変わらない、変えてはならない小さな日常

    作者:飛翔優

    ●秋空に見守られし武蔵坂
     朝、校門から聞こえてくるおはようの挨拶。
     教室でも花咲く元気な声。
     遅刻しそうな生徒を受け入れて、遅刻した者は叱りつけ……今日もまた、かけがえのない日常が始まった。
     朝のホームルームが終わったなら、各々授業を行うための場所へと移動する。
     わいわいがやがやと賑やかに進む授業もあるが、基本は静かに教師陣の言葉を聞いていく。時にはこっそりおしゃべりしたり、メモを回して読み合ったり……見つかったら叱られるお遊びを、こっそり楽しく行った。
     三つの休憩を挟む四つの授業を越えた後、待ってましたのお昼休み! 赴くのは食堂か、はたまた誰かと一緒にお弁当? 時には一人で黄昏れながら、午後を過ごすためのエネルギーを補給する。
     補給した後には校庭に赴き体を動かそう! あるいは図書室で本を読んで過ごしたり、教室などで友達とおしゃべりして過ごしたり……楽しい時間を過ごしているうちに、午後の授業がやって来る。
     午後の授業はちょこっと眠い。 
     船を漕ぎ始める生徒もちょくちょくいる。
     どことなく緩んだ空気の中、教師が居眠り生徒を叱っていく声をスパイスに引き続き勉学に励んでいく。
     一つの休憩を挟んで二つの授業を越えた先、ホームルームがやってくる。ホームルームを終えた後、掃除当番を終えたなら、ようやく自由を取り戻す!
     あるいは……大学生ならば、小中高生とは一味違うキャンパスライフを送っているのだろうか?
     そんな、武蔵坂学園での日常。
     これは、放課後を迎えるまでのかけがえのない日々の一ページ。
     あなたは一体、どんな風に過ごしているのだろう?


    ■リプレイ

     優しい陽射しが降り注ぎ、冷涼な風が駆け抜けていく、秋空が広がる朝のこと。武蔵坂学園の、いつもと変わらぬ日常が始まった!

    ●登校、始まりの時間
     登校中、眠気が取れずふらふら歩いていた東雲・菜々乃は、物陰に猫を発見。ぼんやり笑顔を向けていく。
    「あ、おはようございます~」
     返答は、静かな鳴き声。
     微笑ましい光景を繰り広げている彼女の背後を一台のライドキャリバーが駆け抜けた。
     霧亜・レイフォードだ。
     彼は遅刻を避けるため、ゼファーに跨がり道路を駆け抜けていく。
     降り注ぐ陽射しは眩く、吹き付ける風は心地よい。
     巻き起こされし風は、更なる涼を紅羽・流希へと送っていく。
     流希は最近はすっかり寒くなったと襟元を立て、予定を組み立てひとりごちた。
    「動くのに調度よいですし、今日の休み時間にでも、皆さんで体を動かしましょうかねぇ」

     肌寒い空気の中を歩いている、黒谷・才葉と堀瀬・朱那。
     学校話に花を咲かせる中、才葉が季節に言及した。
    「これからどんどん寒くなるなー? 冬になったら何して遊ぶ?」
    「冬の遊びかぁ……折角だから冬ならではな事したいネ!」
     話しているだけでぽかぽか気分。夢中で計画を建てていくさなかにも、二人は学び舎へと近づいていく。
     到達したなら、また空部で! 契りを交わし、今日も楽しい一日を過ごそうか!

    「お兄ちゃん、手つなご☆」
     大社・珠希の願いにより、手を繋ぎ歩く在月・由羅。
     道中、話し手は主に珠希の方。
    「それでね、そこでありさんがきれいに列で並んでたんだ!」
    「……すごいな」
     由羅は静かに相槌を打ちながら、ころころと表情を変えていく珠希を眺めていく。腕をぶんぶんと振り回されるのはきついけど、それでも、楽しげな調子は微笑ましい。
     自然と歩調を弾ませながら、二人は校舎を目指していく。

     ビハインドのルイーズとも手を繋ぎ、オフィーリア・マリアヴァインとナターリヤ・アリーニンは校舎に向かい歩いていた。
     変わらぬ景色を眺めながら、オフィーリアが尋ねていく。
    「ニホンの学校、楽しそうね。ターニャ」
    「ガッコウ。いっぱいいっぱい、おともだち。で、たのしい、うれしい、も。いっぱい、ステキ、です……!」
     元気な返答、ほころぶ笑顔。
     自然と頬が緩んでいく。
     今日もステキな一日を……。

    ●朝の授業は大騒ぎ
     一時間目の授業が始まった御殿山3-2。
     真面目にノートを取るエアン・エルフォードの横顔を眺め、葉新・百花の瞳に妖しい光が宿る。
     教科書の端に、すきーv、悪戯書きした上で、エアンの方に寄せてみた。
     エアンは手を止め、百花へと視線を向けていく。いたずら書きを発見し、声もなく噴き出した。
     お返しとばかりに消しゴムへ手を伸ばし、反対側の隣を指摘した時、スマホが震えた。
     エアンがスマホを確認し始める反対側では、佐々木・紅太が教科書立てて、ナノナノの笹さんを枕に夢心地。教師が気づかないのを良いことに、惰眠を貪っていた。
     が、匂いに誘われ目を覚ます。
     雨霧・直人だ。直人が唐揚げ弁当を開け食べ始めたのだ。
     唐揚げの匂いが漂っている事も気づかずに、直人は教師を伺いながら食していく。
     さなか、後方の扉が音も立てずに開かれた。
     遅刻してきた衣幡・七が、抜き足差し足で自らの机へと向かっていく。
     気づいた時吉・大和がはよ、と言葉なく七を手招きし……。
    「気付いてますよー」
     七がビクリと肩を震わせて、恐る恐る教卓へと視線を向けていく。
     いない。
     直人の前に教師はいた。
     匂いでわかったと、早弁を叱る教師。ごまかし笑いを浮かべていく直人。
     今の内にと、急いで席についていく七。
     一部始終を眺め、大和は俯き笑っていく。
     そんな、他愛のない一時間目。大切な青春の一ページ……。

    ●合間の休みにふれあいを
    「史! 頼むー教科書貸してくれ!」
     大声とともに、陰条路・朔之助が教室へと現れた。
     千喜良・史明は眉をしかめていく。
    「恥ずかしいからやめて! 第一……」
     教科書を……と冗談半分で叱る史明。
     とにかく下手に出る朔之助。最終的には手渡され、礼を述べながら立ち去った。
     見送り、史明はほくそ笑む。ほんのり落書き済みなのだから。
     どんな道を辿るにせよ、朔之助は叱られる。史明の想像通りに。

     講義の合間の時間を用いて、アンカー・バールフリットは資料室で報告書のチェックを行っていた。
     さなかにステラ・バールフリットが声をかけ、他愛のない会話を始めていく。
     報告書に目を通しながら返事をしたアンカーは、講義に向かう時間だと立ち上がった。
     ステラが見守る中、女性司書に声をかけていく。
    「素敵な時間をありがとう。また会いに来るよ、フロイライン」
     軽くあしらわれていく様を眺めながら、ステラは呟いた。
    「本当にマメね」

    ●昼食の時間はしっかりと
     授業終了の鐘が響く屋上に、寝転ぶガーゼ・ハーコート。ドアの開く音が聞こえるとともに身を起こし、投げ渡された早めしゼリーを受け取った。
    「おっと……飯テロはんたーい」
    「うっせ、昼飯買ってきただけ感謝しろ」
     宮野・連は肩をすくめながら歩み寄り、隣に腰掛けていく。弁当とパンの袋を開いていく。
     感謝の言葉、厳しい提案……他愛のないじゃれ合いを行いながら、二人は食を進めていく。
     それは、変わらない優しい時間。

     屋上にて、マイス・フリッドを迎え入れた椹野・渉。
     隣で弁当を開けていくマイスに対し、渉は問う。
    「ところで、どこまで進んでんだ?」
     マイスは小首をかしげていく。更なる言葉も意味を掴み取れず、代わりに尋ねてみることにした。
    「ところで、渉くんはどう?」
     彼女は? とふられ、渉は強がる。
     誤魔化すようにお弁当を求めていく。
     方や意図的に、方や無意識にじゃれあい、優しい午後は過ぎていく。

     いつもより美味しくできたと言う、ティエ・クリムナールのお弁当。
     食した山本・仁道は、絆創膏には気づかぬ振りして食し褒めていく。
     ごちそうさまを告げた時、ティエがお茶を差し出してきた。
     受け取ろうと手を……。
    「む……ティエ、少しじっとしていろ。ソースがついてる」
    「あ、ありがとうございますっ……」
     ティエはハンカチでそっと拭われ照れ笑い。
     少しずつ進んでいく日常。今日も、また一歩。

     塩むすびに鮭の南蛮漬け、わかめ入り玉子焼き……と、お弁当を披露した水沢・安寿。
    「新米を味わってもらいたくておにぎり弁当を作ってみたんだけど……どうかな?」
     素人同然の……と付け加えたなら、太治・陽己は首を横にふる。
    「こうして人の料理を食べるというのは得がたいものがある……どれ」
     一口食し、新米は美味い、鮭も旬、水沢の料理は優しいから好きだと締め括る。
     優しい時間を、優しいお弁当と共に。

     お弁当を交換し、中身を見てたたえ合う石嶋・春希を白鴉・鴇永。実際に食してみても、その感想は変わらない。
     春希が弾んだ調子で、メロンパンを一口。頬を緩ませ、芽を輝かせた。
    「二人で食べるととても美味しいね! 幸せにっこりぽかぽかごはぁん!」
     頷きながら、鴇永もハムカツサンドをパクリ。
    「そうだね、楽しい。ね。またこうやってお弁当交換しようね」
     微笑み合いながら、美味しい時間を過ごしていく。

    「おーひるごはーん♪」
     授業の終わりと共に、ヒオ・スノゥフレークが弾んだ調子で口ずさむ。がたがたと机を動かして、お弁当タイムに突入だ!
    「せっかくなので皆で交換とかしちゃいましょうか」
     夕凪・真琴の提案により行われる交換会!
     サンドイッチに季節のおかず、ふわふわだし巻き卵に……と、豪華な内容が机の上に並んでいく。
    「お味噌汁あるよっ。良かったら飲んでね」
     桃之瀬・潤子は水筒を傾けて、お味噌汁のおすそ分け。
     箸を伸ばしていた十二月一日・穂布留は、笑顔で受け取っていく。
    「いつもありがとうございますよぅ潤子ちゃん。汁物があるとお昼がとっても豪華ですぅ!」
     味噌汁で喉を湿らせて、和風なおかずに手を付ける。時にはパンも一緒に食し、味噌汁とのコラボレーションを堪能する。
     食べ終わった後は、アップルパイでお茶会を。様々なフレーバーを語らいながら、優雅な午後を!

    「そういや貰い忘れてたな……いつもありがとうな、彩歌」
     月雲・彩歌からお弁当を受け取り、月雲・悠一は席につく。
    「さーて、昼飯昼飯。っと……なんだよ、やらねーぞ?」
    「樹のお弁当は世界一ィ!」
     一方の無常・拓馬はブリの照り焼きを齧りながら、男子陣にドヤ顔を晒している。
     やらんぞ、と言い放っているさなかには悠一と視線が合い、意味ありげな笑みを交わし合った。
     件の各務・樹は、女性陣が卓を囲む窓際へと向かっていた。
     自身もお弁当を開きながら、周囲の内容へと目を向ける。
     ふと長姫・麗羽のサンドイッチが目に止まり、口を開いた。
    「あの、もしよければちょっと交換できるかしら?」
    「ん、いいよ」
     麗羽は快くサンドイッチを提示して、代わりにブリの照り焼きなどを受け取っていく。
     食しているうちにさらなる視線に気づき、小首をかしげ振り向いた。
     先ほどおかずを交換した霧島・絶奈が、若干焦ったような気配を漂わせている、そんな気がした。
    「どうした?」
    「ああ、いえ……もし良ければなのですが……」
     要約すれば、あまり料理が上手くないので、コツなどを教えてほしいと絶奈は述べる。
     仔細は心の奥に隠した問いかけを、麗羽はレシピなら……と承諾した。
     一方、彩歌は、八十神・シジマ、歌風・瑠璃らと共に他愛のない会話を行っていた。
    「そうそう、昨日やってたテレビなんですけど……」
    「そうやのう……」
     シジマがのんびりと回答した後、しかし……と周囲に目を向けた。
     長い時間を経て定着してきた、変わらぬ光景。しかし……。
    「……言うてる間に、卒業も近いんやなぁ。こうやって教室でバカやってるのも」
    「そうだねぇ……また、卒業する前に遊びに行きたいな」
     追憶に、瑠璃もまた沈んでいく。瞳を閉ざし、学園でのできごとを……。
    「ぐっ」
     そんな折、小碓・八雲が小さくうめいた。
     瑠璃が視線を浴びる中、八雲はすました顔ながらも変な汗を流しながらおにぎりを食べている。
     ――辛子高菜のデスソース漬けおにぎりが一つだけ入っていた。そう、後に彼は語る。
     それすらも、変わらぬ景色。瑠璃は微笑み、胸に手を当てていく。
     この光景も、そう遠くない未来に……。

    ●お昼休みは緩やかに
     手早く昼食を済ませた片倉・純也は、情報を纏めるために鞄を漁る。
    「あっ」
     未着手の課題がある事に気が付き携帯を取り出した。が、途中で手を止め手紙を書き綴る。
     知人二人への質問を行うために。

     図書室にてメモを取っていた九条・茨。不意に欠伸を一つ。
     東雲・羽衣はくすりと笑い、肩を軽く突いていく。唇に人差し指を立て、ノートの端を指し示す。
     ――今日の帰り、よろしければ寄り道していきません?
     ――うん? いいけど、買い食いとか?
     交わされていく約束。
     盛り上がる心。
    「それならたくさんっ」
     つい声を上げた羽衣に周囲の視線が向けられる。
     頭を下げ、茨と微笑み合う。約束を胸に授業を乗り越えよう!

     ――担任のコレクションを拝借し、皆で時代劇ごっこ。
    「うちの代官様が悪ぃこつばしよっけん、助けちくれんね?」
    「ほっほっほ、この隠居にすべてお任せなさい」
     町娘に扮する二重・牡丹の願いを、ご老公に扮する月島・海碧は快諾した。
     場面は代わり、机の……もといふすまの影。
    「越後屋……お主もワルよのぅ……ひょひょひょ」
    「いえいえ、お代官様ほどでは……」
     煌星・紅虎が扮する代官様と、海野・桔梗が扮する越後屋の裏取引。
     ついに、仲間を引き連れた海碧が乗り込んだ!
    「またれい!」
    「な、何者だ!」
    「ひ、ひえぇぇ……者どもッ……! であえぇぇぇ!」
     慌てる桔梗、怯える紅虎。
     海碧は落ち着いた調子で、やってしまいなさいと命じていく。
    「のさばる悪を何とする、天の裁きは待ってはおれぬー!」
     忍に扮する深山・一也は手裏剣レプリカを投げながら、教壇から宙返りして現場に参上!
     やりあいが一段落ついた段階で、秋桐・響凍が声を上げた。
    「ひかえー、ひかえーなのじゃ! この紋所が目に入らぬかーっ!」
     固まる悪代官陣営。
     すかさず、シグルスが海碧を示していく。
    「こちらにおわすお方をどなたと心得る! ……あ、やべ」
     言葉半ばにて身を翻し、後ろ側の出口に向かって駆けだした。
    「村川先生だ、逃げろー!」
    「逃げろぉ」
     紅虎も叫びながら一也の後を追いかけた。
     皆が散り散りになって逃げ出す中、紋所を構えていた響凍、反応しようとしていた牡丹は敢え無く御用に。
    「逃げ遅れたのじゃ……」
    「ごめんなさい……」
     残るメンバーと共に、土下座しながら説教タイム。吟味にかけられる運びとなった。

    ●午後のHRと掃除の時間、エピローグ
     学校が終わるまで、あと少し。
     担任の話を聞きながら、ツェザリ・モーリェと虹古・七星はそわそわと終わる時間を待ちわびた。
     起立、礼と帰りの挨拶が交わされるや、七星が荷物を掴み走りだす。
    「おっさきー!」
    「あ、ま、まっへ!?」
     メロンパンを取り出していたツェザリは一足遅れ、くわえながら七星を追いかけた。
     今日は、楽しみにしていた約束の日。食べ歩きの日。
     放課後を心ゆくまで堪能しよう!

     校庭で真面目に葉っぱをはいていた陽瀬・瑛多の頭に、紙を丸めて作ったボールがぶち当たった。
     担い手たる陽瀬・すずめは笑いながら、更なるボールを振りかぶる。
     今度は当たるなり広がる形で。抵抗されれば更に燃え上がり紙を投げ、先生の姿をみたならば……。
    「お兄ちゃんっ後ろ後ろ」
    「へっ」
     一目散に逃げるすずめを横目に、瑛多は振り向く。
     にっこり笑顔を浮かべる先生に、言い訳タイム。けれど許されるはずもなく……。

     変わらない、変えてはならない日常。
     こうして、今日もまた武蔵坂学園の一日が終幕を迎えていく。変わらぬピリオドが刻まれていく。
     いつまでも、いつまでも……皆で守り続けていく限り!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月25日
    難度:簡単
    参加:57人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 6
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