Tシャツがださいから離脱したら淫魔から勧誘された件

    作者:緋月シン

    ●勧誘の結末
     廃墟の中に、一枚のTシャツが転がっていた。ビリビリに刻まれているために原型は留めていないが、僅かに残った破片からHという文字だけを見て取ることが出来る。
     だがその場の主役は、そんな端に捨てられたそれではない。一人の男と、一人の女だ。男は元HKT六六六人衆であり、女は淫魔であった。
    「お前らに協力、か……」
     鸚鵡返しに呟いた言葉に、女が頷く。
    「うん。ね、ね、というわけで、どうかな? 今なら私が出来ることなら何でもしてあげるよ?」
     女はラブリンスターの配下であり、現在は戦力の立て直しのための勧誘の真っ最中なのである。
     男はHKT六六六人衆に所属していたが、何やらTシャツが気に入らないとかいう理由で離脱していた。再び何処かに所属してしまう前に引き込んでしまえば、新しい戦力ゲットである。
     ちなみに、何でも、というのは言葉の通りであった。女は淫魔であるからして、当然そっちで来られても問題はない。むしろ得意分野だ。ばっちこいまである。
     さあ今ならお得だよ? どうする? とばかりにニコニコ笑顔を振りまいて淫魔が答えを待っていると、俯いていた男が顔を上げた。
    「……本当に、何でもしてくれるんだな?」
    「うん、本当に何でもいいよ? 何なら、今からする?」
     わーい、お一人様げっとー、とか脳内で両手をばんざいしていると、男が言葉に頷いた。うんうん、やっぱり男と女が出会ったらそうじゃなくっちゃねー、とか思い――
    「ああ、ならそうしよう」
    「うん、じゃあちょっと待ってね? 今服脱いじゃうから。あ、それとも着たままの方が――」
    「――というわけで、死ね」
     銀が閃き、赤が宙を舞った。

    ●無謀の代償
    「ラブリンスターが勢力の立て直しをしようとしている、という話は既に聞いているかしら? 今回の件も、そのうちの一つが原因で起こることよ」
     教室を見回し、全員が揃っていることを確認すると、四条・鏡華(中学生エクスブレイン・dn0110)はそう言って話を始めた。
    「念のために概要を説明しておくと、サイキックアブソーバー強奪作戦ですり減った戦力を回復させる為に、淫魔達が各地の残党ダークネスを探して仲間にしようとしているようなのだけれども、その交渉が決裂した結果淫魔が殺されてしまう、ということね」
     今回の依頼は、その淫魔が殺されてしまう前に助けようと、そういうことである。
    「まあ、ダークネスを助けるのをどうかと思う人も居るでしょうけれども……元々今回戦力を補強しなければならなくなったのは、私達が原因でもあるわけだし、放っておくのも寝覚めが悪いでしょう?」
     とはいえ、助けるのは強制ではない。敢えて助けないという方針を選択することも、可能ではある。
    「どうするのかは、任せるわ」
     ともあれ、何にせよダークネスが事件を起こす前に倒すことの出来るこのチャンスは逃すべきでは無いだろう。
    「今回現場となるのは、とある廃墟の二階、その一番奥の部屋よ。相手は、元HKT六六六人衆」
     どうやらTシャツの趣味が合わなくて離脱したようであるが……まあそれはどうでもいい。
     廃墟とは言っても作りはしっかりとしているため、戦闘に支障はない。慎重に進めば、直前まで気付かれずに近付くことも可能だろう。
     尚、扉の近くに淫魔が、奥側に元HKT六六六人衆が居る。
    「接触するタイミングは、二つ。淫魔が攻撃を受ける直前か、淫魔が倒された直後のどちらかよ」
     助けた場合でも、淫魔は戦闘が始まると逃走してしまうため、淫魔に関して考える必要は、どちらにせよあまりないだろう。助ける場合にはその旨伝えてもいいかもしれないが、精々がその程度である。
     元HKT六六六人衆が使用するサイキックは、殺人鬼及び解体ナイフ相当のもの。ポジションはジャマーだ。
    「さて、説明はこんなところかしら。再度繰り返すことになるけれども、淫魔をどうするかは、あなた達に任せるわ。それじゃあ、よろしくね」
     そう言って、鏡華は灼滅者達を見送ったのであった。


    参加者
    雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)
    九条・泰河(祭祀の炎華・d03676)
    蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)
    六条・深々見(螺旋意識・d21623)
    響塚・落葉(祭囃子・d26561)
    天城・美冬(フリジットクレイドル・d28999)

    ■リプレイ


    (「しんちょーにしんちょーに進んでー……」)
     音にならない程度の声を上げながら、廃墟の中をゆっくりと進んでいく影がある。
     六条・深々見(螺旋意識・d21623)だ。言葉の通り慎重に、足元に気をつけながら、仲間達と共に移動していく。
     そうして辿り着いたのは、二階の最奥だ。扉の向こうからは、僅かな声が漏れ聞こえてくる。その内容から判断するに、どうやらまだ襲われてはいないらしい。
     そのことに安堵を覚えながら――。
    (例えダークネスであっても、俺達を助けてくれた相手です。受けた恩は返さなければいけませんね!)
     蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)は、ひっそりと決意をした。
     とはいえひっそりであることに意味はない。単にその状況で大声を上げるわけにはいかないというだけのことだ。
     下心なども、勿論ない。
    (「此処で恩を売ってお胸を堪能するんだよ!!」)
     そこで息巻いている約一名とは違うのである。
     もっともそんな九条・泰河(祭祀の炎華・d03676)ではあるが、助けに来たというのも嘘ではない。ただちょっとばかり欲望が全開になっているだけなのだ。
     そして欲望という意味では、もう一人。
    (「戦争ではお世話になったものねー、今回は私達が助ける番だね!」)
     深々見が頷き――。
    (「見返りとかは全然求めないけど実験の材りょ……協力人とか派遣してもらえないかな! 求めてないけどね! ほんと全然期待なんてそんなまさか!」)
     その一端を垣間見せた。いやまあ最初から隠れてはいないが。
     だがそこの二人は置いておくにしても、助けに対し見返りを求めるのは、ある種当然ではある。
    (「せっかくだもの、恩を売りつけておかないと、ね」)
     クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)はそう思い、しかしその首を僅かに傾げた。
    (「彼女達がそれを恩と感じて、返してくれるかは……どうなの、かしら?」)
     ともあれ、それらを果たすためにも、まずはやるべきことがある。
     目配せし合い、頷き、取り出され構えるのは、スレイヤーカード。扉の隙間から、淫魔が自らの服に手を伸ばすのが見えた。それとほぼ同時に、六六六人衆の男の腕が動いたのも。
     男の口が開き、腕が奔り、銀が閃く。
     その刹那。
    「蒼穹を舞え、『軍蜂』」
     解放の言葉を紡ぐのと同時に、一斉にその場へと踏み込んだ。


    「……ほへ?」
     間抜けな声を上げ、視線をこちらに向けたのは淫魔のみであった。六六六人衆の男は意識こそ僅かに向けたようであるが、その腕が止まる事はない。
     だがその僅かで、ほんの一瞬だけそれが目標に届くまでの時間が遅れる。
     割り込むには、十分過ぎる間であった。
     直後に響いたのは、甲高い音。ナイフと淫魔の間に立ち塞がった、一つの影。
     深々見だ。
     しかし男はそれに怯むことなく、どころかさらに一歩を踏み込み――飛び退いた。一瞬の後、男の居た場所を砕いたのは、螺旋の如き捻りを加えられた一撃。
    「ダークネスは敵ですが、借りがあるですからね」
     天城・美冬(フリジットクレイドル・d28999)である。その身を蒼い氷竜へと変え深々見の横に立ちながら、後方へと言葉を投げかける。
    「逃げるといいです、さぁ早く」
    「え、えっと……?」
     しかし淫魔は状況がよく掴めていないのか、周囲を見渡すと首を傾げた。
     そしてその隙を突くように、すかさず男が動き――だが今度のそれも弾かれる。
    「やれやれ。男が女子に手を上げるとは、情けないのう」
     敬厳だ。さらには進み出た影がもう一つ。
    「お楽しみのところ失礼する、わね」
     クラウディオである。
    「あらお嬢さん、怪我はない?」
     そのまま視線だけを向け、投げられた言葉に、淫魔は戸惑いつつも頷く。
    「それならよかったわ、ウフフ」
     そうして四人が立ちはだかり、しかし男はまだ諦めていないらしい。その身を沈め――機先を制する形で、一条の矢がぶち込まれた。
     戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)だ。吹き飛ばされた男の身体を視線で追い、それを淫魔の方へと向ける。
    「先日はどうも。今回はニアミスみたいなものだから。まぁ、君も中々大変だな。営業回り御苦労様。取り合えずもうちょっと。男を見る目を養った方が良いかなとは思った」
     そこまでを一気に口にすると、すぐに視線を戻した。もう行っていいよとばかりに、片手がぶらぶらと振られる。
    「じゃあな。なるべく悪いことするなよ。したら灼滅するからな。達者でな」
     さらには。
    「先日の恩を返しに来たんだよ! 今は逃げてー!」
     泰河にそう言われ――。
    「うむ、この前の借りを返しておこうかと思っての。早く逃げるが良いよ」
     響塚・落葉(祭囃子・d26561)にも言われ――
    「恩を受けたら恩で返す。やられたらやり返す。それだけのことです」
     雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)にまで言われてしまえば、さすがの淫魔も大体の事情を察す。素直に頷いた。
    「……うん、ありがとう。このお礼は、また会えた時にでも!」
     その場で後ろを向くと、男を警戒しながらも、走り出す。
    「今度あったら色々楽しいことしようねー♪」
    「あ、僕も! 良ければ後で遊んでー!」
     その背に向かって、二つの欲望の篭った声が――片方は主に実験的な意味であるが――投げられるも、返ってきたのは、ただ遠のいてく足音だけであった。
     だがいつまでもそちらを気にしてはおられず、ここからが本番である。
    「やれやれ……どうせならもっと楽しい事をすればいいのにね」
     呟きつつも、泰河は周囲の構造から抜け道や回りこむルートがないかを想定していく。こういうのに限って、逃げ足も速いのだ。
     同様にケイも逃走を図りそうな所がないかをざっと確認し、注意しつつも、扉を遮るように動く。
     そして。
     激突した。


     戦闘開始と同時、真っ先に敵へと突っ込んでいったのは落葉であった。
    「いきなり襲うのは……ちとまなー違反じゃないかのう? 我らとお主のように実力差がある場合は別として……の」
     言葉と共に、どす黒い殺気を纏っているその身へと、異形巨大化した腕が叩き込まれる。それを掻き消さんと振り下ろされ、しかし拮抗し、止まる。
     背後からであるため、視線は交わらない。だが――
    「……マナー、ね」
    「……っ!」
     その声を聞き、まずいということを悟る。直後に地を蹴り、だが少しばかり遅かった。荒れ狂う殺気が、その身体を弾き飛ばす。
     それでも即座に体勢を整え――
    「――殺し合いにんなもんがあるわけねえだろ」
     死角から聞こえた声に、背筋を冷たいものが流れた。
     反射的に振り抜いた腕に、硬質な手応えが返る。しかし直後にそれは消え、視界の端に映ったのは、懐へと潜り込んで来る男の姿。
     その腕が突き出され――だが直前に割り込んできた影に、それは弾き飛ばされた。
     深々見だ。しかし完全には防げず、刻まれた腕の傷に僅かに顔を顰める。落葉と共に一旦下がりながら、集めた霊力を自身に撃ち込み、それでも足りなかった分をナノナノのきゅーちーが癒す。
     そうして二人が下がる代わりに、敬厳が前に出た。その手には薔薇色のサイキックソード。緋色のオーラを宿しながら、踏み込みと同時に振り下ろされる。
     二つの斬撃が激突し、弾かれた。敬厳の体勢が崩れ、だがそれは男も同様である。
     そこを狙い飛び込んだ影が一つ。
     ケイだ。懐へと潜り込み、雷を宿した拳が撃ち込まれる。
    「ミスター宍戸は相変わらずのようですね。また良からぬ事……あなた達にとっては楽しい事を企んでいるようですが。今度は何を企画してるんです?」
    「ふん、さあな。抜けた俺にとってはどうでもいいことだ」
     元より期待はしていなかったが、硬質な手応えと共に返ってきたのは、意味のない言葉。音が響き、弾かれたように両者が離れる。
     クラウディオが歩を進めたのは、その瞬間であった。戦闘と戦闘の間の、一瞬の空白。次の動作に移るまでのほんの僅かな間に、滑り込む。
    「御機嫌よう、殺人鬼さん。貴方の服の趣味、教えてもらえない、かしら」
     それはまるで世間話だ。男の殺気に満ちた視線を意に介さず、あくまでもマイペースに語り掛ける。
    「ワタシは、赤黒い服が好きなの。貴方は、どう?」
     その言葉に、殺人鬼の目が細められた。
    「そうだな、俺もそれは嫌いじゃあない。もっとも俺が好きなのは、それを相手に着せることだがな」
    「あら、似合っているわよ、真っ赤な衣装」
     それ以上の言葉は必要なく、元からそれはただの戯言だ。螺旋の如く槍が穿たれ、呪いに満ちた毒の風がばら撒かれる。
     霊犬のシュビドゥビがそれを防ごうと動くが、当然ながら全ては防ぎきれない。仲間を毒の風が襲い、その傷を浄霊眼で癒す。
     だがさらに重ねるべく、呪いがナイフの上を蠢き――それよりも、こちらの風の方が早かった。
     それは泰河より放たれた風の刃。その身を斬り裂くべく飛来した刃を、男は咄嗟に反応しナイフで防ぎ――。
    「氷竜の爪は厄介な加護を打ち砕く、です」
     だがほぼ同時に振り抜かれたそれは、どうすることも出来なかった。
     美冬の一撃は男の身体を斬り裂き、言葉の通りにその身に宿した加護を打ち砕く。
     しかし直後にその場を離脱した男の目は、欠片も死んでいなかった。
     そしてそこに、呆れたような溜息が向けられる。
    「男のヒステリーは見苦しいぞ。まぁ、むしゃくしゃして何もかも八つ裂きにしてしまいたい気持ちは分からないでもないけどね」
     蔵乃祐だ。
    「ダークネス社会は完全実力主義だしな……。営業回り兼スカウトもそうだし、くだらねーTシャツを嫌々着る羽目になるのもそうなんだろうね。好きでやってる奴も居るのかもだけど」
     と、そこまで言ったところで、別の言葉が混ざった。
    「ふむ、そういえば、Tしゃつが嫌で脱退したんじゃったか……Tしゃつにそれほどこだわりがあるんじゃな……」
     落葉だ。別にそういうことではないのだが、何やら感慨を受けたかのように頷いている。
    「じゃが、それほどまでにそれほどこだわりがあるのであらば、脱退までせずとも新しいでざいんを自分で考えて採用させればよかろうに……」
     しまいにはそんなことを言い出し始めたが、その光景はシュール過ぎるだろう。もっともTシャツが嫌で離脱というのも、十分以上にアレだが。
    「ま、我らには好都合じゃがの」
     そう言って言葉を締め、しかし周囲を眺めると、おやどうしたんじゃ、とでも言うかのように首を傾げた。それに蔵乃祐もつい苦笑を浮かべる。
     まだ他にも言うつもりであったが――。
    「上役に振り回されるのって、ストレス溜まるもんな……。ご愁傷様」
     肩を竦め、それだけを告げた。
     大地に眠る畏れを纏い、前傾姿勢になり――。
    「まぁ。自由意思が尊重されてる僕ら灼滅者は、本当に恵まれてると思うよ。選択には勿論、責任も伴うんだけどさ」
     その責任を果たすため、地を蹴った。


     結論だけを述べるならば、男は強かった。もっともまともに連携が取れていれば、もう少し苦労は少なかったであろうが……結果は結果である。
     男は両腕をだらりと垂れ下げ、まさに満身創痍といった有様であった。
     その視線が動くも、その先を遮るようにケイが動く。仲間にも視線で注意を促し、後方からは泰河も警戒している。
     そのことに、男は諦めたように息を吐き、身体が斜めに傾いた。
     直後、その姿が消え、だが数瞬後に甲高い音が響く。
     鈍色の刃を捉えたのは、青磁鼠のバトルオーラだ。刃を弾き、敬厳の拳が叩き込まれ、終わるのとほぼ同時にそこに現れたのは、泰河の足元より伸びる影。
     斬り裂き、離れ、しかしまだ終わらぬとばかりに、炎を纏ったケイの足が差し込まれる。吹き飛ばした。
     地面を滑りながら止まり、深々見が踏み込む。その足に纏うのは、騒擾のアジャイル。一瞬で追いつき、その勢いのまま流星の如き蹴りをぶち込んだ。
     衝撃に男がよろめき、飛び込んだのは蔵乃祐。半獣化させた腕が振り下ろされ、だが男もいつまでもやられているわけではない。
     自らの身体が引き裂かれることも厭わず、お返しとばかりにナイフが振り上げられた。
     双方の身体に裂傷が刻まれ、しかし単純な身体能力の差で、相手が動く方が早い。再びその腕が振り上げられ――だが振り下ろされるよりも先に、影で作られた触手がその身体に絡みつく。
     クラウディオだ。
     それは即座に引きちぎられるも、稼げた時間は十分に過ぎた。シュビドゥビときゅーちーによって蔵乃祐の傷が癒され、半獣化したままの腕が再度振り抜かれる。深く抉り、引き裂いた。
     それでもやはり動くのは、さすがは六六六人衆か。明らかな致命を受け、それでもその殺気は微塵も揺らがない。
     濃縮されたそれを纏い、周囲へと――。
    「りべんじなのじゃー!」
     放たれる直前、落葉の腕が叩き込まれた。言葉の通りに、今度こそそれを掻き消さんと、異形と化したそれが振り下ろされる。
     拮抗したのは一瞬。振り抜かれた拳が殺気を霧散させ、しかし直前になって退いた身体にまでは届かない。
     だがそこまでを予想していた落葉の逆の手には、マテリアルロッド。踏み込み、白き雷の形をとった魔力が迸る。
    「砕け散るが良い!」
     脳天に叩きつけ、直後に流し込んだ魔力が爆ぜた。
     しかしそれでも男は倒れず、ナイフを握り締め――。
    「これで終いですね。おやすみなさいです」
     美冬のその声が、男が耳にした最後の言葉となったのだった。


    「さって、取りあえず逃げた淫魔さんの安全確認をしておこうかな。後は注意喚起と……そんでもってお礼をおねだりだね!」
     戦闘終了後、期待に目を輝かせている泰河を、皆は黙ってスルーした。皆疲れているのである。
     そもそも逃げ去った淫魔とどうやって接触しようというのか。
     だが一先ずそっちは放置し、皆が今気にしているのは切り刻まれたTシャツの切れ端であった。
    「……確かに、こんなTシャツはごめんだ、わ」
     それを眺めながら、クラウディオがぽつりと漏らす。お気には召さなかったらしい。気に入るほうが珍しいだろうが。
    「Tしゃつもこやつと共に消してやるのが良いかのう」
     その言葉は聞こえなかったのか、落葉はそれに視線を向けたまま、首を傾げ――。
    「あ、すいません。それは待ってもらっていいですか?」
     しかしケイがその行動を押し止めた。
    「ダメ元ですが、学園に持ち帰れば何か分かるかもしれませんから」
    「ふむ……」
     周囲に目を向ければ、誰もそれに異論はないようであった。落葉も使い道があるのならば特に異論はないため、頷く。
    「ありがとうございます」
     もっとも自分でも言った通り、それで何かが分かると思っているわけではない。だが最近またあの集団は、碌でもないことをやっているようだ。
     その手がかりが少しでも掴めればと思いながら、ケイはその切れ端へと手を伸ばすのであった。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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