鬼女紅葉伝説

    作者:朝比奈万理

     山間の温泉街。
     昼間は活気があったこの土地も、夜にはしんと静まり返る。
     温泉街の真ん中には、観音様をお祭りする社が厳かに建っている。
     この観音様、珍しいことにお堂が北を向いている。
     月明かりがゆるりと落ち木々の紅葉の鮮やかさがお堂を一層荘厳に見せる。
     と、そこへ、蒼い組紐をきれいに身体に巻き、左目に傷を負った真っ白なスサノオが一匹、どこからともなく現れた。
     スサノオは碧い右目で観音様のお堂を見上げると、一声。
     オォォオオォ――……。
     紅葉を揺さぶるその遠吠えは、遠く響く。
     声が消えたころには、その隻眼のスサノオの姿はどこにもなく。
     変わりに地面に足をつけたのは、美しい着物を身に纏った美しい女。
     スサノオと同じように観音様のお堂を見上げる。
     ――このお堂が、あの男に力を授けたお堂。
     このお堂がなければ、私はあの男に討たれずにすんだのかもしれない。
     ならば、このお堂は私の敵ね――。

    「みなさん、集まってくださってありがとうございます」
     美しい着物を身に纏った野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)は恭しく頭を下げて、教室を見回した。
    「スサノオによって新たな古の畏れが生み出されてしまいました」
     場所は、長野県上田市の西側に位置する、別所温泉と言う温泉街。
     その中央に建つ、観音様の敷地内。
    「その古の畏れの名前は、紅葉。遠い昔の話すですが、彼女は都を追放され、長野県の戸隠に流されてしまいました。そこで彼女は、夜な夜な他の村を荒らしまわります」
     この噂は『戸隠の鬼女・紅葉』として京に知れ渡り。
     彼女の討伐を任された武将がこのお堂に祈りをささげると、降魔の剣を授かることが出来、無事に紅葉を打つことができたと言う。
    「その紅葉がスサノオによって生み出され、降魔の剣を授けたこのお堂の観音様を逆恨みして、寺務所にいるお坊さんを手にかけた後、観音様も破壊してしまいます。みなさんにはお坊さんと観音様への被害を防いで、紅葉を灼滅していただきたいのです」
     古の畏れ・紅葉との接触のタイミングは、深夜帯。参拝客を装えば紅葉は現れる。と迷宵は付け加える。
     ただ近所には、寺務所の他に参道のお土産屋兼住宅もあるので、何らかの対処が必要である。
    「紅葉の能力ですが、神薙使いとバトルオーラのような妖術を使ってきます」
     特に射程が近距離の攻撃の威力は強いと言う。
    「地域の人を見守る観音様を壊すなんてもってのほか。彼女の行動の根底が『怨み』の古の畏れなので、十分注意してください」
     話を締めようとして、迷宵ははっと思い出したように付け加える。
    「温泉の外湯ですが、早朝から開いているようです。もしよろしければ、戦いの後にリフレッシュするのもいいかもしれません」
     そう言うと迷宵は小さく微笑んだ。


    参加者
    最上川・耕平(若き昇竜・d00987)
    九凰院・紅(堕月流丙三種第一級戦鬼・d02718)
    志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)
    海藤・俊輔(べひもす・d07111)
    豊穣・有紗(神凪・d19038)
    レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)
    宇佐・紅葉(紅蓮浄焔・d24693)
    日輪・天代(汝は人狼なりや・d29475)

    ■リプレイ


     下弦の月は西の空にすっかり沈み、紺色の空に月という金色の王者を姿は見えない。
     変わりに広がるのは、満天の星空だ。
     ゆるりと漂う温泉の香りと爽やかな風が、灼滅者たちを北を正面にした観音堂へと誘う。
     志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)と豊穣・有紗(神凪・d19038)、日輪・天代(汝は人狼なりや・d29475)、そして最上川・耕平(若き昇竜・d00987)の、光源を持参してきたものが先頭を歩く。
     その後ろをついていくのは、宇佐・紅葉(紅蓮浄焔・d24693)、九凰院・紅(堕月流丙三種第一級戦鬼・d02718)、海藤・俊輔(べひもす・d07111)、レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)。
     皆、無口。
     参道の両脇には住居を兼ねた土産屋が軒を連ねているため。
     石畳のは靴の音を響かせている。その上、言葉を発して住人を起こしても良くない。
     土産屋が並ぶ参道を歩きながら思うことは、八人いれば八様。
     だが、目的はひとつ――。
     八人は黙々とお堂を目指す。
     参道の階段脇に自生している木々はすっかり色づき、ほのかな街灯の明かりでかろうじてその色彩の鮮やかさをうかがい知ることが出来た。
     紅に染まるものもあれば、橙、黄と柔らかな色彩にその身を染めて。
     八人の灼滅者が石畳の階段を上りきると、目の前には色とりどりの木々に守られた美しいお堂が静かに出迎える。
     暗闇に灰色に見えるお堂。
     このお堂が、鬼女・紅葉を倒した武将・平維茂に、降魔の剣を授けた観音様をお祀りする北向観音。
     耕平は殺界形成を、紅葉はサウンドシャッターをそれぞれ展開させ、人払いをする。
     これで戦場の音は聞こえないし、不用意に外に出て来る者はいないはずだ。
     観音堂の扉は硬く閉ざされていたが、向こうの観音様のご利益はいただけるだろう。
     耕平は手を合わせて参拝すると、七人の灼滅者も思い思いに手を合わせる。
     と。
     急に木々がざわめいたかと思うと、今まで穏やかだった風が急に強く鳴く。
     風は紅いの葉をさぁっと巻き上げたかと思うと、お堂の東側の広場に舞い降りたのは、美しい着物を身に纏った、これまた美しい容姿の女。
     女が地に足をつけると、じゃらりと鎖が巻きつく。
     この鎖は今まで灼滅者が出会ってきた古の畏れの特徴だ。
     そして女は目を開けると、灼滅者を見るや妖艶に笑んだ。
    「……これはこれは。こんな夜更けにこの観音に用があるのは、私だけだと思っていたのに……」
    「……もしかして、紅葉か?」
     レイッツァが尋ねると、女はうっとりと目を細める。
    「……いかにも。水無瀬の紅葉とは私のことよ? でも、おかしいわね。どうして私の名を知っているのかしら?」
     女は自らを『水無瀬の紅葉』と名乗った。ならば――。
     天代はざっと前に踏み込むと、
    「もえろ、ましろのこころ」
     と解除コードを唱えた。
     天代の漆黒の髪がほどけたかと思ったら、白い髪が肩に落ちる。
     その手に構えるのは、霊刀『あやめ』。
    「討ちにきたわよ、紅葉。維茂のように。妖を討ってきた、降魔の剣で」
     天代の口から敵の名を聞いた鬼女紅葉、敵の名を聞き一瞬目を丸くしたが、今度は冷ややかに目を細めた。
    「あの男の名も知っている――か。という事はあなたたち、私の目的も知っていそうねぇ」
     そう言うと鬼女紅葉のまとう気が変わる。
     さっきまで静かな微風のようだったのに、嵐のような轟々とした気。
     まるで色付いた葉をすべて払い落としそうな、荒々しい気だった。


     灼滅者たちはそれぞれ武装、俊輔は二重にサウンドシャッターを展開させる。
    「そう、私はこのお堂の観音が憎いのよ。あの男に力を与えた、このお堂がね!」
     語気を強めた鬼女紅葉、右手を巨大化させる様は、まるで羅刹。
     そして、その鋭い爪の生えた大きな掌で俊輔を狙うが、とっさに耕平が彼を庇った。
     凄まじい力で、弾き飛ばされるのを何とか堪える。
    「……恨みを吐く前に、我が振りを顧みてはどう?」
     散々悪事を働いてきたにもかかわらず、討たれた恨みを別の物に移す。
     これは逆恨みであって、討たれても仕方がない。
     鬼女紅葉を睨みつけ、彼女と同じように自分の腕も巨大化させる。
    「まあそんな余裕は与えないんだけどね! さぁ、鬼神の一撃、凌げるかい?」
     そう告げて飛び掛ると、さっきのお返し、巨大化した掌で鬼女紅葉を殴りつけた。
     優しい光を耕平に降り注ぎ、傷を癒すレイッツァ。
    「あなたに恨みはないけれど、ヒトの……、僕たちの邪魔になるなら、消させてもらうよ?」
     言葉通り恨みはないが、古の畏れとして現れてしまったなら、放ってはおけない。
    「あなたたちのような子どもが、鬼女と呼ばれた私をどうやって消し去ってくれるか、見物ね。いいわ、私を止めようと言うならば、完膚なきまでに叩いてあげる」
     余裕の笑みを浮かべる鬼女紅葉。
    「己の欲望の為に他者を虐げる。……それではまさに鬼と同じだ」
     相手は古の畏れ。
     けれど、まるで闇堕ちして羅刹となったかの様な伝承の事は、元神薙使いだった友衛自身、気になっていた。
     しかし今は人狼として、古の畏れを倒すことは、使命。
     友衛は『銀爪』を構えると、螺旋のごとき唸りを放つ穂先を鬼女紅葉に突き立てた。
     俊輔もまた、伝承の鬼女紅葉はダークネスで、だから過去に倒されたのではと考えていた。
     古の畏れの恨みは、都市伝説よりもリアルな感じがするからだ。
    「おねーさん、昔にホントに倒されてるんじゃねー?」
     俊輔はくるんと後方宙返りすると、ローラーダッシュの摩擦から生み出した炎を鬼女紅葉目掛けて蹴り出した。
     有紗もまた、鬼女紅葉はその時代の羅刹だったのではないかと考えていた。
     その鬼女がスサノオによって古の畏れとして生み出された。一体どういう原理なんだろうか。
    「いくよっ、夜叉丸」
     霊犬の夜叉丸に声をかけ、影業をその足元まで忍ばせ、その体を絡めとる。
     夜叉丸も斬魔刀で鬼女・紅葉の体に深い傷を入れる。
    「……」
     ガトリングガンを構えた紅には、やはり抱く疑問があった。
     スサノオはどうして古の畏れを呼び出していくのか。
    (「……相変わらずスサノオの行動がよく分からん。何にしろ、畏れは撃ち斃す」)
     爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を連射して、鬼女紅葉を炎で包む。
    「お前たち『古の畏れ』は、自分がどのような存在か理解しているのか?」
     それは古の畏れと対峙して来たからこその疑問。
     訊くだけならタダだろう。
     鬼女紅葉は袖で炎を払いながら、紅を見据える。
    「私は、水無瀬村の紅葉。『古の畏れ』だなんて存在ではないわ」
    「……、では、スサノオについて知っていることはあるか」
    「スサノオ? 神話の神なら知ってるわ。けど、それがどうしたのよ」
     どうやら、『古の畏れ』は、『自身が古の畏れである』という自覚はないようだ。そして、スサノオの存在も彼らの知るところではないらしい。
    (「スサノオに利用された、哀れな女の妄念……」)
     でも、古の畏れは天代の宿敵だ。灼いて滅するのが使命。
     天代の放つ白き炎は、自身と紅葉を包み込み能力を上げる。
    「お前は癒しの力も使うようだけど、……炎は、火種まで消しきらないと、すぐにまた燃え広がる。戦いながら癒しきれるかしら?」
     その手に浮かぶのは、白い炎。
     天代の次手は炎の攻撃。大量の炎でダメージを与えんとする。
     鬼女紅葉は、灼滅者が次々放つ重い攻撃を受けて顔をしかめる。
    「……鬼女だなんて京で噂されてしまったら、倒されて当然でしょう?」
    「ならば、これ以上悪い噂が流れねえ様にじっとしててくれよな?」
     紅葉は鬼女紅葉との間合いを詰めると、その腹部に斬撃を食らわせ。
    「俺、あんたの伝説が全部マジとか思ってねえんだ。悪事働いたにせよ、朝敵扱いで尾鰭付けられてそうだし」
     その耳元で告げる。
     紅葉は自分と同じ名の鬼女を、他人とは思えなかった。
    「あんた、村人を加持祈祷で治したり読み書き教えたって言うじゃん。だから俺は、あんたが根っからの鬼だったとは思えねえんだよ」
     善行もたくさんしてきた紅葉が、全くの悪女として語られているのは歯がゆく辛いもの。
     ならば、自分達の手で改心させたいと思っていた。
     友衛も言葉を重ねる。
    「平和に暮らしていた時のあなたは優しく、村人にも慕われていたと聞く。それは確かにあなたの本心だったのではないのか?」
     二人の言葉に、鬼女紅葉の瞳が微かに揺れる。
    「……あなたたち……」
     どこまで自分の話を知っているのだろう……。
     鬼女と呼ばれて尚且つ妖術を得た紅葉は、神仏に縋った維茂に倒される。
     自分を理解してくれる者など、皆瀬村の村人のごく少数だと思っていた。
    「……でも、私には恨みがあるのよ」
     自分を討ったあの男は、自分との戦いで傷ついて死んだ。その男の体は今もこの地に眠っている。
     あの男を討とうにも、もう自分に手はないのだ。
    「……ならば、あの男が力を頂き、あの男が手入れしたこのお堂は、私の仇なのよ!」
     紅葉は危険を感じ、とっさに後ろに飛んだ。
     鬼女紅葉の気が、再び荒々しく鳴いたからだ。


     鬼女紅葉の一撃……羅刹の腕での攻撃は重い。
     そして、彼女は適所で回復を重ねて行った。
     しかし灼滅者も押し負けてはいなかった。
     炎をまとう攻撃を仕掛けていくことで、着々と鬼女・紅葉に回復しきれないダメージを与えていく。
     そして、羅刹の腕の攻撃の後には、回復手ではない者も積極的に回復に回る。
     そして何より、篤い連携が灼滅者に勝機を生み出していた。
    「そろそろ限界なんじゃないのっ」
     有紗はリングスラッシャーを飛ばして、とっさに受身の姿勢をとった鬼女紅葉の着物と体を切り裂いていけば、夜叉丸の六文銭射撃が攻撃に追い討ちをかける。
     その傷ついた懐に飛び込むのは、俊輔。
    「おねーさん、前見てないとだめだよー」
     鬼女紅葉はとっさに回避の行動をとるが間に合わない。俊輔はその足元に致命傷となる傷を刻み込んだ。
     大きくよろける鬼女紅葉に、低い体勢で握る拳にオーラを込めて。
     大きな被害が出る前に、灼滅する。
     耕平はその帯目掛けて連打を浴びせる。
     地面に落ちるのは、紅の葉の如く鮮血。
     それは鬼女紅葉の脚から流れるものだった。
     このままではお堂の観音はおろか、お堂に傷をつけるのも怪しくなってきた。
     焦りをにじませる鬼女紅葉の体に刻まれるのは、冷気の氷柱。そして、耳に届いたのは問いかけ。
    「ねぇ、あなたはどうして都から追放されてしまったの?」
     穂先から妖気を棚引かせた槍を構え、レイッツァが問う。
    「……あなたたちは、私のことをよく知っているみたいね……」
     鬼女紅葉が語ったのは、局時代に結ばれた将軍の御台所の身に降りかかった病。それは紅葉が呪ったものだった。それが高野山の高僧に見破られ、遠く戸隠まで流されてしまった話だ。
     なぜ御台所を呪うに至ったのか。
     鬼女紅葉は明かさなかった。
     そこにはおそらく、男女の情があったのかもしれない。
     ただひとつ、灼滅者の目に見える真実。それは、その話をしている時の鬼女紅葉の横顔は、憂いを帯び、悲しげだということ。
     話し終えると鋭い視線を灼滅者、いや、その向こうのお堂に向ける。
    「……それでも、私の邪魔をするものは、斬り裂くのみ!!」
     生み出されたのは激しく渦巻く風の刃。その刃は凄まじい轟音を立てて、友衛を狙うが。
    「そこまでだ」
     ガトリングガンを盾にし、その攻撃を一身に受けたのは紅。
     無数の刃がその砲身に傷をつけ、形を歪ませる。
     もちろん紅もその身に無数の傷を負うが、武器に傷が付いたことに対し小さく舌打ちをした。
     そして武器に炎をまとわせると、鬼女紅葉目掛けて叩き付けた。
     続くのは友衛。
     この地に眠る『畏れ』の力をまとい、斬り込むのは鬼気迫る斬撃――。
     は、少しだけ鬼女紅葉をはずした。
     かつて何があったのだとしても、怨みで罪を重ねるのはいけない事。だけど、あの横顔があまりにも悲痛に見えて情が移ったのだ。
    「思いとどまっては、くれないだろうか?」
     友衛の言葉に、一瞬固まる鬼女紅葉。
     だけど。
     鬼女紅葉は後ろに飛んだ。
    「――疾ッ!」
     そこに飛び込んで鬼女紅葉を切り捨てたのは天代。
     ぐらりとその体が揺れるが、灼滅まではあと少し足りない。
     ならば。と、現代の鬼娘紅葉は自身の腕を大きく巨大化させた。
     古の鬼女紅葉目掛けるのは、凄まじい膂力の殴打。
    「……謝りゃ許して貰える時世じゃなかっただろうけど……、悪事は悪事できちんと謝罪する気持ちがあれば、こんな時代に呼び起されずに済んだんじゃねえかな……」
     張り飛ばされた鬼女紅葉。
     ひれ伏していた顔を上げ、満身創痍で震える腕をお堂に伸ばすが。
     紅の光に包まれて秋の風に吸い込まれていった。
     どこからか飛ばされた紅の葉が、はらはらと舞い降り、鬼女紅葉が消えた場所に止まる。
     小さな呟きで、短歌を一句詠む紅葉。
     それは、鬼女紅葉が呼ぶところのあの男・維茂が彼女を討った後に詠んだとされる歌だった。
     気がつけば、東の空は黎明の刻を知らせていた。
     

    「何とか終わったね」 
     武装を解除した耕平の、安堵のため息交じりの声が合図となり、次々と武装を解く灼滅者。
     紅葉は静かに鬼女の冥福を祈ると、踵を返してまだ扉が開くことのないお堂の正面へと歩を進めると、祈りをささげる。
     今後の戦いに、加護がありますように。と――。
     しばらくして、灼滅者たちは北向山の観音を後にした。
     耕平と俊輔、そして、友衛、有紗、紅葉、天代は外湯の温泉に。
     レイッツァも外湯までは着いては来たが、温泉には入らず小ぢんまりとしたラウンジで、お目当ての温泉饅頭を見つけてご満悦だ。
     しばらくすると、温泉に入っていた六人が出てくる。
     信州最古の温泉と呼ばれる信州別所の七久里の湯は、灼滅者の疲れを癒したようだ。
     美人の湯として知られるなめらかなお湯によって、男子も女子も心なしかお肌の調子がよくなっている。
    「見よ、この温泉で潤ったこの卵肌を!」
     有紗は得意げに俊輔のほっぺをツンツン突くが、明らかに俊輔のほっぺの法が柔らかく……。
    「……って、女子のボクが負けた……だとぅっ!?」
     自慢してきたと思ったらガックリとうな垂れる有紗の忙しなさを不思議そうに見ていた俊輔。
    「ま、いーんじゃねー?」
     とりあえずフォローを入れた。
     畳敷きの長椅子で牛乳の瓶の手に小首をかしげてぼーっとする天代。
     その隣では友衛が同じように瓶を手に持ったまま、少ししんみりとしていた。
    「身も心も清めつるかな、か……」
     一方、外湯の屋根の上。
    「……もう秋か」
     紅は山の向こうから昇ってきた朝日に照らされる紅葉を、静かに眺めるのであった。

     人は言う。
     鬼女・紅葉を狩ったから、紅葉鑑賞を『紅葉狩り』と。
     秋の風は、一枚一枚、紅く染まった葉を舞わせていった。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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