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昔、あの山に白馬に乗った美少年が現れて、神の託宣を告げたと聞いた。
でも、今は違う。
青年となった美少年は、山から下りては真夜中の街を闊歩し、奉る贄が足りないと子どもを殺していくのだという。
どうして? と、おばあちゃんに聞いたら、荒ぶる神が降り立っているのだろうと返ってきた。
「だから、子どもは外に出ちゃんいかんのだよ」
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「九州に都市伝説が現れたよ。どうやら、子どもを夜中に出さないように広まった作り話が具現化しちゃったみたい」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、昔から伝わる話を元にした馬に乗った青年の都市伝説について語った。
都市伝説は、真夜中に外へ出ている子どもを見ては、贄が足りないと殺すらしい。
そのため、都市伝説をおびき出すのは簡単なようだ。
「みんなは、成人していないからね。町の中を歩いているか、どこかの空き地を見つけて待っているなどしていれば、向こうから姿を見せて襲い掛かってくるよ」
都市伝説は、槍を武器に攻撃してくる。
遠距離攻撃はできないが、槍を巧みに操って近くにいる者を串刺しにしたり、近くにいる者を全員薙ぎ払ったりする。
しかも、馬が高々に鳴けば、傷が癒えてしまう。
「あと、青年は荒ぶる神が降り立っているっていうくらいだから、かなり戦いに長けているよ。馬のスピードはみんなと同等だから、問題ないと思うけれど、十分に気をつけてね!
あと、なんか嫌な予感がするから、事件解決後はすぐ学園に帰ってきてくれるかな?
お願いね!」
参加者 | |
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ガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915) |
月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980) |
高瀬・薙(星屑は金平糖・d04403) |
小塙・檀(テオナナカトル・d06897) |
天宮・黒斗(黒の残滓・d10986) |
エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852) |
ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988) |
天原・京香(頼ることを知らない孤独な少女・d24476) |
●1
「やはり、ここにしましょう。この空き地が一番、条件に適しています」
ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)は、障害物のない広々とした空き地で足を止めた。
草の生えている地面にぬかるんだ場所もなく、動きやすそうな所だ。
「ここなら、十分な広さがあっていいですね。……隣の民家も、殺界形成の範囲外になります」
小塙・檀(テオナナカトル・d06897)は、自身の目で確認する。
灼滅者たちの持ち寄った地図やアプリ等を駆使して選び抜いた場所は、他にもあったが、これ以上最適な場所はない。
「じゃあ、ここで決定ね。結局いくつまわったのかしら」
「6つですね」
天原・京香(頼ることを知らない孤独な少女・d24476)の問いにホテルスは、地図を見ながら答えた。
戦闘条件に合う場所を丸で囲んでいたため、一目見ればわかるようになっている。
「念のために、HKTが来た時に隠れられそうな場所や、襲われた時の逃走経路も調べておこうぜ」
天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)は、地図の上に指を置いた。
都市伝説を倒したらすぐに撤退すると、全員一致で決まっている。
「今迄の報告を聞く限り、完璧に把握されているわけではないみたいだけど……相手に知られているかもってのは、嫌な話だからな」
「そうですね。ここはしっかりと回避手段を把握しておくべきでしょう」
月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)は、先日に経験した事件のことを鑑みてうなずいた。
あの時は、十分な戦力を備えて嫌な予感を待ったが何も起きなかった。
それは、相手が状況を見定める目を持っていることも考えられる。
だからこそ、情報が集まるまでの交戦は避けたいのだ。
「個人的には、強敵を想像したら腕がうずくのですが――全員の安全を天秤にかけるものではありませんからね」
彩歌は、本音を小さくつぶやく。
そして、事件解決だけに目を向け、戦いになった時、周りに音が聞こえないようサウンドシャッターを広げた。
●2
無駄のない探索で戦闘場所を決めた灼滅者は、都市伝説が現れるまでの時間に余裕があった。
そのため、万が一の逃走経路もしっかりと決められた。
エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852)は、真夜中を前に、灯りを持っていない仲間にヘッドライトとネックライトを手渡した。
「あとは、都市伝説が来るまで待機……。……斯様な造話にまで反応するとは、毎度サイキックエナジーの節操無き事よ……」
エリスフィールは、思わずため息をつき、ライトのスイッチを入れた。
まっすぐに伸びる光は、辺りを照らし出す。
全員が灯せば、十分な明るさだ。
「真夜中の散歩は楽しいものですけど、生贄にされてしまっては台無しですからねえ。僕、ちょっと子供と言うには育ちすぎた気もするんですが、ちゃんと生贄として見て下さるのは少しばかり複雑な気分です」
高瀬・薙(星屑は金平糖・d04403)は、ほんわかと笑って頬を軽くかいた。
大学一年生で子ども扱いされるのだから、わからないでもない。
「俺は、……未成年だと判断されなかったらどうしようと思ってます。外見……目立ちますし」
檀は、今にも消え入りそうな声で語った。
性格とは裏腹に、濃い化粧や性別不詳の出で立ちでいる檀を、仲間は改めて見入る。
確かに、目立つ。
「大丈夫なんじゃない? ダメだったら、化粧を落とせばいいのよ」
京香は、もっともなことを言う。
しかし、それが難しい檀はうなだれる。
「大丈夫だと思いますよ。さっさと来てもらって、さっさと始末して、早めに帰りましょうねえ」
薙は、にっこりと微笑む。
時間もいい頃のため、都市伝説が現れるかは、すぐにはっきりする。
しばらくすると、馬の歩く音が聞こえてきた。
灼滅者たちが周囲に目を向けていると、道の真ん中を堂々と歩く馬が空き地の前で踏みとどまった。
馬の上には、槍を持った青年――都市伝説だ。
「……。所詮、都市伝説。紛い物故、神、非ず。私達、容易生贄、成らず。神殺し」
ガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)はライトを照らし、縛霊手を出現させた。
●3
「足りぬ……。我に奉る贄が足りぬ!」
「貴様にくれてやる命など、欠片とても持ち合わせておらぬ。介錯してやる故、何処なりと消え失せよ! まずは……突き崩す!」
エリスフィールは、捻じった槍を青年に向けて突き出した。
青年は、走る馬の上で自身の持つ槍を半回転して矛先を変え、エリスフィールの柄に自分の柄をぶつけた。
衝撃で槍筋が変わる。
「――くっ!」
それでも、エリスフィールはあきらめない。
狙いはそれたが、青年の横腹を槍先が突き抜けた。
「騎馬が相手なら、馬を倒すか落馬させるのが常道なのだが……。如何な状況でも落馬せぬというのだからな……全く面倒な事だ」
エリスフィールは、すぐに足を引いて間合いを取った。
都市伝説に一般的な方法は通用しない。
ならばと、エリスフィールは、撃杭槍ラジェンドラを構えた。
「推進機起動、推力最大……行くぞ、ラジェンドラ!」
エリスフィールが狙いを定めると同時に、馬が走り出す。
黒斗は、贄を! と叫ぶ都市伝説の声を遮るように殺気を放って、万が一の侵入者に備える。
体制を取り戻した都市伝説が、荒々しい動きで灼滅者を殺しにかかった。
檀は、都市伝説が現れてほっとしたのも束の間、すぐにエアシューズを滑らせた。
飛び上がって足をひねり、都市伝説を蹴りつける。
「伝承の託宣は贄でなく『三神を奉れ』だったはずですが……。子供を脅かすにしても、随分血生臭い神様になりましたね」
贄を求める青年を前に、檀はつぶやいた。
荒ぶる神といわれるだけあって、都市伝説は強い。
一筋縄ではいかないことは、仲間たちも肌で感じているだろう。
しかし、早期決着を決めたい檀は、自分の攻撃で都市伝説の行動と回復を阻害すると決めている。
仲間の攻撃が当たりやすいようにするのだ。
薙は槍で穿ち、京香はガトリングガンでいくつもの弾丸を撃ち込み、ホテルスは、手の甲のシールドで殴りつけた。
彩歌は、美しい斬線の刀身を掲げ、中断の構えから一気に都市伝説を斬撃した。
「子供のために作られた作り話です。脅しだからこそ、意義があるのですよ。本当に殺してしまっては何の意味もない」
彩歌が、次に狙うのは急所。
都市伝説の槍さばきに油断はならないが、攻撃の手を緩めるつもりもない。
「なんのための神ですか」
彩歌は、積極的に技を駆使して攻める。
「剛盾、殴打」
ガイストは、顔に巻いた包帯の隙間から、都市伝説を見とらえ、シールドで殴りつけた。
狙いは、何度も殴れば溜まっていく怒り。
ガイストがディフェンダーとしての狙っているのは、都市伝説の攻撃が自分に向けられることだ。
「ピリオド、一任、命令」
ガイストは、肩を並べているビハインドに、霊撃と霊障波を使って都市伝説の体力を削ぐよう伝えた。
互いに息の合った動きで、ガイストたちは都市伝説を追い込む。
馬が高らかな声で鳴いて、青年と自身の傷を癒した。
「馬と真面目に追いかけっこするのはちょっと面倒ですし、何となく行く先を予想して待ち受けがてら、殴る感じで上手く誘導できれば良いんですけどねえ」
薙は、動き続ける都市伝説に狙いを定めながら、作り上げた冷気のつららを撃ちだした。
都市伝説も、状況によって戦い方を変えている。
「前衛の人たちもつらそうですしねぇ。シフォン、がんばってくれますか?」
ちらり、と、薙を見た霊犬は、当たり前だというような雰囲気で前衛陣をかばう。
ホテルスは、蓄積されているダメージに抗うように竪琴を伴奏に歌を歌い、傷の深い仲間を癒した。
騎士として、凶刃に罪なき人が倒れることだけは絶対に許せないのだ。
「生贄がいると言うのなら貴方がなれば良い。我輩は生贄を求め、罪なき命を殺めるような存在は、どんなに強かろうと、どんなに美しかろうと認めはしませんよ。絶対にね」
唯一のメディックとして、ホテルスは歌うことをやめない。
託宣を告げたという美少年も、このような事態は決して望んでいないはずだ。
ホテルスは、都市伝説を止めるためにも、的確に癒す仲間を見逃さない。
彩歌は死角から馬の脛を切り付け、檀は大鎌を振り下ろし、エリスフィールは、都市伝説の槍の隙をついて自身の間合いに相手をとらえると、バベルの鎖が薄くなる中心点を貫く。
京香は、炎や追撃の付加も狙って弾丸を何度も連射し続けた。
「少しでも体力を奪っておかないとね」
じわりじわり、と、削がれていく体力に、都市伝説は攻撃ではなく回復の回数も増えていく。
そのため、前衛の人たちはダメージを受けずに、都市伝説へ攻撃できる。
京香は、支援に徹底する。
シールドを広げて前衛陣を癒していたガイストは、そろそろ追い込みも終盤だと、攻撃に移る。
黒斗は、至近距離からBlack Widow Pulsarをふるった。
「これだけ近ければ、得意の槍でも防ぎきれないよな」
危険も承知で立ち回っていた都市伝説の懐。
黒斗は、都市伝説の槍という武器を逆手に、至近距離で交戦していた。
柔軟な体と、相手をひっかけるような動きで都市伝説の攻撃をある程度回避していたが、灼滅者たちの中で一番ダメージが大きい。
「そなたが贄となれ!」
都市伝説は槍先を反転させて黒斗を背後から貫いた。
黒斗は体をくの字に曲げて、体から槍先を抜く。
「贄になるかならないかは、戦いの最後でわかる」
黒斗は、口の端をあげて都市伝説の死角から馬ごと青年を切り裂いた。
すると、都市伝説は、槍を持っていた腕を無気力におろした。
「贄を得ることはできなかったか……」
都市伝説は空を見上げる。
灼滅者たちは、そのまま消えていく都市伝説を最後まで見届けた。
●4
「消滅確認。早期撤退、遂行。厄介事、干渉拒否」
ガイストは、決めておいた逃避ルートへ向かった。
彩歌は、自分たちがいたという物が落ちていないか確認し、薙とエリスフィールはライトを消して移動するように仲間へ伝えた。
灼滅者たちは、まりんの言ったように、すぐに学園へむかう。
その足取りは慎重に、誰にも見とらえられないように。
贄とならなかった灼滅者たちは、二度と馬の足音が聞こえない闇の中へ消えていった。
作者:望月あさと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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