暴走屋台博多編

    作者:灰紫黄

     屋台。それは調理機材を備えた簡易店舗であり、移動できる構造のものも多い。ただし、移動できるといっても人の手によるものであり、自律行動ができると言う意味ではない。
     しかし、博多には夜中になると無人で暴走する屋台があるとかないとか。しかも変形するとかしないとか。あくまで噂なので細かいところははっかりしないが、とりあえずそんな感じである。
     本当に暴走する屋台が博多に現れるのか。その真実は君の目で確かめるしかないだろう。

    「というわけで、暴走屋台が博多に出現するわ」
     と、口日・目(中学生エクスブレイン・dn0077)が切り出した。今のところ都市伝説による被害は出ていないが、それも時間の問題だろう。
    「この暴走屋台は暴走を阻まれると、障害を全力で排除しようとするわ。ミサイルとかね」
     灼滅者達は『あれ、今なんて言った?』みたいなことは聞かない。都市伝説、しかも変形するとなってはミサイルもレーザーもある意味お約束であった。……というより、いちいち外見や能力を気にしていたらキリがないのだ。
     灼滅者はつらいよ。
    「屋台の暴走を邪魔すれば、即戦闘になるわ。準備は怠らないようにね」
     屋台は夜の街をロケット噴射しながら暴走しているので、見付けるのは難しくない。人通りの少ないところで戦いを仕掛ければ問題ないだろう。
    「屋台の戦闘方法はよっつよ」
     ひとつは、熱々のとんこつスープによる攻撃。ふたつめは、辛子高菜による攻撃。ちなみに激辛のため、刺激に弱い方とお子様はご注意ください。みっつめに豚骨そのものによるミサイル攻撃。最後にシャウト相当のサイキックとなっている。
    「なんか間抜けな感じだけど、戦闘能力は高いわ。油断はしないように」
     それから、と目はこう付け加えた。
    「……うまく言葉にできないんだけど、嫌な予感がするわ。博多観光とかしたい人がいたら申し訳ないんだけど、あまり長居しないようにしてくれると嬉しいわ」
     そんな気がするだけだ、とは言うものの目は硬い表情を崩さなかった。


    参加者
    葛城・百花(クレマチス・d02633)
    龍造・戒理(哭翔龍・d17171)
    シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)
    石神・鸞(仙人掌侍女・d24539)
    儀冶府・蘭(ラディカルガーリーマジシャン・d25120)
    日輪・こころ(汝は人狼なりや・d27477)
    冬青・匡(ミケ・d28528)
    ディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617)

    ■リプレイ

    ●屋台変形
     屋台である。側面に大きな車輪のついたとんこつラーメンの屋台である。それが無人で、しかもロケット噴射しながら暴走しているのである。懸案事項はあるにしろ、どう見ても危険なので放置できない代物だった。むしろ今まで被害が出ていなかったことが不思議なくらいだ。さびれたビルの間を通り抜けようとしたところを、灼滅者達は周りに人気がないことを確認し、屋台に攻撃をしかけた。
    「まずは屋台を足止めしないとね」
     日輪・こころ(汝は人狼なりや・d27477)のエアシューズが炎を帯びて疾走。夜闇よりもなお濃い、黒髪がそれに合わせて揺れる。
    「おっと、ここから先は通行止めだぜ?」
     武器の黒弦をもてあそびながら、シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)が屋台の前に立ちふさがる。屋台は逆噴射でその場に制止。
    「自走屋台とはまたヘンテコな……いやもう驚きゃしねェよ」
     呆れた様子でディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617)が呟いた。一体どんな噂が流れればこんな都市伝説が生まれるというのか。
    「うーん、においだけは美味しそう」
     お腹が空いたのか、冬青・匡(ミケ・d28528)のオオカミミとしっぽがくたりと倒れる。どう見ても普通の屋台じゃないが、しかしまとう匂いはとんこつラーメンそのものだった。
     灼滅者の戦意を感じ取ったのだろう。屋台はみるみる姿を変えていく。まるでロボットアニメのワンシーンのようだ。
    「これ、何に変形するのかしら」
     二秒で屋台は原型をなくしていた。特に興味があるわけでもないが、ぼーっと眺める葛城・百花(クレマチス・d02633)。変形する都市伝説など、特に珍しい存在でもなかった。
    「エクスブレインの嫌な予感も気になりますが……先にコレですね」
     魔導書を開き、儀冶府・蘭(ラディカルガーリーマジシャン・d25120)は都市伝説から距離をとる。このあと、何が起こるかは分からない。なればこそ、都市伝説相手にあまり消耗してもいられない。
    「行くぞ、蓮華」
     武装をスレイヤーカードから呼び出すのと同時、龍造・戒理(哭翔龍・d17171)の傍らにビハインドの蓮華が現れた。仲間を守るため、ともに前に出る。
    「本場屋台のラーメンも味わってみたかったのですが」
     いつの間にかサボテンメイド姿になっていた石神・鸞(仙人掌侍女・d24539)であった。ついさっきまで人間形態だったはずだが、しかし印象は薄い。
     ガシャーン!
     その言葉を待ってました、とばかりに変形完了。SFアニメじみたクモ型戦車がそこにいた。本体は前後に分かれ、前部は辛子高菜を食べさせるのだろうアームを備え、後部はミサイルポッドのように豚の骨が装填されている。さらに背部には大口径キャノンのようにとんこつスープの鍋ふたつを装備。脚の先につけられたローラーを滑らせながら、屋台は……まだそう呼べるならだが……暴走を阻もうとする灼滅者達に襲いかかる。

    ●とんこつ・イズ・ジャスティス
     ぱか、と鍋のふたが開き、アツアツとんこつスープが前衛を薙ぎ払う。スープなのに炎の力があるのは、作り手の情熱が込められているからに違いない。
    「く、これは…………コクがありながらしつこくない。恐ろしい敵にございますね」
     攻撃の威力とは別のところで驚愕する鸞。しかし敵の力量を正しく測ることができるのも、メイド力の経験の賜物だろう。サボテンメイド・イズ・くーるびゅーてぃー。
    「…………ドリルが足りないな」
     ぼそり、と戒理。変形、合体、ドリルはやはり男のロマンなのだ。クールに見えても、中身はしっかり男の子であった。光の盾を展開し、仲間を守ると同時、異常への耐性を与える。
    「叩っ斬るわよ」
     先ほどまでの無気力はどこへやら、百花の斬艦刀から殺気がほとばしる。赤い瞳が標的を捉え、地面を蹴った。力任せの一撃は屋台を壁際まで吹き飛ばす。しかし屋台は次の瞬間には何事もなかったかのように反撃してきた。
     多脚をたゆませ、そして跳躍。辛子高菜があまりの辛さに炎をまとい、こころを狙う。対する黒狼は、自身の色と真反対の白炎のオーラで迎え撃つ。
    「目に染みるの……っ!」
     むろん店にもよるが、辛子高菜は入れすぎ注意の危険物であった。にじみ出る刺激によって涙目になるが、我慢して弾き返した。衝撃で屋台が宙に浮く。
    「時は金なり、だ。さっさと片付けるぜ」
     瞬間、ディエゴはビルの壁を蹴り、屋台に肉迫する。さらに拳を金のオーラが包み、加速させた。金色の連撃は今度は屋台を地面にたたき落とす。
     その先に黒い影が走る。シグマがかざした手を伸ばすように、影の手が生まれる。
    「斬り裂け」
     手を閉じるのと同時、影の手も屋台を捉え、鋭い爪で装甲を引き裂いた。地面に激突した屋台から甲高い金属音が響く。屋台は軋むボディに鞭を打ち、再度とんこつスープによる砲撃を見舞った。
    「大丈夫だよ百花。僕が支えて、守ってあげる!」
     炎に包まれた百花に向け、匡は縛霊手から白い光を放つ。光は途端に百花の体を包み、傷を癒すと同時に炎を払った。
    「疾風の矢よ、討ち貫きなさい」
     ひとりでに魔導書の頁がめくれ、蘭の手に魔力が圧縮されていく。やがて魔力は光の矢に姿を変え、敵を穿つべく宙を駆ける。矢は真っすぐに突き刺さり、秘めた魔力を炸裂させた。脚の一本が弾け、ビルの壁に突き刺さる。
     灼滅者達の攻撃は確実に暴走屋台を追い詰めている。しかし、熱いとんこつの血潮が流れる限り、止まることはないだろう。

    ●おかわりは要らない
     バシュシュシュ!
     屋台の後部に装填されたとんこつが真上に発射される。とんこつは空中で曲線を描き、中衛のシグマ目掛けて降り注いだ。
    「っ! させません!」
     すかさず鸞が攻撃を庇った。形もまばらな豚骨がサボテンボディに突き刺さる。ダメージは小さくない。だが、鸞が膝を折ることはなかった。メイドの誇りとヒーローの正義を瞳に宿らせ大地に立つ。
    「ラーメンは好きだけど、押し売りはゴメンなの!」
     こころのエアシューズが再び燃え上がった。炎の赤い軌跡を残しながら、屋台に迫る。屋台の目前まで駆け、そこでターン。背後に回り込んで回し蹴りを叩き込む。
    「そろそろ潮時か」
     屋台はすでに脚の数本が吹き飛んでいる。歪んだフレームはがちがちと金属音を立てていた。振り上げた戒理の腕が寄生体によって剣に変じる。斬撃はかわされるが、蓮華がその頭上から霊撃を打ち込んだ。
    「杖よ、魔を以て魔を砕け」
     蘭の詠唱に従い、マテリアルロッドが魔力と光を帯びた。最短距離で突き抜けば、先端に集められた力が屋台の装甲を引き剥がす。変形のせいで中に収納されたのだろう、『とんこつラーメン』と書かれた看板が顔を出していた。
    「沈めェッ!!」
     闇を切り裂く金色の光条が屋台を貫く。ディエゴだ。金は光だ。強く、眩しく、人を魅了する。だからこそ力は正しく使われねばならないと、彼は知っている。たとえ都市伝説だろうと、人に仇なすなら容赦はしない。
    「にゃー!」
     壁を蹴り、電柱を蹴り、肉食獣を思わせる動きで匡が屋台に踊りかかる。身軽さとフットワークを活かし、オオカミというよりネコのように銀爪を刻んでいく。
    「とんこつもラーメンも結構だけどよ、暴走はいただけねぇよな」
     黒弦をかき鳴らし、シグマが不敵に笑う。旋律は音の領域を超え、破壊力を持ったサイキックとなって屋台を襲う。屋台はローラーを回転させて逃げようとするが、遅い。シグマが弦をつま弾く度に装甲がひしゃげて砕けた。
     カッ、と百花の拳を赤いオーラが包む。視覚を焼くような苛烈な色。機関銃じみた連拳は、しかしまるで全身を叩きつけているようでもあった。一歩ごとに屋台は形をなくしていく。
    「消し飛びなさい……!」
     叫びとともに放たれた最後の一撃が、屋台を跡形もなく吹き飛ばす。
     これで暴走屋台の都市伝説は消滅した。博多の街に自立変形型とんこつラーメン屋台が現れることは、もうないだろう。

    ●闇は忍び足で
     戦闘を終えた灼滅者達は、目立たぬように息を潜めながら心霊手術を行う。回復サイキックは失ったが、ある程度なら戦えるくらいには回復できた。あるいは都市伝説相手によりよい戦いができれば、もっと余裕も生まれただろうか。
     エクスブレインは撤収を推奨していたが、一般人に新たな脅威が迫っている可能性がある以上、現場に残る選択は間違いではないだろう。当然、相応のリスクを負うことになるが。
    「あれれ? 灼滅者だ。ホントにいたんだぁ!」
     突然現れた少女。見た目だけならは高校生くらいだろうか。もう10月だというのにTシャツにホットパンツという恰好で、いかにも寒そうだ。そして問題なのは、そのTシャツに見覚えがあるということだった。先日の学園での決戦でも目撃されていたものだ。
    「HKT!」
     その存在を予期していたのだろう、鸞が叫んだ。九州、それも博多は彼らの勢力圏だった。
    「確かに私達は灼滅者にございますが……何用でございましょうか?」
     警戒し、サボテンのトゲがビリビリと逆立つ。目の前の六六六人衆の殺気のせいだ。
    「目的? 体に聞いてみなよ。悦ばせてくれたら教えてあげなくなくないかもよ」
     にやりと笑い、少女は陸上選手のように身をかがめる。足にはエアシューズを、腕にもそれに似た車輪が付けられた手甲を着けていた。クラフチングスタートの要領で、一気に加速する。
    「黒狼は仲間を置いて逃げたりなんてしないわよ」
     車輪に体を引き裂かれながらも、こころの闘志は砕けない。彼女を支えるのは、両親から受け継いだ力と誇りだ。
    「どうやってここが分かった!?」
     驚いたふりをして聞くシグマ。嫌な予感の正体が明らかになった手応えはあるが、しかしまた新たな謎が生まれた。
    (「俺達にもバベルの鎖の効果はあるはずだ。なら、なぜだ」)
     ディエゴは前衛に移行し、仲間に回復を施しながら。自問する。
     ダークネスや灼滅者にはバベルの鎖がある。一般人に目撃されても情報はほとんど伝播しない。いや、それどころかここには一般人さえいない。ここで都市伝説と戦っていることなど、当事者以外には分からないはずだった。
    「……どうする?」
     耳としっぽとをぴんと伸ばして、匡が問う。都市伝説との戦闘後、敵と接触した場合、撤退する方針になっていた。だが、そう簡単に逃がしてもらえる相手でもない。敵を察知した段階で撤退できればよかったが、一方的に捕捉するにはまた策が必要だったかもしれない。
    「どうもこうもないでしょう。さっさと逃げなさい」
     と百花。仲間を逃がすために自分が時間を稼ぐ……といきたいところだが、同じ選択をする仲間も多い以上、うまくはいかない。
    「……蓮華」
     戒理を庇い、蓮華が消滅した。ビハインドゆえ、時間がたてば復活するが、それは当然、戒理が生きているという前提の上でだ。まずはここを生き延びねばならない。DSkのーズも移動速度の速いダークネス相手にはさほど役には立たなかった。
    「ほらほら、殺しちゃうよー!」
     刃、刃、刃。車輪に備えられた鋭い刃は嵐となってビルやアスファルトごと灼滅者達を切り刻む。防戦一方であった。
    「こうなったら、一人ででも……」
     箒を手に、蘭は覚悟を決める。もはや全員での帰還は絶望的であった。不可解なHKT六六六人衆の出現。その情報を持ち帰るには、必ず誰かが帰還しなければならないのに。
    「逃がさないって!」
     車輪付きの手甲が蘭の飛翔を阻もうとする。が、それよりも早く、黒い闇が疾駆する。灼滅者を超えた動きだった。仲間の帰還を可能とする代償となったのはシグマだった。
    「俺じゃ弱くて守れないってのは悔しいけどな!」
     そこから先はすぐだった。六六六人衆の少女が消え、それを追ってシグマが消える。最後に灼滅者達だけが残された。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:シグマ・コード(枯杯・d18226) 
    種類:
    公開:2014年10月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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