●闇堕ち
「……やっぱりわたしは、子どもっぽいのでしょうか……」
公園のベンチで溜め息を吐いているのは、穂護路・莉宇雨(ほごろ・りうう)という少女だった。
彼女の悩みは、実年齢よりもずっと年下に見られること。
中年女性や熟女であれば喜ぶべきことであろうが、お肌ぷるぷるな莉宇雨にとっては、それは喜ばしいことではなかった。
「…………どうして、小学生に間違われてしまうのでしょうか…………」
莉宇雨は小柄で童顔だ。ついでにロリボイス。よく小学生だと思われる。電車もバスも子ども料金で乗れるだろう。惨めな気持ちになりそうなので、そんなことはしないが。
「せめて……せめて、中学生くらいには見られたいです……」
莉宇雨は高校1年生……なのだが、小学校中学年くらいにしか見えない。10歳のころまでは平均的な体格だった。しかし、そこからほとんど成長していない。
成績はぐんぐん伸びたが、身長はほぼ変化なし。牛乳を飲んで成績が伸びるとは思わなかった。現在も、彼女の成績は学年トップクラスである。
胸もぺったんこなままだ。周りの女の子たちがブラを着けるようになったのに、自分だけは必要ないままだった。
焦った彼女は、豆乳も飲むようにした。豆乳を飲んだら、成績がさらによくなった。胸に行くべき栄養が、頭の方に行ってしまったかのようだった。
病気なのかと思ったこともある。きっと、病名は「ロリボディーシンドローム」とかそんな感じだろう。調べてみても、そんな病気はなかった。
思えば、母親も合法ロリな感じの人だ。小柄でぺったんこな女性である。母乳が出たという話を疑ったこともある。
「遺伝なのでしょうか……」
しかし、両親を愛している莉宇雨に、彼らから受け継いだ血を責めるつもりはない。
彼女の悩みに行き場はなく、彼女の中で渦巻いている。
「……ぺったんこじゃなければ、中学生くらいには見えるのでしょうか……」
自身の胸に手を当てる。弾力がない。「むにゅっ」とか「ふにょんっ」とか「ぽよっ」とか「たゆゆんっ」とかして欲しかった。「ぺた……」だった。むなしい。
「……頭に行く栄養の半分でも、こっちに行って欲しいのですが……」
何度めかもわからない溜め息を吐く。自分は一生、このままなのだろうか?
バスケ部のイケメンに「オレと付き合ってくれ! 合法ロリは最高だぜ!」とか言われた時には「いずれ、わたしは大人なレディーになるのです! だから、あなたとはお付き合いできません。ごめんなさい!」とは言ったものの、自分はこのまま合法ロリ道を爆進してしまうのか?
結婚するとしたら、その相手は「まったく、合法ロリは最高だぜ!」とか言う男になるのだろうか?
「……それは嫌です……」
かと言って、おっぱいの力でパワーアップする悪魔で赤いドラゴンな男とかも嫌だ。自分には、おっぱいと呼べるような代物はないけれど。
ふと、犬の鳴き声が聞こえてきた。声がした方向に視線をやると、飼い主らしき女性が見えた。そこそこ巨乳だった。Dカップくらいだろうか。
「あんなに立派なおっぱいは望みません。……せめて……せめてAカップ……!」
天に向かって祈る。これまでに何度もした祈り。初詣で1000円を賽銭箱に入れてもダメだった。5000円でもダメだった。1万円は試したことがない。
「…………わたしは……何をしているのでしょうか……」
冷静になって考えてみると、祈っても巨乳にはなれないのだ。
「……はあああぁぁぁぁぁぁ…………」
自身が思い描く理想像(背が高くてスタイルがいい)と現在の自分との間にある溝(と言うか深淵とかそんな感じ)に、幸せが全部逃げてしまうんじゃないかというぐらいに溜め息を吐く。
そして、彼女は気付く。気付いてしまう。先ほどまでとは別人のような、晴れやかな顔で言う。
「この世には、持つ者と持たざる者がいます。持つ者がいるから、持たざる者が惨めな思いを強いられるのです。世界平和が実現しないのは、豊かな者と貧しい者がいるからです。その格差が争いを生むのです。平和とは、平らであることで和が保たれることです。平らじゃない人がいるから──Bカップ以上がいるから世界は平和じゃないんです! ふふふ……ふふふふふ……。そうです。世界平和の実現のために、Bカップ以上を殲滅してしまえばいいのです! わたしが! 平和の象徴たるこのわたしが! この世のBカップ以上を殲滅してあげます! はははははっ!」
そして、彼女は計画を練り始めた。ノートのページをびりっと破り、そこに「Bカップ以上(特に巨乳!)殲滅計画」と書き記した。
黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)が公園を歩いていると、道に紙が落ちていた。ごみなら捨てておこうと拾ったところ、そこには──。
「……『Bカップ以上を殲滅する』……?」
物騒な内容が書かれていた。りんごは自身の胸を見る。そこには、Bカップどころじゃない膨らみがある。
「わたくしも、殺されてしまうのでしょうか……? 六六六人衆……だったりしないですよね……? でも……」
それは女の勘か、灼滅者の勘か。嫌な予感がして、りんごが踵を返す。武蔵坂学園に報告するために。
●教室にて
「りんごさんのおかげで、闇堕ちした一般人の居場所がわかりました」
バスケットボール選手の格好をして、野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)が言った。ドリブルをしている。
「あ、待ってー!」
ドリブル失敗。ボールは持つことにした。
「え、えーっと……こほん。闇堕ちしちゃったのは、穂護路莉宇雨さんという高校1年生の女の子です。闇堕ちしちゃった理由は……貧乳と言いますか、ぺったんこと言いますか……そんな感じです」
現在、莉宇雨はBカップ以上の殲滅を目論んでいる。それによって、世界平和が実現されると考えている。
冷静さを取り戻すことができれば、彼女は自分がしようとしていることが無駄だと気付けると思うのだが……。
「莉宇雨さんは六六六人衆になりかけています。まだ闇堕ち直後なので、序列外ということになりますが」
六六六人衆は、各自に序列がある。数字が小さいほど強い。彼らは、自分よりも格上の相手を殺して序列を奪おうとしている集団だ。
もし、莉宇雨が完全に六六六人衆と化した時には、彼女も序列争いに加わるだろう。もしかしたら、相当上位の存在になる可能性だってある。
六六六人衆は強大な力を持つ存在。五〇〇番台でもかなりの強さを誇っている。その上となると……いったい、どれほどの力を持つのか。
「どうか、莉宇雨さんの救出をお願いします」
このまま放っておけば、どこかでダークネスにでも襲われて死亡しない限り、莉宇雨は六六六人衆になってしまう。迷宵が把握している限りでは、莉宇雨がダークネスに遭遇する可能性はないようだ。
今ならまだ、莉宇雨を救えるかもしれない。莉宇雨を説得し、彼女を戦闘不能にすることができれば、彼女は灼滅者になれるかもしれない。しかし──。
「皆さんも知っての通り、莉宇雨さんが灼滅者になれるのは、莉宇雨さんに灼滅者になる素質があった時だけです」
素質はどうしようもない。彼女に素質があると信じるしかないのだ。
「もし、救出できない時には……闇堕ちが完了する前に、灼滅を」
闇堕ちが完了してからでは、灼滅は困難になる。
「莉宇雨さんは、ここに来ます」
迷宵が地図上の1点を示す。どうやら、莉宇雨は山の中に現れるようだ。
「莉宇雨さんが使えるサイキックは、鏖殺領域とヴェノムゲイルの2つです」
おそらく、複数の相手に攻撃することを好むのだろう。
「莉宇雨さんは灼滅者になるのか、六六六人衆になるのか……それとも灼滅か……。できることなら、彼女には私たちの仲間になって欲しいのですが……」
参加者 | |
---|---|
錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730) |
橘・千里(虚氷星・d02046) |
上條・和麻(迷い人・d03212) |
黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538) |
橘・愛美(普通の暗殺者・d25971) |
杠・狐狗狸子(銀の刃の背に乗って・d28066) |
シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278) |
弛牧・星亜(デンジャラスウォーロック・d29867) |
●断崖絶壁
ここは、とある山の中。上を見ると切り立った崖、下を見ても崖だ。山道は螺旋を描きながら頂上へと続いている。
闇堕ちしてしまった少女──穂護路・莉宇雨がここに来るはずだ。
莉宇雨が闇堕ちしてしまったのは……ロリな体型だから。つまりは、ぺったんこ。
「悲しい……悲しい事件だね。こんなことで闇堕ちなんて……悲しすぎるよ……! 絶対、何とかしてあげたい!」
シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)は中学1年生の小柄で小振りな少女だ。共感できるところもあるのだろう。
何の因果か、ここにいる灼滅者8人のうち、5人が貧にゅ……スレンダーな少女だった。しかも、そのうちの4人が小柄。
残った3人のうち、1人は少年。1人は巨乳。もう1人は──。
「まさか……また胸に悩む子を救いに来ることになるとは……」
小柄な少女に見える小柄な少年──弛牧・星亜(デンジャラスウォーロック・d29867)だった。美声である。ミニスカートから伸びるのは黒タイツに包まれた美脚。男だけど。
仮に星亜を少女としてカウントすれば、8人中6人が胸元の慎ましやかな少女である。
「胸で人の価値が決まるものでは……とわたくしが言っても煽りにならないか、不安ですけど……」
かつて、黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)と星亜は、Cカップ以上を殲滅しようとしていた(ぺったんこな)少女を闇堕ちから救出した。
中3にしてFカップなりんごは、当然ながら殲滅対象だった。星亜は貧乳少女だと思われていた。
莉宇雨も灼滅者に覚醒してくれればいいのだが……。
と、その時──。
「ふふふ……Bカップ以上は殲滅です」
聞こえてきたのはロリロリボイス。その声の主はロリロリボディーの持ち主でもあった。
莉宇雨だ。胸は小振りとかそれ以前の問題だったが、手に持つナイフは大振りだった。
「刃の導きに従ってここまで来ましたが──」
※地面にナイフを立てて、ナイフが倒れた方向に歩いてきた。
「ようやく見つけましたよ、巨乳!」
ナイフをりんごに──その巨乳に向けて突き付ける莉宇雨。その目には、嫉妬とか憤怒とか怨念とかが混ざり合って混沌と化した感情が宿っていた。
「他にもBカップ以上がいれば…………いないようですね」
何人かの心がベキッてなった感じがした。
「……あれ?」
莉宇雨が目をぱちくりさせ、ごしごししている。彼女が見ているのは、杠・狐狗狸子(銀の刃の背に乗って・d28066)──の後ろにいるビハインドのシャーレイだ。
「……わたし、いつの間に霊感が強くなったのでしょうか?」
ビハインドは霊感がなくても見えるが、幽霊だと勘違いしても仕方がない。
「ところで……そこのあなた」
そう言って莉宇雨が指差したのは、唯一の男性である(と思われている)上條・和麻(迷い人・d03212)だった。
「まさか、あなたはハーレム王なのですか?」
「そういうわけではないんだが……」
星亜が男だと知らない莉宇雨からすれば、ここにいる男性は和麻だけだ。周りにいるのは美少女たち。確かに、ハーレム状態である。
「そうですか。まぁ、ハーレムの中に1人だけ巨乳がいるというのも変な話ですね。他はちっちゃいのですから」
何人かの心がベギョンッてなった感じがした。
「そこの人は、身長は普通ですけど……Aカップでしょうか」
「う……!」
狐狗狸子は、小振りだが小柄というわけではなかった。
「わたしは、そこの巨乳を殺します。邪魔をするなら──」
『やめろ! そんなことしちゃいけない!』
「?」
橘・千里(虚氷星・d02046)が、スケッチブックに書いた文字を莉宇雨に見せる。
『そんなことしても、君のパイオツは大きくならないし、身長も大きくならない、ならないんだ……!』
「えぇ、その通りです。ですが、おっぱいの大きな女がいなくなれば、惨めな思いをしなくていいでしょう? 邪魔をするのであれば、Bカップ未満でも男の人でも容赦はしません」
「Bカップ以上を殲滅……何をそこまで気にするのか、男の俺にはよく分からん」
「そうですか」
「男でいえば、身長や力の有無を競うのと似たような物なのだろうか。それにしたって、別に低かろうが高かろうが、気にする事はないと思うんだがな」
「あなたは背が低くないから、そう思うのでしょう。ですが、持たざる者からすれば、持つ者の存在は鬱陶しい上に忌々しいものなのですよ。そういうことなので、Bカップ以上は殲滅します。それを邪魔する者も殲滅です。わたしが、世界平和を実現してあげます」
莉宇雨がナイフで虚空を斬る動作をする。これが、戦闘開始の合図となった。
●平和へと至る道
「この世の格差を是正しなくてはなりません」
莉宇雨の小さな体から、どす黒い殺気が噴出した。その殺気が、りんごと彼女の近くにいる仲間を飲み込もうとする。
しかし、その殺気は和麻と星亜が受け止めた。
「……巨乳を庇いましたか……!」
「仮にも俺は男だからな、見す見す女性を傷つけさせる訳にはいかない」
和麻が黒杖『鈴彦姫』を天に掲げる。
鈴のような音を鳴り響かせながら、黒い杖が魔力を放出した。それは竜巻となって莉宇雨へと押し寄せる。
「答えを出すのは、まだ早いんじゃないか? まだ十数年しか生きていないし、まだ数年しか努力していないのだろう? もうちょっと努力して、大人になってから答えを出しても遅くはない」
「……それまで、わたしに惨めな思いをし続けろと?」
「そこにいる仲間のように、似たような状況の奴と一緒に頑張ればいい」
「だったら、そこの同族のみなさんには、わたしと一緒に世界平和の実現を目指してもらいたいものです」
そう言う莉宇雨に、橘・愛美(普通の暗殺者・d25971)の雷撃を帯びた拳が迫る。
「今度は電気ですか……!」
「聞きたいのですが、胸がなくて困ったことってあったのですか?」
「そんなの──」
「高校生になっても、小学生に見られる事以外にです」
「え……?」
「私も高校1年生ですが、小学生に見られることはあります。それでも、別に困るような事では無いのですよ?」
「そんなはずは……」
「身長や体型で子供っぽく見られるのが嫌なら、服装や仕草を大人っぽくすればいい。子供が背伸びしているように見えるのなら、そう見えないように努力すればいいのです」
「……」
「武蔵坂学園に来れば、私達以外にも様々な人がいます」
「……むさしざか学園……?」
「女の人にしか見えない男性や、その逆な人とか。私達以上に年下に見えてしまう人もいるはずです。Bカップ以上を殲滅とかくだらないことはやめて、私達と一緒に来ませんか? 学園に来れば、きっと何かが変わると思うのです。私は、武蔵坂学園に入って、知識を得ることの楽しさを覚えました」
「……」
「できれば友達にもなって欲しいというのは、贅沢でしょうか」
「……あなたは、強い人なのでしょうね。ですが、大多数の人は、あなたのように強くはないのです。わたしもそう……。それでもわたしは、抗いますよ。この世の不条理と、不合理に!」
「あなたの気持ち、分かるんだよ」
錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)が言った。彼女もまた、莉宇雨と同学年。
「私も一緒だもん。自分の体型に自信が持てないのも一緒。デパートで服を買おうとすると子供服売り場に案内されて、可愛い服を見つけてもサイズが無い……。高校生になって、小学生に同年代だと思われて告白された時なんて、ショックで寝込むかと思ったんだよ」
「……わたしは、合法ロリが最高だとか言う同級生に告白されましたよ」
「B以上がいなくなっても、平和にならないよ」
「格差はなくなるでしょう? 少なくとも、今よりはずっと」
「今度は、AとAAの間で争いが起きるだけなんだよ」
「…………」
「大事なのは、胸とか体型じゃないんだよ。私達のお父さんも、お母さんの体型に惚れたんじゃないんだよ。私達を体型だけで見ない人が、きっと、きっといるはずなんだよ!」
「あなたは、望んだことはありませんか? もっと背が高ければいいのに、もっと胸が大きければいいのに──と」
「それは……」
琴弓には想い人がいる。お隣さんで幼馴染みな少年だ。
琴弓は毎日牛乳を飲んでいる。巨乳への憧れもある。何せ、想い人が巨乳派を自称しているのだから。もっとも、その少年も──。
「巨乳がいなくなればいい、殺してしまえばいい──わたしは、そう思いました。嫉妬だと笑ってくれて構いませんよ」
「そんな物騒な心の声に負けちゃダメなんだよ。一人で悩まずに、私と、皆と一緒に、悩んでみようよ」
「わたしの悩みなら、Bカップ以上の殲滅によって解決するはずです。AとAAの差は小さなものですが、AとBの差は大きいのですよ」
「……戦うしかないんだね……。お願い、あの子を助けたいの、力を貸して」
琴弓が自身の影に話しかける。そこから現れたのは──爪か。
影の爪が莉宇雨に向かって伸び、巻き付いていく。
「……こんな攻撃もあるとは……!」
「『君は高校1年生だっけ? しゃらくさいZE!』」
合成音声で、千里が言った。
千里が振るう剣は天十握。呪いと災厄とを断ちながらも、希望にも象徴にもなり得ないという剣。
「しゃらくさい……ですか?」
「『私なんか、高校3年生にもなって身長が140センチしかないんだ! クリスマスの直前には18だ! ちなみに、140センチは小学5年生の女子の平均身長だ』」
「……わたし以上に合法ロリですね」
「『君にはまだ猶予がある! 希望を捨てちゃだめだ! 巨乳の人を滅ぼしても、別に君は巨乳にならない……そして、別の巨乳が生まれる、だけだ……!』」
「わたしは巨乳になることを諦めたんです。いえ、普通サイズになることさえ諦めました。だって、惨めじゃないですか……つらいだけじゃないですか……! 叶いっこない望みなんて、捨ててしまえばいい! 自分が巨乳になれないのなら、巨乳を消し去ってしまえばいいんです! それなら! それなら……わたしにだってできます……! やってみせます!」
「私もその……うん、胸小さいから気持ちはわかるけど……そんなことしたって、何も変わらないよっ!」
シフォンが構えるのは槍。そこから繰り出されたのは螺旋槍だ。
「女の子は、見た目だけが全部じゃないよ! そりゃ見た目だって大事だけど……それが全部じゃないの」
「……」
「でも、私はまだ変われるの! 莉宇雨ちゃんだって、まだまだこれから、変われるんだから! だからさ、一緒に変わっていこっ? これから変わって、見返してやればいーんだからさ!」
「時には、自分が変わるよりも、自分を取り巻く環境を変えた方が楽なことがあります。わたしがしようとしているのも、そう」
「胸のことは気にしてないけど、本当に全然全くこれっぽっちも気にしてないんだけど、ええ、貴女の気持ちはよく分かるわ……! 胸のことは気にしてないけどね!」
「……。そうですか」
ガンナイフを手に、狐狗狸子が駆ける。莉宇雨は銃弾が来るのかと思った。しかし、狐狗狸子が目の前に来る。
「接近戦……!?」
さらに、シャーレイの攻撃も来る。
「……ただの幽霊じゃなかったのですね……!」
「ねえ、私も、高1なの。背はあるけど……ううん、その分、その……余計に悲惨かもしれない…………中1の部長に負けたり……」
ちなみに、その部長は彼女よりも10センチほど背が低い。
「いつかは大きくとか、希望は…………いやもう無理かも…………」
なんか、目から光が消えかかってた。
「でも、それでも強く前向きに生きてる! 一緒に前に進みましょう、戦友!」
「戦友?」
「小さいなら小さいで、それを引き立てるファッションを追求すればいいの! 一緒に服、買いにいきましょ?」
「……」
「シフォンちゃんだって、胸はぜんぜん無いのにこんなに可愛いじゃないか! ぜんぜん無いのに!」
星亜が構えた盾から、エネルギー障壁が生み出された。
「そうそう。全然……悪かったわね!? そこは『こんなに可愛いじゃないか』だけでいいんじゃないの!?」
「僕だって、17歳なのに小学6年生の平均身長と大して差がないよ」
「ちょっと聞いてるっ!?」
「だけど、背が低いからこそ出来ることだってある。僕なんて、こんなにも女装が似合うじゃないか」
「……えぇ。男の人だとは思いませんでしたよ」
「小柄で胸が無いからこそ似合う服だってあるんだよ、着物とかさ」
「……」
そう言われた莉宇雨は、りんごを見る。和装ながらも巨乳なのがわかってしまうりんごを見る。特に、その胸元の膨らみを。
「莉宇雨さん、気になります……?」
「……巨乳は死ねばいいんです……!」
「大きな人がいようがいまいが、貴方の魅力とは関係ないのですよ」
「…………」
怨みや憎しみが注ぎ込まれた視線で、莉宇雨が睨みつける。
その視線を受け止め、りんごが言う。優しく、諭すように。
「大きければ大きいなりに苦労もありますし、小さければいいのにと思う事もあります」
「贅沢な悩みですね……!」
「でも──」
「……?」
「でも、それも含めて個性ですから」
「……個性……? 何を言って…………」
言われて、莉宇雨が愕然とする。
莉宇雨は、自分が幼い外見をしていることに──他人と違うことにコンプレックスを感じていた。自分が劣っているのだと歎いていた。
なぜ、この体が劣っていることになる?
自分は、この姿ゆえに劣った人間だったのだろうか?
自分の母は──自分と同じように幼い外見の母は、自分にとってどういう存在だ?
最愛の母は、劣った人間だろうか?
自分は、妄執に囚われていたのではないか?
「わたしは…………」
個性──個々の違いというものに目を向けてこなかった。自分自身の個性にも、他者の個性についても。
彼女は、AカップとBカップとの間に境界線を引いた。女性を2つのグループに分けた。
それは確かに個性の1つではあるだろう。だが、個性の1つに過ぎず、それが全てではないのだ。
少年少女の言葉を思い出す。
その言葉が胸に染みてくる。
自分を縛り付けてきたものから──呪縛とも言うべきものから解放してくれる。
「莉宇雨さんには、莉宇雨さんの魅力があります」
そして、りんごはこう続ける──。
「外見ではなくね」
「……はい……」
「だから、本当の魅力的な貴方を取り戻してください」
りんごが刀を抜き、振るう。
まるで、莉宇雨を支配していた縛鎖を斬り裂くかのように。
「……ありがとう…………」
よろめく莉宇雨を、りんごが抱き止めた。
「…………あなたたちに出会えて……よかった……」
「一緒に行きましょう?」
「……はい。一緒に」
──これは、ある灼滅者の誕生の物語であり、彼女を救った灼滅者たちの物語である。
作者:Kirariha |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 9
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|