力、拳に宿るとき

    作者:陵かなめ

     柔道場では、柔道着を着込んだ数名の中学生が綺麗に整列し、背筋を伸ばして師範の話に耳を傾けていた。
    「それでは、稽古を始める。それぞれ位置につきなさい」
    「「「はいっ」」」
     生徒たちが大きな返事をする。
     それぞれ上級者と下級者の組み合わせで、手合わせをするようだ。
     来守谷・晶恵(くるすたに・あきえ)も、真剣な表情で上級者と向かい合った。その瞳には、武道に取り組む真摯な光が宿っている。
    「お願いしますっ」
     大きく礼をし、上級者に向かって足を進めた。相手が頷くのを確認し、襟を取る。
     そして、いつものように腕に力を込め、いつものように投げの姿勢に入った。
     何だか相手の踏ん張りが弱い気がしたが、いつものように投げを放つ。
     瞬間、上級者の身体が聞いた事も無いような派手な音を立て、畳に打ち付けられた。
    「なっ……」
     なにが起こったのかわからず、晶恵は呆然と足元に転がった上級者を見る。
     上級者は意識を失い、小刻みに痙攣していた。
    「ひっ、……人殺し?!」
    「え?!」
     誰かの悲鳴を皮切りに、柔道場が騒然となる。
     晶恵は突然沸きあがってきた力に驚き、呆然と自分の拳を眺めた。
     
    ●依頼
    「格闘技を頑張っている少年少女たちが、突如闇堕ちしてダークネスになる事件、みんなはもう知ってる?」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)は困ったような表情をして、話を切り出した。
    「今回は、来守谷・晶恵さんという中学生の女の子が、柔道の練習中に突然闇堕ちしてしまうんだ」
     通常なら、闇堕ちしたダークネスは人間の意識は掻き消える。けれど、晶恵は元の人間としての意識を遺しており、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状況と言うわけだ。
    「理由の無い闇落ちって、あまりに不自然なんだよね。もしかしたら、何か裏があるのかも……」
     しばらく曖昧な表情を浮かべていた太郎だったが、気持ちを切り替えるように首を振り、皆を見た。
    「そのまま放っておくと、遠からず彼女は完全なダークネスになってしまう。その前に、もし彼女が灼滅者のを持っているなら、救い出して欲しいんだ。もし、完全なダークネスになってしまうようなら、灼滅をお願い」
     太郎は、詳細について説明を続けた。
    「晶恵さんは、突然の力と、投げ飛ばした上級生の状態と、騒ぐみんなの声とで混乱しているよ。そして、混乱しながら暴れるように周りを攻撃し始める。柔道の技を基にして、投げ技と足技を使うよ」
    「そっか。周りに一般人……稽古中の生徒や師範の人が居るんだよね?」
     話を聞いていた空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が、確認するように手を挙げた。
    「うん。だから、最初は晶恵さんを説得しつつ一般人を道場の外へ逃がしてほしいんだよ」
     太郎は言う。
    「勿論、何の説得もせずただ倒すだけだったら簡単だと思うんだ。でも、彼女に恐怖だけを与えて倒しちゃうと、そのまま灼滅してしまう場合うもあるんだよ。何も悪いことをしていない晶恵さんをただ灼滅しちゃうのは悲しいよね」
     最後に太郎はくまのぬいぐるみをぎゅっと握り締めた。
    「格闘家を目指す少年少女……。ケツァールマスクか、それとも獄魔大将であるシン・ライリーが背後にいる可能性は、捨てきれないと思うんだ」
     とは言え、今は目の前の少女を救わなければ。
    「みんな、晶恵さんのことよろしくお願いするね」
     太郎はぺこりと頭を下げ、説明を終えた。


    参加者
    芳賀・傑人(明けない夜の夢・d01130)
    エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)
    透純・瀝(エメラルドライド・d02203)
    中川・始(近所のメイド王・d03087)
    ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)
    鈴木・昭子(かごめ鬼・d17176)
    穿条・紫織(極甘の暴威・d21445)
    檜枝・夜詠(檜を奉る・d30076)

    ■リプレイ

    ●避難
    「兆候も、切っ掛けもなしに能力が覚醒、か……。まあ出来得る限りのことを頑張ろう」
     芳賀・傑人(明けない夜の夢・d01130)は、言いながら道場の様子を窺った。
     柔道場では、柔道着を着込んだ学生達がぴんと背筋を伸ばし師範の話に聞き入っている。
    「わいは小さい頃から修行を重ねて鍛えているんやけど、急に能力が上がるんってどういう事やろ?」
     中川・始(近所のメイド王・d03087)は首を傾げる。
    「それが純粋に強くなりたいという初心者やったら……ホンマになんとかしたいがな」
     やがて、師範の指示で学生達は手合わせを始めた。
     灼滅者達は互いに目を合わせ、各自自分のすべきことを思う。
    「お願いしますっ」
     声と共に、来守谷・晶恵が相手の襟を取った。流れるような動作の綺麗な投げ技だ。
     何かを破壊するような、柔道の練習ではあり得ない派手な音をたて、投げられた上級者の身体が畳に沈む。
     一瞬、静まり返る道場内。
    「ひっ、……人殺し?!」
     声を聞いて、ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)が走り出した。
    「彼女のためにも絶対に助けてみせる! 晶恵さんに人殺しなんてさせるものか!」
     突然闇落ちが起こるなんて、どういうことだろうか。しかし、今は晶恵さんを何としても助けないと、と。
    「だって、今にも泣き出しそうな彼女を助けられるのは、ルリ達だけなんだから!」
     騒然とする人の間を潜り抜け、ルリは意識を失った上級者に手を伸ばした。
    「落ち着いてください! 武道を修める者が、ここで動揺してどうするのです!」
     その後ろから、檜枝・夜詠(檜を奉る・d30076)の凛とした声が場内に響き渡る。
     恐怖で悲鳴を上げていた学生や、晶恵から逃げるように後ずさっていた者が、はっと夜詠を見た。
    「人殺しだなんて人聞きの悪い。単に、当たり所が悪かっただけですよ」
     その様子を見ながら、鈴木・昭子(かごめ鬼・d17176)も皆に声を届ける。
    「外に出られるのでしたら、ご一緒に手当てをお願いいたします。もう状態も落ち着いているでしょう?」
     ルリに抱えられている上級者に、昭子が近づいて行った。
    「ん……」
     皆に見えるように屈んで様子を確かめる。
     意識を失って痙攣していた上級者は、目を瞑ってはいるものの、穏やかな呼吸を繰り返していた。
     ルリの治癒が効いているのだ。
     場内の学生達は、一応、悲鳴を引っ込めた。
     だが皆チラチラと晶恵を見ている。
     その時、道場の入り口に柔道着姿の男が2人現れた。
    「大事ナイよ落ち着いて!」
     場内に響き渡る声を張り上げるのはアルティメット白帯仮面のエルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)。ところで白帯黒帯、どっちが強いのだろう? その辺りは良く分からないけれど、とにかくエルメンガルトは容態の落ち着いた上級者をルリから受け取り担ぎ上げた。
    「ここは我等に任せ、助け合い速やかに退避せよ民草達!」
     良く知らないけれど、柔道の形を取りポーズを決めるアルティメット黒帯仮面は透純・瀝(エメラルドライド・d02203)。
     決まった! とは思うけれど、しかしこれでいいのだろうか……。瀝は覆面の下でひっそりと思案顔を浮かべるのだった。
     とは言え、やたらと格好良い感じの2人に向けられるのは羨望の眼差しだ。ポーズを決める2人は、ESPの力を借り、キラキラと輝いてすら見える。ああ、白帯仮面様、黒帯仮面様……! 素敵……! とばかりに、一般人達は2人のアルティメット仮面に釘付けになった。そして、2人が歩き始めると、一般人もそれに従うように避難を始めた。
    「あの、わ、私は……」
     晶恵は呆然と周りを見回す。そして、湧き上がる力を抑えることが出来ないといった様子で畳を蹴った。
     その拳で一般人を攻撃させるわけにはいかない。
    「はいはーい、私が相手したげるっ」
     穿条・紫織(極甘の暴威・d21445)が晶恵の前に走り込んで来た。
    「持て余してるなら思いっきり出しちゃお? ぜーんぶ受け止めてあげるからさぁ!」
    「あ、この力、私はっ」
     晶恵は表情を引き締め、紫織に向き合った。
    「コッチは俺達に任せて、安心して戦って来い!」
     一般人を庇いながら夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)が傑人に声をかける。
     一般人を避難させる者、晶恵を抑える者、それぞれの役割を担い、灼滅者達は戦場を駆けた。

    ●アルティメット仮面達
    「みんな、落ち着いて! こっちだよ!」
     翌檜・夜姫(羅漢柏のミコ・d29432)が声をあげる。
     すでに闘気をみなぎらせている晶恵の攻撃から皆を守るよう、避難誘導は行われた。
     唐突な闇堕ち、これは一体背後で何が起こっているのだろう?
     避難誘導の補助をしながら、セトラスフィーノ・イアハート(戀燕・d23371)は疑問に思う。もしや、闇堕ちの要因となったものが近くにあるのではないのか? 武器を構えながら、紅羽・流希(挑戦者・d10975)も考える。
    「こっちは安全ばい」
     道場にいた人々を避難させる場所を見つけ、二重・牡丹(セーブルサイズ・d25269)が手招きした。
     闇堕ちの原因は気になるけれど、今は一般人を安全に避難させるのが優先だ。
    「一般人の被害は……無い」
     アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)が誘導し終えた一般人達を確かめた。ひとまず、皆を安全に避難させることができた様子だ。
    「よし、皆落ち着いたかな!」
    「そうだね。あ、その人は引き受けるよ」
     エルメンガルトは上級者を空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)に引き渡した。
    「うっし、じゃあここは任せた! 俺らは戻ろうぜ」
     そう言って、瀝は道場内へと視線を向ける。
    「「白帯仮面様、黒帯仮面様。素敵です。頑張って!」」
     湧き上がる一般人達からの歓声に答えながら、アルティメット仮面達は柔道場へと走っていった。

    ●混乱と力と
     柔道場内では、灼滅者達が晶恵を説得していた。
    「大丈夫、彼は生きているよ。貴方は誰も殺していないの」
     小光輪を飛ばしながら、ルリは必死に声をかける。
    「そんなッ、私は、投げた!! そしたら、凄い音がした!!」
     晶恵は首を振り、拳を握り締めた。戦う型を取りながらも、混乱しているようだ。
     髪を振り乱しながら叫び声を上げる。
    「どうして?! いつも通り、練習通り、投げただけ!! でも、私、人殺しって?!」
     そして、混乱のまま近くにいた紫織に組みかかってきた。
    「急に力を持つと怖いよね? 私もそうだったからわかるよ」
     対して、紫織は影を伸ばす。触手状に伸びた影が晶恵に絡みついた。
    「う、この、力はッ」
     一瞬怯んだが、晶恵は影を振り払いながら前に進み、ついに紫織を投げ飛ばす。
     混乱していても溢れた力は凄まじく、紫織の身体は畳に叩きつけられそのまま幾度も転がった。
     すぐに夜詠が癒しの矢を飛ばす。
    「意識を失ってこそいますが、彼はまだ生きています」
     そして、穏やかに優しく晶恵に語りかけた。
    「貴女は人を殺してなどいませんし、人殺しと呼ばれる謂れはありません」
    「そ、そんな。でも、あんなに怖い音がして!」
     それを否定したいのか肯定して欲しいのか、晶恵が両手を広げる。
    「君が相手をした彼はまだ生きており、ただ君の力が強すぎただけなのだろう」
     運び出された上級者の様子を、君も良く見たはずだ、と。
     縛霊手を構え傑人が走った。
    「いつもと感覚が違うだろう」
    「それは!」
     晶恵が再び自分の拳を見つめる。
    「君は人殺しなどではないし、僕らは君に誰かを傷つけさせるつもりもない」
     傑人の放った縛霊撃により、網状の霊力が晶恵を捕まえた。
    「う、わ、うわああぁぁぁぁ!」
     だが、まだ晶恵は止まらない。
     戸惑いながらも、今度は始に飛び掛ってきた。
    「ほな、先鋒の仕事をさせてもらうわな」
     始は伸ばされる腕を器用に払いながら、間合いを取る。
    「まぁ、よくある事では気持ちは片付かんやろうな」
     出来るだけ襟を取られないよう気をつけながら、声をかけた。
     まともに組み合ってはこちらが不利になる。分かってはいるけれど、やがて襟を取られ始も投げ飛ばされた。身体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
     だが、始は晶恵のことを思い、受けたダメージの痛みをねじ伏せ普段通りの表情を浮かべた。
    「今回は自分で何も出来なくて色々と思う事があると思うが、武道をやっていると色んな事を経験していくもんや」
     違うか?
     武道をたしなんでいる者として、それを分ってくれるだろうか?
    「う、う、ぅ、は。色々な経験? これが?」
     晶恵が乱れた息を吐き出す。その表情には相変わらず戸惑いが浮かんでいたけれど、ただ闇雲に叫ぶことを止めたようだ。
     次の攻撃が来る前に、昭子が影を伸ばした。
    「晶恵ちゃん、きこえていますか」
     貴方だけが異常ではないと伝えるように、昭子は言葉を続ける。
    「あなたは人殺しではありません。手当てをすれば、回復する程度の負傷です」
     理由の無い闇堕ち。意志なく、選択無く、覚悟も切望もする間もなく、墜ちる。そんな理不尽は許せない。
     昭子は誰にぶつけるでもなく、静かに怒っていた。
     そして、晶恵には穏やかに話しかける。
    「皆もあなたも、びっくりしただけ、なのですよ」
    「私は……」
     晶恵は一瞬動きを止め、自分を囲む灼滅者達を窺い見た。

    ●大丈夫
     その時、避難の誘導を終えたエルメンガルトと瀝が帰ってきた。
    「晶恵さん、あんたはまだ何もやっちゃいねえ。あんたの手は何も奪っちゃいねえよ」
     柔道場の窓からは、外の様子が窺える。
     そこには、仮面様にすっかり魅了された人々が談笑を始めていた。
    「ほら、みんな無事だろ」
    「あ……。あの人も……?」
     晶恵は恐る恐る自分が投げ飛ばした上級者のことを尋ねる。
    「安心しろ、大丈夫だ」
     しっかりと瀝が頷き返した。
     微かに晶恵は安堵の表情を浮かべる。
    「あ、あ、あ。でも、私はこの力がッ」
     そして、再び湧き上がる闘気。
     自分が傷つけてしまったかもしれない不安は解消された。だが、どうしようもない湧き上がる力だけは残った。
    「暴走する自分の力が怖いんだね? 大丈夫、ルリ達がいるよ」
     傷ついた仲間を癒しながら、ルリが微笑みかける。
    「ダイジョーブ、慌てないで」
     じっと彼女を見ていたエルメンガルトも声を上げた。
    「キミはちゃんと力を使いこなす練習してきたんだから、落ち着いて動けば力に良いように振り回されちゃわないよ!」
    「どうにもならねえ力は俺らがなんとかしてやっからよ!」
     霊犬の虹を従え瀝が走る。
     自分の力が怖くなった? それは自分にも分かる。でも、だからこそ負けるんじゃないと伝えたい。
    「見据えて、抗え、戦え!」
     瀝が激しい炎を纏った蹴りを放った。
    「くっ」
     晶恵は両腕をクロスさせ防御の姿勢を取る。
     その動きは、ただ混乱していた時の動きとは違って見えた。
    「力が有り余っちゃってるならとりあえず暴れれば少しはスッキリするかなって。だから吐き出しちゃお!」
     続けて紫織が組み合う。
     2人は互いの襟を取り合い互いに投げるタイミングを探りながら押し合った。
    「は、ぁっ」
     気合と共に、晶恵の大外刈りが決まる。
     だが紫織の身体は先ほどのようなダメージを受けなかった。
    「その力はこれからコントロールして行けばいい。僕らと一緒に、その方法を探っていこう」
     皆の声が届き始めているのだと分かる。
     それならばと、傑人がライドキャリバーのオベロンを走らせた。
     キャリバー突撃後、炎を纏った蹴りを炸裂させる。表情には出ていないけれど、出来る限り自分に出来ることをしようと言う思いが溢れている。
    「ぐっ、ま、まだまだ!!」
     ダメージを負いながらも、晶恵は昭子に向かっていく。晶恵の体落で昭子の身体が畳に叩きつけられた。
     だがすぐに夜詠が癒しの矢を向ける。
     昭子は立ち上がり、ぽんぽんと膝のほこりを払った。
    「だって、ほら。わたしたちは、あなたの攻撃では壊れない。おあいこ、なのです」
     静かに相手を見据える。
    「だから、これはただの勝負。決着をつけましょう」
    「ただの、勝負」
     その言葉を繰り返し、晶恵が構えを取った。
    「ホンマは柔道で決着を着けたい所なんやが……」
     言いながら始が走りこんでいった。オーラを集中させた拳から、苛烈な打撃を繰り出す。
     柔道の技ではないけれど、これは試合ではないけれど、晶恵は攻撃を受けながらそこに踏みとどまった。
    「力が、溢れてくるの。でも、この力は、私は、おかしくなる!! それは、嫌だっ」
     その叫びは、皆の耳に届いた。
    「絶対に救い出してみせます」
    「貴方を独りになんかさせるものか。信じているの晶恵さんは力になんか負けないって! 戈を止めると書いて武の一文字なんだから!」
     夜詠とルリが頷き合う。
     2人は仲間の傷を癒しながら、仲間達が最後の攻撃を繰り出す様を見た。

    ●差し出された手を
    「オレたち相手なら多少の無茶は出来るからねー」
     まずエルメンガルトがご当地ビームを放つ。続けて傑人は縛霊撃を始は鋼鉄拳を繰り出す。
     防御の構えのまま、晶恵はその全ての攻撃を受け入れていた。
    「ほら、戻って来いよ! 傷つける為じゃない、挑む為の拳をもう一度ここで振るうんだろ」
     あんたの武道で、もっと強くなるんだ! と、瀝が閃光百裂拳を打ち込む。
    「……けて、助けてっ! 私は、こんなままは、嫌だ!」
     ただ溢れる力に振り回されるのは、嫌だと。晶恵はもう攻撃を繰り出すことは無く、ただ叫んだ。
     ちりんと鈴の音がする。
     昭子の鈴が鳴ったのだ。
    「今、助けますっ」
     気合と共に、昭子のフォースブレイクが決まる。
    「ぁ……」
     攻撃を受け続け、晶恵の身体が傾いだ。
    「目が覚めたらまた遊ぼうね」
     最後に紫織が地獄投げを放つと、晶恵は静かにその場に崩れ落ちた。
     その口元には、安心したような笑みがうっすらと浮かんでいた。

    「でも、私は上級者の人を傷つけてしまったんだよね」
     再び目覚めた晶恵は、少し気まずそうに俯く。
    「武道をやっていれば怪我はつきものですから、気に病む必要はありません」
     夜詠が優しく声をかける。
    「気になるのでしたら、貴女が考えるお詫びをされればよろしいでしょう」
    「うん。考えてみる」
     ようやく、晶恵が顔を上げた。
     そこには、しっかりと力を自分の物にした表情がある。
    「大丈夫、晶恵さんは独りじゃないよ」
     ルリが笑いかけると、晶恵は目を見開き周囲の灼滅者達を見た。
    「力がなきゃ戦えないけど、力を抑えるコトも大事だし、それが出来たのは練習のオカゲだよな。良かった!」
    「今は無力でも次は誰かを助けられる様にな」
     エルメンガルトと始の言葉に、晶恵は嬉しそうにうなずき返した。
    「良かった」
    「本当にな」
     その様子を見て、瀝が飾り気の無い感想を口にする。傑人が小さく頷いた。その短い一言は、この戦いに関わった灼滅者達の思いだった。
    「皆さん、本当にありがとう」
     自分を救ってくれた者達をはっきりと認識し、晶恵がぺこりと頭を下げる。
    「今回起こってしまったことは、誰かに仕組まれた可能性が高いです」
     夜詠がそっと手を差し出した。
    「その敵を倒すためにも、これから私達と共に、戦ってくださいませんか?」
     しばらく逡巡し、晶恵は夜詠の手をしっかりと握り返した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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