●何だコレ
静まり返った真夜中の街中。
「「「定礎! 定礎!」」」
とあるビルの定礎石の前で、声を潜めつつ騒ぐ三角頭の変な連中がいた。
もう見た目もやってる事も変である。
更に異様なのは、三角頭達の他に、穴の開いた紙袋を被せられ縛られた人々が3人、定礎石の前に横たわっている事だ。
「「「定礎! 定礎!! 定礎!!!」」」
三角頭達のテンションは、声を潜めたまま上がっていく。
そして――。
「ォ……ォォォォォオオオオオ!」
袋を被せられた1人の頭が膨張し、紙袋が内側から引き裂かれていく。
その頭は『定礎』と掘られた石の頭になっていた。
●怪しげな儀式の正体は
「正直ね、最初はペナント怪人がおかしくなったのかと思ったわ」
しれっとひどい事を言いながら、夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)は、状況の説明を続ける。
「でも残念ながら正常。裏にいるのは、安土城怪人ね。琵琶湖大橋の戦いが、武蔵坂学園の介入によって未然に防がれた事で、新たな作戦を始めたみたいよ」
で、その結果が、アレである。
「ペナント怪人達は深夜2時頃、名古屋市内のとあるビルの定礎石の前に現れるわ」
真夜中に行われるそれは『誘拐した一般人を強化一般人か定礎怪人にする儀式』だ。
「儀式に使われる一般人は3人。わざわざ滋賀県で誘拐した人を運んで来るみたい」
怪しい上に妙に手が込んでいて、一般人が巻き込まれる儀式。
潰さない手はない。
「ペナント怪人は3体。どれもご当地ヒーローと同じサイキックを使うわ。1体だけ日本刀を装備していて、それが一応のリーダーみたい」
リーダーと言っても、日本刀を持っている以外の差はない。班長程度のリーダーだ。
戦力的にもペナント怪人3体なら、油断しなければ充分勝てる敵だ。
「でも、今回は勝負を急いで貰う必要があるわ。儀式開始から10分。それまでにペナント怪人を倒せなかったら、一般人が最低でも1人、強化一般人か定礎怪人になってしまうから」
なら儀式をさせなければ良さそうなものだが、それでは敵のバベルの鎖で気付かれて、儀式の場所を変えられてしまうのだと言う。
「確実に儀式を止めるには、儀式を始めた瞬間に襲撃するしかないのよ。オフィス街だから、周辺のビルとの隙間とか、近場で隠れる場所には困らない筈よ」
儀式を待たなければならないとは言え、上手く隠れれば、不意打ちも可能であろう。
「それと、戦闘中に一般人を避難させたり保護する必要はないわ」
もし一般人を逃がすと、ペナント怪人達はそちらを優先して攻撃する。
逆に一般人を逃がさなければ、ペナント怪人が一般人に危害を加える事はない。
「単なる戦力増強の儀式には思えないけれど、なんにせよ放っておけるものじゃないわ」
新たな怪人の発生を阻止し、誘拐された人達を助けられるかは灼滅者に掛かっている。
「遅い時間の戦いは大変だと思うけど、頑張ってね。気をつけて、行ってらっしゃい」
そう言って柊子は、眠気覚ましに効くという触れ込みの飴を差し出した。
参加者 | |
---|---|
東雲・凪月(赤より緋い月光蝶・d00566) |
二階堂・空(大学生シャドウハンター・d05690) |
羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166) |
ラシェリール・ハプスリンゲン(白虹孔雀・d09458) |
大豆生田・博士(凡事徹底・d19575) |
佐見島・允(フライター・d22179) |
谷堂・維津(届かない声・d28804) |
園城寺・琥珀(叢雲掃ふ科戸風・d28835) |
●草木も眠る丑三つ時に
名古屋市内に現れたペナント怪人達は、それぞれ背負っていた一般人を、ビルの定礎石の前に降ろしていく。
「よし、儀式を始めるペナ。定礎!」
「「定礎!」」
そして怪しい儀式が始まった。
直後、周囲の建物の隙間から数人の人影が飛び出す。
「日本列島! 全国各地! ご当地愛がある限り! 北国のニュー☆ヒーロー羊飼丘・子羊、参上!!」
名乗りを上げた羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)が、山吹色のオーラに包まれた左手を変異させて、手近なペナント怪人を殴り飛ばす。
「ご当地ヒーローだと!?」
「また、怪人らしく悪巧みしているようだね。それを見過ごすわけにはいかない俺達は正義のヒーローかな、ははは」
驚くペナント怪人をおどけた口調で笑い飛ばした二階堂・空(大学生シャドウハンター・d05690)は、銃口を向けて引鉄を引く。
放たれた弾丸が爆ぜ、炎が広がり三角頭を飲み込んで行く。
「くっ、儀式の計画がばれていたペナか!?」
「その儀式、成功させるわけにはいけないんだよな。さぁ、楽しもうじゃないか!」
続くラシェリール・ハプスリンゲン(白虹孔雀・d09458)が、星の煌きと紅玉を持つ宝剣に破邪の輝きを纏わせて、軽く焦げたペナント怪人を斬り裂く。
「時間勝負……焦らず、冷静にかかろう」
眠気覚ましに舐めていた飴を奥歯で噛み砕き、東雲・凪月(赤より緋い月光蝶・d00566)も同じく破邪の輝きを纏った剣を振り下ろした。
頭の中でシュミレーションの通り、ビハインドの華月の攻撃に合わせて焦げたペナント頭の先端を斬り飛ばす。
「こうなったら迎撃しつつ、儀式を続けるペナ! 定礎!」
「定――ん? その光は何ペナ?」
儀式を続けようとしたペナント怪人の頭に、小さな光。
それを辿って見上げた別のペナント怪人が見たものは、ビルの屋上から飛び降りて来た佐見島・允(フライター・d22179)の姿だった。
ジェット噴射の勢いに落下の勢いも加えて、五芒星を映す光に導かれた銀の杭が焦げてる三角頭に叩き込まれる。
「グペナッ!?」
「何なんだよ、定礎怪人って。そんなふざけた奴ら、増やしてたまるかっつの」
地面に叩き付けたペナント怪人の上に着地した允が、怪人の上から降りて言い放つ。
「しもつかれ!」
入れ替わる形でライドキャリバーのしもつかれが突撃――と言うか、轢いた。
「圧殺! 男体山ダイナミッッッック!」
焦げた上にタイヤ痕のついたペナント頭に大豆生田・博士(凡事徹底・d19575)が飛び掛り、投げ倒す。
「うーん、眠いです。いつもなら寝ている時間ですが、仕方ありませんね」
出そうになったあくびを噛み殺し、園城寺・琥珀(叢雲掃ふ科戸風・d28835)は縛霊手の爪でペナント怪人の急所を狙う。
「ペナッ!」
だがペナント怪人は倒れたまま地面を転がって、直撃を避けると同時に三角のビームを放った。
ボコボコにやられているように見えて、防御はしっかり取っていたようだ。
「『怪人化させちゃうなんて……。許せないね! なんとかしないと』」
マスクで口元を覆った谷堂・維津(届かない声・d28804)は、内心の緊張を隠すようにパペットのベンを勇ましく操り、癒しの力を持つ光を降り注がせる。
謎の儀式を巡る、ペナント怪人と灼滅者達の戦いが始まった。
●三角頭との戦い
「ペナッ!」
気の抜けた声とは裏腹に、ペナント怪人の振るう刀が三日月を描き、鋭い斬撃が後ろの灼滅者達へ放たれる。
「ここはわたくしが」
間に合うと判断した琥珀は、斬撃の一部を阻み後ろの維津を庇う。
「「ペナントビーム」」
その直後、刀を持たない2体は三角の光線を放っていた。
寝かされた一般人を気にして下がり気味だった琥珀は、別の攻撃を庇った直後もあって間に合わない。
「華月、頼むよ」
凪月のビハインドが食い止められた光線は、1発だけだった。
「何かあのペナントを見ているとイライラして……千切りたくなってくる!」
止め切れなかった光線に撃たれたラシェリールが、孔雀青の瞳に怒りを燃やしペナント怪人に飛び掛る。
「こっちペナ!」
「だったらお前から千切る!」
間合いに飛び込んだ別のペナント怪人に、鷲を象る黄金のオーラに包まれた拳を引き裂くように連続で叩き込む。
「おこだよ! 僕なまらおこだよ!!」
庇いに前に出たペナント怪人を迂回する子羊の表情は、笑顔ではあったが目が笑っていなかった。
なまらおこ、は本心である。
「ご当地怪人なのに、何ソロモンの悪魔みたいな儀式してるんだよ!」
「怪人が儀式する時もあるペナごふぅっ!?」
オモチャみたいなロッドでぶん殴り、同時に流し込んだ子羊の魔力が怪人の中で弾けてペナントが歪む。
「そこっ!」
「させんペナ!」
更に凪月が追い討ちをかけようとしたが、オーラを纏った拳の連打は別のペナント怪人の刀に阻まれる。
「んー? あいつら全部ディフェンダーか」
「そうみたいだ。時間も限られてるし、皆で息を合わせないと難しそうだね」
庇い合う敵の動きでポジションに気付いた空に答えながら、凪月は頭の中でシュミレーションを組み立て直す。
「右手の個体が最もダメージが入っている筈です」
「『回復はボク達に任せて!』」
集中攻撃を促しながら、琥珀は癒しの力に変えたオーラをラシェリールに向ける。
その琥珀の傷は、維津が縛霊手に集めた霊力で癒していく。
「他の敵も忘れちゃだめだべ。しもつかれ、一緒に撃つべよ!」
博士は敢えて敵の出鼻を挫く為、狙いを絞らずに連続でガンナイフの引鉄を引く。ライドキャリバーの機銃も加わり、連続射撃がペナント怪人達の足を撃ち抜いた。
そこに、ふわりと優しい風が吹き渡りペナント怪人に斬られた傷が癒えていく。
「人気のないビル街ってすげー不気味……の筈なんだが、ペナント連中の所為で全然怖くねーぜ」
風を招いた允の、眉間のしわが少し深くなる。
悪霊の類が苦手な彼だが、こんな深夜の人気のない街でビビらずにいられるのは、珍妙と言える三角頭とペナペナ口調のおかげ――かもしれない。
「この緊張感の無さも奴らの作戦なんじゃねーかと思っちまうな」
「ははは、狙ってやってるんだとしたら飛んだ策士だねえ」
允の呟きにどこか乾いた笑いを返し、空は右に地を蹴って白金のイブニングスターが彫られたマスケット銃をぴたりと構える。
別のペナント怪人が射線を遮りに来たのを見て、空は方向を変えて前に飛び出した。
「ペナッ!?」
虚を突かれたペナント怪人を、マスケット銃に付いた刃が斬り裂いた。
●タイムアタック
カァン、と甲高い金属音を鳴らして、標識に当たって跳ね返った弾丸が真後ろからペナント怪人の頭を撃ち抜く。
「て、定礎ォォ――」
最期に儀式を続けようとしたのか、そんな断末魔を残してペナント怪人が爆散した。
「やれやれ、そんなに重要な儀式なのかな?」
残る2体のペナント怪人へ、空は今しがた跳弾を放った銃口を向ける。
「5分経過だぜ」
そこに、爆発に紛れてアラームが鳴っていた事を伝える允の声が後ろから聞こえた。
(「残り時間は半分、か……」)
声には出さず、胸中で凪月が呟く。
一般人を無事に救助出来るリミットは、あと5分。残るペナント怪人は、2体。
集中攻撃で1体ずつ倒す予定だったが、ペナント怪人達の庇い合いと、ビームによって度々怒りで連携を乱された事が響いていた。
だが、残った2体にはどちらも無傷ではない。可能性はまだ充分に残っている。
「時間がない、速攻で片付ける!」
「来るなら来いペナ!」
ペナント怪人が正眼に構えた刀に、ラシェリールの振るう宝剣が横から叩きつけられ――なかった。
刀に当たる前に、宝剣の刃は非物質となり、ペナント怪人の霊魂を斬り裂く。
「儀式で怪人増やそうってのは判ってんだよ!」
間を置かず、飛び掛ってくる子羊を見たペナント怪人は、素早く掲げた刀を真っ直ぐに振り下ろした。
「っ……こんな儀式でご当地怪人を生もうだなんて間違ってる!」
肩を斬られても構わず、子羊はオモチャの様な剣を振り下ろして、ぶん殴った。
「余計なお世話ペナ。これでも喰らえペナッ!」
「どっちのご当地パワーが上か勝負だべよ! 栃木の底力見せるだ!」
別のペナント怪人がビームを放とうとしているのを見て、博士も掌に栃木のご当地パワーを集める。
「ペナントビーム!」
「必殺! ご当地かんぴょうビ~~~~~~ム!」
三角のビームとかんぴょう色のビームが、2人の間でぶつかり合う。
「ペナッ!?」
「ぐっ……まだまだぁ!!」
共に反動でたたらを踏むが、僅かに早く体勢を直した博士のビームが三角の光を撃ち抜いてペナント怪人に届いた。
「敵の数も減った事ですし、わたくし、もう少し攻撃を重視しますね」
それを見た琥珀は、後ろの2人にそう告げると己の魂を削り冷たい炎を燃やしてペナント怪人達に放って凍らせる。
「そだな。回復は、俺と谷堂できっと何とかなる……筈!」
「『うん。出来る事は少ないけど、出来る限り頑張るよ!』」
允は護りの符を、維津は自身の治癒の力も高める暖かな光を放って子羊の傷を癒す形で応えた。
●儀式の行方
「その程度で、俺の技は止められないよ」
光を纏った剣で振るう暗殺の技。
凪月の剣はペナント怪人の構えた刀を掻い潜り、三角の頭を大きく斬り裂いた。
「ペ、ペナァァァ!」
2体目のペナント怪人が爆散する。
これで残るは1体。だが、少し前に2度目のアラームが鳴っていた。
「こうなると時間とも勝負だな!」
残り時間は減っている。それでもラシェリールは慌てず、椿を象る紅玉の飾られた杖をペナント怪人に叩き付ける。
「ぎ、儀式は続けるペナ……定礎!」
「しつこい! ご当地怪人なら、もっとご当地愛に誇りを持ってご当地愛に溢れた事をしてよね!!」
まだ定礎定礎と言おうとするペナント怪人に、山吹のオーラを纏った子羊の鬼の拳が叩きつけられ、それ以上言わせるかと黙らせる。
たたらを踏んだペナント怪人の周囲を、空が走り回る。右へ左へ、前へ後ろへ。素早く不規則に、思うが侭に。
「はは、遅い遅い」
高速の動きで作った敵の死角から、マスケット銃に付いた刃で斬り裂く。
ピピピッ。
3度目のアラーム音。時間は容赦なく過ぎていく。
「ヤベェよコレ、マジで……こうなりゃ俺も攻めるっス!」
すっかり慌てた様子の允が、星の煌きと重力を纏った重たい蹴りを叩き込む。
「『ボクもいくよ! Benjamin』」
続いて飛び出した維津を守るように悪魔を思わせる形を取った影の刃が、ペナント怪人を斬り裂いて行く。
「ペナァァ!」
2人の急襲を受けながら、ペナント怪人は奇声を上げて飛び上がった。
「させませんっ」
ペナント怪人が放った飛び蹴りを琥珀が体で阻んで、逆に膝に縛霊手の爪を突き立て引き裂く。
「しもつかれ、一緒に突撃だぁ!」
ライドキャリバーのシートを足場に、博士が飛び上がる。
「キャリバー突撃&ご当地日光杉並木キィッッッックッ!!」
膝を裂かれて動きの止まったペナント怪人をキャリバーが撥ね上げ、それを博士が蹴り落とし地面に叩き付ける。
「ぺ、ペナッ……」
ふら付きながら起き上がったペナント怪人の背中に、子羊とラシェリールがそれぞれロッドを叩き付ける。
殴った衝撃と魔力が爆ぜた衝撃でペナント怪人の体が浮き上がり――霊障で飛んできたゴミ箱が直撃した。
「ナイス、華月」
ゴミ箱と反対から間合いを詰めた凪月が、オーラを纏った拳の連打を叩き込む。
「ま、俺達に見つかったのが運の尽きだな」
空のマスケット銃の銃口に暗い想念が集まる。
「他のペナント達……後は頼むペナァァァァ!」
至近距離で放たれた漆黒の弾丸が撃ち抜かれ、最後の1体も夜の街に爆散した。
「大丈夫スか!」
「怪我はないか?」
允とラシェリールが、3人の一般人を縛っていた縄を解いていく。
「話は……聞けそうにないか」
呆然として頷くばかりの放心状態な3人の様子に、空は苦笑を浮かべる。
考えてみれば、縛られ紙袋を被せられた上に、すぐ傍で人知を越えた戦いが繰り広げられたのだから、無理もない事だった。
「定礎石ですか……あんまり気にしたことありませんでしたが、建物の礎ということでご当地パワーを持つものなのでしょうか」
「定礎って、前にアメリカンコンドルっちゅー奴が言ってた、グレート定礎と関係あるんだべかな?」
定礎石を前に敵の思惑を思案する、琥珀と博士。
「この儀式が日本のご当地幹部に通じているなら……全て、潰さないとね」
きっぱりと言う子羊は、まだ笑顔だけど目が笑っていない。
「『とりあえずは一件落着、なのかな?』……眠い」
腹話術をするもパペットは動かず、思わず本音が混ざる程に、維津は眠気に襲われていた。初の実戦と慣れない夜更しで、かなり気疲れしているのだろう。
「そうだね。儀式の真意に関する手がかりを、探したい所だけど」
ともすれば立ったまま寝かねない維津から視線を定礎石に移し、凪月が呟く。
ともあれ、犠牲者を出さずに儀式を阻止できた。
充分な成果を、彼らは上げたのだった。
作者:泰月 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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