●女騎士キャシャリンさんのゆーうつ
ここは日本のどっかにある気がするナントカ女学院。
花も恥じらう乙女たちが今日もすこやかにごきげんようしていた。
そんな中。
「まあ見て、キャシャリン先輩よ!」
「なんてお綺麗なのかしら!」
「わたくしも、一度でいいからお名前を呼ばれてみたいわ!」
乙女たちの黄色い声は、ただ一人の金髪美女をさしていた。
校門を歩くその人は、華奢林・凜(かしゃばやし・りん)。
生粋の日本人なのに何でか知らんが美しすぎる金髪ウェーブのロングヘアで、尚且つ目は青く澄み、色白でしかも背が高く、騎士道部とかいうフェンシング系の部活のエースをつとめ、家は大金持ちのご令嬢。後輩の面倒をよく見、運動神経もよく勉強もできる無敵の女性。
ひとよんで、『姫騎士キャシャリン』である。
「ごきげんようお姉様!」
「あらごきげんよう」
キャシャリンさんは今日も目をハートにした後輩たちと挨拶を交わしながら、美女粒子(アニメとかで美女から出てくるキラキラしたオーラみたいなやつ)をふりまいていた。
と、そこへ。
「まあエーコさん、こんなはしたない本を学校に持ち込むなんて!」
「おやめになってビーコさん、声が大きくてよ!」
隅っこのほうでなにやら本を隠し読みする女子生徒たちを見つけた。
「あらエーコさんにビーコさん、こんなところで何を……ハッ!?」
後ろから覗き込み、キャシャリンさんはハッとした。
ハッとして美女風(アニメとかで美女がときめいた時になぜか横から吹いてくる風。たまに花びらが混じる)を吹かせた。
そう。
彼女たちが読んでいた本は……。
『メンズマッスル10月号、ボディビル特集! キミも筋肉に包まれてみないか!?』だった。
「きゃ、キャシャリンお姉様! これは……!」
「先生方にはご内密に……!」
「し、ししし仕方ないですわね。でも見つかってはいけないわ。わたくしが暫く預かってさしあげましてよ。絶対に見つからない隠し場所を知っておりますの!」
「「まあ……!」」
うら若き乙女たちからメンズマッスルをとりあげ、鞄にしまうキャシャリンさん。
そしてすまし顔で校舎へおもむき、若干早歩きでトイレへ入り、個室にかぎをかけ……た途端。
「なんですのこの筋肉やっば! 激やばですわ! ハァハァ、もうだめこのふくらはぎから腰にかけての筋肉をペロペロしたいですわそして腹筋を指でなぞってあみだくじをするのですわそして両肩にぶらさがってほおずりをし続け最後はあの屈強な腕を枕に眠るのですわハァハァんーもうたまんないですわァァァァッヒャアアアアアイ!」
で。
全身をバラ色の鎧に包み小悪魔的なハネやツノをはやしトイレの窓を突き破ってメンズマッスルを抱えたまま外へと飛び出した。
そう、彼女は淫魔に闇落ちしてしまったのだ!
「こうなったら全国のマッスルガイたちをペロペロしつくしてやりますわあああああああああああ!」
●タイトルを五分で撤回する暴挙
「……っていう、淫魔が出たんだよ!」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は教科書を胸に抱え、飛び出したところのポーズでくいっと振り返った。
え、さっきの台詞をまりりんが詠唱したのかって? するわけないだろ。想像しちゃだめだぞ。絶対だからな。
対象は華奢林・凜。
通称姫騎士キャシャリン。
筋肉のゆたかな男性が好きすぎて人の道を外しかけているっていうか既にちょっと外れてるお姉様である。女子高生である。
このまま放っておけば全国のメンズマッスルたちはキャシャリンのえじきとなってしまうだろう。具体的にはぺろぺろされてしまうだろう。
「彼女をとめられるのは、みんなしかいないんだよ……だから、がんばってね!」
まりりんは飛び出しポーズのまま、そういった。
参加者 | |
---|---|
山城・竹緒(デイドリームワンダー・d00763) |
白・彰二(夜啼キ鴉・d00942) |
鈴鹿・幽魅(百合籠の君・d04365) |
采菓・みちる(陰鬱系ハイテンションガール・d06185) |
神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731) |
永舘・紅鳥(氷炎纏いて・d14388) |
御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808) |
茂多・静穂(千荊万棘・d17863) |
●月一で筋肉を書いていないと禁断症状が出るアレ
「ボーディビル部を知ってるかい!」
「「こいつはどえらいトレーニンッ!」」
パンイチのメンズマッスルたちがダンベル両手にランニングしていた。
舞い散る汗。陽光を照り返す肉体。揺れる縫工筋および大腿直筋。
「やぁ調子はどうダァイ?」
「めっちゃよろしぃでェ。ほらフゥゥンンヌッ!」
「おうスッゴイ! スゥッゴイよ君の、君の胸鎖乳突筋肉はどうなっちゃってるんだい!?」
「ありがとォウ、ところでなんできみブラしてんの?」
「これはブラじゃないよ。大胸筋強制サポーターだよ。それよりランニングコース変えないかい? なんだか嫌な予感がするんだよ」
「さよか。ワイもそう思ってたとこやから。次のとこ曲がろか。時になんてブラしてんの?」
「大胸筋強制サポーターだよ!」
身体をそして外腹斜筋を一斉に曲げながら十字路を曲がっていくメンズマッスルたち。
なぜ彼らがこんな行動に出たかというと。
「あれ……? 俺の殺界形成がここぞとばかりに筋肉描写に活用されたような気が……」
十字路をかなりまっすぐいった先で、神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)が虚空を見上げた。たしか、とりあえずこれやっときゃいいみたいなスキルって便利だよなという話をしていた所なのだが。
「さておき、筋肉好きで闇堕ちしてたらシャレにならんよな」
「ん、ああ? 悪い、聞いてなかった。何の話だ?」
頬をかきながら振り返る永舘・紅鳥(氷炎纏いて・d14388)。
白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)が笑顔で頷いた。
「普段抑制してるものほど爆発すると歯止めがきかないって話じゃなかったか?」
「そうだったか……?」
「違うよ美女粒子の出し方だよ。ホラッ……!」
山城・竹緒(デイドリームワンダー・d00763)が目の中に銀河を作っておどろ線を額に流した。
「それは確かに少女漫画顔だけど、美女粒子にカウントしていいのか? っていうか古くないか」
「古くないよ絶賛連載中だよ」
「それが長すぎるんだよ。采菓はどう思う」
「わひぃっ!? わ、わたしなんて全然……!」
采菓・みちる(陰鬱系ハイテンションガール・d06185)が両手と顔を高速で横に振った。
「何に否定なのかしら」
「とかく……あの華奢林さんが自他共に認める美女であることは間違いありませんわね。本性込みで言うと……『残念美人』ということになるのですわね」
頬に手を当てる鈴鹿・幽魅(百合籠の君・d04365)。
同じく頬に手を当てる茂多・静穂(千荊万棘・d17863)。
「残念といえば、彼女の人格がダークネスに潰されるなどあまりに残念です。是が非でも助けねばいけませんわ!」
静穂はお嬢様ロングドレスのお嬢様ロングヘアで、太陽に向けて振り向いた(この格好を覚えておいてください)。
●最近元気が無い? 仕事が進まない? ――なァら筋肉だ!
「ッシャアアアア! めくるめくマッスルパラダイスがわたくしを待っていましてよ! お待ちになって前腕屈筋群! お待たせですわ三角筋! いまわたくしがっ、わたくしが参りましてよォォオオオオオオオッヒャアアアイ!!」
三フレームくらいしか使ってない豪快なアニメーションで町を疾走していくできたて淫魔。その名も魔騎士キャシャリン。
が、右から左へ流れる背景の中にライ○ンがキングしてるポーズの御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808)が映った瞬間グキッとなるほど振り向いた。
足下の小石につまづいて顔からアスファルト道路にダイブ。十メートルほどスライドしたあと、がばっと身体を起こした。
「い、今のは!?」
さあご覧頂きたい。
出番の全てをここに費やした男の生き様を。
「フゥ……ンッ!」
ラットスプレッド・フロントをわずかに右へひねったポーズ。
後ろでレブ板をかかげる霊魅。カメラをカシャーカシャーやる幽魅。
ナイスバールク! キレてるぅー! と斜め下から呼びかける紅鳥。
左右で膝立ちした竹緒とみちるが両手をバッと翳した。
「キャシャリンちゃんのために用意したクヌソ未使用天然マッスルだよ!」
「いまならもふぺろし放題、お得ですよ!」
「や、やべぇ……これはマニアじゃなくてもひかれるものがあるな……。あれ? もしかしてこれが男のジェラシーってやつなのか?」
ごくんと喉を鳴らす律。
謎の汗を流しながら身を乗り出す彰二。
「いやまて、ひとつ問題がある。ポーズをとってるだけではただの鑑賞物。説得はできないんじゃないのか?」
「いいえ、あれをご覧になってください」
綺麗な目で譲治とキャシャリンを指さす静穂。
キャシャリンの両目にはサイドトライセップスに移行した譲治の姿が映っていた。
いやそれだけではない。
「わたくしには分かりますわ。筋肉が……語っている」
アドミナブル・アンド・サイからの『俺はその趣向をよしとする。誰に文句を言われようと、胸を張って生きて良い。でもだからこそ己の衝動に負けず、愛のために己を律するのだ。そう、筋肉を鍛えることと同じように、時に堪え忍ぶことも必要なのだ』というメッセージ。
サイドチェストからの『筋肉をぺろぺろしたがる人も沢山いる場所がある。大丈夫、おまえはひとりじゃない』というメッセージ。
唐突なヒンズースクワットからの『さあ、その羽や角とはさよならだ』というメッセージ。
キャシャリンの瞳からつぅっと涙が伝った。
「わたくし、シャクりますわ……」
ハンドダンベルを持ち上げる動作からの『うむ』というメッセージ。
と、そんな風景を突き破るように彰二が飛び出してきた。
「……って早い早い! 展開が早すぎるだろ! まだ俺説得らしいことしてないぞ!」
「じゃあやったらいいじゃありませんか! 今やったらいいじゃありませんか!」
「嫌だろそんな消化試合みたいな説得!」
「だったら……!」
カッと目を見開くキャシャリン。
すると周囲の背景がなんか変わり、花散る桜木の下で卒業証書をかっぽんする筒を持ったキャシャリンが振り返るシーンがなぜか展開された。
「まあ、きてくださいましたの」
なんでか画面下に出てくるメッセージウィンドウ。
彰二は無駄に前髪で目をかくしつつ、照れくさそうに台詞を選んだ。
「趣味とか好みとか、人それぞれでいいんじゃねーの? 本当の自分隠しててもいいことねーと思うし」
悲しげに目をそらすキャシャリン。
「でも、わたくしは学園の姫騎士……誰にも趣味を告白することなんて」
「いやうちの学園くれば大丈夫だって。学園のやつらめっちゃ個性的だし。もうここに居る八人の時点で変態率すごいんだぞ? だから……」
画面上にスッと出てくる選択肢。
「俺の学園(ところ)、来いよ」
「…………」
キャシャリンは横の髪をかきあげる動作をしながら頬をあからめた。
「……いいですわ、あなたが今晒している大胸筋と恥骨筋に免じて」
「晒してねえよ!」
「なぜ!? 告白シーンに恥骨筋は外せませんわよ!?」
「そこは外せよ! それ以外は完璧だったじゃねえか!」
「待って、ここは俺に任せろ。行ける気がするわ」
彰二を押しのける形で律が前へ出た。
唐突にシャレオツな高級バーのカウンターに座る律。
町の夜景が窓の外に広がり、深紅のドレスを着たキャシャリンが隣に座った。
律はアダルトな気持ちになれる茶色い水(水だよ)をマスターに注文すると、自分のネクタイをしめながら彼女を横目に見た。
「アンタみたいな姫騎士サンがマッスル好きなんて、結構可愛いとかいわれて人気でるかもよ。ギャップ萌えつってな」
「あら、お上手ですわね」
くすりと笑うキャシャリン。
律もまた薄く笑い、出された茶色い水(水だってば)に口をつけた。
からんと氷がくずれる。
「世間一般のイメージで自分を縛り上げて我慢してたら、もったいないよ?」
「そう……しかしあえて自らを縛るのもまた、快楽への道ですわ」
逆方向から声がした。
振り返ると奴がいた。
奴っていうか拘束服で自らを完全自縛した静穂がいた。黒ゴムスーツに黒ベルトで頭部までがっちり束縛されていた。一瞬でやるあたり手慣れた犯行とみて当局では捜査を進めている。
静穂は舌だけでチェリーの浮いたカクテ……水をハァハァいいながらすくい飲みつつ横目でこっち見てきた。
「ああっ、かつての令嬢も今や拘束服きた変態。でもそんな無様さがっ! 無様な私が! 心地良いィ……! ……ふぅ」
「ああ、本当の私の姿……晒されちゃった。でもこれもまた私自身。隠さず無理せず晒した方が気持ちがいい……そう思いませんか?」
「やめて? 俺を挟んで変態談義展開するのやめて?」
「俺は君たちみたいな趣味、全然いいとおもう」
シェイカー……いや銀色のマラカス的なものをふっていたマスターもとい紅鳥が話題に加わってきた。
「見たとおり、同じ趣味をわかちあえる人がたくさんいる。もう心配しなくていいんだぜ」
「そう……ですわね」
キャシャリンは濡れた唇を指で撫で、律のネクタイに触れた。
「ネクタイ以外なにも着用していないあなたに免じて」
「着用してなくねえよ! 全裸よりひでえじゃんかそれ!」
「告白といえば裸ネクタイと相場が決まっていましてよ!」
「決まってねえよそれはただの犯罪だよ!」
「「待ってください!」」
背景を引き裂いて竹緒、みちる、幽魅の三人が飛び出してきた。
「オンナノコの気持ちはオンナノコだけが知っているもの」
「だからここは私たちに」
「おまかせですわ!」
――このアニメはくーはくきゃくめーが就職活動の中で絶望しこうなったら俺声優になると決意したがやがて結婚し主人となり生活費を稼がねばならないと思って書いた日常系漫画がまかりまちがってアニメ化したものである(嘘だよ)。
『第一話 ゆるふわなパジャマパーティだよ!』
(竹緒、みちる、幽魅、キャシャリンの声優が合唱するポップでヒップだが意味は全くない歌詞でできたOPムービーをご覧頂き――ました)
ピンクでクッション沢山ぬいぐるみ沢山なお部屋に四人のオンナノコ。テーブル(の上でビルドアップしている譲治)を囲んでクッキーや紅茶をいただいていた。
ずいっと身を乗り出すみちる。
「単刀直入にいいますっ! 私たちの学園に来ませんか! 腐っていたり秘めた恋心をさらけ出したり基本全裸の人まで色とりどりでいらっしゃいます。それにほら、水着コンなんかで男子の筋肉ガン見しほうだいですよ! 本当に学校なのかなここ!」
同じくずいっと身を乗り出す竹緒。
「そうだよ! わざわざそんな姿にならなくてもマッスルをぺろぺろすればいいじゃない! お嬢様だからって変に隠したりしないで堂々とペロろうよ! っていうかわたしもメンズマッスルをペロペロしたいんだよハァハァ! ほらみて腹筋、腹筋が割れに割れて!」
カメラがパンして幽魅にドン。
「わたくしはむしろ美少女や男の娘を小脇に抱えてペロペロするのが趣味ですわ。ほら手近に美少女が――って痛いっ、霊魅痛いですわ!」
「私……」
携帯電話にメアドを表示させて、みちるはずいっと突きだした。
なんか感動するシーンが始まるよみたいなBGMと共に頬を赤らめる顔アップ。
「采菓みちる。好きなポーズはアブドミナルアンドサイです! お友達になってください!」
はっとするキャシャリンの顔アップ。音量を徐々にあげるBGM。
もじもじするカットをはさみ、月刊メンズマッスルをぎゅっと握るカットをはさみ、顔をそらしながら頬を赤らめたキャシャリンがこちらがわに携帯電話を突き出すカット。ここぞとばかりに始まるエンディングのイントロ。
「好きなポーズはラットスプレッド・フロント、ですわ」
そして全員の笑顔をアップにしたようなシーンと共に本格的に流れるエンディングテーマ。
下から上に流れるスタッフロール。押し入れから顔を出す静穂。
関係ない場所で空を見上げて清々しい顔をする男性陣。
「……という感じで、わたくしが仲間になったエピソードをねつ造するのはどうかしら」
「いいんじゃないかな」
アニメの後ろで軽く激闘を繰り広げサイキック攻撃八人連携技みたいなアレで華麗に倒した後、色々すっきりしたキャシャリンが普通にシャク(灼滅者化)っていた。
カメラに向けて髪をふぁさぁっとかきあげて美女粒子をまき散らすキャシャリン。
「わたくしの名は華奢林・凜。筋肉があれば戦闘機だって打ち落としてみせますわ。ただしシリアス依頼はごめんですわよ!」
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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