軍は得やすく将は得がたし

    作者:小茄

    「オーウ、イエース! アイラブジャパニーズガール!」
    「ほんとぉ? だったらぁ、私のお願い聞いてくれるぅ?」
     夜、ひとけの無くなった工事現場で、1人の女と3人の男達が、何やら密談を交わしていた。
    「オーケーイ、ナンデモキクヨ」
    「私達の仲間になってほしいの。ラブリンスター様の元で、ね?」
     健康的な色気を振りまく茶髪の少女は、ラブリンスター配下の淫魔。対する屈強な半袖Tシャツの男は、アメリカンご当地怪人の残党。
     多くの戦力を失ったラブリンスターは、それを回復する為に、配下達に命じ、各勢力の残党ダークネスを説得に当たらせていた。
    「オーケーオーケー!」
    「ほんとにほんとぉ? やったぁー!」
    「タダシ……ソレナリノミカエリ、モトメマース」
    「見返りぃ……どんな事ぉ?」
    「ソンナノキマッテマース」
     ――さて、それから暫し時間が過ぎ……
    「じゃ、ラブリンスター様の所に行こ」
    「ノー」
    「え?」
    「ミー達、オンナノテシタニナンカ、ナリマセン」
    「ちょっと、話が違うじゃない!」
    「シラナイヨ」
    「嘘つき! 騙したのね!」
    「シラナイッテイッテルヨ! ウルサイガールネ! ヤッチマエ!」
    「何よ、ちょっとサイテー!」
     交渉は決裂し、先ほどまで仲睦まじいとさえ言える関係だった男女は、ここに敵同士となった。
     ――ばきっ! どかっ!
    「ぐっ、がはっ……ぎゃうっ!」
    「……シンダカ?」
    「チョットモッタイナイネー、HAHAHA」
     だが、所詮多勢に無勢。淫魔は怪人らにタコ殴りにされ、倒されてしまった。
     
    「ラブリンスター配下の淫魔が、ダークネスに殺されてしまいそうですわ」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)の説明に寄れば、サイキックアブソーバー強奪作戦によって減ってしまった戦力を回復させる為、各地の残党ダークネスを仲間に引き入れようと交渉にあたっていた淫魔が、交渉決裂によって殺害されてしまうと言う事らしい。
    「ラブリンスター達には、先の戦いで受けた恩義というのもありますし……そうでなくとも、残党ダークネスは放置すれば別の事件を起こす可能性が高いですわ。その芽を摘み取っておくのも、悪くはないと思いますわ」
     と言う訳で、灼滅者はこの事件に介入し、残党ダークネスを討伐すると言うのが今回の作戦だ。
     
    「ダークネスは3体。夜の工事現場で、淫魔と密会していますわ。交渉が決裂する寸前に介入する事になりますわね」
     それより早いと、警戒したダークネスが現れない等の不測の事態が発生し、淫魔から「武蔵坂に交渉を妨害された」と誤解されてしまう恐れがある。
    「それと、交渉決裂寸前であっても、淫魔はあくまで、自分がダークネスに攻撃されるとは思って居ませんからね。うまく納得出来る方法を模索してみてくださいまし」
     また、説明が成功し淫魔が理解したとしても、今回は共闘は望めないと言う。
     彼女はあくまで交渉担当の様だ。
     
    「……まぁ、恩義がどうこう申しましたけれど、助けないという選択肢も無くは無いですわ。今回はダークネス3体を灼滅出来れば、作戦は成功と言って良いでしょう」
     淫魔がダークネスに殺されてしまっても、ラブリンスターとの関係が悪化する事はない。だが助ければ、より友好度は高まるだろう。
    「それでは、行ってらっしゃいまし」
     そう言うと、絵梨佳は一行を送り出すのだった。


    参加者
    巴里・飴(砂糖漬けの禁断少女・d00471)
    玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    愛良・向日葵(元気200%・d01061)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)
    日凪・真弓(戦巫女・d16325)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)

    ■リプレイ


    「オー、グレイトタイム。サンキュー」
    「ゆーあーうぇるかむ。じゃ、早速ラブリンスター様の所に行こ」
     夜の工事現場には、エクスブレインの説明通り、外国人らしき男が二人と、少女が一人。
    「ノー。ミー達、オンナノテシタニナンカ、ナリマセン」
    「は? ちょっと待ってよ! 話が違うじゃん」
     事前の約束を違えられ、不満を露わにする少女。男達も、顔を見合わせて肩を竦める。険悪なムードだ。
    「ウルサイビッチネ、ヤッチマエ!」
    「えっ?!」
     やがて、しびれを切らしたマッチョ外国人は、少女目掛けてその巨大な拳を容赦無く繰り出す。
     ――ブンッ!
    「そうはさせません!」
    「ホワッ?!」
     拳が少女の顔面を容赦無く打ち据える――かと思われた瞬間。両者の間に割って入ったのは、日凪・真弓(戦巫女・d16325)と織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)。そして彼女らのビハインドとライドキャリバーが、すぐさま襲われていた少女を守る様に立ちふさがる。
    「いやぁ、つい飛び込んでまいました。さて今の暴力は何事でしょか」
    「ユー達ニハカンケイナイネ! ゴーホーム!」
     柔和に微笑みつつ言う玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)に対し、エキサイトしながら喚く男達。
    「そうは行きません。戦いの相手は私達が務めますよ」
     燃えさかる断罪輪を手に、慇懃ながら楽しげに微笑む麗音。
    「え、アナタ達は……」
     ――ガンッ。
    「ノーゥ!?」
    「ナ、ナニスルネ!」
    「共生を望むラブリンスターの言葉、今は疑いません」
     ライトキャリバー、デウカリオンに乗った巴里・飴(砂糖漬けの禁断少女・d00471)は、男の一人をウィリーで轢き倒しつつ、少女を見遣って言う。
    「やっぱり、武蔵坂の灼滅者ね……? ちょっと待って、彼らは私達の仲間にしようと思って交渉をっ」
    「裏切りで有名なメリケン粉怪人め! 麦の風上にもおけない奴!」
     乱入してきた一団が、何者かを察した少女。しかし、彼女はまだ怪人と交渉の最中という認識でいる様だ。高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)は、そんな彼女の認識を覆すべく、男達を指さして言い放つ。
    「あなた達の手口は聞いてるわよ! するだけっ……し、しといて、後は殴ってポイって!」
     顔を赤くしながら、続いて言うリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)。
    「えっ?! ま、マジ? ……そんな……」
    「本当よ。……私ね、歌が本当に好きなの。だから、ダークネスは嫌いだけど、あんなに本気で芸の道を歩むあなた達を憎めない。堂々とこの間の恩を返せたら嬉しいのよ」
    「……」
     真っ向から視線を合わせ、訴えるリュシール。元より武蔵坂に対する不信感を持っていない淫魔の少女は、その訴えを黙って聞き、逆に怪人達へと疑いの眼差しを向けた。
    「そ、そうだったの……最初から、仲間になる気なんて無かったのね!?」
    「ナ、ナンノコトダ?! チョットシタジョークヨ! 余計ナ口出シノーサンキューネ!」
     今まさに暴力を振るわれる所であったその少女――ヨーコは灼滅者達の言葉を信用し、逆に男達――メリケン粉怪人らは状況が飲み込めず顔を見合わせる。
    「ヨーコちゃんを騙して、きずつけよーとしたなんて許さないからー!」
     愛良・向日葵(元気200%・d01061)は、ヒーリングライトで自らの治癒力を高めつつ、混乱中の彼らをびしっと指さす。
    「その人に手を出したら、ただじゃすまないっすよ。まあ、どっちにしろ灼滅するまでっすけど。――殲具解放」
     無敵斬艦刀『剥守割砕』を構えるギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)。
    「ほな、どうぞ鬼の居ぬ間に」
    「え、あ、ありがと! 恩に着るよ!」
     一浄の言葉に頷くと、戦域を離脱するヨーコ。
    「ファッキン! コイツラモ一緒ニノックアウトシテヤルヨ!」
     メリケン粉怪人らは、問答無用とばかりにシャツを脱ぎ捨て、筋骨隆々の肉体を露わにする。こうなった以上、ヨーコ諸共、叩きつぶすつもりのようだ。
     夜の工事現場における、いささか複雑な戦いが幕を開けた。


    「ファッキンドモメ! ミー達ヲ怒ラセルトドウナルカ、思イ知ラセテヤルヨ! 特ニユー! 良クモバイクデ轢イテクレタネ! 絶対ニ許サナイヨ!!」
     先ほど飴に轢かれた怪人は、スキンヘッドに血管を浮かべながら彼女へ突進。他の二人もこれに続く。
    「クラエ、メリケンパウダーアタック!」
     消火器から噴き出す消化剤の様な勢いで、白い粉が吹き出す。
    「……!」
     粉塵が彼女を捉えるかと思われた刹那、桃色の闘気「飴細工。」を展開して粉を撥ね除ける飴。
     またその防御から淀みなく、虚空より無数の刃を召喚して反撃を見舞う。
    「ヌウッ?!」
     鋼のような胸板に無数の切り傷を刻まれ、僅かに出足が鈍る怪人。
    「今宵の演目は裏切り劇、と――参ります」
     目を細めた一浄は、不睡蜂をすらりと抜き放つ。いっそ優雅とさえ言える静かな初動から、最低限の動きで振り下ろされる初太刀。浮き足立つ怪人が、それを回避する事など出来ようはずも無く。
    「ノォォーウ!! ミーノ腕ガァァ!」
     肉体ではなく霊魂を斬る神霊剣。外見上は傷の無い腕を押さえながら、絶叫を響かせる。
    「あんたらの親玉は、焼き鳥になって本国へ逃げ帰ったっすよ。あんたらも無意味にこんなところにいないで、大人しく灼滅されるといいっす」
     無論、苦悶する敵を黙って見守る愚を犯すようなことは無い。間髪を入れず、ギィの掌から噴き出すのは、炎の奔流。
    「アーウチ! シーット! トム、ボブ、アーユーオッケー?」
    「オ、オーケイ……」
     機先を制される形になり、体勢を立て直さざるを得ない怪人達。
     予期せぬ戦いで心の準備をする余裕が無かった事に加え、戦いが始まる前に色々あって体力を失っていた事も、その一因かも知れない。
    「ひっどいアメリカンメリケン粉怪人ちゃん達はメッするのだー!」
     本来は人の姿をした敵を攻撃する事を好まない向日葵だが、今回ばかりは女の敵を前に、心を鬼にしてバベルブレイカーを突き立てる。
    「グアァァーッ!」
     鋼の如き胸板とはいえ、尖烈なるドグマスパイクを弾くほどの硬度があろうとはずもない。怪人は激痛に絶叫を響かせる。
    「ボブ、ペイバックダ!」
    「オーケイ!」
     しかし敗残とは言え、相手もダークネス。このまま殆ど無抵抗で灼滅されてくれる訳では無いらしい。周囲の視界を煙らせる程のメリケン粉がバラ撒かれる。
     粉塵爆発とは、空気中に浮遊している粉塵が燃え、継続的に燃え広がって行く事で発生する現象である。その為には、燃焼が伝わる程度に粒子同士の距離が近い必要がある。だが、余りに密度が濃すぎても、燃焼の為の酸素が足りず、爆発は起こらない。
     彼らは爆発が発生する為の、最適な濃度を瞬時に作り出す事が出来るのだ。そして条件さえ整えば、静電気や僅かな火花からでも容易に大爆発は発生する。
    「「ダスト・エクスプロージョン!!」」
     ――バンッ!!
     白光と熱と衝撃が、夜闇を切り裂いて灼滅者を包む。
    「ヤッタカ……!?」
    「……ノー! マダヨ!」
     が、濛々たる爆煙が晴れると、そこには灼滅者達の姿。多少煤けてはいるが、いずれも健在だ。
    「あー、服が白くなったじゃないっすか。落とすの大変なんすよ!」
     ぽんぽんと服をはたきつつ、不快感を露わにするギィ。
    「ほんまに、着物汚れるさかい堪忍してもらえます?」
     一浄も袖で口元を抑えつつ、迷惑げな表情。
    「ふんだ、見かけ倒しの贅肉ダルマなんて!」
     コホンと一つ咳払いをしてから、尚も舞うメリケン粉を吹き飛ばす様に結界を展開するリュシール。
    「ゼ、贅肉ダト?! グハァッ!」
    「口数が多い割に、今ひとつ手応えが無いですね」
    「油断なさらず、各個に撃破致しましょう」
     やや拍子抜けとため息をつく麗音に対し、生真面目に注意を喚起する真弓。二人は同じクラブに所属する仲間でもある。
    「この方達より、真弓さんと一度殺し合ってみたいものですね」
     ふふっと笑いながら、本気なのか冗談なのか(恐らく本気なのだろうが)過激な希望を口にする麗音。
    「……。日凪真弓……参ります!」
     真弓は特にコメントする事は無く、クルセイドソードを紅蓮の炎に包み、地を蹴って間合いを詰める。
     麗音もまた自らの闘気を大剣へと変え、燃えさかる炎を纏わせてこれに呼応する。
    「グッ……マ、マイガーネース!!」
     ――ザシュッ。
     二人の燃えさかる剣に斬られた怪人は、斬り付けられた傷口から噴き出す炎に全身を呑み込まれ、そのまま燃え尽きる。
    「トム!?」
    「地元愛とかカケラも感じない! ただ悪いだけの怪人! 国産小麦パワーを見ろ!」
    「ヌ、ヌウッ!」
    「関東ローム層小麦粉ビームッ!」
     麦を心から愛するご当地ヒーローの麦にとっては、まさに不倶戴天の敵。手の平に栃木のご当地パワーを集中させると、輝かしく実った麦の如き、金色の光線を放つ。
    「グオォォーッ!?」
    「群れている割に、連携もなっていませんね。その程度で私達と戦うのは、いささか見通しが甘いのでは」
     小麦粉ビームに圧倒される怪人に対して率直な感想を口にしつつ、間合いに滑り込む飴。閃光の如き無数の拳を、彼の鳩尾へと叩き込む。
    「ア、アンビリーバボー……ゴフッ」
     力尽き、膝から崩れ落ちる怪人。
    「クッ……コノ、ミー達が……コンナガキ共ニ……認メン! ステイツイズナンバーワン!!」
     最後の力を振り絞って、飛びかかる怪人。小柄な後衛の向日葵を狙い、一矢報いようと言う腹づもりらしい。が……
    「来るなら来い、だよ!」
     迎撃のジャッジメントレイを放つ向日葵。
     ――ガッ!
    「ヌッ?!」
     庇う様にして、掴みかかる怪人の腕を受け止めるリュシール。
    「女のっ、手下になんか? 笑わせるん、じゃ、ないわよ……女子供より強くなってから、抜かしなさいッ!」
     ――ブンッ!
    「ホワーッツ!?」
     力比べの状態から、柔よく相手を空へと投げ飛ばす。
    「これにて幕引きと致しましょ」
     相変わらず飄然とした様子で、これに追従すべく跳躍した一浄。空中にて不睡蜂を一閃。
     ――ザンッ。
    「ノォォーッ!!」
     怪人は絶叫を響かせ、空中で跡形も無く四散したのだった。


    「灼滅完了。アメリカンご当地怪人の残党ならこんなものっすか」
     ぱんぱんと、いまだに若干粉っぽい手の平をはたきつつ、静けさを取り戻した工事現場を見回すギィ。
    「ヨーコちゃんが怪我無くてよかったよー♪」
    「えへへ。今回はアナタ達に助けられちゃったかな」
    「こっちもこの前はホントに助かりましたから」
     安全圏に避難していたヨーコが姿を現すと、裏表の無い笑顔で言う向日葵。麦もヨーコの言葉に、率直な感想を返す。
    「……あ、帰る前に。……名前位は交しておかない? 私はリュシール」
    「アタシはヨーコ。本当なら、一人一人にたーっぷり御礼したい所だけどぉ……ま、それはまた今度って事で♪」
     リュシールの言葉に頷いて、握手を交わしつつ改めて名を名乗るヨーコ。
    (「ダークネスを救うは不本意ですが……貸し借りは清算しておいた方が、いずれ戦う際にも遺恨を残さず済みますからね……」)
     真弓はヨーコと馴れ合うことなく、距離を取る。
    「戦う相手を増やしてくれるなら、私は歓迎ですけれど」
     一方麗音は、あくまでバトルを楽しめるなら何でも良いと言うスタンス。
    「ヨーコさん、くれぐれも無害な人間を巻き込まないように」
     一方、念を押す様に告げる飴。
     それは灼滅者とラブリンスターが友好関係を維持する為に、避けては通れない議題だ。
    「ウフフ。だいじょーぶだいじょーぶ、多分ね」
     だが、ヨーコは笑いながら軽い調子でそう応える。どこまで本気なのかは解らない。
    「さて、それじゃアタシはスカウトの続きをしないと」
    「ほな、またいずこかでお会いしましょ」
    「えぇ、じゃまた♪」
     目礼しつつ言う一浄、そして一同に軽く手を振ると、ヨーコは夜闇に紛れて姿を消した。

     灼滅者達は、アメリカンご当地怪人の残党を掃討する事に成功した。
     同時にラブリンスター派の淫魔の命を救った事で、両勢力の関係はまた少し良化するはずだ。
     かくして作戦を完遂させた一同は、工事現場を後に、武蔵坂へと凱旋するのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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