都内某所、廃業した会社カタパルトカンパニーのあったビルの近く。
夜の帳が下りた静かな空き地に、奇妙な空気の流れが現れ、落ち葉や埃を舞い上げ、中央に吸い込まれる様に渦を巻く。
その中央に赤い閃光が瞬き、宙に1枚のカードが現れた。
対角線上の角を軸としてくるくると回転したカードが地に落ちると、中から紅蓮の炎を纏う赤き鎧の騎士が現れた。
「全てを焼き尽す! 俺が最強の騎士となる為に、俺が最強の騎士であると証明する為に、この俺、閃光の紅蓮騎士ナーゼンシュライムの名を轟かせる為に!」
吼える赤き騎士は、焔を意匠化した様な刃の剣を左手に持った盾に打ちつけ吼えた。
「殺した者の肉、血、全てが俺の糧だ。全ての敵を殺し尽してくれよう」
闇夜にナーゼンシュライムの哄笑が響き渡り、体から噴き出す紅蓮の炎が辺りを照らす中、彼は敵を求め動き始めたのだった。
「なんだあれは?」
灼滅者達が『それ』を見つけたのはまったくの偶然だった。
だが、『それ』が脅威である事を感じた事は必然であった。
『それ』は、彼らの眼前で野良犬の首を刎ね、剣に付いた血を払っている。
「準備運動にもならん……ん?」
そして『それ』がこちらに気づき向き直る。
「お前達も俺の敵だな? 俺の名はナーゼンシュライム。閃光の紅蓮騎士ナーゼンシュライムだ。死ぬまでの短い間覚えておくがいい」
剣と盾を構えたナーゼンシュライムは、小馬鹿にする様な笑みを浮かべ、ゆっくりと距離を詰めてきた。
参加者 | |
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立花・花火(誰が為に花は咲く・d00190) |
椎葉・花色(まるいキリン・d03099) |
式守・太郎(ブラウニー・d04726) |
雑釈谷・ヒョコ(光害・d08159) |
フィーネ・シャルンホルスト(黄昏の調べ・d20186) |
月叢・諒二(月魎・d20397) |
ヴィア・ラクテア(歩くような速さで・d23547) |
稲荷・九白(胃次元ブラックホール・d24385) |
●「バウ! バウバウバウ! ギャウン!」
闇に浮かび上がる異形の存在に咆えた哀れな野良犬の首は、その事を後悔する間もなく、胴と別れを告げた。
「準備運動にもならん……ん? なんだ貴様ら?」
野良犬の首を刎ねた閃光の紅蓮騎士ナーゼンシュライムは、一団を見つけて誰何の声を上げる。
(「こ、こすぷれの、おっさんが、あらわれた!」)
「誰かと問うか、ならば答えよう。『学術都市閉鎖書架"饅頭"』所属、饅頭鬼ツキムラ。貴公の敵として推して参る」
目を見開いて驚く立花・花火(誰が為に花は咲く・d00190)の前、先頭に立った月叢・諒二(月魎・d20397)が、燈軌のオーラを纏って進み出ると、
「我が名は業炎の饅頭職人ハナイロ……学術都市閉鎖書架"饅頭"の創始者として、貴様の血肉をひとつひとつ丁寧に、みょいーんみょいーんと伸ばして饅頭に込め、まるまると転がし倒してくれるわ!」
隣に進み出た椎葉・花色(まるいキリン・d03099)も、そう啖呵を切ってローブを翻す。
「ほぅ、俺の敵か……望むところよ。俺の名はナーゼンシュライム。閃光の紅蓮騎士ナーゼンシュライムだ。死ぬまでの短い間、覚えておくがいい」
己の剣の背で盾を打ったナーゼンシュライムは、焔のオーラの煌めかせて吼える。
「え、は? 閃光? メーゼンシュライム? ローゼンシュライム?」
「違うよ花火ちゃん。『先公の愚連棋士』にゃーれんしゅりんぷくんだよ。良くわかんない名前だけどねー」
小馬鹿にした感じで耳に手を当て聞き返す花火に、フィーネ・シャルンホルスト(黄昏の調べ・d20186)がほわほわした感じで返す。
「ははっ……殺す!」
その様子を鼻で笑ったナーゼンシュライムは、一転して怒気を強め地面を蹴る。
「話を聞かない者が相手とあれば此方はそれ以上で以て相手をするまで!」
諒二もそれに合わせて地面を蹴り皆が続く。
交錯する刹那、刃と刃がぶつかり、激しい金属音が鳴り響いた。
黒に変じた髪の影から刃を振るったのはヴィア・ラクテア(歩くような速さで・d23547)。
「僕は氷の聖戦士ジェロ・カヴァレイロ。哀れな炎の騎士よ、その焔ごと凍らされ僕の美しい氷に酔いしれなさい……」
聖戦士化したヴィアの視線がナーゼンシュライムの視線と交錯する。
「みんな凄いね。えーっと……我は炎血の白狐ぞ……我が尾に揺らめく炎とどちらが上か、鼎の軽重を問うて進ぜよう……って感じでいいいんだよね?」
最初と最後だけ小声で辺りに同意を求めたのは、稲荷・九白(胃次元ブラックホール・d24385)。
箒にレーヴァティンの炎を宿し、ヴィアと睨み合うナーゼンシュライムに躍り掛かる。その炎に炎をぶつけて凌いだナーゼンシュライムに対し、逆側からナイフを逆手に構えた式守・太郎(ブラウニー・d04726)。
「我が名は漆黒の暗殺者。饅頭に害を為すお前を抹殺する」
「暗殺者だと、正々堂々戦えぬ痴れ者が、正義の刃を受けてみよ」
完全に死角から狙った太郎だったが、ナーゼンシュライムは予想を上回る反応を見せ、カウンター気味に太郎に一撃を見舞い、更に一撃を加えるべく腕を伸ばす……が、迸る光に得物を引き、盾を構えるナーゼンシュライム。
「なかなかやる様だね。けど、私的には軽々しく光を名乗ってほしくないんだよね。おまえのことなんか……シャカシャカパチパチしてやる!」
攻撃を寸前のところで盾に防がれた雑釈谷・ヒョコ(光害・d08159)は、相手の注意を引き付ける様に人差し指をズビシィ! と突き付け声を上げた。
こうして薄暗い路地裏で、蛍の様に輝くナーゼンシュライムとの戦いが始まったのである。
●
「もらった、デスブレイク!」
半包囲した他の仲間達の攻撃の最中、手の中で躍らせたナイフを死角から振るった太郎だったが、寸前のところで体を回転させたナーゼンシュライムの盾に弾かれる。
「ツキムラ、いけっ!」
「国立饅頭図書館……否、『学術都市閉鎖書架"饅頭"』の力、存分にその身に刻むがいい」
しかし太郎の声に合わせその隙を突いた諒二が、逆側から拳に収束されたオーラをナーゼンシュライムに叩き込む。
「チッ……数に頼らねば何も出来ぬ烏合の衆が!」
痛みに顔をしかめたナーゼンシュライムが、体を回転させ焔剣を薙ぐ。……どうやら回転しながら盾で防ぎ、剣で薙ぐのが彼の戦闘スタイルの様だ。
諒二目掛けて薙がれた刃だったが、フィーネのビハインド『夢幻の公』が割って入って銃口を突き付けると、至近距離から霊撃を放ち、一呼吸遅れて花色が一撃を見舞う。
「どうだラーメンシュトロイムっ!」
「ナ・ァ・ゼ・ン・シ・ュ・ラ・イ・ム、だっ! 覚えろっつっただろ!」
自身のビハインドの動きにえっへんと胸を張ったフィーネが、渦巻きラーメン風に名前を間違えるのを、強い口調で訂正するナーゼンジュライム。
しかしフィーネは『はぁ?』という顔をして、あーあー聞こえなーいとばかりに、バイオレンスギターを掻き鳴らす。
ギリッっと奥歯を噛んだナーゼンシュライムの頬に叩き付けられる拳。
「どうだアイアンフィスト! ……そうか攻撃する前に言うから防がれるんだな」
仲間の攻撃と連携して拳を叩き込んだ太郎は、あいとゎ! という顔をしているナーゼンシュライムを前に彼は一つ賢くなった。
更にフィーネの奏でる演奏に乗った夢幻の公の攻撃に合わせた諒二が、緋色のオーラで斬り掛るのを、
「なめるな!」
焔纏う斬撃で迎え撃つナーゼンシュライム。ぶつかるオーラと刃が激しく燃え上がり一瞬拮抗したが、諒二が競り勝ち敵の腕を裂く。
「バカな!」
「これが本当の紅蓮斬だ。覚えておくがいい」
眼を見開くナーゼンシュライムを前に、諒二は口角を上げ微笑んで見せた。
「ただのうぬぼれ屋かと思ったけど、なかなかやるんだよ」
清めの風を招いて前衛陣を癒したヒョコが、花火の攻撃を盾で受け押し返したナーゼンシュライムの評価を改める。
ヴィアに足元を凍らされ半包囲されながらも、ナーゼンシュライムは能動的に体を回転させ、攻撃を盾で受け前衛陣に斬撃を叩き込んでいる。
「紅蓮騎士さんは炎に自信があるみたいですが、どこまで耐えられるんでしょうね?」
そのヒョコの見つめる中、エアシューズの加速で一気に距離を詰めた九白が、仲間達の攻撃の間隙を突き、炎を纏った蹴りを叩き込むと、ナーゼンシュライムの纏う炎が勢いを増す。
ギロリと九白を睨むが、太郎と花火が間髪入れず踊り掛り、フィーネのビハインドが遮る様に移動してきた為、ナーゼンシュライムはそちらの相手で手一杯になる。
「私の光に目を奪われるんだなっ!」
仲間達の体力が十分と判断したヒョコは、仲間達の間からナーゼンシュライム目掛けて光を放ち、怯んだナーゼンシュライムに諒二が斬撃を叩き込む。光と炎の融合、閃光紅蓮斬を受け蹈鞴を踏むナーゼンシュライムに追い打ちを掛けたのは九白。
「さぁ、もっともっと燃え上がりなさい」
九白は槍の穂先に炎を宿し、ナーゼンシュライムの胴へと突き入れた。
「あ、あれは……ッ! 真・閃光紅蓮斬!」
「知っているのか雷で……じゃなかった、ハナイロ」
ヒョコと諒二の連携攻撃に声を上げた花色に、とりあえず乗る花火。
口を動かしながらも攻撃の手は休めてはいない。
「ええぃ、次から次へと鬱陶しい」
「まぁなんだ……学術都市閉鎖書架"饅頭"に所属する我々に、ソッコー見つかったのが運の尽きだなレーゼンシュライム! さぁ漆黒に咲く花、立花花火の名前を覚えたら、さっさと朽ちればいいんだよっ!」
太郎を押し戻した瞬間に踏み込んだ花火に悪態をつき、更にまた名前を間違えられた事に苛立つナーゼンシュライム。国立饅頭図書館の面々は一斉攻撃するのではなく、攻撃の時間差をつける事で波状攻撃を仕掛けていた。
「聖戦士化して守る力を手に入れた僕は……無敵だ……いざ雪花の煌きよ」
クイッとウィザードハットの鍔を上げたヴィアが、あえて炎に包まれるナーゼンシュライムに妖冷弾を放つ。
「雑魚供がぁ!」
咆えたナーゼンシュライムから溢れ出た炎の奔流が、前衛陣を焼く。
フィーネのビハインド、夢幻の公が消滅し、花色とヴィアが煙を上げて跳び退く。
「あッッ、つ…ッ! なんのこれしき。最強の騎士とはつまり、最強のディフェンダー! それはわたしのことです!」
燻るウィザードローブをはたいた花色は、頬を叩いて気合いと入れ直すと再び護る為に地面を蹴る。
その間にナーゼンシュライムは太郎と諒二を押し返し、
「漆黒の炎に抱かれて消えろ……っ」
「やかましい小娘!」
斬り掛った花火に神速の一閃を見舞う。
「……!」
「いけません! 神の奇跡を!」
声にならない悲鳴を上げ吹っ飛ばされる花火に、ヴィアが気を集めて治療に掛り、
「花火ちゃん!」
後ろから声を上げたフィーネとヒョコも回復を飛ばし、他の仲間達はナーゼンシュライムを押えるべく一気に攻勢に出た。
「くっ……グレートナイト最強の俺が押されている……だと……!」
次々と叩き込まれる攻撃に汗と血を滲ませたナーゼンシュライムは、ギリギリと奥歯を噛んでそう呻き……自分に仕寄る灼滅者達を力づくで押し返す。
「よくもやってくれたわね。許さないんだよ!」
仲間達により回復した花火が怒気も露わに攻撃を仕掛ける。
このタイミング。先程押し返された仲間達も再度の攻勢に出た為、皆の攻撃が一手に集中した。
「なっ……!」
氷、炎、斬撃と閃光に拳、それらの攻撃を一斉に食らったナーゼンシュライムが膝から崩れ落ち、炎を模した剣と盾が乾いた音を立て地面に落ちる。
「紅蓮騎士でしたか、今の貴方は炎そのものみたいです」
「グレートナイトの名を……汚してしまった……」
九白に視線だけ向け、最後にそう言い残して前のめりに倒れるナーゼンシュライム。
その体を包む炎の中で体の輪郭がぼやけると炎が収束していき、後にはくるくると回転したカードが現れ、暫くするとポトリと地面に落ちたのだった。
●
「任務完了。……侮っていた訳じゃないですが、少し手こずりましたね」
何時もの調子に戻った太郎が眼鏡を押し上げると、
「鮮度のクレープ記者ラージハドロンコライダーさんお帰りなのー」
「さらばナーゼンシュライム! 今日の経験を活かして、饅頭図書館もTCG業界に進出しよう!」
もうほとんど合ってない名前を呼ぶフィーネの前で、敬礼したヒョコが喜色満面の笑顔で振り返る。それを作った会社が破綻している事実は、この際考えていない様だ。
「ところでナーゼンシュライムってかっこいい響きだけど、どういう意味なのだろう?」
「……鼻水です」
「え?」
「ナーゼンシュライムって、ドイツ語で『鼻水』という意味です」
小首を傾げた九白に、おずおずとした感じで花色が答え九白を絶句させる。
「鼻水ですけど……スーパーレアカードだったみたいです」
ヴィアが拾い上げたカードには、ホログラムで煌めく炎をバックに雄々しく吠えるナーゼンシュライムの姿があった。
紆余曲折ありこのカードはフィーネが持って帰る事となる。
「貸し1ですからねフィーネさん」
「わかったのー」
唇を尖らせるヴィアとカードを手に嬉しそうなフィーネの姿。
「ちょっと危なかったけど、みんなと一緒で楽しかったよ」
花色とフィーネに頭を下げて礼を言った後、皆に笑顔を向け微笑む花火。
「カードの騎士が具現化か……この1枚だけで終わりとは思えないけど……」
諒二が自分たち以外誰も居なくなった路地裏に視線を向け、誰とはなしに呟いた。
ともあれ現れた都市伝説ナーゼンシュライムは倒したのだ。
一行は笑顔で語り合いながら国立饅頭図書館へと帰るのだった。
作者:刑部 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 13
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