マラソン大会2014~実力行使のWargame

    作者:立川司郎

     10月31日。
     それは毎年恒例の、学園内マラソン大会の開催日である。
     道場で精神統一をする相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)の元へ、クロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)は足音もなくやって来た。
     そうして目を伏せて座する隼人は、合戦前の武者のようである。
    「……出るのか?」
    「ああ」
    「逃げ? 先行? 差し? それとも追い込み?」
     クロムの言葉を耳にすると、くわっと目を開いて隼人は木刀を床にたたき付けた。
    「馬鹿か! そんなチマチマした戦いやってられっか! ……何人たりとも俺の前は走らせねェ。俺の前を行くヤツは実力で排除する!!」
     そう叫ぶと、にやりと隼人は笑った。
     つられてカラカラとクロムも笑い、隼人に顔を突きつけた。
     つまりだ。
    「「最終的に立ってた方が勝つ」」
     ……ああ、そういう話だ。

     マラソンコースは全長10キロに及ぶ。
     学校を出発して市街地を通り、井の頭公園を駆け抜けて吉祥寺駅前へ。そこから繁華街を通り、最後に坂を駆け上ってから学校に到着する。
     最後の坂が勝敗を決めるといっていいが、生憎と隼人は正々堂々と走るつもりはさらさらないらしい。
     隼人はいかにうまく服の腕に篭手を仕込むか悩んでいるし、クロムはどうやって隼人や他の連中の追撃を躱そうかとワクワクしていた。
    「……これは戦いだ」
     戦いというのは、レースという意味ではない。
     まさに、前を行く者をただひたすら実力で排除し、最後に自分がゴールする為の踏み台にするというスポーツマンシップもへったくれもない闇の競技であった。

     きみたちはこのレースに参加した以上、一切の情は捨て去れ。
     ただ、邪魔する者を実力で排除し前へ進む。
     それだけだ。


    ■リプレイ

     青空の下、一斉に生徒達が飛び出して行く。
     先頭をゆく者、のんびりと後ろから行こうとする者。
    「そうはさせるか!」
     スタート直後、足を上げて砂を蹴り上げようとした霧亜に矜人が横からみぞおちにヒット。
     振り返る事なく走り去る矜人を、見送る。
    「この…っ」
     せめてもの抵抗と石を投げる霧亜であったが、矜人には届かず。
     その矜人も、恣欠が巻いた煙幕で足止めをくった所を追いついた霧亜に追いつかれた。霧亜の足払いに受け身を取る矜人。
     そして当の恣欠は、颯爽と駆け去るのであった。
    「地雷でも設置出来ればよかったんですがね」
     少し残念そうに、恣欠が呟く。
     ちらりと振り返り、利戈が猛ダッシュするのが見えた。
     背後にピタリとつき、拳を繰り出す利戈。
    「霧亜を矜人がヤッてくれて助かったぜ! さあお前も走れ走れ!」
     俺の前を走りたければ走れ、何れ殴る!
     と、良い笑顔で利戈は言う。
     とりあえず殴る。
    「こういう輩の相手はしていられませんね」
    「甘い! 俺がやりたいのはコイツなんだよ!」
     恣欠の投げたバナナの皮を飛び越え、パンチ。
     一方、開幕早々人化を解いたラハブは…。
    「先手必し…」
     言いかけた所で、口から火を吐きそうな姿を早々に見とがめられ、人生徒会に連行されてしまった。
     尻尾を振りながら連行されるラハブを振り返る、イチ。
    「…やっぱり、適度に、頑張ろう」
     霊犬のくろ丸を見下ろし、走り出すイチ。
     しかし後方から飛び出したフィズイが滑り込みで足払い。
     派手に転んだイチとの間で、くろ丸が唸った。
    「お先に失礼しますよ~!」
     速攻走り去るフィズィを、むくりと起き上がり見つめるイチ。猛烈な勢いで追いかけ、拳を繰り出した。
     にやりと笑うフィズィ、むろん望む所である。

     …とりあえず、スタートダッシュは阿鼻叫喚だった。

     開幕の洗礼を見送った後、未空は走り出した。
    「危ない危ない…」
     まさか開幕から仕掛ける連中が居るとは思わず。
     最後尾を気にしながらも、未空はすぐに躓いた。
     …フリをして、流れを見送る未空。
    「見つけた!」
    「か弱い女の子になにするのーおにちくー」
     こっそり隠れていた七を見つけた良太が、襟首を掴む。
     投げようとした良太を、とっさに掴み返す七。
    「温存してる方から倒させてもらうよ」
    「じゃああたしも、そうさせてもらうね」
     さらりと言う良太に、七も笑顔で返す。
     取り出したクラッカーを炸裂させると、飛び出した。驚いた良太に、ジャージの上着をかぶせて去る。
    「あたしの礎になるがいい!」
     と七が叫ぶと同時に、未空が良太を踏みつけて追い抜く。
     スタート直後に回し蹴りを古都から喰らった嵐は、やや出遅れた。
     追いつくと古都は、さわやかに笑って。
    「あらすみません。お先に失礼しますね?」
     とにこやかに笑ってて、更に負けん気が強くなる嵐。
     ひとまず転ばせようと手を伸ばすが、容赦無く拳で迎撃する古都。
    「だ、駄目だ女の子だからとか思ってたら…あ、待って!」
    「お先に~」
    「待ってよねえ、待てって!」
     さわやかな笑顔で去って行く古都。

     序盤の混戦状態の中クリミネルと紅鳥の前を、くるみとタージが塞ぐ。
     軽くボールを転がしながら、クリミネルが二人の動向に警戒。
     攻撃…と思いきや、くるみは話を始めた。
    「『隣の家に囲いができたんだって』『あなたがじろじろ覗くからでしょ』」
     最後まで聞かず、クリミネルは玉を転がした。
     ぶつかった足に重みが加わり、悶絶するくるみ。
    「ごめんな、別にうちが関西弁使てるから言うてイラッとしたんちゃうよ?」
    「ううっマハルさん…」
     くるみが見上げると、その前にタージが立った。
    「くるみを傷つけるなんて許さない」
    「そうか」
     紅鳥はそっけない言葉を返す。
     思った通り、今度はタージが小話。
    「だからさ、ジョン。その時オレはワイフに言ってやったのさ…」
    「オチはもういい」
    「いやまだオチじゃないよ、多分想像してるのと違うから」
     問答を繰り返すタージと紅鳥。
     めくどくさくなった紅鳥が、かんしゃく玉を放つ。

     隠し持った水風船を投げつける途流は皆に謝りつつ、全力でアテに来る。
     主に、清純の方へ。
    「か弱い俺は武器を手にするしかないよな!」
     と水鉄砲を取り出す清純に、途流の辛子とか山葵とか、色んな物を混ぜた水風船が。
    「痛い痛い!でも迎撃しても合法だよね!イケメン狩ってもいいんだよね」
    「逃がすか!」
     と放った水鉄砲を浴びた途純は、とっさに掴んだ。
     …掴んで離れない。
    「仲が良いな。もう休戦?」
     舜が接着剤でくっついた二人に声を掛け、刺激物を放った。水風船の中身は、中身を知りたくない感じの臭いの放つ液体。
    「テストで毎回残念な奴が頭脳派とか名乗るなよな」
     そしてまた念入りに攻撃される清純。
     確かに頭脳派キャラではありませんねと一都。
    「それにしても暑いですね」
     走りながら扇で仰ぐ余裕…と見せかけ、それを舜に叩きつけた。
     間一髪で左手で受け止める舜。
    「かかったな!」
     一都の重い鉄扇が、手を痺れさせる。
     結局仲間同士戦ってる訳で。
    「やっぱりこういう集団だよね、うちは」
     分かってた、と匡は言う。
     しかしその匡も、実はリア充ではないかと静流。
    「リア充イケメンを狩るイベントでは?」
    「そうだな。分かってるならいい」
     静流は冷静にそう言い返すと、黙ってスリングショットを取り出した。
     ダッシュで距離を開け、手裏剣を放つ匡。
     炸裂した静流の肩に接着剤が。
    「リア充は一人も逃がさないよ」
     残った手で、静流はスリングの弾を投げた。
     次々と脱落する仲間を背に、優輝は自分の手にある水鉄砲を見つめる。
     自分を狙ってくれば、容赦なく迎撃する。
    「だが、今は仲間の為にもゴールを目指さねば」
     後ろが静になったのを感じ、優輝は息を整えた。
    「…ん?」
     振り返った優希は、叫び声を上げた。

     合図とともに飛び出した陰影の仲間。
    「マラソンは適当に頑張る」
     と響は言…う訳がなく、口と裏腹に速攻足払いを繰り出した。
     奏一郎はともかく、翼は先手を打たねばこっちがやられる!
     何とか受け身を取った奏一郎と、まともに喰らいながら耐えた翼。
    「響てっめ…」
    「ふはは、勝てばよかろうなのだ!」
     捕まえてごらんなさいと駆け出した響と、彼を追う二人。
     翼はくいっと奏一郎の袖を引いた。
    「なあ奏一郎」
     案でもあるのか、と耳を寄せたと思うと、体が浮いた。足元を払いながらの引き倒しが、華麗に決まる。
     青空と、翼の笑った顔とが奏一郎に映った。
     ああ…これはもう…響に怒りをぶつけるしかない。

     コースはやがて、緑豊かな井の頭公園に。

     ここで決着を付ける。
     その覚悟は、花園の皆同じらしい。
     鉄扇を忍ばせたセカイは、折角の機会なのだからとりんごに挑戦。
    「自分の力量を試す機会ですし、胸を借りるつもりで来ました」
     あ、でも変な意味ではなく…と慌てて言い訳するセカイ。
     腕組みをして、リンゴが見つめる。
    「おいたは駄目ですからね?」
     こくりと頷き、まず蹴りを仕掛けるセカイ。
     片手で受け止めると、するりとりんごは投げた。
    「正々堂々来た姫条さんにセクハラ返しは無しです」
     そして全力で逃げようとしていた奏は、後ろから来た葵に捕まれる。
     だが葵は更にスミレも掴み、二人の手を縄で繋ぐ。
    「やるからには全力で行きますからね」
    「…これはっ!」
     驚く奏と、笑顔のスミレ。
     何を全力で行くのか、聞きたい気もするが怖くもある。
     困りましたわ、と言いながらスミレは逃げられない奏を組み敷いた。
    「ロープが絡んでしまいましたわ」
    「それは大変ですね。お助けしましょうか?」
     え?葵さんがやったんじゃないの、という奏の突っ込みを無視して、何か手を胸に伸ばしてくる、葵。
     絶望に染まる、奏の瞳。
     しかし二人の胸に押しつぶされ、その悲鳴はかき消されたのだった。
    「既に身の危険所じゃないようですね」
     扇子を叩きながら、悠花が呟く。
     その背後から蹴りが飛び、受け止めた。
    「誰?」
     振り返る悠花に、強烈な頭突きがヒットした。
     くらくらする視界に、額から流血する緋頼が。
    「最後まで切り札は取っておくものです」
    「流血してますけど大丈夫?…でも容赦はしませんけども!」
     扇子で応戦する悠花と、流血しつつ蹴りを放つ緋頼。
     しかしトドメに背後から杏子がハリセンで叩くと、ふらりと倒れた。受け止めた杏子が、顔を覗き込む。
    「…あ、怪我は大丈夫そうね」
    「本当に?」
     胸をつんつんしてみる、悠花。
     ぴくりと動く緋頼。
    「大変、怪我人がー!」
     大丈夫とみると、杏子が皆に叫んだ。
     むろん、部員全員が手をわきわきさせながら緋頼に駆け寄ったのは言うまでもない。

     雛罌粟は待ち受ける獲物を発見、仁王立ちした衛にジャブを繰り出す。
    「…ってあぶなっ!」
     雛罌粟は腕と足に防具でがっちりガード。
    「へっへーいッ!ご機嫌麗しゅうございますっすか?!」
    「ふふふ、仕掛けられて燃えてくるってモンっすよ!」
     互いに笑いを絶やさず、攻撃を繰り出す。
     衛はジャブを回避し、素早く足払い。
     体勢を崩した雛罌粟も、すぐに立て直して猫欺し。しかし反撃と喰らわせた頭突きで、お互い目を回す。

     背に庇っていた由乃の視線が気になり、エルメンガルトは先行交替。
     決して後ろの由乃が信用出来ない訳ではない!
    「いきますよエルさん!」
    「うわ来た!」
     走り出す由乃に、後ろを振り返ったエルが迎撃の準備。
     ジャージを羽織っているが、先頭は葉。
    「行くぞ瞬」
     葉が声を掛け、後ろの弟に声を掛ける。
     エルからは見えないが、ぴたりと揃って駆け寄る葉と瞬。
    「来るんですか?」
     殺気を放ち振り返る由乃に、思わず瞬はさっと視線を落とす。
     …これは目を合わせては駄目な人だ。
     無言で二人はエルの側へと寄り、隠し持ったロープでエルの足を払った。体勢を崩しつつも、隠し持った胡椒を振りかけるエル。
    「…しまった!」
     葉はとっさに避けたが、後ろの瞬とエルはまともに被る。
     骨は拾いますよと駆け出した由乃を追って、葉も走る。
     …そして残されたのは、くしゃみが止まらない瞬とエルであった。
    「見つけたぜ!」
     瞬とエルを飛び越え、錠が葉に向かって全速力。
     そこに後ろから追いついたのが、葉月である。
    「女子は軽くやり過ごすが、男はぶっ潰す」
    「俺と遊びてェっての?上等じゃねェか!」
     にやりと笑い、錠が振り返りざまに蹴り。
     するりと前に出ながら躱した葉月は、腕をかすめた錠の靴に違和感を感じた。
    「ガチでやり合うと手強いな、やっぱ」
     ひやりとしつつ、葉月は隙を伺う。
     錠の靴は、鉄板入り。
     ふと視線を外し、身を引いた錠に代わって実が割って入った。
    「手加減出来ないからな」
     ゆるりと構えた実は、葉月の蹴りを腕で受け止めた。
     堅い感触が伝わり、実がすうっと袖を引く。
    「どっちが来る」
     錠なら関節技、葉月は素早いから掴んで…と思考を巡らせる。

     スピードアップのクロムに後方から声が掛かる。
    「くっろむ君、遊びましょー!」
     手を振る供助。
     待つ気はないクロムは、ガードレールを跳び越えて走る。しかし供助は食らいつき、拳と脚で仕掛けた。
     躱し、走り、追いつき蹴り倒す。
    「しつけーなテメェ」
     と言いつつ笑うクロムに、供助は楽しそうだ。
    「なぁ、偶には素手ってのも面白いだろう?」
     そして乱闘を躱し続けてきた夜々は、隼人を発見して駆け寄った。
     既に大分やられた風の隼人であったが、まだ余裕はありそうだ。
    「やぁ兄弟。名のあるぱっつんだとお見受けした」
     ぱっつんだぁ?
     首をかしげ、はたと髪型を思い出す隼人。
     悪鬼から助けて頂きたいと願う夜々に、にやりと笑う隼人。
    「ああいいぜ」
     と言うが早いか、拳を繰り出した。
     しかしその時、突然帽子を目深に被った男が隼人に掴みかかってきた。するりと躱した隼人に代わり、夜々が投げ飛ばされる。
     脱げた帽子の中身は、通であった。
    「エスブレインと勝負ってのは、中々得難い機会だと思わないか?」
    「そうだな、俺も灼滅者と勝負出来るのは光栄だ」
     柔術を生かした戦法で隼人に掴みかかる通。
     通よりも柔術に不慣れであるが、受け身を取りながら拳を繰り出す隼人。
    「…君達、マラソンって本来血を流さないスポーツだって知ってる?」
     夜々の声は、届いていないようだ。

     理利は、不審な動きの仲間をゆっくり振り返る。
    「さとりせんぱい、背中押してあげるね」
     杏子が笑顔で手中に手を添える。
     だが、彼は罠だと悟っていた。
    「そんな物騒なもの、人に向けてはいけません」
     杏子が隠し持った吹き矢を、愛用のはたきでたたき落とす理利。
     違う、これは先輩を守る為のものだと言い訳する杏子。
    「あっ、悪のウサミミ族!」
    「そんなものが…」
     居た。
     ふいうちで靴紐を切る、地味な嫌がらせをする脇差、ウサミミ付き。更には足元にビー玉を転がしてみたりする。
    「はたき持った時点でお前はおかん属性、覚悟しろやっ!」
     ウサミミ付き明莉はなんか悪い笑顔で、割烹着を取り出しにじり寄る。
     ハッと気付くと、目を輝かせて心桜が携帯を構えていた。
     残るは五人、輝乃は明莉達と視線を交わすと一斉に行動。
    「脇差、はいパス」
     自然な動きで、輝乃は懐から子猫を出して渡した。
     さらに心桜が、もう一匹。
    「鈍殿、この猫もどうぞ」
     先ほど見つけた猫を渡す、心桜。
    「くっ、卑怯な罠を…!」
     口惜しいが、脇差はこの罠を回避出来ない。
     脇差が猫と戯れる間、杏子が再び吹き矢を放つ。
     手にした風船を翳してそれを受けた輝乃、実はその中には胡椒や唐辛子が。
    「てるのちゃ…ケホッ!」
     咳き込む杏子。
     輝乃の般若面を見た明莉は、既に逃げ出していた。
     ぼんやり見まわし、輝乃はゆっくり走り出す。
    「…許せ心桜」
     胡椒爆弾から逃れた明莉は、心桜を振り返り見つめた。

     繁華街では、既に乱闘状態となっていた。
     出来るだけ先頭を回避しようと走っていた燦太は、前方を走る蔵人がSCをポケットからちらりと出すのに気付く。
     …と、手の内に武器が握られていた。
     即座に魔人生徒会に連行される蔵人。
    「やれやれ、ちゃんと生徒会も仕事してんのか」
     呟く燦太。
     待ち受ける炎次郎は、後ろから来るハリーに振り返りざまラリアット。
     喰らいながらも受け身を取って、ナックルを下から叩き込むハリー。
    「正々堂々勝負するでござる」
    「ハハ、そっちもその気はないやろ」
     炎次郎は笑いながら、ウィッグを取った。
     下に被った禿げヅラが光り、ハリーの目を潰す。
    「頭も使わんといかんで」
     と捨て台詞を残した炎二郎も、ハリーの針金罠に掛かって派手に転ぶ。
     乱闘に慌てた様子の遥香は、狼狽したような様子で蓮花にぶつかる。何かふにゃん、とした感触の袋を持った蓮花。
    「見たな?」
    「え、何なんですかこれー!?」
     突然ばらまかれた、バナナの皮。
     転べ、転びまくれと言うようにあざ笑う蓮花。
     しかし更に背後から、今度はラルフがビー玉を転がした。転がったままの遥香は、横転した蓮花を乗り越え、ビー玉ゾーンを突破。
     倒れた遙香に駆け寄った三成は、声を掛けながら口に辛口カレーを押し込む。
    「心配するな、倒れた時にはスタミナドリンクだ!」
     …ドリンク?。
     にんまり笑い、三成はぐるりと見まわす。
    「…他には倒れてる奴は居ねぇか?」
     既にカレーを食べさせるのがメインになっている、三成。
    「ラストの前に乱痴気騒ぎを楽しむといいデスよ」
     楽しそうにラルフがからりと笑った。
     ビー玉を避けて立ち止まった式夜は、離れた所からラルフにゴム鉄砲を放つ。とっさに目を瞑ったラルフ。
     ようやく動きを止めた式夜は走り出し、後ろから追いかけてきた雪歩がスカートを翻して手を伸ばす。
     長い袖から拳が繰り出され、式夜を打った。
     ドレスから繰り出される打撃を受けながら、ゴムでっぽうで反撃する式夜。
    「面白い戦い方だな」
    「女性ならではの護身術だよ」
     更に、濡らした手拭いを使った流希が加わり、混戦。
     どうにも真面目に走るより、こっちの方が合っているらしい流希と雪歩。するりと躱すと、式夜は抜け出した。
    「女性の体に痣を残すのは忍びませんが」
     と言う流希に、雪歩は笑って返す。
     随分殺気だっているね、と呟きながら見まわす宥氣。
     ふ、と足元に触れた糸に気付き後方に飛び退いた。
    「やはり貴女が来ましたか」
     宥氣は和夜に笑う。
     ここからは、小細工が通じないと和夜も感じる。
    「いえ、普段は音楽と珈琲と銃と、ちょっと戦いが好きなだけの女の子ですよ」
     笑顔で攻撃を繰り出す和夜。
     攻撃は素手で受け流しながら、少し視線を反らした。
    「どうしたんです、楽しみましょう」
    「いや、何でもない」
     戦いの最中、体操服が少し眩しい宥氣だった。

     道中他の参加者の煙幕を喰らいながら、何とか躱してきたタケノソコ荘。
    「ちょっくら燃えとく?」
     笑いながら煙幕を放る歩良も、中盤からは前を目指して走る。
    「大分前へ割り込めたようだな」
     ゴーグルを外しながら杳が言うと、灰慈は重みが減った鞄を確認。
     蒔いてきたBL本が、大分減っている。
    「あ、そうだ。これ個人的に纏めたタケノコ荘日誌デス」
     思いだしたように本を手渡す灰慈。
     笑顔の彼女につい受け取った翔也、だが中身は生々しい妄想観察日記。
    「裏切られた!ただの日誌じゃなかった!」
    「ヒャッハー!乙女のパワーを舐めんじゃねえーんですよ!!」
    「あ、お疲れ様ー」
     既に翔也は離脱したかのように言う杳。
     抜きざまにロープで引っかけ、駆け出す。
     残る灰慈と歩良を見る杳だったが、回り込んだ杳の先手を打って灰慈が煙幕、更に歩良がフライパンを投げつけた。
    「ぐはっ…」
     のけぞって倒れる杳。
     だが残った二人は正々堂々、爽やかに走り去るのであった。

     スタートが続いた煉火と譲の勝負も、ヒートアップ。
     開幕から蹴りをお見舞いした煉火には、意地でも負けたくない譲。
    「他の奴に負けても…煉火には勝つ!」
    「あ、あっちに清楚美人な女子大生が!」
     と心理戦を仕掛ける煉火の手にも乗ら…。
     チラリと見たのを確認すると、煉火はカラーボールを景気良くばらまいた。
    「ふはは、ボクが勝つ為に手段を選ぶと思ったか」
    「くっ…汚い手を…」
     どっちがヒーローか分かりやしないのだった。

     そしてついに坂へ。
     ここまで順調に来た者は、おおよそ一つ。
     最後まで戦いを慎重に避け続けた者である。
    「ククッ、その時を待っていた!」
     何だか邪悪な声を上げたのは靜華。
     両手に小石を握り、心の内で高らかに言い放つ。
    「どんなに屈強な野郎でも、既に足はガタガタ乳酸パンパンだ。そんな乳酸の溜まった足に、こいつをシューーッ」
     投じた石が、スパートを掛けていた有星・葉月の足にヒットする。
     ぐらりと体勢を崩し、静かに葉月。
     葉月が静かに体を起こすと、助太刀とばかりに文が無言でボーラを放った。
     足が絡み取られた靜華を、葉月が見下ろした。
    「年貢の納め時って奴だね」
     笑顔で、葉月は靜華を足でそっと押した。
    「ちょ…あ、起き上がれないっ!」
     ゴロゴロと転がっていく靜華を見送り、文は再びボーラを手にする。
     鉤を放った名雲の動きは、同じ手を企てていた文には通用しない。後方に飛び退きながら躱すと、ボーラを放つ。
    「同じ手は通じないっすか。じゃあ先に行かせてもらいやす」
     駆け出した名雲を、狛が振り返る。
    「もう後がありません」
     狛は切り札のバナナを放り出した。
     無言で躱す文、そして狛は懸命に走り続けた。
     走って走って…追いかけてきた名雲が、ぴたりと足を止めた。
    「…お嬢、男には蹴ってはいけない所ってもんがありやす」
    「そうなんですか」
     じり、とにじり寄る狛。
     そして文がボーラを投げ、後ろから葉月がタックルした。
     狛が蹴ったのかどうかは定かではない。
     ただ、激戦を抜けて狛が爽やかな笑顔でゴールしたようだった。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月31日
    難度:簡単
    参加:77人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 5
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