盛り上がれ! 大卓球大会

    作者:陵かなめ

    「聞いちゃったんだよね、温泉宿で卓球をすると……って、やつだよ」
     ポンパドール・ガレット(終焉を告げし観測者・d00268)がこんな噂を聞いたというのだ。
     それは九州、湯布院温泉地方の小さな温泉宿での話だ。
     温泉の後の卓球は、格別の盛り上がりを見せる。旅先での高揚感がそうさせるのか、それとも温泉直後の幸福感のおかげか。とにかく、温泉宿での卓球は、楽しいし盛り上がるものだ。
    「でさー、その宿で楽しく卓球をしていると、殺人卓球の使い手が出るらしいんだよね。まあ、卓球をしながら襲ってくる都市伝説らしいよ」
     サーブ、スマッシュ、ドライブと、鋭いラケット捌きから打ち出される卓球ボールは、当たればそれはそれは痛いと思う。
     温泉宿で卓球を楽しむ者に襲い掛かる、都市伝説の話だ。
     
    ●依頼
    「と、言うわけで、都市伝説の灼滅をお願いしたいんだ」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)がくまのぬいぐるみを抱え話し始めた。
     場所は湯布院温泉地方の小さな温泉宿だということ。
     殺人卓球の使い手は、卓球を楽しむ者達の前に現れるということが説明された。
    「とにかく楽しく卓球で遊ぶことが第一なんだよ」
     都市伝説を呼び寄せるには、とにかく卓球で盛り上がることだ。リーグ戦、総当たり戦、乱戦、もしくは適当に。卓球を楽しむのが良いだろう。
     小さな宿のため、卓球台は2台しかない。
     それを踏まえて、どう盛り上がるのかが鍵となるだろう。
    「殺人卓球の使い手は、サーブ、スマッシュ、ドライブで卓球ボールを打ち出してくるよ。当たれば痛いようだから、気をつけてね」
     太郎は、最後に迷うような表情を見せた。
    「えっと。せっかくの温泉宿なんだけど……、ちょっと嫌な予感がするんだ。だから、事件が解決したら、速やかに学園に帰ってきて欲しいんだよ」
     目の前に温泉宿があるのに、大変申し訳ないと、太郎は何度か頭を下げた。
    「それじゃあ、みんな、よろしくお願いします」


    参加者
    ポンパドール・ガレット(終焉を告げし観測者・d00268)
    近衛・朱海(朱天蒼翼・d04234)
    黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)
    リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)
    浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149)
    オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)
    中島・優子(飯テロ魔王・d21054)
    水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)

    ■リプレイ

    ●来ました温泉宿
    「ふぅ~。良い湯であったな! そして、温泉卓球!」
     中島・優子(飯テロ魔王・d21054)が、ほかほかと湯気を立てながら卓球台を眺める。浴衣にスリッパと言ういでたちは、いかにも温泉客が温泉を楽しんできましたよ、と物語っているようだった。温泉は気持ちよかった。これで卓球を楽しんだのなら、きっとサイコーだ。
    「へっへー! 正規ユニフォーム・浴衣にスリッパを装備したぞ! 公式飲料はフルーツ牛乳でイイんだっけ?」
     同じく浴衣姿のポンパドール・ガレット(終焉を告げし観測者・d00268)がフルーツ牛乳の瓶を掲げた。
    「私も牛乳一瓶貰おうかしら」
     近衛・朱海(朱天蒼翼・d04234)も牛乳に手を伸ばす。やはり、浴衣姿にスリッパ装備だ。
    「そうそう。温泉と言えば、フルーツ牛乳を一気飲み!!」
     優子も2人に並んでフルーツ牛乳のふたを開ける。
     ポンパドール、朱海、優子の3名は、仲良く一列に並び腰に手を当て瓶を構えた。
     そして、一気に飲み干す。
     ごくごくと喉が鳴り、華麗な一気飲みを見せた。
     そこへ、次々と仲間達も姿を現す。
    「せっかく日本にいるんだもの、ユカタは欠かせないわよね」
     パタパタとスリッパを鳴らしながら、浴衣姿のリリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)が卓球台へ近づく。
    「さあ、台をくっつけましょう! 4対4で対決よ」
     浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149)が二つある卓球台をいそいそと運びはじめた。嫉美もまた、浴衣にスリッパと、様式美に則った温泉卓球スタイルだ。
    「私は卓球はやった事はないですね。卓上のテニスと思っていれば問題無いのでしょうか?」
     それを手伝いながらオリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)が小首を傾げる。
     台をぴったりとくっつける位置に置くと、弾みでオリシアの胸元がたわたわと揺れた。
     随分リアリティのある揺れ方だったけれども、まさか……その浴衣の下には何も……?
    「あたしも卓球ってそんなにやったことないけど、身体を動かすのは嫌いじゃないわ」
     体操着姿の黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)がラケットや球を配る。
     反転式ペンホルダーを選んだ水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)は、ラケットの上に球を転がしながら台の前に立った。
    「卓球は結構やった事有るけど、楽しいよねえ」
     ころりと球を台に乗せると、仲間達も4対4に分かれるように台の近くに集まってきた。
    「だから人を傷つけるのは許せないかな。うん」
     雁之助が言う。それを聞いて、嫉美が唸った。
    「まさか卓球でまで死者出かねない超人スポーツが出たのね! 危なっかしいから早く倒さないと!」
     うんうん、と。灼滅者達は深く頷き合った。
     とあらば、話は1つ。
     みんなで卓球を楽しむ他無い。
     灼滅者達はラケットを構え、球が放り投げられた。

    ●嬉しい楽しい温泉卓球
    「我が魔球! 分身サーブを受けてみよ!」
     優子が掌から球を転がし、鋭いサーブを撃った。弾道が2つ、はっきりと敵の陣地へ飛ぶ。
     さすが分身サーブ。まるで球が2つあるような、そんなサーブだ。
     いや、違うッ。
     球を打ち返す体勢を取っていたあんずの表情がこわばった。
    「な……! 分身……っじゃなくて、球がはっきり2つ!!」
     その通りッ!!
     飛んでくる球は正真正銘2つあるッ!!
     それは!! ただの!! 2つの球を打っただけのサーブだッ!!
     右か?! 左か?! 勢いを増す球を目で追いながら、即座に決断する。
    「そっちはまかせたわ!!」
     あんずは飛んできた球のうちの1つをしっかり狙い、器用に相手陣地へ打ち返した。
    「リリーにまかせて!」
     もう1つの球に手を伸ばしたのはリリーだ。
     後陣から走りこみ、バックスピンで打ち返す。
    「くっ。この狂華の魔球が破られるなんて!!」
     と、優子が悔しそうに唇を尖らせた。なお、狂華とは優子の真名であり魂の名前と言うか、何かそんな感じなのである。
    「まだまだ、これからよ!」
     優子の隣から朱海が飛び出した。球の正面に身体を向かせ、一気にラケットを振りぬく。
     痛烈な強打で、鋭い球を返した。
    「っと、もう1つ返すよ」
     後から来た球は、雁之助が反対側へと打ち返す。ラリーを続けるために、取りこぼしが無いようにフォローする動きだ。
    「よし、きたぜ!」
     ポンパドールが声をかけると、オリシアが頷いた。
    「こちらは、私が」
     皆が球を打つ様を真似、グリップを握り締める。
     だが朱海からの球の勢いは凄まじく、するりとオリシアのラケットをすり抜け、そのまま浴衣の袖を引っ張った。
    「きゃあ?!」
     その勢いは衰えず、ついにオリシアの胸元が肌蹴た。
     ぽよん、もしくはポロリと、豊満な胸が一部零れ落ちるッ。
    「のわっ」
     真正面にいた優子が顔を真っ赤にして固まってしまった。隣で、雁之助もそっと目を逸らす。心なしか皆が頬を赤く染めた気がした。
    「はい。ハプニング終了よー!」
     あんずが急いでオリシアの胸元を隠す。
    「はあ……。卓球って、意外と難しいですね?」
     オリシアも、そそくさと浴衣の着崩れを直した。
    「だけど、まだ1つ生きてるし!」
     その間に、ポンパドールがもう1つの球を打ち返す。
    「こっちに来たわ!」
     その球を、今度は嫉美が捕らえた。
     嫉美の瞳は、今、燃えている……ような気がするッ。ごうごうと、嫉妬の炎が全身から立ち上っているが如く。
     下着も無く浴衣ッ!! ……からの、お約束的ポロリッ!! しかも、大きいッ!!
     これが嫉妬せずに居られようか。いや、居られまいッ。
    「嫉妬の籠った打ち返しよ!」
     とにかく、嫉妬の心を熱く燃えたぎらせ、嫉美は激しいスマッシュを打ち返した。

    ●激しいラリー
     さて、都市伝説を呼び出すための卓球は、苛烈を極めた。いやいや、勿論、皆楽しんでいる。
     だが物凄い勢いの球がいくつも飛び交っているのもまた事実なのだ。
    「ふははは、マジメにラリーしろなんて誰も言ってないもんねー!」
     ポンパドールは、笑いながら多数の球を朱海に打ち出す。バックハンドがやや苦手だとすでに見て取っている。
    「コレもしかして、みんなでひとりを集中攻撃すればすげえ有利なんじゃね?」
     言いながら、微妙に角度を変えて攻め立てる。
    「くっ。ややこしい球は任せたわっ」
     朱海は打ち返せない球を仲間に託す。
    「こっちは、バックスピン。これは、普通の球で……、そこっ」
     すぐさま雁之助がサポートに走った。
     右へ左へと球を打ち分け揺さぶりをかける。
    「フォローはするよ、大丈夫」
     雁之助は皆の動きを見ながら、バックスピンに回転の無い球などを織り交ぜ攻撃を仕掛けた。
    「いかせないっ。打つわよっ」
     それに対応するのはリリーだ。カット主戦型で戦っていたけれど、相手の対応が後手に回った今こそチャンスだと、大きく腕を振る。
     果敢にスマッシュに打って出たのだ。
     勢いの良い球が台で跳ね上がり、誰も打ち返せぬまま床に落ちた。
    「ず、随分ガチで来たわねー」
    「リリー殿……恐ろしい子っであるなー」
     嫉美と優子が手と手を取り合い囁き合う。
    「……き、気のせいじゃないかしら」
     リリーは頬に指をあて、そっぽを向いた。
    「こちらは、お任せください」
     随分卓球に慣れてきたオリシアも、次々と飛んでくる球を打ち返す。
     しかし、いくつか甘く返った球がある。その真正面に、朱海が立った。
    「はああぁああああああ……」
     勿論、これは楽しくラリーするのが目的で、凄く楽しい。でも、いやだがしかしッ、負けるのはやっぱり何か悔しいッ。
     朱海は全ての力をラケットを握る腕に集中させ、大きく打ち返すポーズを取った。
    「いっけぇー!!」
     狙いを定め、全力のスマッシュを繰り出すッ。
    「な――」
     受けようとしたあんずのラケットを弾き飛ばした!!
    「はぁ……ぁ、やる、わね……」
     あんずはその場で苦しげに息を吐き出す。何となく、それがこの場に相応しい身振りだと思った。
    「ふっ。まだまだ負けないわ」
     朱海がニヤリと笑い返した。2人目が合い、笑いあう。テンションが上がってきて、こんな小さな演技だけでも楽しい。
    「普通の卓球の枠に収まらない、この勢いと訳が分からなくなっても楽しくなる雰囲気がたまらないわね!」
     嫉美が言うと、みんな愉快気に笑うのだった。
     こんな感じで、温泉卓球は楽しく盛り上がった。
    「ふっ。この卓球場で盛り上がるとはな。この殺人卓球の使い手様の美しい技を見たいと言うことだな!!」
     そして、突然終わりは訪れる。
     いつの間にか卓球台の近くにふらりと現れたソレを感知し、灼滅者達は一斉に戦闘態勢に入った。

    ●速やかに
     時間を気にしながら卓球をしなければいけないなんて酷すぎる。ポンパドールは体内から赤々と炎を噴出させた。せめて、都市伝説をぶっ飛ばすところまでをお楽しみにしてやると。
    「だれがホントに殺しに来いって言ったあ!」
     武器に宿した炎を殺人卓球の使い手に叩きつける。
    「ただでさえ台せまいのに、おめーの場所なんてねーから!!」
    「ぐぅっ」
     殺人卓球の使い手の身体に炎が燃え移り、呻くような声が漏れた。
     霊犬の無銘を従え、朱海も攻撃を繰り出す。
    「必殺ッ!! 近衛百八式……スマーーーーーーーーッシュ!!」
     狙いを定め、全力のレーヴァテインを繰り出すッ。
     打ち出した技は、もはや弾丸。
    「な――」
     敵はなすすべも無く床に転がった。
    「うーん。しかし本当に殺してしまうのはスポーツマンシップとしてどうなのよ」
     と、地に伏す敵を見て朱海は呟くのだった。
    「だりゃあ!! まだこっちは技も出しとらんわ!!」
     敵は意外とタフなようで、がばりと起き上がり鋭いボールを打ち出してきた。
    「あなたとラリーするつもりは無いのよ! 一方的にスマッシュさせて貰うわ!」
     攻撃を受けながら、嫉美は武器を構える。
    「見えるわ……あそこにスマッシュすればいいのね!」
     予言者の瞳で傷を癒し、狙いを定めた。
    「油断せず、速やかに対処しましょう」
     敵の動きを見て、オリシアがその懐に飛び込む。楽しく卓球をしていた時とはがらりと雰囲気を変え、悠然とバベルブレイカーで敵を貫く。
    「リリーも続くよ」
     続けてリリーが尖烈のドグマスパイクを繰り出す。
    「くっ。こ、こんな……」
     都市伝説の身体が吹き飛び壁に叩きつけられた。
    「回復は間に合っている、なら……!」
     雁之助は戦う姿――白虎の姿に変わり、大きくジャンプしてからオーラキャノンを放つ。意識しての派手な動きだ。少しでも敵の注目を集めることが出来るだろうか。
     合わせるように、あんずと優子も技を繰り出した。
    「行くわよ!」
     あんずの螺穿槍が敵を穿つ。
    「受けよっ! 稲妻ぁ……サーブ」
     そして、優子はラケットを構えるようにマテリアルロッドを構え、激しい雷を呼び起こした。
    「あ、ちょっと、まっ」
     へっぴり腰で逃げようとする都市伝説に向かって、力いっぱい打ち付ける。
    「ぎゃんっ」
     雷に撃たれ、都市伝説・殺人卓球の使い手は大きく跳ね上がった。
     戦いの攻防は灼滅者達が押していた。
     敵からの攻撃を庇いあい、傷は素早く癒し、前から中から後ろから、確実に攻撃を当てていく。
     気がつけば、都市伝説は息も絶え絶えといった様子でへたり込んだ。
     チャンスと見て、あんずが飛び上がる。
    「あんずちゃんスマーッシュ!!」
     勢いある掛け声と共に、ご当地キックを放った。
    「それ、スマッシュ、違う……キック、じゃ、ないか……」
     都市伝説は最後の力を振り絞り抗議の声をあげる。
     そして、言い終えた後静かに消えていった。

    「敵の正体はもう分かってる……解らないのはその狙いと、なぜリリーたちがここに来るのを知っているのかということ」
     リリーがポツリと呟いた。
    「嫌な予感……ね。気になるけれど、今回は早めに帰るのが良さそうね」
     あんずが言う。
     卓球で汗をかいたので本当は温泉に入ることが出来たらよかったのだけれど、仕方が無い。
     皆納得したように頷く。
     引き上げる準備は万端だった。
     即時撤退を決めた灼滅者達は、すぐにその場を後にした。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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