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なんかヴァンパイア、ボスコウスレイブが深夜のファミレスにいた。しかも淫魔のお嬢さんと一緒に。
「……というわけで、わたし達とお友達になってくれるとうれしいんですよ~」
この淫魔のお嬢さん――ハルカ――は、胸部装甲がペラい。というわけで色仕掛けは端からアテにならないと割りきって戦力増強のための交渉を正攻法で行っていた。だがここでタイトルを再確認して欲しい。ちなみにこれがコイツの名前である。
「………」
「え、なんですか? 条件に要望でもあるんですか?」
「……ぶらじゃー」
「………え」
「ブラジャーを出せ、まずはそれからだ」
普通の淫魔ならそれくらいならとOKを出しそうなモンである。だがしかし、この眼の前のハルカだけは違うのだ。
「だ、ダメです! 今してるのは完全受注生産の中々手に入らないものなんですから!」
「レアもの……それをよこせぇっ!!」
深夜のファミレスにハルカの叫びが木霊する、彼女を助ける者は誰もいない。関わりたくないとも言う。
ぼすぼす。浦河・浅葱(しろがねオオカミ少女・d28756)が掲げたクッションを有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)がパンチしている。どうやらやるせない気持ちを昇華するためらしい。
「落ち着いた?」
「うん、なんとか」
呼吸を整えてクロエは集まった灼滅者たちに向かって彼女が事件について説明を始める。
「ええっと、ラブリンスターの配下が他のダークネスを勧誘してるってのは聞いてる? その最中に交渉が決裂して殺されちゃう淫魔がいるんだ。加害者は『怪盗紳士ブラスター』だって。浦河さんのブラを狙うダークネス云々の話がね、当たっちゃったんだよね……」
そして冒頭の場面を疲れた様子で説明する。色々ストレス溜まりそうな状況ではある。
「……で、見えちゃったのはしょうがないから介入して欲しいの。とりあえずダークネスを倒せる機会には違いないし」
どっちを、とは言わない。
「それでこの状況に入るタイミングは2つあるんだ。1つ目は淫魔が倒された直後、このボスコウスレイブは戦利品のブラジャーを手に入れて悦に入ってるからこのタイミングで攻撃を仕掛ければ不意打ちができるよ。2つ目は淫魔が攻撃される直前、こっちだと淫魔のハルカを助けられるよ。ちなみに助けるとお礼を言って逃げていくから戦力にはならないよ」
どちらを選ぶかはお任せでと言って、ブラスターの戦闘力をクロエは説明する。
「ポジションはスナイパーで……ヴォルテックスとズタズタラッシュと残影刃それと竜骨斬り……ぽいサイキックを素手で行ってくるよ」
とりあえず戦闘力は首輪がなくなったせいか襲撃の時より上がっているらしい。
「とりあえずブラスターは確実に始末してね。それ以外の事はお任せするよ、それじゃ行ってらっしゃい!」
参加者 | |
---|---|
勿忘・みをき(誓言の杭・d00125) |
銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632) |
ビート・サンダーボルト(ビート・ザ・スピリット・d05330) |
鷹成・志緒梨(高校生サウンドソルジャー・d21896) |
清浄・利恵(根探すブローディア・d23692) |
日輪・黒曜(汝は人狼なりや・d27584) |
千早・雫(闇の閃光・d28586) |
浦河・浅葱(しろがねオオカミ少女・d28756) |
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深夜のファミレスである。きちんと帰る家があれば何の用も無さそうな場所である、それでもここにいるのは終電乗り過ごしたとか、若さゆえの過ちとか、まあそう言った手合が殆どである。大概静かなカオスが繰り広げられる場所であろう。
「ええと、ブラスターさん? でした、よね?」
だからダークネス同士が交渉していても何のおかしさもない。両方ともダークネスの姿全開だけど周りは気にしていない。カードゲームしてたり、携帯ゲーム持ち寄ってたり、寝てたり。
「……まだか?」
ドリンクバーから飲み物を取ってきたビート・サンダーボルト(ビート・ザ・スピリット・d05330)が席に付きながら件の方を見る。
「まだだね」
皿の上にあったものをつつきながら清浄・利恵(根探すブローディア・d23692)は返す。
「はあ……」
空になって氷だけのグラスの中身をグルグルとストローで回転させながら浦河・浅葱(しろがねオオカミ少女・d28756)はため息をついた。決して鉄板の上にあったものを平らげたせいではない。
「本当にいるのね……」
遠目に見ればヴァンパイア、あれこそが怪盗紳士ブラスターである。
「ヴァンパイアってさー……一般的にはもうちょっと耽美とか、麗人とか、怪奇とか、そのう……」
鷹成・志緒梨(高校生サウンドソルジャー・d21896)がぐたっとした様子で呟いた、別に彼氏に振られたとかそういう理由では無いはずだ、たぶん、きっと。とりあえずしばらく動きそうに無いのを横目に、その時が来るまで時を過ごす一行である。
「うぅむ……」
「……それ、早く食べないと溶けますよ?」
周りの空気の流されるように注文した女子力高めのパフェを前にして千早・雫(闇の閃光・d28586)が腕を組んで唸っている。見かねた勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)が助け舟を出すも渋面は解けそうにない。その脇ではひたすら銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)が立板に水のごとくしゃべっていた。
「コイバナしようで、コイバナ」
「えっと、そういう話だと」
日輪・黒曜(汝は人狼なりや・d27584)が言いかけたところで利恵が彼女の言葉を制した。
「……そろそろだ」
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「だ、ダメです! 今してるのは完全受注生産の中々手に入らないものなんですから!」
「レアもの……それをよこせぇっ!!」
「そこまでにしておけ」
ブラスターが襲いかかろうとした時、その腕を取ったのは雫の手だった。反対側の手にはつい持ってきていたスプーンがあったりするが気にしない。
「敢えて淫魔としての業を封じて真摯に勧誘している女性に対して、なんたる狼藉か! 貴様も男なら恥を知れッ!」
「突然現れて何を勝手な事を! 狼藉者と言うのなら貴様等のことをへぶっ!?」
振り払おうとしたブラスターの顔面に鉄板(ステーキ用)が突き刺さる。浅葱がぶん投げた一撃である。超痛そう、顔面抑えてうずくまってる。
「大丈夫かい?さ、今の内に」
「はいそこのアイドルさん、早く逃げてね。変態さんには声をかけない様にこれから気をつけて!」
突然の襲撃に慌てふためくブラスターからハルカを引き離す利恵と志緒梨。
「で、でも変態な方のほうがちょろいですし……ってそうじゃないですね! ありがとうございます!」
「三竜包囲陣の時にラブリンスターには助けられたからね」
「あの時の事は感謝してるんだから」
「借りを返すだけの話さ」
浅葱と志緒梨、そして利恵は慌てて外に逃げていくハルカの背を見送った。彼女達はダークネスといえども借りを返さないなんてことはしない、そういうスタンス故の行動だ。右九兵衛が彼女の背に自分の名を伝えるとぐるりとブラスターに向き直る。ブラスターの前にはビート達が武器を構えて対峙していた。
「乙女の下着を狙うなんて許せないわ!」
黒い刀身を持つ剣をブラスターに向けて黒曜は怒りを隠さない。
「何を言う! 乙女のだけではない!」
「訂正するトコそこかい!?」
思わず右九兵衛が突っ込んだ。
(「下着一枚に熱くなれる事が良い事なのか悪い事なのか……」)
みをきは目の前で無駄に熱く語るブラスターを見て感慨にふける。
(「俺には……判断、できません」)
ふうっと息を付いた。別に相手に呆れているわけではない。淡々と平常運転なだけです。
「くっ……こうなれば代わりに貴様等のブラジャーをもらうしか無い……!」
どうしてそうなるのかは分からないが、すごく悔しそうな顔のブラスターである。
「命が惜しければブラジャー追いてけぇ!」
「狩るのは私達で、狩られるのは貴方よ!」
襲い掛かってくるブラスターに対し浅葱が言い放つ。だがとても残念なことにこれでもダークネスなので結構強いのである。
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「きゃーっ!」
黒曜が胸を押さえて絹を裂くような声を上げる、いや別に致命的な一撃を受けたって訳ではない。確かにダメージは受けたのだが、それ以上に防具の隙間からブラジャーがポロリ。
「これが怪盗紳士だと……!」
雫はブラスターを睨む。黒曜の方を見ないようにしているとも言える、まあ男なんだけど。
「お前の様な紳士がいてたまるものかよ!」
「ふん、紳士たるものこのような事で動じることなどなぁい! むしろ紳士たりえればこそ落ち着いて己のなすべきことすべきなのだ!」
その結果がブラジャー集めなんですねわかりません。無論変態ダークネスの言葉に耳を傾けずに雫は二刀を構える。ふざけた相手だが実力は遥かに上である。何よりブラジャーにダメージを与えずにその持ち主にダメージを与えるとか並みの実力ではない。力の使い方を間違っている。
「ぐへへ、なんて卑怯なヤツや!」
右九兵衛はとりあえず敵を見るべきだと思う。まあなんだかんだでその能力を戦闘に注ぎ込んでいない相手だからこそこれくらいの余裕があるわけで。真面目に戦えばあっというまに倒せそうだし倒されそうな相手である。
「……今、こいつ胸見ることを優先してた」
「うわあ……」
浅葱が大きな槍を叩きつけた時も注視していたのはそこである。思わず志緒梨の口から変な声が漏れる。
「……ぶっ潰す!」
あまりの気色悪さにビートの強烈な一撃がブラスターに見舞われる。だがそんな戦闘の中でもブラスターは見誤らずに利恵の胸を狙う。
「もらった! ……何っ!」
「おっと、無くなってしまったな。だが、まだブラはある」
取ったと思ったブラスターが相手の姿を見て驚く、なぜならばそこにはまた別のブラジャーがあったからだ!
「……さあ、ボクのこのブラ、全てとれるかな怪盗紳士君」
「面白い、全て剥ぎ取ってくれよう!」
二人共真面目です。そんなブラスターに対し、みをきが一つ尋ねる。
「ブラスター、後学迄に聞きたいことがある」
「ほう、敵ながら殊勝な心掛けだな! いいだろう!」
「ブラジャーの良さはなんだ? 色か? 形か?」
「……全てだ!」
ブラスターの瞳はとても純粋に輝いていました。
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何故この手の相手は無駄にしぶとい奴が多いのだろう。戦いの中で次々と用意してきたブラジャーが奪われていく。
「く、あれだけ無断で借りてきたクラブの子のブラジャーがあらへん!」
「ほう、そうかならば彼女らに礼を言っておいてくれたまえ」
「このド変態!女子の敵!」
右九兵衛に対しブラスターは感謝を、志緒梨は胸を抑えて叫ぶ。ちなみに周りには巻くのに失敗したさらしが無残に切り裂かれて舞っていた。その腕の下も、まあ。
「なるほど、さばさばした振る舞いとは違ってピンクとは……」
「わざわざ言うなー! 彼にだって触らせた事なかったのにーっ!」
志緒梨は声を上げながらリバイブメロディを奏でる。少なからず生じていた灼滅者達の傷が癒えていく。
「しかしこちらも大量のレアブラジャーを奪われてしまった」
利恵の頬が少し赤い、志緒梨にならってかやはり無意識に胸元を隠している。だが大量のブラジャーの浪費があってこそ彼らの肉体的なダメージは最小限にとどまっているのだ。
「私が望むのはレア(希少)だけではない! レア(生)も同じく必要なのだ!」
なにいってんだこいつ。あ、ついうっかり意味を想像した雫が鼻先を抑えた。目のやり場といい、状況といい刺激が強すぎる場所のようだ。代わりに前に出るのは黒曜、神霊剣を掲げてブラスターに斬りかかる。
「い・い・か・げ・ん・にしなさーい!」
「な、貴様男か! ……それもまた良し! ぐわーっ!」
あ、痛そうだけどコイツ死んでません。二人が切り結んでいる間、その後ろでは浅葱が必死に自己暗示してた。
「……狼姿の時は実質裸と変わらないから恥ずかしくない……恥ずかしくない……」
「……これが恥ずかしいという気持ちなのか……?」
戦場の女性陣から溢れ出る感情にあてられて自覚を促される利恵、もう少し別の機会で学べれればよかったのではないだろうか。そんな状態はさておき、ブラスターは戦場を見渡す。
「……まだ、ブラジャーの気配が残っている……! そこか!」
びしっと指差す先にはみをき。なんとなく彼はこっくりとうなずいた。両腕を構えてブラスターはみをきに躍りかかる。そして破り割かれる胸元、現れるのはライトブルーフリル付きちっぱい用! ……なんでこんなん持ってるんだ。自分で買った? そうですか。
「取ったぞ!」
「ふひゃはは、それはよかったなぁ」
それを奪い取り掲げるブラスター、だがその勝ち誇った彼の背後にはビートと右九兵衛が静かに回りこんでいた。無論直ぐ様に二人の得物が火を吹いてブラスターを吹き飛ばす。
「女の敵に鉄槌を!」
黒曜が落ちてきたブラスターにタイミングを合わせて跳び蹴りを放つ、再び宙を舞うブラスター。そしてそれに合わせて二刀を鞘に収めたまま雫が跳び上がる。
「お前に明日は、訪れない……!」
空中で閃く二本の刃、居合い斬りとして放たれたその剣閃は十字を結び身が四つへと分かたれる。
「星になれ。その名前通りのな」
みをきが呟く。同時にブラスターは消滅し、彼の言葉に違わず星となった。かくて戦いは終わった。
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色々と視線の痛いファミレスを後にして一行は外へ出た。鼻血でぶっ倒れた雫を回収したり等色々あったのだが省略する。きっと他の客も見なかったことにしたに違いない。
「成敗完了♪」
のほほんと黒曜が呟く、だが志緒梨は夜空を見上げる。
「弟子とか師匠とか急ぎ働きとか、もういないといいんだけどなあ……」
夜空には星が瞬いていた、世の中には未だ語られない星が他にもあるのかも知れない。……もう出てこない事を祈る。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
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