竜魂の斧の憂鬱~High Battle~

    作者:叶エイジャ

     秋晴れの空。彼女はクレープ片手にため息をついた。
    「敵に恵まれないと、人生退屈ね」
     長い山籠りの末、始めた武者修行の旅。それなりに強者とも戦いもした。負かした者のリベンジ、逃がした強敵との再会が待ち遠しい。
     しかし最近はどうにも巡り合わせが悪かった。ストレスが溜まっている。
    「要するに、飢えてるのね……」
     そろそろ自らを高めに山に戻ってもいいが、なんだか無性に、暴れたい気分である。
    「ちょっとだけ」
     彼女はクレープを食べ終えると、歩み始めた。
    「そう。山に戻る前にちょっとだけ、この鬱憤を晴らしましょう。とりあえずビルの壁に何回かこれを叩きつければ、少しはスカっとするはず」
     暴れるために、長柄の斧を背から引き抜く。もちろん邪魔する者がいれば実力で排除。強い者ならなおよし。武器や戦闘スタイルにこだわりがある者なら更に良いだろうと、思いながら。

     彼女は、アンブレイカブル。
     布切れと化した紫のドレスを巻き付けた、白のニットワンピース。映えるは褐色の肌。くるりと巻いた長い黒髪は、陽気さを感じさせる。
     だが翡翠の瞳が最も輝くのは、敵との死闘を予感した時だ。
     斧こそ至上。斧こそ至高。
     その名前の意は、「竜魂の斧」。

     彼女のせいでこの日、ビルがいくつも倒壊するなどして、多数の死傷者が出てしまう。

    「動けば天災、だね……」
     地方都市でアンブレイカブルが暴れるのを阻止してほしいと、天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は言った。
     最初はただの鬱憤晴らしなのだが、満足などできるはずもなく。そのまま続行して結局は甚大な被害がでてしまう。
    「問題は、この女の人――ベルテ・ドラッケンゼーレって言うんだけど、現状だと灼滅が難しいくらい強いってことかな」
     彼女が暴れ出そうとする前に接触して戦闘し、満足して帰ってもらうのが良いだろうと、カノンは言った。
    「彼女が満足する基準が簡単なんだ。強いか、あるいは戦闘スタイルにこだわりがあるか」
     ベルテは己の拳以上に『斧』が武器の中で最強としている。それと同質の意志を敵から感じ取れば、自らの力をセーブしてまで意志の戦いに興ずる。そういう性格をしている。
    「幸い、ビルをなぎ倒す道中で広い空き地を通るみたいだから、そこで周囲を気にしないで戦うことができるよ」
     アンブレイカブルの外見は二十代後半。ハルバードのような龍砕斧を持っているので、一目で分かるだろう。
    「このダークネスは強いから、だからこそチームワークや意地が大事になると思う。激戦になると思うけど、みんな無事に帰ってきてね!」


    参加者
    龍宮・神奈(殺戮龍姫・d00101)
    陽瀬・すずめ(雀躍・d01665)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    化野・周(トラッカー・d03551)
    咲宮・響(薄暮の残響・d12621)
    ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)
    日輪・玲迦(汝は人狼なりや・d27543)
    遊部・勇吾(イチかバチか・d30935)

    ■リプレイ


     遠くビルの見える草地。咲宮・響(薄暮の残響・d12621)は見えてきた人影に自らの武器を手にとった。
    「ヤバいな。戦う前から凄ぇ楽しみでしょうがない」
     なんの思惑もなく、ただ全力を出して戦う――あまりにシンプルで、素直に楽しいとさえ感じる。立ち止まった相手に声をかけた。
    「アンタがベルテ・ドラッケンゼーレか?」
    「ええ。そういう貴方たちは――灼滅者のようね」
     記憶を探る仕草の女に、聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)がぺこりと頭を下げる。
    「こんにちはですの、べるて様。お相手つとめに参りましたのね」
    「そういうこった。ネーちゃんちょっと付き合えよ、退屈なんだろ?」
    「ビル相手より楽しいと思うよ?」
     遊部・勇吾(イチかバチか・d30935)がヤンキー絡みで、陽瀬・すずめ(雀躍・d01665)が「せっかく良さげな斧持ってるんだからさー」と朗らかに声をかけた。二人の言葉に目を丸くする女に、ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)が力を解放する。愛用の白衣がその身を包み、雪毛の霊犬ルミが傍らに現れた。
    「気晴らしならボクらが付き合うってこと」
     手入れもしっかりしてきたしね、とミカは細身の無敵斬艦刀を構える。
    「ここなら広さも充分――斧にこだわりがあるんだろ?」
     化野・周(トラッカー・d03551)の手から駆動音。その手のチェーンソー剣『sAINT』の刃が回転を始め、獰猛に空気を引き裂いていく。
    「似たような愛着があってさ。あんたの斧と俺のチェーンソー剣、どっちが強いか確かめてみようぜ」
    「そう言われては、引くに引けませんね」
     言いつつ、引く気などないのはその顔を見れば明らかだった。手が戦斧を引き抜く。
    「我が在り様において、斧こそ至高にして最強。この矜持は斬れず、貫けず」
    「なら、私の斧が砕いてあげる」
     龍宮・神奈(殺戮龍姫・d00101)が龍の牙のような斧を掲げ、尊大に言い放つ。日輪・玲迦(汝は人狼なりや・d27543)も、己が里で作られた大斧を手にした。
    「斧こそ至上、斧こそ至高。まったくもって同感だ。だからこの思い、自慢の斧であんたに叩きつけてやるさ」
    「勇ましいのね」
     斧持つ少女たちに目を細める女。その微笑みは修羅の闘気に彩られる。
    「申し出に感謝を。アンブレイカブルがベルテ・ドラッケンゼーレ。その戦意に、我が斧で応えましょう」


     風が吹きつけた。闘いの風だ。
     波濤のようなプレッシャーが纏わりつき、空気が重くなったように感じた。まるで抜き放たれた刃――闘気の放出が、緊張状態を強いてくる。
     勇吾の裂帛の気合いが、その無形の圧力を打ち払った。黒檀の鞘に納められた日本刀を木刀のように振り抜き、衝撃波で吹き散らす。
    「全力で売るケンカだ。人数が多いのは勘弁しろや」
    「構わないわ。それより」
     戦斧で勇吾の月光衝を受け止めるベルテ。空いた手にトマホークが顕現した。
    「せっかく得た戦の機会、楽しませて」
     手斧が宙を舞った。後衛に向かう刃に、すずめがバスターライフルを上空へと構えた。
    「斧が好きね。じゃあ私も最近お熱なこ・れ、自慢しちゃおっかなー」
     砲身を軽い調子で叩き――そして膨大な光が生まれた。光条は迫る手斧の一つを捉え、空に爆発が起こる。
    「まっだまだー!」
     咆哮を上げる砲身をすずめがとり回し、光線は輝く剣となって大空を薙いだ。旋回する斧が次々と巻き込まれ、立て続けの爆発が大気を震わせる。
     その爆発の真下を、周が駆け抜けた。ダークネスもまた突進する。細身が旋回すると戦斧がごおっ、と空気を砕き散らした。横殴りの斧を周の鋸剣が受ける。
    「うおっと……!」
     流石は重量武器とアンブレイカブル、重い。周の顔が歪んだ。そしてその頃には、ベルテは斧を素早く反転させ、長柄で周の側頭部を狙う。
    「斧もいいけど、これが一番だと思うねボクは!」
     転瞬、頭部を守ったのはベルテの方だった。ミカの黒地の斬艦刀が斧の柄を弾く。そのままミカは白衣を揺らし、刃を奔らせた。戦艦斬り。自らが最適と思う愛刀だからこそ、籠めた気持ちは不可視の重みを刃に乗せる。受け止めた斧ごと、ベルテを後方に吹き飛ばした。
    「いい武器ね」
     ダークネスは破顔。その手が戦斧をとり回し、豪快な一撃を放つ――ことはできなかった。ヤマメが着物をはためかせ、爆風による土煙に乗じ接近。鬼神の腕を叩き込む。小気味良い音が響くも、満足はない。
    「失敗、ですのね」
     直前で斧の柄が拳を遮った。ダメージはあるも際どく当てた感触だ。手応えは浅い。
    「ですが、攻撃の本命はわたくしではなく」
     身を翻したヤマメの向こうから、螺旋の刺突が繰り出されていた。それは斧のガードを越え、ベルテの左腕を裂く。
    「斧槍とは分かっているな」
     槍を引き戻し、肉迫したのは響だ。彼岸の紅――細身の槍が大気を貫く。
    「だが俺の相棒は、手数の多さで斧の威力にゃ負けてねぇよ」
     宣告通り、響は弾幕の如く刺突を撃ち出した。紅の布を纏う槍は斧の妨害を乗り越え、確実に手傷を与えていく。そして槍から距離をとったベルテが反撃するより速く、白い炎が周囲を染め上げた。
    「行くぜ。準備はいいな?」
     予知を妨げる白炎を立ち昇らせ、玲迦がラブリュス――両刃の大斧『繚乱』を斬り下げた。至近距離からの龍骨斬り。苛烈な斬撃に、敵は闘気を宿した斧で応じる。
     ふたつの重量武器が交わった。激突が地面を揺らす。互いの一撃に込めたエネルギーが逆しまの空圧となって地面を抉った。陥没した足場で、しかし交わった斧は互いに刃を押し通そうと譲らない。
     自らの斧こそ最強――譲れぬ意志は共感。玲迦とベルテが同じ笑みを浮かべ、更なる力を武器にこめる。だが単純な膂力ならダークネスが有利。
     そこにもう一つの炎が生まれた。
    「いいわよね、斧って」
     神奈がレーヴァテインを宿した斧を振り下ろした。それは玲迦の斬撃へ豪快に加わり、白炎で勢いを増した炎が熱波となって吹き荒れる。
    「自分の腕力が伝わりやすくって破壊力があって、とっても壊しやすいんですもの!」
     二人分の威力にダークネスは長くは抗しなかった、飛び退いて距離をとる。その口唇が弧を描いた。
    「心地良いわね。連携も、刃越しに感じるものも」
    「もう満足しちゃったとか?」
    「いいえ、ここからよ。私も、貴方たちも」
     自身の傷を確認しながら、ベルテはすずめにそう返した。
    「負かした者のうち素質のあったフェイや刀鬼、種族は違えど私と渡り合えた屍斬、いずれも伸びしろをもった強き者。それに匹敵するか否か……闇に到らぬ身で、その意志がどれだけの可能性を見せてくれるのか――楽しみね」
    「前座は終わり、ってか」
     勇吾が刀を鞘から抜く。先刻を遥かに超える鬼気が、ダークネスを渦巻いていた。その手の斧で、宝珠が眩い光を発する。
    「暁鐘を告げよ、我が龍因子」
     溢れる力で傷を癒し――斧持つ闘者が加速した。


     唐突に、目前に迫る巨刃。
    「……!」
     咄嗟に狼撃斧を掲げた玲迦が直後、後方へ弾かれる。視界の端に、神奈を障壁ごと吹き飛ばす敵影がかろうじて映った。龍翼飛翔――絶招歩法が彼我の距離を瞬時に詰め、すさまじい勢いで戦斧を叩きつけてくる。すんでで脇に飛び退る周。立っていた地面が一瞬で砕け、戦塵が噴き上がっていた。そして舞い散る粒子を斬断しながら、斧が彼を追って迫る。剣と斧が激しく火花を散らした。一度では終わらない。縦横に躍る斧とぶつかる度、爆発でもしたような衝撃とエネルギーが吹き荒れる。衝撃が足まで響く。ベルテが楽しげな吐息を漏らした。
    「その調子だと、剣が折れるわよ?」
    「簡単には折らせてやらねーよ」
     どっちが強いか。言った以上、早々には引けない。根性で前に出る。
    「人間なりの意地ってもんがあるからな!」
     周が攻めに転じ、ミカも攻撃に加わった。勇吾もビハインドの師「アニキ」とともに続く。それを戦の微笑が迎え――直後、暴風を纏わせて戦斧が閃いた。
     斬撃をミカの斬艦刀が受け、瞬く間に数合交わる。周のチェーンソーが再び激突する。勇吾の太刀が捌かれ、迫る返し刃をビハインドが防ぐ。それは刹那の攻防で、いつまでも続く一瞬だった。停滞なく間断なく刃鳴りが続き、火花が四方に散る。地面が衝撃に崩壊した。ベルテが旋回。四者が斧の一閃に弾き飛ばされ、手斧が放たれた。
    「……!」
     至近距離での爆発が連続し、幾重もの衝撃に晒される。「アニキ」が消滅した。歯噛みしつつも、勇吾はオーラの力で傷を癒す。減った攻め手の穴を突かれまいと、ミカが再び前へ。気力の斬り込みと斧が、刃の噛み合う重い響きを奏でる。一瞬の静止後両者は互いに距離を開けた。
    「お見事」
     賛辞にミカは大きく息を吐く。刃を合わせたのは僅かな時間、しかし疲労が押し寄せてくる。ルミが彼の回復を行い、ヤマメも歌声で負傷者を回復する……が、いずれ荷が重くなるのは明らかだ。
    「まだよ。まだ戦い足りない」
     神奈が蒼炎のような闘気を収束し、地を蹴る。
    「私を満足させなさい!」
     宿敵種族との戦闘に恵まれていないのは、彼女とて同じ。渇望は胸の奥で鳴りやまない。
     そして今回の相手は、それを正しく理解した。
    「なら来なさい。お相手するわ」
     ダークネスの誘いに、神奈は炎を纏わせた斧で力いっぱい殴りつける。手応えがあった。鋼同士が打ち合う感触が。
    「――」
     手から伝わる感覚に、神奈の顔が輝いた。壊れない玩具を見つけたように、何度も斧を振るう。掬い上げるような一撃にベルテが上空高く飛ぶ。降りるのを待たず、神奈も跳ぶ。尖兵代わりに影の刃を放ち、それが切り裂かれた瞬間、
     ――轟!
     互いの龍骨斬りが衝突した。磁石の同極の如く落下する神奈。ベルテは上方で手斧を生み……そして光に呑まれた。機を窺っていたすずめの光条に、手斧を連鎖的に爆発する。
    「パコーンと狙うから、私たちのコンビネーションと一緒にじっくり味わってってよ♪」
     すずめは砲身に更なる魔力を込める。その時爆炎が裂けた。光線を裂き彼女に飛来するのは、斧槍だ。
     判断は一瞬。身を傾げたすずめの手からライフルが弾け飛ぶが、構わずベルテへと向かう。得物を手放した今が好機、すずめが手に紅の光を生む。紅蓮の斬撃と手斧が交錯した――手応えあり!
    「まだまだっ」
     すずめは躊躇いなく距離を開け、回避と同時に指輪に魔力を収束させた。魔法弾はベルテの左腕を捉え、制約を課す。
    「あら……それも貴女の自慢の?」
    「そーいうことっ。斧とどっちが素敵か競争といこうじゃん?」
    「こっちもどうだ?」
     僅かな間を与えず、漆黒の弾丸が続けて炸裂。想念の力を牽制に、響が槍に氷獄の力を灯す。
    「槍にはな、こういう使い方もあるんだぜ?」
     氷柱の弾丸がベルテの片足を凍結させた。氷は機動力を奪うとともに氷樹と化し、逃げ道を塞ぐ。敵の後退より早く、間合いを詰めた響が螺旋の刺突を放つ。
     迎撃は爆音だった。手斧を地面で爆発させ、爆風に乗って追撃を止めつつ距離を稼ぐ。降り立ったベルテが斧を回収し、槍のように構えた。
    「我が斧は斬・突・掃・打極まれり。畏れるならば我に近付くことなかれ」
    「……はっ、そうこなくっちゃな!」
     挑発に対し、熱のままに響の槍が迸った。攻め合いによる攻防。回転が斧を弾き、爪が刺突の軌道を逸らす。速度は響も負けていない――が、重量が違う。手数以上の衝撃の重さが襲い、響は片膝をつく。意識を刈ろうとしたベルテが反転、振るった刃は勇吾の刀を防いだ。力負けしながらも、勇吾は不屈の精神で何度も斬撃を放つ。だが経験の浅さは否めない。難なく受けられる。
    「練り上げ研ぎ澄ましてこその剣気。まだ荒いわね」
    「るせぇ。喉笛に喰らい付いてやるよ」
     不良はナメられたら終わり。そして負けたら――心が折れたら――終わりだ。石剣に包帯で巻きつけた右手を握りしめる。
    「テメェに俺の心が砕けるまでヤれるか、俺が死ぬか――勝負だぜ!」
    「ええ、手合わせだけで死闘とは生温い。命を賭けてこそ戦と存じます」
     ヤマメが続け、腕を振るう。密やかに散らしていた蛇腹剣の刀身が巻き付き、ベルテの身体を拘束した。
    「お互い最後のひとかけらまで楽しく舞いましょうなの」
     元より狙いは灼滅。「いざ」と覚悟の一声を出し、金の髪揺らして風をおこすヤマメ。風の刃を飛ばし、同時に腕を鬼神変形し突貫を行う。
    「なるほど」
     二人の言葉と気迫に、翠瞳がついに本性を現した。刃の中からベルテの姿がかき消える。
    「その意気や良し。ならば一時、この立ち位置での全力で応じます」
     神薙ぎの刃が砕かれ、鬼腕を斧爪が貫き押し止められた。同時に勇吾の刀が手から弾け飛ぶ。
    「――!?」
     体勢の流れた勇に手が添えられた。密着する鋼鉄の拳。押し寄せるのは芯を砕くような力の激流。
     寸剄。
     体内で爆発が起きたような感触の後、勇吾は周囲一帯の地面ごと吹き飛ばされていく。
    「遊部!」
     叫んだ玲迦の前で、咆哮の如く紫電が大気を裂いた。反応するより早く、現れた弧影が草地を打ち鳴らす震脚が連続して轟く。

    「――そうこなくては」
     ベルテは凌駕して立ち上がるミカを見た。あの一瞬、割り入って抗雷撃を受け止めたのだ。不敗の意志で斬艦刀を構える彼の前で、玲迦が大地の畏れを纏い、大斧を構える。蒼みがかった鈍色の中央で、宝珠が日輪の輝きを見せた。
    「ミカがくれた機会、この一撃にありったけ込めるぜ」
    「そう、刃に自らと背負う全てを込めなさい。魂を乗せた剣戟こそ戦場の華」
    「熱いな……嫌いじゃない。俺のチェーンソー剣愛も味わってくれ」
     周が、前衛で傷の浅い者が並び、深い者も満身創痍ながら立ち上がる。ヤマメやすずめ、ミカをはじめ回復と強化を行う。ベルテが微笑み斧を掲げた。
    「来なさい、灼滅者」
     干戈の音が、再び響き渡る。


     戦闘はほどなく終わった。歩み出すベルテの先に街はない。すずめが聞いた。
    「満足できた?」
    「そうね。山に籠る踏ん切りには」
    「逃げるなよ。勝つまで追いかけ回すからな」
     睨む勇吾に楽しげな彼女を玲迦が呼び止め、リボンクリップを見せた。
    「良かったらもらってくれ」
    「まあ!」
     顔を厳し――くできず相好を崩す女。
    「戦いで手心は加えないけど?」
    「……それは大丈」
    「なら大事にするわっ」玲迦が呆気にとられる。握手が激しい。そして今度こそ足取り軽く去っていく。最後に振り返った。
    「縁があれば、また。その輝きを研鑽なさいね」
     遠くなる背に、周とミカ、ヤマメが息を吐く。
    「最後はともかく……強かったな」
    「そうだね」
    「押し切られましたのね」
     しかし大きな被害は防げた。結果はまずまず。
    「こういう形でやり合うのは大好きだわ」
    「次はもっと強くなって、だな」
     叶うなら次はタイマンで。神奈と響が思う。秋晴れのせいか、敗北の重さは再戦の熱ほどはない。
    「ダークネスのくせにー」
     すずめの言葉が、ぴったりなほど。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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