孤高のぼっち法師(ぼっち)

    作者:叶エイジャ

     鹿児島県、曽於(そお)市。その大隅町岩川の、ある場所の話。
     この付近には「弥五郎」という、巨人伝説の話があるのだが、それは今回あまり関係はないかもしれない。
     関係あるとすれば、この付近にたまたま温泉施設やデートスポットがあって、カップルが付近を歩くことがある!――くらいだろう。
     この近辺で、最近こんな噂が流行っているという。
     ――僧侶の格好をした、巨躯のぼっち青年がリア充を襲っている。
     最初は温泉帰りのカップルが無残な姿となって発見され、今日にいたるまで夜な夜なカップルが襲撃されているという。
    「それで、助かってもそのカップルは破局するとかなんとか」
     手を繋いでいる男女。女性の話に男性が口を開いた。
    「でさ、なんで手繋ぎながらそんな話するの、姉さん?」
    「あ、ここがその僧侶の出る森なんだって。お姉ちゃんね、噂がホントか確かめたいの♪」
    「マジかよ! やめろよ勘違いして襲われたら嫌だろ!?」
    「だいじょーぶ。カップルと勘違いして出てきたところで説明すれば、分かってくれるって。話せばわかるわかる」
    「そんな理性ある奴が夜な夜な人を襲うかよ!」
     まさに弟の言う通りであった。


     ひとりぼっちとは、元は「独法師」と書くらしい。
     余談だが、弥五郎の伝説は妖怪「だいだらぼっち」に通じるものがあるとかないとか言われている。
    「だいだらぼっちの『ぼっち』も『法師』らしいですよ」
    「つまり、ぼっち繋がりでぼっちな都市伝説がリア充を襲う。その認識でいいですね?」
     語源由来辞典を閉じる園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)に、戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)は確認する。
    「そうなりますね。該当地域のある森で、男女が仲良さそうに歩いていたら現れ襲ってくるみたいです」
     槙奈の説明が始まった。
    「姿は青年僧侶、編み笠とか錫杖のような棒を持ってますね。『独り身を苦にしていたので、それをごまかすため僧侶の格好をしているけど、そのせいで更に恋人ができにくくなって悲しみのあまり世のカップルを呪いながら死んだ青年』と、この都市伝説には背景説明が詳しくあるようです」
     敵は一体。僧侶のイメージかメディックのようだ。
    「俺はひとりじゃねぇ、孤高の一匹オオカミ、ワンマンアーミーよとか、独り身であることをつつくと十倍は埃が出そうです。バトルオーラとマテリアルロッドに近似したサイキックを使いますが、おそらく戦闘力の高い部類ではないでしょう」
     むしろ、この都市伝説を出現させる方が厄介だ。
    「皆さんで『仲の良い異性カップル』に偽装するのが良いと思います。男女でなければならないので、同性の方同士の場合はどちらかが変装する必要があります」
     仲の良いの定義が曖昧なため、囮は複数組やるのがいいかもしれない。もちろん、実際のカップルがいれば問題はないわけだが。難しければ一応、該当する男女が少し待てば現れるので、彼らを囮にすれば良い。ただし、いざ戦闘となれば彼らを守りながらの戦いとなるだろう。その点は注意が必要だ。
    「あとは戦闘とは関係ありませんが、『自分と同じ人種』……つまりひとりぼっちに由来する方がいれば、どんなご職業の方でもフレンドリーに寄ってきますので、人によっては精神的打撃を被るかもしれませんね」
     同胞よ、朋友よと、男女関係なく言ってくるそうだ。槙奈の表情が沈む。
    「皆さんを、ぼっちという厳しい現実が待ち受ける戦場に送ることになり、申し訳ありません」
    「ここでライフを削らないで!?」
     数名の灼滅者が叫んだ。槙奈は苦笑し――真顔になった。
    「冗談はさておき、少し嫌な予感がするので、都市伝説を倒した後は速やかに学園に帰ってきてくださいね」


    参加者
    鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    三園・小次郎(かきつばた・d08390)
    三味線屋・弦路(あゝ川の流れのように・d12834)
    東屋・紫王(風見の獣・d12878)
    輝間・流(導なき藍・d25805)
    九条・九十九(ロストゴースト・d30536)

    ■リプレイ


     思えば、こうなることは予め決まっていたのかもしれない。
     ――皆さんを、厳しい現実が待ち受ける戦場に送ることになり申し訳ありません。
     そう言ったエクスブレインは、赴く八人を前にいかなる胸中だったのか。
     というか、そう言わずにはいられなかったのかもしれない。
     九州は鹿児島県、曽於。
     この近辺でまことしやかに囁かれる都市伝説『リア充を襲うぼっち法師』を倒すため、灼滅者たちは遠路はるばる指定された森へと来ていた。
    「少し、暗いわね」
     妙な感じの高い声。可愛らしい服を着た戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)だった。手をつないだ東屋・紫王(風見の獣・d12878)は懐中電灯で道の先を照らし、女装中の彼に上着をかける。
    「夜も寒くなってきたからね」
    「ありがとう……」
     仲睦まじく、それでいて、時折ここではない遠くを見つめるような目をする二人。

     都市伝説との遭遇には……『仲の良い男女』が必要不可欠だった。
     だが、この依頼に集った灼滅者は……! 全員が、男性……ッ!
     思い返される当初。教室での微妙な空気。ざわつく心。そして裏切られた女子との手つなぎ……ぐぉわっ!! 都市伝説の脅威か、干渉か。九州からの圧倒的ぼっち力……!
     女子などおらぬっ! 武蔵坂はしょせん――男子校!!

     ――と、平均身長176センチ超えの男性陣はなんやかんや苦悩の末、一般人を巻き込まず自分たちでカップルを装うことにした。
     それはなにも紫王と蔵乃祐だけではない。
    「大丈夫か?」
     輝間・流(導なき藍・d25805)は、後ろを歩く鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)を気にかけつつ進む。ロングヘアにロングスカートと昭和あたりで流行った感の女装をした忍尽は、流の頼もしい背に惚れ惚れするような視線を送る――演技をする。
    「だ、大丈夫ですわでござる」
     とりあえずかなり無理をしてると分かる口調だった。
     そして適当な位置を開け、三組目である九条・九十九(ロストゴースト・d30536)と三園・小次郎(かきつばた・d08390)が寄り添い歩いてきた。
    「園子、この辺には有名な温泉があるらしい」
    「わあ、そうなんだ。…………私、温泉って大好き!」
     九十九に元気いっぱいの笑顔を見せる『園子』な小次郎は、綺麗になっていた。
     綺麗になっていた!
     どうせやるなら徹底的にと、友人から借りたのはくすんだピンクのプリントワンピにミモレ丈のチュールスカート。この服に合わせるためか、小次郎は食事制限をして痩せていた。借り物のせいか着馴れた感もある。合わせて髪をおろし、頭から爪先まで女子力グッズでステータスアップ。方向性は色黒肌から、少し強気で一生懸命な元気系女子をアピールっ。
     だが心は死んでいた。見た目はある意味、死に化粧だ。
     ――まさか俺の低身長(1675ミリ)がここで活きるなんて、な。
     辛い。ただただ、辛い。というか凄く死にたい。ガイアチャージで生きる活力を供給しているようなものだった。
     そんな辛さに心を蹂躙されながらも、今だけ私は『園子』よと、笑顔を浮かべる。九十九も笑顔を作り返した。初任務がまさかのまさか、あまりにもあまりな展開に「俺、なにやってるんだろうな」と途方に暮れる瞬間があるが、女装メンバーの心情を思い必死に感情を込めてカップルを努めようとする。
     ――正直感情を込めた表情は苦手だが、彼らほどではない筈だ。
     そう思いながらも、幸い『園子』がぐいぐい引っ張るキャラなので無難に進めていく。
    「……まったく。妙な仕事になったものだ」
     そう呟くのは最後の四組目を担う三味線屋・弦路(あゝ川の流れのように・d12834)。傍らをしずしずと歩む森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)と手を繋ぎ森を進む。
    「このような仕事に男一色とはな」
    「ともあれ、わたくしたちで出現させましょう」
     煉夜もまた、女装をするなら半端でなく完璧を目指していた。いつからその格好だと聞きたいくらい、誰よりも早く、ゆったりとした黒色のシックなドレスを着用。体のラインを曖昧にし、同時に顔をヴェールで覆い男であることをバレにくくする。全体としては陰のある喪服を纏い『拒絶』の印象を与えながら、だからこそ和装の弦路と繋いだ手が大きな意味合いを感じさせる。
     女装が怖くて歌舞伎の女形がみれましょうか。目指せ一番カップル――ただし、あくまでこの四組の中で、だが。
     それ以上では、深みにはまる。

     彼らが自分たちで都市伝説を呼びだそうと思ったのは、決して女装願望や新たな道に目覚めたからではない。適性が低いと諦めることで、一般人を危険にさらすのは避けたいという、灼滅者としての矜持。
     しかしその熱意とは逆に、都市伝説は容易に姿を現さない。
     灼滅者たちは、より濃厚な段階に進むしかなかった。


    「そういえば、この森にはカップルを襲う巨漢の僧侶が出るって噂だよ」
    「えっ、襲われる……? やだ、こわいっ」
     怯えた、そしてどこか甘えるような声で紫王にすり寄る蔵乃祐。都市伝説を噂に仲良しアピール作戦だ。
    「ねぇ、もしも僕が襲われたら、紫王クンが護ってくれる……?」
     紫王は優しく微笑む。
    「ほら笑って。大丈夫、君は俺が守ってみせるよ」
    「紫王、クン……」
     いつもは優しい彼が、不意に見せた頼もしい笑顔。思わずどぎまぎしてしまう……という設定どおりの演技をしながら、蔵乃祐はふと思った。
     ――僕は一体、何でこんなことをしてるんだろう。
     どうしてこうなっちゃったの。そう思わずにはいられないがもう遅い。今は(腹の底からこみあげてきた何かをこらえて)赤くなった顔で、演技を続けるしかなかった。
     一方、忍尽は打ち合わせ通りわざと足をもつれさせている。
    「きやあっ」
    「しづく!」
     転びそうなところで流が素早く支え、接近した距離に忍尽は恥ずかしがる仕草。
    「あ、有難うだけれど、いきなり触るなんて破廉恥だわでござる!」
    「破廉恥って……大事な女が怪我すんのなんか見たくねぇだろ」
    「だ、大事って……もうっ。ぐおぉぉぉぉぉぉ」
     打ち合わせではここでひとしきり『もじもじ』するところだが、不意に忍尽は限界を感じ呻く。素早く指で印を結び心を鎮めに入った。
     ――落ち着けッ、これは試練! 忍術の修行でござる!
    「……じゃあ、もう転ばないように、手を繋いでもらってもいい……でござるか?」
    「ああ。しっかり握ってろよ」
     対して、幾分余裕をもって応対する流。彼氏役ということもあるが、実際にリア充という現実が彼を支えていた。そこに思い至った忍尽が無意識に瞳へ暗い光を灯したが、自己暗示を続けて『仲良く』歩みを再開する。
     九十九もまた、『地面につまずいた園子』を介抱する段階へ。
    「園子、怪我はないか?」
    「……いたた、足挫いちゃったみたい」
    「下手に動かしたら悪化する。任せろ」
    「えっ……キャッ!」
     九十九は『園子をお姫様抱っこ』した。園子は恥ずかしそうに首を振った。
    「いいよ九十九、私重いよー!」
    「そんなことはない。(食事制限で減量したせいか)とても、軽いよ」
    「九十九……」
     園子は(苦しかった制限の日々を思い)胸が締め付けられるような表情をする。
    「こうしてると、ドキドキして暑くなってきちゃった。ねえ……私、九十九と一緒に温泉入りたいな」
    「ああ……それは楽しみだ」
     照れる素振りの九十九。そろそろ出せる表情のパターンも限界だ。
     体良く周遊コースと化した場所を上記三組が巡回。その中間地点のベンチでは弦路と煉夜が足湯タイムを展開――していたが、そろそろ湯も冷たくなりにけり。弦路が瞑目する。
    「ふむ、これも『ぼっち力』とやらの弊害か?」
    「困りましたわね」
     煉夜が時計を見た。一般人がまだ来ないので、感じるほど時は過ぎてはいないのだろう。だが焦らすかのように都市伝説は現れない。運命の荒波は理不尽だ。
     ――都市伝説、早く出てこいやぁ!
     ――いつまでこんな茶番やらせる気やぁ!
     そんな意味合いの慟哭が聞こえそうだ。血反吐をはくような顔の灼滅者もいる。
     やはり、急造のカップル偽装では四組でも厳しいのだろうか?
    『許すまじ……リア充!』
     ……いや、そうでもなかった。
     これでも大丈夫らしい。


     合図の声を上げるまでもなく、全員が視認できる位置に気配が生まれていく。九十九が殺界を形成し、忍尽が音を遮断。現れた青年僧は四組のカップルを睥睨する。あ、こいつ悲しい目をしている……と蔵乃祐は思った。
    『おのれ忌々しきリア充ども。その絆断ち切って――ん?』
     目を細め、もう一度八人を見回す都市伝説。怒り顔が半笑いになった。
    『ぷはっ……すまなかった。どうか気にせず続けてくれ』
    「――待つでござる」
     ウィッグとスカートが舞った。いつもの服に戻った忍尽が縛霊手を構えた。
    「逃がさぬ。いざ成敗ですわでござっ……成敗でござる」
    『無理しなくていいよ。女装忍者ちゃん』
    「……ッ!」
     暗示が強すぎて女言葉が抜けないのを揶揄され、忍尽がくずおれる。心配そうに現れた霊犬の土筆袴に支えられ、敵をにらみ返した。
    「ふ……ふ。拙者には此処に魂の片割れが居るでござる。生まれてこの方修行の日々、女性の縁は皆無でも全く平気でござる。忍とはそういうものでござる……ござる」
     棒読みなのが、ここに来るまでのダメージが大きかったことを示していた。
    『あ、そう。応援してるから頑張ってね、女装忍者子ちゃん♪』
    「――!!」
     瞬間、今思いつく限りのありとあらゆる忍術で目前の存在を八つ裂きにしたいと思いながら、再ダメージに倒れ沈黙する忍尽。都市伝説がにこやかに近寄ってきた。
    『大丈夫かい、女装忍者子ちゃん?』
    「おい待て寄るな! こっちくんな!! シッシッ」
     連環砲を構え、殺意の限り撃ち放つ蔵乃祐。都市伝説はしかし、銃弾を喰らっても笑みを消さない。
     かつて、セイメイという強力なダークネスはこう言ったという。
     ――人の心を壊すのは、「比較」でございます。
     同じ境遇の者さえいれば、存外頑丈に耐えることができるのでございます、と。
     都市伝説は、比較サイトで安値の優良物件でも見つけたような笑顔で錫杖を鳴らす。
    『バレー選手のカップルかと思えば男同士が四組も。君たち苦労してるんだねえ』
     あっさり全員男と見破られ驚く煉夜。がっついてるだけはある。蔵乃祐はといえばバレーの単語によろめき、気合で持ち直していた。
    「随分と傍迷惑な野郎だ。ぼっちだからってカップルに腹いせとはな」
     流が力の解放と共に刀を引き抜く。
    「艶やかに魅せてやれ、妃艶――」
    『……君だけはなんか、無性にムカつくなあ』
     目敏く何かに気付いたのか、吸血鬼の霧を発する流に顔をしかめる敵。そこへ紫王が間合いを詰めた。微笑みながらも鋭く死角から槍の一閃を放った。出現した以上時間はかけられない。
    「寂しい時はさ、公園で鳩に餌をやると良い。凄く集まってくるから」
    『いらないいらない。僕は孤高の一匹オオカミ。ワンマンアーミーさ』
    「貴様のそれは『孤高』ではなく『孤独』と言うんだ……憐れな奴め」
     弦路が愛用の三味線『雪風』を鳴らす。音波と言葉の攻撃に加え、無言で九十九が杭打ち機を撃ち込むと、さすがに都市伝説は穏やかではいられなかった。
    『ひどいじゃないか。ボクは君たちのように、男とくっついてまで自分を慰める気はないよ!』
     シャンと錫杖が鳴り、動きだす。速い。がっついてるだけはある。煉夜が妖冷弾を放つがかわし、冷気がはじけた頃には視界から消えていた。灼滅者たちは目で追うが、あまりの高速移動に追い切れない。まさに誰も触れられない(触れたくない)孤独の機動!
    「皆様落ち着いて、気配は消えてはいません」
     女装後に男に戻れば辛いだろうと煉夜は演技を貫き通す。
    「目では見えずとも、強力なぼっち力を追えば……」
     そしてハッとした煉夜が気配に背後を向いて――言葉を失った。
    「く、蔵乃……」
    「ぬっ殺すぞ」
     冗談とは思えない声で蔵乃祐は返すと、都市伝説が居るだろう空間に語りかける。挑発で隙を見つけるしかない。
    「何となく分かるよ。僕はぼっちじゃないけど、独りは寂しいもんな」
     例えば一人で映画館行ったら、シアター内が何故か自分独りだけ貸し切り状態とか。
     ゲーセンで遊んでても誰も乱入しないとか。既読スルーとか。
     誕生日、ほぼ誰からもお祝いされなくてロンリーハッピーバースデートゥマイセルフとか――
     気付けばみんなの視線が蔵乃祐に集まっていた。
    「いや僕の話じゃないけどね? 例えばの話だけどね??」
    『お誕生日おめでとう!!』
    「だから違うっつってんだろ!」
     隙を見せた敵に、忌まわしい記憶と共に消えろとばかり蛇腹剣を巻き付け、引きずり倒す。
     処刑タイムの始まりだった。
    「俺とて男と睦言を交わす趣味はない。鬱憤は貴様の灼滅を以って晴らさせてもらうぞ」
    「俺にはきしめん(霊犬)がいるから、恋人いねえけどぼっちじゃねえし!」
     弦路が三味線の糸で切り裂き、小次郎が除霊結界から縛霊撃でふん掴み、地面に叩きつける。煉夜の閃光の拳が大地ごと敵を殴る、殴る。
     しゃああ!
     復活した忍尽が素早く印を結び、きしめんと土筆袴に咬み付かれてる都市伝説を紫電はじける拳でさらに殴る、殴る、殴りつける!
    「己を磨きもせず、他人をやっかむ輩を好く女性は居らぬ!」
    『ぐふっ、やだなぁ君たちは――』
    「……」
     向けられた笑顔を九十九の重力の蹴りが踏みつける。紫王のフォースブレイクも振り下ろされ、流のギルティクロスが地面で赤い十字を咲かせた。
     ――気付けば、蹴っ転がしてた都市伝説は消滅していた。
     皆が無言で空を見つめる。
     やや虚しい風が吹いていた。


    「大体、僧侶になって誤魔化すなど二流。真のボッチは……案外気付いてないだけかもしれませんわね」
     撤収の準備をしながら煉夜が呟く。蔵乃祐は虚空に指を突き立てた。
    「呪われろ世界」
    「きしめん、慰めてくれ」
    「土筆袴、早く忘れようですわでござる」
     小次郎と忍尽はアニマルセラピー中だ。学園に着いた頃には完治してると良いのだが……
    「みんな、お疲れ様だ」
     九十九がぼそりと言う。特に誰がとは言わない。
    「なんとかなったな」
     彼女にするように……心の中で言い聞かせ演技していた流。ほっと一息。紫王は周囲を警戒していた。
    「嫌な予感、まだ大丈夫なようだな」
    「せっかく園川が忠告してくれたのだ。無下にはできまい」
     ダメージ(主に精神的な)が大きい者もいる。深入りは危険と弦路は踵を返す。
     視界の向こう。わだかまる闇を警戒しながら、灼滅者たちは足早に帰還した。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 324/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 19
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