蒼き悪魔の再起

    作者:天風あきら

    ●接触
     地下の儀式場に、一人の女がいた。
     外見年齢にして二十代半ばほど。青いマントに身を包み、長めのストレート・ボブに真っ直ぐ切り揃えた髪と、顔の左半分を覆う禍々しい仮面がその表情を押し隠す。そうでなくとも、彼女が表情を顔に乗せることなど滅多になかったのだが。
    「レヒトは死んだ……そして蘇ってなお、また死んでいる」
    「そうそう、そうなりたくなければ、貴女も私達の仲間になっておくのが得策だと思うわよ」
     女の背後には、軽そうな雰囲気を持つ少女が一人。その軽薄さが、あの男を思い出させる。
     だが、その実力と格においては及びもしないだろう。
    「それにしてもお姉さん、綺麗な肌してるじゃない──」
     少女が女に近づき、指先を女の頬から喉元へ、そして胸元へと伝わせようとした時、その手がぱん、と振り払われた。
    「悪いが、お前の話に乗る気にはなれん」
     女がを鳴らすと、儀式場を囲む四方の垂幕の奥から、強化一般人が続々と現れる。
    「帰ってラブリンスターに伝えろ……と言いたいところだが、我らのアジトを知った貴様を生かして帰すことも出来ん。ここで消えてもらおう」
    「なっ……ちょっと、怖い顔と冗談はやめようよ、リンクちゃん」
    「この顔は生まれつきだ。そしてこれは──冗談ではない」
     じりじりと、少女──淫魔を包囲する強化一般人達。
     そして、彼女が数の暴力に蹂躙されるのに、そう時間はいらなかった。
     
    ●蒼き悪魔の今までとこれから
    「皆、集まったね」
     そう言って、篠崎・閃(中学生エクスブレイン・dn0021)は皆を見回した。
     早速本題に入る。
    「ラブリンスター配下の淫魔が、ダークネスに殺される事件が散見されているのは知っているかい?」
     頷く情報通がいくらか。
    「淫魔達はサイキックアブソーバー強奪作戦で減った自軍勢力を回復する為、各地の残党ダークネスを仲間にしようとしているみたいなんだけど……交渉が決裂して返り討ちみたいな目に遭っているケースも珍しくないようなんだ」
     ぎしり、と音を鳴らして椅子に座る閃。
    「ラブリンスターにはサイキックアブソーバー強奪作戦の時の恩もあるし、放っておくのもどうかとは思う。そしてそれ以前に、各地に散らばり潜んでいる残党ダークネスが事件を起こす前に倒すチャンスは、逃すべきじゃないだろうね。どうだい、行ってくれるかい?」
     灼滅者達は、周囲の仲間達の顔を見合わせて、やがて大きく頷いた。
     それに閃も頷き返し、話を続ける。
    「ありがとう。──それで、敵のデータなんだけど……名前はリンク・ブラオ。鶴見岳の戦いでレヒト・ロートと共に現れた、元アモン配下のソロモンの悪魔だ」
     知っている者、覚えている者。また、その頃にはまだ武蔵坂学園に加入してすらいなかった者もいるだろう。
    「彼女はあの戦い以降、少数の精鋭と共に今まで息を潜めていたようだ。坂道を転がる石のように立場を落としていくレヒトを見限り、完全に別々に行動していたみたいだね」
     そんな彼女に目を付けたのが……ラブリンスター。
    「リンクはラブリンスター配下の淫魔を撃破し、また再び身を隠そうとしている。ラブリンスターの行動によって、未来予知がサイキックアブソーバーに繋がるようになった今がチャンスだ」
     頷き返す灼滅者達。
    「リンク自身は魔法使いと、契約の指輪に由来するサイキックを使う。また、行動を共にする強化一般人は六人。武装はガンナイフが三人、契約の指輪が三人だよ」
     閃は立ち上がり、黒板に四角を描く。
    「これが戦場になる地下室の見取り図だと思ってほしい」
     黒板に書き加えらえる青い点が部屋の奥に一つ、赤い点が地上階への階段側に一つ。その赤い点を取り囲む白い点が六つ。リンクと淫魔、そして強化一般人達──。
    「出口はこの……淫魔の背後にある階段だけ。人ひとりが通れるだけの幅しかない」
     地上に出れば、そこは放置された手入れも存分にされていない山荘。周囲に民家はなく、細い道は一応あるが人通りもない。
     そして時刻は今から向かえば、黄昏時。魔術儀式の為か、灯りは数か所に灯されている。戦闘に支障はないだろう。
    「接触タイミングは、その淫魔が六人の強化一般人に囲まれて倒される寸前。彼女は戦闘が始まると逃走を図る。一緒に戦ってはもらえないね」
     そして戦闘が始まれば、彼女の逃走は容易だろう、とも閃は加える。
    「淫魔もダークネスはダークネス。敢えて助けないという方針を取ることも出来る。どうするかは……君達に任せるよ。よろしく頼む」
     チョークを置いて振り向いた閃は、灼滅者達に頷きかけた。


    参加者
    宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)
    神虎・闇沙耶(悪鬼獣・d01766)
    橘・彩希(殲鈴・d01890)
    サフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)
    シュテラ・クルヴァルカ(蒼鴉旋帝の血脈・d13037)
    竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    志水・小鳥(静炎紀行・d29532)

    ■リプレイ

    ●恩と義に因りて
    「きゃあああ!」
    「バウっ!」
    「わうわうっ」
     上がる女──淫魔の悲鳴、そこへ割り込む犬の吠え声。宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)の霊犬・月白と、同じく志水・小鳥(静炎紀行・d29532)の霊犬・黒耀のものだ。
    「な、何だお前らは!?」
     突如割入った霊犬、そして続々と現れる灼滅者達の一団に、狼狽える強化一般人達……そして淫魔の女。その中で、異様に表情を変えない、左半仮面の女が一人。
    「貴様等……武蔵坂学園か?」
    「!?」
    「何だって?」
     ざわめく強化一般人達。仮面の女……リンク・ブラオからすれば、他にこれ程の規模と多種多様な装備や能力を持つ介入勢力が思い当たらなかったというだけなのだが。
    「助けに来ました、逃げて下さい」
     『恩は返すもの』として、淫魔を後方に庇うサフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)。
    「助けてもらった恩は返す。ラブリンスターによろしくね。貴女の名は聞かないけれど」
     シュテラ・クルヴァルカ(蒼鴉旋帝の血脈・d13037)もまた、複雑な心境を滲ませつつ、彼女の横に並び立つ。
    「男は背中で護るって言うだろ?」
     そこへ、彼女達の前に立つ小鳥と黒耀。平均からすれば高身長である彼の背は、とても力強くて頼りがいがある。
    「早く行け。巻き添えを食うぞ」
     神虎・闇沙耶(悪鬼獣・d01766)は言葉少なに、淫魔を後方へ押しのけた。
    「貴方達……!」
    「むやみやたらに動くと怪我するんだよ。先の戦いで、ラブリンスターには恩がある……だから、今回は助ける」
     と、綸太郎。
     彼らの言葉を聞いて意を決した淫魔は、くるりとその場に背を向けた。
    「今回は、ね?」
    「!?」
     とすれ違い様に可愛らしくこそりと呟く、橘・彩希(殲鈴・d01890)。そこに僅か潜んだ冷気に若干身を竦ませた淫魔の女だったが、それでも全力で階段を駆け上る。
    (貸し借りの関係だなんて、彼らは考えるのかしら)
     彩希は遠ざかるその足音を聞きながら、そんなことを考えた。彼らは、そして自分達はどうなのだろうか。

     ぱんっ。

     しかし思考は、途切れさせられる。強化一般人の放った一発の銃声によって。
    「ひ、ひいぃ……」
    「馬鹿、もっとよく狙いなさい!」
    「も、もう終わりなのか俺達……!」
    「い、嫌よそんなの!」
     弾丸は外れて壁にめり込んだが、浮足立つ強化一般人達。
    「──落ち着け」
     そこへ降りかかる、よく通る女の声。この場において尚、落ち着き払っているリンクのものだった。
    「まずはそこの灼滅者共を叩く。そしてあの女を追うのだ。ここは引き払うことになるだろうが……それは後で考えれば良い」
     ぎろり。
     六対の眼が、灼滅者達に向く。皆血走って、今にも赤い血の涙を流しそうな眼球をしている。自分達の生き死にが係ってくる以上、殺すしかない……その意思が、如実に表れていた。
     しかし灼滅者達も、彼らを見逃すわけにはいかない。それぞれに武器を構える。この場での戦いは即ち──殲滅、あるのみ。
     人知れず静かに、地下室での戦いが始まろうとしていた。

    ●入り乱れる攻防
    「ふふふ、リンク・ブラオ。ここで会ったが百年目……だ。私を覚えているか?」
     ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)が、挑戦的にリンクへと声をかける。
    「……?」
     疑問符を浮かべるリンクに、堂々と胸を張るルフィア。
    「ふ、まあ私は会った事すらないから、覚えられても困るがな! ま、土産に覚えておけ」
     言いながら、撃ち放つは氷柱。リンクの隣には二人の男女がいたが、適当に狙いをつけて放たれた氷柱は、男の足元を凍りつかせた。
    「ぐっ……」
     指輪から光線を放ち、氷の塊を破砕する男。
    「ふざけた真似を……!」
     その間に、女の方がルフィアに向かって指輪の光線を放つ。
    「ふん……レヒトの攻撃はこんなものではなかったぞ?」
    「……それも口から出任せか?」
    「その通り!」
     呵々大笑するルフィアに溜息を吐くリンクは、既に彼女の対処法を見つけたようだ。即ち……ルフィアの言葉を真に受けないこと。
    「──行くよ、月白」
    「わうっ」
     そのリンクへ向かうのは、綸太郎と月白。淫魔の逃走経路、そして退路を塞ぐべく、彼女の視界を遮る。
    「ちっ……面倒な」
     言いながらリンクは、灼滅者達の真ん中の熱量を奪う魔法をかける。続いて一歩前に出る女が、魔法弾を放った。
    「こちらの台詞、です」
     動きを鈍らされたサフィが、リンクを睨みつける。しかしそれでも尚、仲間に回復を飛ばすサフィと、彼女の霊犬・エル。
    「来い、俺が相手だ」
     援護を受け立ち上がった闇沙耶が、ガンナイフを持つ強化一般人達の前に立ちはだかる。
    「このっ……」
    「俺達だって、例え相手が灼滅者であろうとも……戦えるんだ!」
    「そうよ! 見せてあげるわ、私達の力……!!」
     三者三様、それぞれが弾丸を、あるいは剣戟を放つ。しかし、闇沙耶一人で前衛の三人を相手取ろうとしたのが拙かった。一発は弾き、一発は受け止め……残る弾丸が、闇沙耶を抜いて後方へ通る。
    「しまった……!」
    「大丈夫!」
     後方まで抜けようとするその弾丸を前にしたのは、闇沙耶のフォローに回る中衛の竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)。闇沙耶のように上手くは受け止められなかったが、それでも受け切って耐える。
    「ぐ……少し、効きましたね……」
    「無理はするなよ」
     闇沙耶の礼代わりの言葉に、頷いて見せる伽久夜。まだ油断をしていい時ではない。
    「俺の名は神虎闇沙耶! いざ参る!!」
     入れ違いに攻撃に移る闇沙耶。その剣で放つ斬撃は、輝く陽光の如く。
    「ぅあっ」
    「まだまだ、こんなものではないぞ!」
     右上腕をざっくりと斬り裂いた一撃によろめく強化一般人と、その攻撃に確かな手応えを感じる闇沙耶。
     一方、そんな彼の陰で、地下の黴臭い空気を嗅ぎ顔を顰めるのは彩希。
    「こんな所に隠れてたなんて、苔が生えるわよ?」
     言って笑いながら、先程の行動から回復役と思われる後衛の男に対して、左手のナイフを閃かせその影を伸ばす。伸びた左手の影は、男の太腿をざっくりと削った。
    「あああああ! い、痛ぅ……!」
    「所詮この程度?」
     影に付いた血を振り払いながら、彩希がにっこりと笑う。
    「くっ……まだだ!」
    「そうそう、その調子その調子」
     奮起する強化一般人だったが、ますます深まる彩希の笑みには恐怖を禁じ得ないようだった。
    「ならばこちらも行きます……!」
     今度は伽久夜が、前線を張る強化一般人達に対し魔導書の禁呪を放つ。解放された術は起点から爆発を起こし、爆風で停滞しがちな地下室の空気を掻き乱した。
    「熱っ……!」
    「そんな……こんなに強いの……?」
    「──まだだ」
     心折れそうな強化一般人達を、奮い立たせる冷徹な女声。爆風の名残に髪を靡かせ、顔色一つ変えない悪魔の姿。
    「そうだ、私達にはリンク様がいらっしゃる……!」
    「リンク様、どうぞその御手により我らをお救いください!」
    「……」
     今にも縋り付きそうな強化一般人達に対し、リンクは何も言わず腕を指し伸ばした──灼滅者達へと。
    「もちろん、我々も努力は惜しみません!」
    「リンク様の為、力を尽くしましょうぞ!!」
    「狡猾な悪魔、しかも人に害を為す存在、この機に倒しておかないと……です」
     思わず漏れたサフィの言葉。それは紛れもない真実であっただろう。
    「音楽は魔法。さぁ、お聞きなさい♪」
     そんな光景を目にしても、シュテラは動じず、マイクの代わりに短杖を手に、詠唱を歌の如く紡ぐ。その歌声は、リンクの脳髄を揺さぶった。
    「無謀と笑うかしら。でも私の歌を聞いてもらうわ」
    「……この程度の催眠、どうと言うことはない……だが、見事な美しい歌声だ」
     リンクが漏らした感想に、シュテラは思わず目を僅かに見開く。これまでのリンクらしからぬ内容だったから。
     リンクは自らの左半仮面に手をやった。醜く、禍々しい仮面。その奥は、右半面同様美しいはずなのに。
    「聖剣よ、癒しの風を──」
     彼女の内心など知る由もなく、小鳥が『祝福の言葉』を紡ぐ。その風に乗るように、黒耀も浄めの眼差しを前衛に送る。二人がかりの回復に、程無く前線は立て直される。
    「……これは、厄介な連中を押し付けられたようだな」
    「リンク様……」
    「だが、まぁ良い。蹴散らしてやれ」
    「はい!」
     初手で落ちた者は一人もいない。リンクの言葉は、灼滅者達がそっくりそのまま返してやりたい気分だった。

    ●由来
     私は裏切った。
     私は見捨てた。
     それが『ダークネスとして』正しいと、彼が言ったから。

    「俺はレヒト・ロートを名乗る! 片や『右』、片や『紅』! 俺に相応しいだろう」
    「……ならば私は逆を名乗ろう。リンク・ブラオ。『左』の『蒼』。この仮面にも似合いだ」
    「応、よろしくなリンク」
    「こちらこそだ、レヒト」

     そして我々は、一つの仮面を割って手に取った。
     それが、私達のはじまり。

    ●蒼き悪魔の最期
    「ぐぁぁああ……っ」
     気が付けば、隣の回復手が倒れていた。
     そうなれば、襲撃者でありながら回復重視の持久戦を挑む作戦で来た、灼滅者達の優位はほぼ確実となる。周囲の住民に気取られることのない立地の隠蔽性も味方しただろう。
    「り、リンク様……」
    「我らを、お守りくださ……」
     遮蔽者が、攻撃手が近接攻撃の餌食となり、リンクに手を伸ばし、届かぬまま倒れ伏す。
    「……悪いが、手遅れの様だな」
    「そん、な……」
     俯せに倒れた死体から、流れ出る血。その紅さが一瞬、あの男を思い出させた。
    「り、リンク様! 私はどうすれば……」
    「そうやって、何でも上任せにしているから貴方達の未来は閉ざされたんじゃないかしら? ──我が敵を撃て、魔法の矢!」
     シュテラの手厳しい言葉と共に、くるりと器用に回った短杖から放たれた魔力の矢が突き刺さる。
    「ああっ……」
     小鳥と黒耀の回復が飛び、灼滅者達は万全の態勢でリンクと残った強化一般人の女に向き直った。
    「……ここまでか」
    「そん、な……!!」
    「せめて最後一矢、報いるが我が道であろう」
    「私は……私は嫌よ! リンク様が助けてくださらないのなら、自力で活路を……!」
     リンクの下を離れようとした強化一般人に、エルが飛びかかる。
    「わふっ」
    「あ、ぐ……!」
     戦場を遊び場のように跳ね回るヨーキーの仔犬は、銭の射撃の雨を降らせてすぐにぽんぽんと遠ざかって行った。
    「せめて、縁のある相手に出会いたかったものだが」
    「私がいるではないか。……いや、ここにいるすべての者が、何かしらの『縁』で誰かに繋がっていると思うぞ」
    「うあっ!?」
     巨大化させた右腕で女を殴りつけながら、どーん、と胸を張るルフィア。
    「そうだな……お前がどこまで本当の事を言っているのか、図りかねるが」
     リンクが彼女の言葉に頷いた。
     その隙に、未だ息のあった強化一般人の女が、階段へと駆け上ろうとする。
    「逃がしま、せん」
    「仲間には……!!」
     サフィがその行く手を阻み、更にその前に闇沙耶が立ちはだかる。サフィの回復が降り注ぎ、闇沙耶は力強く地を踏みしめ、彼女に頷き返した。
    「俺が立ち上がる限り、お前を止めてみせる!」
    「あああああ!」
     そこへ突っ込んでいく強化一般人の女。その腰溜めに構えた拳に、魔力を蓄積させて。
     しかし、それが発動することはなかった──闇沙耶の聖剣の一刀が彼女を捉え、斬り伏せたのだ。
     最後の配下が倒れた。
     それでも、リンクが動じることはなかった。むしろ、こんな場面を予測していたのではないかとさえ、思わせる。
    「あなたの予知は、この光景を捉えていたの?」
    「いや……どうだろうな」
     思わず問いを発した彩希に、そこで初めて、リンクはその口の端に微かな笑みを浮かべた。少々驚きはしたものの、その真意を問う気は彩希にもなかった。笑顔には笑顔で返す。
    「では、そろそろお時間ね」
    「ああ、頃合いか」
     魔力を高める両者。この一撃で、決まる──。
    「さようなら」
     リンクは魔法の弾丸を続け様に着弾させ、それに舞い起こされた埃の幕を、魔力の光線が突き破る。
     彩希が虚空に刻んだナイフの斬撃が光線となり、リンクがそれに貫かれ……倒れた後には、傷ついた灼滅者達が残されるだけだった。

    ●蒼き悪魔は幸福だったのか
    「しかし今回のラブリンスター側の勧誘もかなり早計ですね」
     残されたリンク達の死体に、事件性がないよう死因を偽装しながら、伽久夜が呟く。
    「学園が把握できる範囲でこれだけ失敗しているとなるとまともな下調べなどしていないのでしょう。何か早急に勢力を拡大しなければいけない理由があるのでしょうか?」
     それにはいくつか仮説を立てることが出来たが、どれも仮説の域を出ない。
    「あの淫魔はきちんと逃走出来たのかな」
     小鳥はもう一つの懸念を抱いていた。
    「相手がダークネスとはいえど、世の中物騒だからな。助けたからには、きちんと帰って貰わないと損ってモンだろ?」
     にかっと明るい彼の笑顔は、地下室に陽光をもたらすかのようだった。
    「逝くが良い、誇り高き者よ」
     死体のひとつひとつに、瞼を閉じさせ、最後にリンクだったもののそれにも語りかける闇沙耶。
     いつも前で守り手をするエルが、今日は隣にいて、サフィは心強かった。大きな恐怖に、膝を折りそうになった瞬間も少なくない。戦闘中、ずっと気を張り詰めていた彼女に、エルが寄り添う。
    「……大丈夫、皆で元気に帰りましょ、ね」
     サフィはそれに笑顔で応じた。
    「己を支える『何か』があれば、人は戦える……」
     それを目にして、闇沙耶が人知れず微笑んだ。
    「そうだな、帰ろうか」
     室内を軽く点検し、灯りを消して、綸太郎が皆に声をかける。
     仲間が次々に階段を上っていく中、綸太郎が最後に振り向いた先には、どこか穏やかな顔にすら見えるリンクのヌケガラ。
     仲間から促され、再び階段を上り始めた綸太郎は、もう二度と振り向くことはなかった。

    作者:天風あきら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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