儀式は渋谷の地で

    作者:飛翔優

    ●喧騒の失せた街中で
     終電が過ぎ、乗り遅れた人々がホテルへ、インターネットカフェへカラオケへと消えていく。昼間からは考えられないほどの静寂が訪れた、様々な文化が交差する街、渋谷。
     車の通りもまばらな道路を、六名の集団が信号など気にする様子もなく横断した。
     先導するのは、頭の代わりにペナントを生やした異型……ペナント怪人三体。怯えている様子の男二人女一人の手を引いて、五階建てビルの下へと到達した。
     ペナント怪人たちは顔を見合わせて、入口近くに置かれている定礎(着工年月日、及び大きく定礎と記されている石)の側まで移動。怪しげな儀式を開始した。
     十分ほどの時間が経った頃だろうか? 男女に変化が訪れた。
     男二人は瞳に怪しい光を宿し、女へと熱っぽい視線を向けていく。
     女は頭部を定礎の形へと変貌させた!
     ――全ては未来の話。今なら、まだ……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、いつも通りの笑みを湛えたまま説明を開始した。
    「琵琶湖大橋の戦いが灼滅者の介入によって未然に防がれたことで、安土城怪人の勢力が新たな作戦を開始したみたいです」
     内容は、安土城怪人配下のペナント怪人が、一般人を誘拐して深夜に怪しげな儀式を行う、といったもの。
    「構成は三体。連れて来られた一般人は三人で、全員滋賀県から輸送されてきた人々みたいですね」
     語りながら、地図を広げていく。
    「ペナント怪人たちが儀式を行うのは渋谷の、この五階建てビルの定礎側。時間帯は終電が終わってから二時間後、深夜二時半頃ですね」
     流れとしては、儀式を始めたペナント怪人たちを襲撃する、という形になる。
     敵戦力はペナント怪人三体。力量は、灼滅者たち八人で十分に倒しきれる程度。
     総員防衛に思考を割いており、自己治療しながら身を固める仁王立ち、身を固めながらのペナントアームハンマー、悪しき力に抗うための力を得ながらのペナントキック、と言った技を仕掛けてくる。
     そして……。
    「どうも、戦闘方針としては時間稼ぎが主、と言った形みたいですね」
     というのも、儀式は戦闘開始後十分前後で完了する。それまでにペナント怪人を倒さなければ、一般人の何人かがご当地怪人化してしまったり、強化一般人化してしまったりしてしまうのだ!
     そうなった場合、ご当地怪人化したり強化一般人化したりしたものたちは、逃走を最優先に行動してくる。ペナント怪人とやりあっているさなかでは、追いかけるのは困難となるだろう。
    「ですので、十分以内に倒せるよう尽力して下さい。それから……」
     地図などを手渡しながら、続けていく。
    「ペナント怪人は、一般人が逃げ出し場合は、逃げ出した一般人を優先して攻撃します。ですので、先に一般人を避難させるといったことは難しいでしょう。反面、逃げ出さなければ一般人を攻撃することはないので、保護について考える必要はないかと思います」
     以上で説明は終了と、締めくくりに移行した。
    「予断を許さない状況ですが、皆さんなら成し遂げられると信じています。どうか、全力での灼滅を、救出を! 何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    霧凪・玖韻(刻異・d05318)
    槌屋・透流(トールハンマー・d06177)
    五十嵐・匠(勿忘草・d10959)
    雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    御舘田・亞羽(舞小花・d22664)
    ルーシー・ヴァレンタイン(幸せを探して・d26432)

    ■リプレイ

    ●定礎石前の儀式場
     火が消えたように静まり返る東京の街、渋谷。五階建てビルの定礎石前には三人の男女と、人とは思えぬ異形が三体。
     ペナント怪人と呼ばれる異形たちが何やら怪しげな儀式を始めた時、灼滅者たちが物陰から飛び出した。
     ペナント怪人たちは動き出した儀式から背を向けつつ、灼滅者たちに向かって口を開く。
    「何者だ!」
    「ヒーローやわっ」
     反射的に御舘田・亞羽(舞小花・d22664)が宣言し、戦列を整え始めていく。
     五十嵐・匠(勿忘草・d10959)は横になら見つつ、携帯のアラームをセット。武装を整えた上で、静かな声音で言い放つ。
    「一般人を自分たちの都合のいいように利用するなんて許しがたい。その儀式はここで中止させてもらうよ」
     何の関係もない一般人を巻き込むなんて許せない。彼らが被害に合う前に何としても食い止めると、霊犬の六太も呼び出しながら仕掛けるタイミングを伺っていく。
     敵と認識したのだろう、ペナント怪人たちも身構えた。
    「邪魔はさせん!」
    「当該目標に対する全ての制限を解除する」
     霧凪・玖韻(刻異・d05318)が静かに唱えたコードが、開幕の合図。
     定礎石前の儀式を巡る戦いが、静寂に満ちていたはずの渋谷にて始まった!

    ●我らペナント怪人三人衆
    「……貴様らを、狩りに来た」
     静かな言葉を紡ぎながら、槌屋・透流(トールハンマー・d06177)は身構える。
     横から吹き付けてくるビル風を感じながら、ナイフを軽く横に振るった。
     散ることのない毒風がペナント怪人たちを煽る中、雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574)はただ真っ直ぐに十字架を突き出していく。
     先頭に位置するペナント怪人の肩にえぐりこんだ上で、静かな言葉を告げていく。
    「……わざわざ滋賀県からご苦労なことだ」
     なぜ、ペナント怪人たちがここを選んだのかはわからない。だが……。
    「……」
     定礎石前に集められている三人の男女へと視線を送る。
     互いに身を寄せ合い、震えていた。戦いを伺うこともなく、地面を見つめ続けていた。
    「……」
     怯えている、と直人は瞳を細めペナント怪人を蹴り退ける。自身もまたペナント怪人たちから距離を取った上で、静かに声を駆けて行く。
    「周辺に見張りがいるかもしれん。こいつらを倒したら、俺たちと一緒にここを離れよう」
    「下手に動くと危険です。貴方達は僕達が守りますから、ここにいて下さい」
     葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)もまた力強い表情で言い含めながら、よろめくペナント怪人に対してオーラを撃ちだした。
     返答はない。
     できないのだろうと、透流は静かな溜め息一つ。
     ならば、そうそうにぶっ壊す。この企みを。
    「……必ず助けるから、そこで待っていろ」
    「はっ、させるか!」
     灼滅者たちの言葉を跳ね除けるかのように、左右のペナント怪人がそれぞれ匠と玖韻にアームハンマーを放ってきた。中央の個体は跳躍し、米田・空子(ご当地メイド・d02362)にキックを放っていく。
     各々の威力は小さい。が、アームハンマーは守りの、キックは浄化の加護を宿す。灼滅者側に被害はさほどないものの、戦闘時間が否応にも引き伸ばされかねない力。
     それが三度、重なった。
     ならば砕くと、透流は竜巻を巻き起こす。
    「時間稼ぎなんて、させない……速攻でぶち抜いてやる、覚悟しろ」
    「ていそって読むんですよね。空子勉強してきましたっ」
     空子はナノナノの白玉ちゃんのハートを受け取りながら、中央に位置するペナント怪人を指し示す。
    「行きます、メイドビーム!」
     指先からビームを解き放ち、一歩、二歩と下がらせビルの壁へと押し付けた。
    「今です!」
    「……」
     即座にルーシー・ヴァレンタイン(幸せを探して・d26432)が踏み込んで、拳を刻み始めていく。
    「悪事は夜にこっそりやるもの……ってのはセオリーなのか知らないけどさ」
     細めた瞳に、強い怒りを宿しながら。
    「それにしたって、今何時だと思ってるのよ」
     一撃一撃に、強い憤りと眠気を込めながら。
    「これも全部、その変な頭のあんたたちのせいよね? さくっとやっつけてやるから、覚悟しなさい……!」
     最後にアッパーカットで締めくくり、そのペナント怪人を打ち砕いた。
     即座にルーシーのライドキャリバーは踵を返し、左側のペナント怪人へと向かっていく。
     鋼鉄のボディをぶちかまされながらも、ペナント怪人は怯まない。
    「ふふふ、奴は我らペナント怪人三人衆の中でも一番の小物! 第一、時間は否応にも過ぎていく……」
     既に、四分の時が経とうとしていた。
     灼滅者たちはより一層の勢いを持って、ペナント怪人たちを攻め始める……。

     左側の個体の懐へと踏み込み、玖韻は槍に横回転をくわえながら突き出した。
     脇腹へとえぐりこみながら、静かな想いを巡らせていく。
     頭の代わりにペナントを生やした異形の人型、まさに怪人。一般人が怯えるのも無理は無い。
     しかし……と滋賀と渋谷の距離に思い至った時、反撃の気配を感じてバックステップ。
     アームハンマーを回避しつつ、氷の生成を開始。改めて分析を再開した。
     滋賀から渋谷まで、直線距離でも三百キロメートル程度。並大抵の行動力で移動できる域ではない。
    「……随分とご苦労な事だっと」
    「っ!」
     猛追するように右側が放ってきたキックを、六太が庇い斬魔刀で受け止めた。
     弾きあっていく光景を眺めながら、匠は高く飛び上がる。
    「その力、壊させてもらうよ」
     向かう先は、左側のペナント怪人。
     放つは流星の如く鋭きジャンプキック。
     胸元へと突き刺し、反対側へと飛び越えた時、五分を告げるアラームが鳴り響いた!
     即座に直人が走りだし、よろけるペナント怪人に殴りかかる。
    「五分経過した、攻撃の手を強めよう」
     胸へ、脇腹へ頬と思しき辺りへと刻みながら、総攻撃の音頭を取っていく。
     治療薬も担う透流は前線へと霧を送り込み、ただ淡々と告げていく。
    「こいつで治療は仕舞いにしよう。後は、攻める」
    「ですね……っと、させません!」
     さなかに仁王立ちを始めたペナント怪人の背後へと、統弥が素早く回りこみ。
     軋む体を押しながら、固めた拳で殴りかかった!
    「……」
     先日の依頼の影響で、思うように体が動かぬ身。前線には立てぬ身であるが故、少しでも確実に加護を砕き、攻める……そう想い、常に機会を伺ってきた。
     努力が身を結んだか、背中を打ち据えたペナント怪人が仁王立ちの体制を崩していく。
     統弥は統弥に距離を取り、手元にオーラを集め始めた。
    「一気に決めてしまって下さい!」
    「無茶せぇへんでね」
     静かな言葉で労いながら、亞羽が剣を非物質化。正面へと飛び込んで、よろめくペナント怪人を横一閃!
     闇より生じし力を打ち砕き、消滅させた。
    「く……だ、だが、例え我らの中の一番の大物とて、力量は変わらん俺がいる限り……儀式に終わりは……」
    「大丈夫、必ず助けるから!」
     強がるペナント怪人の言葉を打ち消し、男女に希望を与えるため、ルーシーが声を上げながら走りだした。
     合間を縫うように、ライドキャリバーが弾丸を吐き出しペナント怪人の足元を打ち据えていく。
     たたらを踏むペナント怪人の脇腹めがけ、槍をただ真っ直ぐに突き出して……。

    ●儀式の終わりに
     順調にペナント怪人を撃破し、戦闘を進めてきた灼滅者たち。残り時間こそ少ないものの、全員が攻撃に回っている以上、余裕は十分以上に存在していた。
     それでも万が一を考えて、手を緩めたりなどは決してしない。
    「油断得ずに、最後まで行こう。六太、続いて」
     匠は六太と呼吸を合わせ、走りだす。
     ペナント怪人の正面にて左右に別れ、匠は炎のハイキック、六太は斬魔刀による下段斬り。
     上下からの衝撃をぶちかまし、ビルの壁へと押し付けた。
     後を追うように、亞羽が虚空に剣を振り下ろす。
     生じた風刃が斜め傷を刻んでいく光景を眺めながら、懐中電灯へと視線を落とした。
    「後二分……時間がありまへんえ……!」
     故に、体を引き戻し跳躍。即座に剣を物質あらざるものへと変化させ、斜めに振り下ろす。
     仮初めの盾を切り裂いて、ペナント怪人の守りを暴いていく。
    「さあ、後は頼みましたえ……!」
    「急ごう」
     言葉とは裏腹に焦ることはなく、直人はバベルブレイカーを起動。ロケット噴射の勢いを借りながら、杭を土手っ腹へと突き刺した。
     半ば壁へと縫い付けられながらも、ペナント怪人は動き出す。
    「ま、まだだ! もうすぐ、もうすぐ儀式は完了する。それまで……倒れるわけにはいかんのだ!」
     ぎこちないながらも、仁王立ちを決めて身を固めた。
     直後、氷がペナントの頭にぶち当たる!
    「今だ」
    「ぶっ壊す」
     担い手たる玖韻に促され、透流が影刃を解き放った。
     影は凍りついたペナントを打ち砕き、破片を肩へと食い込ませることに成功。
     行き着く暇など与えない。統弥が側面へと回り込み、凍りついた肩に、頭に二の腕に拳を刻んでいく。
    「大丈夫、大丈夫……もう、終わりますから」
    「あなたたちの儀式を成就させたりなんてしないわ、覚悟しなさい!」
     ルーシーが地面をけると共に、ライドキャリバーが弾丸を発射し始めた。
     足を貫かれ姿勢を崩していくペナント怪人の頭に、右肩に脇腹に、ルーシーは拳を刻んでいく。
     限界を迎えつつあるのか、ペナント怪人は両膝をついて座り込む。
     なおも抵抗せんと言うのか、両腕を組み合わせアームハンマーの形を作り出した。
    「させません! 白玉ちゃん、行きますよ!」
     即座に空子が飛び上がり、月を背負う。
     白玉ちゃんのシャボン玉が作り出した軌跡に向かい、真っ直ぐにキックを放っていく!
    「受けなさい、メイドキック!」
     喉元へと突き刺して、ペナント怪人を地面へと押し付ける。踵でも踏みつけた上で、バックステップで退いた。
     ペナント怪人は空を仰いだまま、震える声で紡いでいく。
    「ば、馬鹿な……この、ペナント怪人三人衆が……こんなに早く……」
     時間に直せば、約九分。
     ペナント怪人三人衆は儀式を完成させる事なく、この世界から消え去ったのである。

     戦闘完了を確認した後、灼滅者たちはまず被害者たちへ駆け寄った。
     念のため定礎石の前から引き離した後、怪我などを調査。体に異常はないことを確認した上で、各々の治療を開始した。
     それらが終わった時、空子のお腹がくぅと鳴る。
    「あ……あはは、安心したらお腹が空いてしまったのです……」
     照れ笑いを浮かべる空子を見てようやく緊張が解かれたのか、一般人の女性が笑いながら泣き始めた。男性が女性をなだめながら、どうすればいい? と尋ねてきた。
     とりあえず帰り方が分かるところまで送り届けよう。その道中、人心地つくために食事でも取ろうか、という流れになり、灼滅者たちは移動を開始する。
     我慢できなければ……と、六太を抱く匠が甘味を提供したり、少しでも雰囲気を明るくするために軽口を叩いたりしながら、灼滅者たちは人気のない街中を歩いて行く。
     かけがえのない日常を守れたことを胸に宿しながら……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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