種があったりなかったり

    作者:佐和

     熊本県のとある葡萄園。
     持ち帰りは別だけれども、その場では30分間食べ放題ということもあり、農園は多くの人達で賑わっていた。
    「美味しいー。美味しいね、ママ」
    「そうね。ほら、もっと食べていいのよ」
    「これだけ大きい粒でも種がないから、子供も安心だね」
    「本当、食べやすくていいわ」
    「でもママ。種がないと、葡萄、なくなっちゃわない?」
    「大丈夫よ。この樹にはまた来年も葡萄は生るし。何とかなるのよ、きっと」
    「そうだなぁ。葡萄がなくなっちゃうようじゃ、種なし葡萄は困るもんなぁ」
    「でしょ? パパ。
     きっと、葡萄には種がないとだめだー、って怒るよ」
    「誰が怒るの?」
    「ええと……葡萄?」
    「ははっ。そうだなぁ。葡萄が怒るかもなぁ」
    「もう、貴方ってば。勝手なこと言って」
    「怒られないうちに、いっぱい食べて帰ろうな」
    「はーい」
     
    「……というような話が元ではあったようです」
     ふぅ、と困ったような顔をして、喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)は足元を見下ろす。
     そこには八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)が座り込んで葡萄をもぐもぐ食べていました。
     もちろんそれは種なし葡萄。
    「そんなこんなで、その葡萄園で種なし葡萄を食べていると、種あり葡萄が怒ってやってくるようになってしまうことが分かりました」
     ご当地怪人と見まごうような種あり葡萄は、種なし葡萄に種を埋め込もうとするらしい。
     そして、それを邪魔する者には種を投げて攻撃してくるようだ。
    「どうせなら葡萄を投げてくださればよかったのにね」
     残念そうにつぶやく銘子に秋羽がこくりと頷きました。
    「種あり葡萄は全部で6体……6房、というべきかしら?
     現れるのは農園の端、この辺りね」
     地図を広げた銘子が示すのは、葡萄農園の一番奥まった場所。
    「私達がそこで葡萄狩りをしていれば、割り込んでくる方はいないでしょう。
     そういう意味では、人払いは気にしなくてよさそうよ」
     それよりも気になるのは、と銘子は再び視線を足元に下ろす。
    「……何だか、嫌な予感、する」
     葡萄を摘まんだ手を口の前で止めて、秋羽がぽつりと呟いた。
    「というわけで、都市伝説を倒したらすぐに撤収してほしい、ということらしいわ」
     そうは言うものの、最終的な判断は灼滅者達に任されているのだが。
     どうすべきかしらね、と苦笑する銘子を見上げて、秋羽はまた葡萄をぱくりと口にした。


    参加者
    九条・茨(白銀の棘・d00435)
    喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)
    ティセ・パルミエ(猫のリグレット・d01014)
    媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)
    桃山・華織(白桃小町・d01137)
    椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    大場・縁(高校生神薙使い・d03350)

    ■リプレイ

    ●まずはお土産を
     樹を支える棚から、いくつも連なり下がる大粒の宝玉。
     覆い茂った葉の向こうから差し込む陽光に目を細めながら、喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)はその葡萄の房に手を伸ばした。
     思ったよりずっしりと感じる重さを、そっと引き寄せて。
     離れた場所から聞こえる他の客の楽しそうな声に、手にした果実はより彩りを増して見え、眩いばかり。
     だがしかし。
    「時間フルに食べ放題を楽しめないのが残念ね」
     ふぅ、と銘子はため息をついた。
    「あたいも、のほほん果物狩りのつもりだったんだけどー」
     それを聞きつけたミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)が、うみゅ~と首を傾げて。
     桃山・華織(白桃小町・d01137)も、むむ、と悩ましげに腕を組む。
    「なにやら不穏な情報も出てきたものじゃ」
     灼滅者達の表情を曇らせているのは、依頼の時に秋羽が告げた『嫌な予感』の言葉だ。
     同様にエクスブレインが『嫌な予感』を感じた他の依頼で予期せぬ襲撃を受けた、という報告は全員に伝わっている。
     未だ事態の詳細は分からないまでも、危険を冒すことはないと判断した皆は、即時撤退ための準備をしてきた。
     そのうちの1つ、無線機を手に、媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)は茂みへとしゃがみ込む。
    「本当に、何も起こらないと良いのですけれど……」
     作業を覗き込みながら、大場・縁(高校生神薙使い・d03350)が心配そうに呟く。
     胸に浮かんだちょっぴり怖い気持ちを振り払うように、首をぶんぶんと左右に振って。
     それを見上げたまほろが、大丈夫というように、ふんわり優しく微笑んだ。
    「何か起こるのなら、少しでも情報を集めておきたいですね」
     椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)も機器を隠して立ち上がる。
     安全を確保しつつ、できる限りの情報収集。
     そして、都市伝説が現れる前に機器設置を終わらせておく作戦だ。
     対策はそれだけではない。
    「短時間で葡萄狩りを楽しめるように『葡萄狩りのしおり』を作成してきました♪」
     にっこり笑いながら仲間に配るのは、お手製の冊子。
     開いてみると、葡萄の種類から、美味しい葡萄の見分け方、さらには上手な採り方など、葡萄狩りに役立つ情報が満載。
    「紗里亜さんは本当に徹底してるわよね」
     しおりをぺらりと捲りながら、銘子は今度は感嘆のため息をつく。
     縁もその内容の充実具合と分かりやすさに目を瞬かせた。
     ふんふん、と軽く一読した九条・茨(白銀の棘・d00435)は、ぱたんとしおりを閉じて。
    「まっ、何があろうとオレは葡萄をお腹一杯食べさせて貰うけどね!」
     ぐっと拳を握りしめ、固い決意を口にする。
    「30分はちょー短い! 急ご~」
     ぱたぱた手を振り腕時計を示しながらティセ・パルミエ(猫のリグレット・d01014)が慌てたように言えば、各々用意してきた時計を確認して。
    「じゃあ、先に清算してくるわね」
     銘子が手早く収穫した葡萄を示して言うと、よろしく、の声が異口同音に唱和する。
     即時撤退のために、都市伝説が現れる前に終わらせておくのは、お土産の準備もです。
     別料金となる持ち帰り分の葡萄は1人で持ちきれる量ではない。
     手伝いとして同行を申し出た華織は、その葡萄の山を見て首を傾げた。
    「少々多いようじゃが?」
    「秋羽君にも、ね」
     くすりと笑うと、なるほど、と華織も笑みを返す。
     そうして精算所である葡萄農園入口まで一旦戻る2人を見送り、残るメンバーは機器隠しに戻る。
     主に周囲の警戒を申し付けられた2匹の霊犬、杣と弁慶が、普通の犬のフリをしながらも指示を実行する中で、灼滅者達は事前準備に余念なく。
     ……と思ったら、ティセは葡萄を眺めながらうろうろちょろちょろ。
    「美味しそうな葡萄を用意しておくんだよっ」
     えへへ、と笑うその横では、霊犬にミカエラが飛びかかり、そのもふもふを堪能しています。
     機械に疎い縁も、機器設置よりももふもふに目を奪われ始めました。
     うん。楽しいのが1番ですよね。はい。
     そんなこんなですが、作業が着々と進む中で。
     身軽になった銘子と華織が小走りに戻ってくる。
     再び全員揃ったのを確認して、ミカエラは待ってましたと手を掲げ、宣言した。
    「大食い大会、開幕ーっ♪」

    ●葡萄狩りを楽しんで
     都市伝説の出現条件が『種なし葡萄を食べる』ことだったため、食べ放題なのに我慢していた面々は、開始宣言にその戒めを解かれ、一斉に葡萄へと手を伸ばし始めた。
     特に勢いがすごいのは、黒一点の茨。
     摘んで摘んで摘んで! 食べる食べる食べる!
    「新鮮さ、瑞々しさが、美味い。美味い!」
     種なし葡萄の良いところは食べやすいところだと体現するかのように、次々と房が棒になっていく。
     華織も急ぎ気味にぱくぱくぱくぱく。
     しかし背の低い華織は、高所にある葡萄を取るだけで一苦労。
     次の獲物を見つけて手を伸ばしても届かず、台を探して視線を下ろす。
     と、その視線とは逆に上へと伸びた手。
     慌てて振り仰ぐと、長身の茨が葡萄をあっさりと手にしていた。
    「ん、皆ももっと食べなよ!」
     笑顔で差し出された葡萄にこちらも笑顔で礼を言って、再び食べ始める。
    「ワルギリアス、あの葡萄を採って」
     銘子もビハインドを使って葡萄をゲット。
     ちなみに、ワルギリアスは銘子のではなく茨のサーヴァントですが、本来の主人が葡萄に夢中なためか、素直に指示に従ってくれています。
    「むう。みんな手ごわいっ!
     だけど、あたいだってパン食い競争負けたことないんだからねーっ!」
     そんな様子を見たミカエラは、負けじとぴょんぴょん飛び跳ねて、何と口で葡萄をゲット。
    「樹を傷つけないように気を付けて」
     しおりで収穫のしかたを再確認していた紗里亜が、慌ててミカエラに声をかけました。
     そして紗里亜自身は、目星をつけておいた粒よりの葡萄に手を伸ばし。
     大食いできない代わりに効率よく、その果実を堪能する。
    「えへへ、おいしいです……!」
     縁も選び抜いた葡萄を抱えて、1粒1粒笑顔で味わう。
    「秋は果物色々美味しいよね!」
     事前に収穫を済ませておいたティセは、ゆっくり座ってもぐもぐもぐもぐ。
     ぶどうも大好き~、と顔を綻ばせれば、それを見た縁も、ふふっと微笑んだ。
    「最近は皮ごと食べる品種が増えてきてるみたいだけど、これは違うみたいだね~」
     1粒掲げて眺めるティセの隣で、だがまほろはそのままぱくり。
    「私は、皮はそのまま食べる派です。栄養たっぷりでしょう?」
     少し固いけれど、食べれない皮ではないからと、まほろはおっとり微笑んで。
     銘子は、自分はどうしようかと、皮つき葡萄を前に考える。
    「皮の近くが甘くておいしーんだよね!」
     そんな皆に頷いて、ティセは爪楊枝を取り出した。
     茎がついていた部分から葡萄の粒に爪楊枝を差し込んで、ぐるっと。
     一周させると、皮から中身がポンっと取り出せる。
    「えへへ、かんたん」
     得意満面に皮のむけた葡萄をぱくり、とするティセに、紗里亜は驚きの表情を見せて。
    「この方法もしおりに載せるべきでした……っ」
    「面白いわね。縁さんも、ほら」
     銘子はティセからもらった爪楊枝の1本を、縁に差し出した。
    「あ、ありがとうございますっ」
     初めて見た手法に驚きながら、縁は銘子の手にその手をおずおずと伸ばす。
     葡萄にさして、ぐるっ、ポンっ。
     実際にやってみて再度上がる感嘆の声に、ティセはにこっと笑った。
    「みんなと一緒だからすごく楽しいね!」
    「そうね」
     くすりと微笑んだ銘子は、むけた葡萄を、あーん、とミカエラに差し出して。
     大喜びで口を開ける様子にまた顔を綻ばせる。
     と、既に沢山葡萄を抱えているのに、さらに銘子の葡萄に目を向ける茨に気づいたが。
    「いばらんにはあーげない。まほろんから貰ったら?」
     ちらりと和装の少女に視線を投げると、茨もそれを追うように今度はまほろを見て。
     その期待の眼差しに慌てながらも、まほろはその繊手で葡萄をそっと1粒差し出した。
    「ほれ、弁慶。そなたも食べるが良い♪」
     足元に葡萄を差し出すと、すぐさま駆け寄ってくる霊犬。
     杣も一緒に寄って来たのを見て、華織はくすりと笑った。
    「仲良く食べるのじゃぞ」
     ほのぼの風景にそう注意しながらも、葡萄を食べる動作は止まらない。
     それぞれ思い思いに葡萄を味わい、楽しんで。
    「来年はクラブの畑にここのブドウ植えよっか♪
     あ、種ないんだっけ。ざんねんー」
     あからさまにミカエラがそんなことを呟いた、その時。
     霊犬の一吠えに一斉に灼滅者達は振り向き、新たな葡萄を視界に捕える。
    「いらっしゃいましたね」
    「ん」
     まほろの言葉に短く頷いた茨は、現れた都市伝説……種あり葡萄を見据えながら、手にしていた最後の葡萄をぽいっと口に放り込んだ。

    ●種があってもなくっても
    「行くわよ、杣」
     主の声に応えて駆け出した霊犬が、先駆けとばかりに、先頭の種あり葡萄へとその斬魔刀を閃かせて。
     その攻撃相手を中心に、銘子の、そして紗里亜とティセの生み出した冷気が辺りを覆う。
    「れいとうぶどうだー!」
     タイミングがばっちり合ったことに喜んで、ティセがぴょんっと飛び跳ねる。
     驚く銘子に、紗里亜もにこりと笑って見せた。
    「はぎゃ? みんなずるい!」
     むぅ、と口を尖らせながら、ミカエラは、畏れを纏った斬撃を、皆の攻撃を追いかけるように放って。
     茨も出遅れた感を振り払うように、新たに冷気を生み出した。
     張り合うような茨の様子にくすりと笑いながら、まほろも異形巨大化させた腕を振るい。
     華織は、次は焼き葡萄と言うかのように、激しい炎の奔流を放つ。
     葡萄狩りのほんわか雰囲気そのままに始まった戦闘。
     敵が葡萄なのもその原因かもしれませんが。
     でも、仲間とのやり取りを楽しみながらも、回復役の縁は油断なく状況を見据え、優しい風を招いて皆が攻撃に専念できるようにと頑張っていく。
     そんな支援のお蔭もあって、茨は合間に葡萄を手にし、ぱくりとまた口に入れて。
    「食事の邪魔をしないで欲しいなあ。
     なに、キミ達もオレに食べて欲しいの?」
     種あり葡萄に向かう魔法の矢を追うように眺めて、目を細める。
     うーん、と苦笑したまほろは、杖を魔力と共に叩きつけながら、
    「栄養にはならないと思いますよ……?」
     とりあえず止めた方がいいのかな、と控えめに意見を零した。
    「茨殿の食欲は、敵にも容赦ないのう」
     呆れた雰囲気を漂わせながらも、華織は炎を纏った斬撃を繰り出し、種あり葡萄の1体を焼き尽くす。
     素早い撤退のためには、まず敵を素早く倒す必要があるのだから。
     弁慶も主の意をくみ、ぐずぐずしてる暇はないと、すぐに次の葡萄へと飛びかかった。
     破邪の白光を放つ剣を構えた紗里亜は、ちらりと一瞬横に視線を流して。
    「ミカエラさん!」
     名を呼びつつもその答えの声を聞くより前にその斬撃を繰り出せば、
    「おっけーだよ!」
     意図をしっかり汲み取ったミカエラが、こちらも答えながら半獣化させた腕を振るう。
     葡萄の種を抉り出すかのような鋭い鉤爪に、種あり葡萄は引き裂かれ、消えた。
     着実に敵の数を減らしているが、種あり葡萄もただやられるだけではない。
     邪魔をする灼滅者達に、次々と種を撃ち出していく。
    「うーん、後から種を入れても意味がないと思うんだよ」
     ティセはその攻撃に顔をしかめながら、それよりも、と提案するように指を立てる。
    「それを植えた方がいいんじゃない?」
     だがその意見は聞き入られることはなく。
     また飛んできた種に、縁が慌てて護符を飛ばした。
    「葡萄は樹さえ無事なら、また来年も美味しい実を付けてくれるのですよ」
     種あり葡萄へと優しく諭すように言いながら、まほろはすれ違いざまに拳の連打を繰り出して。
    「……お菓子を作る時も、種があったら取るのが面倒ですしね」
     続く種なし葡萄賛歌は小さく口の中で呟いた。
     くるりと振り向き相手を見れば、種あり葡萄の葡萄部分に噛みつこうと飛びかかった茨の姿が目に入る。
     驚いて、でもまほろが声を上げる前に。
     華織の炎が葡萄を包み込む。
    「種なし葡萄も種あり葡萄も、仲良くせねば『めっ』なのじゃぞっ」
     ぴっと指をさして叱る華織の前で、種あり葡萄は炎の中に消え、茨の前髪が少し焦げました。
     名残惜しそうな茨をワルギリアスが引っ張って下げたところで。
     残る種あり葡萄へと、皆の攻撃が集中して。
     ほどなくして、葡萄農園から葡萄の種は消え去った。

    ●帰り道でも葡萄を
     まだ少し食べ放題の時間は残っていたけれども。
     早く帰るように、との忠告に従って、灼滅者達はすぐに撤退にかかる。
     まほろと紗里亜とミカエラは手分けして機材のスイッチを入れて、銘子がそれに戦闘の影響がなかったかを手早く確認。
     ティセが戦闘跡をなるべく片づけている間、縁は周囲をさりげなく警戒して。
    「では、帰るとするかの」
     華織の声に、皆は葡萄狩りを終えた客として、目立たないように、けれども足早にその場を去る。
     葡萄園から離れても、意識が向くのは残してきた機材のこと。
     この後の葡萄園で何かが起きるのか、何もないのか。
     帰路は皆、何となく無言となってしまう。
     だが。
    「そういえば、お土産の葡萄のお金……」
     時間短縮のため銘子と華織が立て替えていたそれがずっと気がかりだった縁が、おずおずと手を挙げる。
     その言葉に、では、と清算が始まって。
    「土産は全部、送ったんだったか」
     支払ったもので得た現物が目の前にないのを残念そうに、茨が呟く。
     急いでの撤退で丁寧に持ち帰れる保障もなく、また帰りの荷物にもなるからと、土産は発送の手配をつけていた。
     しかし茨は、あれだけ食べてもまだ食べたりないようです。
     土産が土産じゃなくなってしまうのを防ぐにも、発送は正解だった模様。
     でもそこに、紗里亜が悪戯っぽい笑顔で差し出したのは、1箱の葡萄。
     わあ、と声を上げたまほろに、紗里亜はアイテムポケットを示して見せる。
    「皆の帰路のおやつです♪」
    「やっぱり、紗里亜さんは徹底してるわ」
     清算時、1箱だけは発送しないでほしい、と言われていた銘子は、喜ぶ仲間を見渡してから紗里亜に微笑んだ。
     そして再び始まる葡萄大会。
     茨とミカエラが争奪戦を繰り広げるところから、華織が漁夫の利を狙い。
     しっかり自分の分を確保したまほろは、その戦いを楽しそうに眺める。
    「ぶどうひとつぶどう?」
    「はい。ありがとうございますっ」
     ティセに勧められて、縁も嬉しそうに受け取った。
     わいわいと盛り上がる仲間達。
     それを見渡してから、紗里亜はふと後ろを振り向いた。
     葡萄園はもうすでに見えない。
     ふぅ、とため息をついて視線を戻した紗里亜の前に、葡萄が1粒差し出されて。
    「お疲れ様」
     顔を向けると、葡萄の向こうで銘子が微笑んでいた。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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