷つけはしましたが、殺してはいません……だから、戻ってきて下さい」
     鬼神変にクルセイドスラッシュ……更に大輔、リリーも続けて。
    「力に飲まれないで! 君の『武』が弱きを守る為にあるのなら、抗ってください! 俺達がサポートしますから!!」
    「貴女の気持ちは、わからなくはないわ。リリーだって突然手に入ってしまった力に戸惑っていた時期があるもの。それに、貴女はもしかしたら、ずっと「強さ」を求めていたのかも知れない。けど……それって今みたいに悪戯に人を傷つける為の力じゃなかった筈よね? その鬱憤は受け止めてあげる……だから、まずはリリー達に思いっきり発散しなさい!!」
     と、声を荒げながら、彼女に叫ぶ……。
     ただ……彼女は、そんな灼滅者達の言葉を聞き届けない……かなりの混乱と共に、暴れ回り……そして灼滅者達の体力を、ガツガツと削っていく。
    「」っ……中々厳しいですね。ですが……させません」
     詠一郎が、後衛について、しっかりメディックにてサポートしての祭霊光。
     そして大輔がグラインドファイア、朔夜が除霊結界、そしてリリーがペトロカース……と連続使用。
     力に目覚めたての彼女は、それら攻撃を避ける事は無い……全て、そのまま攻撃を受け続ける。
     ……とは言え彼女も空手で訓練しているから故に、体力は中々。
     彼女の攻撃をしっかりと受け止めながら、彼女に何度となく声をかけ続け……そして、彼女に正気を取り戻して貰えるよう、願う。
    「……こんな苦しいことは止めにしましょう? スポーツでも、ゲームでもいい。どうせなら、もっと楽しい事をしましょう、ね?」
     と言う詠一郎に、柚季も。
    「そう……大丈夫。貴女は戻れるはずだよ、絶対……だから、私達の声を、しっかり……聞き届けて」
     柚季が更に、言葉を投げかける……そして朔夜と柊夜も。
    「……あなた一人で全部背負い込む必要は無いよ」
    「そうだ……君のその力は、事故のようなものと思ってくれて良い……もう大丈夫だから……落ち着いて……」
     そんな灼滅者達の言葉に……彼女の内の正気は、次第に戻りつつあるようで。
    『……モ、ドリ、タイ……』
     ほんの僅かな、小さなつぶやき。
     ……その言葉に、霊子が。
    「……そうね。解ったわ。あなたの言葉……しかりと聞き届けた。だから……戻ってきなさいな!」
     と霊子が一層、強い言葉で頷く……そして。
    「……よし、トドメに行くぞ」
     と柊夜が神霊剣で斬りかかり……彼女に一閃を喰らわせると、ウアアアア、と叫び声を上げる。
     ……そして、そんな彼女に。
    『これで……終わりだよ!』
     と、柚季が喰らわせたフォースブレイク……それに、彼女は崩れ落ちたのである。

    ●目覚めて尚
     そして……彼女が崩れ落ち、まずは一息。
     ……数分すると、崩れ落ちた彼女は……う、ううん……と呻き声を上げて……そして、目覚める。
    『……え、と……あの……?』
     目を擦りながら、起きた彼女。
     ……そんな彼女に大輔と霊子が。
    「おかえりなさい。よく頑張りましたね。もう大丈夫っすよ」
    「そうそう。大丈夫大丈夫。とにかく大丈夫! 私が保障する!」
     ニコッ、と微笑みながら言葉を投げかけると……朔夜は。
    「怖かっただろうね。僕達も、常に闇に飲まれそうになって、君のようになる恐怖を感じてる。他人事ではないんだ。僕達の学校に来ない? 仲間が居るよ?」
    『えと……あの……』
     その言葉に、まだ……戸惑い。
     ……それに蒼真と柚季が。
    「何でこうなったのか、の説明はおれ達にも出来ない。けど、理由を一緒に探すことは出来る。よければおれ達と来ないか? その時は歓迎するからさ」
    「そう。それに過ぎたことを嘆くよりも、それを次に生かせたら、それはきっと貴女の強さになるよ? 私達も手伝うからさ。だから、一緒に頑張ってみない?」
    「そう。畏れないでください。確かにその力は過ぎた物ではありますが……ちゃんと理解してあげれば、必ず貴女の力になってくれます」
     と、次々と言葉を投げかけてくる。
     ……その言葉に彼女は……。
    『……えと、その……』
     戸惑う彼女に、リリーは。
    「……大丈夫。無理強いはしないわ。そう……一つだけ聞いていいかしら?」
     リリーの問いかけに、ん、と視線を向けてくる。
    「……貴方に、その力を付けるように、誰かアクセスしてこなかった?」
    『……いえ……解りません……』
     申し訳なさそうに言う彼女……そんな彼女に、視線でリリーが詠一郎に合図。
    「そう……解ったわ。大丈夫……もう、この事は気にしなくていいから」
     と言うと共に……詠一郎が、吸血捕食。
     ……ふっ、と意識を失うように、その場に倒れる彼女。
     そして……彼女が眠りに就く中……詠一郎は。
    「ここで鍛錬に励んだ思い出は、尊く綺麗なはず。それが、望まない闇堕ちのせいで穢れてしまったら……悲しいいからね」
     唇を噛みしめながら呟く詠一郎。
     ……そして、その場を後にし、更に一般人達に対しても、吸血捕食で記憶を曖昧に。
     彼女が、これから先もここで鍛錬に励めるように……そう期待して、皆の記憶を曖昧にさせる。
    「……また、みんなで訓練に励める日々が来れば良い……そう、思います」
     詠一郎の言葉に、朔夜、大輔……その他の仲間達も頷き……そして、灼滅者達は、人知れずその場を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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