定礎怪人になるために必要な三つのこと

    作者:空白革命

    ●ひとつ、定礎石は神聖なものだと知りましょう。
    「や、やめろー! ぶっとばすぞー!」
    「「テーイテイテイ!」」
    「「ソッソソッソッソウ!」」
    「「テーイテイテイ!」」
    「「ソッソソッソッソウ!」」
    「う、うわー!」
     千葉県某所のナントカビル。
     あんまデカくもないのにいっちょまえに定礎石がはめ込まれているビルだが、その見栄がたたってつい先月中身の起業ごとすっからかんになった。
     もうここには誰もよりつくまいよと思っていたら、頭がペナントになった謎のおっさんたちが昭和に魂を引かれたようなおっさんを囲んで謎の儀式をしているところ……を、散歩中のおさばんは目撃した。
    「テ――テイソーウ!」
     謎の光に包まれ、おっさんの頭は定礎石に変化した。
     両腕を振り上げ、定礎さまばんざーいみたいなことを言っている。
     おばさんは何も見なかったことにして、その場をスルーした。
     
    ●ふたつ、定礎石は神聖なものだと言っています
    「とまあこういう風に、各地で『定礎怪人』が強制的に生み出されている。安土城怪人配下のペナント怪人のしわざなんだが……どうも琵琶湖大橋の戦いが灼滅者の介入によって未然に防がれた事で、安土城怪人の勢力が新たな作戦を開始したようだ」
     以上、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の説明である。
     振り付けつきの説明である。
    「当然、黙って見過ごすわけにはいかん。儀式に乱入し、やつらを倒すんだ!」
     
    ●みっつ、定礎石は神聖なものだっつってんだろふざけんな!
     ペナント怪人は三体。
     量産型ご当地怪人なのでさして強くは無いが、三人がかりなだけに若干やっかいです。
     ペナント甲は拳法使い。
     ペナント乙はピストル使い。
     ペナント丙はタンバリンを叩く係です。
     なんでタンバリン叩く係がおるんや。
     三人で連携されるとやっかいみたいなので、三グループに分かれてそれぞれを引きつけ、個別に撃破する作戦が推奨されています。
     ちなみにこの戦闘に10分以上かかると昭和のおっさんが定礎怪人にされてしまいます。いそいでやっつけましょう。
     なお、ここに連れてこられてる昭和おっさんは放っておけば何もされないようです。避難させようとするとかえってペナント怪人たちを刺激するので、できるかぎり放っておきましょう。
    「というわけだ。ペナント怪人は量産型だが、それなりにやっかいな敵でもある。注意してあたってくれ!」


    参加者
    巽・空(白き龍・d00219)
    笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)
    喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)
    桃野・実(水蓮鬼・d03786)
    川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)
    逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)
    吉祥院・折薔薇(百億の花弁・d16840)
    牛追・アイリーン(小学生ご当地ヒーロー・d30908)

    ■リプレイ


     一応説明しとこうか。
     礎石とは、建築物の礎となる石である。その礎石を定めることを定礎という。
     要するに平たい石を埋めて、その上に柱を立てることで建造物の安定性や耐久性を高める役目を持つ。しかし現代の建築技術とは相容れないため、風習だけを残す形で『定礎石』という文化に変化したのである。
     基本的な形としては大きく『定礎』と書かれた石を建物の南東に埋め込む形で設置し、所有者や建設責任者などの名前が彫り込まれる。御影石やら黒曜石やら色々あるが、昨今その保存性からステンレスだの鉛だの人工クリスタルだのといったものも現われ、ただ置くだけじゃつまらんからみたいな理由で出資者名簿なんかを中に埋め込むタイムカプセル的な役割をもつこともある。
     ちなみに発祥はよくわかっていない。日本全体とみていいんじゃねという見解が今のところ妥当である。
    「って、ことみたいよ?」
     ネットの情報をそのまんま流したようなことを、吉祥院・折薔薇(百億の花弁・d16840)は語って聞かせた。
    「へえ……そうなんだ……」
     説明を受けて、桃野・実(水蓮鬼・d03786)はそこそこ納得した顔で頷いた。
     人の名前とかじゃないんだー、みたいな。
    「そう考えると素晴らしいものですが……人として日本の礎となる昭和のおじさんを定礎怪人になんてするわけにはいきませんね」
     僕たち若者の礎になってもらうためにもねと、川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)は胸元のタイをきゅっとしめた。
    「それにだ。歴史的観点からみても定礎石は神聖なるもの。許せんな……」
     誰かの首をきゅっとしめるジェスチャーをする逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)。
     ガッツポーズで頷く牛追・アイリーン(小学生ご当地ヒーロー・d30908)。
    「ハイ、オジサマを守るデース!」
    「……ねえ、それにしてもさ」
     巽・空(白き龍・d00219)も同じようにガッツポーズをとろうとして、ふと動きを止めた。
    「拳と鉄砲はいいけど、タンバリンって何する役なんだろう……」
    「り、リズム……かな?」
     自信なさげに首を傾げる笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)。
     こくりと頷く喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)。
    「確かにあのリズム、妙に耳に残るわね……」
    「そう、今にも耳に……」
    「「テーイテイテイ!」」
    「「ソッソソッソッソウ!」」
     ぴたり、と一同の足が止まった。
     ビルの前でペナント怪人がおっさん囲んで円を描くように反復横跳びしていた。
    「もう始まってる!」


     章区切りなんてしたけど一分たりとも進んではいない。
    「やめるんだ定礎マン! もといペナント怪人たち! 俺たちと勝負だテイテイテーイ!」
    「勘九郎、うつってる。テンションがうつってる」
    「ペーナペナペナ! このタイミングで現われるということは貴様灼滅者だな? よかろう!」
     ペナント怪人はずらりと三人横並びになった。
     不敵に笑う銘子。
    「あら、三人がかりじゃないと何も出来ないの? ビビリなのね、いつも灼滅者をまとめて相手に――」
    「一人ずつ分かれて戦うコースと三人いっぺんに戦うコースがございますが、どちらになさいますか?」
    「丁寧に聞いてきた!?」
    「じゃあ……ひとりコースで……」
     くいっと指で離れた場所を示す実。
     ペナント怪人と灼滅者たちはそれぞれのエリアに分かれ、戦闘を始めるのだった。

    ●VSペナント甲
    「自分はペナント怪人千葉甲型でございます。拳法の達人でございます!」
     ホアーと言いながら蟷螂の構えをとるペナント怪人。
    「いくよ、こりんご!」
     勘九郎は拳に炎を宿すと、ペナント怪人めがけて突撃した。彼の後ろから援護するように竜巻をおこすこりんご(ナノナノ)。
    「来なさいでございます!」
     シャッと上半身をスライドさせて勘九郎の拳をかわすと、ペナント怪人はえぐり込むようなパンチを繰り出してきた。
     咄嗟に後ろにジャンプしてかわす勘九郎。
    「わっと」
    「踏み込みが足らんでございます!」
     ペナント怪人は更に大きく踏み込んで拳を繰り出すが、それは横から割り込んできたエネルギーシールドによって防がれた。
    「これは!」
     シールドの飛んできた方へ振り向く。緩く腕を組んだ銘子が横目でペナント怪人を見ていた。
     その直後、勘九郎の上を飛び越える形で空が飛び出してきた。
    「キミの拳、まだまだだね! ボクが本当の拳をおしえてあげるよ!」
    「おもしろいでございます!」
     空は空中で軽やかに前転。蹴りの体勢をとると、ミサイルのようにペナント怪人を襲った。
     腕をクロスさせて空のキックを受け止めるペナント怪人。
     そこへさらなる追撃を仕掛けようと勘九郎が再度突撃。ガード姿勢のペナント怪人めがけて回し蹴りを繰り出した。
    「テイ!」
     瞬間、ペナント怪人はガードを解除。勘九郎と空の足をそれぞれ掴むと、連続で後方へと放り投げた。
    「ソウ!」
     再び蟷螂の構え。どういう理屈か空と勘九郎は空中で爆発した。
    「うわっ!」
     ちょっぴり頬に煤をつけ、ごろごろと地面を転がる空と勘九郎。
     こりんごが慌てて駆け寄り、ふわふわをハートした。具体的にどうしたかよくわからんが、たぶんつぶらな瞳でじっと見たんだと思う。
    「次はお前でございます!」
     銘子へと両腕を広げた姿勢で突っ込んでくるペナント怪人。
     対する銘子は緩く腕を組んだまま、ついっと上げを上げて見せた。
     エネルギーシールドが複数展開し、ペナント怪人との間に発生。奇妙な音をたてて相手の侵入を阻んだ。
    「あら、そんなもの?」
    「小癪なでございます!」
     シールドの中央に両手を突っ込み、両開きの戸を開けるようにシールドを破壊。さあ今こそというタイミングで空と勘九郎が左右へ追いついてきた。
    「なっ、回復が早すぎるでございます!」
    「こりんごのおかげでね!」
     空の素早い足払いからの突っ張り投げ。空中に放られたペナント怪人めがけ、空と勘九郎が同時に飛びかかった。
    「一緒に行くよ!」
    「任せて!」
     二人は互いのオーラを交流させながら、まるで高速でキャッチボールでもするようにペナント怪人に連続オーラパンチを繰り出した。
    「ば、ばかなーでございます!」
    「そろそろ終りね」
     銘子は腕組みをとくと、手の中に一本の剣を握った。
     落ちてきたペナント怪人をすれ違いざまに切り裂き、背を向けた。
    「テ、テイソーッ!」
     そしてペナント怪人は、しめやかに爆発四散した。

    ●VSペナント乙
    「俺様はペナント怪人千葉乙型。早撃ちの名手だぜ」
     ペナントの先っぽを銃口でくいっとやるペナント怪人。
     実と咲夜はそれぞれロッドを構えると、彼を中心に円を描くようにじりじりと回り込んだ。
     ペナント怪人を見る実の目に、光がよぎった。
     こんな活動をしている以上、灼滅者はもちろん他のダークネスからの妨害だってばかにならない筈。ということは彼も命がけ……。
    「俺も、全力で行く」
     実はロッドを槍のように構えて突撃。
    「そこだぜ!」
     ペナント怪人の銃撃。かみひとえで交わす。頬をえぐっていく銃弾。
     零距離をとる。が、ペナント怪人はもう一丁の銃を実の額へ突きつけた。
    「甘いぜ! 俺は戦闘のプロだぜ!」
    「甘いのはあなたです!」
     咲夜の放った魔矢がペナント怪人の手首に命中。ぐわあと言って思わず狙いがそれた。
     そこへすかさず食らいつく霊犬・杣。銘子から送られた助っ人である。
    「犬ふぜいが生意気だぜ――ぐわ!!」
     杣を蹴り飛ばそうとした途端、その足に霊犬・クロ助が食らいついた。
     せーのでロッドを同時に叩き付ける実と咲夜。
     ペナント怪人は思いきり吹き飛ばされ、ガラスを突き破って廃墟ビルの中へと転がり込んだ。
     懐からテンガロンハットを取り出すと、ペナント怪人はそれを頭に被った。どうやって被ってるのかよくわからんがとにかく被った。
    「油断したぜ。やっぱりこれが無いとダメだぜ」
     そこへ、実と咲夜が追ってくる。
    「ごめんな。邪魔して、殺して……怪人を生ませたくないからって、俺」
    「…………」
     どことなく悲しげな顔をする実。その横顔に咲夜は『一人だけピストル使いって浮いてね?』みたいなことが言いづらくなって飲み込んだ。
    「お互い様だぜ。かかってこいだぜ!」
     銃を構え、連射してくる。
     今度もよけようとするが、そらは実と咲夜の肩にそれぞれ命中した。
    「次は耳だぜ!」
     狙いをずらすペナント怪人。が、そんな彼の両手に六文銭射撃が命中した。クロ助と杣のものだ。
     この程度で銃をとりおとすペナント怪人ではないが、一瞬だけは隙が出来た。
     実と咲夜は見逃さなかった。ロッドをまっすぐに構え、同時に突撃。
     ペナント怪人の両肩にロッドが突き刺さり、そのままの勢いで後ろの壁に激突した。
    「テ……テイソーッ!」
     空を見上げて爆発四散するペナント怪人。
     実は額の汗をぬぐった。

    ●VSペナント丙
    「ミーはペナント千葉丙型デース! タンバリン名人デース!」
    「ああっ! こいつミーとキャラかぶってるデス!」
     タンバリンを叩きながら軽やかに反復横跳びするペナント怪人を、アイリーンは親の敵みたいに指さした。今日の出番が大人の都合で少なめなのもあって切実である。
     腕を砲化させながらその様子を観察する折薔薇。
    「ひとつ聞きたいんだけど、タンバリンってなんの役に立つの?」
    「ハッハー、聞きたいデースか?」
     軽やかに反復横跳びしながらリズミカルにタンバリンを叩くペナント怪人。
    「こうしてると楽しいからデース!」
    「ならば死ね」
     暴風の如く襲いかかる冥。刀から繰り出された斬撃がペナント怪人を無慈悲に切り裂く。
    「グワーッ!」
    「神聖な定礎石を冒涜するお前は許さん」
     タンバリンごと貫いてやろうと刀を突き出す冥。
     が、しかし!
     冥の刀がタンバリンの太鼓部分に止められた。
    「――ッ」
    「ハッハー、こうして油断させるのがミーの得意技デース!」
     途端、タンバリンの鈴部分がジグザグに変形。冥へと襲いかかった。
    「っ……『灼熱ノ熾』!」
     激しいエンジン音と共にペナント怪人に体当たりをしかけるライドキャリバー・灼熱ノ熾。
     ペナント怪人はそれをひらりとかわすと、街灯の上に着地した。しゃらしゃらと鈴を鳴らす。
    「ミーは最弱に見えて最強。決して人数が多く集まった割に描写量を求められたから都合良く動きをよくしただけではないのデース!」
    「何を言ってるんだ、あいつは」
    「くそっ、なんか腹がたってきた!」
    「今度はミーからいきマース!」
     ペナント怪人がタンバリンを小刻みに叩くと、周囲に特殊な夜霧が発生。彼の存在をうつろにした。
    「奴は――」
    「こっちデース!」
     折薔薇の背後に現われたペナント怪人。折薔薇は強烈な後ろ回し蹴りを繰り出した。同時にアイリンのバレットストームが襲うが、それはペナント怪人の残像だった。
    「本当はこっちデース!」
     物陰から現われ、タンバリンの裏からビームを放ってくる。
     灼熱ノ熾が盾になってビームを防ぐが、煙を噴いて操作がおぼつかなくなってしまった。
    「しゃくに障るやつだ……」
     冥はあえて目を瞑って刀を正面に構えた。
     背後にペナント怪人が現われる。
    「次はこっちデース!」
    「いや」
     冥はペナント怪人とは逆の方向に突きを繰り出した。
    「グワーッ!」
     それはみごとペナント怪人の胸に突き刺さる。
    「こうすれば動けまい」
    「ありがと、おかげで狙いやすいよ」
     腕のキャノンをまっすぐに構える折薔薇。
    「し、しまったデース!」
     折薔薇のDCPキャノンが直撃。
    「ぐ、ぐぐ……グレート定礎様ー!」
     身体に風穴をふたつも開けられたペナント怪人は、ばんざいをして爆発四散したのだった。


     そのあと、昭和に魂を引かれたおっさんにラムネあげたり怪我をいたわったりなんだりらじばんだりしてお家に返してあげた。
     おっさんは細かいことを気にしない性格だったみたいで、今日のことはあんまり気にしないでいてくれたらしい。あんた頭定礎石にされかけたんだよとは、あえて言わないでおいた。
    「定礎……か。もしかしてと思ったけど。ボクの予想、案外当たってるかもしれないね」
     定礎石の前に立つ折薔薇。
     振り向くと、空たちがはやく帰ろうよと手を振っている。
     彼は定礎石に背を向け、歩き出した。
     戦いはまだ……始まったばかりかもしれない。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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