熱い心、冷たき闇

    作者:飛翔優

    ●殺戮はバーニングハートで抑えこむ!
    「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
     高校一年生の少年、南国淳士は叫んだ!
     アパートの中、ベッドの上、沸き上がってくる衝動を抑えるため。
     いつからその衝動を感じるようになったのかは分からない、覚えていない。
     関係ない。大事なのは今、感じていること。衝動を感じてしまっていることなのだから!
    「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
     心の奥底でご近所さんに謝りながら、淳士は叫び続けていく。
     いつまでも、いつまでも……喉が枯れても、傷んでも。
     殺戮衝動が収まる、その時まで……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、静かな笑みを湛えたまま説明を開始した。
    「南国淳士さんという名前の十六歳、高校一年生男子が、闇堕ちして六六六人衆になろうとしている……そんな事件が発生しています」
     本来、闇堕ちしたならばダークネスとしての意識を持ち、人としての意識は掻き消える。しかし、淳士は闇堕ちしながらも人としての意識を保っており、ダークネスになりきっていない状態なのだ。
    「もしも灼滅者としての素養を持つのであれば、救いだしてきて下さい。しかし……」
     完全なダークネスとなってしまうようならば、灼滅を。
     続いて地図を取り出し、住宅街のアパートを指し示した。
    「皆さんが赴く当日の夕方、淳士さんはこのアパートの自室にいます。ですので、接触は容易でしょう」
     肝心の南国淳士という人物。
     高校一年生になって親元を離れひとり暮らしている。
     性格は熱い、とにかく熱く暑苦しい炎のような少年。明るい性格ゆえに友達は多いが、女っ気はない。
     闇堕ちした理由は不明だが、きっと何かきっかけがあったのだろう。いずれにせよ大事なのは今、衝動を感じていること。
     淳士は度々湧き上がる衝動を抑えるため、熱く叫ぶことで自分の身体を律している。その後、ご近所に菓子折りを持って謝りに行く……そんな生活を続けていた。
    「説得方法などは任せます……が、場所は移動したほうが良いでしょう。戦うには狭い部屋です」
     そして、説得の成否に関わらず、戦いとなる。
     淳士の六六六人衆としての力量は、灼滅者八人で挑めば十分に倒せる程度。
     攻撃に特化した思考をしており、広範囲に炎を撒き散らす火吹き芸、爆発する炎、炎で作り出した剣……といった形で、とにかく相手を焼き殺すことに特化した技を用いてくる。
    「以上で説明を終了します」
     地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
    「どうして闇堕ちしてしまったのかはわかりません。しかし、手段がご近所迷惑とはいえ、押さえ込めていることは確か……強い方なのだと、そう思います。ですから、どうか全力での行動を。何よりも、無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    鏡・剣(喧嘩上等・d00006)
    土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)
    如月・昴人(素直になれない優しき演者・d01417)
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    土岐・佐那子(夜鴉・d13371)
    華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958)
    十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)
    赤石・なつき(小さな願い・d29406)

    ■リプレイ

    ●熱き心、闇などいらず
     世界が赤く染まり、冷たい風が吹き始めていく夕刻頃。灼滅者たちは――。
    「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
     ――六六六人衆として衝動に苦しむ高校一年生男子、南国淳士が住んでいる安アパートへとやって来た。
     多くの仲間が近くの空き地へと移動していく中、土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)、赤石・なつき(小さな願い・d29406)の三人は接触を果たすためにどことなくカビの匂いがするアパートへと入っていく。
     南国、と表札が掲げられている部屋の前へとたどり着いた後、衝動を抑えこむためという叫び声が止むのを待ってからインターフォンを鳴らした。
     数十秒の時間が経った後、扉越しに灼滅者たちを伺うような声が聞こえてくる。
    「はい、どちらさまで?」
    「こんにちわ、少年」
     颯爽と璃理が挨拶した上で、布都乃が笑いながら本題を切り出していく。
    「アンタ、ヒトに相談し辛い悩み抱えてんじゃねぇか ?助けになれるかもしれねぇぜ」
     暫し、沈黙。
     後、戸惑うような声。
    「ええと、宗教なら間に合って」
    「私は君のその心の苦しみの原因を知ってるよ。それは心の中にある殺人鬼の衝動です」
     すかさず璃理が言葉を挟み込み、遠ざかりかけた心を引き寄せようと試みた。
     更に畳み掛けるため、布都乃が覗き穴に向かって己を示していく。
    「ウチの仲間にゃ似た様な衝動を抱えたヤツが大勢助け合って生きてる。暴走寸前の力、オレ達なら止められる。着いてこないか?」
     再び、沈黙。
     しかし、扉の向こう側からは戸惑いの感情は伺えない。ただ、疑念や迷いとった雰囲気が感じ取れたから、なつきがさらなる言葉を伝えていく。
    「人を殺したいという衝動、なつきたちはそれを解消するために来ました。これ以上は話が長くなりますし、他にも話したい人がいるので、場所を変えましょう」
    「……」 
     言葉の終わりから、一分ほどの時間が経っただろうか?
     不意にチェーンが外れる音がした、鍵が開く音色も響いた。
     灼滅者たちが扉の側から離れると共に、中から一人の少年が顔を出す。
    「いろいろ考えたが、纏まらねぇ。だが、ついていった方がいいって事はなんとなくわかった! どうも宗教とかそういうんじゃないみたいだしな!」
     言葉は強く、快活に。瞳には希望という名の光を宿して。
     三人は顔を見合わせて、空き地への誘導を開始する。

     心の闇と真っ向からぶつかり合おうとしている、その強さを学ばせて欲しい。
     なつきたちに導かれ、空き地に軽い足取りで向かってくる淳士を眺め、如月・昴人(素直になれない優しき演者・d01417)は伊達眼鏡の位置を直した。
     その他の仲間たちは快く淳士を迎え入れ、軽い挨拶を交わしていく。その上で、まずはなつきが切り出した。
     ダークネスのこと、灼滅者のこと、世界のことを。
    「その殺戮衝動はダークネスのせいで、抑えるためには一度その衝動を発散させないといけないんです」
     自分も以前、似たような状態に陥ったところを助けてもらったことがある。だから今度は自分の番。。
    「なつきたちなら大丈夫、遠慮なくぶつけてください」
     言葉にも熱を込めながら伝えたけれど、反応はあまり芳しくない。
     理由を探るため、何よりも伝えたい言葉もあったから、十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)がまっすぐに瞳を見据えて言葉を重ねていく。
    「なつきも言っていたが、衝動を抑えるには開放する必要がある。必ず責任は取る。だから信じてくれないか?」
     闇堕ちなどさせない。必ず助けると、見つめる瞳に力を込めて。
     淳士は目は逸らさずに、結んでいた唇を開いていく。
    「けれよ、そしたらきっと傷つけちまう。もしかしたら殺しちまうかもしれねぇんだぜ? なのに……」
    「……」
     人を傷つけ、人を殺す。
     躊躇う理由を聞き、土岐・佐那子(夜鴉・d13371)は静かに瞳を閉ざした。
     悩んで入るが、方向性はとても前向き。言葉を重ねていけば、きっと前へと進めるだろう。
     だから自分は後のため、解決への力となるために備えよう。
     言葉を仲間に託していこう。
     託された者の一人、昴人が、穏やかな調子で語りかける。
    「君は既に自分の闇と向き合えているんだ。それだけの心の強さがあれば大丈夫。だから……あと一歩の踏み込みを僕らに手伝わせて欲しい」
    「そーやっていろいろ溜め込んじまうから変な方向行っちまうんだよ。この際だから我慢しねえで思いっきり発散しな」
     鏡・剣(喧嘩上等・d00006)は拳で淳士の胸を叩き、自信満々の笑みを浮かべていく。
     傷つくことはあるかもしれない。
     傷つかなければ戦いではない。
     だが、同時に死んだりなんてしやしない。あるいは、そう淳士に伝えているかのように……。
    「……」
     淳士は灼滅者たちから一歩だけ距離を取り、瞳を閉ざす。静かな呼吸を紡ぎ始めていく。
     三十秒ほどの時が経った後に顔を上げ、力強く頷いた。
    「すまん、いやありがとう! 頼む、死なないでくれ……!」
     熱き少年の体が、暗き闇に閉ざされる。
     瑞樹はスレイヤーカードを取り出した!
    「我は盾、皆を護る大盾なり」
     いつもより熱を持った言葉と共に、二本の刀を引き抜いた。
     一方、昴人は伊達眼鏡を外し、握りつぶして開放。代わりに凶兆の方角を示す北斗七星の一星の名を関した弓を取り出して、距離を取り始めていく。
     剣はいち早く駈け出した。
     走りながら武装を整え、炎を纏いし六六六人衆へと変貌した淳士に下から飛び込むようなアッパーカットをかましていく!
    「さあ、始めようぜ! 気が済むまでな!!」
     散りし雷の奏でた音色が、開幕の合図。
     灼滅者たちは淳士を取り戻すため、六六六人衆との戦いを始めていく……。

    ●炎の六六六人衆
    「少年……君のその苦しみを私が殺しますよ」
     微笑みながら、璃理は六六六人衆の横を駆け抜けた。
     すれ違いざまに足を裂いた時、空からは昴人が操る魔力の矢が六六六人衆に向かって降り注ぐ。
    「さあ、彼の覚悟に応えましょう」
    「今なら思いっ切り叫んでも暴れても迷惑掛けるコトぁねぇぜ。好き勝手発散しちまいな!」
     布都乃は後衛陣を霧で包み、成すべきことを成すための力を高めていく。
     一方、六六六人衆は魔力の矢が止んだ直後、口から炎を吐き出してきた。
     炎に巻かれ、華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958)は両腕をパタパタさせていく。
    「みぅ……あつあつ……なの……はやく……消火……しないと……かれも……みんなも……あぶないの……」
     主の火傷を癒やすため、霊犬のぽむが瞳を光らせた。
     痛みが和らいでいくのを感じた時、穂乃佳は六六六人衆が別の方角を見ていくさまを発見した。
    「あぅ……まだ……だめー……なの……もどって……くる……の……おわったら……おしおき? ……なの……」
     意識を己へと向けさせるため、淳士の心へと語りかけ続けながら、腕を肥大化させて殴りかかる。
     脳天を打ち据えられ揺らいだ刹那、佐那子のビハインド、八枷が背後へと回り込んだ。
     佐那子は穂乃佳と入れ替わる形で正面へと到達し、先だって黒き拳を振り下ろした。
     右腕と打ち合い鈍い音が響いた刹那、八枷の振り下ろした得物が六六六人衆を切り裂いていく。
     されど六六六人衆は怯まずに、炎を爆発させてきた。
     周囲に撒き散らすような火吹き芸、広範囲に広がる炎の爆発。一人へと向けられる炎の剣……全て高い威力を誇り、炎を残していく六六六人衆の技。
     しかし、安定はしていない。
     あるいは、淳士が押さえ込んでいてくれるから、逐一治療を施すことによって優位に戦うことができている。
     抗わんというのか、六六六人衆が炎の剣を振り下ろした。
     胸から脇腹までに斜め傷を刻まれながらも、剣は笑う。
    「かかか、いいぜ、きのすむまでもっとかかってきな!!!」
     快活に叫ぶ共に身を癒やし、姿勢を引き戻していく。
     勢いのままに大地を蹴り、懐へに入り込むと共に殴りかかった。
    「オラァ、オラオラァ!!」
     一撃、二撃と刻む度、六六六人衆は後ずさる。
     後ずさってくる六六六人衆を迎え撃つ形で瑞樹は二本刀を振り回し、背中に十字傷を刻み込んだ。

     炎が爆発し、前衛陣が僅かに後ずさった。
    「この程度なら、支えられる!」
     すかさず昴人は光を操り、佐那子の腕を癒していく。
     佐那子は爆風に抗う形で飛び上がり、脚を真っ直ぐに伸ばしてジャンプキック!
    「今です」
     右肩を踏みつけると共に全体重を乗せて抑えつけ、八枷の得物を導いた。
     六六六人衆がよろめくと共に飛び退り、着地しながら瞳を覗きこんでいく。
     ギラついた光の中に、宿りし炎。名は希望!
     淳士は消えていない。
     否、よりいっそう盛り上がっていると確信し、佐那子は八枷と共に走り出す。
     刹那、なつきの放った風刃が六六六人衆の左足をきりさき、此度初めて膝をつかせた。
     決着の時は近いのだと、璃理が光刃を輝かせる。
    「さぁ最後の踏ん張りどころですよ、少年! 最後まで心の闇に抗い続けてくださいね」
     微笑みながら虚空を切り裂き、光の刃を開放した。
    「そしてすべてが終わったら……自己紹介しましょうか。お互い、まだ自己紹介してないですしね」
     治療も必要ないだろうと、布都乃が駆ける。
     雷を宿せし拳を、光刃に合わせる形でぶつけていく。
     穂乃佳もまたぽむと呼吸を重ね、剣を振り上げた。
    「ん……これで……すくう……なの……もどって……くる……の……」
     駆けるぽむの斬魔刀に重なるように振り下ろし、風刃を巻き起こした。
     クロスする斬撃が、六六六人衆に罰じるしを刻んだ時、瑞樹は遥かな空にいた。
     赤い、赤い夕陽を背負いながら、非物質化せた剣に全ての勢いを乗せて振り下ろす!
    「少しの間だけ休んで……次に目覚めたら必ず衝動は無くなってるから」
     肉体ではなく、殺人衝動だけを断ち切るように。
     必要のない衝動だけを断ち切るように!
     瑞樹が刃を引くとともに、六六六人衆はゆっくりと倒れ始めていく。軽く抱きとめたなら耳元に、安らかな寝息が聞こえてきて……。

    ●熱血青春武蔵坂!
     灼滅者たちが各々の治療を行った後、涼し気な風が駆け抜けた時、淳士が小さく身動ぎした。
     ずっと見守っていた穂乃佳が小首を傾げ、のんびりと尋ねていく。
    「むきゅ……これで……大丈夫……かな……おきれ……る……?」
    「ん……あ、ああ、おはよう」
     目をこすりながら、淳士は起き上がる。灼滅者たちへと向き直り、土下座でもするかのような勢いで頭を下げた。
    「ありがとう、ほんっとありがとう! おかげで助かった!」
    「かかか、良かった良かったぁ!」
     そんな背中を、剣がバンバン叩いて労った。
     ごほごほと勢い良くむせて行く淳士に対し、布都乃が改めて問いかけていく。
    「気が晴れたかね? 興味がありゃ学園を訊ねるとイイぜ」
    「ごほごほ……ああ、何だか生まれ変わった気分だぜ! ……学園?」
    「ああ、私も出来るだけフォローする。もちろんキミが望むなら、だがな?」」
     瑞樹もまた勧誘の言葉を投げかけて、説明のバトンは璃理へと渡した。
     ひと通りの説明が終わった後、なつきが締めくくりの言葉を紡いでいく。
    「学園には同じ衝動をお抱えてる人がいっぱいいるし、淳士おにいさんみたいな熱い人も……淳士お兄さん?」
     半ばにて、小首を傾げて淳士の顔をのぞき込んだ。
     淳士は泣いていた。
     泣きながら拳を震わせていた。
    「お前ら……俺にここまで……」
     口元は持ち上がり、目元もまた緩んでいる。
     顔も遥かな空を向いていた。
    「ありがとう! 本当にありがとう! こんな俺でもよければいくらでも協力する! さあ、行こうぜ武蔵坂! 俺がやれることならなんでも、どこまでもついてくぜ!!」
     それは、契り。
     武蔵坂学園のいち員になるという。
     灼滅者たちは再び、新たな未来を選びとった少年を武蔵坂学園へと導いていく。
     この熱き魂が、二度と陰る事のないように……!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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